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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1178074
審判番号 不服2004-11584  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-07 
確定日 2008-05-12 
事件の表示 平成 6年特許願第 20823号「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月29日出願公開、特開平 7-227464〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年2月18日の出願であって、平成16年4月27日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月5日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年7月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

[補正却下の決定の結論]
平成16年7月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「フロントパネルに設けた画像表示部に、複数の図柄列にそれぞれ配設された複数の図柄を順次高速で移動表示した後、該図柄列における図柄の移動表示を停止させて、該停止表示態様が予め定めた一定の図柄の組み合わせである特別賞態様であった場合に、遊技者に特別遊技を行わせるスロットマシンにおいて、
通常遊技で使用する複数の通常図柄列を記憶した通常図柄列記憶手段と、
特別遊技で使用する複数の特別図柄列を記憶した特別図柄列記憶手段と、
画像表示部における図柄の停止表示態様を判断する図柄判断手段と、
該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列記憶手段に記憶した通常図柄列と、上記特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列とを、選択的に切り替えて画像表示部に表示させる図柄列表示切替手段とを有し、
上記特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列のいずれか一つには、特別遊技において賞態様を構成する特定図柄が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在するとともに、他の特別図柄列の図柄は全て特定図柄であり、
前記特定図柄は、単一の種類の図柄からなり、
前記賞態様を成立させる確率が前記賞態様の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御するようにしたことを特徴とするスロットマシン。」と補正された。(上記記載中、下線(下線は当審で付加)を付した「特別図柄列」は「特定図柄列」と記載されていたところ、明細書及び図面全体の記載に照らすと、「特別図柄列」の明らかな誤記と認められるので、上記のとおり認定した。)

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「図柄列における図柄の移動表示を停止させて」について、「賞態様を成立させる確率が前記賞態様の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御するようにした」と減縮するものであって、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに、実質的に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用発明
引用刊行物
特開平3-114480号公報

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-114480号公報(以下、「引用例」という。)には以下の記載がある。
a.「本実施例のスロットマシンの回転リール装置は、スロットマシンゲーム機の正面中央に設けられた出窓19内で回転する有底丸筒状のリール本体10、そのリール本体の円周面の最外部を形成する投影部20、その投影部20の内方であってリール本体10に固定された投影用レンズ30、その投影用レンズ30の内方であってリール本体10の周方向に並列してリール本体10に貼付された2本の帯リング状のリールテープ40、及びそのリールテープ40の内方に位置しいずれかのリールテープ40を照射する光源50から形成されている。」(第4頁右上欄第2-16行)
b.「リールテープ40は、その周方向を分割して絵柄を印刷した透光性のある材料、例えばプラスチックで形成され、且つ両リールテープ40の絵柄を異ならしめている。両リールテープ40の一方を一般遊技用テープ41、他方を連続役物用テープ42とする。一般遊技用テープ41は、周方向を分割して全ての箇所にいずれかの絵柄が印刷されている。一方、連続役物用テープ42は、周方向の数カ所に絵柄が印刷されているのみであり、その他の箇所には何も印刷されていない。この連続役物用テープ42の絵柄のあるところは、すべて入賞となる。」(第4頁左下欄第6-18行)
c.「「一般遊技」のプレー中にあっては、・・・一般遊技用ランプ51が、リール本体10と共に回転している一般遊技用テープ41を照射する。・・・一般遊技用テープ41に照射された光は、投影用レンズ30を通過して投影部20に投影される。投影部20に投影される映像は、リール本体10と共に回転した一般遊技用テープ41の絵柄であり、リール本体10の外側、即ち出窓19から見ることができる。・・・全ての回転リールが停止した際の絵柄の組合せに応じて、入賞するか否かが判断される。・・・入賞のうちでも特に定めた組合せが出た場合には、以下に説明する「連続役物」のプレーが行える。」(第4頁右下欄末行-第5頁右上欄第7行)
d.「連続役物のプレー中にあっては、・・・連続役物用ランプ52が、リール本体10と共に回転している連続役物用テープ42を照射する。・・・連続役物用テープ42に照射された光は、投影用レンズ30を通過して投影部20に投影される。・・・個々の回転リールが停止した際に入賞するか否かが判断される。即ち、出窓19内の特定位置に連続役物用テープ42の絵柄が出ていれば入賞となる。」(第5頁右上欄第8行-左下欄第8行)

上記の記載より、引用例(特開平3-114480号公報)には以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「スロットマシンゲーム機の正面中央に設けられた出窓19内で回転する有底丸筒状のリール本体10、そのリール本体の円周面の最外部を形成する投影部20、その投影部20の内方であってリール本体10に固定された投影用レンズ30、その投影用レンズ30の内方であってリール本体10の周方向に並列してリール本体10に貼付された2本の帯リング状のリールテープ40、及びそのリールテープ40の内方に位置しいずれかのリールテープ40を照射する光源50から形成されており、リールテープ40は絵柄を印刷した透光性のある材料で形成され、且つ両リールテープ40の絵柄を異ならしめており、一方を一般遊技用テープ41、他方を連続役物用テープ42とし、一般遊技用テープ41は、周方向を分割して全ての箇所にいずれかの絵柄が印刷されており、一方、連続役物用テープ42は、周方向の数カ所に絵柄が印刷されているのみであり、その他の箇所には何も印刷されておらず、絵柄のあるところは、すべて入賞となるように構成されており、一般遊技のプレー中にあっては、一般遊技用ランプ51が、リール本体10と共に回転している一般遊技用テープ41を照射し、さらに投影用レンズ30を通過して一般遊技用テープ41の絵柄を投影部20に投影し、投影部20に投影される上記絵柄の映像を、リール本体10の外側、即ち出窓19から見ることができ、全ての回転リールが停止した際の絵柄の組合せに応じて、入賞するか否かが判断され、入賞のうちでも特に定めた組合せが出た場合には、連続役物のプレーが行えるもので、連続役物のプレー中にあっては、連続役物用ランプ52が、リール本体10と共に回転している連続役物用テープ42を照射し、さらに投影用レンズ30を通過して投影部20に投影され、個々の回転リールが停止した際に入賞か否かが判断され、即ち、出窓19内の特定位置に連続役物用テープ42の絵柄が出ていれば入賞となる、スロットマシンの回転リール装置。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「スロットマシンゲーム機」は本願補正発明における「スロットマシン」に相当し、同様に、「(スロットマシンゲーム機の)正面」は実質的に「フロントパネル」に、「絵柄」は「図柄」に、「(絵柄を)回転」は「(図柄を)順次高速で移動表示」に、「入賞のうちでも特に定めた組合せ」はその技術的意義に照らすと、「予め定めた一定の図柄の組み合わせ」に、「連続役物」は「特別賞態様」に、「連続役物のプレー」は「特別遊技」に、「一般遊技」は「通常遊技」に、それぞれ相当しており、さらに引用発明について次のことがいえる。

(i) 引用発明は、「絵柄が印刷され」た「リールテープ40」が「貼付され」た「リール本体10」を、「スロットマシンゲーム機の正面中央に設けられた出窓19内で回転」させ、「投影部20に投影」される「絵柄」の「映像」を「出窓19から見ることができ」るように構成した「スロットマシンゲーム機」であって、「全ての回転リールが停止した際の絵柄の組合せに応じて、入賞するか否かが判断され、入賞のうちでも特に定めた組合せが出た場合には、連続役物のプレーが行える」ものである。
引用発明は、「全て」の「リール本体10」を「回転」させることで、「投影部20に投影」される複数の「絵柄」(「図柄」)の「映像」も複数の「列」を成して「回転」し、複数の絵柄列(「図柄列」)を形成するものであり、これらは「スロットマシンゲーム機の正面中央に設けられた出窓19から見ることができ」るように構成されているもので、上記「出窓19」を「(絵柄の)表示部」と表現することができる。
以上をまとめると、引用発明は、「正面(フロントパネル)に設けた表示部に、複数の絵柄列(図柄列)にそれぞれ配設された複数の絵柄(図柄)を回転(順次高速で移動表示)した後、該絵柄列(図柄列)における絵柄(図柄)の回転(移動表示)を停止させて、該停止表示態様が入賞のうちでも特に定めた組合せ(予め定めた一定の図柄の組み合わせ)である連続役物(特別賞態様)であった場合に、遊技者に連続役物のプレー(特別遊技)を行わせるスロットマシン機(スロットマシン)」と表現することができる。(ただし、括弧内は、本願補正発明における対応構成を示す。)
一方、本願補正発明は、「フロントパネルに設けた画像表示部に、複数の図柄列にそれぞれ配設された複数の図柄を順次高速で移動表示した後、該図柄列における図柄の移動表示を停止させて、該停止表示態様が予め定めた一定の図柄の組み合わせである特別賞態様であった場合に、遊技者に特別遊技を行わせるスロットマシン」をその発明特定事項とするものであり、「図柄」の「移動表示」等を行う「画像表示部」を「(図柄の)表示部」と包括的に表現することができる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「フロントパネルに設けた表示部に、複数の図柄列にそれぞれ配設された複数の図柄を順次高速で移動表示した後、該図柄列における図柄の移動表示を停止させて、該停止表示態様が予め定めた一定の図柄の組み合わせである特別賞態様であった場合に、遊技者に特別遊技を行わせるスロットマシン」である点で共通している。

(ii) 上記(i)に記載したように、引用発明は、複数の「絵柄列」(「図柄列」)を備えており、「一般遊技」(「通常遊技」)においては、「一般遊技用テープ41を照射」して「投影部20」に複数の「絵柄列」(「図柄列」)を「投影」するものである。
引用発明における上記した「絵柄列」(「図柄列」)は、「一般遊技」(「通常遊技」)で使用する「絵柄列」(「図柄列」)であり、これを「通常(一般)図柄列」と表現することができる。
一方、本願補正発明は、「通常遊技で使用する複数の通常図柄列」を有するものであり、本願補正発明と引用発明とは、「通常遊技で使用する複数の通常図柄列」を有する点で一致しているといえる。

(iii) 引用発明において、「連続役物のプレー」(「特別遊技」)中は、「連続役物用テープ42」を「照射」して「投影部20」に「絵柄列」(「図柄列」)を「投影」するものであり、上記した「絵柄列」(「図柄列」)は「連続役物のプレー」(「特別遊技」)で使用する「絵柄列」(「図柄列」)であり、これを「特別(連続役物)図柄列」と表現することができる。
一方、本願補正発明は、「特別遊技で使用する複数の特別図柄列」を有するものであり、「特別遊技で使用する特別図柄列」を有することをその発明特定事項とするものである。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「特別遊技で使用する特別図柄列」を有する点で共通している。

(iv) 引用発明は、「個々の回転リールが停止した際に入賞するか否かが判断され」るものであり、上記(i)に記載した「表示部」における「絵柄」(「図柄」)の停止表示態様を判断する、「絵柄」(「図柄」)の判断手段を有するものであるといえる
一方、本願補正発明は、「画像表示部における図柄の停止表示態様を判断する図柄判断手段」を有するものであり、上記(i)に記載したように、「画像表示部」を「表示部」と包括的に表現することができる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「表示部における図柄の停止表示態様を判断する図柄判断手段」を有する点で共通している。

(v) 上記(iv)に記載したように、引用発明は、「絵柄(図柄)の停止表示態様を判断する絵柄(図柄)判断手段」を有している。
そして、引用発明は、上記した「判断手段」により「連続役物のプレーが行える」と「判断」されると、「一般遊技用ランプ51」に替わって「連続役物用ランプ52」が、「連続役物用テープ42」を「照射」するものであり、同引用発明は、上記(ii)に記載した「通常図柄列」と、同じく上記(iii)に記載した「特別図柄列」とを選択的に切り替えて表示部に表示させる切替手段を有しているということができる。
一方、本願補正発明は、「該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列記憶手段に記憶した通常図柄列と、上記特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列とを、選択的に切り替えて画像表示部に表示させる図柄列表示切替手段とを有し」ており、「該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列と上記特別図柄列とを選択的に切り替えて表示部に表示させる切替手段とを有」すると包括して表現することができる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列と上記特別図柄列とを選択的に切り替えて表示部に表示させる切替手段とを有」する点で共通しているといえる。

(vi) 上記(iii)に記載したように、引用発明における「連続役物のプレー」(「特別遊技」)で使用する「絵柄列」(「図柄列」)を「特別(連続役物)図柄列」と表現することができる。
引用発明において、「特別(連続役物)図柄列」を形成する「連続役物用テープ42」は、「周方向の数カ所に絵柄が印刷されているのみであり、その他の箇所には何も印刷されておらず、絵柄のあるところは、すべて入賞となるように構成され」ているものであり、上記「絵柄」(「図柄」)は、「連続役物のプレー」(「特別遊技」)で使用する、「入賞」となる「絵柄」(「図柄」)であることを考慮すると、実質上、単一の種類の図柄からなるものであるということができるとともに、本願補正発明における「(特別遊技において賞態様を構成する)特定図柄」に相当するものということができる。
さらに引用発明において、「絵柄のあるところは、すべて入賞となる」ことから、「絵柄」(「図柄」)の個数は、実質上、「連続役物」(「特別賞態様」)が発生する確率に相当する個数だけ存在しているということができる。
ここで、引用発明における「連続役物のプレー」(「特別遊技」)が単一の「絵柄列」(「図柄列」)を用いて行われるものであるのか、複数の「絵柄列」(「図柄列」)を用いて行われるものであるのかについては、引用例の記載からは明確でないが、少なくとも、引用発明が備える複数の「絵柄列」(「図柄列」)のいずれか一つを、上記した「特別(連続役物)図柄列」として用いて行われるものであることは明らかである。
以上をまとめると、引用発明は、「図柄列のいずれか一つには、連続役物のプレー(特別遊技)において入賞となる絵柄(賞態様を構成する特定図柄)が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在するとともに、前記特定図柄は、単一の種類の図柄からな」るものであると表現することができる。
一方、本願補正発明は、「上記特別図柄列のいずれか一つには、特別遊技において賞態様を構成する特定図柄が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在する」及び「前記特定図柄は、単一の種類の図柄からなり、」の発明特定事項を備えており、本願補正発明と引用発明とは、「上記図柄列のいずれか一つには、特別遊技において賞態様を構成する特定図柄が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在するとともに、前記特定図柄は、単一の種類の図柄からな」る点で共通している。

以上の事項より、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、また、相違していると認められる。
一致点;
フロントパネルに設けた表示部に、複数の図柄列にそれぞれ配設された複数の図柄を順次高速で移動表示した後、該図柄列における図柄の移動表示を停止させて、該停止表示態様が予め定めた一定の図柄の組み合わせである特別賞態様であった場合に、遊技者に特別遊技を行わせるスロットマシンにおいて、通常遊技で使用する複数の通常図柄列と、特別遊技で使用する特別図柄列と、表示部における図柄の停止表示態様を判断する図柄判断手段と、該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列と上記特別図柄列とを選択的に切り替えて表示部に表示させる切替手段とを有し、上記図柄列のいずれか一つには、特別遊技において賞態様を構成する特定図柄が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在するとともに、前記特定図柄は、単一の種類の図柄からなるスロットマシン、である点。

相違点;
(A) 表示部が、本願補正発明においては画像表示部であり、通常図柄列記憶手段に記憶した複数の通常図柄列と、特別図柄列記憶手段に記憶した複数の特別図柄列を表示するものであるのに対して、引用発明においては出窓であり、複数の一般遊技用テープと連続役物用テープが備える絵柄の映像を表示するものである点。

(B) 切替手段が、本願補正発明では、通常図柄列記憶手段に記憶した通常図柄列と、特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列とを、選択的に切り替えて表示させる図柄列表示切替手段であるのに対して、引用発明では一般遊技用テープを照射する一般遊技用ランプと連続役物用テープを照射する連続役物用ランプとが切り替わり投影するものである点。

(C) 特定図柄に関して、本願補正発明では、他の特別図柄列の図柄は全て特定図柄であるのに対して、引用発明では、他の特別図柄列を備えているか明らかでなく、他の特別図柄列の図柄は全て特定図柄であるか明らかでない点。

(D) 停止制御に関して、本願補正発明では、賞態様を成立させる確率が賞態様の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御するのに対して、引用発明では、賞態様を成立させる確率が賞態様の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御するものであるか明らかでない点。

(3)判断
上記の相違点について検討する。
相違点(A)について
複数の通常図柄列と特別図柄列をCRTなどの画像表示部において移動表示させるように構成したスロットマシンはよく知られており、上記複数の通常図柄列と特別図柄列とは、例えば下記の周知例1及び2に例示するようにそれぞれ記憶手段に記憶されるものである。
ここで、引用発明における「連続役物のプレー」は、1つの「リール本体10」を用いて行われるものであるのか、複数の「リール本体10」を用いて行われるものであるのか、引用例の記載からは必ずしも明瞭ではない。 しかしながら、スロットマシンの特別遊技において、全ての図柄列を移動表示させて、図柄列の停止後の表示態様が予め定めた「JAC」「JAC」「JAC」等の特定図柄でそろったときに入賞とする遊技形態は周知(例えば、下記の周知例3及び4があげられる。)である。
以上の周知技術を勘案すると、引用発明における表示部である「出窓」を画像表示部に変更して、複数の一般遊技(通常遊技)用テープと連続役物(特別遊技)用テープに形成されている絵柄(図柄)を、複数の一般遊技用絵柄列(通常図柄列)と、複数の連続役物用絵柄列(特別図柄列)として画像表示部において移動表示させるように構成することは単なる設計変更にすぎない。
そして、上記した設計変更に伴って、複数の一般遊技用絵柄列(通常図柄列)と、複数の連続役物用絵柄列(特別図柄列)はそれぞれ記憶手段に記憶されることとなり、引用発明は、一般遊技(通常遊技)で使用する、複数の一般遊技用絵柄列(通常図柄列)を記憶した記憶手段(本願補正発明における「通常図柄列記憶手段」に相当するもの。)と、連続役物(特別遊技)で使用する、複数の連続役物用絵柄列(特別図柄列)を記憶した記憶手段(本願補正発明における「特別図柄列記憶手段」に相当するもの。)とを有することとなる。
以上より、相違点(A)に係る構成は、単なる設計変更にすぎない。

相違点(B)について
「相違点(A)について」に記載したように、引用発明における表示部を画像表示部に変更するとともに、複数の一般遊技用絵柄列(通常図柄列)を記憶した記憶手段(「通常図柄列記憶手段」)と、複数の連続役物用絵柄列(特別図柄列)を記憶した記憶手段(「特別図柄列記憶手段」)とを有するよう構成することは、単なる設計変更にすぎない。
そして、画像表示部に一般遊技用絵柄列(通常図柄列)と連続役物用絵柄列(特別図柄列)とを表示可能とされた引用発明は、これらを選択的に表示することとなるが、引用発明における、一般遊技用テープを照射する一般遊技用ランプと連続役物用テープを照射する連続役物用ランプとが切り替わり投影する切替手段はもはや機能しないことは明らかであり、ランプによる切替手段に替えて、記憶手段(「通常図柄列記憶手段」)に記憶した一般遊技用絵柄列(通常図柄列)と、記憶手段(「特別図柄列記憶手段」)に記憶した連続役物用絵柄列(特別図柄列)とを選択的に切り替えて画像表示部に表示させる切替手段(本願補正発明における「図柄列表示切替手段」に相当するもの。)を設けることも、同様に、単なる設計変更にすぎない。

相違点(C)について
上記したように、スロットマシンの特別遊技において、全ての図柄列を移動表示させて、図柄列の停止表示態様が予め定めた特定図柄でそろったときに入賞とする遊技形態は周知(周知例3及び4)であり、当該周知技術を参酌し、引用発明において、単一の「絵柄列」(「図柄列」)に形成されている単一の種類の「絵柄」(「図柄」)を、他の「絵柄列」(「図柄列」)にも配列し、全ての「絵柄列」(「図柄列」)を移動表示させて、「連続役物のプレー」(「特別遊技」)を行うよう構成することは、スロットマシンの設計に際して当業者が適宜に行う設計事項にすぎない。
ところで、上記「(2)(vi)」に記載したように、引用発明において、単一の「絵柄列」(「図柄列」)に配列された「絵柄」(「図柄」)は、「すべて入賞となる絵柄」であり、本願補正発明における「特定図柄」に相当するものであるとともに、当該「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)の個数は、実質上、賞態様が発生する確率に相当する個数だけ存在するものである。
いま、引用発明における全ての「絵柄列」(「図柄列」)を移動表示させて「連続役物のプレー」(「特別遊技」)を行うと、上記した賞態様が発生する確率は、他の「絵柄列」(「図柄列」)における「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)の個数によって変動することが明らかである。
そこで、全ての「絵柄列」(「図柄列」)を移動表示させて「連続役物のプレー」(「特別遊技」)を行っても、上記した他の「絵柄列」(「図柄列」)について、「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)を「1/1」の発生確率で出現させれば、全体として、単一の「絵柄列」(「図柄列」)を移動表示させた場合の、当初の賞態様の発生確率が維持されるものであることを当業者は容易に理解するものであり、他の「絵柄列」(「図柄列」)の図柄を全て「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)とすることで、「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)が「1/1」の発生確率で出現し、当初の賞態様の発生確率が維持されることとなる。
以上より、相違点(C)に係る構成を得ることに格別な技術的困難性は認められない。

相違点(D)について
「相違点(C)について」に記載したように、引用発明において、単一の「絵柄列」(「図柄列」)における「絵柄」(「図柄」)の個数は、実質上、賞態様が発生する確率に相当する個数だけ存在しており、さらに他の「絵柄列」(「図柄列」)の「絵柄」(「図柄」)を、全てが「入賞となる絵柄」(「特定図柄」)とすることで、全体として、当初の賞態様の発生確率が維持されるものである。
ところが、賞態様の発生確率を上記のように維持しても、賞態様を成立させる確率は、「絵柄」(「図柄」)の停止制御のしかたによって影響されるものである。
そこで、引用発明において、賞態様を成立させる確率を、上記した「連続役物」(「特別賞態様」)の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御を行って、停止制御に伴って生ずる、賞態様を成立させる確率の変動を極力少なくすることは、当業者であれば適宜に行うことである。
以上より、相違点(D)に係る構成は単なる設計事項にすぎない。

そして、相違点(A)ないし(D)に係る発明特定事項を備えた本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術(周知例1ないし4)が本来奏する効果から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術(周知例1ないし4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【周知例】
周知例1:特開昭61-85978号公報
シンボル列をそれぞれ持つた複数のリールを表示するCRT21を備え、キャラクタメモリ42には、「A:7」?「H:LEMON」に示されるシンボル4が記憶されており、CRTコントローラ43はキャラクタメモリ42から所望のパターンを読み出して、シミュレートしたリールR1?R3をCRT21に表示するもので、大ヒツトになると、コイン1枚の投入毎に1個のリールを移動させて、その1個のリールについてシンボル「JAC」が出れば15枚のコイン支払いがなされるボーナスゲームを実行するビデオタイプスロットマシン。(上記シンボル「JAC」は、ボーナスゲームを実行するためのシンボルの記憶領域に記憶されているといえる。)(特許請求の範囲第1項、第4頁右下欄第2-14行、第6頁左下欄第1-18行、第6頁右下欄第13-第7頁左上欄第12行、第6図、第14図)

周知例2:特開平1-190383号公報
オブジェクトRAM8には、個々のシンボル(絵柄)の画像情報が収納されており、CPU回路1の指示にしたがってその個々のシンボル(絵柄)の画像情報を画像表示制御回路4に供給してCRT9に表示する配列表示手段を備え、配列表示された前記絵柄の組合せが所定の配列組合せであると、CRT9の中央部1列を用いて行うチャンスステージに移行し、先のステージにおけるシンボル(絵柄)とは、全く関係の無い、コインを積み重ねたシンボル(絵柄)が、画面の上下方向に上から下へ移動(リール回転)を開始するスロットマシン。(上記シンボル「コイン」は、チャンスステージを実行するためのシンボル(絵柄)の記憶領域に記憶されているといえる。)(特許請求の範囲、第2頁左下欄第15行-右下欄第1行、第3頁左下欄第13行-右下欄第18行、第4図、第6図)

周知例3:特開平5-184709号公報
ビッグボーナスゲーム中において、有効ライン上に「JAC」の図柄の組合せが成立した場合にボーナスゲームが発生し、ボーナスゲーム中においては、それまで用いられていた「AAA」ないし「FFF」及び「G」(単図柄)に替わって入賞図柄は「JAC」図柄のみとなり、有効ライン上に「JAC」「JAC」「JAC」が揃った場合にはボーナス入賞となるスロットマシンであり、CRT、液晶等からなる電気的表示装置により図柄を可変表示することも可能な、スロットマシン。(段落【0021】【0022】【0042】-【0044】【0056】)

周知例4:特開平2-19182号公報
可変表示窓11A、11B、11C中の表示の組合せが“大当り”を発生させる表示の組合せとなったときは、“大当り”のボーナスゲームに移行し、“大当り”のボーナスゲームの期間中は中段の組合せ指定表示ラインb-b上に「JAC」「JAC」「JAC」の組合せが揃いやすくなる、遊技装置。(第5頁右上欄第9行-左下欄第11行、第15頁左上欄第5行-右上欄第6行、第1図、第2図)

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年7月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年3月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「フロントパネルに設けた画像表示部に、複数の図柄列にそれぞれ配設された複数の図柄を順次高速で移動表示した後、該図柄列における図柄の移動表示を停止させて、該停止表示態様が予め定めた一定の図柄の組み合わせである特別賞態様であった場合に、遊技者に特別遊技を行わせるスロットマシンにおいて、
通常遊技で使用する複数の通常図柄列を記憶した通常図柄列記憶手段と、
特別遊技で使用する複数の特別図柄列を記憶した特別図柄列記憶手段と、
画像表示部における図柄の停止表示態様を判断する図柄判断手段と、
該図柄判断手段における判断結果に基づき、上記通常図柄列記憶手段に記憶した通常図柄列と、上記特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列とを、選択的に切り替えて画像表示部に表示させる図柄列表示切替手段とを有し、
上記特別図柄列記憶手段に記憶した特別図柄列のいずれか一つには、特別遊技において賞態様を構成する特定図柄が、予め定めた賞態様の発生確率に相当する個数だけ存在するとともに、他の特定図柄列の図柄は全て特定図柄であり、
特定図柄は、単一の種類の図柄からなることを特徴とするスロットマシン。」

(1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(1)」に、関連する周知技術は前記「2.(3)」に、それぞれ記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明を特定する「前記特定図柄は、単一の種類の図柄からなり、前記賞態様を成立させる確率が前記賞態様の発生確率とほぼ等しくなるように停止制御するようにした」について、「特定図柄は、単一の種類の図柄からなる」と、限定事項を省いてより広義な概念で特定されるものである。
そうすると、本願発明における発明特定事項を全て含み、さらに他の限定事項を付加して、より狭義な概念で特定される本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術(周知例1ないし4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、限定事項を省いてより広義な概念で特定される本願発明も、引用発明及び周知技術(周知例1ないし4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-06 
結審通知日 2008-03-13 
審決日 2008-03-25 
出願番号 特願平6-20823
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎  
特許庁審判長 三原 裕三
特許庁審判官 中槙 利明
渡部 葉子
発明の名称 スロットマシン  
代理人 竹山 宏明  
代理人 米山 淑幸  

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