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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1178875 |
審判番号 | 不服2004-10523 |
総通号数 | 103 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-05-20 |
確定日 | 2008-06-06 |
事件の表示 | 平成10年特許願第114981号「インクジェットヘッドの駆動調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 2日出願公開、特開平11-300965〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成10年4月24日の出願であって、平成16年4月8日付けで拒絶の査定がなされたため、これを不服として同年5月20日付けで本件審判請求がされるとともに、同年6月21日付けで明細書についての手続補正がされたものである。 当審においてこれを審理した結果、平成19年6月5日付けで平成16年6月21日付け手続補正を補正却下するとともに、同日付で拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年8月6日付けで意見書及び明細書についての手続補正書を提出した。 当審においてさらに審理し、平成19年12月13日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は平成20年2月14日付けで意見書を提出した。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年8月6日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定されるものと認めることができ、そのうちの請求項1に係る発明は、同請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】「アクチュエータに噴射信号を印加することによりインクが充填されたインク室から、インク液滴をノズルより噴射させるインクジェットヘッドの駆動調整方法であって、 インクジェットヘッドをそれぞれ異なった状態で駆動するための複数種類の噴射信号を予め選択し、 その選択した各噴射信号によりそれぞれインクジェットヘッドを複数回駆動して、印字方向にドット列を前記複数種類の噴射信号に対応して複数種類形成し、 その複数種類の噴射信号によりインクジェットヘッドの駆動によって印字方向に形成される複数のドット列のうち、前記印字方向に最も直線的なドット列の形成に使用した噴射信号を、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動調整方法。」(以下、「本願発明」という。) 第3 本件審判請求についての当審の判断 A.引用例 当審の拒絶の理由に引用された特開平8-230190号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 (ア)【特許請求の範囲】 「【請求項18】 複数の記録要素と情報を保存可能な記憶部とを有した記録ヘッドを補正する記録ヘッド補正方法であって、 前記記録ヘッドを用い、記録媒体にn種の信号を印加して、前記n回数、第1の記録パターンを試験的に記録する第1記録工程と、 前記記録媒体に記録されたn回分の第1の記録パターン画像の濃度分布から、前記記録要素の所定単位毎に、記録画像が基準濃度に等しいか、或いは、近い値となるように、前記n種の信号の内の1つを選択する選択工程と、 前記選択選択された信号特性を補正データとし、前記補正データを、前記記録ヘッドが有する前記記憶部に送信する送信工程とを有することを特徴とする記録ヘッド補正方法。」 (イ)【0017】 「【実施例】 以下添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。 <装置本体の概略説明>図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット方式のプリンタIJRAの主要部の構成を示す外観斜視図である。本実施例のインクジェット方式のプリンタは、図1に示すように、記録用紙(連続シート)Pの全幅にわたる範囲にインクジェットを吐出する記録ヘッド(フルマルチ型記憶ヘッド)IJHを記録用紙の搬送方向に配列した構成をもっている。これらの記録ヘッドIJHの吐出口INからはインクが所定のタイミングで記録用紙Pに向けて吐出される。」 (ウ)【0019】 「図2はインクジェット方式のプリンタの制御回路の構成を示すブロック図である。図2において、1700は記録信号を例えば、ホストコンピュータなどの外部装置から入力するインタフェース、1701はMPU、1702はMPU1701が実行する制御プログラム(必要によっては文字フォントを含む)を格納するROM、1703は各種データ(上記記録信号やヘッドに供給される記録データ等)を一時的に保存しておくDRAMである。1704は記録ヘッドIJHに対する記録データの供給制御を行うゲートアレイ(G.A.)であり、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。1708は記録用紙(本実施例では連続シート)搬送のための搬送モータである。1705は記録ヘッドを駆動するヘッドドライバ、1706は搬送モータ1708を駆動するためのモータドライバである。」 (エ)【0020】 「上記制御回路の動作概要を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間で記録信号がプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ1706が駆動されると共に、ヘッドドライバ1705に送られた記録データに従って記録ヘッドIJHが駆動され、記録動作が行われる。」 (オ)【0021】 「1711は各基板のセンサ(例えば図14に示す発熱体抵抗モニタ314、温度センサ315等)をモニタすると共に、記録ヘッドIJH内に備えられている各基板(後述するヒータボード1000)のばらつきの補正データを記憶したメモリ13(後述)からの補正データを送信する信号線である。1712はプレヒートパルス及びラッチ信号、ヒートパルス信号等を含む信号線である。MPU1701は、記録ヘッドIJH内のメモリ13からの補正データに基づいて、各基板が均一な画素を形成することができる様に、信号線1712を介して制御信号を記録ヘッドIJHに送る。」 (カ)【0037】 「(2)1ドット単位の補正処理 以上説明した濃度ムラデータは、人間の視覚特性から意味のある濃度ムラが生成されるように、プリント素子の列方向に4ドット毎まとめて生成された。しかしながら、記録画像が記録用紙に記録されて人間が視覚的に確認するようなものではなく、例えば、カラーフィルタのような記録媒体に画像が記録され何らかの装置がその記録画像を読み取ったり、或いは、識別したりする場合には、各ドット毎の濃度ムラが直接画質に効いてくる。」 (キ)【0038】 「このような場合には、画像の濃度ムラの補正は1ドット毎に行なう必要がある。以下の説明は、記録ヘッドの構成がn種類のプレヒートパルス幅を1ラインにわたって配列された記録素子毎に選択できるタイプであることを前提に、記録ヘッドのダブルパルス幅制御において用いられるプレヒートパルスのパルス幅を補正パラメータとし、1ドット毎に画像の濃度ムラの補正を行なう処理に関するものである。」 (ク)【0039】 「この処理は図5に示したフローチャートのステップS4?ステップS10に対応する。まず、ステップS4では、前述のように記録ヘッドの各ユニット(基板1000)の抵抗値をモニタし、M個の配列されたユニット各々の抵抗値のバラツキに基づいて、それぞれの抵抗値に相当する記録電流通電時間(プレヒートパルス幅とメインパルス幅との和)を算出する。この演算は、基本的に記録素子のシミュレーションから得られる。記録ヘッドはM個のユニットにより構成されるので、M個分の記録電流通電時間に関する平均値が得られる。この得られた平均値に対し、α倍(0≦α<1)したものが、後述する基準OD値を求めるためのプレヒートパルス幅となる。このプレヒートパルス幅は各ユニットに共通となる。」 (ケ)【0040】 「図7は以上のようにして求められた記録ヘッドの特性を反映した記録ヘッドの各ユニット毎の記録電流通電時間と、各ユニットに共通なプレヒートパルス幅、及び、各ユニット毎に印加するダブルパルスを示す図である。なお、αの値は記録ヘッドのダブルパルス制御において、経験的に得られた値である。次にステップS6では、補正対象となる記録ヘッドを用いて記録ヘッド補正装置が、(a)図7に示すダブルパルスで標準パターンと、(b)濃度補正のためのテストパターンとを記録媒体上に記録する。この記録パターンは、記録ヘッドに対してダブルパルス幅制御を行ないながら、記録媒体搬送方向(y方向)には記録ヘッドの各ノズルの微妙なゆらぎを平均化するために100ドット程度を単位として、プレヒートパルス幅を変化させながら複数回(n)記録を行なう。」 (コ)【0041】 「なお以上の標準パターンとテストパターンの記録は、補正対象となる記録ヘッドの記録が安定状態になってから行なう。次に、ステップS8では記録された標準パターンとテストパターンをCCDカメラ4で読み取って画像処理してOD値に変換する。図8は、以上のようにして記録されたテストパターンを読み取って画像処理して得られる各記録素子と印加したプレヒートパルス幅に従うOD値をテーブルとして表した図である。図8ではプレヒートパルス幅を0.875μsから2.0μsまで0.125μsづつ増していき、10回(n=10)記録を行なった場合の、各記録素子に関するOD値を示している。このように、一定のプレヒートパルス幅に対しても記録素子毎にOD値がばらついているのが分かる。」 (サ)【0042】 「本実施例では、これらn個のプレヒートパルス幅から濃度ムラをなくすために最適の値を記録素子毎に補正パラメータとして選択する。この最適値は、ある基準OD値(後述)に等しい、或いは、その値に近いOD値が得られるように選択される。例えば、基準OD値を0.43とした場合、図8において★印が付されている値が選択されるように、各記録素子に関し補正パラメータとしてプレヒートパルス幅を選択する。このように補正パラメータが選択されることで濃度補正がなされ、各記録素子に関するOD値がほぼ一定になり、その結果、濃度ムラがなくなることになる。図8の最下段には、各記録素子に関し選択された補正パラメータに付された番号が記されている。」 (シ)【0052】 「図12において、天板2000はヒータボード1000に設けられた吐出エネルギ発生素子1010に対応して設けられた流路2020と、各流路2020に対応して設けられ、インクを記録媒体に向けて吐出させるための各流路2020に連通したオリフィス2030と、各流路2020に対してインクを供給するために各流路に連通した液室2010と、液室2010に対してインクタンク(不図示)から供給されたインクを流入させるためのインク供給口2040とから概略構成されている。天板2000は当然のことながら、ヒータボード1000を複数並べて構成された吐出エネルギ発生素子列をほぼ覆い隠す長さに形成されている。」 上記(イ)?(オ)の記載から、上記(ア)に記載の「記録ヘッド」がインクジェットヘッドであると解され、上記(シ)に記載された「図12」は、そのインクジェットヘッドの構造を示すものであり、上記(イ)?(シ)の記載から、上記(ア)に記載された記録ヘッド(インクジェットヘッド)は、記録素子(記録要素、あるいは、吐出エネルギー発生素子)にプレヒートパルス信号を含む吐出用の信号を供給することによりインクが充填された流路から、インクを吐出口より吐出させるものであることが把握できる。 上記(カ)?(サ)には、プレヒートパルスとメインパルスを用いて記録をするダブルパルス幅制御の記録ヘッド(インクジェットヘッド)において、1ドット単位、つまり、記録素子毎の濃度ムラを、プレヒートパルスのパルス幅を補正することにより少なくする補正処理について記載されており、上記(ケ)には、記録媒体上にダブルパルスで標準パターンの記録を行うとともに、濃度補正のためのテストパターンを記録媒体上に各ノズル(記録素子)で100ドット程度を単位として、プレヒートパルス幅を変化させながら複数回(n)記録を行うことが記載されている。 ここで、標準パターンを記録するためのプレヒートパルス幅等の信号は、各記録ヘッドの抵抗値をモニタし、記録電流通電時間(プレヒートパルス幅とメインパルス幅との和)を算出し、その記録電流通電時間の平均値を経験的に得られたαの値に基づいて演算(α倍する)して求めたものである(上記(ク)、(ケ)の記載を参照)から、その標準パターンに基づいてテストパターンを記録するためにプレヒートパルス幅を変化させた複数(n)のインク吐出用の信号は、記録する前に準備されるものであって、予め選択されたものであるといえる。 また、予め選択されたインク吐出用の信号を用いて100ドット程度を記録媒体上に記録するのであるから、印字方向(記録媒体搬送方向)にドット列を複数種類形成するものであるといえる。 さらに、上記(ア)及び(サ)に記載の選択された信号(プレヒートパルスを含む吐出用の信号)は上記(オ)に記載されているように、記録ヘッドが有する記憶部(メモリ)に記憶されて、当該記録ヘッドの記録に用いられるのであるから、記録ヘッドの吐出用の信号として採用されるものであると解される。 したがって、上記(ア)?(シ)の記載を含む引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「記録素子にプレヒートパルス信号を含む吐出用の信号を供給することによりインクが充填された流路から、インクを吐出口より吐出させるインクジェットヘッドの補正方法であって、 プレヒートパルス幅を変化させた複数(n)種のインク吐出用の信号を予め選択し、 インクジェットヘッドを用い、記録媒体に前記複数(n)種のインク吐出用の信号を印加して、n回数、印字方向に100ドット程度のドット列からなる第1の記録パターンを試験的に記録する第1記録工程と、 前記記録媒体に記録された第1の記録パターン画像の濃度分布から、記録素子毎に記録画像が基準濃度に等しいか、或いは、近い値となるように、前記複数(n)種のインク吐出用の信号の内の1つを選択する選択工程と、 前記選択された信号特性を補正データとし、前記補正データを、前記記録ヘッドが有する記憶部に送信する送信工程とを有し、 前記補正データをインクジェットヘッドの吐出用の信号として採用するようにしたインクジェットヘッドの補正方法。」 B.対比 引用発明の「記録素子」、「プレヒートパルス信号を含む吐出用の信号」、「流路」、「吐出口」及び「補正方法」が、本願発明の「アクチュエータ」、「噴射信号」、「インク室」、「ノズル」及び「駆動調整方法」にそれぞれ相当する。 引用発明の「プレヒートパルス幅を変化させた複数(n)種のインク吐出用の信号」は、プレヒートパルス幅を変化させることにより、異なった状態で駆動することになるから、本願発明の「それぞれ異なった状態で駆動するための複数種類の噴射信号」に相当している。 引用発明の「インクジェットヘッドを用い、記録媒体に前記複数(n)種のインク吐出用の信号を印加して、n回数、印字方向に100ドット程度のドット列からなる第1の記録パターンを試験的に記録する第1記録工程」は、選択されたn種類のインク吐出用の信号それぞれに対応した、印字方向のドット列を形成することを意味するから、本願発明の「その選択した各噴射信号によりそれぞれインクジェットヘッドを複数回駆動して、印字方向にドット列を前記複数種類の噴射信号に対応して複数種類形成」する点と相違しない。 引用発明の「前記記録媒体に記録された第1の記録パターン画像の濃度分布から、記録素子毎に記録画像が基準濃度に等しいか、或いは、近い値となるように、前記複数(n)種のインク吐出用の信号の内の1つを選択する選択工程と、前記選択された信号特性を補正データとし、前記補正データを、前記記録ヘッドが有する記憶部に送信する送信工程とを有し、前記補正データをインクジェットヘッドの吐出用の信号として採用するようにした」点と、本願発明の「その複数種類の噴射信号によりインクジェットヘッドの駆動によって印字方向に形成される複数のドット列のうち、前記印字方向に最も直線的なドット列の形成に使用した噴射信号を、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用する」点とは、ともに、形成されたドット列から、より良いと思われるドット列を選び、その選ばれたドット列を形成するために用いられた駆動信号を採用するものであるから、両者は「その複数種類の噴射信号によりインクジェットヘッドの駆動によって印字方向に形成される複数のドット列のうち、最適なドット列の形成に使用した噴射信号を、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用する」点において共通しているといえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点>「アクチュエータに噴射信号を印加することによりインクが充填されたインク室から、インク液滴をノズルより噴射させるインクジェットヘッドの駆動調整方法であって、 インクジェットヘッドをそれぞれ異なった状態で駆動するための複数種類の噴射信号を予め選択し、 その選択した各噴射信号によりそれぞれインクジェットヘッドを複数回駆動して、印字方向にドット列を前記複数種類の噴射信号に対応して複数種類形成し、 その複数種類の噴射信号によりインクジェットヘッドの駆動によって印字方向に形成される複数のドット列のうち、最適なドット列の形成に使用した噴射信号を、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用するインクジェットヘッドの駆動調整方法。」 <相違点>最適なドット列の形成に使用した噴射信号として複数種類の噴射信号から採用される噴射信号が、本願発明では、「印字方向に最も直線的なドット列の形成に使用した噴射信号」であるのに対して、引用発明では記録画像と基準濃度とを比較し、基準濃度に等しいか、或いは、近い値となるインク吐出用の信号であり、上記のように特定されていない点。 C.判断 引用発明は、濃度ムラ補正を行うことを目的として、記録パターンの濃度を基準濃度と比較して、吐出信号を選択するものであるから、本願発明のように記録パターンの直線性を判断基準とするものではない。 しかしながら、インクジェットヘッドにおける、各ノズルから噴射されるインク液滴の記録媒体上での着弾位置は濃度ムラと密接に関連している。 例えば、特開平7-101062号公報には「イメージ画像を印刷するに当たっては、発色性、階調性、一様性など様々な要素が必要となる。特に一様性に関しては、マルチヘッド製造工程で生じるわずかなノズル単位のばらつきが、印字したときに、各ノズルのインクの吐出量や吐出方向の向きに影響を及ぼし、最終的には印字画像の濃度ムラとして画像品位を劣化させる原因となる。」(段落【0005】参照。)と記載されており、各ノズルの吐出量とともに、吐出方向(噴射方向)のばらつきが濃度ムラの原因となっていることは、当業者にとって技術常識である。 また、ノズルの真円度等のばらつきにより、インク液滴の噴射方向が安定せず乱れること、及び、その噴射方向を安定させるために、噴射信号を調整することは、請求人が平成19年8月6日付け意見書において提示した従来技術文献であり、平成19年12月13日付け拒絶理由通知書に提示した、特開昭56-15365号公報、特開昭59-133067号公報、特開平4-369542号公報に記載されており、従来周知技術にすぎない。 したがって、濃度ムラ補正を目的として、濃度自体に着目するのではなく、各ノズルから噴射されるインク液滴の着弾位置に着目し、その位置を安定させることによって、濃度ムラの改善をすることは、当業者にとって想到容易なことである。 そして、そのようにした場合、最も良好な記録パターンは、印字方向に直線となったドット列を形成した記録パターンであり、比較対象として必要な、相対的な「基準濃度」のような基準のパターン(直線ドット列パターン)を記録する必要はなく、複数種類の噴射信号に対応して形成した複数のドット列のうち、「印字方向に最も直線的なドット列の形成に使用した噴射信号」を選択し、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用することになるのは、当然のことである。 (なお、噴射方向を安定できても、偏った方向に「安定」することも想定されるので、噴射方向を安定させることが、必ずしも、すべての濃度ムラを解消することにはならないが、少なくとも噴射方向の不安定さに起因した濃度ムラは解消できるとともに、噴射方向を安定させることができれば、記録方法やインク液滴のインク量を変えるなど、他の手段、方法により、噴射方向の偏りに起因した濃度ムラの補正が可能になるのだから、上記のように濃度ムラ補正を目的としてインク滴の着弾位置を安定させることは、当業者にとって想到容易なことであるといえる。) したがって、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用例、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易になし得る程度のことである。 なお、請求人は平成20年2月14日付け意見書において、本願発明(請求項1の発明)と引用発明(引用文献1の発明)とを比較して「引用文献1の発明は、記録パターン画像の濃度分布に基づき信号を選択するものであり、請求項1の発明のように、印字方向のドット列の乱れを検出して、前記印字方向に最も直線的なドット列の形成に使用した噴射信号を、そのインクジェットヘッドの噴射信号として採用するものではない。」と述べ、本願発明の進歩性を主張しているが、上記したように、記録ヘッドの製造ばらつきによる噴射方向の偏りやばらつきが、濃度ムラの原因の1つであることは従来から知られており、噴射信号(パルス幅等)を調整して噴射方向を安定されることが従来周知の技術事項である以上は、濃度に代えて噴射方向の安定性、すなわち、ドット列の直線性に着目するようなことは格別な技術事項ではなく、当業者にとって想到容易なことであるといえる。 さらにいえば、引用例に記載されたような、複数種類の異なった駆動信号を予め用意して、その複数の駆動信号それぞれによりテストパターン記録を行い、最も適切なパターン記録を行った駆動信号をその記録ヘッド又は記録素子の駆動信号として採用するような補正方法(駆動調整方法)は、本願出願時において、プリンタの技術分野において普通に知られている補正方法であるから、平成19年8月6日付け意見書で請求人が上記した特開昭56-15365号公報、特開昭59-133067号公報、特開平4-369542号公報を提示して主張するように、インク滴の噴射方向がずれる現象及びそのずれをパルス制御(メニスカス位置の制御)によって解消できる点が従来から周知の事項であるならば、引用発明が濃度に着目しているか否かにかかわらず、本願発明は、引用例にて例示される周知の補正方法及び請求人が主張する周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得る程度のものでしかないと解さざるを得ず、いずれにしても、請求人の上記主張を採用することはできない。 そして、相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することによる効果も、引用例、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が予測し得る程度のことにすぎない。 したがって、本願発明は、引用例、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、上記理由によって拒絶すべきものであって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-03-25 |
結審通知日 | 2008-04-01 |
審決日 | 2008-04-14 |
出願番号 | 特願平10-114981 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 時男 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
菅藤 政明 尾崎 俊彦 |
発明の名称 | インクジェットヘッドの駆動調整方法 |
代理人 | 鳥巣 実 |