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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1178848
審判番号 不服2006-7872  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-25 
確定日 2008-06-02 
事件の表示 特願2003- 66309「等速継手」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月10日出願公開、特開2003-287051〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成15年3月12日(パリ条約による優先権主張、2002年3月22日、米国)の出願であって、平成18年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月11日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成18年5月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年5月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成18年5月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項7は、
「【請求項7】 継手の外側レースとして働くホイールハブであって、前記ホイールハブは、前記ホイールハブの第1の端部に隣接する車両のホイールを取り付けるように構成されたホイール取付構造物と、前記ホイールハブの長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔をおいて配置された軸方向反対側の第2の端部を有し、前記ホイールハブは前記長手方向軸回りの回転が支持され、前記ホイールハブは、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含むホイールハブと、
前記ホイールハブの前記穴内に配置された内側レースであって、前記内側レースは、前記穴の前記部分球状表面と直接係合し、前記ホイールハブがその回りで前記内側レースに対して関節連結する前記継手の継手中心点を画定する部分球状外側表面を有する内側レースとを具備する車両用等速継手において、
前記ホイールハブおよび前記内側レースは、軸方向に延びる整合された複数のボール溝と、各ボール溝内の、トルクを伝達し、前記ホイールハブと前記内側レースの間の相対関節連結を可能にするトルク伝達ボールとを含み、前記ホイールハブの前記溝は片方の軸方向側で前記中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、前記内側レースの前記溝は、反対の軸方向側で前記中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、
車両用等速継手が更に、
前記ホイールハブの前記穴内で前記ボールと前記ホイールハブの前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置であって、前記ボールリテーナ装置は前記ボールに常時、偏荷重を前記第2の端部方向に加え、前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝内に端部ボールを維持するボールリテーナ装置とを具備し、
前記ボールリテーナ装置は、前記ホイールハブの前記穴内に配置されたボールキーパーを含み、
前記ボールリテーナ装置はばねリテーナを含み、このばねリテーナは前記穴内に配置され、前記ホイールハブと前記ボールキーパーとの間で作用して、前記ボールキーパーを前記第2の端部に向かって一定の軸方向に前記ボールと常時係合させて、さらに前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記ボール溝内に前記ボールを維持し、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブの前記穴の表面に接触して前記ボールキーパーに隣接して摺動可能に配置されたプラグを含み、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブと前記プラグの間で作用して、前記プラグを前記第2の端部に向かって常時前記ボールキーパーと係合させる、前記穴の表面に接するばねを含む、車両用等速継手。」
と補正された。なお、下線は対比の便のために当審において付したものである。

前記補正は、補正前の請求項10に記載した発明を特定するために必要な事項である「車両用等速継手」に、
「車両用等速継手が更に、
前記ホイールハブの前記穴内で前記ボールと前記ホイールハブの前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置であって、前記ボールリテーナ装置は前記ボールに常時、偏荷重を前記第2の端部方向に加え、前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝内に端部ボールを維持するボールリテーナ装置とを具備し、
前記ボールリテーナ装置は、前記ホイールハブの前記穴内に配置されたボールキーパーを含み、
前記ボールリテーナ装置はばねリテーナを含み、このばねリテーナは前記穴内に配置され、前記ホイールハブと前記ボールキーパーとの間で作用して、前記ボールキーパーを前記第2の端部に向かって一定の軸方向に前記ボールと常時係合させて、さらに前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記ボール溝内に前記ボールを維持し、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブの前記穴の表面に接触して前記ボールキーパーに隣接して摺動可能に配置されたプラグを含み、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブと前記プラグの間で作用して、前記プラグを前記第2の端部に向かって常時前記ボールキーパーと係合させる、前記穴の表面に接するばねを含む、」
との限定を付加するものであって、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について以下で検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物とその記載事項は、次のとおりである。

刊行物1:米国特許第4,529,254号明細書
刊行物2:特表平2-504662号公報
刊行物3:特公昭61-54966号公報

(1)刊行物1(米国特許第4,529,254号明細書)の記載事項
刊行物1は、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、当該刊行物1の第3欄第50行?第4欄第60行には、「車輪装着装置(WHEEL MOUNTING ASSEMBLY)」に関して、図1とともに、翻訳すると次の事項が記載されているものと認められる。
ア 「図1に示されるように、装置は、車輪又はブレーキ円板を端部に固定した車輪ハブ又はフランジ(wheel hub or flange)1を含む。車輪ハブ(wheel hub)1は、突出部(projection)2を含むように設計され、この突出部(projection)2は、自在継手の外継手部材(outer joint member)として、及び、軸受装置の内軸受リングとして機能する。
このように、突出部(projection)2を含む車輪ハブ(wheel hub)1は、装置の車輪ハブ、軸受装置の内軸受リング及び自在継手の外継手部材(outer joint member)を構成する単一部材からなることが理解される。
突出部(projection)2として形成された自在継手装置の外継手部材(outer joint member)には、溝(groove)3が形成されており、この溝(groove)3は、内継手部材(inner joint member)7の溝(groove)8と共同するように適合され、その中にトルク伝達ボール(torque transmitting ball)9を受容するようにする。
更に、突出部(projection)2は、外軸受リング部材(outer bearing ring member)5を含む軸受装置の内軸受リングとしても形成されている。突出部(projection)2として形成された内軸受リングは、転動部材を受容するための溝(groove)4を含み、その転動部材は、外軸受リング(outer bearing ring)5にも保持される。
車輪軸受装置は、車輪支持部材(wheel carrier)6に取り付けられた外リング(outer ring)5によって当該車輪支持部材(wheel carrier)6に連結される。
自在継手装置の内継手部材(inner joint member)7には、ボア(bore)10が形成されていて、スプラインによって駆動軸(drive shaft)11と協働し、駆動係合するように配列される。自在継手装置の溝(groove)3及び8がジョー形状の開口を形成する端部には、支持要素(supporting element)12が設けられていて、当該支持要素(supporting element)12は、継手の作動時にボール(ball)9が角度2等分面(angle bisecting plane)13から離脱するのを防止する。
内軸受リングの開口(opening)14は、閉鎖キャップ(sealing cap)15で閉鎖されており、同時に支持要素(supporting element)12を支持するようになっている。閉鎖キャップ(sealing cap)15は、内軸受リングの凹所(recess)17に収容された保持リング(securing ring)16によって保持される。
……
この目的は、車輪ハブ(wheel hub)1に向く端部において溝(groove)3及び8がアンダーカットなく始まることによって達成される。このように、外継手部材(outer joint member)の溝は、図1に示されるように左から右へ外継手部材(outer joint member)の軸心から一定又は減少する距離を有し、また、内継手部材(inner joint member)7の溝は、図1に示されるように左から右へ内継手部材(inner joint member)の軸心から一定又は増加する距離を有する。したがって、外継手部材(outer joint member)の溝は、外継手部材(outer joint member)の軸心からの距離が増加することなく車輪ハブに向く端部から伸長し、また、内継手部材(inner joint member)の溝は、内継手部材(inner joint member)の軸心からの距離が増加することなく車輪ハブに向く端部から伸長する。継手内のボール(ball)9は、アンダーカットのない溝(groove)3,8間に形成されるジョー形式の開口(opening)14に配置された支持要素(supporting element)12によって支持され、内継手部材(inner joint member)7の湾曲した溝(groove)8と外継手部材(outer joint member)の溝(groove)3とは、溝の曲率半径の中心C_(R),C_(r)とボール(ball)9の中心とを結ぶ線L_(R),L_(r)が、それぞれの継手部材の回転軸心Aを85度以下の角度wで囲うように配置される。」

前記記載事項ア及び図1の記載によれば、自在継手装置は、継手の外継手部材(outer joint member)(突出部(projection))2として働く車輪ハブ(wheel hub)1を具備しており、前記車輪ハブ1の左側端部を第1の端部とすると、当該車輪ハブ1の第1の端部には、隣接する車両の車輪を取り付けるように構成された車輪取付構造物を有するものと認められる。また、前記車輪ハブ1の長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔を置いて配置された軸方向反対側の右側端部である第2の端部を有しており、前記車輪ハブ1は前記長手方向軸回りの回転が支持されているものと認められる。更に、前記車輪ハブ1は、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含むものと認められる。
また、前記車輪ハブ1の前記穴内には内継手部材(inner joint member)7が配置されており、前記内継手部材7は、部分球状外側表面を有するものと認められる。
更に、前記車輪ハブ1及び内継手部材7は、軸方向に延びる整合された複数の溝(groove)3,8を含み、各溝3,8内に、トルクを伝達し、前記車輪ハブ1と内継手部材7の間の相対関節連結を可能とするトルク伝達ボール(torque transmitting ball)9を含むものと認められる。また、前記車輪ハブ1の前記溝3は、左側である片方の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした曲率半径の中心C_(R)を有し、前記内継手部材7の前記溝8は、右側である反対の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした曲率半径の中心C_(r)を有するものと認められる。
更に、支持要素(supporting element)12及び閉鎖キャップ(sealing cap)15は、前記車輪ハブ1の前記穴内で前記ボール9と前記車輪ハブ1の前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置を構成するものであるといえ、当該ボールリテーナ装置は、前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝3,8内に端部ボールを維持するものと認められる。また、前記閉鎖キャップ15は、前記車輪ハブ1と前記支持要素12との間で作用して、前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記ボール溝3,8内に前記ボール9を維持するものと認められる。
そうすると、刊行物1には、
「継手の外継手部材(outer joint member)(突出部(projection))2として働く車輪ハブ(wheel hub)1であって、前記車輪ハブ1は、前記車輪ハブ1の第1の端部に隣接する車両の車輪を取り付けるように構成された車輪取付構造物と、前記車輪ハブ1の長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔をおいて配置された軸方向反対側の第2の端部を有し、前記車輪ハブ1は前記長手方向軸回りの回転が支持され、前記車輪ハブ1は、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含む車輪ハブ1と、
前記車輪ハブ1の前記穴内に配置された内継手部材(inner joint member)7であって、前記内継手部材7は、部分球状外側表面を有する内継手部材7とを具備する自在継手装置において、
前記車輪ハブ1および前記内継手部材7は、軸方向に延びる整合された複数の溝(groove)3,8と、各溝3,8内の、トルクを伝達し、前記車輪ハブ1と前記内継手部材7の間の相対関節連結を可能にするトルク伝達ボール(torque transmitting ball)9とを含み、前記車輪ハブ1の前記溝3は片方の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした曲率半径の中心C_(R)を有し、前記内継手部材7の前記溝8は、反対の軸方向側で前記継手中心点から軸方向にオフセットした曲率半径の中心C_(r)を有し、
自在継手装置が更に、
前記車輪ハブ1の前記穴内で前記ボール9と前記車輪ハブ1の前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置であって、前記ボールリテーナ装置は前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝3,8内に端部ボール9を維持するボールリテーナ装置とを具備し、
前記ボールリテーナ装置は、前記車輪ハブ1の前記穴内に配置された支持要素(supporting element)12を含み、
前記ボールリテーナ装置は閉鎖キャップ(sealing cap)15を含み、この閉鎖キャップ15は前記穴内に配置され、前記車輪ハブ1と前記支持要素12との間で作用して、前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記溝3,8内に前記ボール9を維持する、自在継手装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特表平2-504662号公報)の記載事項
刊行物2は、原査定の拒絶の理由において従来周知の技術的事項を示すものとして例示された刊行物であって、当該刊行物2の第5頁左上欄第7行?右上欄第3行には、「一定速度比の万能継ぎ手」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
イ 「ボール16は環状ボール接触部材31に接触する。円形支持部材32の周囲は部材31と接触し、円形支持部材32の中心にはくぼ部33が形成され、このくぼ部はボール34上でピボット回転する。ボールは閉鎖部材17により保持されたカップ35内に受入れられる。ばね36はボール接触部材31と支持部材32との間に作用し、ボール接触部材を支持部材に対してボール16の方向へ押圧する。
ボール接触部材31と、ばね36と、支持部材32との間の共働性は第3図から最も明確にわかる。部材31が当接面37を備え、この当接面37は部材31が部材32に対して継ぎ手の閉鎖部材17の方向へ制限量だけ押圧されたのち、支持部材32と接触する。ばね36は部材32と接触する中心環状部分から半径方向へ伸長する複数のばねフィンガーで成る。
継ぎ手の組立中、ボール接触部材31と、支持部材32と、ばね36とが正しく共働するように、外側継ぎ手部材10と閉鎖部材17との間で正しい位置関係が設定されなければならない。特に、継ぎ手がトルクを伝達しない時、ばねはボール接触部材31により、ボールを溝内の最も深いところに保持するように作用しなければならない。同時にトルクが伝達される時には、そのボールはばねの力に逆って、そのような弾力的に対抗する動きの限界に達するまで、継ぎ手に対して軸方向へ移動できなければならず、その後、そのようなボールの動きに対してより大きな抵抗が生じる。」

前記記載事項イ及び図の記載によれば、刊行物2には、
「環状ボール接触部材31及びばね36はボール16に常時、偏荷重を図1の左方向に加えること」、及び、
「ばね36は、環状ボール接触部材31を図1の左方向に向かって一定の軸方向にボール16と常時係合させること」
が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3(特公昭61-54966号公報)の記載事項
刊行物3の第2頁第4欄第42行?第3頁第5欄第13行には、「等速ユニバーサルジヨイント」に関して、図とともに次の事項が記載されている。
ウ 「外側部材10には、コンプレツシヨンスプリング27が内蔵されており、該スプリング27は外側部材10の内側端面30に当接し、ケージ18に対し、アダプター28を介して連結している。アダプター28には係合凸縁31が設けてあり、これにスプリング27が嵌まつている。そしてアダプター28の球面状内面29は、ケージ18の球面状側面19と係合している。これら球面状内面29と球面状側面19の係合により、ケージ18はその直進運動に妨げられることなく、自由に角運動する。アダプター28は、外側部材10の内壁面11にそつて摺動し、アダプター28とスプリング27とを安定せしめる。アダプター28には、ボア32が貫通していて、内側部材13の軸方向への直進運動を妨げないようになつている。」

前記記載事項ウ及び図の記載によれば、刊行物3には、
「アダプター28が、ケージ18に隣接して外側部材10の内壁面11にそつて摺動可能に配置されていること」、及び、
「コンプレツシヨンスプリング27が、外側部材10とアダプター28の間で作用して、前記アダプター28をケージ18と係合させること」
が記載されているものと認められる。

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「外継手部材(outer joint member)(突出部(projection))2」は本願補正発明の「外側レース」に相当し、以下同様に、「車輪ハブ(wheel hub)1」は「ホイールハブ」に、「車輪」は「ホイール」に、「内継手部材(inner joint member)7」は「内側レース」に、「自在継手装置」は「車両用等速継手」に、「溝(groove)3,8」は「ボール溝」に、「トルク伝達ボール(torque transmitting ball)9」は「トルク伝達ボール」に、「曲率半径の中心C_(R),C_(r)」は「関連溝中心」に、「支持要素(supporting element)12」は「ボールキーパー」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「閉鎖キャップ(sealing cap)15」及び本願補正発明の「ばねリテーナ」は、どちらも、「支持要素12」(引用発明)や「ボールキーパー」(本願補正発明)に係合して保持する「係合保持部材」であるといえる。
よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「継手の外側レースとして働くホイールハブであって、前記ホイールハブは、前記ホイールハブの第1の端部に隣接する車両のホイールを取り付けるように構成されたホイール取付構造物と、前記ホイールハブの長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔をおいて配置された軸方向反対側の第2の端部を有し、前記ホイールハブは前記長手方向軸回りの回転が支持され、前記ホイールハブは、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含むホイールハブと、
前記ホイールハブの前記穴内に配置された内側レースであって、前記内側レースは、部分球状外側表面を有する内側レースとを具備する車両用等速継手において、
前記ホイールハブおよび前記内側レースは、軸方向に延びる整合された複数のボール溝と、各ボール溝内の、トルクを伝達し、前記ホイールハブと前記内側レースの間の相対関節連結を可能にするトルク伝達ボールとを含み、前記ホイールハブの前記溝は片方の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、前記内側レースの前記溝は、反対の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、
車両用等速継手が更に、
前記ホイールハブの前記穴内で前記ボールと前記ホイールハブの前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置であって、前記ボールリテーナ装置は前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝内に端部ボールを維持するボールリテーナ装置とを具備し、
前記ボールリテーナ装置は、前記ホイールハブの前記穴内に配置されたボールキーパーを含み、
前記ボールリテーナ装置は係合保持部材を含み、この係合保持部材は前記穴内に配置され、前記ホイールハブと前記ボールキーパーとの間で作用して、前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記ボール溝内に前記ボールを維持する、車両用等速継手。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明では、内側レースが、「ホイールハブの穴の部分球状表面と直接係合し、前記ホイールハブがその回りで内側レースに対して関節連結する継手の継手中心点を画定する」部分球状外側表面を有すると限定されるのに対して、引用発明では、ホイールハブに相当する車輪ハブ1の穴の部分球状表面と内側レースに相当する内継手部材7の部分球状外側表面との関係が不明である点。
[相違点2]
本願補正発明では、ボールリテーナ装置の「係合保持部材」が「ばねリテーナ」であって、ボールリテーナ装置は「ボールに常時、偏荷重を第2の端部方向に加え」るとともに、ばねリテーナは「ボールキーパーを第2の端部に向かって一定の軸方向にボールと常時係合させ」、「ホイールハブの穴の表面に接触してボールキーパーに隣接して摺動可能に配置されたプラグを含み」、「ホイールハブとプラグの間で作用して、前記プラグを第2の端部に向かって常時ボールキーパーと係合させる、穴の表面に接するばねを含む」と限定されるのに対して、引用発明では、ボールリテーナ装置の「係合保持部材」が「閉鎖キャップ15」であって、上記のような限定がない点。

4.当審の判断
そこで、前記各相違点について以下で検討する。

(1)相違点1について
等速自在継手において、外側レースの穴の部分球状表面と内側レースの部分球状外側表面とを直接係合させて、関節連結する継手の継手中心を画定することは、技術常識(例えば、刊行物2(特表平2-504662号公報の第4頁左下欄下から4?末行、参照)であるから、引用発明において、内側レースに相当する内継手部材7が、ホイールハブに相当する車輪ハブ1の穴の部分球状表面と直接係合し、前記車輪ハブ1がその回りで前記内継手部材7に対して関節連結する継手の継手中心を画定する部分球状外側表面を有するようにすることは、当業者が通常採用する設計上の事項である。

(2)相違点2について
前記のとおり刊行物2には、「環状ボール接触部材31及びばね36はボール16に常時、偏荷重を図1の左方向に加えること」、及び、「ばね36は、環状ボール接触部材31を図1の左方向に向かって一定の軸方向にボール16と常時係合させること」が記載されているものと認められる。ここで、刊行物2記載の「環状ボール接触部材31」は本願補正発明の「ボールキーパー」に相当し、また、刊行物2記載の「ばね36」は本願補正発明の「ばねリテーナ」に相当する機能を有するものであって、前記刊行物2記載の「環状ボール接触部材31」及び「ばね36」は本願補正発明の「ボールリテーナ装置」に相当する部材を構成するものといえる。よって、前記刊行物2記載の事項は、前記相違点2に係る本願補正発明の限定事項のうちの、ボールリテーナ装置の「係合保持部材」が「ばねリテーナ」であって、ボールリテーナ装置は「ボールに常時、偏荷重を前記第2の端部方向に加え」るとともに、ばねリテーナは「ボールキーパーを第2の端部に向かって一定の軸方向にボールと常時係合させ」ることに実質的に相当する。
また、前記のとおり刊行物3には、「アダプター28が、ケージ18に隣接して外側部材10の内壁面11にそつて摺動可能に配置されていること」、及び、「コンプレツシヨンスプリング27が、外側部材10とアダプター28の間で作用して、前記アダプター28をケージ18と係合させること」が記載されているものと認められる。ここで、刊行物3記載の「アダプター28」は、当該「アダプター28」が外側部材10の内壁面11に接触するか否かを別にすれば、前記相違点2に係る本願補正発明の「プラグ」に相当するといえるし、また、刊行物3記載の「コンプレツシヨンスプリング27」は、当該「コンプレツシヨンスプリング27」が外側部材10の内壁面11に接するか否かを別にすれば、前記相違点2に係る本願補正発明の「ばね」に相当するといえる。
そして、引用発明及び刊行物2,3記載の事項は、いずれも等速継手という共通の技術分野に属するものであるから、引用発明に刊行物2,3記載の事項を適用することが、当業者にとって格別困難であるとはいえないし、また、前記適用を妨げる特段の要因も見あたらない。
そうすると、引用発明において、引用発明の「閉鎖キャップ15」に代えて、刊行物2記載の「ばね36」の機能を有する「ばねリテーナ」にするとともに、当該「ばねリテーナ」の具体化に当たって、刊行物3記載の「アダプター28」及び「コンプレツシヨンスプリング27」を参酌して、当該「ばねリテーナ」が「プラグ」及び「ばね」を含むものとすることは、当業者であれば容易に想到することができた事項である。また、前記「プラグ」がホイールハブ(引用発明では、車輪ハブ1)の穴の表面に接触するようにすること、及び、前記「ばね」がホイールハブの穴の表面に接するようにすることも、刊行物3の図1の記載を参酌すれば、当業者であれば容易に想到することができた事項である。

(3)作用効果について
そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明、技術常識及び刊行物2,3記載の事項から予測される程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、技術常識及び刊行物2,3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成18年5月11日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成17年10月27日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項10】 継手の外側レースとして働くホイールハブであって、前記ホイールハブは、前記ホイールハブの第1の端部に隣接する車両のホイールを取り付けるように構成されたホイール取付構造物と、前記ホイールハブの長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔をおいて配置された軸方向反対側の第2の端部を有し、前記ホイールハブは前記長手方向軸回りの回転が支持され、前記ホイールハブは、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含むホイールハブと、
前記ホイールハブの前記穴内に配置された内側レースであって、前記内側レースは、前記穴の前記部分球状表面と直接係合し、前記ホイールハブがその回りで前記内側レースに対して関節連結する前記継手の継手中心点を画定する部分球状外側表面を有する内側レースとを具備する車両用等速継手において、
前記ホイールハブおよび前記内側レースは、軸方向に延びる整合された複数のボール溝と、各ボール溝内の、トルクを伝達し、前記ホイールハブと前記内側レースの間の相対関節連結を可能にするトルク伝達ボールとを含み、前記ホイールハブの前記溝は片方の軸方向側で前記中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、前記内側レースの前記溝は、反対の軸方向側で前記中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有する、等速継手。」

2.引用刊行物とその記載事項
刊行物1とその記載事項は、前記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記【2】で検討した本願補正発明から、
「車両用等速継手が更に、
前記ホイールハブの前記穴内で前記ボールと前記ホイールハブの前記第1の端部との間に配置されたボールリテーナ装置であって、前記ボールリテーナ装置は前記ボールに常時、偏荷重を前記第2の端部方向に加え、前記継手の関節連結中に共通のボール平面中の前記溝内に端部ボールを維持するボールリテーナ装置とを具備し、
前記ボールリテーナ装置は、前記ホイールハブの前記穴内に配置されたボールキーパーを含み、
前記ボールリテーナ装置はばねリテーナを含み、このばねリテーナは前記穴内に配置され、前記ホイールハブと前記ボールキーパーとの間で作用して、前記ボールキーパーを前記第2の端部に向かって一定の軸方向に前記ボールと常時係合させて、さらに前記継手の関節連結中に前記共通のボール平面中の前記ボール溝内に前記ボールを維持し、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブの前記穴の表面に接触して前記ボールキーパーに隣接して摺動可能に配置されたプラグを含み、
前記ばねリテーナは、前記ホイールハブと前記プラグの間で作用して、前記プラグを前記第2の端部に向かって常時前記ボールキーパーと係合させる、前記穴の表面に接するばねを含む、」
との限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「継手の外側レースとして働くホイールハブであって、前記ホイールハブは、前記ホイールハブの第1の端部に隣接する車両のホイールを取り付けるように構成されたホイール取付構造物と、前記ホイールハブの長手方向軸回りに前記第1の端部と間隔をおいて配置された軸方向反対側の第2の端部を有し、前記ホイールハブは前記長手方向軸回りの回転が支持され、前記ホイールハブは、前記長手方向軸回りに配置された長手方向穴を有し、前記穴は前記第2の端部に隣接して部分球状表面を含むホイールハブと、
前記ホイールハブの前記穴内に配置された内側レースであって、前記内側レースは、部分球状外側表面を有する内側レースとを具備する車両用等速継手において、
前記ホイールハブおよび前記内側レースは、軸方向に延びる整合された複数のボール溝と、各ボール溝内の、トルクを伝達し、前記ホイールハブと前記内側レースの間の相対関節連結を可能にするトルク伝達ボールとを含み、前記ホイールハブの前記溝は片方の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有し、前記内側レースの前記溝は、反対の軸方向側で継手中心点から軸方向にオフセットした関連溝中心を有する、等速継手。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明では、内側レースが、「ホイールハブの穴の部分球状表面と直接係合し、前記ホイールハブがその回りで内側レースに対して関節連結する継手の継手中心点を画定する」部分球状外側表面を有すると限定されるのに対して、引用発明では、ホイールハブに相当する車輪ハブ1の穴の部分球状表面と内側レースに相当する内継手部材7の部分球状外側表面との関係が不明である点。
そして、前記相違点は、前記【2】3.で認定した相違点1と同じであるから、前記相違点に係る本願発明の限定事項は、前記【2】4.(1)で説示したのと同様の理由により、当業者が通常採用する設計上の事項である。
また、本願発明が奏する作用効果も、引用発明及び技術常識から予測される程度のものであって、格別なものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項10に係る発明)は、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-28 
結審通知日 2008-01-09 
審決日 2008-01-22 
出願番号 特願2003-66309(P2003-66309)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大内 俊彦増岡 亘  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 村本 佳史
水野 治彦
発明の名称 等速継手  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 増井 忠弐  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 千葉 昭男  

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