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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1179893
審判番号 不服2005-25189  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-28 
確定日 2008-06-20 
事件の表示 平成10年特許願第142976号「インクジェット記録ヘッドおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月 7日出願公開、特開平11-334067〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年5月25日に特許出願されたものであって、拒絶理由通知に応答して平成16年11月26日付けで手続補正がされたが、平成17年11月18日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成17年12月28日付けで審判請求がされるとともに、平成18年1月16日付けで明細書についての手続補正がされたものである。

第2 平成18年1月16日付け明細書についての手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年1月16日付け明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の概略
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
補正前(平成16年11月26日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】 インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドにおいて、ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂の、インクに接する表面にアクリル酸またはメタクリル酸モノマーによって、グラフト処理が施されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】 グラフト処理される前記インクジェット記録ヘッド表面が2種類以上の樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】 インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂の、インクに接する部分の表面にアクリル酸またはメタクリル酸モノマーを用いて、グラフト処理を施すことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。」
とあったものを、
「【請求項1】 インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドにおいて、ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂の、インクが満たされる表面にアクリル酸またはメタクリル酸モノマーによって、グラフト処理が施されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】 グラフト処理される前記インクジェット記録ヘッド表面が2種類以上の樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】 インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂の、インクが満たされる部分の表面にアクリル酸またはメタクリル酸モノマーを用いて、グラフト処理を施すことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。」
と補正しようとするものである。

つまり、本件補正は、特許請求の範囲についての以下の補正事項を含む。
〈補正1〉補正前の請求項1及び3における「インクに接する表面」を「インクが満たされる表面」とする補正。

2.本件補正の適否
〈補正1〉について
補正前の請求項1及び3に記載の「接する」と補正後の請求項1及び3に記載の「満たされる」とは概念が異なり、補正後の「満たされる」は、補正前の「接する」を下位概念化したものとはいえない。
また、技術的内容から検討してみると、インクジェットヘッド内におけるインクとの関係をいうものであるから、補正前の請求項1及び3に記載の「接する」と補正後の請求項1及び3に記載の「満たされる」とは同義であるといわざるを得ない。
すると、補正前の請求項1及び3に記載された発明の特定事項を実質的に補正したことにはならないので、発明の特定事項を限定するものとはいえない。
よって、補正1は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当しないことが明らかであり、また同条第4項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれにも該当しない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年1月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年11月26日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドにおいて、ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂の、インクに接する表面にアクリル酸またはメタクリル酸モノマーによって、グラフト処理が施されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-305461号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の〈ア〉?〈オ〉の記載がある。
〈ア〉「インクジェット記録装置に用いる樹脂製インクジェット記録ヘッドにおいて、インクと接する樹脂表面であるインク流路にグラフト処理が施されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」(段落【請求項1】)
〈イ〉【0002】
【従来の技術】インクジェット記録ヘッドに樹脂を用いることは、加工組立が容易で製造の低コスト化が出来るという点からガラス、金属等に比べ有利である。しかし、樹脂製インクジェット記録ヘッドにおいて水性インクを用いる場合、樹脂表面は撥水性が高く、水性インクの濡れが悪いため、インク充填の際インク流路内に気泡を取り残してしまったり、流路内に発生した気泡に対して排出操作を行なっても排出することが困難であり、ドット抜けや印字乱れ等のトラブルによって記録不能となることがあった。
【0003】そこでインク流路内の樹脂表面を、水性インクの濡れを良くするために親水化処理することが特開昭60-24957に示され、酸処理、プラズマ処理等により樹脂表面に極性基を生成させて親水化するという方法が提供されている。また、染料水溶液をインク流路面と接触させた状態で加温し、予め流路面に染料を吸着または浸透させることにより濡れを良くする方法も提出されている(特公平2-54784)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述の従来技術による樹脂表面の親水化処理はいずれも一時的なものであり持続性に乏しいため、インクジェット記録ヘッドにインクが充填されていない状態で長時間放置するとインク流路内の親水化処理の効果が失われるという課題があった。
【0005】そこで本発明は前記課題を解決するためのものであり、樹脂製インクジェット記録ヘッドのインク流路内の親水性を恒久的に維持することにより、インク流路内におけるさまざまな気泡によるトラブルを未然に防ぐことのできるインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、インクジェット記録装置に用いる樹脂製インクジェット記録ヘッドにおいて、インクと接する樹脂表面であるインク流路に親水性高分子を表面グラフトすることにより達成される。また、グラフト高分子を架橋構造とすることによりグラフト表面の機械的強度を向上させることができる。
【0007】この表面グラフト処理は、本インクジェット記録ヘッドの主たる構成要素である第一基板及び第二基板の張り合わせ前、もしくは後のいずれかの工程で達成される。(段落【0002】?【0007】)
〈ウ〉「【0008】【実施例】(実施例1)図1はインクジェット記録ヘッドの概略図である。1は圧力室であり、PZT素子または発熱体等によってインク吐出のための圧力を得る部分である。2はインク流路、3はインク吐出ノズルである。図2は図1のA-A’部分での断面の拡大図である。
4は第一基板でありインク流路用のパターン溝が形成されている。5は第二基板であり、両者の張り合わせによってインク流路は形成される。
【0009】インク流路を含む基板表面のグラフト処理は以下のように行なった。
【0010】10wt%のアクリルアミド水溶液を容器に満たし、これに放電処理を施したアモルファスポリオレフィン樹脂製の第一基板4と第二基板5を浸漬した。
容器内を十分真空脱気しアクリルアミド水溶液中の溶存酸素を除いた後、これを真空封緘し70℃の恒温下で60分間グラフト重合反応を進行させた。基板を十分洗浄後水接触角を液滴法にて測定したところ水接触角θは18度であり基板表面にポリアクリルアミドがグラフトされ親水性が付与されたことが確認された。
【0011】上述の如く表面グラフト処理を施した第一基板4と第二基板5を溶剤を介して80℃の条件下で接着を行ない記録ヘッドを組み立てた。図3はこの記録ヘッドの断面の流路付近の様子を示したものである。31はポリアクリルアミドによるグラフト処理面であり、32は接着面である。
【0012】製造したインクジェット記録ヘッドを記録装置に装着して印字試験を行なったところ、ドット抜けや印字乱れ等のトラブルは発生せず、良好な親水化処理がなされたことを確認した。次に、インクジェット記録ヘッドからインクを抜き取り70℃で5日間放置した後、気泡排出試験をおこなった。吸引時間10秒ごとに印字を行ない、流路内に残留している気泡が完全に排出されてドット抜けや印字乱れ等のトラブルがなくなるまでの時間を測定したところ、すべて30秒以下で完全になくなることを確認した。親水効果が全く劣化せず、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に発生した気泡を簡単な操作で容易に排出することが可能であった。」(段落【0008】?【0012】)
〈エ〉「【0013】(実施例2)ポリカーボネート樹脂製の第一基板4と第二基板5を洗浄乾燥後、接着面32(図3)をテーピングやレジスト等でマスクし、放電処理を施した。マスクを除去した後、実施例1と同様の工程を経て、ポリアクリルアミドをグラフトした。ここでグラフト処理されたのは、放電処理でマスクのされていなかった、接着面を除く部分、すなわちインク流路面のみである。
【0014】上述の処理を施した第一基板と第二基板を洗浄乾燥後、溶媒セメントを介して、80℃の条件下で接着を行ない記録ヘッドを組み立てた。製造したインクジェット記録ヘッドを記録装置に装着して印字試験を行なったところ、ドット抜けや印字乱れ等のトラブルは発生せず、良好な親水化処理がなされたことを確認した。
次に、インクジェット記録ヘッドからインクを抜き取り70℃で5日間放置した後、気泡排出試験をおこなった。吸引時間10秒ごとに印字を行ない、流路内に残留している気泡が完全に排出されてドット抜けや印字乱れ等のトラブルがなくなるまでの時間を測定したところ、すべて30秒以下で完全になくなることを確認した。親水効果が全く劣化せず、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に発生した気泡を簡単な操作で容易に排出することが可能であった。) (段落【0013】?【0015】)
〈オ〉「【0016】(実施例4)ポリサルホン樹脂製の第一基板4と第二基板5を洗浄乾燥後、同じポリサルホン樹脂を溶媒に溶かした溶媒セメントを介して、80℃の条件下で接着を行ない記録ヘッドを組み立てた。
【0017】組み上がった記録ヘッドをオゾンガスで満たされた容器内に導入し、1分間静置した。記録ヘッドを取り出し、これを10wt%アクリルアミド水溶液に浸漬した。ここで、アクリルアミド水溶液をインク流路内に十分浸透させるため、超音波を印加することによりインク流路内の気泡を完全に除去した。重合開始剤として硫酸第一鉄アンモニウム(モール塩)を少量添加後、溶液中の溶存酸素を真空中にて除き、35℃の恒温下で60分間グラフト重合反応を進行させた。
【0018】上述の工程で製造したインクジェット記録ヘッドを記録装置に装着して印字試験を行なったところ、ドット抜けや印字乱れ等のトラブルは発生せず、良好な親水化処理がなされたことを確認した。次に、インクジェット記録ヘッドからインクを抜き取り70℃で5日間放置した後、気泡排出試験をおこなった。吸引時間10秒ごとに印字を行ない、流路内に残留している気泡が完全に排出されてドット抜けや印字乱れ等のトラブルがなくなるまでの時間を測定したところ、すべて30秒以下で完全になくなることを確認した。親水効果が全く劣化せず、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に発生した気泡を簡単な操作で容易に排出することが可能であった。
【0019】本実施例で特筆すべきは、従来技術であるプラズマ処理では困難であった、細い管の内壁処理を可能にしている点である。(段落【0016】?【0019】)
上記〈ア〉?〈オ〉の記載を含む引用例には、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「インクジェット記録装置に用いる樹脂製インクジェット記録ヘッドにおいて、樹脂の、インクに接する表面を親水化処理するために、当該表面にアクリルアミドモノマーからなる親水性高分子を表面グラフトすることにより、グラフト処理が施されているインクジェット記録ヘッド。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比.判断
引用発明の「インクジェット記録装置に用いる樹脂製インクジェット記録ヘッド」は、本願発明の「インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッド」に相当する。
引用発明の「樹脂」と本願発明の「ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂」とは、いずれもインクジェット記録ヘッドを構成する「樹脂」である点で共通する。
引用発明の「アクリルアミドモノマー」と本願発明の「アクリル酸またはメタクリル酸モノマー」とは、いずれもアクリル系モノマーである点で共通する。
してみれば、本願発明と引用発明とは「インクジェット記録装置に用いるインクジェット記録ヘッドにおいて、インクジェット記録ヘッドを構成する樹脂の、インクに接する表面にアクリル系モノマーによって、グラフト処理が施されているインクジェット記録ヘッド。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
グラフト処理を施す対象であるインクジェット記録ヘッドを構成する材料に関し、本願発明では樹脂が「ポリイミドおよびポリパラキシリレンから選ばれる少なくとも1種からなる樹脂」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点2>
グラフト処理を行うに際して用いられるアクリル系モノマーに関し、本願発明では「アクリル酸またはメタクリル酸モノマー」と特定されているのに対し、引用発明では「アクリルアミドモノマー」であって、前記特定とは異なる点。

相違点1について検討する。
周知技術(特開昭60-24957号公報請求項1及び特開平4-357040号公報【0011】)を参酌すれば、インクジェット記録ヘッドを構成する樹脂として、ポリイミド樹脂は、一般的に用いられるものであって格別なものでない。
そして、インクジェット記録ヘッドにおいて、水性インクを用いる際にその濡れ性を高めるべく親水化処理としてグラフト処理を行うことは、引用発明を認定した引用例の前記段落記載にあるように技術常識に相当する。
すると、当該ポリイミド樹脂を選択した場合にも親水化処理を行うことは当業者なら当然に想起し得ることである。
したがって、引用発明において、グラフト処理を施す対象となるインクジェット記録ヘッドを構成する樹脂として、かかる周知のポリイミド樹脂を採用することは、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。

相違点2について検討する。
インクジェット記録装置に用いる樹脂製インクジェット記録ヘッドのインクに接する表面を親水化する材料として、カルボキシル基COOHを含む化合物を使用することは、周知技術(例えば、特開平09-226122号公報【0056】)である。
他方、水系液体と接する樹脂表面にグラフト処理を施し、当該樹脂表面を親水化処理するに当たり、当該グラフト処理に使用するモノマーとしてアクリル酸モノマー又はメタクリル酸モノマーが、アクリルアミドモノマーと同様に周知(例えば、特開平08-71143号公報段落【0008】、【0026】、【0027】、【0040】)である。
したがって、引用発明における親水化処理に関して、これら周知の技術事項を採用し、アクリルアミドモノマーに代えて、カルボキシル基COOHを含む化合物であるアクリル酸またはメタクリル酸モノマーによって、グラフト処理を施すこと、すなわち相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。

このように、相違点1及び相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、それぞれ引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、これらの発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-17 
結審通知日 2008-04-22 
審決日 2008-05-07 
出願番号 特願平10-142976
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁大仲 雅人  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 インクジェット記録ヘッドおよびその製造方法  

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