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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1178906
審判番号 不服2006-2623  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-13 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 平成 8年特許願第270071号「電子メール読み上げ装置,電子メール読み上げ方法および記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月 6日出願公開、特開平10-117234〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年10月11日に出願したものであって、平成18年1月12日付けで拒絶査定がなされたところ、同年2月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年3月10日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年3月10日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成18年3月10日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、
「読み上げ対象の電子メールを複数格納する記憶手段と、
ユーザが指定した送信人名、ユーザが指定したキーワードの少なくともいずれかを、電子メールを選択する条件として保持する選択条件保持手段と、
前記記憶手段に格納された複数の電子メールの中から、前記選択条件保持手段に保持する条件に合致した電子メールを選択する電子メール選択手段と、
前記電子メール選択手段で選択した電子メールを合成音声で読み上げる読み上げ手段とを備えたことを特徴とする電子メール読み上げ装置。」
(以下、「補正発明」という。)に補正された。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また、上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を、「電子メールを選択する条件」の内容が「ユーザが指定した送信人名、ユーザが指定したキーワードの少なくともいずれか」である点により限定するものである。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.1 補正発明
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

3.2 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-216938号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項イ?ハが記載されている。

イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、構造化データファイルから所望のフィールドを抽出し、この所望フィールドを合成音声に変換する方法及び装置に関する。特に、本発明は、遠隔的にデータファイルを選択し、この選択フィールドのテキストから合成音声を生成させる装置及び方法に関する。」(3頁4欄36?42行)

ロ.「【0011】
【第1実施例】図1は、電子的メッセージ(以降、「電子メール」と記載)の構造化データファイルの電子メール様式テンプレートである。電子メール様式テンプレート1は、構造化電子メールデータファイル内の各フィールドの位置を定義する。
【0012】電子メールソフトウェアプログラム中の電子メールデータファイルは、各プログラムメーカーによって異なるので、各電子メール様式テンプレート1は、顧客が使用する電子メールソフトウェアプログラムに合わせてカスタマイズしなくてはならない。即ち、図1の電子メール様式テンプレートは、電子メールソフトウェアプログラムに基づいて独自に構成されなくてはならない。例えば、メールハンドリングシステム社のソフトウェアが生成する電子メールデータファイルの電子メール様式テンプレートは、ダビンチEメール社のソフトウェアが生成する電子メールデータファイルとは違うはずである。
【0013】フィールドの配置を規定する電子メール様式テンプレートを、図1の構造図を参照して説明する。図1に示したように、電子メールデータファイル1は、メッセージが誰に送られるかという「受信先」を指定する第1フィールド3と、メッセージを誰が送るかという「発信元」を指定する第2フィールド5と、(「記」で表された)電子メールの題名を指定する第3フィールド7を具備している。第4フィールド9は、経路指定情報を指定するが、通常は、電子メールの受信者に示されない「発音できない」および認識できない情報を入れる。第5フィールド11には「メッセージ」を入れる。第6フィールド13には、必要に応じて「添付事項」を入れる。「添付事項」を入れる場合は、第6フィールド13に、ファイルサーバに記憶されている通りに、添付事項のアドレスを入れる。
【0014】更に詳しく述べると、上記各フィールドは、サイズおよび記憶位置情報を規定する様式テンプレートとして、コンピュータ可用形式で記憶装置に記憶することができる。幾多の例の中には、音声化するテキストもフィールドに入れることができるものがある。図2は、電子メールデータファイルのコンピュータ可用様式テンプレート3の図である。各フィールドは、情報の記憶位置、サイズ、タイプより成っており、構造化データファイルからデータが読みだされる前に音声化されるテキストが含まれる場合もある。例えば、図1で、第5フィールド11は「メッセージ」フィールドを備えている。図2では、第5フィールド11は、コンピュータ可用様式テンプレート3にて、参照文字Cで表されている。参照文字Cのコンピュータ可用情報により、コンピュータは、電子メール構造化データファイル内で「メッセージ」を探し出すことができる。この情報には、更に、「メッセージ」のサイズといった詳細事項も含まれている。更に、コンピュータは、位置8にあるテキストを音声化する前に、「メッセージ」という単語のASCIIテキストをテキスト音声化装置に送信するように指示される。図3は、電子メールのような構造化データファイルから選択されたフィールドを抽出してテキスト音声化装置に提供する、本発明の第1実施例の全体構造である。構内通信網(LAN)を介して電子メールデータファイルが送出されると、電子メールデータファイルは特定受信者/ユーザの指定「メールボックス」に送られる。「メールボックス」は、ファイルサーバ21のような、LANファイルサーバにある。
【0015】ファイルサーバ21は、LAN33に接続され、電子メールファイルのようなデータファイルを蓄積するためのライブラリとして使用される。ファイルサーバ21は、電子メールテンプレート1を記憶するためにも使用される。LAN33により、ファイルサーバ21は、パーソナルコンピュータ23のような複数のパーソナルコンピュータ端末へアクセスできる。ファイルサーバ21は、電子メールファイルを受信して記憶装置に電子メールファイルを蓄積した後、指定「メールボックス」に電子メールメッセージが蓄積されていることをパーソナルコンピュータに通知する。図1の構成では、サイルサーバ21は、指定「メールボックス」に電子メールが送られて蓄積されていることを、パーソナルコンピュータ23に通知する。
【0016】パーソナルコンピュータ23は、標準PCワークステーションを包含することもある。パーソナルコンピュータ23は、マイクロプロセッサ25、ランダムアクセスメモリ(RAM)27、読出し専用メモリ(ROM)29、ハードディスク37を具備する。パーソナルコンピュータ23は、LAN33を介してファイルサーバ21に接続される。パーソナルコンピュータ23には、電話インタフェース40に接続される直列線路も接続される。パーソナルコンピュータ23には、メッセージの取り出しを補助するために、ディスプレィ50や音声認識デコーダ53のような他の周辺装置も接続できる。
【0017】電子メール着信の通知は、パーソナルコンピュータ23に送られる。受信通知は、パーソナルコンピュータ23内部のカウンタ(不図示)を増分し、カウンタによって計数された現在のメッセージ数は定期的に出力され、RAM27に記憶される。
【0018】図4は、本実施例のマイクロプロセッサ25と電話インタフェース40の機能ブロック図である。遠隔的にメッセージを取り出すことを希望するユーザは、遠隔地にてプッシュホン電話を利用して、パーソナルコンピュータ23に照会を送信する。着信した電話照会は電話インタフェース40によって受信される。
【0019】電話インタフェース40は、デュアルトーン変調周波数デコーダ(以降、「DTMF」と記載)41、テキスト音声化装置43、電話回線45を具備する。電話インタフェース40は、着呼に応答すると同時に、電話照会が受信されたことをパーソナルコンピュータ23に通知する。同時に、電話インタフェース40は、マイクロプロセッサ25に要求を送り、予め記憶されている選択メニューを取り出す。
【0020】マイクロプロセッサ25は、シリアルライン35を介して電話インタフェース40から照会を受信する。電話照会が受信された旨の通知が受信されると、マイクロプロセッサ25はROM29から記憶されている処理ステップを取り出す。記憶されている処理ステップは、ファイルサーバ21のような不揮発性メモリからASCIIテキストを取り出すステップを含んでいる。記憶されているASCIIテキストには、選択メニューが含まれている。これらの選択メニューはテキスト音声化装置43に送られて音声化される。いずれの選択メニューの場合も、ユーザは、プッシュホンのボタンを押して選択を入力するように促される。例えば、前記予め記憶されたステップは、ユーザによる英数字のパスワード入力を要求する。
【0021】パスワードが要求される場合、ユーザは、電話Aのプッシュホンの数字を押せばパーソナルコンピュータ23にアクセスできる。押されたプッシュホンの数字は、個人パスワードと相互関係のあるDTMF周波数を発生する。トーンで入力されたパスワードを受信した電話インタフェース40は、これらのトーンをDTMFデコーダ41に送信する。こうして復号化された信号は、比較のためにマイクロプロセッサ25に送られる。マイクロプロセッサ25では、入力されたパスワードを、ハードディスク37のような不揮発性メモリに記憶されているパスワードと比較する。
【0022】マイクロプロセッサ25によってアクセスが許可されると、マイクロプロセッサ25はファイルサーバ21からユーザ選択メニューを取り出すする。記憶されている選択メニューは、「発信先/受信元のみ」、「主題」、「メッセージ」、「緊急メッセージ」、「新メールのみ」等といった、フィールドを選択するためのオプションを具備しているが、これらはファイルサーバ21に予め記憶される選択項目の例である。テキスト音声化装置43にユーザ選択メニューが送信されて音声化される。選択メニューはテキスト音声化装置43に受信され、テキスト音声化装置43は音声化された選択メニューを電話回線45を介して電話Aに出力する。
【0023】ユーザは、選択メニューに応え、プッシュホンのボタンを押して選択肢を入力する。生成されたトーンはDTMFデコーダ41によって復号化され、シリアルライン35を介してパーソナルコンピュータ23に送信される。DTMFデコーダ41では、各DTMF周波数をコマンドとして解釈する。音声出力と相関する各コマンドは、次いで、マイクロプロセッサ25に送信される。
【0024】マイクロプロセッサ25は、ユーザの選択に基づいて抽出シーケンスを実行する。更に詳しく述べると、マイクロプロセッサ25は、各ユーザの選択にしたがってファイルサーバ21から構造化データファイルを取り出し、このファイルをRAM27に蓄積する。マイクロプロセッサ25は、構造化データファイルを取り出すだけでなく、ファイルサーバ21から電子メール様式テンプレート1も取り出し、この様式テンプレートをRAM27に格納する。
【0025】電子メール様式テンプレート1は、マイクロプロセッサ25が電子メールの構造化データファイル内の各フィールドを捜し出すためのマップとして使用される。マイクロプロセッサ25は、ユーザの選択にしたがって、電子メール様式テンプレート1の記憶位置情報を利用して、所望のフィールドを走査し、探し出し、抽出する。更に、マイクロプロセッサ25は、図2に示す電子メールファイル様式テンプレート3に指示されている場合には、フィールドに付けるASCIIテキスト識別子ラベルをファイルサーバ21から取り出す。テキストフィールドにASCIIフィールド識別子ラベルを付けた後、各識別子およびフィールドは電話インタフェース40にダウンロードされる。電話インタフェース40は、ユーザ出力コントローラ61を備えている。ユーザ音声出力コントローラ61は、ユーザ選択コントローラ63によって入力されたユーザの選択に基づいて、選択された各フィールドを出力する。
【0026】更に、選択されたフィールド各々が電話インタフェース40にダウンロードされた後、マイクロプロセッサ25は、ファイルサーバ21から、予め記憶されている音声出力選択メニューを取り出し、これらの選択メニューをテキスト音声化装置43に自動送信して音声化する。ユーザは、選択メニューを聞いた後、プッシュホンのボタンを押して音声出力の選択項目を入力する。こうして生成されたトーンは、DTMFデコーダ41によって復号化される。ユーザ音声出力コントローラ61は、復号化されたコマンドの音声出力オプションに基づいて、選択されたテキストフィールドをテキスト音声化装置43に出力する。」(5頁7欄3行?6頁10欄41行)

ハ.「【0030】図5の流れ図は、電子メールテキスト音声化装置20による電子メールの遠隔取り出し動作を示す。ステップS401で、着信電子メールメッセージが蓄積されているかどうかをLANファイルサーバ21が判断する。電子メールメッセージがある場合には、ステップS403で、電子メールファイルは指定パーソナルコンピュータのメールボックスに格納される。また、電子メールメッセージが一つも格納されていないと判断される場合には、ステップS401に戻る。
【0031】ステップS405で、着信した電話照会があるかどうかをパーソナルコンピュータ23が判断する。パーソナルコンピュータ23は、ステップS405で電話照会が検出されるまで回線監視動作を繰り返して実行するだけで、着信した電話照会が検出されるまでは回線の監視ループのままである。電話インタフェース40によって電話照会が検出されると、この検出はパーソナルコンピュータ23に送出され、ステップS407に進む。ステップS407で、マイクロプロセッサ25はユーザパスワードの照合を発呼者に要求する。ステップS407でユーザパスワードが確認されない場合、ステップS409で電話が切断される。
【0032】しかしながら、パスワードが識別された場合はステップS410に進み、マイクロプロセッサ25はファイルサーバ21から記憶されている選択メニューを取り出し、テキスト音声化装置43に送り、音声出力する。メニュー出力後、ステップS411で、マイクロプロセッサ25はRAM29に記憶されたメッセージの数をチェックする。メッセージカウンタに数字が入っている場合、マイクロプロセッサ25は、“X”件の新メッセージがあるということを自動的にユーザに報告するASCIIテキストを生成する。しかし、RAM29のメッセージカウンタに数字が記憶されていなければ、マイクロプロセッサ25は、「新メッセージはない」ということをユーザに報告するASCIIテキストを取り出してテキスト音声化装置43に送る。
【0033】メッセージがある場合は、ステップ413で、ユーザは予め記憶されている音声出力選択メニューにしたがって選択を入力する。この選択項目には、メッセージのどの部分を読み出す、このまま切断する、受信先/発信元フィールドだけを抽出する、緊急メッセージだけを抽出する、メッセージだけを抽出する、等がある。
【0034】マイクロプロセッサ25は選択を受信すると、ステップS415で、電子メール様式テンプレート1を利用して選択されたテキストを抽出して、この抽出されたテキストにASCIIラベルを付加する。ステップS415において、音声出力オプションが指定されていない場合は、ステップS417でいずれかの音声出力オプションを指定するようにユーザに要求し、ステップS415に戻る。音声出力が選択されると、次にステップS421で、抽出されたテキストフィールドと生成されたASCIIの部分とがテキスト音声化装置43に送出されて、音声化される。
【0035】ステップS421で抽出テキストが音声化された後、マイクロプロセッサ25はユーザに対して、他のメッセージも取り出すかどうかを尋ねる。メッセージに関する新しい要求がなされたと判断された場合は、ステップS413に戻る。しかし、ユーザが他のメッセージは必要ないということを指示した場合は、そのまま終了し、電話回線45は切断される。」(7頁11欄9行?12欄18行)

上記摘記事項イ?ハ及び図面について、以下のことが指摘できる。
段落【0013】の「電子メールデータファイル1」に関する「第5フィールド11には「メッセージ」を入れる。」との記載、
段落【0015】の「ファイルサーバ21は、LAN33に接続され、電子メールファイルのようなデータファイルを蓄積するためのライブラリとして使用される。ファイルサーバ21は、電子メールテンプレート1を記憶するためにも使用される。LAN33により、ファイルサーバ21は、パーソナルコンピュータ23のような複数のパーソナルコンピュータ端末へアクセスできる。ファイルサーバ21は、電子メールファイルを受信して記憶装置に電子メールファイルを蓄積した後、指定「メールボックス」に電子メールメッセージが蓄積されていることをパーソナルコンピュータに通知する。」との記載、
及び、段落【0024】の「マイクロプロセッサ25は、ユーザの選択に基づいて抽出シーケンスを実行する。更に詳しく述べると、マイクロプロセッサ25は、各ユーザの選択にしたがってファイルサーバ21から構造化データファイルを取り出し、このファイルをRAM27に蓄積する。マイクロプロセッサ25は、構造化データファイルを取り出すだけでなく、ファイルサーバ21から電子メール様式テンプレート1も取り出し、この様式テンプレートをRAM27に格納する。」との記載によれば、「メッセージ」は「電子メール」の「データファイル」中に存在する「フィールド」の1つであることが理解できる。
次いで、段落【0032】の「メニュー出力後、ステップS411で、マイクロプロセッサ25はRAM29に記憶されたメッセージの数をチェックする。メッセージカウンタに数字が入っている場合、マイクロプロセッサ25は、“X”件の新メッセージがあるということを自動的にユーザに報告するASCIIテキストを生成する。」との記載(なお、ここで「RAM29」は「RAM27」の誤記と認められる。)、
及び、段落【0035】の「他のメッセージも取り出すかどうかを尋ねる。」との記載から、「メッセージ」は複数存在しうるものであり、電子メール自体も複数存在しうるといえる。
次いで、段落【0022】の「記憶されている選択メニューは、「発信先/受信元のみ」、「主題」、「メッセージ」、「緊急メッセージ」、「新メールのみ」等といった、フィールドを選択するためのオプションを具備しているが、これらはファイルサーバ21に予め記憶される選択項目の例である。」との記載、
及び、段落【0033】メッセージがある場合は、ステップ413で、ユーザは予め記憶されている音声出力選択メニューにしたがって選択を入力する。この選択項目には、メッセージのどの部分を読み出す、このまま切断する、受信先/発信元フィールドだけを抽出する、緊急メッセージだけを抽出する、メッセージだけを抽出する、等がある。」との記載からみて、電子メールには「新メール」として区別できる種類のものが、また、電子メールの「メッセージ」には「緊急メッセージ」として区別される種類のものがそれぞれ含まれており、
更に、段落【0034】の「マイクロプロセッサ25は選択を受信すると、ステップS415で、電子メール様式テンプレート1を利用して選択されたテキストを抽出して」との記載も考慮すると、「ユーザ」は、選択の入力によって全電子メールの中から特定の種類の電子メールを選択でき、したがって、その選択の入力を受け付ける手段を当然備えており、「マイクロプロセッサ」は、その選択に合致する電子メールを抽出するものと認められる。

したがって、上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には、
「音声化対象の電子メールを複数蓄積するファイルサーバと、
ユーザが電子メールを選択するための選択の入力を受け付ける手段と、
前記ファイルサーバに蓄積された複数の電子メールの中から、前記選択に合致した電子メールを抽出するマイクロプロセッサと、
前記マイクロプロセッサで抽出された電子メールを合成音声で音声化するテキスト音声化装置とを備えた電子メールテキスト音声化装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.3 対比・判断
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明において、「音声化」とは読み上げることであり、電子メールを「蓄積する」とは格納することであり、「ファイルサーバ」は記憶手段であり、「テキスト音声化装置」は読み上げ手段であり、「電子メールテキスト音声化装置」は電子メール読み上げ装置である。
引用発明における「電子メールを選択するための選択の入力」は、「マイクロプロセッサ」が選択に合致した電子メールを抽出するのであるから、電子メールを抽出する条件を指定することであるといえる。また、「抽出する」ことは選択することである。
そうすると、引用発明における「ユーザが電子メールを選択するための選択の入力を受け付ける手段」と、補正発明の「ユーザが指定した送信人名、ユーザが指定したキーワードの少なくともいずれかを、電子メールを選択する条件として保持する選択条件保持手段」とは、いずれも「ユーザが指定した電子メールを選択する条件を特定する手段」である点で一致し、引用発明の「マイクロプロセッサ」は電子メール選択手段である。

したがって、両者は、
「読み上げ対象の電子メールを複数格納する記憶手段と、
ユーザが指定した電子メールを選択する条件を特定する手段と、
前記記憶手段に格納された複数の電子メールの中から、前記条件に合致した電子メールを選択する電子メール選択手段と、
前記電子メール選択手段で選択した電子メールを合成音声で読み上げる読み上げ手段とを備えた電子メール読み上げ装置。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「電子メールを選択する条件」の内容に関して、補正発明では「ユーザが指定した送信人名、ユーザが指定したキーワードの少なくともいずれか」であるのに対して、引用発明では、「ユーザが指定した」ものではあるものの、そのような内容ではない点。

(相違点2)
「条件を特定する手段」に関して、補正発明は「選択条件保持手段」であり、条件を「保持する」機能を有するのに対して、引用発明はそのような機能を有していない点。

そこで、各相違点について以下に検討する。

(相違点1について)
多数の電子メールの中からユーザが指定する送信人名又はキーワードを用いて絞り込みを行い、それに合致する電子メールのみを選択することにより、ユーザが所望の情報を容易に得られるようにすることは、例えば、特開平6-237267号公報、特開昭63-294035号公報に開示されているように周知技術にすぎず、もとより、一般に電子メールはテキスト文書により構成され、個々の電子メールは送信人が異なるから、電子メールの絞り込みの条件として送信人名やキーワードを用いることは自明といえる程度の事項である。

(相違点2について)
マイクロプロセッサが所定の処理を行うために必要な情報を保持するメモリ等の手段を設けることは、特に例示するまでもなく、通常行うことであるから、引用発明において、電子メール選択手段(マイクロプロセッサ)が条件に合致する電子メールを選択する処理を行うために、当該条件を保持する選択条件保持手段を設けることは、当業者が容易に想到しうることである。

また、補正発明の作用効果についても、引用発明及び周知技術から当業者が予測しうる程度のものである。

したがって、補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年3月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年12月1日付けの手続補正により補正された明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「読み上げ対象の電子メールを複数格納する記憶手段と、電子メールを選択する条件を保持する選択条件保持手段と、前記記憶手段に格納された複数の電子メールの中から、前記選択条件保持手段に保持する条件に合致した電子メールを選択する電子メール選択手段と、前記電子メール選択手段で選択した電子メールを合成音声で読み上げる読み上げ手段とを備えたことを特徴とする電子メール読み上げ装置。」

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「3.2 引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 補正却下の決定」で検討した補正発明に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加又は限定した補正発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「3.3 対比・判断」の項に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-04 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-21 
出願番号 特願平8-270071
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
P 1 8・ 575- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴谷 裕二土谷 慎吾  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 富澤 哲生
梶尾 誠哉
発明の名称 電子メール読み上げ装置,電子メール読み上げ方法および記憶媒体  
代理人 丹羽 宏之  
代理人 野口 忠夫  

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