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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1177043
審判番号 不服2006-14137  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-04 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 平成11年特許願第103239号「包装用フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月17日出願公開、特開2000-290393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成11年4月9日にされた特許出願であって、平成18年2月21日付けで拒絶理由が通知され、同年5月1日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものの、同年6月7日付けで拒絶査定がなされたところ、同年7月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月3日付けで明細書についての手続補正書が提出され、同年9月20日付けで審判請求書についての手続補正書(方式)及び手続補足書が提出され、同年11月6日付けで前置報告され、当審において、平成19年12月3日付けで審尋がなされたところ、平成20年1月28日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件出願の請求項1?9に係る発明は、平成18年8月3日付けの手続補正(以下「審判請求時補正」という。)により補正された明細書(以下、単に「本件明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、このうち、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 (メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が7重量%以下のエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル3元共重合体を主成分として含有する樹脂組成物からTダイ法により成形されたストレッチ包装用フィルムであって、100%伸長時の縦方向応力が20?40MPaの範囲にあることを特徴とするストレッチ包装用フィルム。 」

なお、審判請求時補正前の請求項1を引用する同請求項6には、発明を特定するために必要と認める事項(以下「発明特定事項」という。)として「成形がTダイ法で行われていること」が記載されており、同請求項6は、「100%伸長時の縦方向応力が20?40MPaの範囲にある」ことを発明特定事項とする審判請求時補正前の請求項5を引用していることから、本件発明は、審判請求時補正前の請求項6に係る発明に対応するものである。

第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、理由2の概要は、本件出願の拒絶査定の時点、すなわち、審判請求時補正前の請求項1?13に係る発明は、本件出願前日本国内又は外国において頒布された特表平4-506820号公報に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特表平4-506820号公報(以下「刊行物1」という)には、以下の事項が記載されている。
[摘示記載]
(1)「1.包装フィルムにおいて:
(a)少なくとも50重量%のエチレン、2-20重量%の、炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸、及び2-20重量%の、アルキル基の炭素数が2-12の少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物から誘導した部分から成り、酸含有部分の酸基の0-10%が少なくとも1種類の金属イオンにより中和されている三元ポリマーを少なくとも80%;及び
(b)0.1-2重量%の、少なくとも1種類のソルビタン脂肪酸エステル;を含み、該フィルムの少なくとも一面に、処理面の湿潤張力が40-50dynes/cmとなるのに十分な程度のコロナ処理を施してあることを特徴とする包装フィルム。
2.第1項に記載の包装フィルムにおいて、42-48dynes/cmの湿潤張力を与えるコロナ処理を施してあることを特徴とするフィルム。
3.第1項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマーがエチレンから誘導した部分、メタクリル酸又はアクリル酸から誘導した部分、及びn-ブチルアクリレート又はイソブチルアクリレートから誘導した部分を含むことを特徴とするフィルム。
4.第3項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマー中のメタクリル酸又はアクリル酸部分の量が4-12重量%であり、三元ポリマー中のn-ブチルアクリレート又はイソブチルアクリレート部分の量が4-12重量%であることを特徴とするフィルム。
5.第4項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマー中のメタクリル酸又はアクリル酸部分の量が5-10重量%であり、三元ポリマー中のn-ブチルアクリレート又はイソブチルアクリレート部分の量が5-10重量%であることを特徴とするフィルム。
6.第4項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマー中のメタクリル酸又はアクリル酸部分の量が6-8重量%であり、三元ポリマー中のn-ブチルアクリレート又はイソブチルアクリレート部分の量が6-8重量%であることを特徴とするフィルム。
7.第1項に記載の包装フィルムにおいて、酸部分が中和されていないことを特徴とするフィルム。
8.第1項に記載の包装フィルムにおいて、酸部分の1-6%がナトリウム又は亜鉛イオンにより中和されていることを特徴とするフィルム。
9.第3項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマーのメルトインデックスが190℃にて4-12dg/分であることを特徴とするフイルム。
10.第1項に記載の包装フィルムにおいて、ソルビタン脂肪酸エステルがソルビタンモノラウレートであることを特徴とするフィルム。
11.第10項に記載の包装フィルムにおいて、ソルビタンモノラウレートの量が0.3-0.8重量%であることを特徴とするフィルム。
12.包装フィルムの製造法において:
(a)以下
(i)少なくとも50重量%のエチレン、2-20重量%の、炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸、及び2-20重量%の、アルキル基の炭素数が2-12の少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物から誘導した部分から成り、酸含有部分の酸基の0-10%が少なくとも1種類の金属イオンにより中和されている三元ポリマーを少なくとも80%;及び
(ii)0.1-2重量%の、少なくとも1種類のソルビタン脂肪酸エステル;を配合し
(b)配合物をフィルムとし,
(c)該フィルムの少なくとも1面に、処理表面の湿潤張力が40-50dynes/cmとなるのに十分な程度のコロナ処理を施す段階を含むことを特徴とする方法。
13.第12項に記載の方法において、42-48dynes/cmの量でコロナ処理を施すことを特徴とする方法。
14.第12項に記載の方法において、三元ポリマーがエチレンから誘導した部分、4-12重量%のメタクリル酸又はアクリル酸から誘導した部分、及び4-12重量%のn-ブチルアクリレート又はイソブチルアクリレートから誘導した部分を含むことを特徴とする方法。
15.第12項に記載の方法において、ソルビタン脂肪酸エステルがソルビタンラウレートであり、配合物中0.3-0.8重量%を成すことを特徴とする方法。
16.第1項に記載のフィルムで水分-含有食品を包装してある包装品。
17.第2項に記載のフィルムで水分-含有食品を包装してある包装品。
18.第4項に記載のフィルムで水分-含有食品を包装してある包装品。
19.第11項に記載のフィルムで水分-含有食品を包装してある包装品。
20.第1項に記載の包装フィルムにおいて、三元ポリマーの量が95%であり、三元ポリマーが88重量%のエチレン単位、6重量%のイソブチルアクリレート単位、及び6重量%のメタクリル酸単位から成り、メルトインデックスが9dg/分であり;ソルビタン脂肪酸エステルの量が0.5%であり、該エステルはソルビタンモノラウレートであり;フイルムの片面に、44dynes/cmの湿潤張力を与えるコロナ処理を施し;該フィルムがさらに4.5%のエチレン/メタクリル酸コポリマー樹脂を含むことを特徴とするフィルム。」(特許請求の範囲)

(2)「発明の背景
本発明は、生鮮肉、野菜及びチーズの包装に適したオレフィン-ベースポリマーフィルムに関する。
生鮮肉、野菜及びチーズの包装に使用するフィルムは、製品の衛生的保護、美的魅力及び多種類の条件下で使用するのに適した取扱特性を合わせ持たなければならない。フィルムは強く、強靭で、光沢があり、透明でなければならない。フィルムは使用中のフィルムの内面における水滴の形成(ここでは“曇り”と呼ぶ)に対して抵抗性を持っていなければならない。包装の際にフィルムは伸ばされ、包装する材料の形に順応しなければならない。」(第2頁左下欄第3?12行)

(3)「本発明のフィルムは主に、周知のラジカル重合法、例えばU.S.特許4,351,931に記載の種類の撹拌した定常-環境反応器中の高温における方法により製造したエチレンの三元ポリマーから製造する。ポリマーの化学的組成は、周知の通り適したモノマー供給速度を選ぶことにより調節する。
エチレン三元ポリマーは、エチレンから誘導した部分、約2-約20重量%の、炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸から誘導した部分、及び2-20重量%の、アルキル基の炭素数が1-12である少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物から誘導した部分を含む。モノカルボン酸はアクリル酸又はメタクリル酸、あるいはこれらの混合物であることが好ましく、好ましくは4-12重量%、より好ましくは5-10重量%、最も好ましくは6-8重量%の量で存在する。ポリマー中にカルボン酸が存在することにより、透明性、強度及び破壊抵抗性の所望の組み合わせが得られる。
適したアルキルアクリレート又はメタクリレートは、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル及びn-ドデシル基を含み炭素数が2-12のアルキル基を有するもので;アルキル基としてメチル基は好ましくない。イソブチル及びn-ブチルアクリレートが最も好ましい。そのようなエステル部分は、好ましくは4-12重量%、より好ましくは5-10重量%、最も好ましくは6-8重量%の量で存在する。ポリマー中にアルキルアクリレート又はメタクリレートが存在することにより、フィルムに所望の優れた伸縮性及び柔軟性が与えられる。
食品と接触する用途に対する一般的許容性という観点から最も好ましい三元ポリマーは、エチレン、メタクリル酸及びインブチルアクリレートから成る。
本発明のポリマーは、非中和酸三元ポリマーの形態で使用することができ、あるいはその酸基を少量の金属イオンにより、例えば最高約10%まで中和することができる。・・・・・・
一般にポリマーは中和されていないことが好ましいが、例えば熔融安定性などの特性を改良するために低い程度の中和が望ましいことがある。」(第3頁右上欄第21行?同頁右下欄第11行)

(4)「三元ポリマーとソルビタン脂肪酸エステルの配合物は、二成分を共に配合することにより製造する。一般にこの配合は熔融相で行う。適したオレフィンコポリマー又は三元ポリマー中の添加剤の濃厚液を調製し、フィルム押し出し機に供給する前に濃厚液のペレットを三元ポリマーペレットとトライブレンドするのが、一般に簡便である。必要なら他の挿入法を使用することができるが、いずれの場合も三元ポリマーを熔融し、フィルムに形成する前にソルビタン脂肪酸エステルの添加を行う。
配合物は、周知のバブル押し出し及び延伸法を行い(すなわちインフレートフィルム法)、その後気泡破壊、スプリッティング、処理及びフィルムの巻取りを行うことによりフィルムにするのが好ましい。
三元ポリマーフィルム中でソルビタンエステルを使用しても、おそらく水滴を分離させずに連続した水のフィルムを形成するのに十分な程フィルムの表面にそれが移動しないので、それだけで満足な防曇性能を与えることはない。しかしフィルムの片面にコロナ処理を施すと、防曇性及び他の望ましい性質が予想以上に向上する。
フィルムのコロナ処理に適した装置は、文献により周知であり、例えばU.S.特許3,133,193に記載されている。・・・・・・湿潤張力を決定し、所望の値とするために関連するパラメーターを適当に調節することは、十分同業者の能力の範囲内である。処理の適した範囲は、40-50dynes/cm、好ましくは42-48dynes/cmの湿潤張力を与える範囲である。」(第4頁左上欄第14行?同頁右上欄第18行)

(5)「実施例1
6重量%のイソブチルアクリレート及び6重量%のメタクリル酸を含む、メルトインデックスが9dg/分(190℃)のペレット化エチレン三元ポリマー95重量部を、エチレンメタクリル酸コポリマー樹脂90部にソルビタンモノラウレートを10部含むペレット化濃厚液5重量部と配合した。直径が100mmのサーキュラ-ダイを備えた50mmの一軸スクリユー押し出し機を通して、熔融温度180℃にてトライブレンドを押し出し、16マイクロメーターのフィルムを得た。フィルムは、ダイの直径に対するバブルの直径が4.5:1のインフレートフィルム法において、27m/分の速度で製造した。フィルムの厚さは16マイクロメーターであった。フィルムの片面に、・・・コロナ装置を用い、フィルム表面の湿潤張力がASTM D-2578により測定して44dynes/cmとなるように電極間隙及び電力設定を調節してコロナ処理を行った。フィルムは27m/分で放電下を通過させた。得られたフィルムは透明で光沢があり(ASTM D 2454により決定した光沢度が105%)、広口びんの上部を覆ってフィルムを延ばし、指で圧縮し、その回復を観察することにより手動で決定した場合、高度の密着性及び弾力性を示した。
・・・・・・・・・
実施例2-6
三元ポリマーの組成を表Iに示す通りに変化させる他は、実施例1の方法を用いて、さらにフィルムを製造した。いずれの場合も押しだし配合物は0.5%のソルビタンモノラウレートを含み、片面をコロナ処理した。

実施例1-6のフィルムはすべて防曇性能に関する試験に合格した。この試験においては、水を半分満たした2個のカラスビーカーの上部を覆ってフィルム試料を伸ばし、ビーカーを8.8℃の冷蔵庫、又は35℃の炉中に最高5日間置く。ビーカーをしばしば観察し、フィルムの低面に凝縮した水が水滴であるか、又は連続フィルムであるかを調べる。どの時点においても水滴が形成され、可視性を妨げたら、フィルムは試験に不合格とみなされる。
実施例2、3及び6は光学的性質及び落槍破壊抵抗性において、他より非常に優れていた。
実施例2-5のフィルムを用い、・・・・・・包装試験を行った。・・・・・・すべてのフィルムの場合に、・・・魅力的、機能的な包装品を得ることができた。実施例3のフィルムは、密閉性、透明性及び光沢において特に優れていた。・・・実施例6のフィルムの試験では、包装機械の設計通りの速度で魅力的な包装品を製造し、優れた性能特性の均衡が示された。」(第4頁左下欄第6行?第5頁右上欄第8行)

第5 合議体の判断
1.引用発明
刊行物1の特許請求の範囲の請求項1に記載されている「包装フィルム」は、「(a)少なくとも50重量%のエチレン、2-20重量%の、炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸、及び2-20重量%の、アルキル基の炭素数が2-12の少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物から誘導した部分から成り、酸含有部分の酸基の0-10%が少なくとも1種類の金属イオンにより中和されている三元ポリマー」を樹脂原料とするものであって、その「酸含有部分」の中和度を「0%」とすることが可能であるところ(摘示記載(1))、この点に関して刊行物1には、「一般にポリマーは中和されていないことが好ましい」との教示もなされている(摘示記載(3))。
そして、刊行物1の包装フィルムは、「生鮮肉、野菜及びチーズの包装に使用」され、「強く、強靱で、光沢があり、透明」であって、「包装の際にフィルムは伸ばされ、包装する材料の形に順応」し(摘示記載(2))、実際のところ、「広口びんの上部を覆ってフィルムを伸ばし、指で圧縮し、その回復を観察することにより手動で決定した場合、高度の密着性及び弾力性を示」すものであるから(摘示記載(5))、「ストレッチ包装用フィルム」と称し得るものである。
よって、刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(a)少なくとも50重量%のエチレン、2-20重量%の、炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸、及び2-20重量%の、アルキル基の炭素数が2-12の少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物から誘導した部分から成る三元ポリマーを少なくとも80%;及び
(b)0.1-2重量%の、少なくとも1種類のソルビタン脂肪酸エステル;を含み、該フィルムの少なくとも一面に、処理面の湿潤張力が40-50dynes/cmとなるのに十分な程度のコロナ処理を施してあることを特徴とするストレッチ包装用フィルム」

2.対比・判断
本件発明と引用発明とを対比すると、まず、引用発明の「アルキル基の炭素数が2-12の少なくとも1種類のアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート又はこれらの混合物」(以下「エステル単位」ということがある。)及び「炭素数が3-8の不飽和モノカルボン酸」は、それぞれ、本件発明の「(メタ)アクリル酸エステル」及び「(メタ)アクリル酸」に相当するものである(摘示記載(1),(3))。
また、引用発明においては、エステル単位の含有量は2?20重量%と規定され(摘示記載(1))、引用発明の具体的態様である刊行物1の実施例には、当該エステル単位が6重量%(実施例1,6),8重量%(実施例2),5重量%(実施例3,5)及び10重量%(実施例4)の三元共重合体から製造されるフィルムが開示されているところ(摘示記載(5)参照)、引用発明のエステル単位の含有量は、本件発明の「(メタ)アクリル酸エステル単位」の含有量である「7重量%以下」と、「2?7重量%」の範囲で重複一致するものである。
そうしてみると、両者は、
「(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が2?7重量%のエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル3元共重合体を主成分として含有する樹脂組成物から成形されたストレッチ包装用フィルム。」
の発明である点で一致しており、以下の(あ)?(え)の点でのみ相違するものと認められる。
相違点:
(あ) フィルムの成形手段について、本件発明では「Tダイ法により成形された」旨を規定するのに対して、引用発明ではこのような規定がなされていない点。
(い) フィルムの機械的性質について、本件発明では「100%伸長時の縦方向応力が20?40MPaの範囲にある」旨を規定する(以下、この規定のことを「本件伸長応力要件」ということがある。)のに対して、引用発明ではこのような規定がなされていない点。
(う) フィルムの原料について、引用発明では「0.1?2重量%のソルビタン脂肪酸エステル」を含む旨の規定がなされているのに対して、本件発明ではこのような規定がなされていない点。
(え) 引用発明では、フィルムの少なくとも一面にコロナ処理を施す旨の規定がなされているのに対して、本件発明ではこのような規定がなされていない点。

上記相違点について以下に検討する。
(i)相違点(あ)について
刊行物1には、ストレッチ包装用フィルムを「Tダイ法」により成形する点について触れるところはないものの、刊行物1には「配合物は、周知のバブル押し出し及び延伸法を行い(すなわちインフレートフィルム法〔合議体注:「インフレーション法」と同義と認められる。〕)、・・・・・によりフィルムにするのが好ましい。」(摘示記載(4))と記載されているのであって、特段、インフレーション法以外の成形手段が排除されるものではない。
そして、「Tダイ法」は「インフレーション法」と並んで、ストレッチ包装フィルム用の溶融押出しによるフィルム成形方法として当業界に周知の技術的手段であるから、刊行物1に記載されているエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル3元共重合体を樹脂原料としてストレッチ包装用フィルムを製造するに際し、当業者が刊行物1の実施例における「インフレートフィルム法」(摘示記載(5))に代えて「Tダイ法」を採用することに、格別の困難が伴うとは認められない。
そして、本件明細書の段落【0037】には、「勿論、本発明に用いる三元共重合体やそのアイオノマーは成形性に優れているので、インフレーション製膜法によりストレッチ包装用フィルムに成形しても、何ら不都合な点はない。」との記載があるのに加え、同段落【0045】の表1には、Tダイ法(実施例1)、インフレーション法(比較例1)、いずれの場合についても、「100%伸長時の縦方向応力」が20MPaを越えるフィルムが得られることが示されているから、Tダイ法を採用することにより奏される効果が、インフレートフィルム法による場合からは予測することができないような格別顕著なものであるとは認められない。

(ii)相違点(い)について
刊行物1には、ストレッチ包装用フィルムの「100%伸長時の縦方向応力」について触れるところはないが、刊行物1にも記載されているとおり、ストレッチ包装用フィルムには、「強く、強靱」で、「包装の際に・・・伸ばされ、包装する材料の形に順応」し、「きれいに裂け、破壊抵抗が高い」という特性が求められる(摘示記載(2)参照)のであるから、ストレッチ包装用フィルムが具備すべき性能には、一定方向、例えば、包装の際に伸ばされる方向についての高い伸長応力が包含されていると解するのが相当である。
そうであれば、当該高い伸長応力に係る性能の評価基準として「100%伸長時の縦方向応力」を採用し、その数値範囲を実験的に最適化ないし好適化することは当業者にとって容易である。
そして、上記(i)でも検討したように、本件明細書の表1において、Tダイ法、インフレーション法、いずれの加工方法による場合でも「20MPa」を越える「100%伸長時の縦方向応力」が達成されていること(段落【0045】参照)、また、本件明細書及び本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下「本件当初明細書」という。)全体の記載を参照しても、高速での生産、すなわち、生産性を向上させるためにTダイ法を採用することが有利である旨の記載は認められるものの(本件当初明細書段落【0012】,本件明細書段落【0035】参照)、本件伸長応力要件を満足させるために、特にTダイ法を採用することが必須である旨の記載や、その余の特段の成形条件に依る必要がある旨の記載はなされていないこと、を勘案すれば、当該本件伸長応力要件に係る「20?40MPa」という範囲の性能は、本件発明と原料樹脂の種類及びその組成割合の点において重複一致している引用発明に係るストレッチ包装用フィルムにおいても発揮されることが予想される程度のものである。

(iii)相違点(う)について
本件明細書には、フィルム形成用樹脂には、必要により、ソルビタン脂肪酸エステル系等の公知の防曇剤を、フィルム形成用樹脂100重量部当たり0.1乃至10重量部の量で配合することができる旨の記載がなされているから(段落【0029】?【0030】参照)、本件発明に係る特定の「3元共重合体を主成分として含有する樹脂組成物」は、当該3元共重合体からなるフィルム形成用樹脂に対して、防曇剤としてソルビタン脂肪酸エステルを追加配合した態様を包含するものである。
そして、本件明細書に記載されている防曇剤の配合割合を樹脂組成物全体を100重量%とした値に換算すると、約0.1?約9.1重量%となるが、当該重量割合は、引用発明におけるソルビタン脂肪酸エステルの配合割合と、約0.1?2重量%の範囲で重複一致するものである。
よって、前記(う)の点は実質的な相違点ではない。

(iv)相違点(え)について
本件発明ではコロナ処理について規定するところはないものの、コロナ処理は、フィルムの表面処理として周知慣用のものにすぎず、また、本件明細書全体の記載を参照しても、そのような処理を施すことを排除すべき旨の記載は認められない。
そして、引用発明に係るコロナ処理は、フィルム表面に一定の湿潤張力を付与するために適用され(摘示記載(1))、当該処理によって「防曇性及び他の望ましい性質が予想以上に向上する」(摘示記載(4))ものであるところ、本件出願時の技術常識を参酌しても、このようなコロナ処理を適用することにより、得られるストレッチ包装用フィルムの機械的性質、例えば、本件発明において特に規定されている「100%伸長時の縦方向応力」が大きく低下するものとも認められない。
そうであれば、前記(え)の点もまた実質的相違点にはならない。

したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成18年9月20日付けで手続補足書(以下「手続補足書」という。)を提出するとともに、同日付けで提出された手続補正書(方式)により補正された審判請求書(以下、単に「審判請求書」という。)において、「引用文献1に開示のフィルム、殊に、その実施例に記載のフィルムは、縦方向100%伸長応力が本件発明で規定した20?40MPaの範囲外にあり、本願発明のストレッチフィルムとは異なるフィルムであります。」、「該資料1は、三井化学株式会社が、特許番号第3350329号の特許(特許権者三菱樹脂(株))に対し提起した異議申立書(異議2003-71369号:平成15年5月26日提出)於ける甲第2号証(実験報告書1)と甲第3号証(実験報告書2)でありますが、これら実験報告書1、2から引用文献1に於ける該フィルムは縦方向100%伸長応力が120kg/cm^(2)(幅方向100%伸長応力90kg/cm^(2))で、本件発明で規定した20MPa(196kg/cm^(2))?40MPa(392kg/cm^(2))の範囲外にあり、従って該実施例1のフィルムは本願発明のストレッチ包装用フィルムとは異なるものであることが明らかであります。
又、引用文献1の包装用フィルムは、その明細書中にインフレーション法でフィルム成形されることが好ましいとされ、事実、実施例では、全てインフレーション法で成形されています。
従って、例え、引用文献1を見た当業者といえどもそれから本件発明の上記特定構成、即ち、『特定3元共重合体からなる樹脂組成物をTダイ法成形した100%伸長時縦方向応力が20?40MPaのストレッチ包装用フィルム』を容易に想到することはできないものと思料するものであります。」と主張している。

上記主張について以下に検討する。
第一に、手続補足書の甲第2号証(実験報告書1)においては、「特表平4-506820号公報の実施例1に記載された『6重量%のイソブチルアクリレートおよび6重量%のメタクリル酸を含む、メルトフローレートが9g/10分の三元ポリマー』そのものは、入手できなかった。」として、代
替品として、三井・デュポンポリケミカル(株)大竹工場にて製造されたとする2種のポリマー(ATR-D及びAN-C)のブレンドが使用されているところ、このようなポリマーブレンドは、樹脂原料の組成及び分布状態の点で刊行物1の実施例1の三元ポリマーとは異なることは明らかであるから、そもそも甲第2号証は、刊行物1の実施例1の忠実な追試を行うための基礎として採用し得ないものである。
第二に、甲第3号証(実験報告書2)において採用されている伸長応力の測定手法は、その準拠する規格が本件明細書におけるもの(段落【0043】参照)と相違しているところ、審判請求書及び手続補足書の記載を参照しても、甲第3号証における縦方向100%伸長応力の数値(評価結果)と本件伸長応力要件に係る数値範囲とを直接的に対比することが妥当であるとの根拠を見い出すことができない。
第三に、甲第2,3号証において比較実験対象として採用されている刊行物1の実施例1に係る原料ポリマーは、エチレン(88重量%)/メタクリル酸(6重量%)/アクリル酸イソブチル(6重量%)という組成を有する特定の三元共重合体であるところ、引用発明に係るストレッチ包装用フィルムの樹脂原料は、当該実施例1の当該特定の三元共重合体に限定されるものではない。
第四に、前記「(i)相違点(あ)について」の項でも検討したように、刊行物1において、インフレーション法以外の成形手段が特段排除されるものではなく、さらに、本件明細書の表1には、インフレーション法、Tダイ法のいずれの成形法を採用した場合でも、本件伸長応力要件を具備したフィルムが得られることが示されている。
そうであれば、前記甲第2,3号証の試験結果のみから、引用発明に係るいかなるストレッチ包装用フィルムであろうと本件伸長応力要件を具備し得ない、との結論を導くことはできないというべきであり、審判請求書における上記主張を採用する余地はない。

3.むすび
以上のとおり、請求項1に係る本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-28 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-17 
出願番号 特願平11-103239
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 淳子  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 高原 慎太郎
野村 康秀
発明の名称 包装用フィルム  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  
代理人 小野 尚純  
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