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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1177324
審判番号 不服2006-16853  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2008-05-09 
事件の表示 平成11年特許願第 55213号「機械式変速機の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月12日出願公開、特開2000-249221〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成11年3月3日の出願であって、平成18年6月30日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月3日(受付日)に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月25日(受付日)付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成18年8月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年8月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 複数の変速段を有する主変速機、およびクラッチを介して選択的に伝達されるエンジンからの動力を前記主変速機に伝達する副変速機を備えた機械式変速機と、
上記副変速機の変速状態を変更する副変速機アクチュエータと、
前記機械式変速機を搭載した車両の停車状態を検出する停車検出手段と、
この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され、且つ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する制御手段とを具備したことを特徴とする機械式変速機の制御装置。」
から、
「【請求項1】 複数の変速段を有する主変速機、およびクラッチを介して選択的に伝達されるエンジンからの動力を前記主変速機に伝達する副変速機を備えた機械式変速機と、
上記副変速機の変速状態を変更する副変速機アクチュエータと、
前記機械式変速機を搭載した車両の停車状態を検出する停車検出手段と、
この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され、且つ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、直ちに前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する制御手段とを具備したことを特徴とする機械式変速機の制御装置。」
と補正された。
なお、下線部は、審判請求人が附した本件補正による補正箇所を示す。

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書及び図面に記載された範囲内で、「制御手段」の「この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され、且つ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する」タイミングに関して、「直ちに」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用刊行物
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-14643号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「車両用副変速機の制御装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ア〕「主変速機とエンジンとの間に副変速機を設けた手動式変速機を備えた車両において、副変速機を中立状態にする中立駆動手段と、エンジンの作動を検出するエンジン作動検出手段と、主変速機の中立状態を検出する変速位置検出手段と、アクセルの全閉状態を検出するアクセル全閉状態検出手段と、これら3つの検出手段の出力を受け、エンジン作動時にアクセル全閉で、かつ主変速機が中立状態にあるとき、前記中立駆動手段に作動信号を入力して副変速機を中立状態にするコントロール手段とを備えてなる車両用副変速機の制御装置。」(第1ページ左下欄第5行?第17行、特許請求の範囲)
〔イ〕「(発明の目的)
本発明は上記のように主変速機と副変速機とが組み合わされた手動式変速機において、エンジンアイドリング時の変速歯車の歯打音発生を低減しうる、車両用副変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。」(第1ページ右下欄第20行?第2ページ左上欄第5行)
〔ウ〕「(発明の構成)
本発明の車両用副変速機の制御装置は、副変速機を主変速機とエンジンとの間に設けた手動式変速機を備えた車両において、副変速機を中立状態にする中立駆動手段を設け、エンジンアイドリング時にはこの中立駆動手段を作動させて副変速機を中立状態にするようにしたものである。なおエンジンアイドリングの検出は、エンジン作動検出手段と、主変速機の中立状態を検出する変速位置検出手段と、アクセル全閉状態検出手段とを設けて、これら検出手段によりエンジン作動、アクセル全閉かつ主変速機中立状態を検出することによつて行ない、そのときこれら検出手段からの出力を受けるコントロール手段から前記中立駆動手段に作動信号を入力して中立駆動手段を作動させるようにしている。」(第2ページ左上欄第6行?同ページ右上欄第2行)
〔エ〕「(発明の効果)
エンジンアイドリング時に副変速機が中立状態にされれば、エンジンの回転は主変速機に伝達されなくなり、この主変速機においては変速歯車の歯打音が発生することがない。したがつて本発明の副変速機の制御装置を備えた車両にあつては、アイドリング騒音が確実に低減される。」(第2ページ右上欄第3行?第10行)
〔オ〕「第1図は本発明の1実施例による車両用副変速機の制御装置の全体システムを示すものである。エンジン1の出力軸はクラツチ2を介して副変速機3に接続され、該副変速機3は主変速機4に接続されている。この主変速機4が中立状態にあることを、例えばシフトレバー位置を検出する等して検出する変速位置検出手段5と、例えばクラツチペダル位置を検出することによつてクラツチ2の接続状態を検出するクラツチ接続状態検出手段6と、一例としてイグニツシヨンスイツチのON状態を検出してエンジン1の作動を検出するエンジン作動検出手段7と、アクセルの全閉状態を検出するアクセル全閉状態検出手段8が設けられ、これら検出手段5,6,7,8が出力する中立状態信号A、クラツチ接続信号B、エンジン作動信号C、アクセル全閉信号Dはコントロール手段9に入力されるようになつている。」(第2ページ右上欄第14行?同ページ左下欄第12行)
〔カ〕「上記副変速機3は中立駆動手段10を介して手動変速レバー11によつて制御され、中立駆動手段10は上記コントロール手段9から作動信号Eが入力されたとき副変速機3を中立状態に設定する。」(第2ページ左下欄第13行?第17行)
〔キ〕「イグニツシヨンスイツチ(IgSW)がONにされ、アクセルが全閉、主変速機4が中立状態、クラツチ2が接続状態にされてエンジン1がアイドリングされているとき、・・・入力されたと考えうる。
上記の入力により、NANDゲート60及びORゲート61から「1」信号が出力され、ANDゲート64からタイマー回路65を介してトランジスタ67に「1」信号が入力される。タイマー回路65はANDゲート64の「1」信号の立上りから所定時間、該「1」信号をカツトして出力する。したがつて車両が走行中、ダブルクラツチ等の操作を伴なつて主変速機4が変速操作され、瞬間的にアイドリングと同様の状態が形成されても、その場合はトランジスタ67に「1」信号は入力されない。」(第5ページ右上欄第10行?同ページ右下欄第1行)

以上の記載事項及び図面からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。
「複数の変速段を有する主変速機4、およびクラツチ2を介して選択的に伝達されるエンジン1からの動力を前記主変速機4に伝達する副変速機3を備えた手動式変速機と、
上記副変速機3の変速状態を中立状態に変更する中立駆動手段10と、
主変速機の中立状態を検出する変速位置検出手段5と、
クラツチ接続状態検出手段6と、
エンジン作動検出手段7と、
アクセル全閉状態検出手段8と、
所定時間を計時するタイマー回路65と、
前記エンジン作動検出手段7、アクセル全閉状態検出手段8、変速位置検出手段5及びクラツチ接続状態検出手段6により、エンジン作動、アクセル全閉、主変速機4が中立状態及びクラツチ2が接続状態が検出されてエンジン1がアイドリングされているとき、タイマー回路65による所定時間経過後に前記中立駆動手段10を駆動して前記副変速機3を中立位置に設定するコントロール手段9と
を具備した手動式変速機の制御装置。」

(3)対比
本願補正発明と刊行物1の発明とを比較すると、刊行物1の発明の「主変速機4」は本願補正発明の「主変速機」に、以下同様に、「クラツチ2」は「クラッチ」に、「エンジン1」は「エンジン」に、「副変速機3」は「副変速機」に、「手動式変速機」は「機械式変速機」に、「中立駆動手段10」は「副変速機アクチュエータ」に、「コントロール手段9」は「制御手段」に、「手動式変速機の制御装置」は「機械式変速機の制御装置」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣ってまとめると、両者は、
「複数の変速段を有する主変速機、およびクラッチを介して選択的に伝達されるエンジンからの動力を前記主変速機に伝達する副変速機を備えた機械式変速機と、
上記副変速機の変速状態を変更する副変速機アクチュエータと、
所定の条件下でかつ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する制御手段と
を具備した機械式変速機の制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、「前記機械式変速機を搭載した車両の停車状態を検出する停車検出手段」を備え、前記所定の条件が、「この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され」たときであり、さらに所定の条件下でかつ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、「直ちに」前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定するものであるのに対し、刊行物1の発明は、「前記機械式変速機を搭載した車両の停車状態を検出する停車検出手段」を備えておらず、前記所定の条件が、「エンジン作動、アクセル全閉及びクラツチ2が接続状態」であり、さらに所定の条件下でかつ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、「所定時間」経過後に前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定するものである点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。
刊行物1の発明も、エンジンのアイドリング運転時における機械式変速機における振動ないし歯打ち音の低減をねらいとしている点で、本願補正発明と課題を同一にするものであるが、エンジンアイドリングの判定の手法、及び、副変速機アクチュエータの駆動タイミングにおいて本願補正発明と異なっていることは、上記相違点1のとおりである。
ここで、副変速機アクチュエータの駆動タイミングについて、刊行物1の発明が「タイマー回路65」により、所定時間経過後に駆動させている技術的意義は、上記摘記事項〔キ〕から明らかなとおり、走行中のダブルクラッチ等の操作によって瞬間的にアイドリングと同様の状態が誤って検出されてしまうことを排除するためのものである。
ところで、そもそもエンジンのアイドリング状態とは、一般に車両停止時において生じるものを意味しており、刊行物1の発明も、上記摘記事項〔キ〕からみても、停車中のものを意図していることが明らかである。
また、変速機のアイドリング時の歯打ち音の防止のためのものであって、車速により車両停車状態を判定すること、及び、車両の停車状態と変速機の中立とをもってアイドリング状態を判定することは、従来周知の技術(例えば、特開昭57-18819号公報、実願昭60-200891号(実開昭62-108654号)のマイクロフィルム)にすぎないものである。
してみると、刊行物1の発明のエンジンアイドリングの判定の手法として、上記従来周知の技術を採用して上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。なお、言うまでもないが、上記従来周知の技術を採用した際には、走行中の誤検出のおそれは無いので、「タイマー回路65」による所定時間の経過を待たずに「直ちに」アクチュエータの駆動を行えることは技術的に自明であり、当業者は当然「直ちに」アクチュエータの駆動を行うようになし得る。
そして、本願補正発明の作用・効果も当業者の予測できる範囲内のものであって、格別のものということはできない。
よって、本願補正発明は、刊行物1の発明及び上記従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)審判請求人の主張について
請求人は、本願補正発明と刊行物1の発明とは、アイドリング状態の検出方法、及びアイドリング判定後に副変速機アクチュエータを駆動するタイミングが異なっている旨主張し、たとえ周知技術から確実性のある停車検出手段が得られたとしても、タイマーを設けることによりあくまでもアイドリング状態の検出に拘泥しようとする刊行物1からは本願補正発明は容易になし得ることは不可能と云わざるを得ない旨主張する(平成18年12月15日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書の請求の理由)。
確かに、本願補正発明と刊行物1の発明とは、アイドリング状態の検出方法、及びアイドリング判定後に副変速機アクチュエータを駆動するタイミングが異なっていることは、上述のとおり是認される事項である。しかしながら、刊行物1の発明において「タイマー回路65」を設けた技術的意義は上記のとおりであって、刊行物1の発明において、そのアイドリング判定方法として上記従来周知の技術を採用した場合には、当該「タイマー回路65」が必要のないものであることは当業者に自明であることも上述のとおりである。
そして、刊行物1の発明に従来周知の技術を採用することによって、本願補正発明が当業者に容易に想到し得たものであることは上述したとおりである。
したがって、刊行物1からは本願補正発明は容易になし得ることは不可能と云わざるを得ない旨の審判請求人の上記主張は採用できない。

(6)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月20日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 複数の変速段を有する主変速機、およびクラッチを介して選択的に伝達されるエンジンからの動力を前記主変速機に伝達する副変速機を備えた機械式変速機と、
上記副変速機の変速状態を変更する副変速機アクチュエータと、
前記機械式変速機を搭載した車両の停車状態を検出する停車検出手段と、
この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され、且つ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する制御手段と
を具備したことを特徴とする機械式変速機の制御装置。」

(2)刊行物に記載された発明
原査定において引用された刊行物1に記載された事項は、上記「2.平成18年8月25日付けの手続補正についての補正却下の決定」の(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記2.で検討した本願補正発明を特定する事項から、「制御手段」の「この停車検出手段により前記車両の停車状態が検出され、且つ前記主変速機が中立位置に設定されたとき、前記副変速機アクチュエータを駆動して前記副変速機を中立位置に設定する」タイミングに関して、「直ちに」との限定を省いたものに実質的に相当するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、上記2.(4)に記載したとおり、刊行物1の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-06 
結審通知日 2008-03-12 
審決日 2008-03-25 
出願番号 特願平11-55213
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘津田 真吾  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 戸田 耕太郎
常盤 務
発明の名称 機械式変速機の制御装置  
代理人 長門 侃二  

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