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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1178173
審判番号 不服2004-20818  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2008-05-15 
事件の表示 平成11年特許願第240034号「電子回路およびその調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月 6日出願公開、特開2000-156627〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年8月26日(優先権主張平成10年9月18日)の出願であって、平成16年9月3日付けで拒絶査定され、これに対し、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月8日付けで手続補正がされたものであり、当審において平成19年10月31日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成20年1月15日付けで手続補正がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年1月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】 特性に製造時のバラツキを持つ複数の回路素子を具えて所定の基本的機能を奏する電子回路において、
前記複数の回路素子の中の、前記所定の基本的機能を奏する基本的回路に関連する特定の複数の回路素子が、制御信号が示す値に応じて素子パラメータを変化させる回路素子で構成されており、
前記電子回路が、前記特定の複数の回路素子に与える複数の制御信号を保持する複数の保持回路を具え、
前記複数の保持回路が、それらの保持回路が保持する前記複数の制御信号の値を、外部装置が前記複数の制御信号の値にそれぞれ対応するデジタル値を繋げてなる染色体を用いて遺伝的アルゴリズムに従って前記制御信号の値を初期設定値から順次に変更して探索した、前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態となる最適値に変更されるものであり、
前記素子パラメータを変化させる回路素子の特性の製造時のバラツキに応じて前記制御信号の変更の程度が設定されることを特徴とする、電子回路。

3.刊行物記載発明
(1)刊行物1記載発明
当審における平成19年10月31日付け拒絶理由通知に引用された、特開平09-046178号公報(平成9年2月14日出願公開。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が開示されている。(なお、1、2、3、及び4を○で囲む文字を、それぞれ「○1」、「○2」、「○3」、及び「○4」と表記した。)

【0004】図18はIIR型(直接型)フィルタのブロック図であり、1_(1)?1_(M)は入力信号x(nT)を順次1サンプリング時間遅延する遅延部、2_(1)?2_(N)は出力を順次1サンプリング時間遅延する遅延部、3_(0)?3_(M)は係数b_(0)?b_(N)を入力信号及び遅延部11?1Mの出力に乗算する乗算部、4_(1)?4_(N)は係数a_(1)?a_(N)を遅延部2_(1)?2_(N)の出力に乗算する乗算部、5は各乗算部出力を合成して信号y(nT)を出力する加算部である。直接型フィルタの出力信号y(nT)は次式



で与えられる。但し n<0の場合はx(nT)=y(nT)=0である。…(後略)…

【0007】従って、何らかの探索アルゴリズムを用いる必要がある。しかし、勾配を用いるような従来の探索手法を用いることは適さない。なぜならば、フィルタ係数は量子化されるため不連続な値を取るからである。以上から、本発明の目的は、所望の周波数特性からの変化量(劣化)が小さくなるように、量子化されたディジタルフィルタの係数を決定する方法を提供することである。本発明の別の目的は、GA(Genetic Algorithm:遺伝的アルゴリズム)に基づいて、多数の解候補より所望の周波数特性により近い特性を示す解を探索してディジタルフィルタの係数を決定する方法を提供することである。尚、遺伝的アルゴリズムGAは探索アルゴリズムの一つであり、(1)広域探索において有効に作用し、(2)適応度以外には微分値などの派生的な情報が必要でなく、(3)しかも、応用の際、容易な実装性を持つ、アルゴリズムである。

【0014】
【実施例】
(A)遺伝的アルゴリズムの概略
図1は遺伝的アルゴリズムの概略フロー図、図2は遺伝的アルゴリズムにおける個体表現説明図である。遺伝的アルゴリズムGAにおいて、各個体(探索点)の形質は染色体として表わされる(図2参照)。染色体は遺伝子により構成され、各遺伝子は個体の部分形質を表現する。各個体の染色体は後述する各GA操作が有効に行われるように表現する必要がある。更に、問題の解候補をすべて探索範囲とするために、全ての解候補を表現できる必要があり、また染色体で表現可能な個体は冗長な探索を防ぐため、全て解候補であることが望ましい。
【0015】遺伝的アルゴリズムGAにおいては、個体の初期集団を乱数を用いて作成する(ステップ101)。但し、何らかの予備知識が存在する場合には、適応度が高いと思われる個体を初期集団として作成する。初期集団内に存在しない遺伝子は突然変異によってのみ発生する。このため初期集団の作成法が探索効率に大きく影響する場合がある。ついで、個体の適応度を評価する(ステップ102)。適応度は各個体の染色体が表す形質の評価である。この適応度の評価関数を任意に決定できることがGAの特徴の一つである。また、この適応度を用いて選択を行なうために評価関数の設定が探索の効率に大きく影響する。 各個体について適応度が求まれば、探索点集合(最初は、初期集団)から個々の適応度や探索の進み具合などに応じて次世代の個体の基となる個体を選択する(選択淘汰、ステップ103)。尚、選択法によっては、特定の遺伝子が急速に広がり局所解ですらない同一の個体で占められてしまう初期収束の問題が生じる場合がある。
【0016】しかる後、選択操作によって選ばれた複数の個体からなる個体群から所定の発生頻度で2つの親個体を選択し染色体を組み変えて、子の染色体を作る(交差、ステップ104)。交差によって作成された新しい個体は基となる複数の親の形質を継承していることが重要である。交差処理後、突然変異操作により遺伝子を一定の確率で変化させる(突然変異、ステップ105)。突然変異はあまり頻繁に発生すると、ランダムサーチ化してしまう。しかし、初期集団の遺伝子の組み合わせ以外の染色体の作成には、突然変異による遺伝子の変化が必要である。上記ステップ102?105を終了条件が満たされるまで繰返し(ステップ106)、該条件が成立すると探索処理を終了する。
【0017】以上が一般的な遺伝的アルゴリズムGAの概略であり、かかる遺伝的アルゴリズムGAをディジタルフィルタの係数決定に適用するには、以下の項目をフィルタ係数決定用に変形あるいは実現する必要がある。
・個体の形質表現
・初期集団の作成法
・適応度の評価関数
・選択淘汰方法
・交差方法
・突然変異方法
・探索終了条件
・個体数
【0018】(B)本発明の実施例
図3は例えばM=N=10の直接型ディジタルフィルタ(図18参照)の係数値を遺伝的アルゴリズムGAに基づいて決定する本発明の実施例構成図である。11は計算機により算出された21個の係数値b_(0)?b_(10),a_(1)?a_(11)を入力され、これら係数値を用いて個体の初期集団を作成する初期集団作成部、12は各個体の安定/不安定を判別する安定判別部、13は評価関数に基づいて各個体の適応度を計算する適応度算出部であり、個体が安定か、不安定かに応じて異なる評価関数が用意されている。14は探索終了判定部であり、適応度が変化しなくなったとき、あるいは探索回数が設定回数になったとき探索終了と判定するもの、15は探索終了により探索された個体(適応度が最高の個体)の21個の係数値を出力するフィルタ係数出力部、16は適応度の高い個体を選択する選択淘汰処理部、17は選択された個体(親)の係数値を入れ替える交差処理部、18は個体の係数値を所定の規則に従って変異させる突然変異処理部である。
【0019】(a) 初期集団作成部
1) 個体の形質表現
本発明では、図4に示すように量子化されるフィルタ係数を遺伝子として用い、その1次元配列を染色体として扱う。従って、フィルタ形状が変化しても、遺伝子長を乗算器数に合わせて変更するだけで用いることができる。各遺伝子は2を底とした浮動小数点を用いる。ただし、符号(sign)に1ビット、指数部(exp)にm(任意)ビット及び、仮数部(frac)にn(任意)ビットを与える。指数部は最大値がexp_max(指数部を3ビットで表現する実験では2を、5ビットで表現する実験では10を使用)になるようにオフセットを用いる。…(後略)…

【0020】2) 初期集団の作成法
一般に初期値は決められた個体数の染色体をランダムに生成するが、参照モデルの各フィルタ係数(計算機により求めたフィルタ係数)が既知であるため、この値を利用して初期集団を作成する。…(後略)…
【0021】…(中略)…従って、本実験では個体数を60に定める。以上より、初期集団作成部11は、上記○1○2○3により個体を生成すると共に、○4により多数の個体(トータルの個体数を60個とすれば57個)を生成し、○1○2○3の個体と組み合わせて60個の個体からなる初期集団を作成する。
【0022】(b) 安定判別部
安定判別部12は量子化された各個体(フィルタ)の安定判別を行う。安定判別は、たとえば個体のインパルス応答に注目して行う。…(後略)…
【0023】(c) 適応度算出部
適応度算出部13は、各個体の適応度を評価関数を用いて算出する。不安定な個体の適応度を0とせずに不安定な度合に応じた値となるようにする、これにより、解候補内に安定な系が得られなかった場合でも、探索を続けることが可能になる。…(後略)…

【0026】(d) 探索終了判定部
探索終了の条件は、実験では各世代における個体の最大適応度が50世代連続して改善されないこと、及び、探索が1000世代まで達したことである。…(後略)…

【0028】(e) 選択淘汰処理部
選択淘汰処理部16は、適応度の高い60%の個体において、一般的である適応度比例戦略にエリート保存戦略を組み合わせて選択淘汰処理を実行する。ただし、最大の適応度が減小した場合、前世代における最大適応度の個体を新しい個体として加えるのではなく、最も適応度の低い個体と入れ換えることにより個体数の増加を防ぐ。60%の値は実験を行なった結果、50%以下では安定した探索が行なわれない場合があるからである。図7は選択淘汰処理の説明図である。選択淘汰処理部16(図3)は個体群を構成するN個の個体を取り込み、それぞれの個体の適応度を高い順に
個体1(I_(1))、個体2(I_(2))、・・・、個体N(I_(N))
と個体の数(=N)だけ並べる。このように配列した個体の内、適応度が高い順に全体の60%のものだけを選択し、それ以外の残り40%の個体は淘汰する。
【0029】交差処理部17、突然変異処理部18は、選択されて残った個体を用いて後述する交差、突然変異を施して新たな個体を作り、トータルの個体数をN個にする。ここで、交差に用いられる元の個体の使用頻度は適応度に比例する確率で選択する。次に、所定の突然変異が施されてできた新しい個体群の全てのN個の個体について適応度算出部13で適応度を計算し、適応度の高い順にそれぞれ
個体1(I′_(1))、個体2(I′_(2))、・・・、個体N(I′_(N))
と個体の数(=N)だけ並べる。ついで、今回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I′_(1))と前回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I_(1))との間で適応度の大小を比較する。I_(1)>I′_(1)の場合には、すなわち、今回の最大適応度I′_(1)が前回の最大適応度I_(1)より小さい場合には、新しい個体群の中で最も適応度の低い個体60(I′_(60))を捨て、代わりに前回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I_(1))を新しい個体群の中の個体として入れる処理を行う。これにより、常に、新しい個体群の最大の適応度が元の個体群の最大の適応度以上にする。以上により新しい個体群が作り出される。そして、この操作を繰返し行うことにより、遺伝的アルゴリズムが実行される。
【0030】図8は、選択淘汰の処理フローである。選択淘汰処理部16は個体群を構成するN個の個体を取り込み(ステップ401)、それぞれの個体の適応度を高い順に
個体1(I_(1))、個体2(I_(2))、・・・、個体N(I_(N))
と個体の数(=N)だけ並べ替える(ステップ402)。ついで、このように配列した個体の内、適応度が高い順に全体の60%のものだけを選択し、それ以外の残り40%の個体は淘汰する(ステップ403)。この様にして選択された個体群は所定の発生頻度に従った次世代の親個体として使用される。
【0031】(f) 交差処理部
交差の一般的なものとして、一点交差、多点交差、一様交差などが存在する。交差処理部17はその一つである一様交差に基づいて交差処理を実行する。一様交差は、2つの別の個体から新しい個体を作り出すために用いるもので、親となるそれぞれの個体の性質を引き継ぐために染色体に含まれる遺伝子がいずれかの親と全く同じになる別の個体を作る。…(後略)…

【0034】(g) 突然変異処理部
突然変異は突然変異確率に応じて行なわれるだけでなく、同じ世代にすでに全く同じ遺伝子を持つ個体が存在する場合には該個体に対しても行う。…(後略)…

【0036】…(中略)…以後、新たに生成したN個の個体からなる個体群に対して、適応度算出処理、探索終了判定処理、選択淘汰処理、交差処理、突然変異処理を繰り返す。

これらの記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されている。

入力信号x(nT)を順次1サンプリング時間遅延する遅延部1_(1)?1_(M)、出力を順次1サンプリング時間遅延する遅延部2_(1)?2_(N)、係数b_(0)?b_(N)を入力信号及び遅延部1_(1)?1_(M)の出力に乗算する乗算部3_(0)?3_(M)、係数a_(1)?a_(N)を遅延部2_(1)?2_(N)の出力に乗算する乗算部4_(1)?4_(N)、各乗算部出力を合成して信号y(nT)を出力する加算部5からなるIIR型(直接型)フィルタの係数値を決定する、デジタルフィルタの係数決定方法であって、
M=N=10の直接型ディジタルフィルタの係数値を遺伝的アルゴリズムGAに基づいて決定するものであり、計算機により算出された21個の係数値b_(0)?b_(10),a_(1)?a_(11)を入力し、係数値を用いて個体の初期集団を作成する初期集団作成部11、各個体の安定/不安定を判別する安定判別部12、評価関数に基づいて各個体の適応度を計算する適応度算出部13、探索終了判定部14、探索終了により探索された個体(適応度が最高の個体)の21個の係数値を出力するフィルタ係数出力部15、適応度の高い個体を選択する選択淘汰処理部16、選択された個体(親)の係数値を入れ替える交差処理部17、個体の係数値を所定の規則に従って変異させる突然変異処理部18を備え、
量子化されるフィルタ係数を遺伝子として用い、その1次元配列を染色体として扱い、各遺伝子は2を底とした浮動小数点を用い、
初期集団作成部11は、60個の個体からなる初期集団を作成し、
適応度算出部13は、各個体の適応度を評価関数を用いて算出し、
選択淘汰処理部16は、個体群を構成するN個の個体を取り込み、それぞれの個体の適応度を高い順に、個体1(I_(1))、個体2(I_(2))、・・・、個体N(I_(N))、と個体の数(=N)だけ並べ替え、ついで、このように配列した個体の内、適応度が高い順に全体の60%のものだけを選択し、それ以外の残り40%の個体は淘汰し、この様にして選択された個体群は所定の発生頻度に従った次世代の親個体として使用され、
交差処理部17、突然変異処理部18は、選択されて残った個体を用いて交差、突然変異を施して新たな個体を作り、トータルの個体数をN個にし、所定の突然変異が施されてできた新しい個体群の全てのN個の個体について適応度算出部13で適応度を計算し、適応度の高い順にそれぞれ個体の数(=N)だけ並べ、今回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I′_(1))と前回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I_(1))との間で適応度の大小を比較し、今回の最大適応度I′_(1)が前回の最大適応度I_(1)より小さい場合には、新しい個体群の中で最も適応度の低い個体60(I′_(60))を捨て、代わりに前回の個体群の中で最も適応度が高い個体1(I_(1))を新しい個体群の中の個体として入れる処理を行い、常に、新しい個体群の最大の適応度が元の個体群の最大の適応度以上にし、新しい個体群を作り出し、この操作を繰返し行うことにより、遺伝的アルゴリズムが実行され、
探索終了判定部14は、各世代における個体の最大適応度が50世代連続して改善されないこと、及び、探索が1000世代まで達したときを、探索終了の条件とし、
以後、新たに生成したN個の個体からなる個体群に対して、適応度算出処理、探索終了判定処理、選択淘汰処理、交差処理、突然変異処理を繰り返し、
多数の解候補より所望の周波数特性により近い特性を示す解を探索してディジタルフィルタの係数を決定するデジタルフィルタの係数決定方法。

(2)刊行物2記載発明
当審における平成19年10月31日付け拒絶理由通知に引用された、特開平05-121503号公報(平成5年5月18日出願公開。以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の技術事項が開示されている。

【0011】図1は本発明の一実施例を示す半導体集積回路のブロック図である。図1に示すように、本実施例はバイポーラ部とMOS部が混在する集積回路において、バイポーラ部の回路で発生するばらつきをMOS部に作り込んだP-ROMを用いいてキャンセルさせるものである。すなわち、P-ROMに対して製造後書き込んだデータを基にD/A変換した信号を用いてキャンセルさせる。本実施例では高精度特性を実現するために調整または合せ込みを必要とする増幅器5を備えたフィルター回路ブロック1と、この増幅器5を調整する電圧電流変換回路2と、データ保持用のP-ROM4と、このP-ROM4のデータをD/A変換してV/I変換部2へ供給するD/A変換器3とを有している。また、INはフィルタ回路1の入力端子、OUTは出力端子である。特に、本実施例はかかるフィルター回路ブロック1の遮断周波数fcを調整するための構成例である。
【0012】かかるフィルター回路ブロック1の遮断周波数fcは増幅器5の相互コンダクタンスGmとコンデンサ-Cの容量で決まり、しかもこの相互コンダクタンスGmはV/I変換部2から増幅器5に流す電流iによって可変することが出来る。それ故、集積回路の製造工程時に発生する素子特性のばらつきによりフィルター回路ブロック1の遮断周波数fcに誤差が生じても、ウェハー時の検査または組立後の選別工程時に適当なデジタル信号をP-ROM4に書き込んでおくことにより、そのデータをD/A変換器3によりD/A変換し、更にV/I変換部2で電圧電流変換すれば、適切な電流iを得ることができる。

これらの記載によれば、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2記載発明」という。)が記載されている。

高精度特性を実現するために調整または合せ込みを必要とする増幅器5を備えたフィルター回路ブロック1と、この増幅器5を調整する電圧電流変換回路2と、データ保持用のP-ROM4と、このP-ROM4のデータをD/A変換してV/I変換部2へ供給するD/A変換器3とを有し、
フィルター回路ブロック1の遮断周波数fcは増幅器5の相互コンダクタンスGmとコンデンサ-Cの容量で決まり、しかもこの相互コンダクタンスGmはV/I変換部2から増幅器5に流す電流iによって可変することが出来、それ故、集積回路の製造工程時に発生する素子特性のばらつきによりフィルター回路ブロック1の遮断周波数fcに誤差が生じても、ウェハー時の検査または組立後の選別工程時に適当なデジタル信号をP-ROM4に書き込んでおくことにより、そのデータをD/A変換器3によりD/A変換し、更にV/I変換部2で電圧電流変換すれば、適切な電流iを得ることができる、
フィルター回路ブロック1の遮断周波数fcを調整する装置。

4.対比
本願発明を、刊行物1記載発明と比較する。
刊行物1記載発明の「遅延部1_(1)?1_(M)、遅延部2_(1)?2_(N)、乗算部3_(0)?3_(M)、乗算部4_(1)?4_(N)、及び加算部5」、及び「IIR型(直接型)デジタルフィルタ」は、それぞれ、本願発明の「複数の回路素子」、及び「複数の回路素子を具えて所定の基本的機能を奏する基本的回路」に相当する。
また、刊行物1記載発明において、デジタルフィルタの係数値は、乗算部3_(0)?3_(M)及び乗算部4_(1)?4_(N)において乗算が行われる際のパラメータであると認められるから、刊行物1記載発明の「乗算部3_(0)?3_(M)及び乗算部4_(1)?4_(N)」は、本願発明の「複数の回路素子の中の、前記所定の基本的機能を奏する基本的回路に関連する特定の複数の回路素子」に相当し、刊行物1記載発明と、本願発明とは、前記特定の複数の回路素子が、「素子パラメータを変化させる回路素子で構成」される点で一致する。
刊行物1記載発明は、多数の解候補より所望の周波数特性により近い特性を示す解を探索してディジタルフィルタの係数を決定するものであり、量子化されるフィルタ係数を遺伝子として用い、その1次元配列を染色体として扱い、各遺伝子は2を底とした浮動小数点を用い、ディジタルフィルタの係数値を遺伝的アルゴリズムGAに基づいて決定し、探索終了判定部14は、各世代における個体の最大適応度が50世代連続して改善されないこと、及び、探索が1000世代まで達したときを、探索終了の条件としているから、刊行物1記載発明と、本願発明とは、「前記複数の素子パラメータを、前記複数の素子パラメータにそれぞれ対応するデジタル値を繋げてなる染色体を用いて遺伝的アルゴリズムに従って初期設定値から順次に変更して探索した、前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態となる最適値に変更」する点で一致する。

すると、本願発明と、刊行物1記載発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「複数の回路素子を具えて所定の基本的機能を奏する電子回路において、
前記複数の回路素子の中の、前記所定の基本的機能を奏する基本的回路に関連する特定の複数の回路素子が、素子パラメータを変化させる回路素子で構成されており、
前記複数の素子パラメータを、前記複数の素子パラメータにそれぞれ対応するデジタル値を繋げてなる染色体を用いて遺伝的アルゴリズムに従って初期設定値から順次に変更して探索した、前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態となる最適値に変更する、電子回路。」である点。

一方で、両者は次の点で相違する。
<相違点>
本願発明において、「複数の回路素子」は「特性に製造時のバラツキを持つ複数の回路素子」であり、「特定の複数の回路素子」は「制御信号が示す値に応じて」素子パラメータを変化させる回路素子で構成され、「特定の複数の回路素子に与える複数の制御信号を保持する複数の保持回路」を具え、「複数の制御信号の値」を外部装置が遺伝的アルゴリズムに従って初期設定値から順次に変更して探索し、「素子パラメータを変化させる回路素子の特性の製造時のバラツキに応じて前記制御信号の変更の程度が設定される」のに対して、刊行物1記載発明において、そのようなことが明らかでない点。

5.判断
<相違点>について
本願発明を、刊行物2記載発明と比較すると、刊行物2記載発明の「増幅器5及びコンデンサC」、「増幅器5」、「フィルター回路ブロック1」、「相互コンダクタンスGm」、「増幅器5に流す電流i」、及び「P-ROM4」は、それぞれ、本願発明の「特性に製造時のバラツキを持つ複数の回路素子」、「特定の回路素子」、「所定の基本的機能を奏する電子回路」、「素子パラメータ」、「制御信号」、及び「保持回路」に相当する。
また、刊行物2記載発明において、集積回路の製造工程時に発生する素子特性のばらつきによりフィルター回路ブロック1の遮断周波数fcに誤差が生じても、高精度特性を実現するために、適当なデジタル信号をP-ROM4に書き込んでおくことにより、そのデータをD/A変換器3によりD/A変換し、更にV/I変換部2で電圧電流変換すれば、適切な電流iを得ることができるから、刊行物2記載発明において「遮断周波数fc」の高精度特性を実現することは、本願発明の「前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態」とすることに相当する。また、刊行物2記載発明が、適当なデジタル信号をP-ROM4に書き込むための「外部装置」を備え、該外部装置は、制御信号の値を変更して、「前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態となる最適値に変更」するものであり、「前記素子パラメータを変化させる回路素子の特性の製造時のバラツキに応じて前記制御信号の変更の程度が設定される」ことは明らかである。

よって、刊行物2記載発明を、本願発明の用語で表現すると、次のようになる。

特性に製造時のバラツキを持つ複数の回路素子を具えて所定の基本的機能を奏する電子回路において、
前記複数の回路素子の中の、前記所定の基本的機能を奏する基本的回路に関連する特定の回路素子が、制御信号が示す値に応じて素子パラメータを変化させる回路素子で構成されており、
前記電子回路が、前記特定の複数の回路素子に与える制御信号を保持する保持回路を具え、
前記保持回路が、それらの保持回路が保持する前記制御信号の値を、外部装置が変更した、前記電子回路の基本的機能が所定の仕様を満たす状態となる最適値に変更されるものであり、
前記素子パラメータを変化させる回路素子の特性の製造時のバラツキに応じて前記制御信号の変更の程度が設定される、電子回路。

そうすると、刊行物1記載発明の「特定の複数の回路素子」について、製造工程時に素子特性のばらつきが発生しても、高精度特性を実現するために、刊行物2記載発明を適用することにより、「特定の複数の回路素子に与える複数の制御信号を保持する複数の保持回路」を具え、制御信号が示す値に応じて素子パラメータを変化させ、「複数の制御信号の値」を外部装置が遺伝的アルゴリズムに従って初期設定値から順次に変更して探索し、「素子パラメータを変化させる回路素子の特性の製造時のバラツキに応じて前記制御信号の変更の程度が設定される」ものとすることは、刊行物1記載発明及び刊行物2記載発明から当業者が容易に想到し得ることである。

また、前記<相違点>によって生じる作用効果も当業者が予測し得るものである。
したがって、本願発明は、刊行物1記載発明及び刊行物2記載発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-12 
結審通知日 2008-03-18 
審決日 2008-03-31 
出願番号 特願平11-240034
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 進  
特許庁審判長 大日方 和幸
特許庁審判官 重田 尚郎
田中 友章
発明の名称 電子回路およびその調整方法  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 興作  
代理人 来間 清志  
代理人 澤田 達也  

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