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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D02G |
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管理番号 | 1178080 |
審判番号 | 不服2005-16421 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-08-26 |
確定日 | 2008-05-12 |
事件の表示 | 平成10年特許願第164798号「スポーツ衣料用スムース編地」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月21日出願公開、特開平11-350271〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年6月12日の出願であって、平成17年7月7日付けで手続補正書が提出され、同年7月21日付けで拒絶査定され、同年8月26日に拒絶査定に対する審判が請求され、その後、平成19年12月5日付けの当審からの拒絶理由通知に対して、その指定期間内の平成20年2月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.当審の拒絶理由 当審において通知した、平成19年12月5日付け拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。 『[理由1]平成17年7月7日付けの手続補正書による補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 [理由2]この出願は、明細書の記載が下記の点で不備と認められるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』 そして、上記当審拒絶理由通知において、[理由2]として指摘した事項の概要は、次のとおりのものである。 [理由2]について 本願請求項1に係る発明は、仮撚加工されたポリエステル繊維からなる捲縮加工糸を構成する単繊維の断面形状が、異型度2.5以上3.5以下であり、前記捲縮加工糸の10%伸長時応力が、1.8g/d以上2.8g/d以下であり、前記捲縮加工糸の捲縮発現率が5%以上、30%以下であるような特定の物性値を備えた捲縮加工糸を発明特定事項として含むものであるから、発明の詳細な説明においては、当業者が期待しうる程度を越える試行錯誤を行うことなく前記捲縮加工糸作ることができるように記載する必要がある。 しかしながら、発明の詳細な説明、特に段落【0012】、【0013】には、特定の固有粘度のポリエステルを紡糸、延伸し、仮撚加工を行って捲縮加工糸を得たと記載しているだけであり、原料として使用したポリエステルの種類や組成、紡糸、延伸条件は不明であり、具体的な仮撚条件等の各種条件も記載されていないため、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえない。 3.明細書の記載事項 (1)特許請求の範囲の記載 上記平成20年2月4日付け手続補正書により補正された請求項1、2の記載は、以下のとおりである。 「【請求項1】 ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維からなるマルチフィラメント糸に仮撚加工してなる捲縮加工糸のみを用いて得られたスムース編地であり、前記捲縮加工糸を構成する単繊維の断面形状が、異型度2.5以上3.5以下のY字状三葉型であり、前記捲縮加工糸の10%伸長時応力が、1.8g/d以上2.8g/d以下であり、前記捲縮加工糸の捲縮発現率が5%以上、30%以下であることを特徴とするスポーツ衣料用スムース編地。 【請求項2】 単繊維の繊度が、1デニール以上4デニール以下である請求項1記載のスポーツ衣料用スムース編地。」 (2)段落【0006】の抜粋 「【発明の実施の形態】 以下、本発明の一実施形態のポリエステル捲縮加工糸について説明する。 ・・・ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなる繊維が挙げられる。」 (3)段落【0007】の抜粋 「マルチフィラメント糸の単繊維の断面形状は、Y字状三葉型であり、異型度は、2.5以上3.5以下であることが好ましい。・・・この異型度が、2.5未満では、清涼感が得られず、3.5を越えると、織物の風合いがガリガリした粗剛なものになって清涼感が得られず、好ましくない。」 (4)段落【0009】の抜粋 「マルチフィラメント糸の10%伸張時の応力は、1.8g/d(グラム/デニール)以上2.8g/d以下であることが好ましい。・・・一方、10%伸張時の応力が1.8g/d未満では、清涼感が得られず、2.8g/dを越えると、織物の風合いが硬くガリガリした風合いになる。・・・」 (5)段落【0010】の記載 「本発明の捲縮加工糸の捲縮発現率は5%以上30%以下である。ここで捲縮発現率が5%未満であるも布帛のバルキー感が得られず、30%を越える場合にあっては、バルキー感は得られるものの清涼感が得られなくなるので好ましくない。」 (6)段落【0012】の抜粋 「【実施例】 以下実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。評価試料となる実施例及び比較例1?6の加工糸及び編地は以下の製造方法により作成した。 まず、表1に示す固有粘度のポリエステルを異型孔を有する紡糸口金を用いて、紡糸、延伸し、表1に示す異型度のY字状三葉型のマルチフィラメントを得た。マルチフィラメント糸の繊度は75デニールで、フィラメント数は24であり、従って、単繊維の繊度は3.125デニールである。上記のマルチフィラメント糸を表1に示す仮撚条件で仮撚加工を行ない捲縮加工糸を得た。加工糸の捲縮発現率、10%伸長時応力は表1に示すとおりであった。 次に上記で得られた捲縮加工糸を用いて、28ゲージのスムース編地を仕立てた。・・・」 (7)段落【0013】の【表1】 表1の実施例として、ポリエステルポリマー固有粘度が0.63、フィラメントの断面異型度が3、ヤーンの仮撚数(T/m)が2350、仮撚条件の第1ヒーター温度(℃)、第2ヒーター温度(℃)が各々170、ヤーンの捲縮発現率(%)が15、ヤーンの10%伸長時応力(g/d)が2.2の捲縮加工糸が記載されている。 4.当審の判断 (1)[理由2]について(特許法第36条第4項違反について) 請求項1に係る発明は、仮撚加工してなる捲縮加工糸において、前記捲縮加工糸を構成する単繊維の断面形状が、異型度2.5以上3.5以下であり、前記捲縮加工糸の10%伸長時応力が、1.8g/d以上2.8g/d以下であり、前記捲縮加工糸の捲縮発現率が5%以上、30%以下であるという特定の物性値を有する「仮撚加工してなる捲縮加工糸」を発明特定事項として含むものであるから、発明の詳細な説明においては、「発明の実施の形態」も含めて、当業者がこれを技術常識に基づき、期待しうる程度を越える試行錯誤を行うことなく製造することができるように、かつ、使用できるように記載する必要がある。 しかしながら、発明の詳細な説明には、このような数値範囲を満たす捲縮加工糸を製造するための、具体的な仮撚加工装置及び仮撚加工条件等について何ら説明がなされていない。 段落【0012】及び段落【0013】(前記摘示「3.(6)、(7)」)には、実施例として、特定の固有粘度のポリエステルを用いて、特定の第1ヒーター温度、第2ヒーター温度の仮撚条件で、特定のヤーンの仮撚数から得られた特定の断面異型度、捲縮発現率、10%伸長時応力を有する捲縮加工糸が記載されているが、具体的なポリエステルの種類、具体的な仮撚加工装置が不明であるため、【表1】にわずかに示されている仮撚加工条件だけでは、如何にして【表1】の「10%伸長時応力」及び「捲縮発現率」の数値を有する「捲縮加工糸」得ることができたのか不明である。 一般に、仮撚捲縮加工糸の捲縮発現率や10%伸長時応力は、単繊維として使用する原料ポリエステルの種類や紡糸、延伸条件(延伸倍率、延伸温度)等に応じて変化し、また、仮撚加工装置の種類や加工条件、たとえば、ヒーターの数や位置、形式、スピンドルの形状、回転数、フィードロールの構造や回転数等に影響されると考えられるから、これらの記載のない実施例からは、如何にして特定の「捲縮加工糸」を得たのか不明であるといわざるを得ない。 ところで、請求項1は、「ポリエステル繊維」が「ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維」と補正されたが、前記実施例の「ポリエステル」が、固有粘度の規定から、「ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル」であると特定することはできない。 また、たとえこのような「ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル」であるとしても、「主たる繰り返し単位」の割合、あるいはこれ以外の共重合成分の種類によっては、ポリエステルの性質が全く異なるというのが技術常識であるから、依然として、具体的な「ポリエステル」を想定することができない。 してみると、発明の詳細な説明の記載は、請求項1の発明に係る「捲縮加工糸」を、当業者が期待しうる程度を越える試行錯誤を行うことなく作ることができるように記載したものとはいえない。 (2)請求人の主張について 請求人は、平成20年2月4日付け意見書で3、概ね次の3点の主張をしている。 第1点は、(a)の単繊維の断面の異型度を2.5以上3.5以下にするのは、紡糸ノズルの形状を変えて調節できる。 (b)の10%伸長時応力にを1.8g/d以上2.8g/d以下にするのは、一般的な紡糸、延伸条件を採用する範囲では、材料のポリエステル繊維の種類(分子構造)、分子量に関連する粘度によりこの物性を制御できる。 (c)の捲縮加工糸の捲縮発現率を5%以上、30%以下にするのは、第1ヒーター(熱固定処理)の温度を170?210℃、第2ヒーター(弛緩熱処理)の温度を170?200℃の範囲に設定し、熱処理温度を適正化すれ制御できる旨、 第2点は、ポリエステルをPETに限定した根拠は、通常、ポリエステルといえばPETを意味するものとして広く使用されており、衣類でも、PETはポリエステルとして表示されている旨、 第3点は、「実施例は1例だが、発明特定事項の数値範囲の上限と下限を少し外れる比較例を6例も示しており、上記の発明特定事項a?cの数値範囲の臨界的意義は、明確であり、出願時の技術常識に基づけば、当業者が過 度の試行錯誤を行わなくても本願発明のスムース編地を製造することは可能である旨。 そこで、これらの主張について検討する。 第1点について、 請求人は、(a)、(b)、(c)の各パラメータが調整可能であることを主張するのみで、何をどのように操作することにより調節できるのか、それぞれのパラメータは独立して制御可能なのか、1つのパラメータを変更することにより他のパラメータもそれに伴って変化するのかも明らかにしていない。 発明の詳細な説明の記載では、具体的な紡糸ノズルの形状、紡糸、延伸条件、材料のポリエステル繊維の種類(分子構造)、分子量に関連する粘度、及び捲縮加工装置が何ら明確でないため、発明の詳細な説明は、(a)、(b)、(c)の各パラメータが本件発明の範囲を満たすような捲縮加工糸を当業者が技術常識に基づき、期待しうる程度を越える試行錯誤を行うことなく製造することができるように記載されたものといえない。 よって、請求人の主張は採用できない。 第2点について、 通常ポリエステル繊維といえば各種ポリエステル繊維を含み、PET繊維に限定して解釈することはできないので、本件実施例の「ポリエステル繊維」がPET繊維であると限定的に解する合理的な根拠はない。 なお、付言すると、補正は、「ポリエステル繊維」を「PET繊維」とするものでなく、「ポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル繊維」とするものであるから、主たる繰り返し単位がPETであると規定したにすぎない。主要部以外の他の部分が不明である以上、このように補正したとしても、実施例の「ポリエステル繊維」原料のポリエステルが不明りょうのままである。そうすると、単繊維として使用する原料ポリエステルの種類が不明であるから、発明の詳細な説明は、(a)、(b)、(c)の各パラメータが本件発明の範囲を満たすような捲縮加工糸を当業者が技術常識に基づき、期待しうる程度を越える試行錯誤を行うことなく製造することができるように記載されたものといえない。 よって、請求人の主張は採用できない。 第3点について、 そもそも、上記のとおり実施例及び比較例そのものが、当業者がそこで得られるとされる捲縮加工糸を製造できる程度に記載されていない。また、実施例がなくとも製造できる程度に発明の詳細な説明が記載されているともいえない。 よって、請求人の主張は理由がない。 したがって、当業者が過度の試行錯誤を行わなくても本願発明のスムース編地を製造することは可能であるという請求人の主張は認めることができず、前記拒絶理由は妥当なものと認められる。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-27 |
結審通知日 | 2008-02-28 |
審決日 | 2008-03-31 |
出願番号 | 特願平10-164798 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(D02G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
鴨野 研一 井上 彌一 |
発明の名称 | スポーツ衣料用スムース編地 |