• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 D02G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D02G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D02G
管理番号 1177436
審判番号 不服2004-20417  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-01 
確定日 2008-05-07 
事件の表示 平成 8年特許願第 30966号「高耐熱混紡糸」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 2日出願公開、特開平 9-228171〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年2月19日の出願であって、平成16年4月21日付けの拒絶理由通知に対して、平成16年6月23日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成16年9月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年10月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成16年12月14日付けで手続補正書(方式。審判請求書の補正)及び上申書が提出され、審尋が通知され、平成19年5月30日付けで回答書が提出され、再度、審尋が通知され、平成19年12月20日付けで、再度、回答書が提出されたものである。

2.平成16年10月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月1日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成16年10月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?4である、
「【請求項1】 空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である、高耐熱混紡糸。
【請求項2】 1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維を含有する、請求項1に記載の混紡糸。
【請求項3】 耐熱有機繊維と、無機繊維および/または金属繊維とでなる高耐熱混紡糸であって、
該高耐熱混紡糸の、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下であり、
該耐熱有機繊維の、空気中500℃で60分間加熱した後の強熱減量率(B)が70%以下であり、そして空気中800℃で30分間加熱した後の強熱減量率(C)が85%以下である、混紡糸。
【請求項4】 前記耐熱有機繊維がポリベンザゾール繊維であり、そして該耐熱有機繊維が1重量%以上99重量%以下の割合で含有される、請求項3に記載の混紡糸。」を
「【請求項1】 1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維と、アスベスト繊維および/またはステンレス鋼繊維とからなり、
空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、
空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である、高耐熱混紡糸。
【請求項2】 1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維と、アスベスト繊維および/またはステンレス鋼繊維とでなる高耐熱混紡糸であって、
該高耐熱混紡糸の、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下であり、
該耐熱有機繊維の、空気中500℃で60分間加熱した後の強熱減量率(B)が70%以下であり、そして空気中800℃で30分間加熱した後の強熱減量率(C)が85%以下である、混紡糸。」
と補正するものである。

(2)補正の適否
上記補正は、請求人が平成16年12月14日付けで提出した手続補正書(方式。審判請求書の補正)において述べているように、
(旧請求項) (新請求項)
1 1
2 削除
3 2
4 削除
という対応関係にあるところ、該補正により、特許請求の範囲の請求項1は、「1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維と、アスベスト繊維および/またはステンレス鋼繊維とから」なるものとなったが、アスベスト繊維を含有するものは、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)に記載されておらず、また、当初明細書の記載から自明な事項でもない。
そうしてみると、上記補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)付記
請求人は、平成16年12月14日付けで提出した上申書において、「平成16年10月1日付け手続補正書の請求項1および2における『アスベスト繊維』は『アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維』の誤記である」旨、上申しているので、念のため、本件補正において、「アスベスト繊維」が「アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維」の誤記であったとして、本件補正の適否を検討する。
この場合の「本件補正」を、「本件補正2」とする。

(ア)補正の内容及び目的要件の適否
本件補正2により、補正前の特許請求の範囲の請求項1、2である、
「【請求項1】 空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、
空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である、高耐熱混紡糸。
【請求項2】 1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維を含有する、請求項1に記載の混紡糸。」は、
「【請求項1】 1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維と、アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維および/またはステンレス鋼繊維とからなり、
空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、
空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である、高耐熱混紡糸。」
と補正された。
この補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2を新たに請求項1とし、さらに、「高耐熱混紡糸」が「1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維」と、「アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維および/またはステンレス鋼繊維」からなるものであることを特定したものであるところ、これは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除及び同項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正2後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(イ)引用文献に記載された発明
本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1、2には、以下の記載がされている。
引用文献1:特開平7-189074号公報
(1-1)「【請求項1】ポリベンザゾール繊維と、耐炎性が付与されたセルロース系繊維との複合糸からなる耐熱、耐炎布帛。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1-2)「従来より、耐熱、難燃素材を用いた耐熱、耐炎服などの開発が行われており、それらの耐熱、耐炎服を構成する布帛としては、難燃剤を含有する綿(FRコットンなどと呼ばれるもの)、芳香族メタアラミド(商品名でコーネックス、ノーメックスなど)、芳香族パラアラミド(商品名でケブラーなど)、ポリベンゾイミダゾールあるいはそれらのブレンド物からなるものが知られており、実用化されている。そのなかでも優れた耐熱、耐炎特性を示す芳香族メタアラミド繊維は着色が可能であることから耐熱、耐炎服として広く用いられてきた。しかし、芳香族メタアラミド繊維は火炎に暴露された場合の熱収縮による孔あき破損が問題になっており、それを解決する手段として芳香族パラアラミド繊維を混合する方法が提案されている(例えば特開平1-221537)。それらの手法により耐熱、耐炎服に適する布帛が提供されているが、その性能は、例えば熱分解温度で評価すると400?500℃と充分なものではなかった。そのため更に高い性能を有する耐熱、耐炎布帛が望まれていた。一方、近年、非常に高い耐熱特性を有するポリベンザゾール繊維が開発され、該繊維を使用して非常に優れた耐熱、耐炎布帛が得られると期待されている。」(段落【0002】)

引用文献2:特公平7-26270号公報
(2-1)「【請求項1】周面に、その長手方向に沿って稜と溝を形成した断面不規則形状の繊維径2?50μmのステンレス鋼繊維と、二次加工の施されていない集綿状態のセラミックバルクファイバーとから混紡され、かつ撚合わせによって該セラミックバルクファイバーを前記ステンレス鋼繊維で保持した混紡糸の複数本をさらに撚合わせてなる、強度、屈曲耐摩耗性にすぐれた耐熱用混紡合撚糸。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2-2)「アスベスト材料に代わる新素材として、炭素繊維やセラミック繊維材料の開発もさかんに行なわれており、特にセラミックでなる繊維材料は優れた耐蝕性と温度1200℃以上にも耐え得る耐熱性とを有し、また軽量でもあることから例えばFRMエンジン部品等の一素材としてすでに実用化されているが、その紡績製品については該繊維材料が屈曲耐摩耗性に劣り折損しやすく、またその長さも比較的短いことからそれのみで紡績加工することは困難であった。
また特開昭58-46145号公報にはセラミックファイバーを用いた熱遮断クロスを開示したものも見受けるが、その構成はセラミックファイバーと、例えばアクリル繊維などの有機繊維を焼成炭素化して得た耐炎化繊維との混紡糸を金属線で補強した原糸を使用したものであって、同公報では平織りしたクロスを例示している。またその用途についても、溶接火花や溶融金属の飛散を防止することを目的としたカーテンに関するものであって、その加工性、素材混紡糸自体の屈曲耐摩耗性、弾力性などについては何等言及されていない。また特にその一素材である前記炭素化繊維は一般に屈曲性に劣り、折損しやすい為、紡糸工程や織布工程などの加工時に高度の技術を要するとともに、得られた製品においても繰り返しの強加工を受けるような例えばパッキン.ベルトなどの用途には適さず、従って用途的にも限られたものであった。
<発明の目的>本発明は、このような従来の問題点に鑑がみ、特に600℃以上の温度に耐える耐熱性と、十分な屈曲耐摩耗性とを併わせ持ち、かつ広範に使用可能な耐熱用混紡合撚糸との提供を目的とするものである。」(1頁2欄下から3行?2頁3欄26行)
(2-3)「以下本発明の一例をその製造方法とともに説明する。
第1図では、ステンレス鋼でなる繊維径2?50μmの繊維材料2と、例えばアルミナ.シリカ等を含有するセラミックバルクファイバー3を用いて混紡した混紡糸1であって、」(2頁3欄36?40行)
(2-4)「耐熱性のあまり必要ない用途には、アラミド繊維などを共に混紡させその耐摩耗性をさらに改善するなどの応用は自由にできる。」(3頁5欄35?37行)
(2-5)「<実施例-1>繊維径12μmのSUS 316Lステンレス鋼繊維をパーロック切断機にかけ、平均長さ50mmのスライバーを得た。なお、このフィラメントの引張強さは135Kgf/mm2であった。
このステンレス鋼繊維と、セラミックファイバーとしてアルミナ.シリカ系平均繊維径3μmのバルク状のものとを、重量比3:2の割合で均一に分散させ、太さ0.4mmの5回/in.程度撚られた混紡糸を得た。
<実施例-2>実施例-1で得た混紡糸4本を用いこれらに5回/in.の逆方向の撚りを与え一本の合撚糸を作った。
<実施例-3>実施例-1,2で得た混紡糸及び合撚糸の特性を把握する為、熱影響により強度の変化、並びにJIS規格R 3450が規定する強熱減量試験を行なった。
その測定結果は、第1表の通りであった。」(3頁5欄39行?6欄5行)
(2-6)「

」(3頁6欄19?34行)
(2-7)「以上詳述したように、本発明は耐熱性にすぐれたセラミックファイバーのなかでも、二次加工の施されていない集綿状態のバルクファイバーと、ステンレス鋼繊維との混紡でなる混紡合撚糸であって耐熱性と強度、屈曲耐摩耗性を飛躍的に向上させ、その応用範囲を広げたものである。
特に本発明においては、例えば従来耐熱性には優れているものの、そののみでは紡糸することが困難であったセラミックファイバーの紡糸処理を、強度と弾性、可トウ性、屈曲耐摩耗性などにすぐれたステンレス鋼繊維で混紡させることによって可能とし、またステンレス鋼においてもやや不足していた耐熱性は、セラミックファイバーとの撚りによる密着保護により、その熱劣化を防止することができるなどの両繊維材料の利点を生かした複合作用によって、高い加工性が得られ、この結果利用範囲を大きく拡張させることが可能となったものである。」(3頁6欄下から14行?4頁7欄2行)

(ウ)対比・判断
(ウ-1)対比
引用文献2には、「ステンレス鋼繊維とセラミックバルクファイバーとからなる、耐熱用混紡合撚糸」(記載事項2-1)が記載されているところ、ここで「セラミックバルクファイバー」は、「アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維」といえ(記載事項2-3)、また、これらの繊維の他に、アラミド繊維などを共に混紡させてもよい(記載事項2-4)のであるから、引用文献2には、
「ステンレス鋼繊維とアルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維とアラミド繊維などを混紡させた耐熱混紡糸」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

本願補正発明と引用発明を比較すると、本願補正発明におけるポリベンザゾール繊維も引用発明におけるアラミド繊維も共に有機繊維の一つであり、引用発明も、従来品よりも耐熱に優れたものであって(記載事項2-7)、「高耐熱混紡糸」といえるから、両者は、
「有機繊維と、アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維およびステンレス鋼繊維とからなる高耐熱混紡糸」
である点で一致し、
(a)有機繊維が、本願補正発明においては「1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維」であるのに対して、引用発明においては「アラミド繊維など」である点、
(b)高耐熱混紡糸が、本願補正発明においては、「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である」と特定されているのに対し、引用発明においては、このような特定はされていない点、
で相違する。

(ウ-2)相違点(a)について
ポリベンザゾール繊維は混紡可能な繊維であって(記載事項1-1)、引用文献1にはその開発に到る経緯も記載されており、それによれば、「従来より、耐熱、難燃素材を用いた耐熱、耐炎服などの開発が行われており、それらの耐熱、耐炎服を構成する布帛として、芳香族メタアラミドや芳香族パラアラミドが実用化され、そのなかでも優れた耐熱、耐炎特性を示す芳香族メタアラミド繊維は着色が可能であることから耐熱、耐炎服として広く用いられてきたが、これは、火炎に暴露された場合の熱収縮による孔あき破損が問題になっており、それを解決する手段として芳香族パラアラミド繊維を混合する方法が提案されている。それらの手法により耐熱、耐炎服に適する布帛が提供されているが、その性能は、例えば熱分解温度で評価すると400?500℃と充分なものではなかったため更に高い性能を有する耐熱、耐炎布帛として、非常に高い耐熱特性を有するポリベンザゾール繊維が開発され、該繊維を使用して非常に優れた耐熱、耐炎布帛が得られると期待されている。」とのことであって(記載事項1-2)、従来より用いられているアラミド繊維に代わる耐熱、耐炎素材として、より性能の高いポリベンザゾール繊維が提示されているといえる。
これからすると、ポリベンザゾール繊維が、400?500℃程度で劣化するアラミド繊維などよりはるかに耐熱性が優れていることは公知(記載事項1-2)といえるから、有機繊維として、引用発明における「アラミド繊維など」に代えて、アラミド繊維より耐熱性に優れた有機繊維であるポリベンザゾール繊維を用いることは、当業者にとって容易である。
そして、混紡量を1重量%以上99重量%以下とする点は、混紡するという以外の特別の意味はなく、当業者が適宜に決め得ることである。
したがって、相違点(a)は、当業者が公知技術に基づいて容易になし得る程度のことである。

(ウ-3)相違点(b)について
相違点(b)を、混紡糸において、i)「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下」である点、ii)「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下」である点、に分け、順に検討する。
i)「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下である」点
引用文献2には、高耐熱混紡糸が記載されているとともに、強熱減量率や空気中で加熱後の引張り強度について言及されている。
すなわち、本願補正発明とほぼ同様の製造方法によって製造された引用文献2の混紡糸または合撚糸の強熱減量(%)が800℃で0である(記載事項2-5、2-6)ことからすると、「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下」という特定が、極めて希なものであるとは考えられず、この数値が格別のものであるとすることはできない。
しかも、ポリベンザゾール繊維の混紡率が例えば1重量%程度、と低ければ、該混紡糸はステンレス鋼繊維とアルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維の混紡糸または合撚糸の持つ0に近い値になるので、ポリベンザゾール繊維とステンレス鋼繊維とアルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維の混紡糸の強熱減量率(A)が70%以下になることは当然であって、i)の相違点、すなわち、「混紡糸の空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下」である点は、ポリベンザゾール繊維とステンレス鋼繊維と少量のアルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維の混紡糸、という構成を採ることにより自ずと生ずる値にすぎず、格別のものとは認められない。
ii)「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下」である点
引用文献2には、実施例-1に、「ステンレス鋼繊維とアルミナ.シリカ系セラミックバルク繊維を重量比で3:2の割合で均一に分散させ、太さ0.4mmの5回/in.程度で撚られた混合糸を得」、実施例-2に、「実施例-1で得た混紡糸4本を用いこれらに5回/in.の逆方向の撚りを与え一本の合撚糸を作り」、実施例-3に、「実施例-1,2で得た混紡糸及び合撚糸の特性を把握する為、熱影響により強度の変化、並びにJIS規格R 3450が規定する強熱減量試験を行った。その測定結果は第1表の通りであった」(記載事項2-5)とあり、実施例2(合撚糸)の引張り強度(kg)は、「常温で3.2、200℃で3.2、500℃で3.2、800℃で3.1(kg)」(記載事項2-6)とある。
そして、その結果、「耐熱性と強度、屈曲耐摩耗性を飛躍的に向上させ、その応用範囲を広げたものである。」(記載事項2-7)から、非常に優れた耐熱、耐炎布帛が得られるポリベンザゾール繊維(記載事項1-2)を用いて、引用文献2に具体的に記載された引張り強度(記載事項2-6)よりも若干高い引張り強度を、その発明特定事項とすることに、格別の創意を要したものとすることはできない。
また、この「4kgf/g以上」という数値範囲についても、本願明細書の比較例においても達成されている強度であるから(本願明細書の表1)、この数値範囲が格別のものであるとすることもできない。
そうしてみると、これらの「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)」の特定も、「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S1)」の特定も、高耐熱混紡糸が有すべき望ましい性状を、達成可能な範囲で特定したにすぎないものといえるから、引用発明において、「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)を70%以下」とし、「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))を4kgf/g以上30kgf/g以下」とすることは、引用文献1、2に記載された事項に基づいて当業者が適宜設定しうる程度のものである。
したがって、相違点(b)も、当業者が容易になし得る程度のことである。

(ウ-4)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、明細書の段落【0080】に記載されるように、「本発明によれば、アスベストに代替し得る、耐熱性、強度、屈曲耐摩耗性、軽量性、柔軟性が向上した混紡糸を提供し得る。特に、本発明においては、例えば、従来、耐熱性には優れているものの、それのみでは紡績することが困難であったセラミック繊維などの無機繊維の紡績処理を、耐熱有機繊維と混紡することによって、その紡績性を極めて容易にする。また、ステンレス鋼繊維などの比重の大きい金属繊維においても、比重の小さい耐熱有機繊維を混紡することによって、より軽量の高耐熱性混紡糸を作製し得る。さらに、人体に悪影響を及ぼすアスベストを使用することなく、高い耐熱性と難燃性とを有するため、環境面からも極めて好ましい混紡糸が提供される。」というものであるところ、アスベスト以外のものを混紡することによって、アスベストを用いずとも、種々の性状を合わせ有する糸が得られることは引用文献1、2に記載されるところである(記載事項1-1?1-2、記載事項2-1?2-7)し、ポリベンザゾール繊維を混紡することによる効果もポリベンザゾール繊維自体の特性である、耐熱性、耐炎性を混紡糸に付与したにすぎないので、本願補正発明の上記の効果は、これらの引用文献に記載された事項から、当業者が予測をしうる程度のものである。

(ウ-5)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(エ)請求人の主張
(エ-1)請求人は、平成19年5月30日付け回答書において、「引用文献2には耐熱性が要求される用途に有機繊維を用いることを否定する記載があり、当業者が引用文献1及び2を用いてアスベスト代替混合糸に想到するとは考えられない」と主張する。
たしかに、引用文献2には、「耐熱性のあまり必要ない用途には、アラミド繊維などを共に混紡させその耐摩耗性をさらに改善するなどの応用は自由にできる。」と記載されてはいる(記載事項2-4)が、アラミド繊維が400?500℃程度で劣化する事実(記載事項1-2)を考慮すれば、該記載は、600℃以上の耐熱特性を有するステンレス鋼繊維とアルミナ.シリカ系セラミックバルク繊維の混紡糸(記載事項2-2)においては、その耐熱性を少し犠牲にして耐摩耗性を持たせるためにアラミド繊維などの有機繊維を共に混紡させてもよいことを示すものであり、請求人が主張するように、耐熱性が要求される用途に有機繊維を用いることを否定するものではなく、有機繊維との混紡が可能であることを示すものであるから、アラミド繊維などより耐熱特性のよい有機繊維を混紡すれば、耐熱性と耐摩耗性を兼ね備えた混紡糸が得られることは当然であって、引用文献2の発明もアスベスト材料に代わるものであるから(記載事項2-2)、請求人の主張は採用できない。

(エ-2)請求人は、平成19年12月20日付け回答書において、「本願明細書の段落【0077】の【表1】に示されるように、金属繊維にアラミドを混入した場合、空気中400℃で30分間加熱した後の引張り強度(S1)は、減少します(比較例2と比較例4)。
それに対して、本願発明のように、ポリベンゾオキサゾール繊維を添加すると、この加熱後の引張り強度(S_(1))は、増加しています(実施例1と比較例4)。ポリベンゾオキサゾール繊維がアラミドより耐熱性が高いことが公知であるとしても、有機繊維であるポリベンゾオキサゾール繊維を添加しながら、金属繊維100%の場合よりも、加熱後の引張り強度(S_(1))が高くなることは、当業者が容易に想到し得るものではありません。
引用文献1および2は、ポリベンザゾール繊維と、アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維および/またはステンレス鋼繊維とを組み合わせることを開示しておらず、また、上記のような加熱後の引張り強度(S_(1))の増加という結果を示唆するものではありません。本願発明は、引用文献1および2に対して、進歩性を有しています。」と主張している。
しかしながら、請求人主張の本願明細書の表1の比較例2、4と実施例1との関係については、「SUSのみからなる糸では、引張り強度が小さいところ(12kgf/g(比較例4、加熱前))、有機繊維であるPBO、PAを混紡すると、引張り強度は大きくなる(21kgf/g(実施例1、加熱前);18kgf/g(比較例2、加熱前))が、加熱後の引張り強度は、耐熱性の低いPAを混紡したもの(4kgf/g(比較例2、加熱後))より、耐熱性の高いPBOを混紡したもの(17kgf/g(実施例1、加熱後))の方が、引張り強度の減少割合が小さい」というものであって、表1から読み取れるこの効果は、当業者の予測を越えるものではない。
また、引用文献1および2は、ポリベンザゾール繊維と、アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維および/またはステンレス鋼繊維とを組み合わせることを具体的に開示してはいないものの、両文献を合わせ読めば、これらの繊維を組み合わせることが示唆されていることは、上記「(ウ-2)」の項で示したとおりである。

よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(オ)まとめ
以上のとおり、本件補正2による補正後の請求項1に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、本件補正2は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正2は、平成18年改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年10月1日付けの手続補正は、上記「2.(2)」のとおり却下され、また、請求人の「平成16年10月1日付け手続補正書の請求項1および2における『アスベスト繊維』は『アルミナ・シリカ系セラミックバルク繊維』の誤記である」なる主張を考慮しても、上記「2.(3)(オ)」のとおり却下されるべきものであるので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成16年6月23日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである。

【請求項1】
「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である、高耐熱混紡糸。」
【請求項2】
「1重量%以上99重量%以下のポリベンザゾール繊維を含有する、請求項1に記載の混紡糸。」
【請求項3】
「耐熱有機繊維と、無機繊維および/または金属繊維とでなる高耐熱混紡糸であって、
該高耐熱混紡糸の、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下であり、
該耐熱有機繊維の、空気中500℃で60分間加熱した後の強熱減量率(B)が70%以下であり、そして空気中800℃で30分間加熱した後の強熱減量率(C)が85%以下である、混紡糸。」
【請求項4】
「前記耐熱有機繊維がポリベンザゾール繊維であり、そして該耐熱有機繊維が1重量%以上99重量%以下の割合で含有される、請求項3に記載の混紡糸。」

(2)原査定の拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、請求項1?4に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、刊行物1、刊行物2は以下のとおりである。
刊行物1:特開平7-189074号公報(「引用文献1」に同じ。)
刊行物2:特公平7-26270号公報(「引用文献2」に同じ。)

(3)刊行物に記載された事項
刊行物1、2に記載された事項は、上記「2.(3)(イ)」の、引用文献1、2に記載された事項と同じであるが、さらに刊行物1には、次の記載がある。
(1-3)「ポリベンザゾール繊維と耐炎性が付与されたセルロース系繊維が均一に混合された複合糸は公知の混紡の手法で得ることができる。例えば、ポリベンザゾール繊維をカットした後にセルロース系短繊維と混合し通常の紡績工程を経ることにより得ることができる。またポリベンザゾール繊維が糸の芯部に、耐炎性が付与されたセルロース系繊維が糸の周辺部に配置された複合糸は、特開昭57-5924号公報に記載されているように、精紡機段階で複合する方法や、例えば特開平3-269129号公報にあるような方法でポリベンザゾール繊維のフィラメントの周辺部にセルロース系繊維紡績糸を配する方法、また芯部のポリベンザゾール繊維としてフィラメントの代わりに紡績糸を用いる方法などで得ることができるが、本特許においてはその構造が重要であってその製法は問わない。また複合糸のポリベンザゾール繊維の混合比率は、好ましくは10%以上90%以下、さらに好ましくは20%以上80%以下である。以上の方法で得られる複合糸は好ましくは綿番手7?80、さらに好ましくは10?60である。」(段落【0021】)

(4)対比・判断
刊行物1には、「ポリベンザゾール繊維と、耐炎性が付与されたセルロース系繊維との複合糸からなる耐熱、耐炎布帛。」について記載され(記載事項1-1)、複合糸についても記載されているから(記載事項1-3)、刊行物1には、
「ポリベンザゾール繊維と、耐炎性が付与されたセルロース系繊維との複合糸」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。
本願の請求項2に係る発明と、刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明において、複合糸のポリベンザゾール繊維の混合比率は特定されていないものの、「好ましくは10%以上90%以下」(記載事項1-3)とされており、また、刊行物1発明における複合糸も、従来品よりも耐熱に優れたものであるといえるから(記載事項1-2)、「高耐熱混紡糸」といえる。
すると両者は、
「10重量%以上90重量%以下のポリベンザゾール繊維を含有する、高耐熱混紡糸」である点で一致し、
(c)高耐熱混紡糸が、本願請求項2に係る発明においては、「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下であり、空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上30kgf/g以下である」と特定されているのに対し、刊行物1発明においては、このような特定はされていない点、
で相違する。

該相違点(c)を検討するに、本願の請求項2に係る発明や刊行物1発明と同様に高耐熱混紡糸について記載されている刊行物2においては、強熱減量率や空気中で加熱後の引張り強度について言及され、これらについての記載がある。
すなわち、本願の請求項2に係る発明とほぼ同様の製造方法によって製造された刊行物2の混紡糸または合撚糸の強熱減量(%)が800℃で0である(記載事項2-5、2-6)ことからすると、「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)が70%以下」という特定が、極めて希なものであるとは考えられず、この数値が格別のものであるとすることはできない。
また、「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S_(1))が4kgf/g以上」という特定について、刊行物2には、実施例-1に、「ステンレス鋼繊維とアルミナ.シリカ系セラミックバルク繊維を重量比で3:2の割合で均一に分散させ、太さ0.4mmの5回/in.程度で撚られた混合糸を得」、実施例-2に、「実施例-1で得た混紡糸4本を用いこれらに5回/in.の逆方向の撚りを与え一本の合撚糸を作り」、実施例-3に、「実施例-1,2で得た混紡糸及び合撚糸の特性を把握する為、熱影響により強度の変化、並びにJIS規格R 3450が規定する強熱減量試験を行った。その測定結果は第1表の通りであった」(記載事項2-5)とあり、実施例2(合撚糸)の引張り強度(kg)は、「常温で3.2、200℃で3.2、500℃で3.2、800℃で3.1(kg)」(記載事項2-6)とある。
そして、その結果、「耐熱性と強度、屈曲耐摩耗性を飛躍的に向上させ、その応用範囲を広げたものである。」(記載事項2-7)から、刊行物2に具体的に記載された引張り強度(記載事項2-6)よりも若干高い引張り強度を、その発明特定事項とすることに、格別の創意を要したものとすることはできない。
また、この「4kgf/g以上」という数値範囲についても、本願明細書の比較例においても達成されている強度であるから(本願明細書の表1)、この数値範囲が格別のものであるとすることもできない。
そうしてみると、これらの「空気中850℃で30分間加熱した際の強熱減量率(A)」の特定も、「空気中400℃で30分間加熱後の引張り強度(S1)」の特定も、高耐熱混紡糸が有すべき望ましい性状を、達成可能な範囲で特定したにすぎないものといえ、これらの値を特定範囲とすることは、刊行物1、2に記載された事項に基づいて当業者が適宜設定しうる程度のものである。
したがって、相違点(c)は、当業者が容易になし得る程度のことである。

また、本願の請求項2に係る発明の奏する効果も、刊行物1、2に記載された事項から、当業者が予測をしうる程度のものである。

さらに、本願の請求項1に係る発明は、請求項2に係る発明を包含していると認められるから、請求項2に係る発明と同様の理由で、請求項1に係る発明も、刊行物1、2に記載された事項に基づいて当業者が適宜設定しうる程度のものである。

したがって、本願の請求項1、2に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)結論
以上のとおり、本願の請求項1、2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-04 
結審通知日 2008-03-05 
審決日 2008-03-24 
出願番号 特願平8-30966
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D02G)
P 1 8・ 121- Z (D02G)
P 1 8・ 561- Z (D02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
発明の名称 高耐熱混紡糸  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ