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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B |
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管理番号 | 1178645 |
審判番号 | 不服2005-312 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-01-06 |
確定日 | 2008-05-28 |
事件の表示 | 平成8年特許願第104273号「ICカード用オーバーシート」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月14日出願公開、特開平9-267446〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 この出願は、平成8年3月29日の出願であって、平成16年11月30日付けで拒絶査定がされ、平成17年1月6日に拒絶査定に対する審判が請求され、同年2月2日付けで手続補正がされ、その後、平成19年10月17日付けで通知された拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)に対して、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 そして、この出願の発明は、平成19年12月26日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載によれば、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「プラスチックフィルムの一方の面に光を遮蔽するための有色層を設け、更に印刷適性を有する白色層を前記有色層上に積層あるいは、プラスチックフィルムを介した反対面に積層してなり、前記有色層が、樹脂と黒色の染料とからなり、樹脂100重量部に対して黒色の染料を0.1?8重量部含有し、かつ厚みが2?10μmであり、前記白色層が、樹脂と平均粒子径が0.1?0.3μmの白色顔料とからなり、樹脂100重量部に対して白色顔料を200?500重量部含有し、かつ厚みが5?20μmであることを特徴とするICカード用オーバーシート。」(以下、「本願発明」という。) 2 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は、以下の理由を含むものである。 「1 この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・・・刊行物1:特開昭62-290593号公報・・・」 3 当審の判断 (1) 刊行物1の記載事項 刊行物1には、第1から4図のほか、以下の事項が記載されている。 a 「1.カード基材中にICモジュールが埋設されてなるICカードにおいて、前記ICモジュールの接続用端子の反対側の面に隠蔽層を介して不透明白色オーバーシートが積層されることを特徴とする、ICカード」(特許請求の範囲の請求項1) b 「(イ) 従来のICモジュールのモールドに用いられる樹脂材料は一般に黒色であり、しかもオーバーシートは透明性材料で構成されているため、ICカードの裏面(すなわち、接続用端子と反対側の面)にICモジュール部の影が見えてしまい、これがカード裏面に印刷等の可視情報を形成する場合の大きな障害どなり、またカードの審美性を低下させるという問題がある。」(2頁左上欄3?10行) c 「隠蔽層6は、接着層を兼ねていてもよい。たとえば、第2図に示すように、隠蔽層6が、白色ポリエステル等の不透明白色シート21とその両面に積層された接着剤層22によって形成されていてもよい。」(2頁右上欄下から3行?2頁左下欄2行) d 「例 1 第3図(a)?(f)は、本発明のICカードの各構成部材の斜視図である。・・・白色モールド樹脂(ME868、アミコン社製)によって樹脂封止を行なってICモジュール4を作成した。 次に、白色ポリエステルフィルム(25μm厚)の両面に熱接着層(EC1200、三菱油化ファイン社製)を各々20μm厚で形成して隠蔽層シート6を得た。 次いで、ICモジュール4の裏面に隠蔽層シート6を仮貼着したのら、これをICモジュール埋設部に抜き穴を設けたセンターコア1a、1bおよびオーバーシート2a、2bとともに積層して、熱プレス法で一体化してICカードを得た。この場合のオーバーシート2bは、チタン白を含有させた不透明白色オーバーシートを用いた。 このようにして得られたICカードを裏面から観察したがICモジュール部の影は認められなかった。」(2頁左下欄8行?右下欄8行) e 「例 2 第4図(a)?(f)は、他の態様に係る本発明のICカードの各構成部材の斜視図である。 ICモジュール4および隠蔽層シート6aは前記例1と同様のものを作成した。さらに、オーバーシート2b上に白色インキ層からなる隠蔽層6bを形成し、例1と同様にしてICカードを作成した。 得られたICカードはICモジュール部の隠蔽性、および審美性にすぐれ、また転写方式などによる墨文字のみの印刷も可能となった。」(2頁右下欄9行?末行) (2) 刊行物1に記載された発明 刊行物1は「カード基材中にICモジュールが埋設されてなるICカードにおいて、前記ICモジュールの接続用端子の反対側の面に隠蔽層を介して不透明白色オーバーシートが積層されることを特徴とする、ICカード」(摘記a)に関し記載するものであって、その「隠蔽層」は摘記b、d、eからみて、光を遮蔽するための層であると認められ、その具体的態様として「白色ポリエステル等の不透明白色シート」(摘記c)からなる隠蔽層が記載されている。また、その「不透明白色オーバーシート」の具体的態様として「チタン白を含有させた」(摘記d)ものが記載され、このオーバーシートは、摘記b、eからみて印刷適性を有すると認められる。そして、上記「ICカード」における「隠蔽層」と「不透明白色オーバーシート」とが積層されたものは、シート状であると認められるから、ICカード用シートということができる。 以上によれば、刊行物1には、 「光を遮蔽するための白色ポリエステル等の不透明白色シートの隠蔽層を介してチタン白を含有させた印刷適性を有する不透明白色オーバーシートが積層されたICカード用シート」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (3) 本願発明と引用発明との対比 本願発明には「印刷適性を有する白色層を前記有色層上に積層」した態様、すなわち、 「プラスチックフィルムの一方の面に有色層を設け、更に有色層上に白色層を積層してなり、前記有色層が、樹脂と黒色の染料とからなり、樹脂100重量部に対して黒色の染料を0.1?8重量部含有し、かつ厚みが2?10μmであり、前記白色層が、樹脂と平均粒子径が0.1?0.3μmの白色顔料とからなり、樹脂100重量部に対して白色顔料を200?500重量部含有し、かつ厚みが5?20μmである」の態様(以下、「本願発明a」という。)が包含されるから、このものと引用発明とを対比する。 引用発明における「隠蔽層」も本願発明aの「光を隠蔽するための有色層」も共に、光を遮蔽するための遮蔽層であるということができる。また、引用発明における「不透明白色オーバーシート」は本願発明aの白色層ということができ、そこに含まれる「チタン白」は本願発明aの「白色顔料」に包含されるものである。そして、引用発明における「ICカード用シート」は、本願発明aの「ICカード用オーバーシート」に相当するから、本願発明aと引用発明とは、 「光を隠蔽するための遮蔽層と、印刷適性を有する、白色顔料を含む白色層を前記隠蔽層上に積層してなるICカード用オーバーシート」 である点で一致し、下記の点で相違すると認められる。 (i) 遮蔽層及び白色層が、本願発明aはプラスチックフィルム上に積層されるものであるのに対して、引用発明はプラスチックフィルム上に積層されるものではない点 (ii) 遮蔽層が、本願発明aは「樹脂と黒色の染料」とからなるものであって、樹脂100重量部に対して「0.1?8重量部含有し」、厚みが「2?10μm」のものであるのに対して、引用発明は「白色ポリエステル等の不透明白色シート」であって、それが「樹脂と着色剤」とからなるものであるのか、その場合のどのような「着色剤」でどのような配合割合でどのような厚さのものかが明らかではない点 (iii) 白色層が、本願発明aは「樹脂と白色顔料」とからなるものであって、「平均粒子径を0.1?0.3μm」の「白色顔料」を樹脂100重量部に対して「200?500重量部」含有し、厚みが「5?20μm」のものであるのに対して、引用発明は「樹脂と白色顔料」とからなるものであるのか、どのような平均粒子径の白色顔料でどのような配合割合でどのような厚さのものかが明らかではない点 (4) 相違点の判断 そこで、これらの相違点について検討する。 (ア) 相違点(i)について 引用発明の「ICカード用シート」における「遮蔽層」及び「不透明白色オーバーシート」は、摘記b、d、eからみて、そのシートに遮蔽性及び白色度を付与するためのものであると認められる。ところで、遮蔽性又は白色性を付与するためのフィルムとしては、引用発明のような、フィルム自体に遮蔽性又は白色性をもたせたもののほか、薄い塗膜層(例えば、所望の波長の光を吸収(反射)する印刷インキ層)を基材フィルム上に積層したものなどがその出願前周知慣用のものであり、必要に応じ適宜併用ないし互換使用されているものであるから、引用発明の「隠蔽層」フィルム及び「不透明白色オーバーシート」フィルム自体を積層するものに代えて、プラスチックフィルム上に積層したものとすることは、当業者にとって適宜なし得ることであって格別のことではない。 (イ) 相違点(ii)について 引用発明の「遮蔽層」の「白色ポリエステル等の不透明白色シート」の「不透明白色」は、特に記載されていないことからみて、慣用される白色の着色剤(又は微細気泡)によるものであると認められるが、そうでないとしても、樹脂を不透明白色にするために着色剤を用いることはごく慣用のことであるから、「遮蔽層」を「樹脂と着色剤」のものとすることは、当業者にとって格別のことではない。 ところで、引用発明の「ICカード用シート」は、遮蔽層である「不透明白色シート」と白色層である「不透明白色オーバーシート」とを組み合わせることによって、それを被着した「ICカード」が「ICモジュール部の隠蔽性、および審美性にすぐれ、また転写方式などによる墨文字のみの印刷も可能」(摘示e)なものになるようにしようとするものである。 したがって、引用発明の「ICカード用シート」には、それを被着した「ICカード」が上記の所定の遮蔽性等の作用効果を奏するような、所要の遮蔽性(「所要遮蔽性」という。)が必要とされる。 ここで、引用発明の「ICカード用シート」の「不透明白色オーバーシート」(白色層)は、光を反射すると共に透過もするものであると認められる(光を透過しないのであれば、遮蔽層を別に設ける必要はない。)から、上記「ICカード用シート」の「所要遮蔽性」には、「遮蔽層」自体の遮蔽性のみでなく、少なくとも「不透明白色オーバーシート」(白色層)の影響があることは明らかである。さらに、「ICカード用シート」の「所要遮蔽性」には、「ICカード」の被着面のコントラスト(モジュール等の色とICカード自体の色)等も影響することも明らかである。 そうすると、「遮蔽層」自体の遮蔽性の程度はその層の厚さ、着色剤の種類(色、材料、粒径等)及び配合割合などによって影響されることは当業者にとって技術常識であるから、引用発明の「遮蔽層」を樹脂と着色剤とするに際して、「隠蔽層」自体に必要とされる隠蔽性を、被着後の「ICカード」が所定の遮蔽性等の作用効果を奏し適度厚となるように、当該ICカード被着面のコントラスト及び「ICカード用シート」における「不透明白色オーバーシート」(白色層)等の遮蔽性への寄与等を考慮して、上記遮蔽性の程度に影響すると認められる層の厚さ、着色剤の種類(黒、白等の色、染料、顔料等の材料等)及び配合割合を、通常用いられているものにおいて実験等により最適なものを選択することは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。 そして、本願発明aにおいて着色剤を特にその出願前周知の「黒色の染料」とし、その配合割合を樹脂100重量部に対して「0.1?8重量部」、厚みを「2?10μm」程度とすることに、上記所期の遮蔽性、厚みとする意義を超える格別の技術的意義は認めることはできない。 (ウ) 相違点(iii)について 引用発明の白色顔料を含む「不透明白色オーバーシート」(白色層)の材質は、特に記載されていないことからみて、慣用される「樹脂」であると認められるが、そうでないとしても、その材質を「樹脂」とすることはごく普通のことであるから、引用発明において「不透明白色オーバーシート」を「樹脂と白色顔料」のものとすることは、当業者にとって格別のことではない。 ところで、上記のとおり、引用発明の「ICカード用シート」は、白色層と遮蔽層とを組み合わせることによって、それを被着した「ICカード」を上記所期の作用効果を奏するものにしようとするものである。 したがって、引用発明の「ICカード用シート」には、それを被着した「ICカード」が上記の所定の作用効果を奏するような、所要の白色度(「所要白色度」という。)が必要とされる。 ここで、引用発明の「ICカード用シート」の「不透明白色オーバーシート」(白色層)は、上記のとおり、光を反射すると共に透過もするものであると認められ、その透過光の「ICカード」の被着面や「遮蔽層」からの反射した光などがあるから、上記「ICカード用シート」の「所要白色度」には、「不透明白色オーバーシート」自体の白色度のみでなく、少なくとも「遮蔽層」の影響があり、さらに、「ICカード」の被着面のコントラスト等も影響することも明らかである。 そうすると、「不透明白色オーバーシート」(白色層)自体の白色度の程度はその層の厚さ、白色顔料の種類(材料、粒径等)及び配合割合などによって影響されることは当業者にとって技術常識であるから、引用発明の「不透明白色オーバーシート」(白色層)を樹脂と白色顔料とするに際して、「不透明白色オーバーシート」(白色層)自体に必要とされる白色度を、被着後の「ICカード」が上記の所定の作用効果を奏し適度厚となるように、当該ICカード被着面のコントラスト及び「ICカード用シート」における「遮蔽層」等の白色度への影響等を考慮して、上記「不透明白色オーバーシート」(白色層)自体の白色度の程度に影響すると認められる層の厚さ、白色顔料の種類(材料、粒径等)及び配合割合を、通常用いられているものにおいて実験等により最適なものを選択することは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。 そして、本願発明aにおいて白色顔料を特にその出願前慣用の「平均粒子径0.1?0.3μm」のものとし、その配合割合を樹脂100重量部に対して「200?500重量部」、厚みを「5?20μm」程度とすることに、上記所期の白色度、厚みとする意義を超える格別の技術的意義を認めることはできない。 (エ) 効果について 本願発明aの効果は、本願明細書の段落[0057]に記載されているように「ICモジュールのモールドを完全に遮蔽し、印刷適性に優れたICカード用オーバーシートを得ることができる」というものであると認められるが、これは引用発明の奏する効果と同種のものに過ぎない。 そして、本願明細書を検討しても、本願発明aの発明特定事項とすることにより、予期し得ない顕著な効果を奏すると認めることはできない。 (オ) 請求人の主張について 請求人は、平成19年12月26日付けの意見書において 「本願の請求項1に係る発明は、・・・とすることで、隠蔽性を良好なものとしつつ、印刷適性に寄与する反射濃度を良好なものとすることができるものであります(実施例1及び2)。一方、このような特殊な有色層及び白色層の構成・厚みをとらないと、隠蔽性及び反射濃度のバランスが低下するため(比較例1、2及び5)、本願の請求項1に係る発明の構成を採用することで、上述した顕著に優れた効果が発揮するものといえます。」と主張する。 しかし、引用発明は、本願発明とは、ICモジュールのモールドを遮蔽し、印刷適性に優れたICカードを得るために、「ICカード用オーバーシート」において遮蔽層と白色層とを組み合わせて設けたものである点で軌を一にするものである。 そして、引用発明の「遮蔽層」と「不透明白色オーバーシート」(白色層)の隠蔽性や白色度がどちらも「ICカード用オーバーシート」の「所要隠蔽性」、「所要白色度」に関与するものであることは上述したとおりである。 そうすると、ICモジュールのモールドを完全に遮蔽し、印刷適性により優れた「所要隠蔽性」、「所要白色度」を有する「ICカード用オーバーシート」とする場合において、共に「所要隠蔽性」、「所要白色度」に関与するものである「遮蔽層」と「不透明白色オーバーシート」(白色層)の両者の隠蔽性及び白色度をバランスをとりつつ、それらに影響する要素(着色剤、厚さなど)の適切なもの及び範囲を設定することは、当業者にとって当然のことであって、通常の創作能力の範囲内のことであるといわざるを得ない。 そして、本願明細書を検討しても本願発明が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。 よって、上記請求人の主張は、上記認定・判断を左右するものではない。 (5) まとめ したがって、本願発明aは本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明aを含む本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-15 |
結審通知日 | 2008-03-11 |
審決日 | 2008-03-24 |
出願番号 | 特願平8-104273 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B32B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 康之 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
鴨野 研一 岩瀬 眞紀子 |
発明の名称 | ICカード用オーバーシート |
代理人 | 松山 弘司 |