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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06K
管理番号 1177304
審判番号 不服2005-4996  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-23 
確定日 2008-05-09 
事件の表示 平成 7年特許願第189594号「タイヤ装着用情報記憶素子及びこれを用いた情報記憶再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月14日出願公開、特開平 9- 44621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年7月25日の出願であって、平成8年2月2日付けで手続補正がなされ、平成16年3月1日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月24日付けで手続補正がなされたが、平成17年1月31日付けで拒絶査定がなされた。

これに対し、同年3月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けでで手続補正がなされ、当審において、平成19年10月24日付けで拒絶の理由が通知され、平成20年1月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成8年2月2日付け、平成16年5月24日付け、平成17年3月23日付け及び平成20年1月11日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものであると認める。

「ワイアレスでタイヤに関する所定の情報の読み書きを行うことができるタイヤ装着用情報記憶素子であって、
受信用アンテナと、
送信用アンテナと、
前記受信用アンテナに接続され、該受信用アンテナに入力された100?300KHzの周波数の電磁波を検波する検波回路と、
前記受信用アンテナに入力された100?300KHzの周波数の電磁波より所定の直流電流を生成する整流回路と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作する半導体記憶部と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作し、前記検波回路から入力する信号中の所定の読み出し命令によって前記半導体記憶部内の記憶情報を読み出すと共に、前記信号中の所定の書き込み命令によって該命令に続く情報を前記半導体記憶部の所定アドレスに書き込む中央処理部と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作し、前記受信用アンテナに前記100?300KHzの周波数の電磁波が入力されている間に、前記中央処理部によって読み出された情報を300MHzの周波数の高周波信号として前記送信用アンテナに供給する高周波発信部とからなる
ことを特徴とするタイヤ装着用情報記憶素子。」

なお、請求項1には「前記送信アンテナに供給する高周波発信部」と記載されているが、当該記載より前には「送信用アンテナ」との記載はあるが、「送信アンテナ」との記載はないこと、及び、受信用のアンテナについては、「受信用アンテナ」で統一された記載がなされていることからみて、上記記載における「前記送信アンテナ」は「前記送信用アンテナ」の誤記と認め、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)を上記のように認定した。

3.引用発明
当審の拒絶理由に引用された刊行物である特開平6-325229号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、携帯可能な情報記録媒体、特に、外部機器との間で非接触の状態で、電磁的手段によりエネルギーや信号の供給を受ける携帯可能な情報記録媒体に関する。」

B.「【0011】
【実施例】以下、本発明を図示する実施例に基づいて説明する。図1は、一般的なICカード10とリーダライタ装置20とを物理的に非接触な状態で結合した様子を示すブロック図である。ICカード10およびリーダライタ装置20は、いずれもアンテナとして機能するコイルを内蔵しており、これらのコイルを電磁的に結合することにより、両者が非接触結合することになる。このような状態において、リーダライタ装置20からICカード10に対して、電力およびクロックが供給されるとともに、両者間でデータ信号が送受される。
【0012】リーダライタ装置20に設けられた送信コイル21から放射される第1の電磁波は、リーダライタ装置20からICカード10へ伝達すべきデータを含むとともに、ICカード10に供給すべき電力およびクロックを含んでいる。この第1の電磁波は、ICカード10に設けられた受信アンテナ11によって受信される。ICカード10内では、受信した第1の電磁波に含まれているデータを抽出するとともに、交流電力を抽出して所定の電源電圧を確保し、更に、クロック成分を抽出してクロック信号として利用する。一方、ICカード10に設けられた送信アンテナ19から放射される第2の電磁波は、ICカード10からリーダライタ装置20へ伝達すべきデータを含んでいる。この第2の電磁波は、リーダライタ装置20に設けられた受信アンテナ29によって受信される。」

C.「【0013】本発明の特徴は、この第2の電磁波を、図2に示すような断続的に発生する応答信号で構成し、各応答信号間の間隔(応答信号間隔)を、受信アンテナ11が受信した第1の電磁波の強度に基づいて変化させるようにした点にある。たとえば、受信強度が強くなれば応答信号間隔を狭くし、受信強度が弱くなれば応答信号間隔を広くするようにすれば(この逆でもよい)、リーダライタ装置20側では、この応答信号間隔に基づいて、ICカード10の受信強度を認識することができる。本発明の基本思想は、このような方法により、情報記録媒体における受信強度を外部で認識することにある。」

D.「【0014】図3は、本発明に係るICカード10の入出力段(受信アンテナ11および送信アンテナ19の周辺回路)の基本構成を示すブロック図である。受信アンテナ11から入力された第1の電磁波は、整流回路12、クロック入力回路13、検波回路14に供給される。整流回路12は、この第1の電磁波を整流して、所定レベルの電源電圧を生成する回路である。ここで生成された電源電圧は、電源が必要な各回路へ供給される。クロック入力回路13は、第1の電磁波の中からクロック周波数成分を抽出し、クロック信号を生成する回路である。ここで生成されたクロック信号は、クロックが必要な各回路へ供給される。検波回路14は、第1の電磁波において変調されているデータ信号を検出する回路である。別言すれば、リーダライタ装置20において実施された変調作業に対応した復調作業を行い、本来伝送すべきデータ信号を抽出する機能を有する。抽出されたデータ信号は、入力データとしてデータ処理系へと転送される。」

E.「【0015】一方、整流回路12で生成された電源電圧は、電圧制御発振器15(以下、VCOと呼ぶ)に入力電圧として供給される。このVCO15は、図4(a) に示すような動作特性を有し、供給された入力電圧に比例した発振周波数をもった交流を発生する機能を有する。このVCO15の出力する交流信号は、応答信号発生回路16に与えられる。応答信号発生回路16は、図4(b) に示すような動作特性を有し、VCO15の発振周波数に比例した応答信号間隔で、断続的に所定の応答信号を出力する機能を有する。前述のように、この断続的に出力される応答信号は、応答信号間隔をリーダライタ装置20側へ伝達するための手段として用いられる信号であり、その内容はどのようなものであってもかまわない。要するに、図2において、応答信号の部分であるのか、応答信号間隔の部分であるのか、をリーダライタ装置20側で識別することができれば、応答信号としてはどのような信号を用いてもかまわない。ただ、この実施例では、ICカード10からリーダライタ装置20へ伝達すべきデータ信号を、この応答信号にのせるようにしている。そうすれば、応答信号の伝達とデータ信号の伝達とを、単一の電磁波で伝送することができ効率的である。
【0016】リーダライタ装置20へ伝達すべきデータ信号を応答信号にのせるため、応答信号発生回路16には、データ処理系からの出力データが与えられる。応答信号発生回路16は、この出力データに基づいて所定の応答信号を発生する。この応答信号は、VCO15の発振周波数に比例した応答信号間隔で断続的に発生することになる。出力データを応答信号にのせる方法としては、公知の種々の方法を利用すればよい(たとえば、基準となる正弦波や矩形波信号を用意し、これにAM変調あるいはFM変調すればよい)。こうして発生した断続的な応答信号は変調回路17に与えられ、搬送波発生回路18において発生した搬送波にのせて送信アンテナ19から第2の電磁波として送信される。こうして送信された第2の電磁波は、リーダライタ装置20に設けられた受信アンテナ29によって受信される。リーダライタ装置20内では、受信した信号における応答信号間隔を検出することにより、ICカード10内における第1の電磁波の受信強度を認識することができ、応答信号からデータ信号を抽出することにより、ICカード10側から伝達されたデータを認識することができる。
【0017】応答信号発生回路16は、VCO15からの交流信号が供給されている限り、常に断続的な応答信号を生成する。」

F.「【0018】・・・(中略)・・・リーダライタ装置20は、このような事実が認識されたら、ICカード10内で現在行われている処理に応じて適切な措置を講じることができる。たとえば、ICカード10内のEEPROMに所定のデータを書き込む旨の命令を与えたときに、ICカード10内の電源電圧がEEPROMの書き込みに支障を来たすほど低下したことが認識されたら、電源電圧の回復を待って、再度、書き込み命令を与えるような措置を講じることができる。」

G.「【0022】また、上述の実施例では、リーダライタ装置20側からICカード10側へ伝送される第1の電磁波と、逆に、ICカード側からリーダライタ装置20側へ伝送される第2の電磁波と、が全く別個独立したものであったが、単一の電磁波によって双方向の伝送を行うような形式のICカードについても本発明の適用は可能である。」

上記A、Bの記載からすると、引用文献1には、リーダライタ装置との間で、非接触の状態で電磁的手段により、すなわち、ワイアレスで、データ信号を送受信できるICカードが記載されており、ICカード及びリーダライタ装置の一般的な機能からみて、上記ICカードは、上記データ信号の送受信により、情報の読み書きが行えるものである。また、上記Bに記載されているように、上記ICカードは、受信アンテナと送信アンテナとを備えている。

上記Dにおける記載「受信アンテナ11から入力された第1の電磁波は、整流回路12、クロック入力回路13、検波回路14に供給される。」及び「検波回路14は、第1の電磁波において変調されているデータ信号を検出する回路である。」からすると、検波回路は、受信アンテナに接続され、該受信アンテナに入力された第1の電磁波を検波するものである。

上記Dにおける記載「受信アンテナ11から入力された第1の電磁波は、整流回路12、クロック入力回路13、検波回路14に供給される。整流回路12は、この第1の電磁波を整流して、所定レベルの電源電圧を生成する回路である。ここで生成された電源電圧は、電源が必要な各回路へ供給される。」からすると、整流回路は、受信アンテナに入力された第1の電磁波より所定レベルの電源電圧を生成するものであり、ICカードの各回路は、整流回路で生成された電源電圧により動作するものである。

上記Fにおける記載「ICカード10内のEEPROMに所定のデータを書き込む旨の命令を与えたとき」からみて、ICカードはEEPROMを備えており、このEEPROMもICカードの回路の一部であるから、前記整流回路で生成された電源電圧により動作する。

上記Dにおける記載「検波回路14は、第1の電磁波において変調されているデータ信号を検出する回路である。・・・抽出されたデータ信号は、入力データとしてデータ処理系へと転送される。」からすると、データ処理系は、検波回路で抽出されたデータ信号を受けて動作するものである。また、上記Fにおける記載「ICカード10内のEEPROMに所定のデータを書き込む旨の命令を与えたとき」及び「再度、書き込み命令を与えるような措置を講じることができる。」からすると、リーダライタ装置からのICカード内のEEPROMに対する読み書きは、読み出し命令や書き込み命令の形で与えられるものと解される。また、これらの命令が、上記検波回路で抽出されたデータ信号の一部としてデータ処理系に与えられることは、明らかである。そして、このデータ処理系もICカードの回路の一部であるから、前記整流回路で生成された電源電圧により動作する。

上記Eの記載「こうして発生した断続的な応答信号は変調回路17に与えられ、搬送波発生回路18において発生した搬送波にのせて送信アンテナ19から第2の電磁波として送信される。」からすると、変調回路及び搬送波発生回路は、応答信号を、第2の電磁波として送信されるための信号として送信アンテナに供給するものであり、これらの回路もICカードの回路の一部であるから、前記整流回路で生成された電源電圧により動作する。
ここで、上記応答信号は、上記C、Eに記載されているように、その間隔により、ICカードにおける受信強度を表す信号であるが、上記Eにおいて、「この実施例では、ICカード10からリーダライタ装置20へ伝達すべきデータ信号を、この応答信号にのせるようにしている。」、「リーダライタ装置20へ伝達すべきデータ信号を応答信号にのせるため、応答信号発生回路16には、データ処理系からの出力データが与えられる。」、「出力データを応答信号にのせる方法としては、公知の種々の方法を利用すればよい(たとえば、基準となる正弦波や矩形波信号を用意し、これにAM変調あるいはFM変調すればよい)。」と記載されているように、データ処理系からの出力データを送信する信号でもある。
そして、上記Eの記載「応答信号発生回路16は、VCO15からの交流信号が供給されている限り、常に断続的な応答信号を生成する。」からみて、上記応答信号の生成は、VCO(電圧制御発信器)からの交流信号が供給されている間、すなわち、受信アンテナに第1の電磁波が入力されている間に、行われている。また、上記Gに記載されているように、上記第2の電磁波は、上記第1の電磁波とは別個独立したものである。

したがって、上記A-Gの記載事項及び関連する図面を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ワイアレスで情報の読み書きを行うことができるICカードであって、
受信アンテナと、
送信アンテナと、
前記受信アンテナに接続され、該受信アンテナに入力された第1の電磁波を検波する検波回路と、
前記受信アンテナに入力された第1の電磁波より所定レベルの電源電圧を生成する整流回路と、
前記整流回路で生成された電源電圧により動作するEEPROMと、
前記整流回路で生成された電源電圧により動作し、前記検波回路で抽出されたデータ信号中の読み出し命令によって前記EEPROM内のデータを読み出すと共に、前記データ信号中の書き込み命令によって前記EEPROMにデータを書き込むデータ処理系と、
前記整流回路で生成された電源電圧により動作し、前記受信アンテナに前記第1の電磁波が入力されている間に、前記データ処理系からの出力データを前記第1の電磁波とは別個独立の第2の電磁波として送信されるための信号として前記送信アンテナに供給する変調回路及び搬送波発生回路とからなる
ことを特徴とするICカード。」

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「受信アンテナ」「送信アンテナ」、「検波回路」、「整流回路」、「EEPROM」、「データ処理系」、「変調回路及び搬送波発生回路」、「検波回路で抽出されたデータ信号中の読み出し命令」及び「EEPROM内のデータ」は、それぞれ、本願発明の「受信用アンテナ」、「送信用アンテナ」、「検波回路」、「整流回路」、「半導体記憶部」、「中央処理部」、「高周波発信部」、「検波回路から入力する信号中の所定の読み出し命令」及び「半導体記憶部内の記憶情報」に相当する。

引用発明における「整流回路で生成された電源電圧」が、直流電圧であることは、当業者には明らかであり、「電圧」、「電流」という表現上の差違はあるものの、引用発明の「所定レベルの電源電圧」及び「整流回路で生成された電源電圧」と、本願発明の「所定の直流電流」及び「整流回路から出力される直流電流」との間に、実質的な差違はない。

一般に、記憶装置への書き込み命令においては、書き込み対象アドレス及び書き込みデータの指定を伴う必要があるから、引用発明の「前記データ信号中の書き込み命令によって前記EEPROMにデータを書き込む」ことと、本願発明の「前記信号中の所定の書き込み命令によって該命令に続く情報を前記半導体記憶部の所定アドレスに書き込む」こととの間に、実質的な差違はない。

引用発明の「前記データ処理系からの出力データ」に、データ処理系によって読み出されたデータも含まれることは明らかであるから、「前記データ処理系からの出力データ」と、本願発明の「前記中央処理部によって読み出された情報」との間に、実質的な差違はない。

引用発明の「第1の電磁波」と、本願発明の「100?300KHzの周波数の電磁波」は、受信用アンテナに入力される受信用の電磁波である点で一致し、引用発明の「第2の電磁波として送信されるための信号」と、本願発明の「300MHzの周波数の高周波信号」は、送信アンテナに供給される送信用の信号である点で一致する。

引用発明の「ICカード」と、本願発明の「情報記憶素子」は、ワイアレスで情報の読み書きを行うことができる記憶装置である点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「ワイアレスで情報の読み書きを行うことができる記憶装置であって、
受信用アンテナと、
送信用アンテナと、
前記受信用アンテナに接続され、該受信用アンテナに入力された受信用の電磁波を検波する検波回路と、
前記受信用アンテナに入力された受信用の電磁波より所定の電源電流を生成する整流回路と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作する半導体記憶部と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作し、前記検波回路から入力する信号中の所定の読み出し命令によって前記半導体記憶部内の記憶情報を読み出すとともに、前記信号中の所定の書き込み命令によって該命令に続く情報を前記半導体記憶部の所定アドレスに書き込む中央処理部と、
前記整流回路から出力される直流電流により動作し、前記受信用アンテナに前記受信用の電磁波が入力されている間に、前記中央処理部によって読み出された情報を送信用の信号として前記送信用アンテナに供給する高周波発信部とからなる
ことを特徴とする記憶装置。」

である点で一致し、以下の2点で相違している。

[相違点1]
本願発明の「情報記憶素子」が、タイヤ装着用であり、タイヤに関する所定の情報の読み書きを行うことができるものであるのに対し、引用発明の「ICカード」は、タイヤ装着用ではなく、読み書きを行うことのできる情報の内容について特定されていない点。

[相違点2]
受信用の電磁波及び送信用の信号が、本願発明では、「100?300KHzの周波数の電磁波」及び「300MHzの周波数の高周波信号」であるのに対し、引用発明では、「第1の電磁波」及び「第2の電磁波として送信されるための信号」とされているだけであり、具体的な周波数については、特定されていない点。

以下、上記各相違点について検討する。

[相違点1について]
ワイアレスで情報の送受信ができる記憶装置(トランスポンダ)を、タイヤに埋め込み、タイヤに関する情報の読み書きを行うようにすることは、特開平7-137510号公報(トランスポンダを内蔵した空気入りタイヤが開示されている。)、特開平5-169931号公報(トランスポンダを有するニューマチックタイヤが開示されている。)に記載されているように周知であるから、同じくワイアレスで情報の送受信ができる記憶装置である引用発明のICカードの技術を、タイヤに埋め込まれる記憶装置に適用し、タイヤに関する所定の情報を読み書きできるタイヤ装着用情報記憶素子として構成することは、当業者が容易になし得ることである。

[相違点2について]
ワイアレスで情報の送受信ができる記憶装置において、当該記憶装置における送信用の周波数として、受信用の周波数より高い周波数を用いることは、特開平6-204922号公報(RFタッグの受信信号周波数と送信信号周波数とを異ならせた二重周波数RFタッグが開示されており、4頁左欄27行?右欄1行及び図4には、受信信号よりも高い周波数でコード化情報を含む信号を送信する二重周波数共振アンテナ回路についての記載がある。)、特開平6-209271号公報(段落【0003】?【0007】には、質問機とトランスポンダの間に2つのデータ通信チャネルを提供し、質問機からトランスポンダへの問合せには300KHz帯の低周波(LF)チャネルを、トランスポンダから質問機への応答には915MHzの高周波(UHF)チャネルを用いることの記載がある。)に記載されているように周知であり、ワイアレスで情報の送受信を行う場合の具体的な周波数については、通信距離やデータスループット、周囲の環境等を考慮して、当業者が適宜決定すべきものである。
そして、引用発明のICカードもまた、ワイアレスで情報の送受信ができる記憶装置であり、さらに、引用発明のICカードで受信される第1の電磁波とICカードから送信される第2の電磁波は、別個独立のものであるから、引用発明に上記周知技術を適用し、送信用の信号である「第2の電磁波として送信されるための信号」の周波数を、受信用の電磁波である「第1の電磁波」の周波数より高い周波数とし、受信用の電磁波の周波数として100?300KHzを、送信用の信号の周波数として300MHzを、それぞれ選択することに、格別の困難性はない。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用発明及び周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

なお、この点に関連し、審判請求人は、平成20年1月11日付けの意見書において、「一般に、タイヤはキャップトレッド、アンダトレッド、サイドトレッド、ベルト、カーカス、ビード、インナライナ、ビードフィラ、ベルトクッション等の複数の部品によって構成されており、これらの部品は金属やカーボン等の導電性部材を多く含んでおります。よって、審査官殿が指摘されているように、単に引用発明1をワイヤに埋め込まれるタイヤ装着用情報記憶素子として適用したとしても、前記事実を何ら考慮せずに高い周波数で電磁波を送受信すれば、タイヤの導電性部材がノイズ源となり、受信信号に含まれる読み出し命令または書き込み命令を検波することができず、また、半導体記憶部内から読み出された情報を輻射することができません。
これに対し、補正後の本願請求項1に係る発明は、100?300KHzの周波数の電磁波を受信するとともに、300MHzの周波数の電磁波を輻射しており、タイヤ内の導電性部材がノイズ源として実用上問題とならない範囲の周波数で電磁波を送受信しております。また、前記事実のみを考慮すると送受信する電磁波の周波数は低いほど望ましい一方、低い周波数の電磁波は送信できる情報量が少なく送信効率が低下しますが、補正後の本願請求項1に係る発明では、読み出し命令または書き込み命令の情報を含む情報量の少ない受信電磁波の周波数よりも、半導体記憶部内から読み出された情報を含む情報量の多い送信電磁波の周波数を高い周波数にしております。これにより、補正後の本願請求項1に係る発明は、実用性のある範囲内の周波数の電磁波でタイヤに関する所定の情報を効率良く読み書きすることができる、という引用文献1乃至7にない有利な効果を奏するものであると思料致します。」と主張している。

しかしながら、上記意見書における主張及び本願明細書の発明の詳細な説明を考慮しても、ノイズや送信効率を考慮して受信電磁波の周波数よりも送信電磁波の周波数を高くしたことは理解できるが、受信用の電磁波の周波数を100?300KHz、送信用の信号の周波数を300MHzという具体的な周波数に限定することについて、何らの臨界的意義は認められず、そのような限定が技術的に格別のものであるとは言えないから、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-24 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-04 
出願番号 特願平7-189594
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 浩  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 野仲 松男
橋本 正弘
発明の名称 タイヤ装着用情報記憶素子及びこれを用いた情報記憶再生装置  
代理人 吉田 精孝  

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