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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E01C |
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管理番号 | 1179601 |
審判番号 | 不服2006-13807 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-06-29 |
確定日 | 2008-06-12 |
事件の表示 | 特願2003-164843「蓄熱式道路構造」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月 6日出願公開、特開2005- 2597〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年6月10日の出願であって、平成18年5月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年6月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年7月27日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成18年7月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成18年7月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 (1)補正後の本願発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。 「道路の表層およびその表層の下の下部層の少なくとも一方を形成するコンクリートまたは樹脂中に、蓄熱材を入れたマイクロカプセルを分散させ、 さらに前記コンクリートまたは樹脂中に、鋼繊維を少なくとも含む補強繊維を混入してなる、蓄熱式道路構造。」 前記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「補強繊維」について「鋼繊維を少なくとも含む」との限定を付加したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 (2)引用文献 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-243202号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「蓄熱材を格納した舗装道路」について、図1?図6とともに以下の記載がある。 (ア)「【請求項2】 舗装道路の路面から所定の深さに蓄熱材を格納したもので、該蓄熱材は格納容器に充填されて埋設され、そして数℃前後で液体から固体に相変化する性質を有し、この相変化する際に生じる凝固熱を路面に伝えて、路面の凍結を防止することを特徴とする蓄熱材を格納した舗装道路。」 (イ)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は舗装道路の凍結を防止する技術に関するものである。」 (ウ)「【0011】 【実施例】図1は本発明に係る実施例であり、蓄熱材を格納した舗装道路の断面を示している。同図の1は表層、2は基層、3は路盤、4は路床を示しており、上記蓄熱材を格納した格納容器5は基層2に埋設されている。同図はアスファルト舗装道路の場合であるが、コンクリート舗装道路の場合には上記表層1と基層2は同一層を形成することに成る。そして、表層1の厚さは5cm、基層2の厚さも5cmと成っている。勿論、これら各層1、2の厚さを限定することはないが、傷んだり、老化したりした路面を補修する際に削り取られる表層1は十分必要とされ、上記格納容器5、5…は補修の際に障害にならない深さに設けられた基層2内に埋設されている。したがって、コンクリート舗装道路の場合には表層1の上面から数cm乃至7cm?8cmの深さに設けられる。 【0012】図2は道路全体の横断面を表しているが、このように上記格納容器5、5…を道路全体に均一に埋設することなく、タイヤが接する領域に限定して設けてもよい。ところで、該格納容器5とは蓄熱材を格納する為の容器であって、その形態は限定されないが、一般にはパイプ状のものや缶状のもの等を用いる。一方、該容器の形態として骨材に相当するものを使用することも出来る。すなわち、基層2を構成する石などの骨材と同じように、蓄熱材を充填した容器を混入してしまうならば施工上は便利である。ただし、相変化する際の体積変化に対応出来る容器と成っている。 【0013】図3はアルコール、パラフィン、無機塩、氷酢酸、及び水を試験管に入れてフリーザーで冷却した時の温度変化を表している。上記アルコールや無機塩、それにパラフィンはいずれも数℃まで低下し、液体から固体に成るにつれてやや温度が上昇し、数℃前後の凝固点で液体から固体へ相変化するのに比較的長時間を要していることがわかる。これは、上記物質の凝固熱が大きいことが理解出来る。」 (エ)「【0016】図4、図5は福井県福井市での1992年1 月7 日?13日におけるデータであって、表層上面温度(路面温度)、基層上面温度、及び路盤上面温度をそれぞれ表している。図4の場合には本発明に係る蓄熱材を格納した道路であり、図5は従来の道路の場合を示している。上記蓄熱材は、厚さを5cmとした基層2内に、断面比で15%の割合で埋設し、蓄熱材としてはパラフィンを使用している。両図を比較する場合、上記蓄熱材を格納した表層上面温度は僅かに高くなり、0℃以下の日が無くなることがわかる。」 これらの記載事項及び図面を参照すると、引用文献1には、コンクリート舗装道路として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (引用発明) 「舗装道路の路面から所定の深さにパラフィン等の蓄熱材を格納したもので、該蓄熱材は格納容器5に充填されて道路全体に均一に埋設され、そして数℃前後で液体から固体に相変化する性質を有し、この相変化する際に生じる凝固熱を路面に伝えて、路面の凍結を防止する蓄熱材を格納したコンクリート舗装道路であって、 コンクリートの同一層とした表層1及び基層2と、路盤3と、路床4とで構成され、 前記蓄熱材を充填した格納容器5は、骨材に相当する形態であり、基層2に埋設する施工の際、基層2を構成する石などの骨材と同じように混入される、 蓄熱材を格納したコンクリート舗装道路。」 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-90124号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「床暖房用蓄熱材」について以下の記載がある。 (オ)「【請求項1】 融点が30?80℃の蓄熱材を内包するマイクロカプセルが練り込まれたコンクリート部材から成る床暖房用蓄熱材。」 (カ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、床下に熱源を配置し床面自体を加熱してその輻射熱により室内を暖房することが可能な床暖房用蓄熱材、とりわけ潜熱蓄熱材を用いた床暖房用蓄熱材に関するものである。」 (キ)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明の第一の課題はコンクリートのみを蓄熱材として用いる従来の顕熱蓄熱式床暖房方法において、顕熱に加え多量の潜熱を蓄えることができる床暖房用蓄熱材を提供することであり、第二にマイクロカプセルの経時的な劣化がなく長期に亘り安定に蓄熱と放熱を繰り返すことを可能にした床暖房用蓄熱材を提供することである。」 (ク)「【0008】 【発明の実施の形態】本発明で用いられるコンクリート部材は、主としてセメント中にマイクロカプセルを添加し、混練り後水分を保ちながら水和反応を進めることにより得られる。しかしながら、混練り時に要求される物理的強度や強アルカリ下での化学的強度を有し、尚かつセメントが硬化する際に発生する水和熱に対し安定な皮膜を有するマイクロカプセルでなければならない。」 (ケ)「【0012】……。本発明で使用できる30?80℃の融点を有する蓄熱材としては、炭素数が約18?30程度のn-パラフィン類や、無機系共晶物及び無機系水和物、ラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸ミリスチル等のエステル化合物、ステアリルアルコール等のアルコール類等の化合物が挙げられ、好ましくは融解熱量が80kJ/kg以上の化合物で、化学的、物理的に安定でしかも安価なものが用いられる。…… 【0013】本発明に係るマイクロカプセルの粒子経は、混練り時に物理的圧力による破壊を防止するために20μm以下、特に好ましくは10μm以下が好ましい。マイクロカプセルの粒子径は、乳化剤の種類と濃度、乳化時の乳化液の温度、乳化比(水相と油相の体積比率)、乳化機、分散機等と称される微粒化装置の運転条件(攪拌回転数、時間等)等を適宜調節して所望の粒子径に設定する。この粒子径以上になるとマイクロカプセルが外圧で容易に壊れやすくなるので好ましくない。 【0014】本発明におけるコンクリートは通常土木、建築用に用いられているボルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどが用いられ、必要であれば各種添加剤及び無機塩などとともにマイクロカプセルが添加される。マイクロカプセルは水分散系の場合には直接セメントと混合されるが粉体やケーキ状で添加してもかまわない。セメントとマイクロカプセルを充分に混合した後水和を促すために充分な水分を与えて養生する。得られたコンクリート中に占めるマイクロカプセルの固形重量比率は10?60%、好ましくは20?50%の範囲が好ましい。この範囲以下であると蓄熱効果に乏しく、この範囲より高いとコンクリートとしての物理的強度が得られないため好ましくない。コンクリートの形状は床下に配置しやすいように板状、棒状、角状などいかなる形態でも良いが、ヒーターからの熱伝導効率を高めるためには平版のボード状が好ましい。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「コンクリートの同一層とした表層1及び基層2」「路盤3」「蓄熱材を格納したコンクリート舗装道路」は、本願補正発明の「表層」「下部層」「蓄熱式道路構造」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の「蓄熱材を充填した格納容器5は、骨材に相当する形態であり、基層2に埋設する施工の際、基層2を構成する石などの骨材と同じように混入される」と、本願補正発明の「コンクリートまたは樹脂中に、蓄熱材を入れたマイクロカプセルを分散させ」とは、「コンクリート中に、蓄熱材を入れた容器を分散させ」の点で共通している。 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、 「道路の表層およびその表層の下の下部層のうち、表層を形成するコンクリート中に、蓄熱材を入れた容器を分散させてなる、蓄熱式道路構造。」 で一致し、次の点で相違する。 〔相違点1〕 蓄熱材を入れた容器が、本願補正発明では、マイクロカプセルであるのに対して、引用発明では、マイクロカプセルではない点。 〔相違点2〕 本願補正発明は、コンクリート中に、鋼繊維を少なくとも含む補強繊維を混入してなるものであるのに対して、引用発明では、コンクリート中に補強繊維を混入していない点。 (4)判断 前記相違点について以下検討する。 〔相違点1についての判断〕 引用文献2には、炭素数が約18?30程度のn-パラフィン類等の蓄熱材を内包するマイクロカプセルが練り込まれたコンクリート部材から成る床暖房用蓄熱材が記載されている(前記(オ)(ケ)参照)。 この引用文献2に記載された技術と引用発明とは、蓄熱材を入れた容器を分散させたコンクリートを人等の荷重がかかる場所に設置する技術である点、及び蓄熱材としてパラフィンを使用する点で共通している。 また、引用発明は、蓄熱材を入れた容器が骨材に相当する形態であり、石などの骨材と同じように混入すると施工上は便利(前記(ウ)の段落【0012】参照)とされているから、該容器は小さければ施工上都合がよいと認められる。 そうすると、引用発明に、引用文献2に記載された技術を適用して、引用発明の蓄熱材を、マイクロカプセルに入れる構成とすることは、当業者が容易に想到しうるものである。 なお、審判請求人は、審判請求の理由において、引用文献1には、「蓄熱材格納容器が路面の補修工事の妨げになるという課題の解決のために、路面から所定の深さ、すなわち実施例では表層1の上面から数cm乃至7,8cmの深さに蓄熱材格納容器5を埋設しているのであるから、引用文献1に記載の「蓄熱材格納容器」はヒートパイプ等の剛性の高いものであり、引用文献2に記載された技術を組み合わせることを阻害する理由が有るといえる、と主張する。 しかし、引用文献1には、「蓄熱材格納容器」は、石などの骨材、すなわち一般的な骨材と同じように混入できることが記載されているのであり、引用文献2に記載された技術を適用することには阻害要因はない。 〔相違点2についての判断〕 ところで、コンクリート舗装において、コンクリート中に補強繊維として鋼繊維を混入することは、例えば、実願昭62-113878号(実開昭64-31108号)のマイクロフィルム(明細書6ページ1?8行)、実公昭58-5684号公報(1ページ2欄5?11行)、特開2001-207402号公報(段落【0013】)に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。 一方、引用発明のコンクリート舗装道路においても、補強の必要があれば、何らかの手段により補強することは当然であり、その補強手段として、前記周知の技術を適用することは、当業者が容易に想到しうるものである。 したがって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到しうるものである。 本願補正発明の作用効果について検討すると、「蓄熱コンクリート8に鋼繊維を混入した場合には、蓄熱コンクリート8の熱伝導率が特に高まる」(段落【0043】)という効果については、前記周知技術を示す文献として提示した実願昭62-113878号(実開昭64-31108号)のマイクロフィルム(明細書6ページ1?8行)でも知られているように、コンクリート中に鋼繊維を混入した構成から予測できるものにすぎない。 本願補正発明のその他の作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものということができない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成18年7月27日付けの手続補正は前記のとおり却下されることとなるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年12月26日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「道路の表層およびその表層の下の下部層の少なくとも一方を形成するコンクリートまたは樹脂中に、蓄熱材を入れたマイクロカプセルを分散させ、 さらに前記コンクリートまたは樹脂中に補強繊維を混入してなる、蓄熱式道路構造。」 (1)引用文献 引用文献1及び2、並びにその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から「補強繊維」について「鋼繊維を少なくとも含む」との限定を省略したものである。 本願発明と引用発明とを対比すると、前記「2.(3)」で示した相違点1及び次の相違点3で相違し、前記「2.(3)」で示した一致点で一致する。 〔相違点3〕 本願発明は、コンクリート中に補強繊維を混入してなるものであるのに対して、引用発明は、コンクリート中に補強繊維を混入していない点。 〔相違点1についての判断〕 相違点1についての判断は、前記「2.(4)」に記載したものと同様である。 〔相違点3についての判断〕 ところで、道路構造を構成するコンクリートにおいて、コンクリート中に補強繊維を混入することは、例えば、原査定で提示された、特開平11-21842号公報(段落【0009】)、特開2000-96509号公報(段落【0008】【0011】)、及び前記「2.(4)〔相違点2についての判断〕」で示した、実願昭62-113878号(実開昭64-31108号)のマイクロフィルム(明細書6ページ1?8行)、実公昭58-5684号公報(1ページ2欄5?11行)、特開2001-207402号公報(段落【0013】)に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。 一方、引用発明のコンクリート舗装道路においても、補強の必要があれば、何らかの手段により補強することは当然であり、その補強手段として、前記周知の技術を適用することは、当業者が容易に想到しうるものである。 したがって、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到しうるものである。 そして、本願発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものということができない。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-10 |
結審通知日 | 2008-04-15 |
審決日 | 2008-04-30 |
出願番号 | 特願2003-164843(P2003-164843) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E01C)
P 1 8・ 575- Z (E01C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 草野 顕子、加藤 範久 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
伊波 猛 砂川 充 |
発明の名称 | 蓄熱式道路構造 |
代理人 | 来間 清志 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 藤谷 史朗 |