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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1177200
審判番号 不服2004-14780  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-15 
確定日 2008-05-08 
事件の表示 特願2000- 6224「五酸化タンタル層を用いた集積回路用コンデンサを製造するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月28日出願公開、特開2000-208744〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年1月12日の出願(パリ条約に基づく優先権主張 1999年1月12日、米国)であって、平成16年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成17年4月25日付けで審尋がなされ、同年10月27日に回答書が提出されたものであり、更に、当審において、平成16年7月15日付けの手続補正は平成18年9月26日付けで却下され、同年10月16日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成19年4月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成19年4月18日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ない8に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】集積回路のコンデンサを製造するための方法であって、
半導体基板上に誘電層を形成するステップ;
前記誘電層上に第一の金属電極を形成するステップ;
前記第一の金属電極の上に五酸化タンタル層を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら、形成するステップ;
前記五酸化タンタル層の少なくとも一度の遠隔プラズマアニールを、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら遂行するステップであって、前記遠隔プラズマアニールは、前記五酸化タンタル層を、純粋な窒素から成る遠隔プラズマに露出し、次いで前記純粋な窒素による遠隔プラズマアニールの後に、前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出するステップを含み;および
前記アニーリングのステップの後に、前記五酸化タンタル層に隣接して第二の電極を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら形成するステップを含むことを特徴とする方法。」

3.刊行物に記載された発明
刊行物1:Applied Physics Letters,1998年3月16日,Vol.72, No.11,pp.1308-1310
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に米国内で頒布されたApplied Physics Letters,1998年3月16日,Vol.72, No.11,pp.1308-1310(以下、「刊行物1」という。)には、Fig.1とともに、以下の事項が記載されている。
a.「化学蒸着(CVD)及び物理蒸着(PVD)により形成されたタンタル酸化物薄膜の漏れ電流が、低温酸素/窒素プラズマ処理により、かなり減少することが報告された。遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入することで、CVDで形成したタンタル酸化物薄膜の漏れ電流が削減され、また、チャージポンピングにより測定されるトラップ密度も同様に減少することが示された。堆積したままのCVD薄膜の示す高レベルのフォトルミネッセンスは、プラズマアニール処理による、ミッドギャップ状態密度の減少のため、かなり減少した。100nm程度の厚さのPVDにより堆積された薄膜については、窒素をプラズマに導入することによる実質的な改善により、漏れ電流が減少することが分かった。しかしながら、20nm程度の厚さのPVD薄膜では、漏れ電流は比較的大きく、窒素の追加による改善効果が小さいことが分かった。漏れ電流とチャージトラッピングの低減での窒素の役割は、酸化膜での窒素の部分的結合による酸化膜中のバルクトラップ状態密度の削減により生ずると考えられる。低温堆積とアニール処理の両者は、高密度回路の配線の上層レベルに利用することも可能である。」(1308頁第9ないし22行の訳文)
b.「回路の集積度が上がると、ミクストシグナル回路及びメモリ回路のいずれにおいても高集積容量の要求が高まる。ある応用においては、蓄積容量への接触抵抗を減少するため、または、ミクストシグナル回路基板による高周波(rf)損失を減少するための処理による上層配線層に組み込んだ容量が必要となる。しかしながら、最初のレベルの配線層形成の後に行われる各処理に許容されるサーマルバジェットは、通常450℃より低く制限されているから、低温処理が非常に重要である。化学蒸着(CVD)により堆積された五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を備えたTiN/Ta_(2)O_(5)/TiN容量構造での漏れ電流を減少するための、新規な低温遠隔プラズマアニール手法について記載する。プラズマアニールによりタンタル酸化物は稠密となり、フォトルミネッセンスで観測されるミッドギャップ状態密度が減少する。酸素プラズマへの窒素の追加により、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜中のバルクトラップの減少に起因する漏れ電流の減少に対して付加的効果があることを示した。このアニール処理はCVDで堆積した薄膜には必須である。・・・これらの結果から、超LSI(VLSI)の配線の上層への単純な組み込みを許容する、容量製造の全工程を450℃以下で行う可能性が示された。
CVDで堆積したタンタル酸化物薄膜には、低圧CVD(LPCVD)チャンバーで金属有機物プリカーサー(前駆体)を用いた。堆積温度は、上部電極及び下部電極のTiN電極のPVDでの堆積では、350℃から450℃まで変化させた。アニールなしの薄膜の漏れ電流はFig1に示すように非常に大きい。最も一般的なCVD堆積薄膜の漏れ電流を減少する方法として、500℃又はそれ以上の温度での急速熱アニールが用いられてきた。しかしながら、この温度は、最初の配線層形成後の処理としては許容できる温度範囲を超えている。代替手段として、漏れ電流を減少するために、高周波(rf)により発生させた酸素プラズマ又はオゾンに曝すことが行われ、時には、熱アニールと共に用いられてきた。これらの実験において、我々は、より高密のプラズマでより効率的なアニールであって、高周波により形成されるプラズマと比較してダメージが極めて少なく、より効率よく酸素及び窒素ラディカルを生成できる、遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源を用いた。ガソニクス・インターナショナル3510を、1-3Torrの圧力範囲でのプラズマ源として用いた。また、漏れ電流はかなり減少することが分かったので、Fig.1に示すように2回目の熱処理は不要である。異なる温度で堆積した薄膜は全て、プラズマアニール処理後と同様な漏れ電流の挙動を示しており、ポストアニールが、堆積したままの薄膜の不完全性を補償することを示している。プラズマアニールでの追加的改善は、酸素プラズマに50%の窒素を添加した時観測された。この窒素の有利な効果は、少量の窒素を薄膜に添加した時の、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜の誘電特性の改善についての以前の報告と合致する。われわれは、酸素のみのプラズマに対して、窒素/酸素プラズマを使ったときの、電流-電圧(I-V)特性の非対称性の減少も観察している。ここで検討した構造は、容量構造の下部電極及び上部電極の両者にTiNを使用しており、このようにして、非対称性に起因して生ずる可能性のある仕事関数の差異を除去した。これらの構造の容量は、9nmの五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))薄膜で、予想どおり、20-25fF・μm^(2)であり、プラズマアニール後に多少の容量の増加があった。」(1308頁左欄第1行ないし1309頁左欄第29行の訳文)
c.「CVD形成のタンタル酸化物薄膜の低温プラズマ処理により、高温熱アニールで得られる漏れ電流と同等の漏れ電流が得られる。しかし、サーマルバジェットは配線層形成後の処理と同等である。」(1310頁右欄第22行ないし第26行の訳文)
また、FIG.1には、d.「PVD堆積のTiNからなる上部電極及び下部電極を備えた、9nmのタンタル酸化膜の漏れ電流挙動。酸素の遠隔マイクロ波プラズマへ50%の窒素を添加したとき、漏れ電流が10^(-10)程度にまで減少した。」(訳文)との説明が記載されている。

ここで、(a)記載事項b.の「化学蒸着(CVD)により堆積された五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を備えたTiN/Ta_(2)O_(5)/TiN容量構造での漏れ電流を減少するための、新規な低温遠隔プラズマアニール手法について記載する。」との記載より、容量構造を形成するために、TiN電極、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜及び、TiN電極を順次形成する工程を備えた容量の製造方法が実質的に記載されていることは明らかである。
(b)記載事項b.の「堆積温度は、上部電極及び下部電極のTiN電極のPVDでの堆積では、350℃から450℃まで変化させた。」及び「これらの結果から、超LSI(VLSI)の配線の上層への単純な組み込みを許容する、容量製造の全工程を450℃以下で行う可能性が示された。」との記載より、TiN電極、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜及び、TiN電極を順次形成する工程はいずれも450℃以下で行われたことは明らかである。

したがって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「集積回路の容量を製造する方法であって、
下部電極としてのTiN電極を形成する工程と、
前記下部電極としてのTiN電極上に五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を450℃以下の温度で形成する工程と、
前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜上に上部電極としてのTiN電極を450℃以下の温度で形成する工程とを備えるとともに、
前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成する工程において、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成した後に、遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理することを特徴とする方法。」

刊行物2.特開平07-202019号公報
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された特開平07-202019号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図1及び図2とともに、以下の事項が記載されている。
「【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0013】図1は、本発明の半導体集積回路装置の第1の実施例の工程断面図である。図1(a)に示しているように、メモリセルを構成するMOSトランジスタ1をシリコン基板2上に作製する。MOSトランジスタはソース、ドレインとなる拡散層3とゲート電極4から構成され、隣合うゲート電極あるいはトランジスタの拡散層とは、素子分離層5で電気的に絶縁されている。また、ゲート電極側面にはシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等からなる側壁6が設けられている。さらに、トランジスタは、シリコン酸化膜等からなる層間絶縁膜7で覆われ、本実施例の場合には図1(a)のように、層間絶縁膜表面が平坦化されている。平坦化には、反応性イオンエッチング(RIE)や化学機械研磨(CMP)によるエッチバックを用いている。・・・
【0014】次に、図1(b)に示しているように、層間絶縁膜に通常のフォトリソグラフィーと酸化膜RIEによって、直径0.25μmのコンタクトホール8を形成する。
【0015】次に、図1(c)に示しているように、全面にコンタクト金属(Ti)をコリメートスパッタにより、コンタクトホール底に充分な膜厚が堆積するように堆積し、下地のSiと反応させチタンシリサイドを形成する。つづいて、電極金属として窒化チタン膜を50nmの膜厚だけ堆積する。窒化チタンの堆積には、テトラジエチルアミノチタン(TDEAT)あるいは、テトラジメチルアミノチタン(TDMAT)を原料とした有機金属ソース化学的気相成長(MOCVD)を用いる。次に、TiNの上に容量絶縁膜として5酸化タンタル(Ta_(2) O_(5) )をCVD法で膜厚10nmだけ堆積する。
【0016】次に、図2(a)に示しているように、再び、TDEATあるいはTDMATを用いたMOCVDで容量絶縁膜を上部電極金属(TiN)12を堆積する。
【0017】次に、図2(b)に示しているように、周知のフォトリソグラフィーとRIEを用いて上部電極金属12、容量絶縁膜11、電極金属10、コンタクト金属を加工してパターンを形成する。
【0018】このようにしてできた本発明の第1の半導体集積回路装置の実施例はDRAMのメモリセルとして使用する。
【0019】ここで述べた実施例においては、コンタクト金属9としてTiを用いた例を示しているが、TiのかわりにTa、W、Mo、Pt、Co、Ni等を用いてもよい。さらに、チタンシリサイド、タンタルシリサイド、タングステンシリサイド、モリブテンシリサイド、白金シリサイドCoSi、NiSi等のシリサイドでも良い。
【0020】また、ここで述べた実施例においては電極金属10として、TiNを用いているが、TiNのかわりに窒化タングステン(WN)、窒化モリブテン(MoN)等の金属窒化物、チタンタングステン(TiW)、タングステンシリサイド(WSi)などの合金やそれらの窒化物であるTiWN、WSiN等を用いても良い。
【0021】また、ここで述べた実施例においては、容量絶縁膜11としてTa_(2) O_(5) を用いているが、ルチル(TiO_(2) )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO_(3) )、ジルコニウム・チタン酸鉛(PZT)等を用いても良い。・・・
【0022】本実施例で形成した容量は、Ta_(2) O_(5) の誘電率が従来のシリコン酸化膜の約6倍であることから、コンタクトホール内のみで約10fFである。ルチルを用いる場合には、同じくコンタクトホール内のみで約50fFとなり、この場合には、コンタクトホール内のみでメモリセルに必要な容量は満たされる。」

刊行物3.特開平09-246477号公報
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された特開平09-246477号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図1ないし図3とともに、以下の事項が記載されている。
「【0018】[実施例]図1乃至図3は本発明の望ましい実施例に応じて半導体装置のキャパシタ製造方法を説明するための断面図である。
【0019】図1は下部電極15を形成する段階を示す。具体的に説明すると、絶縁膜13で覆われた半導体基板11の上にキャパシタの下部電極15を形成する。前記下部電極15としては・・・Ta、Ti、Pt、Mo、Ta窒化膜、Ti窒化膜及びMo窒化膜からなる群から選ばれるいずれか一つで構成される単一膜またはその組み合わせによる多重膜で構成されることができる。次いで、前記下部電極15の上に形成された自然酸化膜の除去及び下部電極15の欠陥を取り除くための前処理によれば、前記下部電極15は窒素及び酸素を含有するガスによるプラズマ16で処理される。このため、前記下部電極15の上に窒素を含有するガス及び酸素を含有するガスを順次に又は同時に連続的に供給する。窒素を含有するガスとしては、NH_(3) 、N_(2) O、N_(2) などを用い、酸素を含有するガスとしては、N_(2) O、O_(2) 、-OH基含有ガスなどを用いることができる。具体的に、前記下部電極15を前処理するため、p-NH_(3) 処理とプラズマO_(2) (以下、“p-O_(2) ”という)処理を順次に又は同時に行うか、あるいは、プラズマN_(2) O(以下、“p-N_(2) O”という)処理のみを行うことができる。
【0020】本発明によるプラズマ処理条件としては、プラズマ出力パワーは10?50W、プラズマ処理時間は5?500秒、プラズマ処理圧力は100mTorr?50mTorr、プラズマ処理温度は200?500℃とする。
【0021】図2は誘電体膜17を形成する段階を示す。ここで、前記プラズマ処理された下部電極15に、例えば・・・Ta_(2) O_(5) 膜またはTiO_(2) 膜からなる誘電体膜17を約90Åの厚さで蒸着する。・・・その後、前記誘電体膜17をO_(3) 雰囲気で約300℃の温度で約15分間1次のアニーリングを行った後、O_(2) 雰囲気で約800℃の温度で約30分間2次のアニーリングを行う。
【0022】図3は上部電極19を形成する段階を示す。具体的には、前記誘電体膜17の上に・・・Ta、Ti、Pt、Mo、Ta、窒化膜、Ti窒化膜、Mo窒化膜からなる群から選ばれるいずれか一つによる単一膜またはその組み合わせによる多重膜で構成される上部電極19を形成する。」

4.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物発明」という。)とを対比検討する。
(a)刊行物発明の、「容量」、「下部電極としてのTiN電極」、「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜」、「上部電極としてのTiN電極」及び「遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素を導入したプラズマ」は、それぞれ、本願発明の、「コンデンサ」、「第一の金属電極」、「五酸化タンタル層」、「第二の電極」及び「酸素と窒素から成る遠隔プラズマ」に相当する。
(b)刊行物発明において、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素を導入したプラズマ」により「プラズマでアニール」処理する際に、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜がプラズマに曝されることは明らかであるから、刊行物発明の、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理すること」は、本願発明の、「前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出するステップ」に相当する。
(c)刊行物発明においては、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成する工程において、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成した後に、前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理する」のであるから、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜上に上部電極としてのTiN電極を」「形成する工程」は、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理する」、言い換えると、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜」をアニール処理した後に、行われるのは明らかである。
(d)刊行物発明の「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜上に上部電極としてのTiN電極」を「形成する工程」は、本願発明の「前記五酸化タンタル層に隣接して第二の電極」を「形成するステップ」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物発明は、
「集積回路のコンデンサを製造するための方法であって、
第一の金属電極を形成するステップ;
前記第一の金属電極の上に五酸化タンタル層を形成するステップ;
前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出するステップを含み;および
前記アニーリングのステップの後に、前記五酸化タンタル層に隣接して第二の電極を形成するステップを含むことを特徴とする方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本願発明は、「半導体基板上に誘電層を形成するステップ」を備えるのに対して、刊行物発明は、上記工程を備えるか否か明らかでない点。
相違点2
本願発明は、「前記誘電層上に第一の金属電極を形成するステップ」を備えるのに対して、刊行物発明は、「下部電極としてのTiN電極を形成する工程」を備えているが、「下部電極としてのTiN電極」をどこに形成するか明らかでない点。
相違点3
本願発明は、「前記第一の金属電極の上に五酸化タンタル層を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら、形成するステップ」を備えているのに対して、刊行物発明は、「前記下部電極としてのTiN電極上に五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を450℃以下の温度で形成する工程」を備えている点。
相違点4
本願発明は、「前記五酸化タンタル層の少なくとも一度の遠隔プラズマアニールを、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら遂行するステップであって、前記遠隔プラズマアニールは、前記五酸化タンタル層を、純粋な窒素から成る遠隔プラズマに露出し、次いで前記純粋な窒素による遠隔プラズマアニールの後に、前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出するステップを含」むとの構成を備えているのに対して、刊行物発明は、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成する工程において、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成した後に、前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理すること」との構成を備えている点。
相違点5
本願発明は、「前記五酸化タンタル層に隣接して第二の電極を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら形成するステップを含む」との構成を備えているのに対して、刊行物発明は、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜上に上部電極としてのTiN電極を450℃以下の温度で形成する工程」を備えている点。

5.当審の判断
相違点について以下で検討する。
[相違点1及び相違点2について]
半導体基板上に形成した誘電体膜上にキャパシタの下部電極を形成することは、例えば、刊行物2(シリコン基板2、層間絶縁膜7(本願発明の「誘電層」に相当)、容量電極金属10(本願発明の「下部電極」に相当)、図1、図2及び0013段落ないし0017段落参照)及び刊行物3(半導体基板11、絶縁膜13(本願発明の「誘電層」に相当)、下部電極15、図1ないし図3及び0019段落ないし0022段落参照)に記載されるように、従来周知である。
したがって、刊行物発明においても、「半導体基板上に誘電層を形成する」工程を備えたものとすると共に、刊行物発明の「下部電極としてのTiN電極」を、従来周知の如く、半導体基板上に形成した誘電体膜上に形成することは、当業者が何ら困難性なくなし得たものである。

[相違点3について]
(a)刊行物1には、記載事項b.の「最初のレベルの配線層形成の後に行われる各処理に許容されるサーマルバジェットは、通常450℃より低く制限されているから、低温処理が非常に重要である。化学蒸着(CVD)により堆積された五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を備えたTiN/Ta_(2)O_(5)/TiN容量構造での漏れ電流を減少するための、新規な低温遠隔プラズマアニール手法について記載する。」、「これらの結果から、超LSI(VLSI)の配線の上層への単純な組み込みを許容する、容量製造の全工程を450℃以下で行う可能性が示された。 CVDで堆積したタンタル酸化物薄膜には、低圧CVD(LPCVD)チャンバーで金属有機物プリカーサー(前駆体)を用いた。堆積温度は、上部電極及び下部電極のTiN電極のPVDでの堆積では、350℃から450℃まで変化させた。」こと及び、記載事項c.の「CVD形成のタンタル酸化物薄膜の低温プラズマ処理により、高温熱アニールで得られる漏れ電流と同等の漏れ電流が得られる。しかし、サーマルバジェットは配線層形成後の処理と同等である。」ことが記載されている。
したがって、「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を備えたTiN/Ta_(2)O_(5)/TiN容量構造」の形成において、「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜」は、450℃以下で金属有機物プリカーサー(前駆体)を用いて化学蒸着(CVD)により堆積されたものであること、「下部電極としてのTiN電極」薄膜及び「上部電極としてのTiN電極」薄膜が350℃から450℃の範囲の温度で形成されたものであることは明らかである。
(b)一方、本願明細書には、五酸化タンタル層の形成及び形成時の温度に関して、「ブロック48において、五酸化タンタル層33が、コンデンサ絶縁層として形成される。勿論、五酸化タンタルは、半導体の製造において用いられている他の従来の絶縁材と比較して相対的に高い誘電定数を有するという点で、コンデンサに対する絶縁層として、非常に望ましい。五酸化タンタル層33は、当業者においては周知のように、Ta(OC_(2)H_(5))_(5)と酸素の混合を伴うCVDプロセスによって形成される。」(0018段落)、「本発明によると、堆積温度は、第一の金属層の酸化温度より低く維持される。より詳細には、温度は、好ましくは、約500℃より低く維持され、より好ましくは、約400℃より低く維持される。当業者においては容易に理解できるように、五酸化タンタル層33のCVD堆積に対する時間期間は、通常は、用いられる装置によって決まるが、プロセスの良好な制御のためには、堆積時間は、典型的には、1?10分の範囲とされる。ただし、高速熱処理(RTP)の場合のように、これより短時間とすることもできる。加えて、比較的低温にて十分に高い堆積速度(成膜速度)を達成するために、圧力は、好ましくは、約3トル(Torr)より大きく、例えば、約3?15トルの範囲とされる。」(0019段落)と記載されている。
したがって、「五酸化タンタル層33」は「Ta(OC_(2)H_(5))_(5)と酸素の混合を伴うCVDプロセスによって形成される。」(0018段落)と共に、五酸化タンタル層の「堆積温度は、第一の金属層の酸化温度より低く維持される。より詳細には、温度は、好ましくは、約500℃より低く維持され、より好ましくは、約400℃より低く維持される。」(0019段落)ものである。
(c)ここで、刊行物1及び本願明細書のいずれにおいても、「五酸化タンタル層」又は「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜」は、有機化合物原料を用いたCVDで形成されると共に、刊行物1においては、450℃以下の温度で、本願明細書においては、約500℃より低く、より好ましくは、約400℃より低い温度で形成されると記載されているから、刊行物発明及び本願発明のいずれの方法においても、「五酸化タンタル層」又は「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜」の形成時において、それぞれの下に位置する電極である、「第一の金属電極」又は「下部電極としてのTiN電極」は酸化していないものと解しえる。
(d)上記(a)ないし(c)から、刊行物発明の「前記下部電極としてのTiN電極上に五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を450℃以下の温度で形成する工程」においても、五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成する時に、「下部電極としてのTiN電極」は酸化温度より低く維持されていることは明らかであるから、刊行物発明も、本願発明の如く、「前記第一の金属電極の上に五酸化タンタル層を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら、形成するステップ」を実質的に備えていることは明らかである。
よって、相違点3は、実質的なものではない。

[相違点4について]
相違点4について、本願発明は、「前記五酸化タンタル層の少なくとも一度の遠隔プラズマアニールを、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら遂行するステップであ」るとの構成を備えるのに対して、刊行物発明は上記構成を備えているか否か明らかでない点(相違点4-1)と、本願発明は、「前記遠隔プラズマアニールは、前記五酸化タンタル層を、純粋な窒素から成る遠隔プラズマに露出し、次いで前記純粋な窒素による遠隔プラズマアニールの後に、前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出するステップを含」むとの構成を備えているのに対して、刊行物発明は、「五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を形成した後に、前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理すること」との構成を備えている点(相違点4-2)に区分して検討する。
[相違点4-1について]
(a)刊行物1には、記載事項b.の「最初のレベルの配線層形成の後に行われる各処理に許容されるサーマルバジェットは、通常450℃より低く制限されているから、低温処理が非常に重要である。」こと、「これらの実験において、我々は、より高密のプラズマでより効率的なアニールであって、高周波により形成されるプラズマと比較してダメージが極めて少なく、より効率よく酸素及び窒素ラディカルを生成できる、遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源を用いた。」こと及び、記載事項c.の「CVD形成のタンタル酸化物薄膜の低温プラズマ処理により、高温熱アニールで得られる漏れ電流と同等の漏れ電流が得られる。しかし、サーマルバジェットは配線層形成後の処理と同等である。」ことが記載されている。
したがって、刊行物1に記載される容量構造の形成における、マイクロ波によるプラズマアニールは、450℃より低く、且つ、最初の配線層形成後に許容される温度で行われたことは明らかである。
(b)また、[相違点3について](a)ないし(c)で検討したように、下部電極としてのTiN電極は、450℃では酸化されないことは明らかである。
(c)上記(a)及び(b)より、刊行物発明においても、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理する」際に、下部電極としてのTiN電極が酸化されない温度で行うことは明らかである。
したがって、相違点4-1については、刊行物発明と本願発明は、実質的に相違しない。
[相違点4-2について]
(a)刊行物1には、記載事項a.の「化学蒸着(CVD)及び物理蒸着(PVD)により形成されたタンタル酸化物薄膜の漏れ電流が、低温酸素/窒素プラズマ処理により、非常に減少することが報告された。」こと、「漏れ電流とチャージトラッピングの低減での窒素の役割は、酸化膜での窒素の部分的結合による酸化膜中のバルクトラップ状態密度の削減により生ずると考えられる。」こと、記載事項b.の「これらの実験において、我々は、より高密のプラズマでより効率的なアニールであって、高周波により形成されるプラズマと比較してダメージが極めて少なく、より効率よく酸素及び窒素ラディカルを生成できる、遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源を用いた。・・・また、漏れ電流は非常に減少することが分かったので、Fig1に示すように2回目の熱処理は不要である。」こと及び、記載事項d.の「PVD堆積のTiNからなる上部電極及び下部電極を備えた、9nmのタンタル酸化膜の漏れ電流挙動。酸素の遠隔マイクロ波プラズマへ50%の窒素を添加したとき、漏れ電流が10^(-10)程度にまで減少した。」ことが記載されている。
(b)一方、本願明細書には、請求項の記載に対応する記載である「課題を解決するための手段」の0008段落ないし0013段落を除くと、遠隔プラズマアニールについては、「ブロック50において、五酸化タンタル層33が、好ましくは、遠隔プラズマを用いてアニールされる。遠隔プラズマは、漏れ電流が低いという点で、高品質の五酸化タンタル層を与える。遠隔プラズマは、2つの別個のアニールから構成され、当業者においては周知のように、第一のアニールは、純粋な窒素内で遂行され、第二のアニールは、酸素と窒素内で遂行される。これらアニールの際の圧力は、約1?5トルとされる。勿論、ここでも、温度は、好ましくは、第一の電極の金属の酸化温度、例えば、約500℃より低く、より好ましくは、約400℃より低く、維持される。」(0020段落)との記載があるのみであって、窒素又は窒素と酸素を用いたプラズマアニールの作用効果については何らの記載もない。
(c)五酸化タンタル層(薄膜)形成後、酸素欠損を補填するために酸素雰囲気でアニール処理を行うことは、例えば、刊行物3(特に、「下部電極15に・・・Ta_(2) O_(5) 膜・・・からなる誘電体膜17を約90Åの厚さで蒸着する。・・・その後、前記誘電体膜17をO_(3) 雰囲気で約300℃の温度で約15分間1次のアニーリングを行った後、O_(2) 雰囲気で約800℃の温度で約30分間2次のアニーリングを行う。」(0021段落)参照)に記載されるように従来周知である。
(d)上記(a)で検討したとおり、刊行物1には、「漏れ電流とチャージトラッピングの低減での窒素の役割は、酸化膜での窒素の部分的結合による酸化膜中のバルクトラップ状態密度の削減により生ずると考えられる。」と記載されると共に、「化学蒸着(CVD)及び物理蒸着(PVD)により形成されたタンタル酸化物薄膜の漏れ電流が、低温酸素/窒素プラズマ処理により、かなり減少する」から、「2回目の熱処理は不要であ」ることが記載され、また、上記(c)で検討したとおり、五酸化タンタル層(薄膜)形成後、五酸化タンタル層(薄膜)の酸素欠損を補填するために酸素雰囲気でアニール処理を行うことは従来周知であって、五酸化タンタル層(薄膜)の酸素欠損を補填するための処理がその上に形成する薄膜形成工程の直前に実施されることが必要であることは明らかである。
(e)したがって、刊行物1に記載される実験(実施例)においては、酸素の50%の窒素を添加することにより、かなりの「漏れ電流とチャージトラッピングの低減」効果が得られているが、刊行物1に記載される、「前記五酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))膜を遠隔ダウンストリームマイクロ波プラズマ源に窒素と酸素とを導入したプラズマでアニール処理すること」の「窒素」の導入量が比較的少なく、刊行物1に記載される、「窒素」の導入による効果(酸化膜中のバルクトラップ状態密度の削減の効果)が不十分である場合には、刊行物1に記載される「窒素及び酸素」を導入したプラズマ処理の前に、「窒素」の導入量の不足を補うために、最初の段階として「窒素」を導入したプラズマ処理を行い、次の段落として、実質的に、五酸化タンタル層(薄膜)への酸素欠損を補填する工程でもある、窒素及び酸素を含むアニール処理を行うことにより、刊行物発明が、本願発明の如く、「前記五酸化タンタル層を、純粋な窒素から成る遠隔プラズマに露出し、次いで前記純粋な窒素による遠隔プラズマアニールの後に、前記五酸化タンタル層を、酸素と窒素から成る遠隔プラズマに露出する」工程を備えたものとすることは、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が、何ら困難性なくなし得たものである。

[相違点5について]
[相違点3について]において検討したと同様の理由により、刊行物発明も、本願発明の如く、「前記五酸化タンタル層に隣接して第二の電極を、温度を前記第一の金属電極の酸化温度より低く維持しながら形成するステップを含む」との構成を実質的に備えていることは明らかである。
したがって、相違点5は、実質的なものではない。

よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし8について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-12 
結審通知日 2007-12-17 
審決日 2007-12-28 
出願番号 特願2000-6224(P2000-6224)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟野 正明  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 棚田 一也
井原 純
発明の名称 五酸化タンタル層を用いた集積回路用コンデンサを製造するための方法  
代理人 産形 和央  
代理人 本宮 照久  
代理人 臼井 伸一  
代理人 朝日 伸光  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 正夫  

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