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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1178398
審判番号 不服2004-11677  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-09 
確定日 2008-05-23 
事件の表示 平成8年特許願第11585号「液状診断薬の保存方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年8月5日出願公開、特開平9-201397号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年1月26日の出願であって、平成16年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月7日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2 平成16年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の、平成16年3月19日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「酵素および/または指示試薬を含有する液状診断薬を脱酸素剤の存在下に気密容器で密閉するに際し、該液状診断薬または該脱酸素剤の少なくとも一方が酸素を透過しやすくかつ溶液を透過しない材質からなる隔離容器で覆い、該液状診断薬と該脱酸素剤とが実質的に混ざり合わない状態とすることを特徴とする液状診断薬の保存方法。」
から、
「酵素を含有する液状診断薬を脱酸素剤の存在下に気密容器で密閉するに際し、該液状診断薬または該脱酸素剤の少なくとも一方が酸素を透過しやすくかつ溶液を透過しない材質からなる隔離容器で覆われ、該液状診断薬と該脱酸素剤とが実質的に混ざり合わない状態であることを特徴とする液状診断薬の保存方法。」
に補正された。

2 補正の目的
請求項1に対してなされた本件補正は、請求項1に記載された発明特定事項である「液状診断薬」に関し、「酵素および/または指示試薬を含有する」から「酵素を含有する」に限定するものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明は本件補正前の請求項1に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特公平5-33632号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「〔問題点を解決するための手段〕
本発明による輸液剤の包装体は、アミノ酸および還元糖を含有した水溶
液からなる輸液剤が気体透過性を有する医療用一次容器に充填され、該医
療用一次容器に充填された輸液剤が脱酸素剤と共に、実質的に酸素を透過
しない二次包装容器内に収納されてなることを特徴とするものである。」
(第2ページ第3欄第41行?第4欄第3行)
イ 「輸液剤を直接充填して収納する気体透過性の医療用一次容器としては
、従来使用されているポリ塩化ビニル樹脂または架橋されたエチレン-酢
酸ビニル共重合体樹脂(架橋EVA)製のボトルまたはバツグを使用する
ことができる。
上記の一次容器内に充填された輸液剤を、脱酸素剤と共に収納する気体
難透過性の二次包装容器としては、温度20℃、相対湿度60%における酸
素透過度が1.0cc/m^(2)/24時間以下のものが望ましい。」(第2ページ
第4欄第16行?25行)
ウ 「即ち、合成樹脂製のボトルまたはバツグの材料として、従来使用され
ている塩化ビニル樹脂、架橋EVA等は何れも通気性を有している。この
ため、容器を通して分子状酸素が輸液剤中に溶解し、この溶存酸素がメイ
ラード反応を促進するものである。」(第3ページ第5欄第30行?35
行)
エ 「〔発明の効果〕
以上詳述したように、本発明によればアミノ酸および還元糖を含有する
輸液剤を長期に亙つてメイラード反応による褐変等の経時的変化を抑制で
き、保存安定性を向上できる等、顕著な効果が得られるものである。」(
第4ページ第8欄第21行?26行)

ここで、引用例1には、保存安定性を向上させた輸液剤の包装体が記載されているのであるから、実質的には、輸液剤の保存方法に関する発明が記載されているものといえる。
そして、これらの記載事項「ア」ないし「エ」を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「輸液剤を脱酸素剤の存在下に気体難透過性の二次包装容器内に収納するに際し、該輸液剤が気体透過性を有する材料の医療用一次容器に充填され、該医療用一次容器と該脱酸素剤とを前記二次包装容器内に収納する、輸液剤の保存方法。」

また、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭63-24900号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
オ 「補酵素としてアデノシン三リン酸及びニコチンアミド-アデニンジヌ
クレオチドを用い、補酵素を過剰に存在させて行うグルコース検定におけ
るグルコース定量用であり、
(a)少なくとも約60%(v/v)の水
(b)水と混合できる約20?約40%(v/v)のポリオール有機溶媒
(c)ヘキソキナーゼ酵素、
(d)グルコース-6-リン酸脱水素酵素、
(e)約2℃から約8℃の範囲の温度で貯蔵したとき少なくとも2年の貯
蔵寿命を有するのに十分な少なくとも0.5mMの重金属イオンキレート
剤からなる安定剤系
からなる成分ではじめに調製された貯蔵寿命の長い均質液体酵素試薬。」
(特許請求の範囲、請求項1)
カ 「安定剤系が酸化防止剤かならる請求の特許範囲第1項記載の酵素試薬
。」(特許請求の範囲、請求項3)
キ 「グルコースの定量は測定反応においてNADHが形成される速度を測
定することにより行われる。上記の反応式は、血清、血漿、血液全体、脳
液/骨髄液、及び尿などの体液中のグルコースの濃度が高いのは糖尿病に
伴なったものであることが指摘された場合の臨床検定に広く用いられてい
る。」(第8ページ右下欄下から第3行?第9ページ左上欄第4行)

そして、これらの記載事項「オ」ないし「キ」を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「安定剤系として酸化防止剤を用いた、臨床検定に用いられる液体酵素試薬。」

(2)対比・判断
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「脱酸素剤」は、その構造または機能からみて、本願補正発明の「脱酸素剤」に相当し、同様に、引用発明1の気体難透過性の「二次包装容器内」は本願補正発明の「気密容器」に、引用発明1の「医療用一次容器」は本願補正発明の「隔離容器」にそれぞれ相当し、引用発明1の「収納する」は本願補正発明の「密閉する」と、引用発明1の「充填され」は本願補正発明の「覆われ」と同義である。
また、引用発明1の「医療用一次容器」は、気体透過性を有し酸素を透過する材料で構成されていること(引用例1の記載事項「イ」及び「ウ」参照。)、輸液剤を充填して用いるものであることからみて、酸素を透過しやすくかつ溶液を透過しない材質からなるものといえる。
そして、脱酸素剤は、酸素を吸収して一緒に保存される物品の酸化を防止する薬剤であることは技術常識であるから、脱酸素剤と共に収納(密閉)される引用発明1の「輸液剤」と本願補正発明の「酵素を含有する液状診断薬」とは、どちらも酸化を防止しながら保存する液状薬剤である点で共通するといえる。
さらに、引用発明1においては、液状薬剤(輸液剤)が医療用一次容器に充填された状態で脱酸素剤と共に二次包装容器内に収納されているのであるから、液状薬剤(輸液剤)と脱酸素剤(脱酸素剤)とが実質的に混ざり合わない状態であるといえる。
そうすると、引用発明1と本願補正発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「液状薬剤を脱酸素剤の存在下に気密容器で密閉するに際し、該液状薬剤が酸素を透過しやすくかつ溶液を透過しない材質からなる隔離容器で覆われ、該液状薬剤と該脱酸素剤とが実質的に混ざり合わない状態である液状薬剤の保存方法。」
(相違点)
酸化を防止しながら保存する液状薬剤に関し、本願補正発明においては「酸素を含有する液状診断薬」であるのに対し、引用発明1においては「輸液剤」である点。

上記相違点について検討する。
引用発明2の「液体酵素試薬」は、「臨床検定に用いられる」ものであるから、本願補正発明における「酵素を含有する液状診断薬」に相当する。
そして、引用発明2における「安定剤系」は、安定化させる薬剤の総称であること、また、引用発明2における「酸化防止剤」は、酸化を防止する薬剤であることは、それらの名称より当業者には明らかであるから、引用発明2は、酸素を含有する液状診断薬の酸化を防止して安定化させる発明であるといえる。
そうすると、酸化を防止しながら保存する液状薬剤を、引用発明2の「酵素を含有する液状診断薬」とし、相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に相当し得たことといえる。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成16年3月19日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであって、前記「第2 1」に記載したとおりのものである。

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、引用例1には、前記「第2 3(1)」に記載したとおりの事項が記載されている。

さらに、原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭59-116233号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
1 「本発明は映像用及び分析評価用に使われる放射線診断試薬の調製に有
用な組成物に関する。更に詳細には、本発明はテクネチウムを必須要素と
する良質の組織映像用試薬を調製する際に使われる組成物並びに方法に関
する。
ほかの組織を映像化する為に使われるシンチグラフイツクな(放射活性
トレーサーとシンチレーターを用いた)骨格映像技術並びに類似の放射線
写真技術は、生物学的医学研究並びに診断方法に於いて、常にその需要が
増加しているのである。・・・(中略)・・・被検出放射性物質の分布と
その比強度は、放射線核種が局在する組織の位置を示すのみならず、異常
や病的状態等の存在もまた表示する。
概して、使用される放射性核種の型と目的の器官にも依るが、病院で使
われるシンチグラフイツクな映像用試薬は放射性核種、特定の標的器官用
の担体化合物、放射性核種を担体に付着させる種々の補助剤、患者に注射
投与したり吸引させたりするのに適当な水又は他の注射用賦形剤、生理学
的緩衝剤、生理学的塩等からなる。」(第2ページ右上欄第11?左下欄
第18行)
2 「本発明の組織映像用試薬は、放射性核種としてテクネチウム-99^(m) を含み、このテクネチウム-99^(m)は組織特異性担体と複合体を成してい
るか又は配位結合を成している。」(第2ページ右下欄第7?10行)
3 「このようなテクネチウムを含有するシンチグラフイツクな映像用試薬
は酸素中で不安定であることが知られているが、これは主に、還元体及び
/又はテクネチウムが酸化されることによつて、還元されたテクネチウム
と組織特異性担体との複合体が壊されることが原因となつている。従つて
、映像用試薬は通例、その組成物を酸素無含有窒素ガスで飽和するか又は
該試薬を酸素無含有雰囲気中で調整するかの方法で、酸素を含まない形と
されている。」(第3ページ右上欄第5?14行)

これらの記載事項「1」ないし「3」を総合すると、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「酸素中で不安定である、テクネチウムを含有する放射線診断試薬。」

第5 対比・判断
引用発明1と本願発明との一致点は、前記「第2 3 (2)」に記載した引用発明1と本願補正発明との一致点と同じであり、相違点は以下のとおりである。
(相違点)
酸化を防止しながら保存する液状薬剤に関し、本願発明においては「酸素および/または指示試薬を含有する液状診断薬」であるのに対し、引用発明1においては「輸液剤」である点。

上記相違点について検討する。
引用発明3において、テクネチウムは放射性核種として用いられるもの(引用例3の記載事項「2」参照。)であって、放射性核種の分布によって組織の映像化が行われる(引用例3の記載事項「1」参照。)から、テクネチウムは一種の指示試薬であるといえ、また、放射線診断試薬は、患者に注射投与される(引用例3の記載事項「1」参照。)ことから、液状であることは明らかであるから、引用発明3の「テクネチウムを含有する放射線診断試薬」は、本願発明における「指示試薬を含有する液状診断薬」に相当する。
そして、引用発明3の「テクネチウムを含有する放射線診断試薬」は「酸素中で不安定である」から、酸化を防止しながら保存する液状薬剤を「テクネチウムを含有する放射線診断試薬」(指示試薬を含有する液状診断薬)とし、相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に相当し得たことといえる。

そして、本願発明による効果も、引用発明1及び引用発明3から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-19 
結審通知日 2008-03-25 
審決日 2008-04-07 
出願番号 特願平8-11585
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61J)
P 1 8・ 113- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 中田 誠二郎
仲村 靖
発明の名称 液状診断薬の保存方法  
代理人 岩橋 和幸  

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