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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D |
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管理番号 | 1177468 |
審判番号 | 不服2006-1618 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-01-26 |
確定日 | 2008-05-07 |
事件の表示 | 特願2001-265625「操舵力伝達系に切換機構を有するステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月12日出願公開、特開2003- 72560〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯と本願発明 本願は、平成13年9月3日の出願であって、原審において、平成18年1月11日付けで拒絶査定がなされたが、これを不服として、同年1月26日に本件審判請求がなされたものであり、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成17年12月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ステアリングハンドルにつながる駆動軸の、その端末部に設けられるものであって外歯歯車からなる駆動ギヤと、上記駆動軸と同一軸線上に設けられるもう一方側の回転軸である被駆動軸の、その端末部に設けられるものであって上記駆動ギヤと相対向するように、かつ、上記駆動ギヤと同一諸元を有するように形成される被駆動ギヤと、上記駆動ギヤ及び被駆動ギヤと噛合い係合する内歯歯車を有するとともに、その外周部にも外歯歯車を有し、更に、上記内歯歯車のところが上記駆動ギヤ及び被駆動ギヤの歯部のところをスライド移動するように形成されたスリーブと、当該スリーブが上記駆動ギヤとのみ噛合い係合状態にあるときに、スリーブ外側に設けられた外歯と噛合い係合するものであって上記駆動軸を保持するハウジングに固定された状態で取付けられる固定ギヤと、上記スリーブの外周部に設けられるものであって当該スリーブと相対回転運動が可能なように、かつ、上記スリーブを上記両軸の軸線方向へスライド移動させることが可能なように取付けられるフォークと、からなるとともに、上記被駆動ギヤの上記スリーブ内歯と噛合い係合をする、その歯筋方向先端部のところに所定のチャンファを設け、更に、当該被駆動ギヤと噛合い係合する側の上記スリーブ内歯の歯筋方向先端部のところにも所定のチャンファを設け、更に、上記スリーブの外歯のところであって固定ギヤと噛合い係合をする歯筋方向先端部のところ及び上記スリーブの外歯と噛合い係合する上記固定ギヤの歯筋方向先端部のところにも所定の形態からなるチャンファを設け、このような構成からなるものにおいて、上記スリーブ内歯の上記チャンファの設けられるところよりも歯筋方向の奥部のところに、当該奥部に向かって歯厚の値が小さくなるように形成された逆テーパ部を設けるようにしたことを特徴とする操舵力伝達系に切換機構を有するステアリング装置。」(以下「本願発明」という。) 2.引用刊行物とその記載事項 これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物であり、本願出願前に頒布された以下の刊行物には、次の事項が記載されている。 <引用刊行物> ・特開平10-230843号公報(以下「引用例1」という。) <引用刊行物の記載事項> 上記引用例1には、「ゴルフカート」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0028】手動操向と誘導による自動操向との切り換えはステアリングコラム6aの中途部に配された操向切り換えレバー25の操作に応じて行われる。 【0029】図3は操向切り換えレバー25及びこれによって操作されるクラッチK(継状態にある)の拡大断面図、図4はクラッチKが断状態の場合を示す動作説明図である。ステアリングコラム6a内にはステアリングホィール6に直結された上軸27と操向輪である前輪2,2に連繋された下軸28とが同心一直線上に配設され、且つ上軸27の下端に設けたスプライン軸部27a と下軸28の上端に設けたスプライン軸部28a が僅かな間隙を隔てて対向せしめられており、これら両スプライン軸部27a,28a にわたってクラッチ部材29を外嵌してある。クラッチ部材29は内周面に前記スプライン軸部27a,28a とスプライン結合するスプラインを形成した円筒形をなし、その外周壁には回り止め用のガイドピン29a 及び操作ピン29b を突設したリング29c がクラッチ部材29に対し相対回転可能に外嵌せしめられている。 【0030】ガイドピン29a はコラム6aの周壁にその軸長方向に穿ったガイド溝6bに係入させ、また操作ピン29b には操作レバー25に軸25a を介在させて連結したフォーク25b が係合せしめられている。ステアリングコラム6aの外周壁には前記ガイド溝6cの両端近傍に臨ませてマイクロスイッチMS1 , MS2 で構成された操向切り換えスイッチ11が設けられており、ガイドピン29a がガイド溝6cの上端末に移動したときはマイクロスイッチMS1 が、また他端末に移動したときはマイクロスイッチMS2 が夫々オンし、継状態, 断状態が検知され、その検知信号は操向制御部10へ与えられる。 【0031】操作レバー25及びフォーク25b はステアリングコラム6aの外周壁に設けた軸受部6cに軸支した軸25a に夫々端部を固定されており、操作レバー25を図3に示す位置から図4に示す位置に回動させると、フォーク25b はクラッチ部材29を両スプライン軸部27a,28a にわたって嵌合した継状態から支持筒6d及びスプライン軸部27a にわたって嵌合した断状態となり、且つこの断状態では上軸27及びステアリングホィール6を回り止めしたロック状態に保持するようにしてある。支持筒6dはクラッチKの近傍において前記上軸27を支持すべくステアリングコラム6aの内側にこれと同じ一体的に、即ち非回転の部材として配設されており、その外周面にはスプラインが形成されている。 【0032】前記クラッチ部材29が断位置にある場合にはステアリングホィール6の操作による前輪2,2の操向が不能となり、ステアリングモータM1 の回転に応じた操向のみが有効な誘導による自動操向状態となる。」 本願の図面をも参酌すると、上記記載事項から、引用例1には、次の発明が開示されていると認められる。 「ステアリングホィール6につながる上軸27の下端に設けられた外周面にスプラインが形成されたスプライン軸部27aと、上記上軸と同一軸線上に設けられるもう一方側の回転軸である下軸28の上端に上記スプライン軸部27aと相対向して設けられたスプライン軸部28aと、上記スプライン軸部27a及びスプライン軸部28aと噛合い係合するスプラインを内周面に有するとともに、当該内周面のスプラインが上記スプライン軸部27a及びスプライン軸部28aの上記外周面のスプライン上をスライド移動するように形成された円筒形のクラッチ部材29と、当該クラッチ部材29が上記スプライン軸部27aとのみ噛合い係合状態にあるときに上記内周面のスプラインと噛合い係合するスプラインを外周面に有し、上記上軸27を保持するステアリングコラム6aに固定された状態で取付けられる支持筒6dと、上記クラッチ部材29の外周部に外嵌せしめられ当該クラッチ部材29と相対回転運動が可能なリング29cと、当該リング29cに突設された操作ピン29bに係合することによって上記クラッチ部材29を上記両軸の軸線方向へスライド移動させることが可能なように取り付けられるフォーク25bとからなる操舵力伝達系に切換機構を有するステアリング装置」 (以下「引用発明」という。) 3.本願発明と引用発明の対比 本願発明と、上記引用発明とを対比すると、引用発明における「ステアリングホィール6」、「上軸27」、「スプライン軸部27a」、「下軸28」、「スプライン軸部28a」、「クラッチ部材29」、「ステアリングコラム6a」、「支持筒6d」は、それぞれ本願発明における「ステアリングハンドル」、「駆動軸」、「駆動ギヤ」、「被駆動軸」、「被駆動ギヤ」、「スリーブ」、「ハウジング」、「固定ギヤ」に相当する。そして、引用発明における各「スプライン」は軸方向に嵌合する歯部を意味するから、相互に噛合い係合することによって回転力を伝達する歯ないしは歯車である限りにおいて、本願発明における「歯」ないしは「歯車」に相当し、引用発明における「上軸27の下端」と「下軸28の上端」は、それぞれの「端末部」であることは明らかであるから、それぞれ本願発明の「駆動軸の端末部」、「被駆動軸の端末部」に相当する。 また、引用発明における「リング部27c」と「フォーク25b」は、操作ピン25bによって係合してクラッチ部材29を相対回転可能に、かつ上記両軸の軸線方向へスライド移動させるものであるから、本願発明における「フォーク」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明との一致点と相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「ステアリングハンドルにつながる駆動軸の、その端末部に設けられるものであって外歯歯車からなる駆動ギヤと、上記駆動軸と同一軸線上に設けられるもう一方側の回転軸である被駆動軸の、その端末部に設けられるものであって上記駆動ギヤと相対向する被駆動ギヤと、上記駆動ギヤ及び被駆動ギヤと噛合い係合する内歯歯車を有するとともに、上記内歯歯車のところが上記駆動ギヤ及び被駆動ギヤの歯部のところをスライド移動するように形成されたスリーブと、当該スリーブが上記駆動ギヤとのみ噛合い係合状態にあるときに、噛合い係合するものであって上記駆動軸を保持するハウジングに固定された状態で取付けられる固定ギヤと、上記スリーブの外周部に設けられるものであって当該スリーブと相対回転運動が可能なように、かつ、上記スリーブを上記両軸の軸線方向へスライド移動させることが可能なように取付けられるフォークと、からなる操舵力伝達系に切換機構を有するステアリング装置。」 <相違点> (A)本願発明では、被駆動ギヤが「駆動ギヤと同一諸元を有するように形成される」のに対して、引用発明では、スプライン軸部28a(被駆動ギヤ)の当該構成がどのようなものか不明である点。 (B)固定ギヤが、本願発明では、スリーブの外周部に設けられた外歯歯車の外歯と噛合い係合するのに対して、引用発明では、クラッチ部材29(スリーブ)の内周面に設けられた内歯歯車(スプライン)と噛合い係合している点。 (C)本願発明では、「上記被駆動ギヤの上記スリーブ内歯と噛合い係合をする、その歯筋方向先端部のところに所定のチャンファを設け、更に、当該被駆動ギヤと噛合い係合する側の上記スリーブ内歯の歯筋方向先端部のところにも所定のチャンファを設け、更に、上記スリーブの外歯のところであって固定ギヤと噛合い係合をする歯筋方向先端部のところ及び上記スリーブの外歯と噛合い係合する上記固定ギヤの歯筋方向先端部のところにも所定の形態からなるチャンファを設け、このような構成からなるものにおいて、上記スリーブ内歯の上記チャンファの設けられるところよりも歯筋方向の奥部のところに、当該奥部に向かって歯厚の値が小さくなるように形成された逆テーパ部を設けるようにした」のに対して、引用発明には、そのような構成がない点。 4.上記相違点についての当審の判断 上記各相違点について、以下に検討する。 (1)相違点Aについて 引用発明のスプライン軸部28a(被駆動ギヤ)とスプライン軸部27a(駆動ギヤ)とは、本願発明と同様に円筒形のクラッチ部材29a(スリーブ)内周面のスプライン(内歯歯車)に噛合い係合し、該クラッチ部材29aがスライド移動することで該スプラインがスプライン軸部28aとスプライン軸部27aの両者に噛合い係合するものであるから、噛合い係合するギヤのモジュールなどの諸元を同一にすることが当該技術分野において普通に行われている慣用手段にすぎないことに鑑みれば、上記相違点Aに係る本願発明の構成は、当業者であれば当然にそうするであろう技術常識に基づく設計的事項にすぎない。 (2)相違点Bについて 固定ギヤをスリーブの外歯で噛合い係合させるか、内歯で噛合い係合させるかは、固定ギヤをスリーブと同一中心軸線上に配置するか、異なる中心軸線上に配置するかによって決まる事項、すなわち固定ギヤをハウジングのどの位置に配置するかによって決まる事項であって、固定ギヤをハウジングのどこに配置するかは、ハウジングの形状やハウジングに収容される軸、その他のギヤなどの配置により、当業者が適宜決定し得る設計的事項であるから、上記相違点Bに係る本願発明の構成は、当業者の必要に応じて適宜決定し得た設計的事項にすぎない。 (3)相違点Cについて 変速機やクラッチなどに用いられる軸方向に相互に噛合い係合するギヤなどにおいて、その歯筋方向先端部のところに、噛合いを案内するチャンファを設け、当該チャンファの設けられるところよりも歯筋方向の奥部のところに、係合したギヤの抜け止めのために当該奥部に向かって歯厚の値が小さくなるように形成された逆テーパ部を設けることは周知の技術である(例えば特開2001-191142号公報、特開2001-20974号公報、特開平11-13878号公報等参照)。 そうすると、引用発明において上記相違点Bに係る設計的事項を施し、クラッチ部材29a(スリーブ)外周面にスプライン(外歯)を設けて、これと噛合い係合するように支持筒6d(固定ギヤ)を適宜配置し、その際に、相互に噛合い係合するスプライン軸部28b(被駆動ギヤ)、クラッチ部材29a(スリーブ)及び支持筒6d(固定ギヤ)の各スプライン(歯)における歯筋方向先端部のところに上記周知の噛合いの案内をするチャンファを形成し、スライドするクラッチ部材29a(スリーブ)内周面のスプライン(内歯)の上記チャンファが設けられるところよりも歯筋方向の奥部のところに、上記周知の抜け止めのための逆テーパ部を形成して、上記相違点Cに係る本願発明の構成としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、上記各相違点を組み合わせることによって本願発明が奏する作用効果も、上記引用発明及び上記周知の技術から予測される程度以上のものではない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-27 |
結審通知日 | 2008-03-04 |
審決日 | 2008-03-17 |
出願番号 | 特願2001-265625(P2001-265625) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B62D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西本 浩司 |
特許庁審判長 |
藤井 俊明 |
特許庁審判官 |
平瀬 知明 柴沼 雅樹 |
発明の名称 | 操舵力伝達系に切換機構を有するステアリング装置 |
代理人 | 小川 覚 |