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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D21H
管理番号 1178418
審判番号 不服2005-10233  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-28 
確定日 2008-05-19 
事件の表示 特願2004- 97966「撥水加工紙の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-188016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月30日(優先権主張 平成15年12月5日)の出願であって、平成16年9月22日付けの拒絶理由通知に対して、同年12月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成17年2月24日に意見書及び手続補正書が提出された後、同年3月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成17年2月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「シリコーン及び/又は含フッ素化合物を含んだ撥水剤を有機溶剤、水、又はそれらの混合物に溶解または分散させたものを水に分散可能な紙の表面に噴霧して乾燥させることを特徴とする水分散性撥水加工紙の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

(2)原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本願に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないということを含むものであり、その拒絶理由に引用された特開平7-229066号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がなされている。

(3)引用文献等及びその記載事項
(a-1)「【請求項1】下記条件を満足するフッ素樹脂(以下(a)成分と言う) 0.1?5重量%、炭素数1?3のアルコール(以下(b) 成分と言う)90?99.89 重量%及び第4級アンモニウム塩(以下(c) 成分と言う)0.01?5 重量%を含有することを特徴とする撥水剤組成物。
条件
エタノールに対し1重量%の(a) 成分を添加して得られた組成物中へ、JIS-L-1096規定の6.23.1のA法(但し、乾燥方法はドリップ乾燥とする)に従い、前処理したポリエステル布を浸漬し、ついで20℃、65%相対湿度の環境下24時間乾燥させたポリエステル布について、JIS-L-1092規定の方法に従い、撥水試験(スプレー法)を行った場合において、90点以上の撥水性が得られること。」(特許請求の範囲、請求項1)
(a-2)「【請求項4】請求項1?3のいずれかの項記載の撥水剤組成物を、その内部に充填した液体をその外部へ噴霧する装置を具備した容器の中へ、充填してなる撥水剤物品。
【請求項5】請求項4記載の撥水剤物品を使用し、請求項1?3のいずれかの項記載の撥水剤組成物を、撥水処理されるべき対象物に対し噴霧することを特徴とする撥水処理方法。」(特許請求の範囲、請求項4及び5)
(a-3)「〔撥水剤物品〕以上説明した本発明の撥水剤組成物は、好ましくは、その内部に充填した液体をその外部へ噴霧する装置を具備した容器の中へ、充填してなる撥水剤物品の形態で撥水処理に使用される。このような本発明の撥水剤物品を用いることにより、一層、撥水処理時のむら付きを抑制し、且つ部分的に撥水処理をされる対象物に対し、極めて有効に撥水処理を行なうことができる。本発明の撥水剤物品に用いられる、内部に充填した液体を外部へ噴霧する装置を具備した容器としては、例えばエアゾル式容器、トリガー式容器又は手動式ポンプ容器等が例示される。」(段落【0043】)
(a-4)「〔撥水処理方法〕本発明の撥水処理方法は上記の撥水剤物品を使用し、上記の撥水剤組成物を、撥水処理されるべき対象物(以下、対象物と言う)に対し噴霧し、(a)成分を対象物表面上に、むらなく塗布することにより行われる。この場合において、対象物としては特に限定されないが、例えば、繊維織物等に対し特に有利に適用できる。この他、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金物及び酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面およびプラスターなどがある。」(段落【0045】)
(a-5)「【発明の効果】本発明によれば、撥水処理にあたり、撥水効果が優れ、その持続性が高く、且つ処理対象物にシミ残りがない、撥水剤組成物及び該撥水剤組成物を含有する撥水剤物品並びに該撥水剤物品を使用する撥水処理方法を提供することができる。」(段落【0046】)
(a-6)「(II)撥水処理
このように前処理した試験片についてエアゾル容器又はトリガー容器を用い、試験片当り60%o.w.f となるように撥水剤組成物を試験片に20cmの距離より噴霧した。このようにして得られた試験片を20℃、65%相対湿度の環境下、24時間乾燥させた。」(段落【0072】)

(4)引用例1に記載された発明
引用例1には、「フッ素樹脂を 0.1?5重量%、炭素数1?3のアルコール90?99.89 重量%を含有する撥水剤組成物。」(摘記(a-1))、該撥水剤組成物を、「その内部に充填した液体をその外部へ噴霧する装置を具備した容器の中へ、充填してなる撥水剤物品。」(摘記(a-2))、及び、該撥水剤物品を使用し、「撥水処理されるべき対象物に対し噴霧する撥水処理方法。」(摘記(a-2)、(a-3))が記載されており、撥水処理されるべき対象物として、「紙」が挙げられているので(摘記(a-4))、引用例1には、「フッ素樹脂を 0.1?5重量%、炭素数1?3のアルコールを90?99.89 重量%含有する撥水剤組成物を紙に対し噴霧する撥水処理方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(5)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明を対比すると、後者の「フッ素樹脂」は、前者の「含フッ素化合物」に相当し、後者の「炭素数1?3のアルコール」は、その性質からみて前者の「有機溶剤」に相当する。また、後者の「フッ素樹脂」は、撥水作用を有するもの(摘記(a-1)、(a-5))であるから撥水剤であり、後者の「フッ素樹脂を 0.1?5重量%、炭素数1?3のアルコールを90?99.89 重量%含有する撥水剤組成物」は、「その内部に充填した液体をその外部へ噴霧する装置を具備した容器の中へ、充填してなる」(摘記(a-2))ものであって、噴霧されるところからみて、「フッ素樹脂」と「炭素数1?3のアルコール」とは、均一に混合されている必要があるから、「フッ素樹脂」は、「炭素数1?3のアルコール」に「溶解または分散させた」ものと認められる。また、後者において、「撥水剤組成物」は、「紙の表面に噴霧」するものであり、そして、「撥水剤組成物を紙の表面に噴霧する」ことによって、前者の「撥水加工紙」が製造されるものと認められる。
したがって、両者は、「含フッ素化合物を含んだ撥水剤を有機溶剤に溶解または分散させたものを紙の表面に噴霧した撥水加工紙の製造方法。」という点で一致し、下記(a)?(c)の点で、一応の相違がみられる。

[相違点]
(a)撥水剤を有機溶剤に溶解または分散させたものが噴霧される対象物である紙が、本願発明では水に分散可能なものであるのに対して、引用発明では水に分散可能であるか否か不明な点。
(b)本願発明は噴霧された紙を乾燥しているのに対して、引用発明では、噴霧された紙を乾燥させるか否か不明である点。
(c)本願発明では、「水分散性撥水加工紙の製造方法」であって、製造された紙が水分散性であるのに対して、引用発明では製造された紙が、水分散性であるか否か不明な点。

(6)相違点についての判断
(6-1)相違点(a)について
紙が水に分散可能であるか否かについてみれば、通常の紙は、パルパーで離解することができるものであるから、水に分散可能であるといえ、引用発明の「紙」も特別なものではないから、水に分散可能であるといえる。
してみれば、相違点(a)は実質的な相違ではない。
(6-2)相違点(b)について
引用例1の実施例の欄には、撥水処理について試験片に撥水剤組成物を噴霧し、その後、乾燥させたことが記載されている(摘記(a-6))。噴霧処理された対象物は、乾燥させないで状態では、撥水剤が容易に対象物から剥離したり、また、対象物が撥水性能を発揮し得ないものであるから、噴霧処理後は、対象物の乾燥処理が必要である。してみれば、引用発明においても噴霧された紙は乾燥させるものと認められ、相違点(b)も実質的な相違ではない。
(6-3)相違点(c)について
本願明細書には、「本発明において使用される撥水性化合物の濃度は、全体の0.25?10wt%とすることが望ましい。」(段落【0014】)との記載があり、実施例においても、含フッ素化合物であるダイキン工業製ユニダイン(商標登録第2044250号)TG-440及びダイキン工業製ユニダインTG-656の撥水性化合物を濃度0.75?9.0wt%としているところ、引用発明では、噴霧される撥水剤組成物は、フッ素樹脂を0.1?5重量%、炭素数1?3のアルコールを90?99.89 重量%含有するものであり、撥水剤化合物である含フッ素化合物の濃度は同程度である。してみれば、本願発明も引用発明も撥水剤として含フッ素化合物を用いるものであり、含フッ素化合物の濃度(wt%)も異なるものではないから、製造された撥水加工紙の性状である水分散性も大きく異なるものではないとするのが自然であり、引用発明において、製造された撥水加工紙も水分散性であると認められる。
してみれば、相違点(c)も実質的な相違ではない。

(7)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「本願発明は、・・・従来の紙の撥水性加工のメカニズムと異なり表面のフラクタル構造を最大限に応用し、最小限の撥水剤により・・・従来の紙の加工ではなしえることができなかった紙表面の水に対する接触角が140°以上の超撥水表面に加工するものであります。
水に対する接触角が140°以上の超撥水表面は、蓮の葉上での水のように表面にほぼまん丸状の水滴が保持され、水を完全に水をはじく機構であり、・・・従来の撥水加工紙では水が容易に透過したトイレットペーパや花紙などの表面が粗い紙上においても蓮の葉上のようにほぼまん丸の状態で水滴を保持した状態で水を完全にはじき、一時的(数時間)水の透過を完全に防ぐことが可能であります。
本願発明による撥水加工紙は明らかに・・・従来の撥水加工紙に比べて高い撥水性を示し、その効果は・・・従来の撥水加工法では撥水加工が難しいとされていた表面が粗い紙でより撥水効果を高めることが可能な撥水加工方法です。」(2頁最下行?3頁14行)との主張をしている。
しかしながら、本願発明の「撥水剤を有機溶剤、水、又はそれらの混合物に溶解または分散させたもの」を噴霧する「紙」は、「水に分散可能な」との限定が付されているだけであって、引用発明の「紙」と区別することができないことは上記のとおりであり、また、製造された「水分散性撥水加工紙」も、撥水加工紙が水分散性であるとの限定が付されているだけであって、その製造方法及び製造された撥水加工紙も引用発明のものと異なるものではない。
したがって、請求人の主張は、本願発明の構成に基づかない主張であって採用できないものである。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

3.むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-12 
結審通知日 2008-01-18 
審決日 2008-03-28 
出願番号 特願2004-97966(P2004-97966)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
鴨野 研一
発明の名称 撥水加工紙の製造方法  

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