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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1177490
審判番号 不服2006-20792  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-19 
確定日 2008-05-07 
事件の表示 平成10年特許願第 5824号「円すいころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月27日出願公開、特開平11-201172〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年1月14日の出願であって、平成18年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年9月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年10月19日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成18年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年10月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、平成18年4月27日付けの手続補正にて補正された特許請求の範囲における
「【請求項1】 円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、
上記構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が120cst以上である防錆潤滑油が塗布され、上記内輪の小鍔面が上記円すいころの小端面と平行な面であり、かつ、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δがδ≦0.4mmに規制されていることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】 自動車の歯車装置における回転軸の支持用に用いられる請求項1記載の円すいころ軸受。
【請求項3】 ケーシングに組み込まれた回転軸を、円すいころ軸受でケーシングに対して回転自在に支持する自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法であって、
上記円すいころ軸受が、円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、
この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、
上記内輪の小鍔面を上記円すいころの小端面と平行な面に形成すると共に、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δをδ≦0.4mmに規制し、上記円すいころ軸受の構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が120cst以上である防錆潤滑油が塗布された状態で、上記回転軸および円すいころ軸受を所要回数回転させて馴らし運転を行った後、上記円すいころ軸受に所定の予圧を付与することを特徴とする自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法。
【請求項4】 上記ケーシングがデファレンシャルケースであり、上記回転軸が、その前端部にプロペラシャフトが連結され、その後端部にリンクギヤと歯合するドライブピニオンギヤが設けられたドライブピニオン軸であることを特徴とする請求項3記載の自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法。」

の記載を、

「【請求項1】 円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、
上記構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油が塗布され、上記内輪の小鍔面が上記円すいころの小端面と平行な面であり、かつ、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δがδ≦0.4mmに規制されていることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】 自動車の歯車装置における回転軸の支持用に用いられる請求項1記載
の円すいころ軸受。
【請求項3】 ケーシングに組み込まれた回転軸を、円すいころ軸受でケーシングに対して回転自在に支持する自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法であって、
上記円すいころ軸受が、円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、
上記内輪の小鍔面を上記円すいころの小端面と平行な面に形成すると共に、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δをδ≦0.4mmに規制し、上記円すいころ軸受の構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油が塗布された状態で、上記回転軸および円すいころ軸受を所要回数回転させて馴らし運転を行った後、上記円すいころ軸受に所定の予圧を付与することを特徴とする自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法。
【請求項4】 上記ケーシングがデファレンシャルケースであり、上記回転軸が、その前端部にプロペラシャフトが連結され、その後端部にリンクギヤと歯合するドライブピニオンギヤが設けられたドライブピニオン軸であることを特徴とする請求項3記載の自動車の歯車装置における円すいころ軸受の予圧設定方法。」
と補正しようとする内容を含むものである。下線部は、対比の便のため当審において付したものである。

(2)補正の適否
本件補正による補正後の請求項1及び請求項3は、本件補正前の請求項1及び請求項3に記載されていた「20°Cにおける動粘度が120cst以上である防錆潤滑油」を、願書に最初に添付した明細書の段落【0016】、【0020】、図9及び図10に基づいて、「20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油」と防錆潤滑油の20°Cにおける動粘度に係る限定を付加するものである。
したがって、本件補正は、新規事項を新たに追加するものではなく、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平2-256921号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「円すいころ軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

イ.「本発明の円すいころ軸受は何れも、テーパ状の内方軌道を有する外輪と、テーパ状の外方軌道を有し、この外方軌道の小径側端部に小鍔部を、大径側端部に大鍔部をそれぞれ形成した内輪と、保持器によって上記内方軌道と外方軌道との間に保持案内される複数の円すいころとから構成されている。
そして、本発明の円すいころ軸受の内、請求項1に記載されたものに於いては、円すいころを内輪の外方軌道上の正規位置に配列し、且つ各円すいころの尾部側と小鍔部とを接触させた場合に各円すいころの頭部側端面と大鍔部との間に形成される隙間の寸法Δlを、0.2mm以下としている。」(第3頁左上欄第2-15行参照)

ロ.「本発明の円すいころ軸受の場合、円すいころの頭部側端面と大鍔部との間に形成される隙間の寸法Δlを小さくしている為、この円すいころ軸受をハウジングと軸との間等に組み付けた後、ころの頭部側端面と大鍔部とを当接させる迄に要する馴染み運転が短いもので済み、円すいころ軸受に十分な予圧を付与する作業が容易になる。」(第3頁右上欄第10-17行参照)

ハ.「請求項1に記載された発明の場合、上記隙間12の寸法Δlを0.2mm以下(Δl≦0.2mm)としている。これに対して、従来の円すいころ軸受の場合、上記隙間12の寸法Δlは0.4?0.6mm程度であった。」(第3頁右下欄第5-9行参照)

これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「テーパ状の内方軌道を有する外輪と、テーパ状の外方軌道を有し、この外方軌道の小径側端部に小鍔部を、大径側端部に大鍔部をそれぞれ形成した内輪と、保持器によって上記内方軌道と外方軌道との間に保持案内される複数の円すいころとから構成され、円すいころを内輪の外方軌道上の正規位置に配列し、且つ各円すいころの尾部側と小鍔部とを接触させた場合に各円すいころの頭部側端面と大鍔部との間に形成される隙間の寸法Δlを0.2mm以下としている円すいころ軸受。」

次に、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平9-273548号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「自動車用円すいころ軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ニ.「この様な馴染み運転に要する手間を軽減する為の発明が、特開平2-256921号公報に記載されている。この公報に記載された発明(以下「従前発明」とする。)は、図5に示す様に、円すいころ3を内輪2外周面の内輪軌道5上の正規位置に配列し、且つ各円すいころ3の尾部側端面と小鍔部6の内側面6aとを接触させた場合に各円すいころ3の頭部側端面と大鍔部7の内側面7aとの間に形成される、隙間13の寸法△Lを規制している。即ち、上記従前発明の場合、上記隙間13の寸法△Lを0.2mm以下(△L≦0.2mm)としている。
この様に、上記隙間13の寸法△Lを0.2mm以下とした場合には、上記公報の記載から明らかな通り、馴染み運転に伴なう内輪2の変位量が少なく、しかも早期に安定状態(各円すいころ3、3の頭部側端面と大鍔部7の内側面7aとが当接し、それ以上内輪2が変位しない状態)に達する。従って、上記馴染み運転に要する手間が低減し、円すいころ軸受3を組み込んだ自動車のギヤボックス等の回転機械装置のコスト低減に寄与できる。」(第2頁第2欄第40行-第3頁第3欄第9行,段落【0007】、【0008】参照)

ホ.「隙間13の寸法△Lを0.2mm以下にすれば、馴染み運転を簡略化する事によりコスト低減を図れるが、反面、△Lを小さな値に規制する為の加工精度の管理が面倒になり、円錐ころ軸受9自体のコストが嵩む。この為、ギヤボックスのコストを十分に低減する事が難しくなる。本発明は、従前発明に関連して更に実験を積み重ね、図4に示した様に組み立てた円すいころ軸受9の馴染み運転を行なった場合に於ける各円すいころ3、3の挙動を観察する事により、上記△Lを上記従前発明の場合よりも大きくしても、この従前発明の場合と同様に馴染み運転を簡略化できる技術を開発したものである。・・・・・・
本発明の自動車用円すいころ軸受に於いては、上記複数の円すいころを内輪の内輪軌道上の正規位置に配列し、且つ各円すいころの尾部側端面と上記小鍔部の内側面とを接触させた場合に各円すいころの頭部側端面と大鍔部の内側面との間に形成される隙間の寸法△Lの最小値を0.3mm以下とすると共に、上記複数の円すいころの長さの最大値と最小値との差を0.15mm以下としている。尚、好ましくはこの差を0.1mm以下にする。」(第3頁第3欄第11-40行,段落【0009】-【0011】参照)

また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平10-9257号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「円錐ころ軸受およびその予圧付与方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ヘ.「円錐ころ軸受を使用対象に組み込んで、予圧を付与する前に、所要のアキシャル荷重をかけた状態で円錐ころ軸受の内・外輪を相対回転させるという、いわゆる馴染み運転を行うことにより、円錐ころ軸受の各構成要素の相対位置関係を適正化して、円錐ころの大端面と内輪の大鍔部との間の隙間を無くすこと(いわゆる沈み込み)が行われている。この後に、予圧を付与するのである。
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述した馴染み運転は、十分に注意して行う必要があって時間がかかるなど、面倒であることが指摘される。
これに対して、この馴染み運転を短縮するかあるいは廃止するためには、円錐ころ軸受の各構成要素の製造公差を可及的に小さくし、円錐ころ軸受を組み立てるだけで、円錐ころの大端面と内輪の大鍔部との間の隙間を可及的に小さくできるように管理することが考えられている(例えば特開平2-256921号公報参照)。
しかしながら、このような対策は、製造メーカーにおいて、高精度な加工が行えるような設備を必要とするなど、多大な設備投資といった負担を強いられ、軸受価格の高騰を余儀なくされることが指摘される。・・・・・・
さらに、実際に軸受の潤滑油として使用するギヤオイルなどの高粘度オイルを内・外輪の軌道に塗布しておいて馴染み運転を行うことによって馴染み運転を短縮することも考えられている・・・・・・
本発明は、円錐ころ軸受において、価格高騰をもたらすことなくまた取り扱い性を向上できるようにしながら、馴染み運転を短縮できるようにすることを目的としている。」(第2頁第2欄第26行-第3頁第3欄第24行、段落【0006】乃至【0013】参照)

ト.「本発明の第1の円錐ころ軸受の予圧付与方法は、油潤滑とされる円錐ころ軸受の予圧付与方法であって、円錐ころ軸受の円錐ころまたは内・外輪の軌道面の少なくとも一方に、・・・・・・網状構造の含ふっ素ポリウレタン高分子化合物の固体状の潤滑膜を形成する工程と、円錐ころ軸受の円錐ころおよび内・外輪を各々ハウジング及び軸に組み込む工程と、円錐ころ軸受に所要のアキシャル荷重をかけた状態で円錐ころ軸受の内・外輪を相対回転させ、円錐ころ軸受の円錐ころおよび内・外輪の相対位置関係を適正化して、円錐ころの大端面と内輪の大鍔部との間の隙間を無くす馴染み運転工程と、円錐ころ軸受に所定の予圧を付与する工程とを有する。・・・・・・
上記本発明では、要するに、潤滑性が格段に優れていて摩擦抵抗の小さな潤滑膜を形成しているから、各構成要素の組み立て後にほんの少し回転させるだけで、円錐ころの大端面と内輪の大鍔部との間の隙間を無くすよう、円錐ころと内輪とが円滑に軸方向で相対変位するようになる(いわゆる沈み込み)。」(第3頁第3欄第41行-第4欄第23行、段落【0017】乃至【0019】参照)

そして、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平7-119749号公報(以下、「刊行物4」という。)には、「玉軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

チ.「特に、本発明の玉軸受に於いては、上記保持器は、40℃での粘度が10?150mm^(2)/s (=cSt 、同じ数値で表わされるISO VGの中央値)の潤滑油を、保持器の重量に対して0.1?1.0重量%含浸させたものであり、上記外輪と内輪と玉と保持器との表面には、膜厚が0.03?20μmである、潤滑油の膜が形成されている。
そして、上記各潤滑油は、リン酸エステル、脂肪酸、高級アルコール、アミン、有機モリブデンの中から選択された1種又は2種以上の油性剤を0.5?10重量%、カルシウムスルフォネート、バリウムスルフォネートの単体若しくは混合物である防錆剤を2?10重量%、それぞれ潤滑油全体に対する割合として含むものである。
【作用】上述の様に構成される本発明の玉軸受の場合、回転に要するトルク、そのトルク変動、発塵量、軸受音響の何れもが小さくなる。しかも、使用開始初期段階に於いては、外輪、内輪、玉、保持器の表面に形成された潤滑油の膜により、各部材同士の接触面の潤滑が良好に行なわれ、」(第2頁第2欄第44行-第3頁第3欄第14行、段落【0011】乃至【0013】参照)

それから、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平7-179879号公報(以下、「刊行物5」という。)には、「防錆潤滑油及びその防錆潤滑油が塗布された玉軸受」に関し、次の事項が記載されている。

リ.「従来の防錆潤滑油は、潤滑性に主眼がおかれているため、鉱物油、さび止め剤および酸化防止剤からなる混合物が使用されており、粘度が120?500mm^(2) ・S^(-1)/40℃程度のものが一般的である。この種の防錆潤滑油は、その使用目的によって使い分けられている」(第2頁第1欄第17-22行、段落【0002】参照)

そして、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開昭50-20154号公報(以下、「刊行物6」という。)には、「テーパーローラー軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ヌ.「この軸受は、第1図に示されるように、テーパーローラー(A)の小端面側でもスラスト荷重が受けられるように、テーパーローラー(A)の小端面と、これに接触させる内輪(B)の小鍔面(C)を共に研削により平面仕上げされ、組み合せたとき、テーパーローラー(A)の小端面と前記小鍔面とは平行になるようにされている。」(第1頁右欄第12行-第2頁左上欄第3行参照)

さらに、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である実願昭53-174984号(実開昭55-93724号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物7」という。)には、「円すいころ軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ル.「第2図において、円すいころ軸受の内輪(11)と外輪(12)の間に図示しない保持器に保持されて多数の円すいころ(13)が装入されている。内輪(11)には小つばを廃し、代りに四弗化エチレン等の如く自己潤滑性を有する弾性体からなるリング(14)がしまりばめにより嵌着されていて、ころ(13)の小端面(15)に摺接し」(第2頁第16行-第3頁第2行参照)

(4)対比・判断
本件補正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「テーパ状」は、本件補正発明1の「円すい状」に相当する。
したがって、本件補正発明1と刊行物1記載の発明とは、本件補正発明1の用語に倣えば、

「円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備えていることを特徴とする円すいころ軸受。」

である点で一致し、次の2点で相違する。

相違点A
本件補正発明1は、構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油が塗布されているのに対し、刊行物1記載の発明には防錆潤滑油に関する特定がない点。

相違点B
本件補正発明1は、内輪の小鍔面が円すいころの小端面と平行な面であり、かつ、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δがδ≦0.4mmに規制されているのに対し、刊行物1記載の発明は、内輪の小鍔面と円すいころの小端面との関係に関し、特段の特定がなく、また、円すいころの尾部側と小鍔部とを接触させた場合に各円すいころの頭部側端面と大鍔部との間に形成される隙間の寸法Δlを、0.2mm以下としている点。

そして、これらの相違点について検討する。
相違点Aについて検討するに、刊行物4には、40℃での動粘度が10?150cStの防錆剤を含む潤滑油が記載され、刊行物5には従来の防錆潤滑油は潤滑性に主眼がおかれた動粘度120?500cStのものが一般的であることが記載されている。そして、潤滑油の20℃の動粘度は40℃のそれよりも高くなることは当業者であれば容易に理解し得ることを踏まえれば、20℃での動粘度が128cSt以上の防錆潤滑油は従来周知の技術と解される。また、刊行物3には、円すいころ軸受において、円すいころと軌道面との間の潤滑性を格段に優れたものとし、馴染み運転を短縮すること、及び潤滑性を優れたものとするために、高粘度オイルを摩擦を生じる面に塗布するという考え方があったことが技術事項として記載されている。そして、本願の明細書の発明の詳細な説明、特に段落【0017】、【0033】を図面、特に図9、10と併せみても、図9、図10からは防錆潤滑油の20℃における動粘度が増加するにつれて落ち着き回数は単純に減少し、油膜厚さは単に増加することが見受けられるものの、128cstの動粘度の前後で落ち着き回数或いは油膜厚さが顕著に変化しているとはいえず、これらの記載からは、本件補正発明1における防錆潤滑油の20℃における動粘度の値の特定に、動粘度の増加に応じて上述の変化をする落ち着き回数、油膜厚さを踏まえ、これらが良好な結果を示すものを選択するという、当業者が日常の設計活動の範囲内で適宜行う事項以上に格別な技術的意義或いは臨界的意義を見出すことはできない。そうすると、上記従来周知の技術及び刊行物3に記載された技術事項を知り得た当業者であれば、刊行物1記載の発明に対し、刊行物3に記載された技術事項を考慮しつつ上記従来周知の技術を採用し、相違点Aに係る本件補正発明1の構成とすることは、容易になし得るものである。

相違点Bについて検討するに、刊行物6には、円錐ころ軸受における内輪の小鍔面と円すいころの小端面とを平行にするという技術事項が記載され、刊行物7には、円すいころの小端面と弾性体からなるリングを摺接させること、すなわち円すいころの小端面と小端面に対向するリングの面を平行にするという技術事項が記載されている。これら記載に鑑みれば、円すいころ軸受において、円すいころの小端面とそれに対向する小鍔部等の面を平行とすることは従来周知の技術と解される。また、刊行物1記載の発明は、円すいころの尾部側と小鍔部とを接触させた場合に各円すいころの頭部側端面と大鍔部との間に形成される隙間の寸法Δlを、0.2mm以下としているが、刊行物1記載の発明も馴染み運転及び予圧後は頭部側端面と大鍔部に接触するものであり、該接触後においては、円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間に隙間が発生し、その際の隙間の寸法はΔlと概略一致することは、当業者であれば容易に理解しうる事項である。そして、Δlは0.2mm以下であって、本件補正発明1で特定されるδ≦0.4mmに包含されるものである。そうすれば刊行物1記載の発明及び刊行物6及び刊行物7にも記載された従来周知の技術に基づいて相違点Bに係る本件補正発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。

また、本件補正発明1の奏する作用効果も、刊行物1に記載された発明、刊行物3に記載された技術事項及び従来周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本件補正発明1は、刊行物1及び刊行物3に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
そして、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものである以上、本件補正後の請求項2ないし4に係る発明を検討するまでもなく、本件補正は却下すべきものである。

なお、請求人は、平成18年11月27日付けで補正した審判請求書において、「(1)本願発明における防錆潤滑油は、防錆能力を備えていると共に、20°Cにおける動粘度が128cst以上であることにより良好な潤滑性能を兼ね備えたものである。そして、この防錆潤滑油を、円すいころ軸受の構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に塗布することにより、該表面の発錆を防止することができると同時に、円すいころ軸受の慣らし運転時間を短縮して、予圧設定作業を効率化することができる。
図9の試験結果に示されているように、20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油を用いることによって、軸受の落ち着き回数を大きく低減させることができる。また、図10に示す試験結果によれば、油の動粘度が128cst以上になると、円すいころ軸受の接触部における油膜の厚さが顕著に増大する傾向が認められ、このことが軸受の落ち着き回数を大きく低減することに繋がっている。
(2)また、内輪の小鍔面を円すいころの小端面と平行な面に形成することにより、円すいころの小端面側の面取り寸法・形状のばらつきに起因した隙間δのばらつきをなくすことができる。
(3)上記の(1)、(2)により、隙間δの管理基準値をδ≦0.4mmと比較的大きく設定できるので、加工コスト及び管理コストの低減の点で有利である。」(「1.C.本願発明の特徴」参照)と主張し、また「引用例3は、ユーザーの軸受組み込み時の使い勝手を良好にするために、防錆油に代えて潤滑膜を使用することを開示したものである。従って、引用例3は、引用例4に記載された潤滑油を引用例1、2に記載された円すいころ軸受に適用することの動機付けを与えるものではない。
また、引用例4は、ハードディスクドライブ(HDD)やレーザビームプリンタ等の情報機器の回転支持部分に組み込まれる玉軸受において、耐久性確保、トルク低減、トルク変動の低減、発塵量及び音響の低減を図るために、合成樹脂製の保持器に、40°Cでの粘度が10?150mm^(2)/sの潤滑油を含浸させると共に、構成部品の表面に潤滑膜を形成し、軸受使用開始初期段階においては、構成部品の表面に形成した潤滑油の膜で潤滑を行い、軸受の使用開始後、ある程度時間が経過した後においては、保持器から染み出した潤滑油によって潤滑を行うようにしたものである。すなわち、引用例4の潤滑油は、軸受使用時の潤滑を行うものであり、円すいころ軸受の馴染み運転時の落ち着き回数を低減するために用いられる本願発明の防錆潤滑油とは異なるものである。
さらに、周知技術文献(特開平9-210069号公報、実開昭56-12129号公報)の図面では、内輪の小鍔面が円すいころの小端面と平行になっているようにも見えるが、これらの図面は設計図面という性質のものではなく、また、明細書中には当該術事項に関して全く記載がない。一般に、円すいころ軸受においては、軸受使用時、内輪の小鍔面は円すいころの接触案内は行わないので(内輪の大鍔面で円すいころの大端面を接触案内する。)、本願発明のように特別な目的を有しない限り、内輪の小鍔面を円すいころの小端面と平行な面となるように加工を施す必要はない。
従って、本願の請求項1に係る発明は、引用例1ないし4に記載されたもの及び上記周知技術文献から当業者が容易に想到し得たものではない。」(3.「本願発明と引用例に記載された発明との対比」参照)と主張している。
しかしながら、上述の如く、20°Cにおける動粘度が128cst以上の防錆潤滑油は従来周知のものであり、また、刊行物3には、円すいころ軸受の円すいころまたは内、外輪の軌道面すなわち少なくとも摩擦を生じる面の潤滑性を優れたものとし、よって馴染み運転を短縮できるようにすること、そして、馴染み運転の短縮は高粘度オイルを塗布し行うことも考えられることが記載されている。そして、本願の図9及び図10、特に図10をみると、一見128cstを境に急激な変化をしている様にも見えるが、図9、図10の横軸をみると、動粘度が66と128、128と330、330と439の間隔は一般的には異なる間隔になると解されるところ、これが等間隔とされ、この間隔に基づいて落ち着き回数、油膜厚さの値に応じた点が図に記録されているためであり、各動粘度間における落ち着き回数、油膜厚さの変化率をとると、20℃における動粘度が128cst以上となったときに図9、図10の如き急激な変化を示すものとは解されないものである。そうすると、20℃における動粘度の下限を128cstと特定することに格別な技術的意義、臨界的意義を見出すことができないことは上述のとおりである。これらのことに鑑みれば、刊行物1記載の発明に対し、刊行物3に記載された事項を考慮しつつ、従来周知の20°Cにおける動粘度が128cst以上の防錆潤滑油を採用することに格別な想到困難性を見出すことはできない。
また、「隙間δの管理基準値をδ≦0.4mmと比較的大きく設定できる」点について、本願明細書の発明の詳細な説明、特に段落【0013】乃至【0016】には、隙間δが0.2mm、0.25mm、0.3mm、0.4mmの場合の落ち着き回数を調べ、0.4mmでも結果が良好であると指摘するのにとどまり、0.4mmという隙間δが従来用いられてきた隙間との比較により大きいかどうかまでは明確ではないことから、当該主張は本願明細書の発明の詳細な説明と整合したものとはいえない。そして、本願明細書の記載に基づけば、刊行物1記載の発明の隙間は0.2mm以下であることから、刊行物1記載の発明は、本件補正発明1で特定された隙間δに関する特定を満たすものと解される。また、仮に請求人の主張と本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が整合していたとしても、刊行物2には、このような隙間を従来の0.2mm以下から大きくできるという技術事項が記載されており、そして、本願の発明の詳細な説明、特に上述の段落【0013】乃至【0016】をみても、隙間δが0.4mmより大としたときの落ち着き回数が明確ではなく、上限を0.4mmとすることの技術的意義、臨界的意義が明らかでないことに鑑みれば、刊行物1記載の発明に対し、刊行物2に記載された技術事項を適用することにより当業者であれば容易に想到しうるといえるものである。
さらに、内輪の小鍔面と円すいころの小端面を平行な面とすることに関し、例示された拒絶査定時の刊行物が請求人の主張通りであったとしても、この点は上記刊行物6、7にも記載されているものであって、これが従来周知の技術であることに誤りはない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

3.本願発明について
平成18年10月19日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下の通りものと認める。
「【請求項1】 円すい状の軌道面を有する外輪と、円すい状の軌道面を有し、この軌道面の小径側に小鍔面、大径側に大鍔面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、
上記構成部品の少なくとも摩擦を生じる表面に、20°Cにおける動粘度が120cst以上である防錆潤滑油が塗布され、上記内輪の小鍔面が上記円すいころの小端面と平行な面であり、かつ、上記円すいころの大端面を上記内輪の大鍔面に接触させた時の、上記円すいころの小端面と上記内輪の小鍔面との間の隙間δがδ≦0.4mmに規制されていることを特徴とする円すいころ軸受。」

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(3)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本件補正発明1の「20°Cにおける動粘度が128cst以上である防錆潤滑油」を「20°Cにおける動粘度が120cst以上である防錆潤滑油」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに「20°Cにおける動粘度」を限定したものに相当する本件補正発明1が、前記「2.(4)」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物3に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び刊行物3に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)結び
以上の通り、本願発明は、刊行物1及び刊行物3に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、請求項2ないし4に係る発明は検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-03-10 
結審通知日 2008-03-11 
審決日 2008-03-24 
出願番号 特願平10-5824
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 水野 治彦
溝渕 良一
発明の名称 円すいころ軸受  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 白石 吉之  
代理人 田中 秀佳  
代理人 江原 省吾  
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