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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1177480
審判番号 不服2006-9324  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-07 
確定日 2008-05-07 
事件の表示 平成10年特許願第291294号「電子線によるプラスチック改質方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 80181〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年9月7日の出願であって、平成17年6月23日付けで拒絶理由が通知され、平成17年9月2日付けで手続補正書と意見書が提出され、平成17年10月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成17年12月29日付けで手続補正書と意見書が提出され、平成18年2月22日付けで平成17年12月29日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされたところ、平成18年4月7日に審判請求がなされ、平成18年4月28日付けで手続補正書および審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成18年9月14日付けで前置報告がなされ、平成19年10月24日付けで審尋がなされ、平成19年12月27日付けで回答書が提出されたものである。

II.平成18年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
<結 論>
平成18年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理 由>
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、平成17年9月2日付けの手続補正書により補正された補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】プラスチックに、不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、1Gy乃至100kGyの電子線を照射して、前記プラスチックの硬度を、その表面から深くなるに従い硬度向上が小さくなるようにして内部まで高めたことを特徴とする電子線によるプラスチック改質方法。
【請求項2】プラスチックに、不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、電子線をその加速エネルギーを100KeV乃至5MeVの範囲で選択して照射することにより前記プラスチック内部にその表面から深くなるに従い硬度向上が変化する硬度分布を与えたことを特徴とする電子線によるプラスチック改質方法。」

「【請求項1】プラスチックに、不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる所定の高温状態で、1Gy乃至100kGyの電子線を、その加速エネルギーを100KeV乃至5MeVの範囲で選択して照射することにより、前記プラスチックの内部に、深くなるに従い硬度向上が小さくなる硬度勾配を付与させるとともに、その硬度勾配付与の深さを選定できることを特徴とする電子線によるプラスチック改質方法。」
と補正するものであり、以下の補正事項を含むものである。
補正事項a :補正前の請求項1あるいは請求項2のいずれかの請求項を削除する補正。
補正事項b :補正前の請求項1あるいは請求項2における「高温状態」を「所定の高温状態」とする補正。
補正事項c :請求項1が削除された場合に電子線が「1Gy乃至100kGy」の線量であることを、あるいは、請求項2が削除された場合に加速エネルギーが「100KeV乃至5MeV」であることを追加する補正。
補正事項d :補正前の請求項1の「前記プラスチックの硬度を、その表面から深くなるに従い硬度向上が小さくなるようにして内部まで高めた」との記載あるいは補正前の請求項2の「前記プラスチック内部にその表面から深くなるに従い硬度向上が変化する硬度分布を与えた」との記載を、「前記プラスチックの内部に、深くなるに従い硬度向上が小さくなる硬度勾配を付与させる」とする補正。
補正事項e :「硬度勾配付与の深さを選定できる」との事項を発明を特定するために必要な事項〔以下、「発明特定事項」という。〕として追加する補正。
なお、補正前の特許請求の範囲の請求項2における「100KV」は「100KeV」の誤記であることが明らかであるから、当審においてそのように認定した。

2.本件補正の目的およびその適否
本件補正における補正事項aは、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的としている。
補正事項bは、高温が特定の範囲であることを限定したものであり、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮〔いわゆる限定的減縮〕を目的としたものである。
補正事項cに係る電子線の線量あるいは加速エネルギーは、それぞれ、補正前の請求項1あるいは請求項2の一方のみに記載があり、両請求項は引用関係にないから、補正事項cは各請求項における発明特定事項を限定したものとはいえず、そして、請求項の削除、誤記の訂正、不明りょうな記載の釈明を目的とするものでもない。
補正事項dは、理解しやすいように表現を改めたものであり、同法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。
補正事項eは、補正前の請求項1,2のいずれにも「硬度勾配の深さを選定できる」との事項に関連した記載がないので、補正前の請求項に記載した発明特定事項を限定したものとはいえず、また、明りょうでない記載の釈明をしたものとも認めることはできない。そして、補正事項eが、請求項の削除、誤記の訂正を目的としないことは明らかである。
なお、補正事項eについて、審判請求人は回答書において、電子線照射条件を選定することは硬度勾配付与の深さを選定できることを意味し、当該補正は限定的減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当すると主張する。しかし、電子線照射条件の選定が硬度勾配付与の深さの選定を必然的に意味するのであれば、当該補正事項eは、補正前の請求項1,2に係る発明を概念的に下位のものに限定するものではないから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮〔いわゆる限定的減縮〕に該当しないし、また、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものでもなく、何かを明りょうにするものでもないから、同法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明にも該当しないので、上記主張は採用できない。
したがって、補正事項c、eを含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
上記IIに記載したとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明〔以下、「本願発明1」?「本願発明2」という。〕は、平成17年9月2日付け手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。

IV.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶査定の理由とされた平成17年10月25日付けで通知された拒絶理由のうち、理由1の概要は次のとおりである。
「理由1:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1及び2
・引用文献等1
・備考
請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明(【請求項1】、【請求項2】及び段落【0006】)と同一のものである。

・請求項1
・引用文献等2
・備考
請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明(【請求項3】及び段落【0006】)と同一のものである。

・請求項1及び2
・引用文献等3
請求項1及び2に係る発明は、引用文献3に記載された発明(【請求項3】及び段落【0013】?【0016】)と同一のものである。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平08-059862号公報
2.特開平07-173402号公報
3.特開平06-211992号公報 」

V.刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

A.刊行物1(引用文献1:特開平8-59862号公報)
A-1 「【請求項1】 プラスチックに、空気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、放射線照射して硬度を高めたことを特徴とする放射線によるプラスチックの改質方法。
【請求項2】 上記放射線照射の放射線線量が1Gy乃至5MGyであることを特徴とする請求項1記載の放射線によるプラスチックの改質方法。」 〔特許請求の範囲〕
A-2 「【0006】この発明で用いられるプラスチックとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂、フッソ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、スチロール樹脂等の溶解温度が80℃乃至500℃好ましくは80℃乃至350℃の熱可塑性樹脂が例示されるがこれに限定されることはなく、ポリマ-アロイ化した樹脂、硬さを高めるためにプラスチック本来の特徴を失わない程度に複合化した樹脂、又は硬度の向上以外の目的、例えば収縮率の改良等のために複合化した樹脂でもよく、またエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂でもよい。また、この発明で用いられる放射線としては、X線、コバルト60などによるγ線、電子線、中性子線あるいは陽子線やα線などの重粒子線、またはイオン加速器からの加速されたイオンが例示される。また、この発明の放射線照射の放射線線量は1Gy乃至5MGyの範囲であり、好ましくは0.1KGy乃至5MGyの範囲である。また、プラスチックは、その熱酸化または放射線酸化を防止するために真空中、またはアルゴンガスやヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気中において、そのプラスチックの溶融点以下の高温状態で、放射線を照射することが好ましく、放射線はコバルト60によるγ線または電子線加速器からの0.5MeV乃至5MeVの電子線が実用的である。
【0007】
【作用】プラスチックは放射線の照射により高分子鎖が切断する場合と高分子間で新たな結合が形成される所謂架橋する場合があり、これらの化学的反応は放射線で生成された反応活性種によって発生する。この場合、照射時の温度がプラスチックの容融温度以下の高温であるため、化学的反応速度が加速され、プラスチックの形態が殆ど変化することなく高分子鎖間で結合が形成され、比較的少ない放射線量で硬さが高められる。また照射時の温度が高温であるため、室温程度の低温においては高分子鎖の切断が優先するプラスチックであっても架橋反応が行われ硬度の向上を図ることができる。」〔段落【0006】?【0007】〕
A-3 「【0008】
【実施例】・・・実施例2として、ポリサルフォン樹脂をシート状に成形したものを、真空中において150℃に加熱し、コバルト60によるγ線を線量率5KGy/hの条件で10KGyまで照射した。照射後室温でロックウエル硬度を調べたところ図2の実線グラフの通りであった。同図のように硬度は線量の増加に伴い次第に上昇し、3KGyで最大の83になり、それ以上の線量では低下傾向を示した。このように本実施例においては、化学的反応速度が加速され、プラスチックの形態が変化することなく高分子鎖間で結合が形成され、比較的少ない放射線量で硬さが高められた。また実施例3として、実施例2と同じ試料をヘリウムガス雰囲気中で150℃に加熱し、電子線加速により2MeVの電子線を線量率0.1KGy/sで10秒から100秒の照射を行ったところ図2のグラフと略同じ結果であった。なお本発明は上記実施例に限定されるものではなく本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。」〔段落【0008】〕

VI.当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の特許請求の範囲の請求項1?2には、
「【請求項1】 プラスチックに、空気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、放射線照射して硬度を高めたことを特徴とする放射線によるプラスチックの改質方法。
【請求項2】 上記放射線照射の放射線線量が1Gy乃至5MGyであることを特徴とする請求項1記載の放射線によるプラスチックの改質方法。」
が記載されており〔摘示事項(A-1)〕、放射線としては、コバルト60によるγ線または電子線加速器からの0.5MeV乃至5MeVの電子線が実用的であるとされ〔摘示事項(A-2)〕、実施例において電子線を用いた例も開示されている〔摘示事項(A-3)〕。
そうすると、刊行物1には、
「プラスチックに、空気中又は不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、電子線線量が1Gy乃至5MGyで、電子線加速器からの0.5MeV乃至5MeVの電子線を照射して、硬度を高めたことを特徴とする電子線によるプラスチックの改質方法。」の発明〔以下、「刊行物1発明」という。〕が記載されているといえる。

2.対比・判断
本願発明1と刊行物1発明とを比較すると、両発明は
「プラスチックに、不活性ガス雰囲気中又は真空中においてプラスチックが固体を保持できる高温状態で、1Gy乃至100kGyの電子線を照射して、前記プラスチックの硬度を高めたことを特徴とする電子線によるプラスチック改質方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違している。
相違点: プラスチックの硬度を高める点について、本願発明1では、その表面から深くなるに従い硬度向上が小さくなるようにして内部まで硬度を高めたと特定するのに対し、刊行物1発明ではそのような特定はない点。
上記相違点について検討する。
相違点における「表面から深くなるに従い硬度向上が小さくなる」とは深さ方向に硬度分布(硬度勾配)が生じることを意味する。そして、本願明細書の段落【0005】に、特定範囲の加速エネルギーを選択して照射することによりプラスチックの内部に硬度分布が付与される旨が記載されているところ、本願発明1では具体的に電子線の加速エネルギーを100KeV?5MeVの範囲で照射しており〔本願明細書【0006】、実施例〕、この加速エネルギーの範囲は刊行物1発明の範囲と重複するから〔摘示事項(A-2)〕、刊行物1発明も自ずとプラスチック内部に硬度分布が生ずるものといえ、両発明はこの点において実質的に相違するものではない。
なお、審判請求人は、意見書、審判請求書および回答書において、本願発
明は、プラスチック内部までの硬度向上、硬度勾配の付与に電子線が有用であることに着眼しており、この着眼点について引用文献には記載も示唆もないので、発明として相違すると主張する。しかし、審判請求人は、プラスチックに特定範囲の電子線照射して硬度を付与すると、深さ方向に硬度勾配が生じることを単に発見したに過ぎず、これはプラスチックに電子線を照射すれば必然的に生じるものであるから、本願発明1が該着眼点を記載したことにより、刊行物1発明と区別されるものではない。さらに、審判請求人は、この着眼点についての公知の資料の提示を求めているが、その必要を認めない〔なお、プラスチックに電子線照射することにより硬度勾配を生じる点は、特開平10-158413号公報に記載されているので参考にされたい。〕。
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできず、本願発明1についてした原査定の結論は妥当である。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
そして、本願発明2について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-26 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願平10-291294
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 福井 美穂
野村 康秀
発明の名称 電子線によるプラスチック改質方法  

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