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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23H |
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管理番号 | 1178484 |
審判番号 | 不服2006-23674 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-10-19 |
確定日 | 2008-05-22 |
事件の表示 | 特願2003-539882「ワイヤ放電加工方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日国際公開、WO03/37558〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件出願は、平成13年11月1日を国際出願日とする出願であって、平成18年8月25日に手続補正がなされたが、同年9月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年10月19日に本件審判の請求がなされ、同年11月20日に明細書を対象とする手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。 本審決において、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項に規定される各条については、同項の規定により、なお従前の例による。 第2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 (1)補正前 「ワイヤ電極と被加工物を相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記被加工物との極間に加工エネルギを供給しながら、放電により前記被加工物のセカンドカット以降の加工を行うワイヤ放電加工方法において、 オフセットの設定が解除されるアプローチ点の位置を認識する工程と、 この認識したアプローチ点と前記加工形状部分における前記ワイヤ電極の中心との距離xが、放電ギャップ長を含めて考慮したワイヤ電極の半径R、加工深さDとした場合、2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))未満となった場合に、予め設定された加工エネルギ投入比率テーブルに基づき前記ワイヤ電極の単位移動距離当たりの前記加工エネルギを減少させて加工を行う工程と、 を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工方法。」 (2)補正後 「ワイヤ電極と被加工物を相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記被加工物との極間に加工エネルギを供給しながら、放電により前記被加工物のセカンドカット以降の加工を行うワイヤ放電加工方法において、 オフセットの設定が解除されるアプローチ点の位置を認識する工程と、 この認識したアプローチ点と前記加工形状部分における前記ワイヤ電極の中心との距離xを計算する工程と、 この距離xが、放電ギャップ長を含めて考慮したワイヤ電極の半径R、加工深さDとした場合、2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))未満となった場合に、予め設定された加工エネルギ投入比率テーブルに基づき前記ワイヤ電極の単位移動距離当たりの前記加工エネルギを減少させて加工を行う工程と、 を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工方法。」 2.補正の適否 本件補正の特許請求の範囲の請求項1についての補正は、「距離xを計算する工程」を付加するものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか否か(いわゆる独立特許要件)について検討する。 (1)補正発明 補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1.(2)のとおりのものと認める。 (2)刊行物に記載された発明 これに対し、原査定で引用され、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭51-75292号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア.第1ページ左下欄第12?13行 「本発明は高精度の輪郭加工ができるワイヤカツト放電加工装置に関する。」 イ.第2ページ左上欄第6?10行 「而して、ワイヤ電極4は、加工の初期に中心軌跡3上の点P,Q及びRを通つて、輪郭線2を創成し、終期に於いて、中心軌跡3’上の点S及びTを通り更に、初期の中心軌跡3上の点Qに達するまで進行せしめられるものとする。」 ウ.第2ページ右上欄第9?15行 「更に具体的に云えば、実際の加工送り速度及び平均加工電流が一定に保持されるためワイヤ電極4の単位加工送り距離当りの加工量、即ち実際に加工される単位時間当りの加工量がほゞ一定に保たれるのに対し実際に加工される部分の面積または領域が点T以後はそれ以前に比較して順次に小さくなつていくことに由来するものである。」 エ.第2ページ右上欄第20行?左下欄第6行 「而して、本発明の要旨とするところは、第3図に示す如く平均加工電流を加工すべき面積に比例的に減少せしめることにある。このようにすることにより、ワイヤ電極4が被加工体1の突起部1’a及び1’aと対向している加工負荷面の加工負荷をほゞ一定ならしめ、過剰加工が行なわれないようにするものである。」 オ.第2ページ右下欄第5?18行 「而して、被加工体1は図示しない支承装置及び、数値制御装置11の出力端子11-1及び11-2から出力する指令パルスに応動する加工送り装置により支承され、前述の輪郭線に沿つて加工が行なわれるよう加工送りされる。 また、数値制御装置11の出力端子1l-3からは、単位加工送り距離当り1個の割合で出力パルスが発せられ、更に同11-4の出力は、ワイヤ電極4の中心が前述の点Tの直前の点T_(0)に達する迄は“1”であり、以降は“0”となるよう、あらかじめセツトされる。 更にリングカウンタ14の第1の桁要素14-1は、加工の初期に“1”とされ、また、分周器13はリセツトされる。」 カ.第3ページ左上欄第11行?右上欄第19行 「而して、上記点T_(0)に達するまでの間は叙上のサイクルを繰返しワイヤカツト加工が行なわれる。 而して、ワイヤ電極中心が点T_(0)に達するまで加工が進行すると、数値制御回路11の出力端子11-4の出力が“0”となり、このため同11-3から出力するパルスはインヒビツト回路12を通過し、分周器13に入力し得るようになる。然しながら、加工は依然として、上記サイクルにより進行せしめられる。而して、ワイヤ電極中心が点Tを過ぎ、更に点T_(0)から所望の距離を距てた点T_(l)に達すると、分周器13は出力パルスを発信し、そのため、リングカウンタ14が歩進せしめられて、その桁要素14-2が“1”となりオン遅延回路16-1に代つて、同16-2が放電パルスの休止時間を規定するようになる。このオン遅延回路16-2の遅延時間τ_(2)は同16-1の遅延時聞τ_(1)の2?3倍に設定されており、このため、以後の平均加工電流は、第3図に示す如く、約1/2以下に減少せしめられる。然しながら、この時期には加工すべき面積も亦ほゞ半減しているので、加工送り速度は、放電状態を一定に保つよう制御されている場合に於いても、ほゞ同一レベルに保たれる。 而して、更に加工が上記一定距離進行するに従い、叙上の如くして、リングカウンタ14が順次歩進せしめられ、対応するオン遅延回路の規定する遅延時間により電圧パルス休止時間が定められ平均加工電流は第3図に示す如く、加工面積に略比例的に減少せしめられるものである。」 また、刊行物1記載のものは、ワイヤカツト放電加工装置であるから、ワイヤ電極と被加工体との極間に加工電流を供給しながら、放電により被加工体の加工を行うものであることは明らかである。 これらの記載事項を、技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。 「ワイヤ電極と被加工体を相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記被加工体との極間に加工電流を供給しながら、放電により前記被加工体の加工を行うワイヤ放電加工装置において、 実際に加工される単位時間当りの加工量がそれ以前に比較して順次に小さくなっていく点Tの直前の点T_(0)から、リングカウンタにより、平均加工電流を加工面積に略比例的に減少させて加工を行う工程を備えたワイヤ放電加工装置。」 (3)対比 補正発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明の「被加工体」は、補正発明の「被加工物」に相当し、同様に、「加工電流」及び「平均加工電流」は「加工エネルギ」に含まれ、「加工量」は「加工体積」に相当し、「ワイヤ放電加工装置」は「ワイヤ放電加工方法」とみることもできる。 ところで、補正発明における、アプローチ点と電極中心の「距離xが・・・、2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))未満となった場合」とは、明細書の段落0014を踏まえると、アプローチ点の影響により「単位移動距離あたりの加工体積の減少」が生じはじめる点のことである。 他方、刊行物1発明の点Tは、第2図を踏まえると、「アプローチ点」であることが明らかな点Qとの関係により定まる、「単位時間当りの加工量」が小さくなっていく点である。 したがって、刊行物1発明の「実際に加工される単位時間当りの加工量がそれ以前に比較して順次に小さくなっていく点Tの直前の点T_(0)から、平均加工電流を加工面積に略比例的に減少させて加工を行う工程」と、補正発明の「アプローチ点の位置を認識する工程と、この認識したアプローチ点と前記加工形状部分における前記ワイヤ電極の中心との距離xを計算する工程と、以後はこの距離xが、放電ギャップ長を含めて考慮したワイヤ電極の半径R、加工深さDとした場合、2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))未満となった場合に、予め設定された加工エネルギ投入比率テーブルに基づき前記ワイヤ電極の単位移動距離当たりの前記加工エネルギを減少させて加工を行う工程」とは、「アプローチ点の影響により、加工体積の減少が生じはじめる点から、加工エネルギを減少させて加工を行う工程」である限りにおいて一致する。 したがって、補正発明と刊行物1発明とは、次の点で一致している。 「ワイヤ電極と被加工物を相対移動させ、前記ワイヤ電極と前記被加工物との極間に加工エネルギを供給しながら、放電により前記被加工物の加工を行うワイヤ放電加工方法において、 アプローチ点の影響により、加工体積の減少が生じはじめる点から、加工エネルギを減少させて加工を行う工程と、 を備えたワイヤ放電加工方法。」 そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。 相違点1:補正発明は、「セカンドカット以降」の加工であり、アプローチ点は「オフセットの設定が解除される」ものであるが、刊行物1発明はそのようなものではない点。 相違点2:「アプローチ点の影響により、加工体積の減少が生じはじめる点から、加工エネルギを減少させて加工を行う工程」について、補正発明は、「アプローチ点の位置を認識する工程と、この認識したアプローチ点と前記加工形状部分における前記ワイヤ電極の中心との距離xを計算する工程と、以後はこの距離xが、放電ギャップ長を含めて考慮したワイヤ電極の半径R、加工深さDとした場合、2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))未満となった場合に、予め設定された加工エネルギ投入比率テーブルに基づき前記ワイヤ電極の単位移動距離当たりの前記加工エネルギを減少させて加工を行う工程」であるが、刊行物1発明は、「実際に加工される単位時間当りの加工量がそれ以前に比較して順次に小さくなっていく点Tの直前の点T0から、平均加工電流を加工面積に略比例的に減少させて加工を行う工程」である点。 (4)相違点の検討 相違点1について検討する。 セカンドカット以降の加工は、周知であり、「セカンドカット以降の加工」における「アプローチ点」が「オフセットの設定が解除される」ものであることは明らかである。 セカンドカット以降の加工においても、アプローチ点近傍においては、刊行物1発明と同様に、「単位時間当りの加工量がそれ以前に比較して順次に小さくなっていく」という状態が生じることから、この点は、単なる用途の特定にすぎない。 相違点2について検討する。 ワイヤ放電加工においては、コーナー加工等の加工対象の変化により、加工条件を変えることが望ましい場合がある。その際、入力された加工プログラムに基づく加工経路から、コーナー加工等の加工対象の変化を認識し、入力された加工プログラム自体を変更することなく、加工条件を変えるべき点を設定することは、以下のとおり周知である。 特開2000-107942号公報の段落0017?0018、0023 特開平10-76429号公報の段落0019、0033、図1、図3 特開平8-168925号公報の段落0010、0027、0035 特開平6-47627号公報の段落0010?0012 刊行物1発明においては、加工体積の減少は、「アプローチ点の影響により」生じるものであるから、周知技術を踏まえ、「アプローチ点を認識」し、加工体積の減少が生じはじめ、加工条件を変えるべき点である「アプローチ点と加工形状部分におけるワイヤ電極の中心との距離x」を計算することに、困難性は認められない。 距離xを「2・{R^(2)-(R-D)^(2)}^((1/2))」と特定した点については、加工体積の減少が生じはじめる点をピタゴラスの定理を利用して、数学的に算出したものであり、格別のものではない。 加工エネルギの減少を「予め設定された加工エネルギ投入比率テーブルに基づき」行う点については、テーブルに基づき変数を定めることは周知であり、また、刊行物1の第3図には、階段状に減少させることが記載されているから、設計的事項にすぎない。 また、かかる相違点により格別な技術的意義が生じるとは認められない。 請求人は、審判請求理由において、補正発明は「NCプログラム(経路プログラム)に特別なコード等を入力することなく行え」る旨、主張するが、この点は、上記周知技術の適用に伴う効果であり、格別なものではない。 請求人は、また「加工深さDの関係から距離xを導き出すことは容易ではありません」と主張するが、上記のとおり、ピタゴラスの定理を利用して、数学的に算出したにすぎない。 以上から、補正発明は、刊行物1発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成18年8月25日に補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2.1.(1)に示す請求項1に記載されたとおりである。 2.刊行物等 これに対して、原査定の際にあげられた刊行物及びその記載内容は、上記第2.2.(2)に示したとおりである。 3.対比・検討 本願発明は、上記第2.2.で検討した補正発明において、限定事項を削除するものである。 そうすると、本願発明を構成する事項のすべてを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が、上記第2.2.(4)で示したとおり、刊行物1発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-19 |
結審通知日 | 2008-03-25 |
審決日 | 2008-04-07 |
出願番号 | 特願2003-539882(P2003-539882) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B23H)
P 1 8・ 575- Z (B23H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野田 達志 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
福島 和幸 豊原 邦雄 |
発明の名称 | ワイヤ放電加工方法及び装置 |
代理人 | 稲葉 忠彦 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 高橋 省吾 |
代理人 | 中鶴 一隆 |