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審決分類 再審 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益 無効としない A61F
再審 全部無効 審理方式、審理手続 無効としない A61F
再審 全部無効 請求書の表示、請求 無効としない A61F
管理番号 1177515
審判番号 再審2004-95006  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許再審公報 
発行日 2008-06-27 
種別 再審 
審判請求日 2004-05-28 
確定日 2006-09-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2795782号発明「アイシング材」に係る特許無効審判事件(無効2000-35412)に対する再審事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件再審の請求は、成り立たない。 再審費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件は、特許第2795782号(以下、「本件特許」という。)に係る無効審判事件(無効2000-35412号事件、以下、「原無効審判事件」という。)に対する2度目の再審事件(再審2004-95006号事件、以下、「本件再審事件」という。)であるが、本件再審事件に係るこれまでの手続の主な経緯は次のとおりである。
・平成4年7月23日:特許出願(特願平4-218583号、優先権主張:同年4月28日)
・平成10年6月26日:特許権の設定登録(特許権者:加納達哉(本件再審事件の請求人))
・平成11年9月1日:特許異議の決定(平成10年異議第76255号(平成11年8月6日付け訂正請求有り):「訂正を認め、特許を維持する」旨の決定、同年9月16日確定)
・平成12年3月22日:鳴神鐘(原無効審判事件の被請求人)への特許権の移転登録
・平成12年7月27日:原無効審判事件に係る無効審判請求(請求人:ライオン株式会社(本件再審事件の被請求人)、被請求人:鳴神鐘)
・平成12年11月2日:加納達哉による原無効審判事件の被請求人を補助するための参加申請
・平成13年3月14日:第1回口頭審理開催
・平成13年4月23日:参加許否の決定(加納達哉の参加申請を許可)
・平成13年9月11日:第2回口頭審理開催
・平成14年1月22日:原無効審判事件の審決(同年2月28日に確定)
・平成14年4月19日:再審請求(再審2002-95004号事件、以下、「原再審事件」という。請求人:加納達哉、被請求人:ライオン株式会社)
・平成14年5月9日:原告加納達哉、被告鳴神鐘間の大阪地裁平成12年(ワ)第11763号事件の確定判決(平成14年3月4日判決言渡、同月20日確定)に基づく「『平成12年3月22日付けの特許権の移転登録』の抹消」が登録
・平成15年2月17日:原再審事件の審決(請求不成立)
・平成15年3月17日:原再審事件の審決取消訴訟提起(平成15年(行ケ)第116号、原告:加納達哉、被告:ライオン株式会社)
・平成16年1月30日:原再審事件の審決取消訴訟の東京高裁判決言渡(請求棄却、同年6月24日に上告不受理決定により確定)
・平成16年5月28日:本件再審事件に係る再審請求(加納達哉)
・平成16年9月17日:手続補正書提出(加納達哉)
・平成16年9月28日:再審請求答弁書提出(ライオン株式会社)
・平成16年10月8日:上申書提出(ライオン株式会社)
・平成16年12月6日:書面審理通知書発送
・平成17年1月31日:弁駁書提出(加納達哉)

2.原無効審判事件の審決
原無効審判事件(無効2000-35412号事件)の審決は、当事者として、請求人をライオン株式会社(代理人:中村稔・外10名)、及び被請求人を鳴神鐘(代理人:中野収二)と記載し、さらに参加人として加納達哉(代理人:清原義博)を記載した上で、次のとおり結論した。
「特許第2795782号の請求項1、請求項3、請求項6?9に係る発明についての特許を無効とする。
特許第2795782号の請求項2、請求項4、請求項5、請求項10?13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」
そして、この審決の謄本は平成14年1月29日に原無効審判事件の上記当事者及び参加人に送達されたが、その後、当事者及び参加人のいずれからも特許法178条第1項の審決に対する訴えが提起されなかったことから、該審決は同年2月28日をもって確定した。

なお、本件特許出願の願書に添付した明細書(平成11年8月6日付け訂正請求に係るもの)の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
【請求項1】基材とこの基材中に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、水とが含有され、前記ゲル化剤の含有量が0.1?1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。
【請求項2】前記ゲル剤が5?15重量%のポリビニルアルコール、0.2?1.2重量%のプロピルパラベン、0.2?1.2重量%のメチルパラベン、0.1?1.2重量%のゲル化剤、82?94重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項1に記載のアイシング材。
【請求項3】基材とこの基材に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、グリコール、水とが含有されて、前記ゲル化剤の含有量は0.1?1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。
【請求項4】前記ゲル剤が4?15重量%のポリビニルアルコール、0.2?1.2重量%のプロピルパラベン、0.2?1.2重量%のメチルパラベン、0.1?1.2重量%のゲル化剤、2?10重量%のグリコール、80?90重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項3に記載のアイシング材。
【請求項5】前記基材が複数の細孔部を有する伸縮性発泡合成樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。
【請求項6】前記基材が不織布からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。
【請求項7】前記アイシング材が開閉自在な密閉容器内に収納されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項8】前記アイシング材がシート状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項9】前記アイシング材がテープ状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項10】前記アイシング材が靴内底に配設されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項11】前記アイシング材がベスト状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項12】前記アイシング材がフェイスマスク状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項13】前記ゲル剤にL-メントールとdL-カンフルが混合されてなることを特徴とする請求項1乃至12に記載のアイシング材。
(以下、【請求項1】?【請求項13】記載の発明を「本件発明1」?「本件発明13」といい、これらを一括して「本件発明」という。)

3.本件再審事件の請求人の主張
【1】本件再審事件の請求人(以下、「再審請求人」という。)は、再審請求書において、原無効審判事件の審決取消事由として、以下のA?Fの如く主張すると共に、証拠方法として甲第1号証?甲第9号証を提出している。
A 特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号及び同条第2項
民事訴訟法第338条第1項第5号は「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと」である。
再審は同号を再審の事由とする場合には、「刑事上罰すべき他人の行為」について、民事訴訟法第338条第2項において「有罪の判決若しくは過料の裁判が確定」したものであること、あるいは、「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない」ものであるとする。
「刑事上罰すべき他人の行為」であって「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない」事由に該当することを以下証明する。
B 平成16年4月15日付け加納達哉からの宮下和夫に対する大阪府豊中警察署長宛の告訴状(甲第7号証)はその趣旨を「被告訴人の行為は有印私文書偽造(刑法第159条第1項)同行使(刑法第161条第1項)電磁的公正証書原本不実記載(刑法第157条第1項)同供用(刑法第158条第1項)の罪に該当すると思われますので、御署で捜査の上、被告訴人の処罰を求めます。」とした。
即ち、本件特許権は犯罪行為により名義を搾取され、本件審判(原無効審判事件)は真実の権利者の攻撃防御権が剥奪されたまま、審決されたものである。
C 大阪地方検察庁の処分通知書(甲第8号証)が平成16年4月30日付けで交付されている。当該通知書によれば、処分区分は不起訴である。
当該処分は起訴猶予処分であると再審請求人たる告訴人は検察庁から告知(甲第9号証)を受けている。
D 再審請求人は、本件起訴猶予処分について特許庁においてなお詳細な事実が必要な場合にそなえ、捜査記録の送付について大阪地方検察庁に嘱託を当庁に要請する。
E 民事訴訟法第338条第2項の、証拠不十分のため不起訴または無罪になった場合以外で、有罪の確定判決が得られなかった時には、起訴猶予処分が含まれる。昭和40年(オ)423号 最高裁第三小法廷、昭和41年9月6日判決、昭和40年(オ)第1180号 最高裁第一小法廷、昭和43年5月2日判決参照。
F よって、本再審は理由があり、原無効審判事件の審決を取り消すとの審決を求める。

(証拠方法)
甲第1号証 特許原簿
甲第2号証 本件特許公報
甲第3号証 特許異議決定公報
甲第4号証 原無効審判事件の審決
甲第5号証 大阪地方裁判所平成12年(ワ)第11763号事件の判決
甲第6号証 大阪地方裁判所平成12年(ワ)第11763号事件の判決
確定証明書
甲第7号証 加納達哉からの宮下和夫に対する大阪府豊中警察署長宛の
告訴状
甲第8号証 大阪地方検察庁の処分通知書
甲第9号証 大阪地方検察庁の不起訴処分理由告知書

【2】さらに、再審請求人は、平成16年9月17日付けの手続補正書において、請求の理由につき、以下の内容等を含む補正をしている。
『「第二、審決取消事由B」の最後に以下の文章を付け加える。
「i 再審請求人は真実の権利者であるにもかかわらず、特許法第134条第1項規定の答弁書の提出機会、同法第2項規定の訂正請求権をそれぞれ剥奪されたまま、即ち攻撃防御権を剥奪されたまま、審決されたのである。
再審請求人の答弁書の提出機会、訂正請求権が存在したならば原審決における「特許第2795782号の請求項1、請求項3、請求項6?9に係る発明についての特許を無効とする。(略)」との審決はなされなかった。
ii 再審請求人は特許請求の範囲の訂正を次のごとく準備していた。
【請求項1】基材とこの基材中に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、水とが含有され、前記ゲル化剤の含有量が0.1?1.2重量%、含水率が80から94%であることを特徴とする反復使用可能なアイシング材。
【請求項3】基材とこの基材に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、グリコール、水とが含有されて、前記ゲル化剤の含有量は0.1?1.2重量%、含水率が80から94%であることを特徴とする反復使用可能なアイシング材。
(以下省略)」』

4.本件再審事件の被請求人の主張
【1】本件再審事件の被請求人(以下、「再審被請求人」という。)は、平成16年9月28日付けの再審請求答弁書において、大略以下の如く主張すると共に、証拠方法として乙第1号証?乙第9号証を提出している。
(1)請求人が攻撃若しくは防御の方法の提出が妨げられたという主張の根拠は、本件特許権が鳴神鐘の名義に移転されていたために原審判事件において被請求人として攻撃防御の方法の提出を妨げられたということに他ならない。この移転登録が偽造された譲渡証書及び単独申請承諾書によるものであり、譲渡証書等を偽造したのが鳴神鐘であっても、宮下和夫であっても、請求人の主張の根拠は請求人が特許権者として登録されていなかったために、攻撃、防御の方法の提出ができなかった、という点にあることに変わりはない。
そして、本件再審事件の請求人は、今回の再審請求において、攻撃、防御方法が妨げられたことについては、新たな証拠は一切提出していない。結局、本件再審請求は原再審請求と同一の事実、同一の証拠にもとづいて、すでに確定している原再審審決に関して再審を請求しているものというべきである。
よって、本件再審請求は、特許法174条3項により再審に準用される特許法第167条に反し、不適法であるから、本件再審の請求は成り立たない、との審決が速やかになされるべきである。
(2)本件再審事件の請求人(原審判事件の参加人)の攻撃、防御方法の提出が妨げられなかったと原再審東京高裁判決により判断されているので、特許庁はこの判断に拘束され、これと異なる判断はできないのであるから、本件再審の請求は成り立たない、との審決が速やかになされるべきである。
(3)参加人が訂正請求書を提出することはできないが、原再審事件に対する原再審事件東京高裁判決(乙第6号証)が指摘するとおり、本件再審事件の請求人は実体上の権利者として訂正審判の請求は可能であったのであり、この点で攻撃防御方法の提出が妨げられた事はない。むしろ、原再審東京高裁判決が認定したとおり、本件再審事件の請求人(原審判事件の参加人)は、原審判事件の答弁書において、訴外鳴神氏による訂正請求について、そのような訂正は不要であり、訂正をせずとも進歩性が認められると主張していたのであるから、本件再審事件の請求人(原審判事件の参加人)に訂正の意思がなかったのである。よって、実質的に本件再審事件の請求人(原審判事件の参加入)の攻撃、防御方法の提出が妨げられたということはない。

(証拠方法)
乙第1号証 再審2002-95004事件 審決
乙第2号証 東京高裁平成15年(行ケ)第116号審決取消請求事件判決
乙第3号証 平成16年(行ノ)第25号 上告受理申立て通知書
乙第4号証 平成16年(行ノ)第25号 上告受理申立事件 訂正書
乙第5号証 最高裁判所平成16年(行ヒ)第132号 決定
乙第6号証 特許無効2000-35412事件 審判参加申請書
乙第7号証 特許無効2000-35412事件 参加許否の決定
乙第8号証 特許無効2000-35412事件 審判事件答弁書
乙第9号証 特許無効2000-35412事件 審尋記録

【2】さらに、再審被請求人は、平成16年10月8日付けの上申書において、大略以下のように主張している。
(1)本件再審請求事件について平成16年9月17日付けで請求人が提出した手続補正書による補正は、明らかに再審請求書に記載された理由に新たな理由を追加するものであって、再審請求書の要旨を変更するものである。したがって、このような手続補正書による補正は許されるべきものではない。
(2)上記手続補正書に記載しているような特許請求の範囲の訂正を請求人が準備していたというような主張は事実に反する、まったく虚偽の主張である。それ故、かりに上記手続補正書に記載の補正が許されるとしても、補正を申し立てられた特許請求の範囲にかかる発明が特許性を有するかどうかは審理の対象とはなりえないものであり、本件再審請求が成り立たないものであることに変わりはない。

5.当審の判断
上記したように、再審請求人は、本件再審請求には特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号及び同条第2項の理由があると主張するので、これについて検討する。
【1】特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号の再審の事由は、「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと」というものであり、同号を再審の事由とする場合には、同民事訴訟法第338条第2項に、「前項第4号から第7号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」と規定されていることから、同号における「刑事上罰すべき他人の行為」は「有罪の判決若しくは過料の裁判が確定」しているか「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない」ものでなければならないことが明らかである。
再審請求人は、本件では、この「刑事上罰すべき他人の行為」について、「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない」事由に該当すると主張している。

【2】甲第7号証?甲第9号証を参酌すると、被告訴人・宮下和夫の本件移転登録に係る行為が特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号の「刑事上罰すべき他人の行為」に該当し、同・宮下和夫に対する起訴猶予処分が同条第2項の「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない」事由に該当するものと認められる。
そこで、「刑事上罰すべき他人の行為により、判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと」に該当するといえるか否かを検討する。

【3】ところで、原再審事件(再審2002-95004号事件)の審決取消訴訟(平成15年(行ケ)第116号)の東京高裁判決(乙第2号証)において、次のような判示がなされている。
『1 取消事由1(民訴法338条1項8号該当性の判断の誤り)について
(1) ・・・(省略)・・・
(2) ・・・(中略)・・・本件移転登録は,それ自体,本件特許について発明の新規性ないし進歩性及び明細書の記載要件に係る無効理由の有無を審判の対象とした原審決の上記結論を導く認定及び判断の基礎となっているものでないことは明らかである。加えて,原告は,原審判事件において,本訴の原告訴訟代理人でもある清原義博弁理士を代理人として特許法148条3項による参加をし,本件移転登録の譲渡証書等に係る本件告訴事件が係属中であることを指摘すると共に,Bのした平成12年11月1日付け訂正請求に係る訂正を否定し,平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載を前提とした上,本件発明1が新規性及び進歩性を有し,本件発明3,6?9が進歩性を有する旨主張し,口頭審理においても同旨の陳述をしたことは上記の認定のとおりであるから,原審判事件において,原告の攻撃防御が実質的に妨げられたということもできない。
(3) したがって,本件移転登録の行政処分は,原審決の基礎となったものではないとした本審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(民訴法338条1項5号該当性の認定判断の誤り)について
原告は,刑事上罰すべき他人の行為により作成された譲渡証書及び単独申請承諾書によりした本件移転登録により,原審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたから,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項5号に該当する再審事由があるとの主張に対し,同じく準用する同条2項の規定により,同号を理由として本件再審を請求することができないとした本審決の認定判断を誤りであると主張する。
しかしながら,・・・(中略)・・・本件移転登録が刑事上罰すべき他人の行為によるものであるとしても,それにより原告が原審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたということができないことは,上記1(2)の認定に照らして明らかである。したがって,原告主張に係る上記再審事由を理由がないとした本審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張も理由がない。』

【4】本件再審事件において、本件移転登録が刑事上罰すべき他人の行為によるものであると解することができるが、一方、上記東京高裁判決の「2 取消事由2について」の項において、本件移転登録が刑事上罰すべき他人の行為によるものであるとしても、それにより原告(再審請求人)が原審決(原無効審判事件の審決)に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたということができないとの判示がなされており、また、その後において、再審請求人が原無効審判事件の審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたと解するに足る証拠も提出されていないことを併せ考慮し、当審においても、該判示内容と同様の判断をするものである。
そうすると、再審請求人の主張する事実によっては、特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号及び同条第2項の規定を理由として本件再審を請求することはできないというべきである。

【5】なお、再審請求人は、平成16年9月17日付けの手続補正書において、再審請求人の答弁書の提出機会、訂正請求権が存在したならば原無効審判事件における「特許第2795782号の請求項1、請求項3、請求項6?9に係る発明についての特許を無効とする。(略)」との審決はなされなかったと主張すると共に、特許請求の範囲の訂正を準備していた旨の主張をしているので、この補正が請求書の要旨を変更するものであるか否かの判断はさておき、その内容につき検討する。
原無効審判事件において、再審請求人は参加人として反論の機会を得ており、上記東京高裁判決の「1 取消事由1 (2) 」において認定したとおりに主張・陳述しているのであるから、答弁書の提出機会が存在しなかったことに基づく上記再審請求人の主張には理由がない。
また、原無効審判事件において、再審請求人は上記東京高裁判決の「1 取消事由1 (2) 」において認定したとおりに、もっぱら平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載を前提として反論していること、上記手続補正書において初めて特許請求の範囲の訂正を準備していた旨の主張がなされていること、及び、かかる訂正の準備をしていたことを示すに足る証拠が何等提出されていないこと、等を総合的に勘案すれば、再審請求人が、原無効審判事件において特許請求の範囲の訂正を準備していたと解する余地はないと判断せざるをえない。
さらに、前判決が、「原告は,参加人が特許法178条1項の訴えを提起しても,本件発明の訂正請求権がなく,適正な攻撃防御ができなかったとも主張するが,訂正審判の請求人は,特許権者であり(同法126条1項),本件移転登録が抹消されると否とにかかわらず,原告が本件特許権の実体上の権利者として訂正審判を請求することは妨げられないばかりでなく,原告が,原審判事件において,本件発明につきB(注:鳴神)のした平成12年11月1日付け訂正請求を否定し,平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載(上記第2の2)を前提とした上,請求人(被告)の主張に係る本件特許の無効理由に逐一反論しているところからすると,そもそも原告がその主張するような訂正を必要としたかは疑わしいから,原告の上記主張は失当である。」と判示しているように、仮に再審請求人が訂正の準備をし、訂正を望んでいたのであれば、参加人として、特許法第178条第1項の訴えを提起し、訂正審判を請求する機会はあったのである。
したがって、訂正請求権が存在しなかったことに基づく上記再審請求人の主張にも理由がない。
よって、上記手続補正書における再審請求人の主張は採用できない。

【6】まとめ
以上のとおり、本件再審事件において、再審請求人の主張する特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項第5号及び同条第2項に係る再審の理由をもっては、本件再審を請求することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件再審の請求には理由がない。
また、再審に関する費用については、特許法第174条第3項で準用する同法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、再審請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-21 
結審通知日 2005-06-23 
審決日 2005-07-13 
出願番号 特願平4-218583
審決分類 P 5 112・ 05- Y (A61F)
P 5 112・ 01- Y (A61F)
P 5 112・ 02- Y (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 彰  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 田良島 潔
高木 進
登録番号 特許第2795782号(P2795782)
発明の名称 アイシング材  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 外村 玲子  
代理人 清原 義博  
代理人 渡辺 光  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 中村 稔  

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