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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1178709
審判番号 不服2006-10107  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-18 
確定日 2008-05-30 
事件の表示 特願2001-380909「磁気転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 4日出願公開、特開2003-187416〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成13年12月14日の出願であって、平成17年12月26日付けで手続補正がなされたが、平成18年4月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年5月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年12月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報をフレキシブル磁気記録媒体に転写する磁気転写方法において、前記磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度が6?10であって、前記フレキシブル磁気記録媒体が、支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなり、前記磁性層が平均粒径0.03?0.5μmのダイヤモンド粒子からなる研磨剤を含み、前記ダイヤモンド粒子の含有量が前記磁性層に含有される強磁性粉の0.1?5質量%の範囲であることを特徴とする磁気転写方法。」

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2000-195048号公報(以下「引用例1」という。)には、「磁気転写用マスター担体および転写方法」に関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(ア)「【請求項3】磁気記録媒体への記録情報を転写する方法において、基板上に転写用記録情報を磁化した複数の転写情報記録部が存在し、それぞれの転写情報記録部の間には、空間もしく非磁性部が存在しており、転写情報記録部の表面硬度が20GPa以上であるとともに、表面には厚さ5nm?30nmのダイヤモンド状炭素保護膜を有している磁気転写用マスター担体と、表面硬度が1GPa以上で可撓性を有したスレーブ媒体とを密着して磁気転写を行うことを特徴とする磁気転写方法。」(特許請求の範囲の請求項3)
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大容量、高記録密度の磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への記録情報の転写に使用する磁気転写用マスター担体に関し、特に大容量、高記録密度の磁気記録媒体へのサーボ信号、アドレス信号、その他通常の映像信号、音声信号、データ信号等の記録に用いられる磁気転写用マスター担体に関する。」
(ウ)「【0011】
【発明の実施の形態】本発明は、凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部に形成した記録情報をスレーブ媒体へ転写する記録方法の問題点を解決するものである。凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部の磁気情報を転写する方法において、情報記録領域の角部が欠けたり、あるいは記録が欠けたりすることが避けられなかったのは、磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体のそれぞれの表面硬度、可撓性等に問題があり、これらを改良することによって大幅な改善が可能であることを見いだして本発明を想到したものである。」
(エ)「【0013】ところが、このような方法によって磁気転写用マスター担体を用いて多数回の転写を行うと、転写した磁気記録情報にエッジの乱れや、記録が欠けたりすることが生じ、多数枚の転写は困難であった。この大きな原因は、磁気転写用マスター担体の表面硬度が不充分であることである。十分な硬度を有しない磁気転写用マスター担体は、転写回数を重ねるにつれ、磁気転写用マスター担体の転写パターンの一部、とくにエッジの部分が欠けることで、転写パターンの形状が欠けたり、乱れが生じる。また欠けた部分から生じた微細な粉が磁気転写用マスター担体とスレーブ媒体との間に入り、両者の間に空間が生じることで、欠けていない磁気転写用マスター担体からの磁界も広がり、転写像が不鮮明になる。」
(オ)「【0015】図1は、本発明の磁気転写用マスター担体とそれを用いたスレーブ媒体への記録情報の転写方法を説明する図であり、磁気転写用マスター担体の面に垂直な記録トラック方向の断面を示す図である。磁気転写用マスター担体1には、非磁性基体、プリフォーマットに応じた凸状の転写情報記録部11が形成されている。転写情報記録部11上にはダイヤモンド状炭素保護膜12が形成されており、さらにダイヤモンド状炭素保護膜上には潤滑剤層13が形成されている。
【0016】本発明の磁気転写用マスター担体をスレーブ媒体5と密着、あるいはさらに交流バイアス磁界、あるいは直流磁界等の励磁磁界6を印加して転写情報記録部10を励磁することによってスレーブ媒体の精密なプリフォーマットが行われる。」
(カ)「【0018】本発明の磁気転写用マスター担体およびスレーブ媒体は、転写情報記録部11に損傷が生じることがないように、転写情報記録部には、ダンヤモンド状炭素保護膜の形成によって充分な硬度を有していることが好ましく、20GPa以上の硬度を有していることが好ましい。硬度が20GPaよりも小さい場合には、耐久性が小さくなるので好ましくない。」
(キ)「【0021】また、磁気転写用マスター担体と接触するスレーブ媒体は、表面硬度が1GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、磁気転写用マスター担体と同様にダイヤモンド状炭素保護膜を形成したものが好ましい。
【0022】スレーブ媒体は、磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いものであるとともに、磁気転写用マスター担体と密着した際に十分に密着するように可撓性を有していることが好ましい。
【0023】(略)
【0024】スレーブ媒体に形成する磁性層は、強磁性金属薄膜から構成されたものの場合には高記録密度を有する磁気記録媒体が得られるので好ましいが、強磁性金属粉末を、結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層を有するものであっても良い。その場合には、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものを得ることができる。
【0025】また、スレーブ媒体が強磁性金属薄膜を形成したものである場合には、磁性層表面に、ダンヤモンド状炭素保護膜を形成し、さらに潤滑剤層を形成することが好ましい。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、特に上記2(ア)(キ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「磁気記録媒体への記録情報を転写する方法において、基板上に転写用記録情報を磁化した複数の転写情報記録部が存在し、それぞれの転写情報記録部の間には、空間もしく非磁性部が存在しており、転写情報記録部の表面硬度が20GPa以上であるとともに、表面には厚さ5nm?30nmのダイヤモンド状炭素保護膜を有している磁気転写用マスター担体と、表面硬度が1GPa以上で可撓性を有したスレーブ媒体とを密着して磁気転写を行う磁気転写方法であって、
スレーブ媒体は、磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いものであるとともに、磁気転写用マスター担体と密着した際に十分に密着するように可撓性を有し、
スレーブ媒体に形成する磁性層は、強磁性金属粉末を結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層であり、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものとする磁性層である、
磁気転写方法。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「記録情報」は、本願発明の「転写すべき情報」に相当している。
引用例1に記載された発明の「磁気転写用マスター担体」は、「基板上に転写用記録情報を磁化した複数の転写情報記録部が存在し、それぞれの転写情報記録部の間には、空間もしく非磁性部が存在して」いて、「凹凸を形成した磁気転写用マスター担体の凸部の磁気情報を転写する方法」(上記(ウ)参照)と説明されているので、本願発明の「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明の「磁気転写用マスター担体」は、「転写情報記録部の表面硬度が20GPa以上であるとともに、表面には厚さ5nm?30nmのダイヤモンド状炭素保護膜を有している」からモース硬度が10近傍であることが明らかであり、また本願発明の磁気転写用マスター担体は、マスター担体の表面にDLC膜を付与しモース硬度を9.5に調整した例を含むものであるから、引用例1に記載された発明の「磁気転写用マスター担体」は、本願発明の「磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度が6?10で」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明の「磁気記録媒体」である「可撓性を有したスレーブ媒体」は、本願発明の「フレキシブル磁気記録媒体」に相当している。また、引用例1に記載された発明の「スレーブ媒体」は、「磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いもので」、「磁性層は、強磁性金属粉末を結合剤中に分散した組成物を塗布することによって形成した磁性層であり、磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものとする磁性層である」ので、引用例1に記載された発明の「磁性層」は、本願発明の「磁性層」と、「塗布してなり」、かつ「研磨剤を含み、研磨剤の含有量が所定の範囲である」という構成において共通している。
そうすると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「転写すべき情報に応じた凹凸パターンを有する磁気転写用マスター担体を密着して前記情報をフレキシブル磁気記録媒体に転写する磁気転写方法において、前記磁気転写用マスター担体の表面のモース硬度が6?10であって、前記フレキシブル磁気記録媒体が、磁性層を塗布してなり、前記磁性層が研磨剤を含み、研磨剤の含有量が所定の範囲である、磁気転写方法。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

(相違点) 「フレキシブル磁気記録媒体」について、本願発明は、「支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に塗布してなり、前記磁性層が平均粒径0.03?0.5μmのダイヤモンド粒子からなる研磨剤を含み、前記ダイヤモンド粒子の含有量が前記磁性層に含有される強磁性粉の0.1?5質量%の範囲であること」と特定しているのに対し、引用例1に記載された発明は、非磁性層及びダイヤモンド粒子について特定していない点。

(2)相違点についての判断
引用例1に記載された発明の磁性層のように塗布により形成されたフレキシブル磁気記録媒体において、支持体上に非磁性と磁性層とをこの順に塗布し、磁性層の研磨剤としてダイヤモンド粒子を用い、その平均粒径及び含有量を、磁気記録媒体の耐久性やノイズ等の観点から最適化することは、周知の事項であり、原審で引用された、特開2000-149243号公報(以下「引用例2」という。)、特開平11-086273号公報(請求項1、段落18?21、実施例等参照)、特開2001-283424号公報(平成13年10月12日出願公開。請求項1,段落8?9、実施例等参照)に記載されている。例えば、引用例2には、ダイヤモンド粒子の平均粒径は、3?200nmさらに30?150nmが好ましく、大きいと、粗大突起が認められ、磁化の乱れが顕著になり、ノイズが増加し、優れたS/Nが得ることができない旨、また、含有量は、強磁性粉末100重量部に対して0.001?5重量部が好ましく、多いと、磁化の乱れが顕著になり、表面粗さが大きくなり、ノイズが増加し、優れたS/Nを得ることが困難で、ヘッド摩耗量が大きくなり、少ないと、磁気記録媒体に必要とする研磨性が低く、望ましいヘッドクリーニング適性、スチル及び耐久性が得られない旨、記載されている(段落20?23参照)。
そうすると、引用例1に記載された発明は、「スレーブ媒体は、磁気転写用マスター担体の密着によって傷が生じないように表面の硬度が高いもの」であり、「磁性層の形成に使用する組成物中に混合する研磨剤の種類、あるいは量を調整することによって所定の硬度のものとする」ものであり、「磁気転写用マスター担体およびスレーブ媒体は、転写情報記録部11に損傷が生じることがないように」(上記(カ)参照)両者の表面硬度を考慮すべきことが示されているから、引用例1に記載された発明において、その研磨剤としてダイヤモンド粒子を用いる上記周知の事項に基づき、ダイヤモンド粒子の平均粒径及び含有量を、媒体の耐久性やノイズ等を考慮して、引用例2の例示の範囲と重複する、平均粒径0.03?0.5μm、含有量が強磁性粉の0.1?5質量%の範囲、程度のものを選定することは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明及び上記周知の事項から当業者であれば予測される範囲内であり、上記相違点に、格別の困難性を要したものではない。

4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-28 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-16 
出願番号 特願2001-380909(P2001-380909)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 横尾 俊一
吉川 康男
発明の名称 磁気転写方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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