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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 D21F
管理番号 1179549
審判番号 不服2004-16450  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-06 
確定日 2008-06-12 
事件の表示 平成 9年特許願第 86345号「ポリアミド製螺旋の継目で継ぎ合せられたプレス布」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月24日出願公開、特開平10- 53993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成 9年 4月 4日の出願(優先権主張日1996年 6月25日、米国)であって、平成16年 4月12日付けで手続補正され、平成16年 5月 6日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成16年 8月 6日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、平成16年 9月 3日付けで手続補正がされたものである。

2.平成16年 9月 3日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年9月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正の内容
平成16年 9月 3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)による補正は、特許請求の範囲を下記のように補正するものを含むものである。
「【請求項1】 ピン継目によりエンドレスの形に密接し、かつ、機械上で継ぎ合せできるプレス布であって、
機械方向(MD)の糸のシステム及び機械に直交する方向(CD)の糸のシステム、前記MD糸のシステムの前記糸が変形エンドレス織技術で前記CD糸のシステムの前記糸と織り合わされて長さ、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形に前記プレス布を形成すること、前記MD糸が前記二つの横縁の間において前記プレス布の前記長さに亘って前後に伸びていること、更に前記MD糸が前記二つの横縁の各々に沿って継ぎ合せループを形成していること、前記MD糸が単繊維または多繊維の、束ねられ/撚られた糸であること、それ故前記束ねられ/撚られた糸が前記継ぎ合せループを形成すること;
機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記プレス布の前記二つの横縁の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第一継ぎ合せ螺旋、前記螺旋はポリアミド樹脂製であること;
機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記プレス布の前記二つの横縁の他の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第二継ぎ合せ螺旋、前記螺旋はポリアミド樹脂製であることからなり、
それによって前記プレス布は前記第一と第二の継ぎ合せ螺旋を絡み合わせることにより又ピン継目を作るために絡み合わされた継ぎ合せ螺旋により確立された通路を通ってピントルを案内することによりエンドレスの形に連結される
ことを特徴とする前記布。
【請求項2】 前記第一と第二の継ぎ合せ螺旋が単繊維の螺旋である請求項1に記載のプレス布。
【請求項3】 前記単繊維の螺旋が押出し成型されたものである請求項2に記載のプレス布。
【請求項4】 前記束ねられ/撚られた糸が、各繊維が0.05mmから0.15mmの範囲の直径を持つ、多芯より糸である請求項1に記載のプレス布。
【請求項5】 前記束ねられ/撚られた糸が紡がれた糸である請求項1に記載のプレス布。
【請求項6】 前記束ねられ/撚られた糸が複合糸である請求項1に記載のプレス布。
【請求項7】 前記束ねられ/撚られた糸が重合樹脂材から押出成型された繊維を含む請求項1に記載のプレス布。
【請求項8】 前記重合樹脂材がポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリアラミド、ポリオレフィン及びポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂より成るグループから選ばれる請求項7に記載のプレス布。
【請求項9】 更に前記第一継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含む請求項1に記載のプレス布。
【請求項10】更に前記第二継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含む請求項1に記載のプレス布。」

2-2.補正の適否の判断
本件補正は、特許請求の範囲の請求項数を12から10にするものであるかであるから、まず、補正前後の各請求項の対応関係を検討する。
本件補正後の請求項1は、請求項3及び請求項4、5においてそれぞれ特定していた「前記螺旋はポリアミド樹脂製であること、」、束ねられ/撚られた糸が「単繊維の」または「多繊維の」との各発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を、請求項1に発明特定事項として追記するとともに、「抄紙機の布」との発明特定事項を「プレス布」とするものと認められ、また、補正後の請求項3は、補正後の請求項1を引用するするものであって、補正前の請求項3の「ポリアミド樹脂製」との記載を削除し、「押出し成型されたものである」を発明特定事項とするものである。また、本件補正後の請求項2、4ないし10の記載は、それぞれ、補正後の請求項1又は請求項1を引用する請求項7を引用するものであって、それぞれ、補正前の請求項2、請求項6ないし12に対応する発明特定事項を発明特定事項とするものである。合わせて、補正前の請求項4,5が削除されたものである。
してみると、本件補正に係る特許請求の範囲の補正は、補正後の請求項1は、補正前の請求項1の発明特定事項をそれぞれ前記のとおり限定するものであり、本件補正後の請求項2ないし10の記載は、限定された請求項1を引用するものであるから、補正前の各請求項を限定するといえる。そして、請求項の減少は、補正前の請求項4,5を削除したものと認められる。
そこで、行った補正の内容が平成18年改正前特許法第17条の2に規定する要件に適合するものか検討する。
本件補正に係る請求項1の記載に関する補正は、上記したとおり「抄紙機の布」を「プレス布」と補正する補正事項を含むものである。
「抄紙機の布」を「プレス布」とする補正事項は、抄紙機に用いられる「布」であったものを、発明の詳細な説明に記載の抄紙機の「プレス布」に係るものであるとの記載に基づいて、プレスに使う布であることに特定しようとするものであるから、特許請求の範囲の記載を減縮するもののように、一応、みえるものであるが、当該補正事項は「抄紙機の」という発明特定事項を削除しているため、特許請求の範囲の記載は抄紙機以外の「プレス布」をも含むものとなったといえる。
そして、願書に最初に添付した明細書又は図面には、抄紙機において用いる布又は抄紙機に用いるプレス布が記載されているのみで、抄紙機以外のプレス布は記載されていないのである。
してみると、当該補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとものとはいえない。
したがって、該補正事項に係る補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に適合しない。

2-3.むすび
以上のとおり、 本件補正(平成16年 9月 3日付けの手続補正)は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成16年9月3日付けの手続補正が上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成16年4月12日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、請求項1ないし12に係る発明(以下、各請求項に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」、・・・「本願発明12」などという。)は、下記のとおりである。
「【請求項1】
ピン継目によりエンドレスの形に密接し、かつ、機械上で継ぎ合せできる抄紙機の布であって、
機械方向(MD)の糸のシステム及び機械に直交する方向(CD)の糸のシステム、前記MD糸のシステムの前記糸が変形エンドレス織技術で前記CD糸のシステムの前記糸と織り合わされて長さ、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形に前記抄紙機の布を形成すること、前記MD糸が前記二つの横縁の間において前記抄紙機の布の前記長さに亘って前後に伸びていること、更に前記MD糸が前記二つの横縁の各々に沿って継ぎ合せループを形成していること、前記MD糸が束ねられ/撚られた糸であること、それ故前記束ねられ/撚られた糸が前記継ぎ合せループを形成すること;
機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記抄紙機の布の前記二つの横縁の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第一継ぎ合せ螺旋;
機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記抄紙機の布の前記二つの横縁の他の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第二継ぎ合せ螺旋
からなり、
それによって前記抄紙機の布は前記第一と第二の継ぎ合せ螺旋を絡み合わせることにより又ピン継目を作るために絡み合わされた継ぎ合せ螺旋により確立された通路を通ってピントルを案内することによりエンドレスの形に連結されることを特徴とする前記布。
【請求項2】
前記第一と第二の継ぎ合せ螺旋が単繊維の螺旋である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項3】
前記単繊維の螺旋が押出し成型されたポリアミド樹脂製である請求項2に記載の抄紙機の布。
【請求項4】
前記束ねられ/撚られた糸が多繊維の糸である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項5】
前記束ねられ/撚られた糸が束ねられた単繊維の糸である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項6】
前記束ねられ/撚られた糸が、各繊維が0.05mmから0.15mmの範囲の直径を持つ、多芯より糸である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項7】
前記束ねられ/撚られた糸が紡がれた糸である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項8】
前記束ねられ/撚られた糸が複合糸である請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項9】
前記束ねられ/撚られた糸が重合樹脂材から押出成型された繊維を含む請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項10】
前記重合樹脂材がポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリアラミド、ポリオレフィン及びポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂より成るグループから選ばれる請求項9に記載の抄紙機の布。
【請求項11】
更に前記第一継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含む請求項1に記載の抄紙機の布。
【請求項12】
更に前記第二継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含む請求項1に記載の抄紙機の布。」

4.原査定の拒絶理由の概要
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:国際公開第90/6386号のパンフレット
刊行物2:実願昭62-96111号(実開平1-102198号)のマイクロフィルム
刊行物3:実願平5-70318号(実開平7-40799号)のCD-ROM」

5.刊行物の記載事項
刊行物1
(1a)「This invention relates to the field of seam construction for joining the ends of a length of papermakinng fabric to render that fabric enndless.・・・,it relates to a helical coil seam for such a faburic.」(第1頁3?8行)(この発明は、抄紙機用基布の縦縁を結合してエンドレス布にするための継ぎ目の構造に関するものである。・・・。このような基布に対する螺旋状コイル継ぎ目に関するものである。」
(1b)「 Another object is to provide such a fabric in which the seam is formed outside the weaving loom and which is capable of using a seam material that dose not require costly heat setting or resin impregnation of tha base fabric. 」(3頁14?18行)( もう一つの目的は、その継ぎ目が織機以外の場所で形成することができ、かつその基布に費用が掛かる熱処理や樹脂含浸をさせる必要のない、継ぎ目材料を用いることができる、布を提供する。)
(1c)「Fig.1 is a simplified schematic representation of an endless
woven fabric for use with this invention;
Fig.2 illustrates the steps of insertion of the herical coil seaming members into a flattened endoless woven fabric of Fig.1;
Fig.3 is a fragmentary top plan view, partially in section, of a fabric manufactured according to the present invention, including a felt batt needled into the base fabric;
Fig.4 is a schematic elevational view taken along line 4-4 of Fig.3;
Fig.5 is a schematic elevational view of the seam of a fabric similar to that illustrated in Fic.4 but with additional cushioning elements;」
(第4頁18行?第5頁3行)(Fig.1は、この発明に使うエンドレスに織られた基布の簡略図である。Fig.2は、Fig.1の平らにされたエンドレスに織られた基布に螺旋状コイルの継ぎ目部材を挿入する段階を図示したものである。Fig.3は、基布にフエルトバットをニードルしたものを含むものであって、この発明に従って製造された基布の、一部切り開いた、断片的な平面図である。Fig.4は、Fig.3の線4-4に沿って切った正面図である。Fig.5は、Fig.4に示された継ぎ目にさらにクッション要素を加えた場合の図である。)
(1d)「・・・,and the basic steps of making that fabric, are illustrated in Figs. 1 through 4. The base fabric, generally indicated by reference numeral 2, is woven as an endless woven tubular belt having weft yarns 4, which will ultimately become machine direction yarns in the finished fabric, and warp yarns 6, which will become cross direction yarns in the completed fabric. In one example the warp yarns may be cabled nylon 610 monofilament, with the weft yarns being a three ply nylon 6,with a resin coating for enhanced stiffness and wear resistance. 」(第5頁11?20行)(基布を作る基本工程をFig.1?Fig.4に示す。番号2で示す基布は、横糸4を持つエンドレスに織られた円筒状のベルトであり、横糸は完成した基布においては機械方向の糸になり、縦糸6は、直交方向の糸となる。一例であるが、縦糸はナイロン610のモノフィラメント、横糸はナイロン6の三つ撚りである。)
(1e)「as shown in Fig.1 the belt 2 preferably is woven with a removable cord 8 at each of opposing extremities of the slightly flattened tubular belt 2, as shown in Fig.1 The fabric is woven to form the belt 2, having its predetermined thickness and weave and a predetermined width measured between opposed axial edges, one of which is shown as edge 10 in Fig. 3, of the belt. This tubular belt 2 is then flattened to form a base fabric of substantially twice that predetermined thickness with the opposing portions of the sidewall of the tubular belt being closely adjacent one another. This provides such a flattened tubular belt having a flattened length between the lengthwise tubular extremities thereof of about half the predetermined circumferential length.(第5頁下から3行?第6頁10行)(Fig.1に示すように、ベルト2は、好ましくは、少し平らにした筒状のベルト2の向かい合った両端に除去可能なコード8を織り込まれている。ベルト2を形成するためにおられた基布は、所定の厚みを有するもので、織られ、向かい合った軸端間の寸法を有する所定の幅となり、Fig.3の端10に示されるベルトの端部を有するものとなる。この筒状のベルト2は平らにされ、互いに近接している筒状のベルトの側壁の対向した部分が互いに密着され、所定の厚みに実質的に二重の基布とする。その結果、平らにされた筒状の帯は、所定の円周のほぼ半分の長さの、長い筒状の端部間の平らな長さを持つものとなる。)
(1f)「Upon removal of th cord 8 and, if necessary, adjacent warp yarns 6 proximal the lengthwise extremities of the flattened tubular belt 2, spiral coil seaming members 12 and 12' are then inserted inside the tubular sidewall portion of the belt 2 where those cords 8 have been removed. The spiral seaming members 12 and 12' may be formed of any of a number suitable sythetic materials, such as nylon or poryether-ethylketon(PEEK) and preferably has coil dimensions and spacing such that one loop projects between each adjacent pair of weft yarns 4, with the diameter of the coil being generally equal to or slightly less than the total thickness of the flattened tubuler belt 2, as illustrated in Fig.4.」
(第6頁11?22行)(コード8の除去し、必要ならば、平らな筒状のベルト2の長手方向の端部に隣接した位置にある、そのコード8を除去したベルト2のチューブ状側壁部分の隣接する縦糸6の内側に螺旋状コイルを挿通させる。螺旋状の継ぎ目部材12、12’は適当な合成物質、例えば、ナイロンあるいはポリエチレン-エチルケトン(PEEK)で作られ、好ましくはコイルであって、Fig.4に示すようにコイルの一つのループが隣接した横糸4の間に位置するようにし、コイルの直径は平らにした筒状の帯の全体の厚さと同じか少し短くしている。)
(1g)「As shown in Fig. 2, 3, and 4, the lengthwise extremities of the flattened tubular belt 2 are then brought together with the respective coils 12 and 12' interengaged one another and a pintle mumber 14 is inserted through the interengaged coil to lock them together to form a continuous looped base fabric, with the coil 12 and 12' maintaining the thickness of the base fabric at the seam.
If the fabric is to be used as a sheet forming fabric , without additional batt being needled into the base fabric ,it may now be mounted to a papermaking machine by removal of a pintle 14, placing the fabric around the papermaking rollers and reinsertion of that pintle member 14, rendering the structure ready for use. However, the advantageous characteristics of the fabric of this invention enable it to be used in fabricating a press felt for the wet press portion of a papermaking operation. To complete fabrication of the press felt, a suitable batt 16 is needled into and through one side, perferably the sheet forming side, of the flattened tubular base fabric 2, as shown in Fig.3 and 4. 」(第7頁5?23行)(Fig.2,3,4に示すように、平らにした筒状のベルト2の長手方向の両末端は、互いに絡み合わされたそれぞれのコイル12、12’と一緒に持ち寄り、ピントル14を絡み合わされたコイルに挿入して固定し、コイル12と12’により継ぐことで基布の厚みを維持した連続したループ状の基布を形成する。もし織物が、基布に対してニードリングされる追加的なバットなしにしてシート状の織物として使用しようとするならば、抄紙ロールの周りに織物を掛け渡すためピントル14を除去し、使用のための準備できた状態にするためにそのスピントルの再挿入により抄紙機に据え付けられるであろう。しかしながら、本発明の織物の有利な特性はにより、抄紙操作の湿式プレス部分にプレスフエルトを作成するのに使用できる。プレスフエルトの作成を完成するため、図3,4に図示するように、適当なバット16を平らにした筒状の基布の一方から他方へ、好ましくは、シート状に形成された側に、ニードリングにより取りつけられる。)
(1h)「By the fabric manufacturing techniques described above, there is provideed a papermaking fabric having a remonable pin seam that results in little or no change in fabric homogeneity in the seam area.」(第12頁4?7行)(このような基布製造技術により、継ぎ目部分で基布の均一性がほとんど変わらない移動可能なピン継ぎ目を持つ抄紙用基布が供給された。)
刊行物2
(2a)「経糸が合成樹脂フィラメントからなるプラスチックカンバスの両端に、経糸半クリンプの長さによって形成された小径の経糸ループを設け、該経糸ループと合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル線を交互に噛み合わせ連結用継ぎ線を挿入することにより継手部を構成し、接合用芯線を挿通してなることを特徴とする抄紙用ドライヤーカンバスの継手部」(実用新案登録請求の範囲)
(2b)「カンバス端部の経糸を利用して、経糸半クリンプの長さの小径の経糸ループを形成し、該小径の経糸ループと合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル線を交互に噛み合わせ連結用継ぎ線を挿入することにより継手部を構成し、接合用芯線を挿通してエンドレス状となす。」(第3頁11?16行)
(2c)「本考案のスパイラルシームの継手部は、カンバス両端部の間隙が狭く継手ギャップを小さくすることができると同時にカンバス端部の経糸ループとスパイラル線との固着はモノフィラメントの継ぎ線を介してなるから、抄紙中において継手マークの発生することなく接合用の経糸ループの磨耗が小さく継手の寿命が長くしかもスパイラルシートであるから接合用芯線の通替は容易に行うことができる。」(第4頁下から2行?第5頁7行)
刊行物3
(3a)「【請求項1】 経糸に断面偏平な合成繊維モノフィラメントを使用した抄紙用ドライヤーカンバスの最先端部分に、上記経糸の折り返しによるループを形成し、このループと、スパイラル線とを噛み合わせ、この噛み合わせ部の共通孔内に固定芯線を挿通したスパイラル継手において、
ヒートセットに先立って上記スパイラル線のループ孔内に、当該スパイラル線の厚み規整部材としてモノフィラメントからなる偏平糸を挿入し、この状態で上記スパイラル線部分を押圧力の作用下に加熱し、上記スパイラル線を、抄紙用ドライヤーカンバスの本体部分の厚みと略同一の厚みにしたことを特徴とする抄紙用ドライヤーカンバスの継手。」(実用新案登録請求の範囲 請求項1)
(3b)「【従来の技術】
抄紙用ドライヤーカンバス(9)の継手として、実開平1-102198号公報には、図4に示すように経糸(1)及び緯糸(2)が合成樹脂フィラメントからなる抄紙用ドライヤーカンバス(9)の両端に、経糸半クリンプの長さに相当する経糸ループ(3)を形成し、この経糸ループ(3)と合成樹脂フィラメントからなるスパイラル線(4)とを交互に噛み合わせ、この噛み合わせ部にカンバス(9)接合用の継ぎ線(5)を挿入することによって継手部(8)を構成し、この継手部(8)に接合用芯線(6)を挿通したものが提案されている。」(段落【0002】)
(3c)「【課題を解決するための手段】
上記課題の解決手段として、この考案は、経糸に断面偏平な合成繊維モノフィラメントを使用した抄紙用ドライヤーカンバスの最先端部分に、上記経糸の折り返しによるループを形成し、このループと、スパイラル線とを噛み合わせ、この噛み合わせ部の共通孔内に固定芯線を挿通したスパイラル継手において、ヒートセットに先立って上記スパイラル線のループ孔内に、当該スパイラル線の厚み規整部材としてモノフィラメントからなる偏平糸を挿入し、この状態で上記スパイラル線部分を押圧力の作用下に加熱し、上記スパイラル線を、抄紙用ドライヤーカンバスの本体部分の厚みと略同一の厚みにしたことを特徴とする抄紙用ドライヤーカンバスの継手を提供するものである。」(段落【0011】)
(3d)「偏平糸(10)は、図3に示すようにドライヤーカンバス(9)をヒートセット装置(図示省略)内に導入し加熱下にスパイラル線(4)を圧潰するときスパラル線(4)の必要以上の圧潰を抑制し、当該スパイラル線(4)を当初の厚み寸法Tからドライヤーカンバス(9)の本体部分の厚みと略等しい最終厚み寸法t迄縮径させる押圧変形量を規整する厚み規整部材である。偏平糸(10)には、例えばポリエステルのモノフィラメントが使用されている。」(段落【0015】)

6.当審の判断
6-1.本願発明1について
(1)刊行物1発明について
刊行物1には、ベルトが記載され、摘記(1g)によれば、抄紙機の湿式プレス用に用いるものであり、しかも、フエルト部を除いた基布だけでの使用も予定されているものである。また、ベルトは、摘記(1a)、(1b)によれば、抄紙機上で継ぎ合わせて抄紙機に据え付けられる抄紙用のもので、ピントルによりエンドレス状に基布を密接してベルトとすることができる基布からなっている。
そして、刊行物1には、Fig.1?4、および摘記(1d)、(1e)の記載によれば、除去可能なコードを伴って縦糸及び横糸でエンドレスに織られた円筒状の織物を除去可能なコードを除去し、平らにして表裏を互いにきっちり合わせ実質的には二重とするものであるから、結果、長さ、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形の基布が形成される。その抄紙用基布においては、前記縦糸が直交方向の糸となり、横糸が機械方向の糸となることから、前記横糸が前記二つの横縁の間において前記基布の前記長さに亘って伸びて機械方向の糸となり、前記縦糸が前記機械方向の糸に対して、直交方向の糸となったものであり、更に、前記横糸が前記二つの横縁の各々に、除去可能なコードが除去された横縁に沿ってループ状側壁部材が形成しているものである。しかも、前記抄紙用基布は前記縦糸及び横糸がヤーンで形成されているものである。
さらに、その抄紙用基布は、摘記(1f)、(1g)およびFig.2,3,4,5によれば、基布のそれぞれの横縁に形成されたループ状側壁部材に、ナイロンからなる螺旋状コイルをそのコイルの一つのループが横糸で形成されるループ間に位置するように絡み合わされて取つけられ、前記平らにした筒状の基布の縦の両末端は互いに絡み合わされたそれぞれのコイルと一緒に持ち寄り、絡み合わされたコイルにピントルを挿入して固定し、両コイルとピントルとにより基布の継ぎ目を維持し、抄紙機上で据え付けることが可能な、連続したループ状の抄紙機用プレス布とすることが記載されている。

以上のことから、刊行物1には、
「除去可能なコードを伴って縦糸及び横糸でエンドレス状に織られた筒状の織物を除去可能なコードを除去し、平らにして表裏を互いにきっちり合わせ実質的には二重とし、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形の抄紙機用の基布とし、前記横糸が前記二つの横縁の間において前記基布の長さに亘って伸びて機械方向の糸となり、前記縦糸が、前記機械方向の糸に対して直交方向の糸となったものであり、更に、前記横糸が前記二つの横縁の各々に、横縁に沿って継ぎ合せループを形成しているものであり、前記縦糸及び横糸がヤーンで形成されている基布のそれぞれの横縁に形成されたループ状側壁部材に、ナイロンからなる螺旋状コイルをそのコイルの一つのループが横糸で形成されるループ間に位置するように絡み合わせて取つけ、平らにした筒状の基布の縦の両末端は互いに絡み合わされたそれぞれのコイルと一緒に持ち寄らされ、絡み合わされたコイル同士によりループ状の穴にピントルを挿入して固定することで、両コイルとピントルとにより基布の継ぎ目を維持し、抄紙機上で据え付ける連続したループ状の抄紙機用プレス布」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)対比
そこで、本願発明1と刊行物1発明を比比する。
刊行物1の「縦糸」、「横糸」は、それぞれ、プレス布の「直交方向の糸」、「機械方向の糸」、となることから、本願発明の「機械に直交する方向(CD)の糸のシステム」、「機械方向(MD)の糸のシステム」に相当するものであり、また、刊行物1の「基布」、「ループ状側壁部材」、「螺旋状コイル」は、上記したとおりの位置、働きをするものであることから、それぞれ、本願発明1の「抄紙機の布」、「布の二つの横縁の継ぎ合わせループ」、「第一及び第二継ぎ合わせ螺旋」に相当するものと認められ、刊行物1の「プレス布」も織物の長手方向の両端に形成した継ぎ合わせループにより抄紙機上で据え付けられ、抄紙機のプレス布として用いられるものであるから、本願発明1の「抄紙機の布」に相当する。
そして、刊行物1の上記「ループ状側壁部材」は、機械方向の糸から形成されるものであって、その機械方向の糸は横糸からなるもので、その横糸の一例としてナイロン6の三つ撚りを用いるものであるから、本願発明1の横糸により形成される継ぎ合せループが、束ねられ/撚られた糸である」ことに相当するものである。
また、刊行物1発明の「横縁に形成されたループ状側壁部材に、ナイロンからなる螺旋状コイルをそのコイルの一つのループが横糸で形成されるループ間に位置するように絡み合わせて取つけ、平らにした筒状の基布の縦の両末端は互いに絡み合わされたそれぞれのコイルと一緒に持ち寄らされ、絡み合わされたコイル同士によりループ状の穴にピントルを挿入して固定することで、両コイルとピントルとにより基布の継ぎ目を維持し、抄紙機上で据え付ける」は、前記抄紙機用布のそれぞれの横縁のループ状側壁部材のループにナイロンからなる螺旋状コイルを挿通し、取り付け、その螺旋状コイル同士をピントルにより継ぎ、基布を無端状に継ぐものであるから、本願発明1における「抄紙機用布の前記二つの横縁の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第一および第二継ぎ合せ螺旋、」、及び「抄紙機用布は、第一および第二の継ぎ合せ螺旋を絡み合わせることにより又ピン継目を作るために絡み合わされた継ぎ合せ螺旋により確立された通路を通ってピントルを案内することによりエンドレスの形に連結される」 に相当するものといえる。
さらに、本願発明1は、「 前記MD糸のシステムの前記糸が変形エンドレス織技術で前記CD糸のシステムの前記糸と織り合わされて長さ、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形に前記プレス布を形成すること」と規定され、織物が変形エンドレス織り技術で織られたものであるが、本件明細書には、「変形エンドレス織り」について段落[0009]および[0031]で「変形エンドレス織では、横糸、すなわち緯糸は、ループを形成するピンの周りを通過することによって織られている布の縁の一つにループを形成している各通路の中を、織機を横切って連続的に往復して織られる。結局プレス布の中ではMD糸となる」と説明しているだけであり、この織り方は刊行物1の摘記(1e)に記載された事項となんら変わりがなく、さらに、平成19年2月5日付けで当審においてされた審尋で、刊行物1に記載のものも変形エンドレス織であるとの認定に対して請求人は格別反論するところもなく、刊行物1に記載の織り方は変形エンドレス織と解することができる。
してみると、両者は、
「ピン継目によりエンドレスの形に密接し、かつ、機械上で継ぎ合せできる抄紙機の布であって、
機械方向(MD)の糸のシステム及び機械に直交する方向(CD)の糸のシステム、前記MD糸のシステムの前記糸が変形エンドレス織技術で前記CD糸のシステムの前記糸と織り合わされて長さ、幅、二つの縦縁、及び二つの横縁を持つ四角形に前記抄紙機用布を形成すること、前記MD糸が前記二つの横縁の間において前記布の前記長さに亘って前後に伸びていること、更に前記MD糸が前記二つの横縁の各々に沿って継ぎ合せループを形成していること、前記MD糸が束ねられ/撚られた糸であること、それ故前記束ねられ/撚られた糸が前記継ぎ合せループを形成すること;
前記抄紙機用布の前記二つの横縁の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第一継ぎ合せ螺旋;
前記抄紙機用布の前記二つの横縁の他の一つで前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた第二継ぎ合せ螺旋
からなり、
それによって前記抄紙機用布は前記第一と第二の継ぎ合せ螺旋を絡み合わせることにより又ピン継目を作るために絡み合わされた継ぎ合せ螺旋により確立された通路を通ってピントルを案内することによりエンドレスの形に連結されることを特徴とする前記布」という点で一致するものと認められるが、下記の点で両者は相違している。
相違点:抄紙機用布の両横縁の継ぎ合わせループと第一又は第二継ぎ合わせ螺旋とを取り付ける手段として、本願発明1では、「機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記抄紙機用布の前記横縁の前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられいる」のに対して、刊行物1発明では、「ループ状側壁部材に螺旋状のループの一つのループが横糸で形成されるループ間に位置するように絡み合わせて取つけ」ている点。

(3)相違点について
抄紙機用布を無端状にするための継手部の継手方法として、基布の端部に形成されたループに螺旋状コイルを連結し、基布の両端に連結した螺旋状コイル同士を連結することで無端状となす方法及び、継手手段として、螺旋状の部材を互いに絡み合わせて継ぐのではなく、互いに継ぐ相手のループを交互に噛み合わせて、横縁に沿って形成した共通の連続した空間に、接続用の線状材を挿入することで継手部を構成し、連結する方法は、刊行物1ないし刊行物3の基布を無端状に連結するための継手部の継手方法等に採用されているように周知の手段である。しかも、相違点の継手部と同じ、基布の端部の横縁に形成されたループに合成樹脂モノフィラメントからなる螺旋状コイル線を取り付ける手段においても、基布の両端の横縁に沿って形成されたループと継手部の螺旋状コイルのループを交互に噛み合わせ、横縁に沿って形成した連続した空間に接続用の継ぎ線を挿通して取り付ける方法は、刊行物2(摘記(2a)、(2b))に記載されているとおり公知の手段である。
刊行物2に記載のものは、抄紙用ドライヤーカンバスに係るものであるが、ドライヤーカンバスも抄紙機用布の一種であり、抄紙機用布は、いずれも、接合してエンドレス形状とする場合は、エンドレスに接合する継ぎ手部分により生じる紙の継ぎ手マークを解消するために基布の他の部分と継手部分の不均一の解消が要求されることは共通しているところであり、継ぎ手部分により生じる紙の継ぎ手マークを解消するという同様の課題を解決するために、ドライヤーカンバスの継手部分での不均一の解消の技術を他の抄紙機用布の継手部分に適用することは当業者なら当然に想到し得ることであり、当業者にとって格別困難なことではない。
また、刊行物2では、ループは経糸により作られているが、ループが経糸で作られようが、緯糸でつくられようが、取り付ける方法としてみた時、格別の差異はなく、刊行物1に記載の取り付ける方法に適用するうえにおいて技術的に阻害するところも認められない。
したがって、相違点に係る刊行物1の抄紙機用布の両横縁の継ぎ合わせループと第一又は第二継ぎ合わせ螺旋とを取り付ける取り付ける方法として、「ループ状側壁部材に螺旋状のループの一つのループが横糸で形成されるループ間に位置するように絡み合わせて取つけ」ることに代えて、本願発明1の「機械に直交する方向に伸びている少なくとも一本の接続糸により前記抄紙機用布の前記横縁の前記継ぎ合せループと組み合わせて取付けられる」方法を適用することは、刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に想到し、なし得ることである。

(4)本願発明1の効果について
本願発明1の効果は機械上で継ぎ合せができ、かつ、継ぎ合わせ部分による周期的なしるしを抄紙につけないプレス布を得た、というものであるが、機械上で継ぎ合せができる点は刊行物1により公知の効果である。また、刊行物2には、ループと合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル線を交互に噛み合わせ連結用継ぎ線を挿入する継手部の接合方法の効果として、摘記(2c)によれば、抄紙中において継手マークの発生がないことが記載されている。しかも、二つのループを絡み合わせるのに比して、二つのループを噛み合わせ、連結用継ぎ線を挿入する取り付ける方法の方が、ループのねじれがないだけ基布の他の部分と継ぎ手部分の不均一性が解消されることは当業者が予測できることであるから、本願発明1は、継ぎ合せループと継ぎ合せ螺旋を交互に噛み合わせ接続用糸(連結用継ぎ線)を挿入する公知の方法を、より均一性を求められるプレス布に採用したにすぎず、本願発明1の効果は当業者が予測できる範囲のもので格別のものとは認められない。

(5)請求人の主張
平成19年5月2日付けの回答書において、請求人は、刊行物2は、「経糸ループと合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル腺を交互に噛み合わせ」と開示しており、このような態様は、本願発明を構成する「少なくとも一本の接続糸により・・・取り付ける」態様とは明らかに異なるものであって、「継ぎ合せ螺旋を接続糸により継ぎ合せループと組み合わせて取り付ける構造が・・・文献2に開示済みの事項である」との認定は当たらない、また、審査官の「継ぎ合せ螺旋を接続糸により継ぎ合せループと組み合わせて取り付ける構造が、経糸ループに直接継ぎ合せ螺旋をかみ合わせる(正確には、絡み合わせる)構造と比較して通気性他の不具合を解消できることは文献2(刊行物2)に開示済みの事項である。」との認定は当たらない、旨主張する。
請求人が指摘するとおり、継ぎ合せ螺旋を接続糸により継ぎ合せループと組み合わせて取り付ける構造により通気性を解消できることは明記されていないが、刊行物2には、継ぎ合せループと合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル線を交互に噛み合わせ、連結用継ぎ線を挿入する取り付ける方法が記載されているところであり、該刊行物2の取り付ける方法が本願発明1の「一本の接続糸により基布の継ぎ合せループと組み合わせて取付けられた継ぎ合せ螺旋」という発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)と同じ取り付ける方法であることは、明らかであるから、刊行物2の取り付ける方法が本願発明1の取り付ける方法とは異なるとの請求人の主張は、認めることができない。
そして、本願発明1の「通気性」は、継目領域で作られた紙成品の周期的なしるしを避けるために、残りのプレス布と同じ透水性と通気性を持たなければならない。」との記載にあるとおり、「継手マークの発生がない」ことに繋がる、継目領域も含めたプレス布全体の均一性をいうために言及してるもので、「継手マークの発生がない」こととほぼ等価な意味合いのものと解することができ、刊行物1,2ともに「通気性」についての言及はないものの、「継手マークの発生がない」ものとするための取り付ける方法として採用されているものであるから、刊行物1発明又は刊行物2発明と奏する効果として差はなく、各刊行物に「通気性」についての言及がないことで、本願発明1の効果が格別であるとはいえない。
また、請求人は、引用文献2(刊行物2)に開示の糸の径に基づき検討したら、引用文献2(刊行物2)に開示のカンバスに機会方向に沿った方向における厚みが不規則となってしまい、引用文献2(刊行物2)に開示の「抄紙中において継手マークの発生することなく」という効果を奏することは困難である、旨主張するが、請求人の主張の根拠やその主張の裏づけとなるものが明らかでなく、また、主張する内容からすると、出願人は刊行物2に記載のカンバスについての追試をしているものと思われるが、刊行物2は、取り付ける手段として、螺旋状のコイルのループと基布の端部に形成したループとを交互に噛み合わせ「継ぎ線(モノフィラメントの)」を挿通することで基布の両端に螺旋状のコイルを取り付ける公知の手段として引用した副引用例としての位置づけにすぎず、その取り付ける手段を継手マークが形成しないように適用することは当然に考慮される事項であって、適用に際し、当然継手マークが形成されないような条件で適用することを考慮するから、相違点として認定した螺旋状のコイルと基布の両端のループとを取り付ける手段が刊行物2に記載されていることは明らかであるので、刊行物2の追試により記載されているものにおいて高低差が生じるからといってその手段を刊行物1に適用できない根拠とはなり得ないから、この主張は認めることができない。
請求人は、概略、プレス布に要求される均一性は、ドライヤーカンバスに要求される均一性の程度とはかなり異なり高いものであるから、ドライヤーカンバスの接合部分の不均一性を解消する刊行物2に記載の発明をプレス布の接合部に適用することはできない旨主張するが、本願発明1は、抄紙機の布であって、請求人の主張は請求項の記載に基かない主張である。仮に、主張のとおりプレス布であったとしても、その継目領域に適用する取り付ける手段を採用することにより、少しでも不均一性が解消できるなら、要求される均一性の程度が高いというプレス布においても、該取り付ける手段を採用することで不均一性の解消に貢献するはずであるから、プレス布の継目領域に適用できないという理由は見あたらない。 したがって、請求人のこの主張も採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、本件出願前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6-2.その他の請求項に係る発明について
(1)本願発明2について
継ぎ合せ螺旋が単繊維の螺旋であると特定しているが、刊行物1発明において螺旋状のコイルは単繊維と規定されていないものの、無端状に基布を連結し、継手マークが形成されないようにするために採用しているものであること及び刊行物2に記載のとおり螺旋状のコイルとして合成樹脂フィラメントを用いることも公知であることからすれば、螺旋状のコイルとして繊維を使用することは当業者が容易に想到し得ることである。
(2)本願発明3について
継ぎ合せ螺旋が押し出し成形されたポリアミド樹脂製の単繊維であることを発明特定事項とするものである。しかしながら、刊行物1発明において、螺旋状のコイルの材質としてナイロン、ポリエーテルケトンなどを用いることが例示されているところであり、また、螺旋状のコイルとして単繊維を用いることは前記(1)に記載したように当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明3に係る発明特定事項は、当業者が容易想到し得ることと認められる。
(3)本願発明4について
束ねられ/撚られた糸が多繊維の糸であることを発明特定事項とするものであるが、刊行物1発明においても横糸はナイロン6の三つ撚りを用いる例示が記載されているところであり、多繊維糸を用いることに実質的に差異はない。
(4)本願発明5について
束ねられた単繊維の糸であることを発明特定事項とするものであるが、前記(3)に記載したとおり、基布のヤーンとして多繊維の糸とすることについて刊行物1に記載されているところであり、かつ基布の織り糸としてモノフィラメントを用いることも記載され、抄紙用の布の織り糸として繊維を複数用いる際、束ねたフィラメントを用いて基布とすることも通常に採用されており、単に繊維を束ねた状態で用いることに格別の創意も困難性もないことから、本願発明5の発明特定事項のように束ねられた単繊維の糸を用いることは当業者が必要に応じて適宜採用し、なし得ることと認められる。
(5)本願発明6について
束ねられ/撚られた糸の各繊維が0.05mmから0.15mmの範囲の直径を持つ、多芯より糸であることを発明特定事項とするものであるが、前記(3)に記載したとおり、基布のヤーンとして多繊維の糸とすることについて刊行物1に記載されているところであり、かつ本願明細書の記載をみても、当該特定の繊維を用いることに格別の意味も意義も認められず、本願発明6の発明特定事項のように糸の繊維として特定の範囲の直径をもつ多芯より糸とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択し、なし得るものと認められる。
(6)本願発明7について
束ねられ/撚られた糸が紡がれた糸であることを発明特定事項とするものであるが、前記(3)に記載したとおり、基布のヤーンとして多繊維の糸とすることについて刊行物1に記載されているところであり、基布の織り糸として、撚り糸、モノフィラメントを用いることも記載され、抄紙用の布の織り糸として紡がれた糸を用いることも通常に採用されかつ本願明細書の記載をみても、「横糸は紡ぎ糸(スフを紡いだ糸)又は複合糸でもよい」と記載するのみで紡がれた糸を用いることに格別の意義も認められず、本願発明7の発明特定事項のように糸として紡がれた糸を用いることは、当業者が必要に応じて適宜選択し、なし得るものと認められる。
(7)本願発明8について
束ねられ/撚られた糸が複合糸であることを発明特定事項とするものであるが、前記(3)に記載したとおり、基布のヤーンとして多繊維の糸とすることについて刊行物1に記載されているところであり、基布の織り糸として、撚り糸、モノフィラメントを用いるが記載され、抄紙用の布の織り糸として複合糸を用いることを技術的に阻害するところもなく、かつ本願明細書の記載をみても、「横糸は紡ぎ糸(スフを紡いだ糸)又は複合糸でもよい」と記載するのみで複合糸を用いることに格別の意義も認められず、本願発明8の発明特定事項のように糸として紡がれた糸を用いることは、当業者が必要に応じて適宜選択し、なし得るものと認められる。
(8)本願発明9について
束ねられ/撚られた糸が重合樹脂材から押出成型された繊維を含むことを発明特定事項とするものであるが、前記(3)に記載したとおり、基布のヤーンとして多繊維の糸とすることについて刊行物1に記載されているところであり、基布の織り糸として、撚り糸、モノフィラメントを用いること及び具体的には、繊維材料としてナイロンを用いることも記載されている。しかも、繊維の形成として押出紡糸して形成することは通常のことであるから、刊行物1の糸は重合樹脂材から押出成型された繊維を含むものである。
してみると、刊行物1に記載の抄紙用の布の糸として本願発明9の発明特定事項のように重合樹脂材から押出成型された繊維を含むものを用いるものといえるから、重合樹脂材から押出成型された繊維を含む糸の点に実質的な相違を認めることはできない。
(9)本願発明10について
重合樹脂材として、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトンなどの請求項10に記載の特定材料の樹脂を用いることを発明特定事項とするものであるが、刊行物1に記載の重合樹脂材の例としてナイロンを用いることが記載されており、重合樹脂材としてポリアミドを用いたものが記載されていることから、本願発明10の発明特定事項は刊行物1に記載されているものとえる。しかも、その他の重合樹脂材として挙げられている樹脂も押出成型される繊維として通常に知られているものであり、かつ本願明細書の記載をみても、単に、重合樹脂材が列記されているだけでそのような材料に特定した点に格別の意義も認められず、本願発明10の発明特定事項のような重合樹脂材の糸を用いることは、当業者が必要に応じて適宜選択し、なし得るものと認められる。
(10)本願発明11,12について
それぞれ、第一、第二継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含むことを発明特定事項とするものである。そして、本願発明は、本願明細書の段落【0037】によれば「詰物用糸34が、継ぎ目領域が布20の他の部分と同じ特定を持つことを保証するために、継ぎ合せ螺旋の中に挿入される。接続糸30と詰物用糸34は布20の縦糸22(CD糸)に用いられるのと同じ糸である。」との記載があり、「詰物用糸」なるものは抄紙用の布に用いられる糸と同じ材質の糸を用い、継目領域が布の他の部分と同じ特性を持つことを保証するために挿入されているものである。
刊行物3には、摘記(3a)から(3d)の記載によれば、抄紙機の布を無端ベルト状にする継目領域において、布の継目手段として、合成樹脂モノフィラメントであるスパイラル線の中に合成樹脂モノフィラメントの扁平糸を入れることが記載され、それにより継目領域と他の布の部分とを同じ厚みとすることが記載されている。そして、そのような継手部の構造とすることで抄紙された紙の表面に継手マークの発生等を回避するものである。してみると、刊行物3の「扁平糸」は継目領域を他の布の部分と同じ特性を持つようにするものといえ、本願発明の「詰物用糸」に相当するものと認められ、刊行物3の上記継目手段は、本願発明11、12の上記発明特定事項である詰物用糸を螺旋の中に含むものに相当するものと認められる。
したがって、本願発明11、12の第一、第二継ぎ合せ螺旋の中に少なくとも一本の詰物用糸を含むという発明特定事項のようにすることは刊行物3に記載の公知の技術により当業者が容易に想到し得ることである。

(11)まとめ
そして、本願発明2ないし12に係る発明の発明特定事項による本願明細書に記載された効果は、各刊行物に記載された発明からも当然予想されるものであり、本願発明2ないし12が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明1ないし12は、刊行物1及び2又は刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

7.結論
以上のとおり、本願発明1ないし12は、刊行物1及び2又は刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-17 
結審通知日 2008-01-18 
審決日 2008-01-31 
出願番号 特願平9-86345
審決分類 P 1 8・ 561- Z (D21F)
P 1 8・ 121- Z (D21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
鴨野 研一
発明の名称 ポリアミド製螺旋の継目で継ぎ合せられたプレス布  
代理人 山下 穣平  

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