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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1178890
審判番号 不服2005-14214  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-25 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 特願2000- 47669「マルチファンクションプリントシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月28日出願公開、特開2001-232905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年2月24日に特許出願されたものであって、拒絶理由通知に応答して平成16年12月8日付けで手続補正がされたが、平成17年6月24日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成17年7月25日付けで審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年11月28日付けで平成17年7月25日付け手続補正を補正却下するとともに、同日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は、平成20年1月31日付けで意見書及び明細書についての手続補正書を提出した。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成20年1月31日付けで補正された特許請求の範囲(請求項数は1)の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「画像情報の取り込み手段から取り込まれた画像情報を印刷手段により複数部印刷することが可能で、その印刷動作が、割り込み要求に対し印刷部数単位もしくはある一定の印刷枚数単位でしか停止できないように構成されたマルチファンクションプリントシステムにおいて、
割り込み要求があった場合に、現在印刷中の印刷ジョブに設定されている印刷部数を示す印刷要求情報と、現在印刷されている前記画像情報の印刷済枚数を示す印刷状況のみに基づいて、割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間と現在時刻から割り込み可能な時刻を算出し、新たに要求された割り込み処理が必要とする時間を足して要求した割り込みが終了する時刻を算出し、割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間から割り込み可能な時間の長さを算出する演算手段と、
ユーザが表示要求を要する旨の専用のキーの操作あるいは割込みを要求するキーの操作をした場合、前記演算手段により算出された割り込み可能な時刻、割り込みが終了する時刻、及び割り込み可能な時間の長さのいずれかを表示可能な表示手段と、
を備えたことを特徴とするマルチファンクションプリントシステム。」(以下、「本願発明」という。)

ここで、本願発明の「割り込み可能な時刻」という語句そのものの意味は必ずしも明確とはいえないが、「割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間と現在時刻から」算出される点を参酌し、また「要求した割り込みが終了する時刻」と対応させて、「要求した割り込みが開始する時刻」を意味していると解することができるので、当審ではそのように解釈して以下の判断を行うこととする。
また、本願発明の「割り込み可能な時間の長さ」という語句についても同様に、必ずしも明確とはいえないものの、「割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間から」算出される点を参酌し、また「要求した割り込みが開始する時刻」と対応させて、「要求した割り込みが開始するまでの時間の長さ」を意味していると解することができるので、当審ではそのように解釈して以下の判断を行うこととする。

第3 本件審判請求に関する当審の判断
1.引用例
本願の出願前に頒布された刊行物であって、当審の拒絶の理由に引用された特開平7-76155号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉?〈セ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「スキャナから読込まれ、またはネットワークを通じて送られてきたプリントジョブのイメージデータを一旦プリント待ち行列に格納し、プリント出力部が空き次第プリント出力を行うプリンタ装置において、
各ジョブのプログラム条件や原稿イメージページ数により、各ジョブのプリント処理時間とそのジョブのプリント終了時間を計算する第1の演算手段と、
ジョブがプリント待ち行列からプリント出力部に送られた場合に前記プリント待ち行列内のジョブのプリント終了時間をアップデートする第2の演算手段と、
各ジョブのプリント終了までの待ち時間を表示するプリント待ち時間表示手段と、
を具備するプリンタ装置。」(【請求項1】)
〈イ〉「【産業上の利用分野】本発明は、原稿から読取ったイメージデータやワークステーション等のネットワーククライアントから送られてきたプリントジョブのイメージデータを、一旦保持し、プリント出力部が空き次第出力プリントを行うプリンタ装置に係り、特にジョブ終了推定時間の表示機能を備えたプリンタ装置に関する。」(【0001】)
〈ウ〉「【発明が解決しようとする課題】ところで、従来のプリンタ装置はプリント出力部と装置本体部が同じ場所に設置されているため、プリント出力部が発生源となって作業環境あるいはオフィス環境に影響を与えていた。また従来のジョブ処理の表示情報ではプリントを依頼したその場で、または電話での問い合わせに対して、どの程度の待ち時間があるのか、あるいはいつ頃仕上がるのかを知ることができない。またネットワークプリンタとして使用される場合には、ワークステーション等のクライアント側でプリンタ装置に送ったジョブが、いつ頃仕上がるかを確認することができない。このように、依頼者がプリンタの所に出力プリントをいつ頃取りに行けばよいか知ることができなかった為、所定の時刻に必要なプリントが得られないという不具合を生じ易い。さらに、オペレータに依頼して、プリント待ち行列の該当ジョブのプリント順位を必要な所まで上げてもらう等の急を要する場合の操作を行うと、当該ジョブ以降のジョブが一律に遅らされるため、他の依頼者に迷惑を掛けることも起こるなどの問題点もある。本発明の目的は、プリント依頼者に対してジョブ終了時刻やジョブ待ち時間を知らせることができるプリンタ装置を提供することである。また本発明の他の目的は、通常オペレータがプリンタ出力操作を行う場所の環境を改善したプリンタ装置を提供することである。」(【0004】)
〈エ〉「【実施例】以下に、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。図1は本発明のプリンタ装置のシステム構成の一例を示す。プリンタ装置は、装置本体側操作表示部1、原稿送り装置2、スキャナ3、マシンコントロール部4を作業室に設置し、この作業室に隣接して設けられる別室あるいはついたてなどによって区画されたスペースにはプリント出力部5、プリント出力側操作表示部6を備えている。装置本体側操作表示部1は通信ケーブル7を介してマシンコントロール部4に接続され、またプリンタ出力部5は通信ケーブル8を介してマシンコントロール部4に接続されている。通常オペレータは作業室にて装置本体側操作表示部1と原稿送り装置2にのみアクセスするだけで作業が進められ、プリント出力部5の排出トレイが満杯になった時と給紙トレイの用紙を交換または補給する時のみ、プリント出力部5にアクセスする。」(【0007】)
〈オ〉「次にプリンタ装置の制御系について説明する。図2は本発明のプリンタ装置の制御系のハードウエア構成を示す。図3はメインプロセッサ部、イメージ処理部、プリントプロセッサ部の構成を示す。操作表示部1は、オペレータがジョブ条件を入力するためのキースイッチやタッチスイッチなどの操作手段1-1およびプリンタ機能を実行するために必要な情報を、例えば保管されたジョブのプリント待ち情報を表示するCRT,LCDなどの表示手段1-2を備えている。原稿送り装置2は、入力されたジョブ条件に基づく記録モードに応じて、原稿束から原稿を1枚づつプラテンガラス上に搬送し、原稿画像読取り後に排出する。スキャナ部3は、プラテンガラス上の原稿読み取り位置に原稿が敷き込まれると光学的読取り装置が作動し、原稿画像を読み取る。イメージ処理部10は、読取ったイメージデータを圧縮するなどのイメージ処理を施す。」(【0010】)
〈カ〉「ジョブファイル12は、イメージ処理部10から送られてくるイメージ処理後のイメージデータ(イメージデータ数を含む)を、メインプロセッサ部14から送られてくる当該ジョブに対するジョブプログラムの内容(ジョブチケット)、つまりプリント出力情報と一緒に一時保管する。このジョブファイルの構造は、イメージデータとジョブチケットからなる。ここで、ジョブプログラムの内容とはプリント枚数、片面/両面、縮拡、打針等の後処理を行うための、従来の複写機のプログラム内容に加え、マージ(アノテーション)、回転、ジョブの処理(プリント後ジョブ削除/プリント後ジョブファイルに保存/プリントせずにジョブファイルに保存)など種々の設定を含んでいる。」(【0011】)
〈キ〉「このメインプロセッサ部14は、操作表示部1または6からの入力により、イメージ処理部10によって処理されたジョブやLANによって送られてくるジョブを、どのような順序でプリント出力処理するかのプログラミングを行い、このプログラミングに従って必要なイメージ操作を施し、ハードディスクで構成されるプリント待ち行列(以下プリントキューと記す)16に一時保管する共に、受け付けたジョブと処理済みのジョブからプリント待ち情報を管理する。」(【0013】)
〈ク〉「プリントプロセッサ部18は、プリントプロセッサとプリント出力処理を制御するプリント出力コントロール18-1から成る。プリントプロセッサはプリントジョブをプリント待ち行列へ一時保管し、当該プリントジョブがプリント待ち状態にある旨のメッセージを表示部1-2に表示する。またプリントジョブの入出力ごとにプリント出力に必要なトレイのチェックを行い、プリントキュー16にあるプリントジョブに対するトレイ情報を表示部にメッセージ表示する。このプリントプロセッサは、プリント出力コントロール18-1からプリント終了情報を受けると、プリントキュー16から次のプリントジョブのイメージデータを取り出し、イメージデータの伸長処理を行ってプリント出力コントロール18-1に送り、プリント出力部5からプリント出力する。」(【0014】)
〈ケ〉「図4はプリント待ち行列の表示例を示す。図4(a)はジョブAがプリント出力部に送られる直前の表示であり、図4(b)はジョブAがプリント出力部へ送られた直後の表示である。プリント待ち行列は、ジョブ名、ジョブの受付日と受付時刻を知らせるキューイング日時、ジョブの処理時間、およびジョブの待ち時間で表示される。例えば、ジョブAは1992年6月3日の10時に受付、このジョブAの処理に要する時間は8分かかり、おおよそ9分待ちであることを表示している。そして、ジョブAがプリント出力部に送られると、図4(b)の表示に変わる。このプリント待ち行列では前のジョブAを処理するのに8分かかるので、このジョブAの処理時間を基に以降のジョブB,C,…の待ち時間の見直しを行う。本例では、ジョブAのプリント出力部へ送られた直後の待ち時間の見直しではジョブBが10分、ジョブCが10分、ジョブDが35分としてこれからの待ち時間の表示替えがなされる。」(【0015】)
〈コ〉「ジョブファイル12に一時保管されるジョブの終了待ち時間の処理について説明する。図5はプリントキューへジョブ追加があったときのジョブ終了待ち時間処理の流れを示すフローチャートである。キューコントロール部22はジョブプログラムのパラメータ、読み込まれたイメージページ数の情報、各ページのデータ圧縮率情報によりプリントキューへのジョブ追加の命令が送られると(S100)、図7に示すジョブ時間計算ルーチンを起動して当該ジョブのプリントにかかるジョブ時間(t)を計算する(S101)。すなわち、ジョブ時間計算ルーチンが起動すると、プリント終了時刻の指定の有無、イメージ操作情報などのプログラムパラメータの抽出および解析が行われ(S120)、また圧縮やフォーマット変換情報などのイメージ情報の抽出および解析を行う(S121)。そして、プリントプロセッサ部での処理時間などのプリント前処理時間(1)を計算する(S122)。続いてプリント出力部でのプリント時間(2)を計算する(S123)。さらにプリント出力部での打針、簡易製本などのプリント後処理時間(3)を計算する(S124)。これらの計算結果からジョブ時間(t=(1)+(2)+(3))を計算する(S125)。この結果に基づいて次の処理が行われる。」(【0019】)
〈サ〉「上記の処理よれば、ジョブファイルに保管されていたジョブは決定されたプリントキューの最適位置に送られ、一時保管されると共に、プリントキューコントロール部により計算されたジョブ時間とジョブ待ち時間が表示部に表示される。プリントキューコントロール部では、さらにプリント出力部による出力プリント開始からの時間経過、例えば毎分により、RAMに記憶されているプリントキュー16内の全てのジョブの待ち時間を減算し、その度に表示部の表示をアップデートする。」(【0024】)
〈シ〉「1つのジョブのプリント出力終了時には、プリントキューの先頭のジョブがプリントプロセッサ部に送られ、ジョブのプリント出力が指示される。その時点でプリントキューに待機中のジョブのジョブ時間のデータを基に各ジョブのジョブ待ち時間が修正され、表示のアップデートが行われる。このことによって、プリントキューコントロール部によって計算されたジョブ処理時間と実際にかかったジョブ処理時間に誤差があっても、該当ジョブの終了時点でその後のジョブのジョブ待ち時間が修正される。」(【0025】)
〈ス〉「次にジョブの割り込み処理を図9を参照しながら説明する。割り込みジョブが発生したかを判断し(S140)、割り込みジョブがあった場合には、当該ジョブを優先順位1位とみなし、当該ジョブのジョブ時間を計算し(S141)、プリントキューの先頭へジョブを追加および表示する(S142)。そして、プリントキュー内のジョブの待ち時間を計算する(S143)。この計算結果から指定時刻をオーバーするジョブがあるかを判断し(S144)、指定時刻をオーバーするジョブがないときはプリントキュー内のジョブの待ち時間を修正(リバイス)表示する(S146)。指定時刻をオーバーするジョブがあるときはそのジョブの前に時刻指定のないジョブがあるかを判断する(S145)。時刻指定のないジョブがあるときは最も近い時刻指定のないジョブと順序を変換し、ステップ140にリターンする(S147)。」(【0026】)
〈セ〉【図4】のプリント待ち行列の表示例において、図4(a)では先頭のジョブAのジョブ処理時間が8分、待ち時間が9分と、また次のジョブBのジョブ処理時間が2分、待ち時間が11分とそれぞれ表示され、ジョブAがプリント出力部へ送られた直後の図4(b)では先頭のジョブBのジョブ処理時間が2分、待ち時間が10分と表示されていることが看取できる。

上記〈オ〉には「操作表示部1は、オペレータがジョブ条件を入力するためのキースイッチやタッチスイッチなどの操作手段1-1およびプリンタ機能を実行するために必要な情報を、例えば保管されたジョブのプリント待ち情報を表示するCRT,LCDなどの表示手段1-2を備えている。」と、また上記〈ス〉には「次にジョブの割り込み処理を図9を参照しながら説明する。割り込みジョブが発生したかを判断し(S140)、割り込みジョブがあった場合には」と記載されている。これらの記載から、オペレータがキースイッチなどの操作手段を操作することによりジョブ条件を入力するものであり、割り込みジョブについても同様であると解される。すなわち、オペレータがキースイッチの操作をすることで割り込みを要求するものと解される。
上記〈カ〉には「ジョブプログラムの内容とはプリント枚数、片面/両面……など種々の設定を含んでいる。」と記載され、上記〈コ〉には「キューコントロール部22はジョブプログラムのパラメータ、読み込まれたイメージページ数の情報、各ページのデータ圧縮率情報によりプリントキューへのジョブ追加の命令が送られると(S100)、図7に示すジョブ時間計算ルーチンを起動して当該ジョブのプリントにかかるジョブ時間(t)を計算する(S101)。すなわち、ジョブ時間計算ルーチンが起動すると、プリント終了時刻の指定の有無、イメージ操作情報などのプログラムパラメータの抽出および解析が行われ(S120)、また圧縮やフォーマット変換情報などのイメージ情報の抽出および解析を行う(S121)。そして、プリントプロセッサ部での処理時間などのプリント前処理時間(1)を計算する(S122)。続いてプリント出力部でのプリント時間(2)を計算する(S123)。さらにプリント出力部での打針、簡易製本などのプリント後処理時間(3)を計算する(S124)。これらの計算結果からジョブ時間(t=(1)+(2)+(3))を計算する(S125)。」と記載されている。これらの記載から、プリント枚数を含むジョブプログラムから当該ジョブの処理に要する時間が計算されるものと解される。
上記〈ケ〉には「図4はプリント待ち行列の表示例を示す。図4(a)はジョブAがプリント出力部に送られる直前の表示であり、図4(b)はジョブAがプリント出力部へ送られた直後の表示である。プリント待ち行列は、ジョブ名、ジョブの受付日と受付時刻を知らせるキューイング日時、ジョブの処理時間、およびジョブの待ち時間で表示される。例えば、ジョブAは1992年6月3日の10時に受付、このジョブAの処理に要する時間は8分かかり、おおよそ9分待ちであることを表示している。そして、ジョブAがプリント出力部に送られると、図4(b)の表示に変わる。このプリント待ち行列では前のジョブAを処理するのに8分かかるので、このジョブAの処理時間を基に以降のジョブB,C,…の待ち時間の見直しを行う。本例では、ジョブAのプリント出力部へ送られた直後の待ち時間の見直しではジョブBが10分、ジョブCが10分、ジョブDが35分としてこれからの待ち時間の表示替えがなされる。」と記載されている。この記載から、プリント待ち行列の表示においては、先頭のジョブの待ち時間として当該ジョブが終了するまでの時間長さ、すなわち当該ジョブの処理に要する時間と現在実行中のジョブの処理に要する時間とを加算した時間長さが表示されると解される。さらに、上記〈ス〉には「割り込みジョブが発生したかを判断し(S140)、割り込みジョブがあった場合には、当該ジョブを優先順位1位とみなし、当該ジョブのジョブ時間を計算し(S141)、プリントキューの先頭へジョブを追加および表示する(S142)。そして、プリントキュー内のジョブの待ち時間を計算する(S143)。」と記載されており、この記載から、割り込みジョブはプリント待ち行列(プリントキュー)の先頭に追加されるものであり、したがって通常のジョブと同様に割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間が表示されるものと解される。

以上のことから、上記〈ア〉?〈ス〉の記載を含む引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「スキャナから読込まれたプリントジョブのイメージデータをプリント出力部により印刷することが可能なプリンタ装置において、
プリント枚数を含むジョブプログラムから各プリントジョブの処理に要する時間及び各プリントジョブが終了するまでの待ち時間を算出する第1の演算手段と、
第1の演算手段により算出された各プリントジョブの処理に要する時間及び各プリントジョブが終了するまでの待ち時間を表示可能な表示手段とを備え、
割り込みジョブの発生があった場合に、当該割り込みジョブを、現在実行中のジョブの次に実行すべくプリント待ち行列の先頭に配置し、
第1の演算手段により、プリント枚数を含むジョブプログラムから割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間を算出するとともに、
オペレータが割り込みを要求するキースイッチの操作をした場合、第1の演算手段により算出された割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間を表示手段に表示する、プリンタ装置。」(以下、「引用発明」という。)

2.対比
a.引用発明の「スキャナ」、「イメージデータ」、「プリント出力部」、「プリント枚数」、「割り込みジョブの発生」、「オペレータ」、「キースイッチ」は、本願発明の「画像情報の取り込み手段」、「画像情報」、「印刷手段」、「印刷枚数」、「割り込み要求」、「ユーザ」、「キー」に相当する。
b.本願発明の「マルチファンクションプリントシステム」について、本願明細書の記載を参酌すると、本願明細書【0015】に「図2に、本実施例に係るマルチファンクションプリントシステムの構造図を例示する。ここでは多機能の電子複写機(画像形成装置)を想定して説明する。」と記載されていることからみて、多機能のプリントシステムを「マルチファンクションプリントシステム」と称する程度であると解される。他方、引用発明の「プリンタ装置」について上記〈イ〉に「本発明は、原稿から読取ったイメージデータやワークステーション等のネットワーククライアントから送られてきたプリントジョブのイメージデータを、一旦保持し、プリント出力部が空き次第出力プリントを行うプリンタ装置に係り」と記載されており、この記載からみて多機能の「プリンタ装置」であると解することができるので、引用発明の「プリンタ装置」は本願発明に倣って「マルチファンクションプリントシステム」と称することができる。
c.引用発明の「第1の演算手段」と本願発明の「演算手段」とは、いずれも「演算手段」である点で共通する。さらに、引用発明の「第1の演算手段」は「割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間を算出する」ものであり、本願発明の「演算手段」は「一枚当たりの処理時間と現在時刻から割り込み可能な時刻を算出し、新たに要求された割り込み処理が必要とする時間を足して要求した割り込みが終了する時刻を算出し、割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間から割り込み可能な時間の長さを算出する」ものであるから、両者は割り込み処理に関連する時間を算出する「演算手段」である点で共通する。
d.引用発明の「表示手段」と本願発明の「表示手段」は、いずれもユーザが割り込みを要求するキーの操作をした場合、演算手段により算出された時間を表示可能な点で共通する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
「画像情報の取り込み手段から取り込まれた画像情報を印刷手段により複数部印刷することが可能なマルチファンクションプリントシステムにおいて、
割り込み要求があった場合に、割り込み処理に関連する時間を算出する演算手段と、
ユーザが割り込みを要求するキーの操作をした場合、演算手段により算出された時間を表示可能な表示手段と、
を備えたマルチファンクションプリントシステム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本願発明に係るマルチファンクションプリントシステムが「その印刷動作が、割り込み要求に対し印刷部数単位もしくはある一定の印刷枚数単位でしか停止できないように構成された」と特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点2〉
本願発明では「表示手段」が「割り込み可能な時刻、割り込みが終了する時刻、及び割り込み可能な時間の長さのいずれかを表示可能」と特定されているのに対し、引用発明では表示手段が「割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間」を表示するものであり、前記の特定がなされていない点。
〈相違点3〉
本願発明における「演算手段」が、割り込み要求があった場合に「現在印刷中の印刷ジョブに設定されている印刷部数を示す印刷要求情報と、現在印刷されている前記画像情報の印刷済枚数を示す印刷状況のみに基づいて、割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間と現在時刻から割り込み可能な時刻を算出し、新たに要求された割り込み処理が必要とする時間を足して要求した割り込みが終了する時刻を算出し、割込み可能となるまでの印刷枚数を求めて、一枚当たりの処理時間から割り込み可能な時間の長さを算出する」と特定されているのに対し、引用発明における演算手段が、割り込み要求があった場合に「割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間を算出する」ものであり、前記の特定がなされていない点。

3.判断
〈相違点1〉について
本願の出願前に頒布された刊行物であって、当審の拒絶の理由に引用された特開平10-4482号公報(以下、「引用例2」という。)には、
「読み込んだ画像のプリントアウトを開始してからステープルするまでの間、つまり一部分のプリントアウト動作中に、割込キー92が投入されると、その時点で割込原稿を受け付けて割込原稿の読取りがなされる。そして、読取られた割込原稿のページデータがページメモリ323に格納され、割込要求がイネーブルとされて割込フラグがオンされる。割込を受付けている最中もプリントアウトは続行されている。
そして、一部分のコピー用紙Pがステープルされた時点で、割込フラグのオン/オフが確認され、プリントアウト動作中に割込要求があった場合には、このタイミングで、割込原稿の画像がページメモリ323から読み出されてプリントアウトされる。」(【0068】?【0069】)と記載され、
同じく本願の出願前に頒布された刊行物であって、当審の拒絶の理由に引用された特開平10-97160号公報(以下、「引用例3」という。)には、
「【従来の技術】原稿台の上に置かれた原稿の画像を電気信号に変換して用紙に印刷する画像形成装置において、複数の原稿画像を格納可能なページメモリを有する前記画像形成装置では、読み込んだ原稿と出力される画像の順番を入れ替えること、すなわち電子ソートが可能である。電子ソートして印刷出力された複数部の用紙は、ステープラーで1部づつステープルされ、トレイに排紙される。
また、前記画像形成装置では、割込キー等の割込指示手段によって電子ソート実行中に電子ソートを一時中断して別のコピー(割込コピー)を取ることが可能である。ステープル電子ソート実行中に割込を指示すると、部数の区切れまでは電子ソート印刷を優先して実行し、部数終了後に割込コピーが可能となる(遅延割込)。」(【0002】?【0003】)とそれぞれ記載されている。
これら引用例2及び引用例3に記載されているように、割り込み要求に対し印刷部数単位でしか印刷動作が停止できないように構成されたマルチファンクションプリントシステムは周知であり、このような周知の技術事項を引用発明に適用することは当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点1に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。

〈相違点2〉について
[1]「割り込みが終了する時刻」及び「いずれかを表示可能」について
上記〈ウ〉の「本発明の目的は、プリント依頼者に対してジョブ終了時刻やジョブ待ち時間を知らせることができるプリンタ装置を提供することである。」との記載から、引用例1には、依頼したジョブが終了する時刻をユーザに知らせることも示唆されているといえる。

また、本願の出願前に頒布された刊行物であって、当審の拒絶の理由に引用された特開平4-298785号公報(以下、「引用例4」という。)には、
「図1の複写機の上面操作部には、図2に示すような操作ボ-ドが配置されている。図2を参照すると、この操作ボ-ドには多数のキ-スイッチと多数の表示器が備わっている。即ち、残時間/終了時刻切換キ-70,終了時間表示キ-71,割り込みコピ-の設定・解除を行なう割り込みキ-72,割り込みコピ-状態を示す割り込み表示73,置数確認キ-74,テンキ-75,各種情報を表示する表示パネル76,両面モ-ドキ-77,両面モ-ドの状態を表示する両面表示78,綴代調整キ-79,綴代の寸法を表示する綴代寸法表示80,DF(原稿送り装置)モ-ドキ-81,サイズ統一モ-ド表示82,自動用紙選択モ-ド表示83,ソ-タ用のモ-ド表示84,85,ソ-タ用のモ-ド選択キ-86,ADF(全自動原稿送り)モ-ド表示87,SADF(半自動原稿送り)モ-ド表示88,ADF/SADFモ-ド切換キ-89,原稿寸法入力モ-ド表示90,指定寸法入力モ-ド表示91,寸法変倍モ-ド表示92,93,ペ-ジ連写モ-ド表示94,ペ-ジ連写モ-ドキ-95,原稿サイズ選択キ-96,縮小キ-97,拡大キ-98,等倍指定キ-99,用紙選択キ-100,濃淡調節キ-101,自動濃度調節モ-ドキ-102,クリア/ストップキ-103,スタ-トキ-104,エンタ-キ-105,メッセ-ジ表示器106及び数値表示器107が備わっている。これらのキ-スイッチ及び表示器の大部分は従来より良く知られているものであるので、特徴的なものについてのみ説明する。」(【0013】)と、また、
「この実施例では、終了時間表示キ-71を押下することによって、これから実行するコピ-処理の終了時間を表示するモ-ドに入ることができる。この特別なモ-ドにおいては、コピ-処理が終了するまでの残り時間とコピ-処理が終了する時刻のいずれかが表示される。残時間/終了時刻切換キ-70を押下することによって、表示する時間を残り時間と終了時刻のいずれにするかを切換えることができる。残り時間及び終了時刻は、メッセ-ジ表示器106上に表示される。 図3に、図1の複写機の電装部の構成を示す。図3を参照すると、この電装部には2つのマイコンユニットがそれぞれメイン制御部41及びI/O制御部44として設けられており、これらの制御部に各種の制御ユニットが接続されている。ヒ-タ制御ユニット45は定着器12の定着温度を制御し、ランプ制御ユニット46は照明灯31の光量を制御し、スキャナモ-タユニット47は画像読取のための光学走査系30の機械的な往復走査駆動を制御し、レンズ/ミラ-ユニット48はコピ-倍率調整のためのモ-タ駆動を制御し、高圧電源ユニット51は帯電チャ-ジャ3,転写チャ-ジャ7,分離チャ-ジャ8等に印加する高圧電力を生成する。センサユニット50は多数のセンサを含んでいるが、例えば給紙カセット15,16及び17内の転写紙サイズを検知するセンサも含まれている。各給紙カセットの先端部には、それに装填されるべき転写紙のサイズに予め割り当てられた形状の識別用突起が設けられており、その形状をセンサで識別することによって転写紙のサイズが認識される。」(【0014】)と、それぞれ記載されている。これらの記載から、引用例4には、コピー処理がいつ終了するかに関する情報を、ユーザのキー操作に応じて終了するまでの残り時間または終了する時刻のいずれかの形で、メッセージ表示器(表示手段)に表示する技術が記載されていると認めることができる。
このような技術を引用発明に適用し、割り込みに関してユーザに知らせるべき、割り込みが終了する時刻等の各種の情報を、キー操作により選択的に表示手段に表示するよう構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

[2]「割り込み可能な時間の長さ」について
引用発明は、表示手段に「割り込みジョブの処理に要する時間及び割り込みジョブが終了するまでの待ち時間」を表示するものであるが、この「割り込みジョブが終了するまでの待ち時間」から「割り込みジョブの処理に要する時間」を減算することにより、割り込みジョブが開始するまでの待ち時間、すなわち「割り込み可能な時間の長さ」が求められることは、当業者にとって自明である。
このように、引用発明においては、表示手段に表示される情報から「割り込み可能な時間の長さ」をユーザが容易に把握することができるのであり、この「割り込み可能な時間の長さ」を表示手段に表示することでユーザに知らせるよう構成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る事項である。

[3]「割り込み可能な時刻」について
上記[1]で検討したように、引用例1には表示手段に時間の長さのみならず時刻を表示することも示唆されている。また上記[2]で検討したように、引用発明は、表示手段に表示される情報から割り込みジョブが開始するまでの待ち時間をユーザが容易に把握することができるように構成されている。
これらを考え合わせるに、引用発明において割り込みジョブが開始する時刻、すなわち「割り込み可能な時刻」を表示手段に表示するよう構成することは、当業者が容易想到な事項である。

したがって、相違点2に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び引用例4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。

〈相違点3〉について
上記「〈相違点2〉について」ですでに検討したように、引用発明において表示手段に「割り込み可能な時刻、割り込みが終了する時刻、及び割り込み可能な時間の長さ」を表示可能とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。そして、「割り込み可能な時刻」、「割り込みが終了する時刻」、及び「割り込み可能な時間の長さ」を表示するに先立って、それらを算出する必要があることは自明であるから、演算手段においてそれらを算出するよう構成することも当業者が容易想到な事項である。

ここで、引用例4には、
「ステップ12:コピ-枚数入力が完了したか否かをエンタ-キ-105がオンしたか否かによって識別する。キ-105がオンすると次のステップ13に進む。ステップ13:現在のコピ-条件で全てのコピ-処理が完了するまでの時間を求める。まず、現在選択中の転写紙給紙系の給紙カセットにおける転写紙サイズを検出し、当該サイズに対応するコピ-プロセス1回あたりの所要時間T1を求め、前のステップ4又は8で得た原稿枚数Noとステップ11で得たコピ-枚数Ncに基づいて次式により、コピ-所要時間Ttを求める。
【数1】 Tt=No×Nc×T1」(【0027】?【0028】)と、また、
「ステップ15:メイン制御部内に備わった時計で計数された現在時刻Tcにコピ-所要時間Ttを加算してコピ-終了時刻Teを求める。」(【0030】)と、それぞれ記載されている。これらの記載から、引用例4には、印刷枚数及び一枚当たりの処理時間から所要時間を算出し、さらに現在時刻をもとにして処理が終了する時刻を算出する技術が記載されているといえる。
してみれば、割り込み可能な時刻等を表示するにあたり、割り込み可能となるまでの印刷枚数及び一枚当たりの処理時間、並びに現在時刻をもとに、表示すべき割り込み可能な時刻等を算出するよう構成することは、引用発明及び引用例4に記載された技術事項を組み合わせて当業者が容易になし得ることといえる。

さらに、上記「〈相違点1〉について」ですでに検討したように、周知の技術事項を引用発明に適用して、割り込み要求に対し印刷部数単位でしか印刷動作が停止できないように構成されたマルチファンクションプリントシステムとすることは当業者が容易になし得る事項であり、その場合、割り込み可能な時刻等を算出するにあたっては、現在印刷中の印刷ジョブに設定されている印刷部数や印刷済枚数等の情報をもとに、割り込み可能となるまでの印刷枚数を求める必要があることは自明であるから、演算手段でそのような算出を行うことは、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、相違点3に係る本願発明の特定事項は、引用発明、引用例4に記載の技術事項、並びに周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。

上記のように、相違点1乃至相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明、引用例4に記載の技術事項、並びに周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、かかる発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が予測し得る程度のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例4に記載の技術事項、並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-28 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-14 
出願番号 特願2000-47669(P2000-47669)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 徹弥桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 坂田 誠
菅藤 政明
発明の名称 マルチファンクションプリントシステム  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 神田 正義  
代理人 藤本 英介  

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