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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1179720
審判番号 不服2005-16595  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-31 
確定日 2008-06-11 
事件の表示 平成 9年特許願第244968号「計算機システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月30日出願公開、特開平11- 85715〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成9年9月10日の出願であって、平成17年2月22日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月18日付けで手続補正がなされたが、同年7月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月31日に審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、同年12月14日付けで審査官から前置報告がなされ、平成19年10月18日付けで当審より審尋がなされ、同年12月21日付けで回答書が提出されたものである。

そして、本件補正は、平成17年4月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1を削除したものと認められるから、本件補正は請求項の削除を目的としている。
そして、その請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年8月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された次のとおりのものと認める。

「複数の独立して動作するクラスタと、それらに共有される複数の共有メモリを備え、前記クラスタと共有メモリ間にデータ転送を行うためのデータ転送パスが装備されると共に、
前記各クラスタ及び各共有メモリには、それぞれレジスタを備え、かつ、前記クラスタ及び共有メモリの初期化処理や前記レジスタの制御を行うためのサービスプロセッサを装備し、前記各サービスプロセッサ間が専用のサービスプロセッサ間通信パスを介して通信可能に接続され、
前記サービスプロセッサが、前記クラスタと共有メモリにおけるデータ転送パスの論理的な接続関係を示す構成情報を決定し、その構成情報を前記レジスタに設定することで、任意のデータ転送パスの接続関係を可能とした計算機システムにおいて、
前記レジスタに設定する構成情報の内、電源投入時に使用される初期情報を更新する際、一部装置の電源が切断状態にあっても、前記初期情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時において構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新となる初期情報への同期を図る初期情報同期手段と、
構成情報の変更と読み出しが競合した場合に、それらを同時に実行させないようにするスケジューラ機構の処理において、個々の処理を優先順位別に幾つか分類し、優先順位の高いものから動作させるスケジューラ処理手段を備えていることを特徴とした計算機システム。」

2.引用文献

A.原査定の拒絶の理由に引用された、特開平6-119305号公報(以下、「引用文献1」という。)には以下の事項が記載されている。(注意:下線は便宜上、当審にて付与したもの。)

(ア)「【0002】
【従来の技術】図5はSCMPシステムの構成例を示す図である。図において、1a?は一つの独立して動作可能な計算機システムであり、クラスタと呼ばれる。クラスタ1a?は主記憶とCPUとチャネル装置からなり、保守・運転制御用のSVP(Service Processor)2a?が付属し、外部に入出力装置をもつ。CPUが1つのシングルプロセサシステムであっても、CPUが複数ある密結合マルチプロセサシステムであってもよい。
【0003】3a?は大規模な記憶装置であって、システム記憶装置(SSU)と呼ばれ、複数のクラスタ1a?によって共有される。クラスタ1a?の主記憶との間にデータ転送パス6をもち、クラスタ1a?の要求に応じて大量のデータを高速にやりとりする。
【0004】システム記憶装置(SSU)3a?にも保守・運転制御用のSVP4a?が付属している。各SVPは他のSVPとSVP間通信パス5を通して、通信することができる。
【0005】クラスタ1a?とSSU3a?との結合関係は、構成制御命令と呼ばれる命令によって自由に設定することができる。それにより、全クラスタと全SSUを結合し、全体を一つのシステムとして動作させることも可能であるし、一部のユニット(例えば、障害を起こしたユニット)を切り離したり、二つ、またはそれ以上の別々のシステムとして動作させたりすることができる。
【0006】図2はSCMPシステムの説明図である。クラスタ1a?の主記憶とSSU3a?間のデータ転送パスが開設されているとき、そのクラスタはSSUに対してオンラインである、あるいはそのSSUはオンライン状態であるという。オンラインとなっているSSUをオンラインSSUと呼ぶ。
【0007】SCMPシステム内で、現在SSUに対してオンラインになって動作しているクラスタとSSUのグループをSCMPサブシステムと呼ぶ。図2においては、SSU-0,SSU-n,クラスタ─0,クラスタ1,クラスタ-mが1つのSCMPサブシステムを成す。またそれ以外のSSUとクラスタにより別のSCMPサブシステムを構成することも可能である。
【0008】SCMP内に所属するクラスタ、SSUは、システム電源の投入時にすべてオンラインになり、同じSCMPサブシステムに所属する。SSUの電源は、各クラスタのどれか1つの電源が投入されれば投入され、すべてのオンラインクラスタが電源断になるまで切断されない。
【0009】各クラスタにて動作するOSは構成制御命令を使って、必要に応じてSSUとのオンライン状態を変更したり障害ユニット(クラスタ/SSU)を切り離したりできる。
【0010】SCMP構成制御命令は各クラスタのOSがCPUに実行させる。実際にはCPUはクラスタ付属のSVPに指示し、具体的な処理をSVPが行う。クラスタは複数存在するので、複数の構成制御命令が発せられる可能性がある。
【0011】構成制御命令には、現在の構成を読み出す命令(読出命令)と構成を変更する命令(変更命令)とがあるが、どちらもCPUの命令の中でも特に長時間を要する命令である。
【0012】別々のクラスタから、ほぼ同時に、異なる構成にする変更命令が出されたとすると、それをそのまま同時並行して実行した場合、結果の構成がどうなるかを保証できない。また変更命令と読出命令が出された場合、変更途中の中途半端なものが読み出される恐れがある。従って構成制御命令は一つずつ順次処理する必要がある。」

(イ)「【0017】このようなシステムにおいて、以下のようにする。システム電源投入後、各クラスタSVPはシステム内のSSUの電源投入を指示し、自分のクラスタの初期化を行う(S1)。
【0018】各SSU-SVPをセンスして(S2)スケジューラと指定されているものがあるか否かを検査し(S3)、スケジューラがなければ、適当なアルゴリズムによりスケジューラとするべきSSU-SVPを決定して、それを指定し(S4)、スケジューラになったSSU-SVPの番号を保持する(S5)。
【0019】スケジューラがあればそのSSU-SVPの番号を保持する(S5)。構成制御命令が発せられると、クラスタSVPは、スケジューラに実行権を要求する(S6)。
【0020】スケジューラは、それを待ち行列に入れて管理し(T4)、順次実行権を付与してクラスタSVPに応答する(T5)。実行権を与えられたクラスタSVPは、構成制御命令を実行する(S7)。
【0021】その後でスケジューラであったSSU-SVPの状態を判断して(S8)、スケジューラであることに変更がなければ、実行権を返却し(S9)、CPUに終了したことを伝える(S12)。
【0022】変更があれば、適当なアルゴリズムによりスケジューラとするべきSSU-SVPを決定して、それを指定し(S10)、スケジューラが交代したことを他のクラスタのSVPに通知し(S11)、CPUに終了したことを伝える(S12)ようにしたことを特徴としている。
【0023】
【作用】システム電源が投入されたあと、SSU-SVPの一つが、構成制御命令の実行権を与える権限をもつスケジューラに自律的に決定される。そのあとスケジューラが、構成制御命令を実行しようとするクラスタSVPを1つずつ順序だてて指定して実行させるので矛盾した結果になることはない。また、スケジューラが動作不能になっても、クラスタSVPが監視していて、スケジューラを切り替える。」

(ウ)「【0026】・・・(中略)・・・ 図3に電源投入後、SSU-SVPの1つがスケジューラに選定され決定されるまでを示す。
【0027】ここではクラスタは3つ、SSUも3つあるシステムとする。システムの電源が投入されると、電源制御により各クラスタの電源が少しずつ時間をずらして投入される。ここではクラスタ-0、クラスタ-1、クラスタ-2の順に投入されるものとする。
【0028】最初に電源が投入されたクラスタ-0のSVPは、システム内のすべてのSSUの電源を投入するよう制御する。そして自分のクラスタの初期化を行ったあと、すべてのSSU-SVPの状態をセンスし、スケジューラとして指定されているものがあるかどうかを調べる。当然、この場合はスケジューラは不在である。
【0029】スケジューラが不在の場合、スケジューラとなる資格を備えたSSU-SVPの内から適当なアルゴリズムにより1つを選択し、スケジューラに決定する。スケジューラになるための資格は、SCMPサブシステムに所属していて(オンラインであって)担当するSSUの初期化を終了していることである。また、選択アルゴリズムとしては、例えば最も若い番号のものとする等でよい。
【0030】従って、クラスタ-0のSVPはSSU-0のSVPをスケジューラに設定する。他のクラスタSVPも電源投入後、同様に動作するが、SSU電源の投入指示は重ねて行っても問題はない。
【0031】次にスケジューラ情報のセンスにおいて、最初のクラスタ-0のSVPによるスケジューラ設定の後であれば、どれがスケジューラになっているかの情報を得て終了する。まだ設定前であれば同様にスケジューラ設定を行うが、結局同じSSU-SVPを指定することになるので問題はない。
【0032】以上の手順によれば、クラスタの立ち上げの順番には関係なく、必ず1つのSSU-SVPがスケジューラとして設定される。」

(エ)「【0033】ここでは、クラスタ-0では読出命令がだされ、クラスタ-1ではSSU-0をオフラインにする変更命令がだされ、クラスタ-2では読出命令がだされ、それらがほぼ同時であったとする。
【0034】各クラスタSVPは実行権をスケジューラであるSSU-0のSVPに要求する。スケジューラはそれらの要求を待ち行列に入れて管理する。そして実行権をどれにも与えてなければ、待ち行列の順位が一位のクラスタ-0に対して実行権を与える。
【0035】実行権を得たクラスタ-0のSVPは構成制御命令を実行した後、スケジューラの資格検査を行う。具体的にはスケジューラの状態情報をセンスして判断する。変化がなければ構成制御命令の実行が終了したことを伝える。すなわち実行権を返却したことになる。
【0036】この後CPUに終了通知をすれば構成制御命令の実行は完了する。スケジューラは実行権を返却されると、次の順位の要求に対して実行権を与える。ここではクラスタ-1のSVPに与える。」

(ア)の段落【0002】における記載「【従来の技術】図5はSCMPシステムの構成例を示す図である。図において、1a?は一つの独立して動作可能な計算機システムであり、クラスタと呼ばれる。クラスタ1a?は主記憶とCPUとチャネル装置からなり、保守・運転制御用のSVP(Service Processor)2a?が付属し、」、段落【0003】における記載「3a?は大規模な記憶装置であって、システム記憶装置(SSU)と呼ばれ、複数のクラスタ1a?によって共有される。クラスタ1a?の主記憶との間にデータ転送パス6をもち、クラスタ1a?の要求に応じて大量のデータを高速にやりとりする。」及び段落【0004】における記載「システム記憶装置(SSU)3a?にも保守・運転制御用のSVP4a?が付属している。各SVPは他のSVPとSVP間通信パス5を通して、通信することができる。」からすると、
引用文献1には、複数の独立して動作するクラスタと、それらに共有される複数のシステム記憶装置を備え、前記クラスタとシステム記憶装置間にデータ転送を行うためのデータ転送パスが装備されると共に、前記各クラスタ及び各システム記憶装置には、それぞれ前記クラスタ及びシステム記憶装置の保守・運転制御を行うためのSVPを装備し、前記各SVP間が専用のSVP間通信パスを介して通信可能に接続された計算機システムが記載されている。
そして、(イ)の段落【0017】における記載「システム電源投入後、各クラスタSVPはシステム内のSSUの電源投入を指示し、自分のクラスタの初期化を行う」及び(ウ)の段落【0029】における記載「スケジューラとなる資格を備えたSSU-SVPの内から適当なアルゴリズムにより1つを選択し、スケジューラに決定する。スケジューラになるための資格は、SCMPサブシステムに所属していて(オンラインであって)担当するSSUの初期化を終了していることである。」からすると、
前記SVPは、それぞれ前記クラスタ及びシステム記憶装置の初期化処理を行うと解される。
また、(ア)の段落【0006】における記載「クラスタ1a?の主記憶とSSU3a?間のデータ転送パスが開設されているとき、そのクラスタはSSUに対してオンラインである、あるいはそのSSUはオンライン状態であるという。」、段落【0007】における記載「SCMPシステム内で、現在SSUに対してオンラインになって動作しているクラスタとSSUのグループをSCMPサブシステムと呼ぶ。図2においては、SSU-0,SSU-n,クラスタ─0,クラスタ1,クラスタ-mが1つのSCMPサブシステムを成す。またそれ以外のSSUとクラスタにより別のSCMPサブシステムを構成することも可能である。」、及び段落【0008】における記載「SCMP内に所属するクラスタ、SSUは、システム電源の投入時にすべてオンラインになり、同じSCMPサブシステムに所属する。」からすると、
クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係(構成情報)は、事前に必要に応じて適宜設定可能(以下、簡単のため、事前に必要に応じて適宜設定可能な構成情報を「初期構成情報」という。)であり、前記計算機システムは、電源投入時に、事前に必要に応じて適宜設定可能な初期構成情報に基づいて、クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係を初期設定すると解される。

さらに、(ア)の段落【0005】における記載「クラスタ1a?とSSU3a?との結合関係は、構成制御命令と呼ばれる命令によって自由に設定することができる。」及び段落【0010】における記載「SCMP構成制御命令は各クラスタのOSがCPUに実行させる。実際にはCPUはクラスタ付属のSVPに指示し、具体的な処理をSVPが行う。」からすると、
前記SVPは前記クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係を示す構成情報を決定し、その構成情報を設定することで、任意のデータ転送パスの結合関係の構成制御を行うと解される。

また、(ア)の段落【0012】における記載「別々のクラスタから、ほぼ同時に、異なる構成にする変更命令が出されたとすると、それをそのまま同時並行して実行した場合、結果の構成がどうなるかを保証できない。また変更命令と読出命令が出された場合、変更途中の中途半端なものが読み出される恐れがある。従って構成制御命令は一つずつ順次処理する必要がある。」及び(イ)の段落【0023】における記載「スケジューラが、構成制御命令を実行しようとするクラスタSVPを1つずつ順序だてて指定して実行させるので矛盾した結果になることはない。」からすると、
前記計算機システムには、構成情報の変更と読み出しが競合した場合に、それらを同時に実行させないようにするスケジューラを設けていると解される。
そして、(ア)の段落【0002】における記載「クラスタ1a?は主記憶とCPUとチャネル装置からなり、保守・運転制御用のSVP(Service Processor)2a?が付属し、外部に入出力装置をもつ。」からすると、クラスタSVPはクラスタの付属装置であるから、クラスタSVPの有する機能は、クラスタの有する機能と解される。
そして、(エ)の段落【0034】における記載「各クラスタSVPは実行権をスケジューラであるSSU-0のSVPに要求する。スケジューラはそれらの要求を待ち行列に入れて管理する。そして実行権をどれにも与えてなければ、待ち行列の順位が一位のクラスタ-0に対して実行権を与える。」からすると、前記スケジューラの処理において、個々の要求を待ち行列に入れて管理し、待ち行列の順位に従って、実行権を要求したSVPに対して、順番に実行権を与えるように動作させる手段(以下、簡単のため「スケジューラ処理手段」という。)を備えていると解される。

よって、(ア)?(エ)における記載及び関連する図面からすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

複数の独立して動作するクラスタと、それらに共有される複数のシステム記憶装置を備え、前記クラスタとシステム記憶装置間にデータ転送を行うためのデータ転送パスが装備されると共に、
前記各クラスタ及び各システム記憶装置には、それぞれ前記クラスタ及びシステム記憶装置の初期化処理や前記クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係の構成制御を行うためのSVPを装備し、前記各SVP間が専用のSVP間通信パスを介して通信可能に接続され、
前記SVPが、前記クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係を示す構成情報を決定し、その構成情報を設定することで、任意のデータ転送パスの結合関係を可能とした計算機システムにおいて、
電源投入時に、事前に必要に応じて適宜設定可能な初期構成情報に基づいて、クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係を初期設定し、
構成情報の変更と読み出しが競合した場合に、それらを同時に実行させないようにするスケジューラの処理において、個々の要求を待ち行列に入れて管理し、待ち行列の順位に従って、実行権を要求したSVPに対して、順番に実行権を与えるように動作させるスケジューラ処理手段を備えていることを特徴とした計算機システム。

B.原査定の拒絶の理由に引用された、特開平7-129529号公報(以下、「引用文献2」という。)には以下の事項が記載されている。(注意:下線は便宜上、当審にて付与したもの。)

(オ)「【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明は、複数の端末システムを管理するホスト計算機が、通信回線を介して複数接続された通信ネットワークの構成情報獲得方法において、各ホスト計算機の起動後であって、かつ、端末システム間の通信開始前に、各ホスト計算機から通信相手のホスト計算機に、構成情報要求コマンドを発行して、通信相手のホスト計算機の構成情報および通信相手のホスト計算機が管理する複数の端末システムの構成情報を獲得することを特徴とする。」

(カ)「【0012】図1は、本発明の一実施例の通信ネットワークの全体構成を示す全体構成図である。図1において、自側ホスト計算機1は、自側アプリケーションプログラム11と自側通信管理プログラム12を具備している。また、自側ホスト計算機1には自側の通信制御処理装置(以下、CCPという)2が接続されている。また、自側CCP2には自側通信回線3により自側端末システム4が接続されている。
【0013】これに対して、相手側ホスト計算機5は、自側ホスト計算機1と同様に相手側アプリケーションプログラム51と相手側通信管理プログラム52を具備している。また同様に、相手側ホスト計算機5にも、相手側CCP6が接続されている。
【0014】また、相手側CCP6には、相手側通信回線7により相手側端末システム8が接続されている。そして、自側CCP2と相手側CCP6はCCP間接続回線9によって接続されている。
【0015】自側通信管理プログラム12では、通信ネットワークの構成情報として自側ホスト計算機1、自側通信管理プログラム12、自側アプリケーションプログラム11、自側CCP2、自側通信回線3及び自側端末システム4を定義すると共にCCP間接続回線9、相手側CCP6、相手側ホスト計算機5及び相手側通信管理プログラム52を定義する。
【0016】しかし、自側通信管理プログラム12のための通信ネットワークの構成情報には、相手側アプリケーションプログラム51、相手側通信回線7及び相手側端末システム8は定義しない。
【0017】図2はネットワーク構成情報獲得時の処理手順を示すフローチャートである。
【0018】図2において、まず、自側通信管理プログラム12が起動されると、自側CCP2、自側通信回線3、自側端末システム4及びCCP間接続回線9を活性状態にする(ステップ121)。このとき、既に相手側通信管理プログラム52が起動されていて相手側CCP6およびCCP間接続回線9も活性状態であれば(ステップ122)、自側通信管理プログラム12からCCP間接続回線9を経由して相手側通信管理52と通信して相手側通信管理プログラム52に対し、構成情報要求コマンドを送り、相手通信管理プログラム52が有している通信ネットワークの構成情報を要求し(ステップ123)、構成情報レコード127(図3参照)を獲得する。
【0019】自側通信管理プログラム12では、相手通信管理プログラム52から獲得した構成情報レコード127により自側通信管理プログラム12内の構成情報に定義する。また、相手側通信管理プログラム52でも同様に自側通信管理プログラム12から獲得した自側通信管理プログラム12の構成情報を相手側通信管理プログラム12内の構成情報に定義する(ステップ124)。
【0020】これにより、自側アプリケーションプログラム11と相手側端末システム8および相手側アプリケーションプログラム51間の端末システムによるユーザ通信が可能になる(ステップ125)。
【0021】また同様に、相手側アプリケーションプログラム51と自側端末システム4間の端末システムによるユーザ通信も可能になる。」

(キ)「【0029】図3は構成情報レコードの内部構成を示す構成図である。図3において、構成情報レコード127は、PDUタグ1271、PDU長1272、ホスト名称1273、相手構成情報作成時刻1274、およびエントリ(1)1275からエントリ(n)1275nで構成される。
【0030】また、各エントリ、例えば、エントリ(1)1275は、分類1275a、エントリ長1275b、および相手側の各種構成情報(アプリケーションプログラム、通信回線、および端末システム)1275cから構成される。
【0031】図3示すように、構成情報レコード127中に、相手側通信管理プログラム52の構成情報を定義した年月日および時刻のフィールドを設けることにより、自側通信管理プログラム12が、初めて相手側通信管理プログラム52と通信する場合、あるいは相手側通信管理プログラム52の構成情報を再度定義した場合のみ、相手側通信管理プログラム52から獲得した構成情報レコード127を自側通信管理プログラム12内の構成情報に定義する。
【0032】以上により、ホスト計算機間の端末システムによるユーザ通信開始時の構成情報問い合わせによる時間的なロスを低減することができる。
【0033】なお、自側通信管理プログラム12が相手側通信管理プログラム52と通信する場合に、まず構成情報を定義した年月日および時刻に関する情報だけを報告させてそれを判定することによって、自側通信管理プログラム12が初めて相手側通信管理プログラム52と通信する場合および相手側通信管理プログラム52の構成情報を再度定義した場合にのみ、構成情報レコード127を獲得するようにしてもよい。」

(オ)の段落【0009】における記載「ホスト計算機の起動後であって、かつ、端末システム間の通信開始前に、」及び(カ)の段落【0018】における記載「図2において、まず、自側通信管理プログラム12が起動されると、」からすると、引用文献2に記載された「ホスト計算機の起動」の態様として、計算機システムの電源投入時における起動を含むことは当業者にとって明らかである。
よって、(オ)?(キ)における記載及び関連する図面からすると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

計算機システムの電源投入時に、電源投入時に使用される構成情報を用いて、通信回線を介して複数接続された通信ネットワーク構成を初期設定する計算機システムにおいて、前記構成情報を更新する際、前記構成情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時に該時刻情報を参照することで、構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新構成情報への同期を図る手段を備えた計算機システム。

3.対比
ここで、本願発明と引用発明1とを比較する。
引用発明1の「システム記憶装置」、「SVP」及び「スケジューラ」は、それぞれ、本願発明の「共有メモリ」、「サービスプロセッサ」及び「スケジューラ処理機構」に相当する。
また、引用発明1の「結合関係」は、本願発明の「論理的な接続関係」及び「接続関係」に相当する。
そして、引用発明1の「クラスタとシステム記憶装置(共有メモリ)におけるデータ転送パスの結合関係の構成制御」と、本願発明の「レジスタの制御」とは、ともに構成情報の制御である点で一致する。
また、引用発明1が「電源投入時に、事前に必要に応じて適宜設定可能な初期構成情報に基づいて、クラスタとシステム記憶装置におけるデータ転送パスの結合関係を初期設定」するものであり、本願発明が「レジスタに設定する構成情報の内、電源投入時に使用される初期情報を更新する」とあることから、両者はともに、電源投入時に初期情報を使用して電源投入時の構成情報を設定するとともに前記初期情報が更新可能である点で一致する。
また、引用発明1の「個々の要求を待ち行列に入れて管理し、待ち行列の順位に従って、実行権を要求したSVPに対して、順番に実行権を与えるように動作させるスケジューラ処理手段」と、本願発明の「個々の処理を優先順位別に幾つか分類し、優先順位の高いものから動作させるスケジューラ処理手段」とは、ともに個々の処理を所定の順位に従い動作させる点で一致する。

以上から、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
複数の独立して動作するクラスタと、それらに共有される複数の共有メモリを備え、前記クラスタと共有メモリ間にデータ転送を行うためのデータ転送パスが装備されると共に、
前記各クラスタ及び各共有メモリには、それぞれ前記クラスタ及び共有メモリの初期化処理や構成情報の制御を行うためのサービスプロセッサを装備し、前記各サービスプロセッサ間が専用のサービスプロセッサ間通信パスを介して通信可能に接続され、
前記サービスプロセッサが、前記クラスタと共有メモリにおけるデータ転送パスの論理的な接続関係を示す構成情報を決定し、その構成情報を設定することで、任意のデータ転送パスの接続関係を可能とした計算機システムにおいて、
電源投入時に初期情報を使用して電源投入時の構成情報を設定し、前記初期情報は更新可能な情報であって、
構成情報の変更と読み出しが競合した場合に、それらを同時に実行させないようにするスケジューラ機構の処理において、個々の処理を所定の順位に従い動作させるスケジューラ処理手段を備えていることを特徴とした計算機システム。

(相違点1)
本願発明の各クラスタ及び各共有メモリは、それぞれレジスタを備え、そして各クラスタ及び各共有メモリに装備されたサービスプロセッサが該レジスタを制御し、構成情報を該レジスタに設定し、電源投入時に初期情報を使用してレジスタに構成情報を設定するのに対して、引用発明1の各クラスタ及び各システム記憶装置が、それぞれレジスタを備えているかどうか、また各クラスタ及び各システム記憶装置に装備されたSVPが該レジスタを制御し、構成情報を該レジスタに設定するかどうか、また電源投入時に初期構成情報を使用してレジスタに構成情報を設定するかどうか、不明な点。

(相違点2)
本願発明は「電源投入時に使用される初期情報を更新する際、一部装置の電源が切断状態にあっても、前記初期情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時において構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新となる初期情報への同期を図る初期情報同期手段」を有するのに対して、引用発明1は電源投入時に使用される初期構成情報を更新する際、一部装置の電源が切断状態にあっても、前記初期構成情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時において構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新となる初期構成情報への同期を図る初期構成情報同期手段を有していない点。

(相違点3)
本願発明の「スケジューラ処理手段」は、個々の処理を優先順位別に幾つか分類し、優先順位の高いものから動作させるのに対して、引用発明1の「スケジューラ処理手段」は、個々の要求を待ち行列に入れて管理し、待ち行列の順位に従って、実行権を要求したSVPに対して、順番に実行権を与えるように動作させる点。

4.判断
相違点1について検討する。
本願の出願の日前の平成3年11月21日に頒布された刊行物である特開平3-262070号公報に、
「本発明は複数のプロセッサエレメントとこれらのプロセッサエレメントが共有するシステム記憶装置とから構成されるマルチプロセッサシステム(SCMP:System Coupled Multi Processor.以下、SCMPシステムと称する)におけるシステムの構成制御方式に関する。」(2頁左上欄12行目?17行目)及び
「このSCMPシステムでは、各システム記憶装置3A、3Bは第7図に示されるような構成制御レジスタCFR(A)、CFR(B)をそれぞれ持っており、また各プロセッサエレメント2a?2dは第8図に示されるような構成制御レジスタCFR(a)?CFR(d)をそれぞれ持っている。これらの構成制御レジスタは装置間の接続状態を示すためのものであり、接続状態で“1”のビットが、未接続状態で“0”のビットがセットされるようになっている。」(2頁右上欄下から1行目?左下欄9行目)(備考:(a)及び(d)は、それぞれ丸付きaと丸付きdの置き換え。)と記載されているように
SCMPシステム(すなわち、複数のプロセッサエレメントとこれらのプロセッサエレメントが共有するシステム記憶装置とから構成されるマルチプロセッサシステム)において、各プロセッサ及び各システム記憶装置が構成制御レジスタを備えることは、当業者にとって周知の技術である。
そして、本願の出願の日前の平成2年8月24日に頒布された刊行物である特開平2-212931号公報に、
「情報処理装置とは別体のサービスプロセッサ(以下、単にSVPと略称する)を用いて、システムの立ち上げ、システム作動状態の監視、およびオペレーションの窓口として機能させている。すなわち、システム毎に異なる構成制御情報等は、立ち上げ時において、上記SVPを通じて情報処理装置内の構成制御レジスタ等に登録される方式となっている。」(1頁右下欄10行目?17行目)及び
「SVP10には構成制御情報格納用ファイル12と、構成制御情報初期設定部11、論理構成制御情報解読編集部14、構成制御情報設定部22および内部テーブルとして論理構成制御情報テーブル23と、物理構成制御情報テーブル21とを有している。
・・・(中略)・・・
次に情報処理装置1の初期設定時には、構成制御情報初期設定部11によって、上記ファイル12に格納されている物理構成制御情報テーブル21が読み出され、このテーブル13内の設定手順並びに設定値によって情報処理装置I内の構成制御レジスタ2に対して所定の設定を行う。」(2頁左上欄7行目?右上欄10行目。)と記載されているように、
情報処理装置において、サービスプロセッサ(SVP)が情報処理装置内の構成制御レジスタを制御、設定するとともに、前記SVP(サービスプロセッサ)が初期設定時(すなわち、電源投入時)に初期情報を使用して、構成制御レジスタに構成情報を初期設定することは、当業者にとって周知の技術である。
してみると、引用発明1の計算機システムにおいて、本願発明のように、各クラスタ及び各システム記憶装置が、それぞれレジスタを備え、各クラスタ及び各システム記憶装置に装備されたSVPが該レジスタを制御し、構成情報を該レジスタに設定し、電源投入時に初期構成情報を使用してレジスタに構成情報を設定する構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
よって、相違点1は格別のものではない。

次に、相違点2について検討する。
引用文献2に記載されているように
「計算機システムの電源投入時に、電源投入時に使用される構成情報を用いて、通信回線を介して複数接続された通信ネットワーク構成を初期設定する計算機システムにおいて、前記構成情報を更新する際、前記構成情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時に該時刻情報を参照することで、構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新構成情報への同期を図る手段を備えた計算機システム」は、当業者にとって公知である。
そして、引用発明1の電源投入時に使用される「初期構成情報」が事前に必要に応じて適宜設定可能すなわち、更新可能であることから、引用発明1と引用発明2とは、ともに初期情報に基づいて電源投入時に通信ネットワーク構成を初期設定する計算機システムであって、前記初期情報を更新可能な点において両者は技術的に共通の分野に属するものである。
してみると、引用発明1の「初期構成情報」の更新に引用発明2の同期を図る手段を適用することで、本願発明のように、電源投入時に使用される初期構成情報を更新する際、前記初期構成情報に時刻情報を付加し、次回の電源投入時において構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新となる初期構成情報への同期を図る初期構成情報同期手段を備える構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
なお、こうすることで、電源投入時に使用される初期構成情報を更新する際、一部装置の電源が切断状態にあっても、次回の電源投入時において構成情報における論理的な矛盾を発生させないように、常に最新となる初期構成情報への同期が図られることは、明らかである。
よって、相違点2は格別のものではない。

最後に、相違点3について検討する。
本願の出願の日前の平成6年9月9日に頒布された刊行物である特開平6-250910号公報に(注意:下線は便宜上、当審にて付与したもの。)、
「【0007】・・・(中略)・・・ トランザクション処理システムにおいても、端末制御プロセスとデータベースなどへの処理を遂行する業務処理プロセスとの間の通信をメッセージキューを用いて行い、一つの業務処理プロセスに対して複数のキューを用意することによって、業務処理の内容や優先度を各キューに対応させる同種の処理が行われている。」と記載されているように、
また、本願の出願の日前の平成8年7月2日に頒布された刊行物である特開平8-171526号公報に(注意:下線は便宜上、当審にて付与したもの。)、
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の入出力インタフェース装置はホストコンピュータからの入出力要求にもとづいて情報記憶装置の情報の入出力を行う入出力インタフェース装置において、前記ホストコンピュータから一定時間内に完了する必要のある入出力要求を受け取るバスインタフェース制御部と、前記バスインタフェース制御部から前記入出力要求を受け取り、保持する優先度付きキュー管理部と、・・・(中略)・・・ 前記優先度付きキュー管理部内の前記入出力要求の優先度に応じて、前記優先度付きキュー管理部から情報記憶装置の制御を行う入出力制御部へ優先度の高い順に入出力要求を転送するようにするスケジュール機構とを有することを特徴とする。」と記載されているように、
また、本願の出願の日前の平成7年10月27日に頒布された刊行物である特開平7-282013号公報に、
「【0003】・・・(中略)・・・ 分散処理システムの各処理ノード間でメッセージ通信を行う際に、該メッセージに優先度を付随させ、優先度の高いメッセージから順に処理を行うものである」と記載されているように、
処理要求をスケジューリングするスケジューラ処理において、個々の処理要求を優先順位別に幾つか分類し、優先順位の高いものから処理するスケジューラ処理手段は、当業者にとって周知の技術である。
してみると、引用発明1の「スケジューラ処理手段」に、前記周知技術を適用することで、本願発明のように、個々の処理を優先順位別に幾つか分類し、優先順位の高いものから動作させる構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
よって、相違点3は格別のものではない。

上記で検討したごとく、相違点1?相違点3はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。

5.結び
以上のとおり、本願発明は、引用文献1、引用文献2、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2008-03-25 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-15 
出願番号 特願平9-244968
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 桑江 晃
中里 裕正
発明の名称 計算機システム  
代理人 今村 辰夫  
代理人 穂坂 和雄  
代理人 渡部 章彦  

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