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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1179896 |
審判番号 | 不服2006-8105 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-27 |
確定日 | 2008-06-20 |
事件の表示 | 平成11年特許願第 24826号「転がり軸受用樹脂製保持器」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 8日出願公開、特開2000-220643〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本願は、平成11年2月2日の出願であって、平成18年3月16日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年5月26日付けで明細書について手続補正がなされたところ、同手続補正は当審において平成19年11月28日付けで決定をもって却下され、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年2月4日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年10月18日付け、平成17年8月5日付け及び平成20年2月4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂成分が、ポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイであり、基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器であることを特徴とするオルタネータ用転がり軸受用樹脂製保持器。」 3.引用刊行物とその記載事項 当審において平成19年11月28日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭64-79419号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「軸受用プラスチック保持器」に関して、下記の事項が図面(特に、第2図)とともに記載されている。 〔ア〕「直鎖状ポリフェニレンサルファイド樹脂から製造してなるプラスチック保持器。」(請求項1) 〔イ〕「前記保持器は、冠型玉軸受用保持器であることを特徴とする請求項1又は3記載のプラスチック保持器。」(請求項10) 〔ウ〕「近年、150℃を越えるような高温環境条件下で使用される軸受用のプラスチック保持器材料として、・・・(中略)・・・靱性が大きいという特徴がある。」(第2ページ右上欄第19行?第3ページ左上欄第3行) 〔エ〕「(課題を解決しようとする問題点) 従来成形材料として使用されているPPS樹脂は、・・・(中略)・・・高温を含む苛酷な環境条件下で使用可能な耐熱性プラスチック保持器を提供することを目的としている。」(第3ページ左上欄第4行?同ページ右上欄第6行) 〔オ〕「(発明の効果) 本発明は、以上説明したようにいずれの請求項の構成においても保持器製造に使用する組成物のベースとなるマトリックス樹脂として、靱性及び耐熱・耐油(薬品)性に優れた直鎖状PPS樹脂を使用しているので、苛酷な環境条件(高温雰囲気、油や薬品と接触する条件、高速回転条件、高負荷条件等)で長期間の使用に耐え得る保持器を提供できる。また、本願発明の保持器は、保持器製造時や軸受組立て時に必要なスナップフィット性を有すると共に、他の機械的性能も十分に具備している。」(第11ページ右上欄第8行?第19行) また、第2図から、「基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器」が記載されていることが見てとれる。 以上の記載事項及び図面(特に、第2図)の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。 《刊行物1の発明》 「組成物のベースとなるマトリックス樹脂として、ポリフェニレンサルファイド樹脂を使用したものであり、基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器である、高温環境条件下で使用される玉軸受用冠型プラスチック保持器。」 同じく当審において平成19年11月28日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-327772号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「プラスチックカヌラ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 〔カ〕「ポリフェニレンサルファイド(PPS)を主材料とする合成樹脂により構成したことを特徴とするプラスチックカヌラ。」(請求項1) 〔キ〕「【発明が解決しようとする課題】本発明は、高強度で曲げ弾性率が高く、成形性に優れ、表面性状が良好なプラスチックカヌラを提供することおよびこのようなプラスチックカヌラを容易に製造することができるプラスチックカヌラの製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0015】) 〔ク〕「なお、本発明において、PPSを主材料とする合成樹脂とは、PPSとその他のポリマーとのポリマーアロイ、PPSとその他のポリマーとの共重合体、さらには、PPS、前記ポリマーアロイまたは前記共重合体に所定の充填剤(添加物)を添加したもの(複合樹脂)を含む概念である。」(段落【0051】) 〔ケ〕「PPSは、他種ポリマーとの相溶性に優れるため、種々のポリマーアロイが可能である。アロイ化されるポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ABS樹脂、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトンスルフィド(PKS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリーレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンスルフィドケトンのようなPPS以外の含硫黄芳香族ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。」(段落【0052】) 〔コ〕「また、本発明におけるカヌラ材料は、耐薬品性、耐熱性に優れ、溶出も生じないので、例えばカヌラを介しての薬液の投与や、輸血、採血に際し、薬液や血液中に溶出物が混入することはなく、経時的変質、劣化や、滅菌処理に際しての変質、劣化も生じない。」(段落【0142】) 4.対比 本願発明と刊行物1の発明とを対比すると、その機能、構成からみて、刊行物1の発明の「組成物のベースとなるマトリックス樹脂」は本願発明の「樹脂成分」に、以下同様に、「基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器」は「基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器」に、「玉軸受用」は「転がり軸受用」に、「冠型プラスチック保持器」は「樹脂製保持器」に、それぞれ相当する。 したがって、本願発明の用語に倣って記載すると、両者は、 「樹脂成分として、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む、基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器である、転がり軸受用樹脂製保持器。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明は、「樹脂成分が、ポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイである」のに対し、刊行物1の発明は、そうでない点。 [相違点2] 本願発明は、「オルタネータ用」であるのに対し、刊行物1の発明は、「高温環境条件下で使用される」ものではあるものの「オルタネータ用」との特定をしていない点。 5.当審の判断 [相違点1]について 一般に、軸受け保持器、軸受、歯車等の材料として、「ポリマーアロイ」を樹脂成分とすることは本願出願前に周知の技術(例えば、特開平4-89857号公報(特に、第6ページ左下欄第3行、第10ページ右下欄第4?5行)、特開平6-157924号公報(特に、段落【0002】、【0011】)、特開平8-216274号公報(特に、段落【0015】?【0016】)等を参照。)にすぎず、当業者は、その目的、用途に応じて適宜特性の優れたポリマーアロイを採用し得るところ、刊行物2には、プラスチックカヌラ用ではあるが、高強度で曲げ弾性が高く、成形性、耐薬品性や耐熱性に優れた樹脂材料として、「樹脂成分が、ポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイである」ものが記載ないし示唆されている。 ここで刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、製品としては直接的な関連性は低いものの、樹脂製品という点で同一の技術分野に属するものであり、かつ、その樹脂材料の要求される特性にも共通するものがあるものと認められるものである。 そして、刊行物2に記載の上記ポリマーアロイを刊行物1の発明に適用することを阻害する特段の事情も、何ら認められないものである。 してみると、刊行物1及び2の発明に接した当業者であれば、刊行物1の発明の樹脂成分として刊行物2の発明の上記ポリマーアロイを採用して上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、特段の創意を要することなく容易になし得たことと認められる。 [相違点2]について 「オルタネータ用」の軸受が「高温環境条件下で使用される」ものであることは、当業者に自明の事項(例えば、特開平8-145061号公報(特に、段落【0007】)、特開平7-139550号公報(特に、段落【0001】、【0003】、【0004】)等を参照。)であって、「高温環境条件下で使用される」ものを、特に「オルタネータ用」として限定し、当該相違点2に係る本願発明の構成に想到することは、当業者が格別の困難性なく容易になし得たことである。 そして、本願発明の作用・効果も、刊行物1及び2に記載の事項から当業者が予測し得るものであって、格別のものということはできない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成20年2月4日付け意見書において、刊行物1に関して、「しかしながら、この刊行物1には、冠型保持器の材料として、樹脂成分がポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイを用いることに関してはどこにも記載がなく、また、オルタネータ用転がり軸受用樹脂製保持器としての冠型保持器の樹脂成分を、どのような樹脂成分とすべきか等についても全く記載並びに示唆がありません。」と、また、刊行物2に関して、「しかしながら、この刊行物2には、カヌラを形成するポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイを用いて、冠型保持器を形成する点についてはどこにも記載がなく、また、オルタネータ用転がり軸受用樹脂製保持器の樹脂成分をどのような樹脂成分とすべきかについても全く記載がありません。更に、この刊行物2に記載の材料が、高温下にてもクリープ変形が少ないことすら一切記載並びに示唆がございません。」と主張するものである。 確かに、上記主張の一つ一つについては、是認されるものではある。 しかしながら、刊行物2には、プラスチックカヌラ用ではあるが、高強度で曲げ弾性が高く、成形性、耐薬品性や耐熱性に優れた樹脂材料として、「樹脂成分が、ポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイである」ものが記載ないし示唆されていること、そして、刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、製品自体としては直接的な関連性は低いものの、樹脂製品という点で同一の技術分野に属するものであり、かつ、その樹脂材料の要求される特性(強度、弾性率、成形性等)にも共通するものがあるものと認められること、刊行物2に記載の上記ポリマーアロイを刊行物1の発明に適用することを阻害する特段の事情も、何ら認められないものであること、この結果、刊行物1及び2の発明に接した当業者であれば、刊行物1の発明の樹脂成分として刊行物2の発明の上記ポリマーアロイを採用して上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、特段の創意を要することなく容易になし得たことと認められることは、上述したとおりである。 また、刊行物1の発明が高温下で使用される転がり軸受用樹脂製保持器であること、そのような転がり軸受用樹脂製保持器として、オルタネータ用のものが当業者に自明の事項であること、このため、「高温環境条件下で使用される」ものを、特に「オルタネータ用」として限定し、当該相違点2に係る本願発明の構成に想到することは、当業者が格別の困難性なく容易になし得たことであることは、上述したとおりである。 「高温下にてもクリープ変形が少ないこと」に関しては、明細書及び図面の何れの記載を根拠とする主張であるのか必ずしも明確ではないが、請求項1に記載された発明を特定する事項からみて、基底部から互いに対向する2本の爪部を突出させてポケット壁体を構成した構造からなる冠型保持器の樹脂成分が、ポリアミドイミド樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂とのポリマーアロイであることによる当然の効果であると認められ、刊行物1の発明及び刊行物2の発明に接した当業者にとって予測不能なものとも言えないものである。 したがって、上記審判請求人の主張は、上記「5.当審の判断」に記載の当審の判断を覆すに足りる根拠とはなり得ないものである。 7.むすび 以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-17 |
結審通知日 | 2008-04-23 |
審決日 | 2008-05-08 |
出願番号 | 特願平11-24826 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 稔、冨岡 和人 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
亀丸 広司 戸田 耕太郎 |
発明の名称 | 転がり軸受用樹脂製保持器 |
代理人 | 河▲崎▼ 眞樹 |