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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1179600
審判番号 不服2006-12250  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-14 
確定日 2008-06-12 
事件の表示 特願2004- 57882「超音波厚み測定方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-249486〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月2日の出願であって、平成18年5月10日付け(発送日:同年5月16日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲、明細書又は図面についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1の「環境温度が予め定める温度範囲を超えたとき、送信出力を一定に保ちながら、超音波の送信距離と受信距離とを、受信強度が極大となるように前記環境温度に応じて調整して」との補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、当初明細書等という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか、について検討する。
本件補正により、超音波の送信距離と受信距離の調整に関して
(イ)調整は、環境温度が予め定める温度範囲を超えたときに行うこと
(ロ)調整は、環境温度に応じて行うこと
が明確にされた。
一方、本件補正の根拠として審判請求人がその審判請求の理由において挙げている当初明細書等の記載事項は以下(a)ないし(h)のとおりである。
(a)「超音波を出力する超音波振動子とシート材との間の送信距離や、振動を受信する超音波振動子とシート材との間の受信距離は、定在波の位相に関連する。」(当初明細書等の段落【0006】)
(b)「温度、湿度、気圧、気体の成分などの周囲の環境が変動すると、音速も変動し、超音波振動子が配置される位置での定在波の位相が変化して、最終的な超音波の受信信号の強度も変動してしまう。…したがって、温度などの周囲の環境の変化があっても、測定精度に影響を受けにくい超音波厚み測定が要望される。」(当初明細書等の段落【0007】)
(c)「本件発明者は、受信強度と温度との関係が、二次曲線で近似可能であることを見出している。…送信距離と受信距離とを、較正時の温度T0がたとば25℃で、それぞれ極大になるように調整すると、温度の変化に対しても調整時の温度T0で極大となるように調整することができる。すなわち、シート状の対象物の一方の表面側に向けて超音波を送信し、他方の表面側からの超音波を受信し、受信強度に基づいて厚みを測定する際に、送信出力を一定に保ちながら、超音波の送信距離と受信距離とを、受信強度が極大となるように調整すれば、温度の変化に対しても、調整時の温度T0で受信強度は極大となる。」(当初明細書等段落【0015】)
(d)「温度変化率は、調整時の温度T0付近では小さく、調整時の温度T0からの違いが大きくなるほど、絶対値が増大することが判る。また、調整時の温度T0が常温付近であり、厚みの測定を常温付近で行えば、常温付近の範囲内、たとえば25±2℃程度の範囲内では、受信強度の変化を抑えることが可能であることも判る。」(当初明細書等の段落【0019】)
(e)「温度が25℃での大気中の音速は、346m/sであるので、超音波の波長は8.65mm程度である。したがって、フィルム2の表面から約12mmすなわち3/2波長、約16mmすなわち2波長、約21mmすなわち5/2波長のように、波長の1/2となる距離で最適な測定が可能であることが判る。この最適位置に送信距離および受信距離を設定すれば、図1から判るように、温度変化の影響を受けにくくすることができる。」(当初明細書等の段落【0027】)
(f)「超音波厚み測定装置1を用いて、フィルム2の厚みを連続的に測定する際の制御手段6の制御手順を概略的に示す。ステップs1での電源投入で、制御手段6による制御手順が開始される。ステップs2では、測定する環境の温度を測定する。」(当初明細書等の段落【0031】)
(g)「ステップs4では、送信距離および受信距離の調整を行う。まず、ステップs2で測定した温度について、図3に示すような対応関係に基づき、送信手段3および受信手段4の位置を初期設定するように、モータ13,23をそれぞれ駆動する。次に、モータ13,23の一方を駆動して、初期設定した位置の周辺で、微動させながら受信強度が極大となる位置を求めて、位置を調整する。次にモータ13,23の他方を同様に駆動して、受信強度が極大となる位置を求めて、位置を調整する。」(当初明細書等の段落【0032】)
(h)「送信出力を一定に保ちながら、超音波の送信距離と受信距離とのうちの少なくとも一方を、受信強度が極大となるように調整するので、送信距離と受信距離とを、調整時の温度での定在波との位相関係が最適な状態に調整することができる。測定出力に対する環境の影響は、温度が最も大きく、二次曲線で近似することができることが判明している。調整直後の状態では、温度変化による受信強度の変化は、近似される二次曲線のピーク付近で生じるようになる。調整された送信距離および受信距離で、対象物の厚みを測定するので、温度変化に対する受信強度の変化を表す曲線上での傾斜角の絶対値が小さい範囲となって、周囲の環境の変化の中で最も測定出力に対する影響が大きくなる温度変化があっても、その温度変化の影響を受けにくくすることができる。」(当初明細書等の段落【0035】)
上記記載事項(a)ないし(h)から、本願発明の概要は、環境温度変化の測定精度に対する影響を抑制することを課題として、受信強度が極大となるように少なくとも超音波の送信距離と受信距離との一方を調整することにより、受信強度と環境温度との関係が、調整時の環境温度で極値を持つ上に凸の二次曲線で近似されるところ、測定時の環境温度が調整時の環境温度付近で変化したとしても、受信強度は近似される二次曲線のピーク付近で変化することとなり、したがって受信強度の環境温度に対する変化を抑制でき、ひいては環境温度変化の測定精度に対する影響を抑制できる、というものであることが把握できる。
しかしながら、上記記載事項(a)ないし(h)のいずれにも、超音波の送信距離及び受信距離の調整は、環境温度が予め定める温度範囲を超えたときに行うものであることは記載されていないし、環境温度に応じて行うものであることも記載されていない。
そもそも、当初明細書等には、この調整を行う条件が環境温度であるとの記載もないし、「予め定める温度範囲」自体についての記載もないものである。
してみると、当初明細書等には、超音波の送信距離と受信距離の調整に関して、
(イ)調整は、環境温度が予め定める温度範囲を超えたときに行うことも、
(ロ)調整は、環境温度に応じて行うことも
記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明なこととも認められない。
したがって、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、当初明細書等の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
「シート状の対象物の一方の表面側に向けて超音波を送信し、他方の表面側からの超音波を受信し、受信強度に基づいて厚みを測定する超音波厚み測定方法において、送信出力を一定に保ちながら、超音波の送信距離と受信距離とのうちの少なくとも一方を、受信強度が極大となるように調整して、調整された送信距離および受信距離で、対象物の厚みを測定することを特徴とする超音波厚み測定方法。」(以下、「本願発明」という。)

4.引用例記載の事項・発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-25987号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項(A)ないし(C)が図面とともに記載されている。(下線は、引用箇所を明示するため当審で付した。)
(A)「シート材を搬送するラインを挟んで配置した超音波の発信手段から受信手段へ超音波を発信させ、前記シート材を通過して減衰後の超音波の出力波形を設定基準値と比較してシート材の重送を検知する方法であって、非重送の通常時の受信レベルと重送時の受信レベルとの間のレベル差を予め設定操作し、前記シート材を通過して直に前記受信手段に達する直接波の発生時刻を含む範囲内であって且つ非重送の通常時の受信レベルと重送時の受信レベルとの間のレベル差が最大となるときの出力信号によって非重送及び重送を判定することを特徴とする超音波を利用したシート材の重送検知方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(B)「前記受信レベルのレベル差の設定を、前記発信手段と受信手段との間の空間距離の変更により実行することを特徴とする請求項1記載の超音波を利用したシート材の重送検知方法。」(特許請求の範囲の請求項2)
(C)「ここで、用紙の重送検知においては、判定基準値Lに対する出力値の相対的な大きさが判定要因なので、この判定基準値Lに対して明瞭な受信強度の差が現れるようにすると、重送なしと重送ありの判定の精度をより一層高めることができる。 一方、超音波発信器1からの送信レベルと超音波受信器2の受信感度を一定とした条件の下では、超音波受信器2による受信強度は、超音波発信器1と超音波受信器2との間の空間距離,超音波発信器1からの発信周波数,用紙P-1,P-2の種類を要素とした複合関係によって決まる。この場合、用紙P-1,P-2は多数の種類があるので特定はできない。したがって、受信強度の操作には、超音波発信器1と超音波受信器2との間の空間距離を設定するか、超音波発信器1からの発信周波数を変更する操作が有効であることが判る。
そこで、本発明者等は、超音波発信器1と超音波受信器2の位置の最適化を図るため鋭意検討した結果、図1において示す発信器-受信器の間の距離Dを7?9mm程度とし、超音波受信器2と用紙のパス面までの距離dを3mm程度とすることが好ましいことを見いだした。図5はこの距離の関係を説明するため、実験によって得た受信レベルのモデル図である。図5において、実線は薄い用紙の特性及び破線は厚い用紙の特性であり、いずれも1枚の場合の受信レベルを示している。また、一点鎖線は重送されているときの受信レベルを示している。
これらの特性から判るように、D=7mm付近に最大のピーク値が現れ、Dが大きくなるにつれて減衰した小さなピークがみられ、そのピーク間の長さは4mm程度である。このようなピーク間の長さのパターンとなるのは、超音波が40kHzの場合その波長λは8.6mm程度であってその半波長のλ/2≒4.3mmの周期で定在波がうねりを生じることによる。
以上のことから、図1においてd=3mm,D=7mmの位置関係として超音波発信器1と超音波受信器2とを配置すれば、重送時の受信レベルと最もレベル差が大きい受信レベルの比較が可能となる。したがって、図3に示した直接波W1に基づく出力信号によって重送の正確な判定ができるのに加えて、受信レベルすなわち直接波W1の入力によって得られる出力信号のレベル差が際立っているポイントで判定するので、重送の判別がより一層高い精度で実行できるようになる。」(段落【0037】?【0042】)
記載事項(A)ないし(C)及び図1、図5より、引用例には次の発明が記載されていると認められる。
「シート材の表面に向けて超音波を発信し、シート材を通過し減衰した超音波を受信し、減衰後の超音波の受信レベルを設定基準値と比較してシート材の重送を検知する方法において、送信レベルを一定に保ちながら、超音波発信器、受信器間の距離Dを、非重送時の受信レベルと重送時の受信レベルとの差が最大となるように変更して、変更された超音波発信器と受信器間の距離Dで、シート材の重送を検知する方法。」(以下、「引用例記載の発明」という。)

5.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
引用例記載の発明における、
「シート材」、「シート材を通過し減衰した超音波」、「受信レベルを設定基準値と比較して」、「送信レベル」、「非重送時の受信レベルと重送時の受信レベルとの差が最大となるように」、「変更」は、
本願発明における、
「シート状の対象物」、「他方の表面側からの超音波」、「受信強度に基づいて」、「送信出力」、「受信強度が極大となるように」、「調整」にそれぞれ相当する。
また、引用例記載の発明における「シート材の重送の検知」も、本願発明における「シート状の対象物の厚み測定」も、共に、対象物についての測定方法である点で共通している。
さらに、引用例記載の発明における「超音波発信器と受信器間の距離D」も、本願発明における「超音波の送信距離」や「超音波の受信距離」も、共に、超音波が伝播する空間距離である点で共通している。
してみると、両者は
「シート状の対象物の一方の表面側に向けて超音波を送信し、他方の表面側からの超音波を受信し、受信強度に基づいて対象物についての測定をする測定方法において、送信出力を一定に保ちながら、超音波の空間距離を、受信強度が極大となるように調整して、調整された超音波の空間距離で、対象物についての測定をする測定方法。」
で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:測定するパラメータに関して、
本願発明は、シート状の対象物の「厚み」を測定するのに対し、引用例記載の発明では、シート状の対象物に相当するシート材の「重送」を検知している点。
相違点2:超音波の空間距離の調整方法に関して
本願発明では超音波の送信距離と受信距離との少なくともいずれか一方を調整しているのに対し、引用例記載の発明では、超音波発信器と受信器間の距離Dを設定(調整)している点。

6.判断
上記相違点について検討する。
相違点1について、
一般に、超音波を対象物に送信し、透過した超音波を受信してその受信強度に基づいて対象物の厚みを測定することは、例えば原審で引用された特開昭52-88362号公報にも示されているように超音波厚み測定方法として周知な技術事項である。
そして、引用例記載の発明は、重送を検知するために超音波の受信強度を測定し、測定点においてシート材が2枚重ねとなったこと、すなわちシート材の厚さが2倍となったことを検知するものであるから、この点で引用例記載の発明の重送の検知方法は測定点において対象物の厚さを測定していることに外ならない。
したがって、引用例記載の発明のシート材の重送の検知方法を、本願発明のように超音波厚み測定方法として使用することは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
相違点2について、
本願発明における超音波の送信距離は、送信側変換器10と測定対象物であるフィルム2との距離のことであり、超音波の受信距離は同様に、受信側変換器20とフィルム2との距離のことである(本願明細書の段落【0024】、【0025】)。
そこで、引用例に記載のものにおいて、超音波発信器1とシート材P-1との距離を本願発明に倣って超音波の送信距離と呼び、超音波受信器2とシート材P-1との距離を同様に超音波の受信距離と呼ぶこととすると、超音波の送信距離と超音波の受信距離とを足し合わせたものは超音波発信器と受信器間の距離Dに等しいものとなる。
他方、引用例記載の発明において超音波発信器と受信器間の距離Dを調整するためには、
(イ)超音波の受信距離を固定し送信距離を調整する
(ロ)超音波の送信距離を固定し受信距離を調整する
(ハ)超音波の送信距離と受信距離とをそれぞれ調整する
の3通りの方法がある。
そして、本願発明にいう「超音波の送信距離と受信距離との少なくともいずれか一方を調整」することは上記3通りの方法について表現したものに外ならない。
したがって、本願発明の「超音波の送信距離と受信距離との少なくともいずれか一方を調整」することは、引用例記載の発明における「超音波発信器と受信器間の距離Dを調整」することと実質的な差異はない。

そして、本願発明の作用効果は、引用例記載の発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-09 
結審通知日 2008-04-15 
審決日 2008-05-01 
出願番号 特願2004-57882(P2004-57882)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 561- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山田 昭次
山下 雅人
発明の名称 超音波厚み測定方法および装置  
代理人 西教 圭一郎  

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