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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1178172
審判番号 不服2005-17972  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-20 
確定日 2008-05-12 
事件の表示 平成10年特許願第513204号「前立腺肥大及び前立腺癌を治療する手段」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月19日国際公開、WO98/10781、平成13年 1月16日国内公表、特表2001-500500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年9月1日(パリ条約による優先権主張1996年9月12日、1997年4月10日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年6月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年9月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月18日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年10月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月18日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
補正前の
「【請求項1】LH-RH拮抗薬としてセトロレリックスの0.5mg/日?20mg/週又は約0.007mg/kg体重/日?0.30mg/kg体重/週の用量単位での使用を包含し、次のような時間管理:
セトロレリックス処置1?12週間に引き続く5α-レダクターゼ抑制剤又はα-レセプターブロッキング剤又はBPHの治療のために使用される任意の天然由来の薬剤での1?12週間処置又は、選択的にセトロレリックス処置1?12週間に引き続く6ヶ月後のセトロレリックスでの再処置
の下で適用される、LH-RH拮抗薬単独からなるか、又は該拮抗薬単独とα-レダクターゼ抑制剤もしくはα-レセプターブロッキング剤との組合せからなる、テストステロンレベルが去勢範囲になることなしに哺乳動物の良性前立腺肥大及び前立腺癌の治療処置法のための医薬品。」から、
補正後の、
「【請求項1】哺乳動物の良性前立腺肥大及び前立腺癌の治療のための副作用の少ない長期持続性の医薬品であって、該医薬品は、LH-RH拮抗薬からなるか、又はLH-RH拮抗薬と5α-レダクターゼ抑制剤もしくはα-レセプターブロッキング剤との組合せからなり、かつLH-RH拮抗薬としてセトロレリックスを、テストステロンレベルが去勢範囲にならないように0.5mg/日?20mg/週又は約0.007mg/kg体重/日?0.30mg/kg体重/週の用量単位で使用することと、セトロレリックスを1?12週間投与し、引き続き5α-レダクターゼ抑制剤又はα-レセプターブロッキング剤又はBPHの治療のために使用される任意の天然由来の薬剤を1?12週間投与するか、又はセトロレリックスを1?12週間投与し、6ヶ月後に引き続きセトロレリックスを再び投与することとを特徴とする医薬品。」
とする補正を含むものである。
そして、該補正は、補正前の「医薬品」を、「副作用の少ない長期持続性の医薬品」に限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である「Prostate. 1994;24(2):84-92.Gonzalez-Barcena D et al.」(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「中性親水性D-ウレイド・アルキルアミノ酸、例えば6位のD-CitおよびD-Hci等を含有し、浮腫反応およびアナフィラキシー様反応を起こさない、斬新かつ極めて強力な黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アンタゴニスト(拮抗性)アナログの中で、Ac-D-Nal(2)^(1),D-Ph(4Cl)^(2),D-Pal(3)^(3),D-Cit^(6),D-Ala^(10)(LHRH)(SB-75セトロレリクス)は、最も強力なアナログの1つであることが証明された。」(第84頁 ABSTRACT第1?5行)

(イ)「この試用では、良性前立腺肥大(BPH)患者11例に対して4週間、前立腺ガン患者6例(ステージCが2例とステージD2が4例)には6週間にわたって毎12時間皮下(SC)投与された500μgのSB-75に対する反応を評価した。前立腺症および尿流出障害を呈するBPH患者において、SB-75投与の最初の1週間後から顕著な臨床的改善が見られた。この改善は治療過程の間継続した。SB-75を用いる治療以前は、前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度(6.73±1.46ng/ml)、酸ホスファターゼ総量(12.67±1.13U/l)および前立腺内(2.27±0.34U/l)は少し上昇したが、各値は4週間で正常値まで低下した(2.13±0.59ng/ml ただしP<0.01)、(7.68±0.89U/l、ただしP<0.01)および(1.39±0.18U/l、ただしP<0.01)。超音波検査で判断された前立腺平均容量は、全患者において、P<0.01で67.84±8.86cm3から37.92±8.52cm3へと顕著な低下を示した。これは44%の減少に相当する。前立腺ガン患者では、SB-75を用いた治療の最初の1週間後に、著しい骨痛の減少、尿流出障害の緩和および前立腺ガンの回復徴候が認められた。自覚症状の改善はその後の治療期間を通じて継続し、患者は鎮痛薬を必要としなくなった。PSA値、酸およびアルカリホスファターゼは漸減し、6週間投与でほぼ正常値を達成した。」(第84頁 ABSTRACT第5?21行)

(ウ)「BPHおよび前立腺ガン患者の当初の血中テストステロン濃度は、正常範囲内であったが、アンタゴニストアナログSB-75による治療中は、去勢レベルまで低下した。初回投与後に遊離型テストステロン値の大幅な自然低下が観察され、6時間から12間後に最大の抑制が見られ、それと同時に両方のゴナドトロピン濃度の低下も観察された。この結果が示すように、アンタゴニストSB-75は長期間にわたり安全に投与することが可能である。BPH患者におけるアンタゴニストアナログSB-75の投与で得られた前立腺の急速な萎縮および前立腺症の閉塞障害の同時改善は、前立腺の手術による罹患率を低下させ、プアリスクとみなされる男性患者には別の治療法を提供することができる。」(第84頁 ABSTRACT第21?29行)

(3)対比
引用文献には、良性前立腺肥大(BPH)患者11例に対して4週間、セトロレリクス(SB-75)500μgを12時間毎に皮下投与して、その反応を評価したことが記載[前記(イ)]されている。
その結果については、前立腺症および尿流出障害を呈するBPH患者については、投与後1週間から、顕著な臨床的改善が見られ、治療過程の間継続したこと、具体的には、前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度、酸ホスファターゼ総量の値が、4週間で正常値まで低下し、また、超音波検査で診断された前立腺平均容量が顕著に低下したこと[前記(イ)]、また、BPHの血中テストステロン濃度については、治療中、去勢レベルまで低下したこと[前記(ウ)]が記載されている。そして、BPH患者におけるセトロレリックスの投与で得られた前立腺の急速な萎縮および前立腺症の閉塞障害の同時改善は、前立腺の手術による罹患率を低下させ、プアリスクとみなされる男性患者には別の治療法として提供できること[前記(ウ)]が記載されている。
すなわち、引用文献には、セトロレリクスを有効成分とする、良性前立腺肥大の治療のための医薬品であって、良性前立腺肥大患者に対し4週間、セトロレリクス500μgを、12時間毎に皮下投与して使用し、顕著な臨床的改善が見られ、治療中は、血中テストステロン濃度が去勢レベルまで低下するもの(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
補正発明が、医薬発明に属することは明らかであるところ、医薬発明の新規性は、特定の薬理作用という属性を有する化合物(有効成分)、及びその属性に基づき特定の疾病に適用するという医薬用途の二つの観点から判断されるべきである。
そこで、この観点から補正発明と引用発明とを対比する。
(3-1)一致点
(イ)有効成分について
補正発明において、有効成分は、「LH-RH拮抗薬としてのセトロレリックス、又はこれと5α-レダクターゼ抑制剤もしくはα-レセプターブロッキング剤との組合せ」であり、セトロレリックス単独である場合を選択肢として有しており、一方、引用発明の有効成分は、セトロレリックスであるから、両者は、一致する。
(ロ)医薬用途について
補正発明における「医薬用途」は、「哺乳動物の良性前立腺肥大及び前立腺癌の治療」であるのに対し、引用発明における「医薬用途」は「良性前立腺肥大の治療」であるから、両者は、「医薬用途」が「良性前立腺肥大」である点で一致する。
(ハ)投与量につて
補正発明では、当該医薬の適用に際し、投与量を「セトロレリックスをテストステロンレベルが去勢範囲にならないように0.5mg/日?・・・の用量単位で使用」するものとして特定しているのに対し、引用文献には、「良性前立腺肥大患者11例に対して4週間にわたって毎12時間皮下投与された500μgのセトロレリックス」と記載されていて、当該投与量は1mg/日に相当するから、両者は、1日当たり投与量が0.5mg以上である点で一致する。
(ニ)その他
補正発明は「副作用の少ない長期持続性」医薬品であるのに対し、引用文献には、「長期間にわたり安全に投与することが可能」と記載されているから、両者は、副作用の少ない(安全な)長期持続性の医薬品である点で一致する。

(3-2)相違点
一方、補正発明においては、投与期間について、「セトロレリックスを1?12週間投与し、6ヶ月後に引き続きセトロレリックスを再び投与する」という態様により特定しているのに対し、引用文献には、投与期間として「4週間」が示されているだけで、「6ヶ月後に引き続きセトロレリックスを再び投与する」ことが明示されていない点で一応相違する。(相違点1)
そして、補正発明は、「テストステロンのレベルが去勢範囲にならないように・・・使用する」のに対し、引用文献には、この点が記載されていない点で一応相違する(相違点2)。

(4)判断
(4-1)相違点1について
医薬の使用に際し、一旦臨床症状が軽快した段階で投薬を中断し、任意の一定期間後に必要に応じて投薬を再開することは、医師が個々の患者の病状に応じて通常行っていることであるから、引用文献に6ヶ月後に再開する態様が明示されていないことのみをもって、補正発明が、引用発明と実質的に区別されるものとすることはできない。

(4-2)相違点2について
引用文献には、血中テストステロン濃度を、去勢レベルまで低下させない点について記載されていない。しかし、補正発明と引用発明とは、対象とする疾患、有効成分、その投与量・投与期間が相違しないことは前記のとおりであり、補正発明には、ほかに、「テストステロンのレベルが去勢範囲にならないように」維持するための技術的事項がなんら開示されておらず、血中テストステロンのレベルを去勢範囲にならないようにという、医師が、医薬を用いての具体的な治療に際して、個々の患者毎に考慮すべき事項が記載されていないことのみをもって、補正発明が、引用発明と実質的に区別されるものとすることはできない。

なお、本願明細書には、セトロレリックス単独投与の臨床試験については、引用発明と同じ、1mg/日で、28日間(4週間)投与する例が示されているにずぎず、セトロレリックスを6ヶ月後に再開する構成についての具体的な説明、すなわち、投与量、投与期間、テストステロンレベルが去勢範囲でないこと、のいずれも記載されていない。

したがって、当該構成によって、補正発明が引用発明と区別されるものではない。
以上のとおり、補正発明と引用発明における、一応の相違点に係る構成は、いずれも両発明を実質的に区別する構成とはいえないから、補正発明は、引用発明と実質的に同一である。

したがって、補正発明は、引用文献に記載された発明と実質的に同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年10月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は(以下、「本願発明」という。)、平成16年6月24日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの[前記2.(1)]である。
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記2.で検討した補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「医薬品」について、「副作用の少ない長期持続性の」との限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する発明は、上記2.(3)に記載したとおり、引用文献に記載された発明と実質的に同一の発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載された発明と同一の発明である。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
 
審理終結日 2007-12-04 
結審通知日 2007-12-06 
審決日 2007-12-26 
出願番号 特願平10-513204
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 星野 紹英
谷口 博
発明の名称 前立腺肥大及び前立腺癌を治療する手段  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  

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