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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02B
管理番号 1178051
審判番号 無効2007-800092  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-11 
確定日 2008-04-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3228689号発明「圃場における暗渠形成作業方式ならびにその暗渠形成作業機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3228689号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3228689号に係る出願は、平成8年12月26日に特許出願され、その後の平成13年9月7日に、その請求項1ないし4に係る発明につき、特許の設定登録がなされ、その後、異議の申立がなされ(異議2002-71196)、これに対し平成14年10月11日付けで訂正請求がなされ、平成15年1月23日に「訂正を認める。特許第3228689号の請求項1?4に係る特許を維持する。」との異議の決定がされた。
これに対して、請求人より平成19年5月11日に本件無効審判の請求がなされ、被請求人より平成19年7月30日に答弁書と共に訂正請求書が提出され、請求人より平成19年9月5日に弁駁書が提出された。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成19年7月30日付けの訂正請求は、願書に添付された明細書(平成14年10月11日付けで訂正された明細書、異議2002-71196の特許決定公報参照)を訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その内容は次のとおりのものである(なお、アンダーラインが訂正箇所である)。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】圃場に対してエンドレスチェンに取り付けられたバケット群を循環駆動することで圃場内部にスリット状の切れ目を施してスリット空間とし、そのバケット群の移動方向変換下端位置におけるチェン輪に取り付けた回転翼によりスリット空間下端部にスリット空間と連通する排水暗渠を形成し、バケット群の作業移動方向後方に配置されていて、かつスリット空間の両側面を整形する整形体を追従させ、この整形体に取り付けたスリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞し、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋め、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成することを特徴とする圃場における暗渠形成作業方式。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を、
「【請求項2】上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンと、これに取り付けられたバケット群と、前記チェン輪の内下端位置にあるチェン輪にその両側に取り付けられた回転翼と、前記バケット群の作業進行方向後方位置に配置されているスリット空間の整形体と、この整形体の中間位置に取り付けられていて、スリット空間を両側から絞り込んでスリット空間を閉塞するスリット絞り込み体とを備え、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記バケットが放擲するれき土を閉塞部から上のスリット空間中に充填することできるように構成した無材暗渠形成作業機。」 と訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3を、
「【請求項3】スリット絞り込み体は、絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分とからなる略六角形であり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ絞り込み板の面と垂直に形成された側面板を備え、絞り込み板の第2の略台形部分と両側面板により形成される内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成とされていることを特徴とする請求項2記載の無材暗渠形成作業機。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項a及びbは、訂正前の請求項1、2に記載された「絞り込み板」に関して、全体が整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられたものに限定するとともに、「側面板」に関して、絞り込み板の面と垂直に形成されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
訂正事項cは、訂正前の請求項3に記載された「側面板」に関して、絞り込み板の面と垂直に形成されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
そして、願書に添付された明細書の段落【0012】の「さらに、整形体30の高さ方向の中間位置には絞り込み体40が取り付けられており、この絞り込み体40は図9に示すように整形体30に沿って取り付けるためのブラケット部41に連続して平板状の絞り板42が進行方向後方に延び、側面に側面板43があって、この側面板43の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなった断面形状が門型となっている。…」の記載、【図4】及び【図9】の絞り込み板42及び側面板43の記載、並びに【図12】の側面板43の記載によれば、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられていること、側面板が、絞り込み板の面と垂直に形成されていることは明らかであるから、上記訂正事項aないしcは、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正事項aないしcは、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書及び弁駁書において、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、次のように主張するとともに、その証拠として、甲第1号証ないし甲第27号証を提出する。
[無効理由]
本件特許の請求項1ないし4に係る発明、及び訂正後の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。

[証拠方法]
(審判請求書添付)
甲第1号証:実公昭36-1026号公報
甲第2号証:実公昭44-29476号公報
甲第3号証:実公昭48-11950号公報
甲第4号証:実公昭31-15号公報
甲第5号証:実公昭35-18468号公報
甲第6号証:実願昭53-137890号(実開昭55-54476号)のマイクロフィルム
甲第7号証:本件出願についての平成13年5月9日付け意見書
甲第8号証:「有機物循環農法」SUGANOプラウ・サブソイラ総合カタログ1992年度
甲第9号証:新版「農業機械ハンドブック」新版第1刷 株式会社コロナ社、昭和59年3月30日発行 405?470頁
甲第10号証:特開平4-179401号公報
甲第11号証:実願昭58-156347号(実開昭59-95803号)のマイクロフィルム
甲第12号証:実願昭52-92194号(実開昭54-18930号)のマイクロフィルム
甲第13号証:「実用新案出願公告 昭36-1026に於ける閉塞具8の形状について」有限会社ワッソパンテントサービス作成
甲第14号証:「実用新案公報 昭36-1026から理解される内容」(有)共立模型製作所作成
甲第15号証:「実用新案出願広告36-1026の土中穿孔仕上装置の形状について」テクニカル・デザインサービス作成
甲第16号証:「意見書」弁理士 中尾俊輔
甲第17号証:「意見書」弁理士 鈴木利之
甲第18号証:「鑑定意見書」鑑定人 弁理士 橋本清
甲第19号証:特許第2918218号公報
甲第20号証:無効2002-35131審決(平成15年5月26日付)
甲第21号証:平成15年(行ケ)第283号判決
甲第22号証:無効2002-35131に係る訂正請求書
甲第23号証:平成15年(行ケ)第287号判決
甲第24号証:無効2002-35131審決(平成17年8月3日付)

(弁駁書添付)
甲第25号証:実願昭62-3959号(実開昭63-112412号)のマイクロフィルム
甲第26号証:特開昭52-14015号公報
甲第27号証:特公昭44-340号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、答弁書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、次のように主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出する。
[理由]
(1)訂正後の請求項1、2に係る発明を特定する「スリット絞り込み体」の形状の構成及び取付位置については甲第1号証に記載されていない。
甲第6号証記載のプラウは本件発明の「スリット絞り込み体」とは技術分野も目的、作用効果も異なるから、甲第1号証記載の発明に甲第6号証記載の技術を結びつける動機付けはない。
そして、訂正後の請求項1、2に係る発明は顕著な効果を奏するものであって、甲第1号証ないし甲第12号証の記載に基づいて当業者が容易に推考することができたものではなく、無効理由は存在しない。
(2)訂正後の請求項3、4に係る発明は、訂正後の請求項2に係る発明の従属項であるので、同様の理由により、無効理由は存在しない。

[証拠方法]
乙第1号証:東京地裁平成14年(ワ)第1574号検証物提出書
乙第2号証:東京地裁平成14年(ワ)第1574号被告第1準備書面
乙第3号証:異議2002-71196異議の決定
乙第4号証:判例タイムズ(No.361) 315?323頁

第4 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、上記のとおり訂正請求が認められることから、平成19年7月30日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】圃場に対してエンドレスチェンに取り付けられたバケット群を循環駆動することで圃場内部にスリット状の切れ目を施してスリット空間とし、そのバケット群の移動方向変換下端位置におけるチェン輪に取り付けた回転翼によりスリット空間下端部にスリット空間と連通する排水暗渠を形成し、バケット群の作業移動方向後方に配置されていて、かつスリット空間の両側面を整形する整形体を追従させ、この整形体に取り付けたスリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞し、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋め、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成することを特徴とする圃場における暗渠形成作業方式。
【請求項2】上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンと、これに取り付けられたバケット群と、前記チェン輪の内下端位置にあるチェン輪にその両側に取り付けられた回転翼と、前記バケット群の作業進行方向後方位置に配置されているスリット空間の整形体と、この整形体の中間位置に取り付けられていて、スリット空間を両側から絞り込んでスリット空間を閉塞するスリット絞り込み体とを備え、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記バケットが放擲するれき土を閉塞部から上のスリット空間中に充填することできるように構成した無材暗渠形成作業機。
【請求項3】スリット絞り込み体は、絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分とからなる略六角形であり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ絞り込み板の面と垂直に形成された側面板を備え、絞り込み板の第2の略台形部分と両側面板により形成される内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成とされていることを特徴とする請求項2記載の無材暗渠形成作業機。
【請求項4】バケット群が上昇移動から下降移動に変換する位置でバケット群が掘削した土を移動方向後方に放擲するガイド板があって、放擲方向を側方あるいは後方に選択することができるように構成したことを特徴とする請求項2記載の無材暗渠形成作業機。」

第5 甲号各証の記載内容
1.甲第1号証には「土中穿孔仕上装置」に関して、次の事項が記載されている。
(1a)「この考案は登録実用新案第443103号(実公昭31-15)自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機に連結されてその溝掘機によつて掘られた溝をその高さの中間で閉塞すると共に溝掘機のバケツト装置の下方軸に設けられた穿孔刃(実願昭33-42991参照)によつて穿孔された土中の穿孔を仕上げるものである。」(1頁左欄6?12行)、
(1b)「この装置は主杆1、主杆1の周を回動する仕上円板回動管2及び仕上円板回動管2の周を回動することができる閉塞具回動管3から成る。主杆1は上端に溝掘機との連結具の取付座4を備えている。仕上円板回動管2は上端に回動用のレバー2′及び固定用の止め具2″を備え、主杆1に対し固定されるようにされ、下端に仕上円板5及びその上方のさらえ板6を取付け、これらは溝掘機(第2図において鎖線で示す)によつて掘られた溝A及び穿孔刃による穿孔Bを仕上げ削りする。仕上円板回動管2の回動によって仕上円板5を溝に対し並列にすることができる。なお仕上円板回動管2の下端には溝掘機との連結具7を回動できるように取付ける。閉塞具回動管3は上端に回動用のレバー3′及び固定用の止め具3″を備え、前記さらえ板6の上方に対向する閉塞具8,8を取付ける。閉塞具8,8は各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅)、大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り、溝Aを閉塞する(第3図参照)。即ち閉塞された溝が形成され、暗渠排水のための土管、被覆材等を要しない。閉塞具回動管3の回動によつて閉塞具8,8を溝に対し並列にすることができる。閉塞具回動管3の中央には溝堀機との連結具の取付座9を設ける。
従つてこの装置を溝掘機の後方に連結具によつて取付けて牽引すれば穿孔Bと溝Aとを仕上円板5とさらえ板6とによつて土砂を後方に残すことなくならえ、使用しない時は仕上円板回動管2を回動用レバー2′によつて回動して溝に並列にすることができる。」(1頁左欄15行?右欄14行)、
(1c)「溝掘機によつて溝A更に穿孔刃によつて穿孔Bが形成されるが、そのままでは土砂の崩壊したものを溝内に残し、地下水の排水を不完全にするおそれがあるが、この考案によれば溝A及び穿孔Bを完全にさらえることによつて土砂の残留をなくし、閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞した溝に完全な溝A及び穿孔Bを形成し、土管被覆材等の必要のない暗渠排水…ができる。」(1頁右欄15?24行)。
(1d)甲第1号証の図面には、次の図が記載され、「溝A」はスリット状の切れ目であること、溝A下端部に溝Aと連通する穿孔Bが形成されること、土中穿孔仕上装置の「閉塞具8,8」は、上面板と上面板の両側に設けられた側面板と側面板内部に設けられる後方から見て三角形の部分を有し、かつ主杆1とその周りに取り付けられた仕上円板回動管2の高さ方向の中間部の側方及び後方に位置していることが記載されている。


以上の記載によれば、甲第1号証には、以下の「甲1発明A」及び「甲1発明B」が記載されていると認められる。
「甲1発明A」
「自動跳上バケツト装置を駆動することでスリット状の切れ目を施して溝Aとし、
そのバケツト装置の下方軸に設けられた穿孔刃により、溝A下端部に溝Aと連通する穿孔Bを形成し、
そのバケツト装置の作業移動方向後方に土中穿孔仕上装置を配置し、
土中穿孔仕上装置の主杆1及び、仕上円板5とさらえ板6とを取付けた仕上円板回動管2により、溝A及び穿孔Bの両側面を仕上削りし、
仕上円板回動管2の高さ方向の中間部の側方及び後方に、閉塞具回動管3を介して取り付けた、上面板と両側面板と三角形部分とを有する閉塞具8,8により溝Aの深さ方向中間位置を閉塞する暗渠形成作業方式。」

「甲1発明B」
「自動跳上バケツト装置と土中穿孔仕上装置を連結した暗渠形成装置であって、
該自動跳上バケツト装置の下端位置に設けられ、穿孔Bを形成する穿孔刃と、
該自動跳上バケツト装置の作業方向後方位置に配置されている土中穿孔仕上装置を備え、
該土中穿孔仕上装置は、主杆1、主杆1の周を回動可能で仕上円板5とさらえ板6とを取付けた仕上円板回動管2及び、
仕上円板回動管2の高さ方向の中間部の側方及び後方に位置するように閉塞具回動管3を介して取り付けた、上面板と両側面板と三角形部分とを有する閉塞具8,8とを備え、
該自動跳上バケツト装置により形成される溝Aの中間位置を、閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で堀り削った土砂で閉塞するようにされた暗渠形成装置。」

2.甲第2号証には、図面と共に次のことが記載されている。
(2a)「本考案は自動跳上バケツト装置…等による溝掘機…に関する。」(1欄21?24行)、
(2b)「エンジンから駆動される駆動軸1の回転によつて駆動される自動跳上バケツト2を有する溝掘機の放出土砂を導く上部カバー3の中間において調節板4を蝶番5で取付け、調節板4にカバー3の外部で操作できる押え6を固定し、調節板4を傾斜して支持する押え6の止金7及び調節板4を水平に支持する押え6の止金7′をそれぞれ上部カバー3に設け、上記カバー3の下方及び後方にそれぞれ土砂受カバー8及び後部側壁9に設ける」(1欄26?34行)、
(2c)「エンジンより駆動された駆動軸1の回転により自動跳上バケツト2が駆動され、土砂が放出される。調節板4の押え6が止金7に固定される時は上部カバー3にそう土砂は直後に排出されず、土砂受カバー8を通つて溝の一側に放出されるが、掘削を開始して土管等10を埋設し初める場合、調節板4の押え6を止金7′で固定すると、土砂は自動的に掘削られた溝の中へ落下する。」(2欄12?19行)。

3.甲第3号証には、図面と共に次のことが記載されている。
(3a)「自動跳上バケツト装置1,2が回転することにより第3図に示すように主溝3、副溝4が掘られ自動跳上バケツト装置1の主溝3は幅が広くかつ深いが、自動跳上バケツト装置2の副溝4は幅が狭くかつ浅く掘削される。」(1頁2欄3?7行)、
(3b)「従つてこの装置を備えた溝掘機を進行させ土寄せ板8を副溝4内に進入させれば…副溝4は第8図に示されたように跳上げられた土がおおい板5にぶつかり落下して掘上土で埋土されて行き、副溝4の下方部はそのまま暗渠として形成される。」(1頁2欄19?28行)

4.甲第4号証は、甲第1号証で「自動跳上バケツト装置」の例として引用された刊行物であり、図面と共に次のことが記載されている。
(4a)「ハ 作用、土中に喰い込んだ本機は無端チエンが作動し始めれば下降中のバケツトが下端歯車4に達してから上昇運動に変化しつゝ…漸次土砂を掬ひ上げ地上に達し更に上端歯車5に齧み合つて側壁1内の土砂を底板2の急激な屈折により後部に跳ね飛し完全に土砂を放出して再び下降しながらこの作用を繰り返すものである。」(1頁右欄3?10行)。

5.甲第5号証は、甲第1号証で引用された実願昭33-42991の公告公報であり、図面と共に次のことが記載されている。
(5a)「図面に示すように自動跳上バケツト装置における側板3と底板4とを取付けたチエーン2を掛渡した下部歯車11の軸7の両側に自由に回転でき断面円形の溝を切削形成する穿孔刃5,5を取付け、更にそれらの後部に連結板11を介して軸7に仕上円板6を取付けた動力土中穿孔装置の構造。」(登録請求の範囲)。

6.甲第6号証には、「地中埋設装置」に関し、次の事項が記載されている。
(6a)「図中1は埋設装置で、前部に掘削用プラウ2が設けられ、後部に覆土用V型プラウ3が設けられており、この掘削用プラウ2と覆土用V型プラウ3とが一体としてけん引車等に引かれて移動し得る構成とされている。」(明細書3頁1?5行)、
(6b)「上述した構成による埋設装置1は、地16内に埋設溝17を順次掘削し、埋設物18を順次埋設せしめるものであり、次にその作用を説明する。
まずけん引車等で上記埋設装置1をけん引すると、掘削用プラウ2により地16は掘り起こされ埋設溝17が形成される。こうして掘られた埋設溝17は掘削用プラウ2と所定間隔をおいてけん引されている覆土用V型プラウ3により、埋設溝17の両側に盛られた土砂が落とされ、埋設溝17は元の状態に埋めもどされてゆく。」(同5頁7?16行)。
(6c)第1図には、次の図面が記載され、平面板と、その両側面に平面板と略垂直に形成された2枚の側面板とで構成され、平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている覆工用V型プラウ3が図示されている。


7.甲第8号証ないし甲第12号証
甲第8号証ないし甲第12号証には、農業土木作業機であるプラウ(すき)やサブソイラなどが、先端が狭く、後方において拡大した形状となって土中に刺さりやすい形状になっていることが記載されている。

第6 無効理由の判断
1.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明Aとの対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
ア.甲1発明Aの「自動跳上バケツト装置」は、甲第4号証に示されるように、上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンとこれに取り付けられたバケット群により形成され、エンドレスチェンを循環駆動することでバケットにより圃場に溝を掘削する掘削機であることは当業者に明らかであるから、甲1発明Aの「自動跳上バケツト装置を駆動すること」は、本件発明1の「圃場に対してエンドレスチェンに取り付けられたバケット群を循環駆動すること」に相当する。
イ.甲1発明Aの「穿孔刃」は、甲第1号証の図3に示されるような穿孔を形成するものであるから、甲第5号証に示されるように、エンドレスチェンのチェン輪の軸の両側に取り付けられていることは明らかであり、本件発明1における、チェン輪の軸の両側に取り付けられた「回転翼」に相当する。
ウ.甲1発明Aの「主杆1及び、仕上円板5とさらえ板6とを取付けた仕上円板回動管2」は、バケットにより掘削された溝を、仕上円板5とさらえ板6により渫うものであって、仕上円板5とさらえ板6とを取付けた仕上円板回動管2が主杆1に支持されて機能するものであるから、全体として、本件発明1の「整形体」に相当する。
エ.次に甲1発明Aの「閉塞具8,8」が、本件発明1の「スリット絞り込み体」に相当するか否かについて検討する。
本件発明1の「スリット絞り込み体」及び「スリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞」について、本件特許明細書には次のように記載されている。
「【0012】…したがって、この絞り込み体40の側面板43に挟まれたスリット空間Sの両側部分の土が作業進行にともないスリット空間Sを閉塞する形で中央に向かって寄せられることでスリット空間Sに閉塞部Hを形成することができる。…」、
「【0015】…さらに、整形体30に取り付けられている絞り込み体40がスリット空間Sの両側面をその側面板43の間の前方の開口部43Aからその空間に誘い込み、平面板42で囲まれる空間内が作業進行方向後方が狭くなっているために両者を強く絞り込み結合させる。これによりスリット空間Sの高さ方向中間位置に閉塞部Hを形成する。…」との記載がある。
これらの記載によれば、本件発明1の「スリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞」とは、掘削部20の移動に伴い、スリット絞り込み体40の側面板43、43により切り取られたスリット空間Sの両側の土を、平面板42及び側面板43、43に沿って移動させ、側面板43、43に挟まれる空間が作業進行後方に向かうにしたがって幅が狭くなっていることにより、その両側の土を、スリット空間Sに導き、その土によりスリット空間Sを両側から絞り込み閉塞することと解される。
一方、上記第5 1.(1a)?(1c)の記載によれば、甲第1号証の土中穿孔仕上装置は、土中において、甲第1号証の第2図の左方向に進行し、その際、閉塞具8,8が、「溝の側壁に空道Cを形成するように掘り削り」、削り取った土を溝の中央方向に寄せ集めて溝Aを閉塞するのであるから、閉塞具8,8は、両側面板で囲まれる内部の空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方の幅が狭くなるよう構成されているものであると認められる。
そうすると、甲1発明Aの「閉塞具8,8」は、本件発明1の「スリット絞り込み体」に相当するということができる。

被請求人は、甲第1号証の第1図及び第2図から閉塞具8,8の第1図にみられる三角形部分の形状・構成を特定できず、甲第1号証の第1図及び第2図基づき構成可能な如何なる形状を採用したとしても、第3図のような空道Cを形成することはできず、第3図のように土を寄せて溝Aを閉塞することもできない旨主張する(答弁書11頁下7行?14頁11行)。
確かに、甲第1号証第1図に記載された閉塞具8,8の内側の三角形部分については、第2図には隠れ線としても記載されておらず、第3図には記載がないから、図面自体からは、閉塞具8,8がどのような形状をしているのか不明確といわざるを得ない。しかし、甲第1号証明細書の記載に基づいて図面を考察するならば、閉塞具8,8は、土を削り取って溝の側壁に空道Cを形成し、かつ、その内側の三角形部分が、削り取った土を溝の中央方向に押しつけて溝を閉塞するものであって、甲第1号証第1図及び第2図は、三角形部分を有する閉塞具8,8を表し、また、甲第1号証第3図は、三角形部分に押しのけられた土が溝の中央に寄せられ、溝を閉塞する様子を全体として表すものであると認められるから、甲第1号証に接した当業者がその技術内容を理解することができないということはできない。
また、被請求人は、甲第1号証の装置には、閉塞具8と閉塞具8の間に主杆1が挟まっている状態であるため、閉塞具8により土を中心に向かって寄せようとしても、主杆1(仕上円板回動管2)に妨げられてそのような効果を得ることができないとも主張する(答弁書14頁12行?15頁17行)。
しかし、甲第1号証記載の閉塞具8,8は、進行方向先端部で削り取られた土を後方に向けて中央方向に寄せるものであることは明らかであり、閉塞具後端は、仕上円板回動管2の後方まで達しているから、仕上円板回動管2の下方に突出する、仕上円板回動管2より小径の主杆1の後方で溝を閉塞するように構成されているといえ(第2図参照)、主杆1との干渉が生じることがあり得るものの、主杆1に妨げられて土を寄せることができないとはいえない。

したがって、本件発明1と甲1発明Aとは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「圃場に対してエンドレスチェンに取り付けられたバケット群を循環駆動することで圃場内部にスリット状の切れ目を施してスリット空間とし、そのバケット群の移動方向変換下端位置におけるチェン輪に取り付けた回転翼によりスリット空間下端部にスリット空間と連通する排水暗渠を形成し、バケット群の作業移動方向後方に配置されていて、かつスリット空間の両側面を整形する整形体を追従させ、この整形体に取り付けたスリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞するように構成された圃場における暗渠形成作業方式。」
[相違点1]
本件発明1では、スリット絞り込み体は、「絞り込み板と側面板とからなり、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成される」ものであるのに対し、甲1発明Aでは、スリット絞り込み体は、上面板と側面板と三角形部分とを有しているものの、具体的構成が不明な点。
[相違点2]
本件発明1では、スリット絞り込み体が、「絞り込み板全体が整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付け」られるのに対し、甲1発明Aでは、スリット絞り込み体が、整形体の側方及び後方に取り付けられている点。
[相違点3]
本件発明1では、「閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋め、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成する」のに対し、甲1発明Aは、閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋めるか否か不明な点。

(2)相違点についての判断
(2-1)相違点1について
甲第6号証には、掘削用プラウ2により形成された埋設溝17を、掘削用プラウ2と所定間隔をおいてけん引されている覆土用V型プラウ3によって、埋設溝17の両側に盛られた土砂を落とすことで埋め戻してゆく「覆土用V型プラウ3」が記載されており、この「覆土用V型プラウ3」は、平面板と、その両側面に平面板と略垂直に形成された2枚の側面板とで構成され、平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる形状を有しているものである(記載事項(6c)参照)。
そして、甲第6号証記載の「覆土用V型プラウ3」は、平面板と、その両側面に平面板と略垂直に形成された2枚の側面板により、掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという作用効果を奏するものであると認められるから、「覆土用V型プラウ3」の「平面板」は、本件発明1の「絞り込み板」に相当する。
そうすると、甲第6号証には、「絞り込み板と側面板とからなり、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成される覆土用V型プラウ」の発明が記載されているといえる。
甲1発明Aの「スリット絞り込み体」と甲第6号証記載の「覆土用V型プラウ」とは、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方の幅が狭くなっているという構成を共通にし、これにより、土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものであるから、甲1発明Aにおいて「スリット絞り込み体」として、甲第6号証記載の覆土用V型プラウの形状に係る発明を適用することに格別の困難はない。
なお、甲第6号証記載の覆土用V型プラウは地表で使用されるのに対し、甲1発明Aの閉塞具8、8は地中で使用されるものであるが、上記のとおり、両者は、土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものであるから、地表で使用される甲第6号証に記載の覆土用V型プラウの形状を、地中で使用する「スリット絞り込み体」の形状として採用することに、格別の困難はない。
したがって、甲1発明Aの「スリット絞り込み体」として、甲第6号証記載の発明を適用して、相違点1における本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2-2)相違点2について
甲1発明Aのスリット絞り込み体(閉塞具8,8)は、閉塞具回動管3の回動によつて溝に対し並列にすることができるようにしたものであって、このため、横の長さを大体掘られる溝の幅とし(第2図における横幅)、整形体(主杆1及び仕上円板5、さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2)の側方及び後方に取り付けられたものと認められる。
しかしながら、削り取った土を溝の中央方向に寄せるとのスリット絞り込み体の作用は、スリット絞り込み体の両側面板を前方に向けて進行させた時に生じるものであって、スリット絞り込み体を回動によって溝に対し並列にすることは、スリット絞り込み体の上記作用とは直接関係しないことは明らかであるから、スリット絞り込み体を整形体に対し回動しないものとすることは適宜なしうることである。
そして、溝の側壁に空道Cを形成するように掘り削り、削り取った土を溝の中央方向に寄せるとの機能を考えれば、スリット絞り込み体は、閉塞具回動管の後方側において幅が狭くなっていなければならず、甲第1号証記載のスリット絞り込み体(閉塞具8,8)も、その一部が整形体の後方に位置しているものである。
そうすると、甲1発明Aのスリット絞り込み体に、甲第6号証記載の発明を採用し、スリット絞り込み体を「絞り込み板と側面板とからなり、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成される」ものとするに際し、スリット絞り込み体を整形体に対し回動しないものとし、上記構成を備えるスリット絞り込み体の絞り込み板全体を、整形体後方に延びるように位置させることは、当業者が適宜なし得ることである。

(2-3)相違点3について
暗渠を形成する作業方式において、溝を掘削した後、溝の上部を圃場の土壌で埋め、溝の下方位置に暗渠を形成することは、甲第2号証又は甲第3号証に示されるように本件出願前当該技術分野において周知の技術であり、スリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞する甲1発明Aに、上記周知技術を適用し、本件発明1の相違点3のように「閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋め、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成する」ことは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして本件発明1の作用効果は、甲1発明A及び甲第6号証記載の発明並びに上記周知技術から、当業者が容易に予測しうる程度であり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.本件発明2について
(1)本件発明2と甲1発明Bとの対比
本件発明2と甲1発明Bとを対比するにあたり、上記第6 1.(1)に述べた本件発明1と甲1発明Aの対応関係を考慮すると、甲1発明Bの「自動跳上バケツト装置」、「穿孔刃」及び「閉塞具8,8」は、それぞれ本件発明2の「上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンと、これに取り付けられたバケット群」、「回転翼」、「スリット絞り込み体」に相当し、甲1発明Bの「主杆1」及び「主杆1の周を回動可能で仕上円板5とさらえ板6とを取付けた仕上円板回動管2」は全体として、本件発明2の「整形体」に相当するから、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンと、これに取り付けられたバケット群と、前記チェン輪の内下端位置にあるチェン輪にその両側に取り付けられた回転翼と、前記バケット群の作業進行方向後方位置に配置されているスリット空間の整形体と、この整形体の中間位置に取り付けられていて、スリット空間を両側から絞り込んでスリット空間を閉塞するスリット絞り込み体とを備え、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方の幅が狭くなるように構成される無材暗渠形成作業機。」
[相違点1’]
本件発明2では、スリット絞り込み体は、「絞り込み板と側面板とからなり、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成される」ものであるのに対し、甲1発明Bでは、スリット絞り込み体は、上面板と両側面板と三角形部分とを有しているものの、その具体的構成が不明な点。
[相違点2’]
本件発明2では、スリット絞り込み体が、「絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付け」られるのに対し、甲1発明Bでは、スリット絞り込み体が、整形体の側方及び後方に取り付けられている点。
[相違点3’]
本件発明2は、「バケットが放擲するれき土を閉塞部から上のスリット空間中に充填する」のに対し、甲1発明Bは、閉塞部から上のスリット空間をバケットが放擲するれき土で埋めるか否か不明な点。

(2)相違点についての判断
(2-1)相違点1’について
相違点1’に係る特定事項については、上記第6 1.(2)(2-1)で判断したと同様の理由により、甲1発明B及び甲第6号証記載の発明に基いて当業者が容易になしうることである。

(2-2)相違点2’について
相違点2’に係る特定事項については、上記第6 1.(2)(2-2)で判断したと同様の理由により、甲1発明B及び甲第6号証記載の発明に基いて当業者が容易になしうることである。

(2-3)相違点3’について
相違点3’について検討すると、暗渠形成作業方式において、バケットが放擲する土を閉塞部から上の空間に充填し、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成することは、上記第6 1.(2)(2-3)で述べたとおり、当該技術分野において周知の技術的事項である。
甲1発明Bは、自動跳上バケツト装置を駆動することで土砂を跳ね上げるものであって、跳ね上げた土を後方に放出可能であるから、スリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞する甲1発明Bに、上記周知技術を適用し、バケットが跳ね上げた土を後方に放出して閉塞部から上の後方の溝を充填し、本件発明2の相違点3’のように「バケットが放擲するれき土を閉塞部から上のスリット空間中に充填する」ことは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本件発明2の作用効果は、甲1発明B及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易に予測しうる程度であり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本件発明3について
(1)本件発明3と甲1発明Bとの対比
本件発明3は本件発明2を引用したものであり、本件発明3と甲1発明Bとを対比すると、上記第6 2.(1)の[相違点1’]ないし[相違点3’]に加え、次の相違点を有する。
[相違点4]
本件発明3では、スリット絞り込み体は、「絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分
とからなる略六角形であり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ絞り込み板の面と垂直に形成された側面板を備え、絞り込み板の第2の略台形部分と両側面板により形成される内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成とされている」のに対し、甲1発明Bのスリット絞り込み体(閉塞具8,8)は、具体的構成が不明な点。

(2)相違点についての判断
相違点1’ないし相違点3’に係る特定事項については、上記第6 2.(2)(2-1)ないし(2-3)で検討したとおりである。
次に相違点4について検討する。
相違点4について検討するに際し、まず、絞り込み板の第1の略台形部分、第2の略台形部分の機能について検討する。
本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0012】さらに、整形体30の高さ方向の中間位置には絞り込み体40が取り付けられており、この絞り込み体40は図9に示すように整形体30に沿って取り付けるためのブラケット部41に連続して平板状の絞り板42が進行方向後方に延び、側面に側面板43があって、この側面板43の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなった断面形状が門型となっている。さらに、側面板43のブラケット部41側は開放されて開口部43Aになって作業の際土を側面板43、43、と絞り込み板42に囲まれる空間内に誘い込むことができるようになっている。したがって、この絞り込み体40の側面板43に挟まれたスリット空間Sの両側部分の土が作業進行にともないスリット空間Sを閉塞する形で中央に向かって寄せられることでスリット空間Sに閉塞部Hを形成することができる。この閉塞部Hによりスリット空間Sが上下方向に二分されて上部には後で説明をする放擲れき土が充填される。また下部は空間として残り、これが透水の案内路となって下端部の暗渠部Aへと水を導くことになる。」、
「【0015】…掘削部20を駆動し、トラクタTRを走らせると、図12…に示すように、粘土層、犂底盤、さらには泥炭層を切り開き、バケット24の上昇移動により土を掘削し、チェン23が上昇過程の頂部において方向変換させられるときにバケット24内の土、いわゆる放擲土Tを後方へと飛ばす。これによりスリット空間Sを形成することができる。このスリット空間Sの下端位置には回転翼25の回転により断面形状円形の暗渠部Aが形成されるとともに、掘削部20の後を追従している整形体30がそのスリット空間Sの両側面を浚えて壁面を整える。回転翼25の形状を選択することで任意形状の暗渠部Aを形成することも可能である。さらに、整形体30に取り付けられている絞り込み体40がスリット空間Sの両側面をその側面板43の間の前方の開口部43Aからその空間に誘い込み、平面板42で囲まれる空間内が作業進行方向後方が狭くなっているために両者を強く絞り込み結合させる。これによりスリット空間Sの高さ方向中間位置に閉塞部Hを形成する。したがって、掘削部20の通過後の空間は閉塞部Hにより上下に二分され、暗渠部Aは閉塞空間となる。」
以上の記載によれば、第2の略台形部分については、両斜辺部にそれぞれ側面板を備え、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成を採用し、これにより、スリット空間Sが両側から絞り込まれて閉塞されるという作用効果を奏するものであることが認められる。
これに対し、第1の略台形部分については、整形体と第2の略台形部分とを接続するということのほかに、両斜辺部に側面板を備えず、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる構成を採用することによって、どのような作用効果を奏するのかは判然としない。
ところで、甲1発明Bにおいて、スリット絞り込み体を「絞り込み板と側面板とからなり、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成される」ものとすること(相違点1’に係る特定事項)及びスリット絞り込み体を「絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付け」ること(相違点2’に係る特定事項)が甲第6号証に記載の発明から当業者が容易になしうることであることは、上記第6 2.(2)(2-1)(2-2)で判断したとおりである。
そうすると、第1の略台形部分は、甲1発明B及び甲第6号証記載の発明から当業者が容易に想到できる、絞り込み板とこれに垂直に形成された側面板を有し側面板で囲まれる絞り込み部分(第2の略台形部分と両側面板からなる部分)を整形体の後方に配置したものにおいて、整形体と第2の略台形部分とを接続する部分ということができ、第2の略台形部分の作業進行方向前方の幅は、整形体よりも当然に広くなっているから、この接続部分を第2の略台形部分に連続するように、後方に向かって広くなっていく略台形のものとすることは当業者が適宜なしうることである。
また、第1の略台形部分上部が、土に徐々に切り込みを入れるという作用を有するものであるとしても、土の中を土の抵抗に抗して進行する作業具において、前方部分を、後方に向かって拡大するような形状とすることは、当業者であれば当然に配慮すべき事柄にすぎない。例えば、代表的な土木作業器具であるスコップは、地中に突き刺すのに適するように先端が中央部で狭くなっており、また、甲第6号証、甲第8号証ないし甲第12号証に見られるプラウ(すき)やサブソイラなどの農機具も、先端が狭く、後方において拡大した形状となって土中に刺さりやすい形状になっている。
そうすると、整形体よりも広い第2の略台形部分と整形体を接続する部分を、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる略台形状として、土中への切り込みを容易にすることは当業者が容易になしうることである。
そして、本件発明3の絞り込み板が、第1の略台形部分と、第2の略台形部分とからなる略六角形であるとする構成は、第1の略台形部分が作業進行方向後方になるにつれて幅が広り、第2の略台形部分が作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなることから生じる当然の帰結であって、この点に発明はない。
したがって、相違点4に係る本件発明3の特定事項は、甲1発明B及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になしうることである。

そして、本件発明3の作用効果は、全体として甲1発明B及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易に予測しうる程度であり、格別顕著なものとはいえない。
なお、被請求人は、本件発明3の第1の略台形部分は、無材暗渠工法において土中で土を絞り込んで閉塞するとき、側面板により切り取られる土の固まり部分の上部にもあらかじめ切り込みを入れておくことにより、きれいに土を寄せることができるという効果が得られる旨主張する(答弁書19頁14行?20頁12行)が、本件特許明細書には、このような作用は何ら記載されていないし、仮にこのような効果があるとしても、格別顕著なものとまではいえない。

よって、本件発明3は、甲第1号証及び甲第6号証記載の発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本件発明4について
(1)本件発明4と甲1発明Bとの対比
本件発明4は本件発明2を引用したものであり、本件発明4と甲1発明Bとを対比すると、上記第6 2.(1)の[相違点1’]ないし[相違点3’]に加え、次の相違点を有する。
[相違点5]
本件発明4が「バケット群が上昇移動から下降移動に変換する位置でバケット群が掘削した土を移動方向後方に放擲するガイド板があって、放擲方向を側方あるいは後方に選択することができるように構成した」のに対し、甲1発明Bは、このようなガイド板を備えていない点。

(2)相違点についての判断
相違点1’ないし相違点3’に係る特定事項については、上記第6 2.(2)(2-1)ないし(2-3)で検討したとおりである。
次に相違点5について検討すると、甲第2号証には、暗渠形成装置において、自動跳上バケツト2(本件発明4の「バケット群」に相当する。)が上昇移動から下降移動に変換する位置でバケット群が掘削した土を移動方向後方に放擲するカバー3(本件発明4の「ガイド板」に相当する。)があって、調節板4により、放擲方向を側方あるいは後方に選択することができることが記載されているから、甲1発明Bに甲第2号証記載の事項を適用し、本件発明4のように「バケット群が上昇移動から下降移動に変換する位置でバケット群が掘削した土を移動方向後方に放擲するガイド板があって、放擲方向を側方あるいは後方に選択することができるように構成」することは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、本件発明4の作用効果は全体として、甲1発明B、甲第6号証記載の発明及び甲第2号証記載の事項並びに周知技術から当業者が予測することができる程度のものである。
したがって、本件発明4は、甲第1号証及び甲第6号証記載の発明、甲第2号証記載の事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許出願前に頒布された、甲第1号証及び甲第6号証記載の発明、甲第2号証記載の事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
圃場における暗渠形成作業方式ならびにその暗渠形成作業機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】圃場に対してエンドレスチェンに取り付けられたバケット群を循環駆動することで圃場内部にスリット状の切れ目を施してスリット空間とし、そのバケット群の移動方向変換下端位置におけるチェン輪に取り付けた回転翼によりスリット空間下端部にスリット空間と連通する排水暗渠を形成し、バケット群の作業移動方向後方に配置されていて、かつスリット空間の両側面を整形する整形体を追従させ、この整形体に取り付けたスリット絞り込み体によりスリット空間の深さ方向中間位置を閉塞し、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記閉塞部から上の部分を圃場土壌で埋め、閉塞位置から下方位置に排水暗渠を形成することを特徴とする圃場における暗渠形成作業方式。
【請求項2】上下両端部位置に配置されたチェン輪に掛けられているエンドレスチェンと、これに取り付けられたバケット群と、前記チェン輪の内下端位置にあるチェン輪にその両側に取り付けられた回転翼と、前記バケット群の作業進行方向後方位置に配置されているスリット空間の整形体と、この整形体の中間位置に取り付けられていて、スリット空間を両側から絞り込んでスリット空間を閉塞するスリット絞り込み体とを備え、当該スリット絞り込み体は絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板全体が前記整形体の作業進行方向後方に延びるように取り付けられ、両側面に、絞り込み板の面と垂直に形成された側面板があって、この側面板の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなるように形成されることにより、スリット絞り込み体の内部空間が作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い漸次その幅が狭くなるように構成され、前記バケットが放擲するれき土を閉塞部から上のスリット空間中に充填することできるように構成した無材暗渠形成作業機。
【請求項3】スリット絞り込み体は、絞り込み板と側面板とからなり、絞り込み板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分とからなる略六角形であり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ絞り込み板の面と垂直に形成された側面板を備え、絞り込み板の第2の略台形部分と両側面板により形成される内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成とされていることを特徴とする請求項2記載の無材暗渠形成作業機。
【請求項4】バケット群が上昇移動から下降移動に変換する位置でバケット群が掘削した土を移動方向後方に放擲するガイド板があって、放擲方向を側方あるいは後方に選択することができるように構成したことを特徴とする請求項2記載の無材暗渠形成作業機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は暗渠形成作業方式ならびに暗渠形成作業機に関し、さらに詳しくは、無材、有材両暗渠の形成に適した暗渠形成作業方式ならびに暗渠形成作業機に関する。
【0002】
【従来の技術】戦後の混乱期を脱し、高度経済成長期を迎えた1961年に、日本農業の将来に希望を与えるものとして農業基本法は制定された。この法律は農業経営においても、他の業種と対等の所得が得られる自立経営農家の育成を目的としている。食生活の多様化を前提に自立経営をめざす農家は、需要の伸びる作物を選択して生産し、減少傾向にある農業人口問題を規模拡大により解決しようとするものである。これは農業に市場原理に基づく効率主義を導入したという意味では極めて画期的であった。しかしながら、需要の伸びが期待される作物が必ずしもわが国の風土に定着する保証がないことから、選択作物には独自の農法を開発する必要がある。例えば、伝統的な米は需要が減少はしても消滅することは考えられないから選択作物と、米の輪作体系を確立する必要がある。このような輪作体系を確立するためには、従来の水田の一部を畑にすることが不可欠であり、そのためには、基盤整備や灌漑に加えて排水施設を含む土地改良事業が必要になる。しかし、風土は地域によって異なるために、以上のような農業はその独自の地域農業の開発を待たなければならないところであるが、基本法による農業は中央集権の所産として全国一律の農業の工業化マニュアルを補助金付きで提供しただけのものになっている。したがって、地域ごとの実情を考慮せずに、農業政策を立案した結果、行き詰まり状態に陥っているのが現実である。加えて、ウルグァイラウンド取決めの実施により、過剰気味の米が一段と過剰気味になっており、これにより水田から畑への転換が急速化することが見込まれていることから、数字的には一部の水田は畑作への転換を余儀なくせざるを得ないのである。しかしながら、この転換は思うようには進行せず、結局現状は減反休耕、補助金という甘えの構造を助長しているのである。しかし、WTOの条約では直接的な補助金は禁止されている関係上、基盤整備の形により畑作転換を助ける必要に迫られているのである。
【0003】このような畑作転換や、米作の裏作としての野菜作りなどの輪換を容易に導入するためには圃場の透水、排水を促進することが不可欠である。このためには、暗渠、明渠により圃場の透水、排水を促すのであるが、水分の多い場所では暗渠の方が効率的である。いわゆる縦透水を促すことが不可欠である。従来知られている暗渠形成装置の多くは、サブソイラの犂体に砲弾型の追従体、いわゆる弾丸を取り付けて、これをトラクタにより牽引することで土中の深い位置に弾丸暗渠といわれている空間を形成する形式のものである。とくに、この暗渠は水田圃場から畑作圃場に転換する場合だけに適しているわけではなく、水田圃場の改質改善にも極めて有効であって、昔乾田今湿田と云われているように、理想的な水田は乾田であるが、機械化が進むにつれ、過剰なまでに代掻作業が行なわれることが原因して、理想とした乾田は姿を消し、水田の多くは湿田化してしまい稲の成育の障害となっていて、湿田の改質にも暗渠排水は望ましいものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来知られている暗渠は、その暗渠を土中の内部に空間を形成することで、地表残留水や、土層中の過剰水を縦透水させることで圃場を畑作、あるいは水田として適した水分環境を形成するためであり、かつ湿田の改質を図るものであるから、時間の経過によりその空間が埋没することがないようにすることが必要である。しかしながら、サブソイラの犂体により形成されるスリット上端開口部から圃場表面の土がそのスリット空間に落ち込んで時間の経過とともにスリット空間を閉塞してしまい所期の目的を十分達成することができないことがあった。とくに、泥炭地にあっては圃場表面は粘土質になっていて一旦開いたスリット状の開口部がその内部空間を形成する土のもつ塑性弾性により時間の経過と共に閉塞されることが多く、暗渠の機能を期待することができないことが多かった。また、暗渠部分に素焼きのパイプを埋設して縦透水の水分をこのパイプに集めて排水することも行なわれているが、このパイプの多くは単につき合わせて連続させたものであるために、経年変化により不連続となったりして排水が十分に行なわれなくなることがあり、暗渠として比較的寿命が短い欠点があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明は、エンドレスチェンに多数のバケットを取り付け、これを連続的に垂直面内で移動させ、かつトラクタなどにより水平方向に移動させることでることで圃場に対してスリット空間を形成し、形成されたスリット空間を整形体によりその両面を整え、さらにそのスリット空間の中間位置を絞り込んで上方の区間と、下部の空間とを区画し、上部の空間にはバケット群が掘削した土を充填することで下部の空間を独立したものとし、しかも下部の空間はエンドレスチェンのチェン輪に取り付けた回転翼により掘削させて断面形状が凡そ円形に近いものとして排水管としての機能をもたせるようにすることを特徴とする作業方式であり、かつまたその作業機である。これにより、整形体により内部の土が排除された空間をスリット絞り込み体により絞り込むと共に、上部の空間には掘削バケットが上昇から下降に変化する時放擲される土を充填させることで蓋を施すような状態として、外部からの不要な土の落下を防ぎ、暗渠の閉塞を防止することができるのである。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を作業方式と、その作業に適した作業機について、添付した図面に沿って説明する。まず、添付した図1ないし、図15に沿って説明する。これらの図において符号TRはトラクタ全体を示し、よく知られているクローラ型のものであって、4本の油圧シリンダ1、2と、この油圧シリンダ2により支えられた支持部材3を介してこれから述べる作業機10を装着している。この暗渠形成作業機10は前記支持部材3に支えられている枠体21をもつ掘削部20、この掘削部20の後方位置に配置されている整形体30、さらには整形体30に取り付けられている絞込み体40などにより構成されている。
【0007】前記掘削部20は前記支持部材3により支持されており、垂直方向の平面に沿って支持板21があり、この支持板21の上下両端部にチェン輪22X、22Yが軸22A、22Bにより取り付けられており、この支持板21の周囲を囲んでエンドレス状にチェン23が前記チェン輪22X、22Y間に掛けられている。このうちチェン輪22Xが駆動輪になっていて、チェン23が駆動させられることで従動輪であるチェン輪22Yが駆動される。前記駆動輪であるチェン輪22Xと同軸の受動チェン輪(図示省略)に対してトラクタTRのPTO軸(図示省略)により回転させられる伝動チェン4が装架されている。前記支持板21はエンドレス状のチェン23の引張側と、弛み側との間隔保持機能ももっている。
【0008】このエンドレス状のチェン23には一定間隔に掘削機能をもつバケット24が複数取り付けられており、移動方向上昇側がトラクタ寄りにあり、下降側が進行方向後ろ側に位置している。トラクタTRの作業進行方向の前側が掘削作用をするので、バケット24が上昇するときに掘削作用を行ない、上昇移動から下降移動に変換されるところでバケット24中の土を後で説明する放擲ガイド50により後方に放擲することができる。
【0009】そして、前記チェン輪22Yの支持軸22Bには左右両側に回転翼25が取り付けられていて、チェン輪22Yが駆動されることで、この回転翼25が強制的に回転させられる。この回転翼25は中心部がその幅が最も広く、周縁に向かって幅が狭くなっており、回転軌跡は作業進行方向に向かってほぼ円形になるようになっていて、暗渠の排水パイプの機能が与えられている。
【0010】前記エンドレス状のチェン23が駆動されることで、これに取り付けられているバケット24が土を掘削することは容易に理解されよう。この掘削作用により圃場内部にスリット状の切れ目(以下、スリット空間という。)Sが形成されるのであって、このスリット空間Sを含む平面内にスリット空間Sの側面を浚え、かつ整形するナイフ状の整形体30が配置されており、上端部は作業機10を構成する枠体にピンPで取り付けされており、このピンPの位置を選択することで整形体30が圃場内部に潜り込む深さを選択することができるようになっている。この整形体30はスリット幅、言い換えると、バケット24の幅寸法よりやや大きい寸法により対応しており、長さはバケット群の下端よりやや短くなっていて、バケット24の下端部の方が下方に突出した形になっている。
【0011】さらに、前記整形体30には下端部近くに幅方向に張り出した部分円形の張り出し部31が張り出しており、前記回転翼25が形成した円形の空間の内面を整形することができるようになっている。整形体30の下端部はチゼル32になっていて、バケットの通過軌跡の底の部分を浚うことができるようになっている。また、整形体30の下端部には、(前記回転翼25の通過軌跡に対応させ)半円形に近い張り出し部31が取り付けられていて、回転翼により形成された空間の内側周面を浚って整形することができるようになっている。
【0012】さらに、整形体30の高さ方向の中間位置には絞り込み体40が取り付けられており、この絞り込み体40は図9に示すように整形体30に沿って取り付けるためのブラケット部41に連続して平板状の絞り込み板42が進行方向後方に延び、側面に側面板43があって、この側面板43の間隔が作業進行方向後方に向かって漸次狭くなった断面形状が門型となっている。さらに、側面板43のブラケット部41側は開放されて開口部43Aになって作業の際土を側面板43、43、と絞り込み板42に囲まれる空間内に誘い込むことができるようになっている。したがって、この絞り込み体40の側面板43に挟まれたスリット空間Sの両側部分の土が作業進行にともないスリット空間Sを閉塞する形で中央に向かって寄せられることでスリット空間Sに閉塞部Hを形成することができる。この閉塞部Hによりスリット空間Sが上下方向に二分されて上部には後で説明をする放擲れき土が充填される。また下部は空間として残り、これが透水の案内路となって下端部の暗渠部Aへと水を導くことになる。
【0013】さらに、前記掘削部20において掘削されたれき土はバケット24が上端部において上昇から下降に移動方向を変換する位置を覆って放擲ガイド部50があり、作業進行方向後方が解放されていて、その解放口には閉塞板51がヒンジ51Aにより取り付けられており、油圧シリンダ52の伸縮により開閉できるようになっていて、閉塞板51を閉じると、放擲土は閉塞板51に当たって側方に放擲され、その閉塞板51を開くと、閉塞板51には当たらず、後方に放擲されてスリット空間Sの上部空間に充填される。
【0014】次に、本発明による作業方式を作業機による作業の説明により詳しく述べることにする。まず、トラクタTRに作業機10を装着するのであって、トラクタTRのもつ動力源を利用してその作業機10は駆動される。そして、掘削部20が暗渠Aを形成する上で望ましい深さになるように作業機10を下げる必要があり、そのためには油圧シリンダ2を収縮させ、油圧シリンダ1を伸長させることで、図10に示すように掘削部20を下降させる。そして明渠Mから畦Zを貫いて作業を開始する(作業進行方向の矢印に向かって)。
【0015】これにより掘削部20はトラクタTRの出力により伝動チェン4、チェン輪22X、22Yにより駆動されるのであって、作業を行なうにはトラクタTRを走らせることが必要である。掘削部20を駆動し、トラクタTRを走らせると、図12、図13に示すように、粘土層、犂底盤、さらには泥炭層を切り開き、バケット24の上昇移動により土を掘削し、チェン23が上昇過程の頂部において方向変換させられるときにバケット24内の土、いわゆる放擲土Tを後方へと飛ばす。これによりスリット空間Sを形成することができる。このスリット空間Sの下端位置には回転翼25の回転により断面形状円形の暗渠部Aが形成されるとともに、掘削部20の後を追従している整形体30がそのスリット空間Sの両側面を浚えて壁面を整える。回転翼25の形状を選択することで任意形状の暗渠部Aを形成することも可能である。さらに、整形体30に取り付けられている絞り込み体40がスリット空間Sの両側面をその側面板43の間の前方の開口部43Aからその空間に誘い込み、平面板42で囲まれる空間内が作業進行方向後方が狭くなっているために両者を強く絞り込み結合させる。これによりスリット空間Sの高さ方向中間位置に閉塞部Hを形成する。したがって、掘削部20の通過後の空間は閉塞部Hにより上下に二分され、暗渠部Aは閉塞空間となる。
【0016】さらに、掘削部20におけるバケット24により掘削された土は、バケット24が上昇移動から下降移動に変換される頂部において、言い換えると、バケット24がチェン輪22Xに沿って反転させられるとき、遠心力により放擲ガイド50を通って後方に放擲させられ、前記スリット空間Sの上部空間に落下し、この空間に充填される。図13に示すように、このスリット空間S内にもみ殻などの有材心土材を充填する場合には、前記放擲ガイド50の閉塞板51の開口を絞り、言い換えると、開閉用の油圧シリンダ52を伸長させて閉塞板51の向きを作業進行方向側方に向けて放擲させることでスリット空間Sに放擲土Tが充填されることがなく開放されたままである。このときには、スリットの底部に素焼きなどの透水性の材料で成型したパイプP1を埋設する。パイプP1の上には葦などが被せられる。
【0017】また、整形体30の下端部に辺縁形状の似た張り出し部31があるので、回転翼25により形成された空間(暗渠部A)の周囲を整形し、形状の変化を防止している。
【0018】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように本発明の暗渠形成作業方式、ならびにその作業機によれば、掘削爪としてのバケットによりスリット空間を形成し、このスリット空間の中間位置に閉塞部を形成して、その空間を上下二つに分割し、その上部空間にはバケットにより掘削した土を放擲することで充填して蓋とし、前記スリット空間の絞り込みによる閉塞部より下の部分を空間として、これを暗渠部として圃場表面とは独立したものとして外部からの土の侵入を防止した完全暗渠を形成することができ、寿命の長い暗渠を形成することができる。掘削作業と同時にスリット空間の中間位置に閉塞部を形成して、その上部空間に放擲土を充填するので作業途中においてスリット空間が破壊されることがなく、確実に暗渠を形成することができる。さらに、絞り込み体はスリット空間の両側の土を側面方向から絞り込んで閉塞部を形成するから作業を連続的に行なうことができ、スリット空間は整形体によって両側側面が固定されるので丈夫であり、とくに泥炭地の圃場における作業に適している。チェン輪の駆動とともに、回転翼を回転させるので暗渠部の内面を確実に形成でき、張り出し部によりその内面を固定することもできる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-02-25 
結審通知日 2008-02-27 
審決日 2008-03-12 
出願番号 特願平8-356835
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 三成  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
家田 政明
登録日 2001-09-07 
登録番号 特許第3228689号(P3228689)
発明の名称 圃場における暗渠形成作業方式ならびにその暗渠形成作業機  
代理人 山田 基司  
代理人 北村 克己  
代理人 山田 基司  
代理人 山本 光太郎  
代理人 日向 一仁  
代理人 有馬 潤  
代理人 樋口 和博  

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