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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N |
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管理番号 | 1178847 |
審判番号 | 不服2006-4804 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-15 |
確定日 | 2008-06-02 |
事件の表示 | 特願2001-152952「エンジン燃焼検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 4日出願公開、特開2002-350334〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成13年5月22日の出願であって、平成17年3月29日(発送日)に拒絶理由が通知され、それに対して同年5月30日付けで手続補正がなされたものの、平成18年2月14日に拒絶査定の謄本の発送がなされ、この査定に対し、同年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年4月7日付けで手続補正がなされた。 その後、当審において、平成20年2月12日(発送日)に拒絶理由が通知され、これに対して、同年3月12日付けで意見書ならびに手続補正書が提出された。 II.本願発明について 1.本願発明 本願に係る発明は、平成20年3月12日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】エンジンのシリンダヘッドに取り付けられる本体及び当該本体の中心軸線に対し偏心した位置に設けられた電極部を有し、前記エンジンの燃焼室内の混合気に着火する点火プラグと、当該点火プラグに設けられ、前記混合気の状態を観察する撮像素子と、当該撮像素子を透過した光を観察する高速度カメラと、該高速度カメラが観察し取得した画像データを解析する画像処理部とを有するエンジン燃焼検査装置において、 前記点火プラグは、前記電極部の偏心により生じた前記本体の余剰部に前記撮像素子を設け、当該撮像素子に隣接して設けられ、前記燃焼室内にOHラジカル光の輝度を高める紫外光を放射する光ファイバを有し、 前記撮像素子は、前記点火プラグの下端から上方に向かって伸延された筒体内に沿って複数個の溶融石英レンズを、当該溶融石英レンズごとに焦点を結ぶようにリレーレンズとして配置すると共に、前記筒体の前記燃焼室側の端部をサファイアにより構成した蓋体により閉鎖し、 前記燃焼室内の混合気が点火された瞬間から放射され、前記溶融石英レンズを透過した紫外光の内、前記光ファイバからの紫外光により輝度が高められた前記OHラジカル光の放射開始位置及びその後の形態変化を観察し、前記点火プラグが点火した瞬間の火種が発生した状態から次第に火炎が広がっていく状態を検査することを特徴とするエンジン燃焼検査装置。」 2.引用刊行物の記載事項 当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物1、2、11には、それぞれ以下の事項が記載されている。 (2-1)刊行物1(特開平11-307225号公報) (ア)【請求項1】?【請求項2】 「【請求項1】内燃機関のシリンダ内を観察するための可視化窓を備えた点火プラグであって、ハウジングと、該ハウジング内に絶縁碍子を介して絶縁保持される中心電極およびこれに対向する接地電極を有する点火プラグ部と、上記点火プラグ部の設置部位を除く上記ハウジング内に設けられ、上記シリンダ内を撮影するための撮影部および撮影のための光を供給する発光部が並列配置される中空部を有し、上記中空部の上記シリンダ側端部において、上記撮影部および上記発光部に対向して位置するように上記可視化窓を配置するとともに、上記可視化窓を、上記ハウジングに固定される可視化窓ホルダと上記ハウジングの間に気密的に保持せしめたことを特徴とする可視化窓付き点火プラグ。 【請求項2】 上記点火プラグ部を上記ハウジングの中心より外周側にずらして配置し、上記点火プラグ部の側方に上記中空部を配置した請求項1記載の可視化窓付き点火プラグ。」 (イ)【0004】 「【0004】しかして、本発明の目的は、可視化窓を備えた点火プラグにおいて、ガスシール性を向上させて可視化窓部からのガス洩れを防止し、かつ光を十分に取り込むことを可能にして、高速度撮影等にも対応できるようにすることにある。」 (ウ)【0016】?【0017】 「【0016】シリンダ内の現象を観察、撮影するための撮影部33としては、公知のボアスコープ、CCDカメラ等が用いられる。撮影のための光をシリンダ内に供給する発光部34としては、例えば、光ファイバー等が用いられ、観察時には、撮影部33を中空部31内に配置後、残りのスペースに発光部34を光量を十分に取り込めるように配置する。この時、発光部34として光ファイバーを用い、先端部のファイバーをほぐした状態で使用して、残りのスペース全体に光ファイバーが均等に配置されるようにしてもよい。また、図1(d)のように、発光部34の可視化窓32でのハレーション4を撮影部33で取り込まないよう、撮影部33を可視化窓32と同一面となるように配置し、発光部34は撮影部33より後方に配置するのがよい。 【0017】可視化窓32は例えば石英ガラス等の透明体よりなり、図1(e)に示すように、中空部31壁となるハウジング1とその下端部に固定される可視化窓ホルダ5の間に封着保持される。……」 (エ)【図1】、【図2】 【図1】、【図2】には、「ハウジング1、点火プラグ部2、中心電極21、接地電極22、可視化窓32、撮影部33、発光部34等の配置関係」が図示されている。 これらの記載からして、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「内燃機関のシリンダ内を高速度撮影してシリンダ内の現象を観察、撮影するための可視化窓32を備えた点火プラグであって、点火プラグハウジング1内に、点火プラグ部2を前記ハウジング1の中心から外周側にずらして配置し、その点火プラグ部2の側方に石英ガラスからなる可視化窓32を下端に有する中空部31を設けて、シリンダ内の現象を観察するためのボアスコープからなる撮影部33と、撮影のために十分な光量をシリンダ内に供給する光ファイバーからなる発光部34を配した装置。」 (2-2)刊行物2(特開昭58-82039号公報) (オ)第1頁右下欄第7?10行 「本発明は、内燃機関用空気燃料比制御装置に係り、特にシリンダ内の燃焼状態を検出し、フィードバックし空気燃料比を制御する内燃機関用空気燃料比制御装置に係る。」 (カ)第2頁右上欄第1行?同左下欄第2行 「内燃機関においては、通常、燃料は、エアクリーナを通った空気に、例えば燃料インジエクタあるいは気化器により所定の割合で混合され、この空気燃料混合気がエンジンのシリンダ内に吸入され、ピストンにより圧縮され点火される。この際、シリンダ内の燃焼状態は、吸入される空燃比に対応して変化する。特に、燃焼室内の火炎による光は、空燃比に対応し、その色を変化させる。… 以上のような現象は、火炎の中に存在する燃焼中間生成物、即ちCH^(・)ラジカルと^(・)OHラジカルの濃度比が、第1図に示すように、空燃比の変化に対応して変化するためである。これら燃焼中間生成物CH^(・)ラジカルと^(・)OHラジカルはそれぞれ固有の波長スペクトルを、即ち、CH^(・)ラジカルは4315Åのスペクトルを、^(・)OHラジカルは3064Åのスペクトルを有している。それ故、燃焼火炎中のこれらCH^(・)ラジカルと^(・)OHラジカルの濃度比、即ち火炎の色を検出することにより混合気の空燃比を正確に検出することができる。」 これらの記載から、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されている。 「内燃機関燃焼室内の燃焼状態を検出する装置であって、燃焼火炎中の燃焼中間生成物であるOHラジカルとCHラジカルの濃度比を用いる装置。」 (2-3)刊行物11(特開平3-25352号公報) (キ)請求の範囲の欄 「1.燃焼火炎内の燃焼状態を二次元平面断層計測する光学方式において、 数種類の燃焼生成物の濃度分布を同時画像計測する方法として、生成物の吸収スペクトルの波長に合致するようにレーザ光の波長をチューニングし、その光を混合する光学手段を備え、さらに、混合光をシリンドリカルレンズにより微少幅のシート状ビームに変更し、火炎の一断層面に前記シート状ビームを貫通させ、前記シート状ビーム面より発生する蛍光又はレーリー散乱光をビーム面と直角方向より同時観測する光学手段を備え、これを画像解析し、相対濃度分布状況等を抽出することを特徴とする火炎断層計測法。」 (ク)第2頁左上欄第4?15行 「ところで燃焼現象は、一般に、多くの燃焼パラメータが複雑にからんで究明を難しくしているが、その究明の和として、まず、燃焼反応過程で発生する中間生成物(ラジカル等)濃度の時間的,空間的分布状況を知る意義は大きい。……本発明のポイントは、これら各種生成物のうち、複数種の生成物の濃度を空間的に同一断層面で、同時にイメージ計測が行なえる点にある。本発明に関連する公知技術はKychakoff等によって行われたOHラジカルの蛍光断層画像計測等がある。」 (ケ)第2頁右上欄第2?5行 「本発明の目的は、燃焼の素反応過程で発生する中間生成物の複数成分の濃度を同時、且つ、瞬時にイメージ計測する光学、及び、計測システムを提供することにある。」 (コ)第2頁左下欄第7?14行 「〔作用〕 上記の構成によれば被測定物質の吸収スペクトルの波長にチューニングしたレーザ光によって、照射断層面に存在する物質から発生する波長の異なる蛍光(複数種)を光学フィルタにより容易に分離し、同時映像化ができる点で、複数種の生成物濃度の相対比較が可能となり、燃焼性の診断,評価をより確度の高いものにすることができる。」 (サ)第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第1行 「1は燃料を燃焼させるための燃焼筒を示す。ここに示した燃焼筒は最も一般的な構成を示すもので、燃焼筒の上流側中心部に燃焼ノズル3を配置し、ノズルの外側に環状通気孔2をもち、旋回器4を通過した空気は旋回しながら環状通気孔2を流れ、燃料ノズルから噴射される燃料と混合し、燃焼反応によって火炎5が形成される。…… 燃焼反応過程の生成物を観察する目的のためには急激な反応がみられるノズル出口近傍が観測できるように窓を配置すべきである。」 (シ)第3頁右上欄第13行?第4頁右上欄第9行 「波長λ_(1),λ_(2)のシート状レーザ光が照射される火炎断層面では吸収スペクトル波長λ_(1),λ_(2)をもつ物質1,物質2はレーザ光からエネルギを吸収し電子エネルギ準位の安定な基底状態から励起状態に移行し、次の短時間(約10-5秒程度)の間に元の基底状態にエネルギ遷移する過程で物質は蛍光を発する。…… 例えば、炭化水素系燃料の燃焼素反応過程で重要な役割をはたしている紫外域に存在するOHラジカルは285nm付近に吸収帯をもち、306.4nmから315nm付近に蛍光帯をもつ…。…… 次に蛍光の検出方法について述べる。第1図の右に示す図は燃焼筒1のレーザ照射用窓6,6’に対して直角の位置に観測用窓7,7’を設けてある。…… まず、観測用窓7を通つて外部に放射された帯状の蛍光像はビームスプリッタ17を用いてそれぞれ直角方向に二分割される。分割された映像はそれぞれ光学フィルタ18,18’を用い、λ_(1)+Δλ_(1)の蛍光とλ_(2)+Δλ_(2)の蛍光のみの光が抽出される。…… …光学フィルタ18,18’で抽出されたλ_(1)+Δλ_(1)の蛍光、及び、λ_(2)+Δλ_(2)の蛍光は、それぞれ対物レンズ19,19’を用いて蛍光像を増強するためのイメージインテンシフアイア20,20’の光電面に結像される。…… この像をリレーレンズ21,21’等の手段により、高感度カメラ22,22’の撮像管、又は、撮像素子に結像し、映像信号に変換された後、コンピユータ23の制御によって各種モニタに写されると共に録画することもできる。また、取込まれた映像はコンピユータ23の制御の下で画像解析装置24を用い各種の画像処理が行われ、被測定物質の濃度分布の比較等が定量的に行われる。」 (ス)第1図 第1図は燃焼状態を観察するための実施例の基本システムの系統図であって、「レーザ照射用窓6から燃焼筒1内のノズル3の出口近傍にレーザ光を照射し、発生する蛍光を観察窓7を介して観察するための系統図。」が図示されている。 これらの記載から、刊行物11には次の発明(以下、「刊行物11発明」という。)が記載されている。 「燃焼現象を究明するための装置であって、燃焼反応過程で発生する中間生成物(ラジカル等)濃度の時間的,空間的分布状況を知るため、炭化水素系燃料の燃焼素反応過程で重要な役割をはたしているOHラジカルの吸収帯域の紫外線を、前記中間生成物の急激な反応がみられる、燃料と空気とが混合されて燃焼反応による火炎が形成される燃料ノズル出口近傍に照射し、前記OHラジカルが発する306.4nmから315nm付近の蛍光を撮像管、又は、撮像素子で結像して映像信号に変換し、コンピユータの制御によって各種モニタに表示すると共に録画し、取込んだ映像をコンピユータの制御の下で画像解析装置を用いて各種の画像処理を行い、OHラジカルの濃度分布を定量的に行う装置。」 3.対比 本願発明と、引用発明とを対比する。 引用発明の「内燃機関」、「点火プラグハウジング1」、「点火プラグ部2」が、本願発明の「エンジン」、「本体」、「電極部」に相当することは明らかである。 そして、点火プラグは、「シリンダヘッドに取り付けられ」て「エンジンの燃焼室内の混合気に着火する」ものであることは技術常識であり、引用発明が点火プラグハウジングに点火プラグ部を設けた上で「シリンダ内の現象を観察、撮影」することは、「シリンダ内の混合気の燃焼状態を観察、撮影」することを意味することは明らかであり、また、引用発明が「高速度撮影してシリンダ内の現象を観察、撮影するため」には、撮影部33によって得られた像を撮像する「高速度カメラ」を具備する必要があることも明らかであるので、引用発明の「装置」は、本願発明の「エンジン燃焼検査装置」と同等の装置であって、また、引用発明の「シリンダ内の現象を観察、撮影するためのボアスコープからなる撮影部33」が、本願発明の「点火プラグに設けられ、混合気の状態を観察する撮像素子」に相当することも明らかである。 さらに、引用発明の「点火プラグ部2を前記ハウジング1の中心から外周側にずらして配置」することは、本願発明の「本体の中心軸線に対し偏心した位置に設けられた電極部を有」することと同義であり、また、引用発明の「その点火プラグ部2の側方に石英ガラスからなる可視化窓32を下端に有する中空部31を設けて、シリンダ内の現象を観察、撮影するためのボアスコープからなる撮影部33と撮影のために十分な光量をシリンダ内に供給する光ファイバーからなる発光部34を配した」ことと、本願発明の「前記点火プラグは、前記電極部の偏心により生じた前記本体の余剰部に前記撮像素子を設け、当該撮像素子に隣接して設けられ、前記燃焼室内にOHラジカル光の輝度を高める紫外光を放射する光ファイバを有」することとは、「前記点火プラグは、前記電極部の偏心により生じた前記本体の余剰部に前記撮像素子を設け、当該撮像素子に隣接して設けられた、撮影のための光を燃焼室内に放射する光ファイバを有する」点で共通する。 してみると両者は、 「エンジンのシリンダヘッドに取り付けられる本体及び当該本体の中心軸線に対し偏心した位置に設けられた電極部を有し、前記エンジンの燃焼室内の混合気に着火する点火プラグと、当該点火プラグに設けられ、前記混合気の状態を観察する撮像素子と、当該撮像素子を透過した光を観察する高速度カメラを有するエンジン燃焼検査装置において、 前記点火プラグは、前記電極部の偏心により生じた前記本体の余剰部に前記撮像素子を設け、当該撮像素子に隣接して設けられた、撮影のための光を燃焼室内に放射する光ファイバを有するエンジン燃焼検査装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)「高速度カメラ」に関連して、 本願発明は「高速度カメラが観察し取得した画像データを解析する画像処理部を有する」のに対し、引用発明はそのような構成を具備しない点。 (相違点2)「光ファイバ」が、 本願発明は「燃焼室内にOHラジカル光の輝度を高める紫外光を放射する」ものであるのに対し、引用発明は撮影のために十分な光量をシリンダ内に供給するためのものである点。 (相違点3)「撮像素子」が、 本願発明は「点火プラグの下端から上方に向かって伸延された筒体内に沿って複数個の溶融石英レンズを、当該溶融石英レンズごとに焦点を結ぶようにリレーレンズとして配置すると共に、前記筒体の前記燃焼室側の端部をサファイアにより構成した蓋体により閉鎖」しているのに対し、引用発明は「石英ガラスからなる可視化窓32を下端に有する中空部31」内に設けられた「ボアスコープからなる」ものである点。 (相違点4)「燃焼検査」の内容が、 本願発明は「燃焼室内の混合気が点火された瞬間から放射され、前記溶融石英レンズを透過した紫外光の内、前記光ファイバからの紫外光により輝度が高められた前記OHラジカル光の放射開始位置及びその後の形態変化を観察し、前記点火プラグが点火した瞬間の火種が発生した状態から次第に火炎が広がっていく状態を検査する」ことであるのに対し、引用発明はどのような検査を行うか明らかでなく、可視像を観察している点。 4.検討・判断 そこで、上記各相違点について検討する。 上記した相違点2と相違点4とは、如何なる燃焼検査を行うかに関し、互いに関連した事項であるので、最初に相違点2と相違点4を合わせて検討する。 (4-1)相違点2、4について 前記(2-2)に記したとおり、エンジン燃焼室内の燃焼状態を検出するため、燃焼火炎中の燃焼中間生成物であるラジカルを観察対象することは、刊行物2発明として本願出願前公知の事項である。 そして、ラジカル濃度の時間的,空間的分布状況を観察して燃焼現象を究明すること、また、炭化水素系燃料の燃焼反応ではOHラジカルが重要な役割をはたすこと、ならびに、OHラジカルの吸収帯域の紫外線を照射し、前記OHラジカルが発する306.4nmから315nm付近の蛍光を撮像して燃焼現象を究明することは、前記(2-3)に記したとおり、刊行物11発明として本出願前公知の事項である。 そうすると、引用発明、および、刊行物2発明ならびに刊行物11発明に接した当業者であれば、エンジン燃焼室内の燃焼現象を観察、撮影するため、引用発明の観察、撮影対象を「OHラジカル光の像」とするとともに、それに付随して、光ファイバを介して燃焼室内に放射する撮影のための光を、OHラジカルに吸収されて蛍光を発する紫外光を照射する光、即ち、「OHラジカル光の輝度を高める紫外光」として「OHラジカル光の像」を観察し易くしようとすることは、容易に想到し得る事項にすぎない。 また、上記「3.」で述べたとおり、引用発明の「シリンダ内の現象を観察、撮影」は、実質的に「シリンダ内の混合気の燃焼状態を観察、撮影」に相当する事項であって、また、引用発明が高速度撮影を行うものであることを鑑みれば、引用発明の「観察、撮影」が、「燃焼室内の混合気が点火された瞬間の火種が発生した状態から、次第に火炎が広がっていく形態変化を観察、撮影」を示唆することは、当業者ならずとも容易に理解しうる事項である。 してみると、本願発明のごとく「燃焼室内の混合気が点火された瞬間から放射され、前記光ファイバからの紫外光により輝度が高められた前記OHラジカル光の放射開始位置及びその後の形態変化を観察し、前記点火プラグが点火した瞬間の火種が発生した状態から次第に火炎が広がっていく状態を検査する」よう構成することにも、格別の困難性は見いだせない。 (4-2)相違点1について 撮像装置によって得られた画像データを画像処理解析することは慣用手法にすぎず、燃焼現象を究明するため、撮像したOHラジカルの時間的,空間的分布状況の変化に関する映像をコンピュータに取り込んで画像解析することは、前記(2-3)に記したとおり、刊行物11発明として本出願前公知の事項である。 してみると、引用発明において、燃焼検査のために「高速度カメラが観察し取得した画像データを解析する画像処理部」を具備せしめるよう構成する点に何ら困難性を見出すことはできない。 (4-3)相違点3について 引用発明の「ボアスコープ」が、筒体内に複数個のリレーレンズを配した装置であることは、例えば特開昭58-93024号公報(特に、第1頁左下欄ならびに第1図参照)に見られるように、また、リレーレンズ系を複数回結像させて光学系の明るさを確保することは、例えば特開平8-122667号公報(特に【0005】段落?【0006】参照)に見られるようにいずれも周知の事項である。 そして、溶融石英やサファイアが紫外線透過性に優れる光学材料であることは、例えば「光学素子の基礎と活用法」(株式会社学会出版センター、1998年 9月20日第2刷発行)第16-17頁に記載されているように当業者に周知の事項であって、また、エンジンの燃焼室に臨ませて燃焼状態を観察する装置の窓部材としてサファイアを用いることも、例えば特開昭63-250532号公報、実願昭61-175139号(実開昭63-81222号)のマイクロフィルム、実願昭62-151805号(実開昭64-55914号)のマイクロフィルムに記載されているように、当業者に周知の事項にすぎない。 ここで、相違点2、4について検討したとおり、シリンダ内の現象をOHラジカル光の像を用いて観察、撮影するよう変更した際には、観察、撮影のための光学系の材料に、OHラジカルから発生される紫外光の透過性が高い光学材料を採用しようとすることは、当業者が当然に行う事項である。 してみると、「点火プラグの下端から上方に向かって伸延された筒体内に沿って複数個の溶融石英レンズを、当該溶融石英レンズごとに焦点を結ぶようにリレーレンズとして配置すると共に、前記筒体の前記燃焼室側の端部をサファイアにより構成した蓋体により閉鎖」するよう構成する点にも、格別の困難性は見いだせない。 なお、相違点4における「紫外光」が「前記溶融石英レンズを透過した紫外光」であることは、撮像素子のリレーレンズとして「溶融石英レンズ」を採用したことによる必然的な事項にすぎない。 そして、これら相違点によって本願発明が奏する作用効果は、引用発明、および、刊行物2発明、刊行物11発明、ならびに周知事項から、当業者が想定できる範囲を超えるものでもない。 してみると、本願発明は、引用発明および刊行物2発明、刊行物11発明ならびに周知事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-31 |
結審通知日 | 2008-04-01 |
審決日 | 2008-04-14 |
出願番号 | 特願2001-152952(P2001-152952) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 樋口 宗彦、▲高▼場 正光 |
特許庁審判長 |
村田 尚英 |
特許庁審判官 |
秋田 将行 田邉 英治 |
発明の名称 | エンジン燃焼検査装置 |
代理人 | 宇谷 勝幸 |
代理人 | 奈良 泰男 |
代理人 | 八田 幹雄 |