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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01K
管理番号 1179923
審判番号 不服2006-4137  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-07 
確定日 2008-06-17 
事件の表示 特願2001-348088「釣り用ウキ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月22日出願公開、特開2003-116433〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成13年10月10日の出願であって、平成17年12月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、拒絶査定不服審判の請求(請求人差出日平成18年2月7日)がされるとともに、手続補正(差出日平成18年2月7日)がなされ、
これに対し、平成19年12月17日付けで当審より拒絶理由を通知したところ、手続補正書及び意見書の提出(差出日平成20年2月13日)がなされたものであり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成20年2月13日差出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであると一応認める。(以下、「本願発明」という。)

(本願発明)
「魚釣りに際して、釣り糸が通され、浮きの動きを見て釣るための魚釣り用浮きであって、比重の異なる物質を組み合わせて、重心の位置を移動し、単体の状態でプラスの浮力を持ち、特定の面が上になって浮く様にし、上面と下面に異なる色を配置し、上面となる部分に釣り糸と接続するための接続部を形成し、接続された釣り糸を介して釣り針・重り等の荷重を付けた場合、浮きが反転する荷重より小さな荷重で接続部が上にある状態のままで浮きが沈む様な残留浮力にし、接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力より小さい場合は従来の反転タイプ浮きと同様に魚が掛かり強く引くと水面で反転し、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの残留残留浮力より大きい場合は接続部が上にある状態のまま浮きが沈んでいき沈む途中に魚が針に掛かり下に強く引くと水の抵抗により浮きが水中にある状態で上下が反転し、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する負荷より大きい場合は浮きが反転した状態で沈んで行き重りが底に着くと浮きの反転が元に戻り、魚が掛かると又浮きが反転することで魚のあたりを知ることができることを特徴とする魚釣り用浮き。」

2.刊行物に記載された発明
(2-1)これに対し、本願の出願前に頒布された刊行物であり、平成19年12月17日付けで当審より通知した拒絶の理由に引用した刊行物である、特開2001-224290号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「釣り用浮き」に関して、図1?図9とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 透光性を有する上部と、この上部よりも比重が高い下部とによって構成され、水面下に没する浮き本体と、
前記上部と前記下部との境界部に設けられ、前記上部を通じて視認可能な着色部と、
を具備し、
前記下部は、この下部を通じて前記着色部が視認できないように着色されていることを特徴とする釣り用浮き。
【請求項2】 前記下部には前記着色部と異なる色が付されていることを特徴とする請求項1に記載の釣り用浮き。
【請求項3】 前記着色部は前記下部の色よりも視認度が高いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の釣り用浮き。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】魚の当たりを取るために水面上に浮かべて使用される通常の浮きと異なり、例えば仕掛けを潮に乗せる等の目的のために仕掛けの下部に取り付けられて水中に沈めて使用される水中浮きは、従来から良く知られている。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、水中浮きを目立たない色(魚に警戒心を与えない色)で着色すると、釣人が水中浮きを水面上から確認することが難しく、視認性が悪くなる。そのため、一部の水中浮きには、目立つ色で着色されたものもあるが、水中浮きが水中で目立ちすぎると、メジナや黒鯛のような警戒心の強い魚を追い払ってしまう結果になるとともに、好奇心の強いエサ取りの魚や小魚を引き寄せてしまうこととなる。
【0005】なお、魚の当たりを取るために水面上に浮かべて使用される通常の浮きの中には、例えば特開平1-309631号公報に開示されているように、逆光下でも良く見えるように形成された浮きも存在するが、波の高い時や曇天の時には必ずしも視認性が高いとは言えなかった。」

(ウ)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。
【0011】図1?図3は本発明の第1の実施形態を示している。図1および図2に示されるように、本実施形態に係る釣り用浮き1は、水面下に没する球状の浮き本体3と、釣糸b(図3参照)が通される釣糸挿通具10とからなる。
【0012】浮き本体3は、透光性を有する上部2(図では半球状)と、この上部2に接合され且つ上部2よりも比重が高い下部4(図では半球状)とによって構成されている。この場合、下部4は、比重が1以上であり、例えば黒檀によって形成されている。また、上部2は、比重が1以上(ただし、下部4よりも比重が低い)であり、例えばアクリル樹脂等の透明な樹脂によって形成されている。また、浮き本体3における上部2と下部4との容積比(浮き本体3の全体に対して下部4または上部2が占める割合)は任意である。また、上部2には固定部材8を介して釣糸挿通具10が取り付け固定されている。
【0013】上部2と下部4との境界部には、透明な上部2を通じて視認可能な着色部6が設けられている。また、下部4は、この下部4を通じて着色部6が視認できないように着色(自然色も含む)されている。具体的には、着色部6は、下部4と異なる色であって、下部4の色よりも視認度が高い色をもって形成されている。さらに具体的には、下部4は魚に警戒心を与えない色(黒色や茶色等の目立たない色)によって形成されるとともに、着色部6は、下部4に面する上部2の接合面(境界面)あるいは上部2に面する下部4の接合面(境界面)に、下部4の色よりも視認性が高い黄色や赤色等の蛍光色(水面上から釣人が良好に視認できる目立つ色)を施すことによって形成されている。」

(エ)「【0014】釣り用浮き1の使用形態が図3に示されている。図示のように、釣り用浮き1は、仕掛けを潮に乗せる等の目的のために、釣糸挿通具10に釣糸bが通されて例えば仕掛けの下部に取り付けられることにより、水中に沈められる。この場合、釣り用浮き1は、比重の重い下部4から水中に沈下していく。
【0015】前述したように、本実施形態の釣り用浮き1は、着色部6が目立つ蛍光色で形成され且つ下部4が目立たない色で形成されて下部4を通じて着色部6が視認できないようになっている。そのため、釣り用浮き1が水中に没して漂っている状態であっても、釣人cは、水面aの上から透明な上部2を通じて着色部6を容易に視認(したがって、釣り用浮き1の位置を容易に確認)できるとともに、釣り用浮き1の下部4の下方にいる魚dは、目立たない色の下部4あるいは透明な上部2のみが視界中に入り、着色部6を視認することができないため、警戒心を起こすことがない。」

そして、上記引用文献1に記載された事項(ア)?(エ)及び図面に記載された事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明1)
「水面下に没する球状の浮き本体3と、釣糸bが通される釣糸挿通具10とからなる釣り用浮き1であって、
浮き本体3は、透光性を有する上部2と、この上部よりも比重が高い下部4とによって構成され、前記上部と前記下部との境界部に設けられ、前記上部を通じて視認可能な着色部6と、を具備して、釣り用浮き1が水中に没して漂っている状態であっても、釣人が水面aの上から透明な上部2を通じて着色部6を容易に視認できるようにし、
前記下部4は、比重が1以上であり、上部2は、比重が1以上であり、前記下部は、この下部を通じて前記着色部が視認できないように、前記着色部と異なる色が着色されており、上部2には釣糸挿通具10が取り付け固定され、
釣り用浮き1は、仕掛けを潮に乗せる等の目的のために、釣糸挿通具10に釣糸bが通され、比重の重い下部4から水中に沈下していく、水中に沈めて使用される釣り用水中浮き。」

(2-2)また、同じく本願の出願前に頒布された刊行物であり、平成19年12月17日付けで当審より通知した拒絶の理由に引用した刊行物である、特開平9-275866号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「釣り用浮き」に関して、図1?図7とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 魚釣りに際して釣り糸が通されて水面に浮かべられる魚釣り用浮きにおいて、この釣り用浮きの一方の側面近傍に釣り糸を挿通する挿通部が形成され、水面に浮いた状態でその釣り用浮きの重心よりその釣り用浮きによる浮力の中心が鉛直方向上方に位置し、その釣り糸の挿通部が水面上に位置し、釣り糸による力の作用部が上記浮力の中心より鉛直方向上方に位置し、その釣り糸を水中に引くと、上記釣り糸による力の作用部が上記浮力の中心よりも鉛直方向下方に位置するように回転することを特徴とする魚釣り用浮き。
【請求項2】 上記釣り用浮きは、釣り糸が水中に引かれない状態で水面上に表れる表面の色と、釣り糸が水中に引かれて上記釣り糸による力の作用部と浮力の中心とが逆転した状態で、水面上にあらわれる表面の色とが異なるものである請求項1記載の釣り用浮き。
【請求項3】 上記挿通部は、その釣り用浮きの浮力の中心位置に対してその釣り用浮きの重心とは反対側の側面近傍に形成され、この挿通部が上記釣り糸による力の作用部となる請求項1または2記載の釣り用浮き。
【請求項4】 上記挿通部とは反対側の側面から突出して、フレキシブルな取付部材を介して重りが設けられている請求項1,2または3記載の釣り用浮き。」

(イ)「【0013】
【発明の実施の形態】以下この発明の一実施の形態について図面を基にして説明する。図1はこの発明の釣り用浮きの第一実施形態を示すもので、この実施形態の釣り用浮き10は、略球形の発泡樹脂や木、中空部材等により形成され、釣り糸12が側面中心部の釣り糸挿通部である回転可能な挿通環14に通されて水面に浮かべられる魚釣り用の浮きである。この釣り用浮き10は、表面が例えば黄部15と赤部16に塗り分けられ、釣り糸挿通環14は黄部15の図1ににおいて頂上部に設けられている。さらに、釣り糸挿通環14とは反対側の側面の中央部には、重り18がフレキシブルな取付部材19を介して固定されている。
【0014】釣り糸12には先端側に重り20が固定され、さらにその先端部に釣り針22が取り付けられている。また、この実施形態では、釣り糸12に、所定長さで釣り用浮き10の釣り糸挿通環14に引き掛かる大きさのビーズ玉23とこのビーズ玉23のストッパーである浮き止め24が取り付けられている。
【0015】この釣り用浮き10は、図1(A)に示すように、水面に浮いた状態で釣り糸12に重り20の釣り糸12の以外の張力がかかっていない状態では、その釣り用浮き10の重心Gよりその浮力の中心Bが鉛直方向上方に位置し安定に浮いている。そして、この釣り用浮き10に通された釣り糸12による力の作用部Fが、釣り糸挿通環14に係合したビーズ玉23の当接部となっており、この力の作用部Fは、浮力Bの中心より鉛直方向上方に位置している。」

(ウ)【0016】次に、この釣り糸12に魚26が食い付いて引くと、図1(B)に示すように釣り糸12に張力がかかり、力の作用部Fが水面下に引っ張られる。この時、釣り用浮き10の浮力によりこの釣り用浮き10は図1(A)の姿勢のまま水面下に沈み込むことはなく、浮力の中心Bが力の作用点Fよりも上に位置するようにこの釣り用浮き10が回転し、水面下にあった黄部15が水面上にあらわれる。この回転に必要な釣り糸12の張力は、重心Gの移動に必要な力だけであるので、きわめてわずかなものであり、魚26にはほとんど感じない程度のものである。
【0017】この実施形態の釣り用浮き10によれば、魚26が釣り糸12をわずかでも引くと、この釣り用浮き10がそのわずかな力で回転して釣り用浮き10の水面上に現れている色が変わり、確実且つ容易にあたりを視認することができるものである。また重り18はフレキシブルな取付部材19を介して浮き10に取り付けられているので、波による浮き10の揺れに対して制振作用が働き、揺れが小さいものである。」

そして、上記引用文献2に記載された事項(ア)?(ウ)及び図面に記載された事項を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明2)
「魚釣りに際して釣り糸が通されて水面に浮かべられる魚釣り用浮きにおいて、釣り用浮きは表面が塗り分けられ、釣り用浮きの頂上部に釣り糸を挿通する挿通部が形成され、上記挿通部が上記釣り糸による力の作用部となるようにし、挿通部とは反対側に重りを固定して、水面に浮いた状態でその釣り用浮きの重心よりその釣り用浮きによる浮力の中心が鉛直方向上方に位置し、その釣り糸の挿通部が水面上に位置し、釣り糸による力の作用部が上記浮力の中心より鉛直方向上方に位置し、その釣り糸を水中に引くと、上記釣り糸による力の作用部が上記浮力の中心よりも鉛直方向下方に位置するように回転するようにすることで、釣り糸が水中に引かれない状態で水面上に表れる表面の色と、釣り糸が水中に引かれて上記釣り糸による力の作用部と浮力の中心とが逆転した状態で、水面上にあらわれる表面の色とが異なるものとした、釣り用浮き。」

3.対比
ところで、本願発明の「魚釣り用浮きであって、・・・単体の状態でプラスの浮力を持ち、・・・接続された釣り糸を介して釣り針・重り等の荷重を付けた場合、浮きが反転する荷重より小さな荷重で接続部が上にある状態のままで浮きが沈む様な残留浮力にし、」との事項(以下、「事項A」という。)からすると、本願発明の「魚釣り用浮き」は、単体の状態でプラスの「浮力」であって、釣り針・重り等の荷重を付けた場合に、浮きが沈む様な「残留浮力」にするのであるから、当該「残留浮力」とは、魚釣り用浮き単体の浮力から、釣り針・重り等の荷重を差し引いた残りの浮力のことを指していると解することができる。
また、本願の明細書の【発明の詳細な説明】をみると、残留浮力に関し、段落【0013】には、「各部品の組み合わせにより、釣り糸12・釣り針13・重り15・釣り餌14・浮き止め16等の負荷で、挿通リング5が上にある状態のまま釣り用浮き1が沈む様な残留浮力にする。」と記載され、さらに、段落【0015】には、「又、残留浮力をマイナスとし、より積極的に釣り用浮き1を沈めるようにしてもよい。」と記載されており、【発明の詳細な説明】の上記記載からも、「残留浮力」とは、釣り用浮きの浮力から、釣り糸・釣り針・重り・釣り餌・浮き止め等の負荷を差し引いた、残りの浮力のことであるということができる。
そうすると、本願発明の上記事項Aから、「残留浮力」を、魚釣り用浮き単体の浮力から、釣り針・重り等の荷重を差し引いた残りの浮力のことと理解することは、明細書の発明の詳細な説明の記載とも齟齬を生じていないといえる。

一方、本願発明には、他に「接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力より小さい場合は・・・水面で反転し、」とも記載されており、当該記載からは、釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力より小さい場合は、浮きが水面に浮くものと解することができ、さらにいいかえれば、浮きの残留浮力から釣り針・重り等の負荷を差し引いた残りが正の値であれば浮きが水面に浮くものと解することができる。
本願発明の事項A及び明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「残留浮力」とは、魚釣り用浮き単体の浮力から、釣り針・重り等の荷重を差し引いた残りの浮力のことと解されるのだから、その理解を本願発明の上記「接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力より小さい場合は・・・水面で反転し、」との記載に当てはめると、「浮き単体の浮力から、釣り針・重り等の負荷を差し引いた残りの浮力」から再度、釣り針・重り等の負荷を差し引いた値が正の値であれば浮きが水面に浮くことになると解さざるをえない。しかし、浮きが水面に浮くか否かは、「浮き単体の浮力から、釣り針・重り等の負荷を差し引いた残りの浮力」によって決まるべきものであって、浮き単体の浮力から、2度にわたって釣り針・重り等の負荷を差し引いた残りの浮力によって決定付けられるものでないことは説明するまでもないことである。

してみれば、本願発明の「接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力より小さい場合は・・・水面で反転し、」との記載のうちの「残留浮力」は、本来であれば、釣り針・重り等の負荷を差し引いていない、「浮力」と記載すべきところを誤って「残留浮力」と記載した、明らかな誤記であるということができる。
また、同様の理由により、本願発明の「釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの残留残留浮力より大きい場合は・・・浮きが沈んでいき」との記載のうちの「残留残留浮力」は、本来であれば、釣り針・重り等の負荷を差し引いていない、「浮力」と記載すべきところを、誤って「残留残留浮力」と記載した、明らかな誤記であるということができる。

上記理解に基づいて、本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「釣り用水中浮き」、「釣り用浮き1が水中に没して漂っている状態であっても、釣人が水面aの上から透明な上部2を通じて着色部6を容易に視認できる」、「上部2と、この上部よりも比重が高い下部4とによって構成され」、「上部2には釣糸挿通具10が取り付け固定され」は、本願発明の「魚釣り用浮き」、「浮きの動きを見て釣る」、「比重の異なる物質を組み合わせて、重心の位置を移動し」、「上面となる部分に釣り糸と接続するための接続部を形成し」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「上部2」に「取り付け固定」される釣糸挿通具10は、その名称から、「釣り糸が通され」るものであることが自明である。
また、引用発明1の「透光性を有する上部」と、「前記上部と前記下部との境界部に設けられ、前記上部を通じて視認可能な着色部」と、「下部は、この下部を通じて前記着色部が視認できないように、前記着色部と異なる色が着色されており」、は、本願発明と、「上面と下面に異なる色を配置し」
と、「上面と下面が異なった色にみえる」点で共通するものといえる。
また、引用発明1の「釣り用浮き1」は、「比重の重い下部4から水中に沈下していく」のだから、本願発明と「特定の面が上」になる点で共通するといえる。
そうすると、本願発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「魚釣りに際して、釣り糸が通され、浮きの動きを見て釣るための魚釣り用浮きであって、比重の異なる物質を組み合わせて、重心の位置を移動し、特定の面が上になる様にし、上面と下面に異なる色にみえるようにし、上面となる部分に釣り糸と接続するための接続部を形成した、魚釣り用浮き。」

(相違点1)
本願発明の魚釣り用浮きは、単体の状態でプラスの浮力を持っているのに対し、引用発明1は、下部4及び上部2が、ともに比重が1以上であるから、淡水中ではプラスの浮力を持たず、通常の魚釣り用浮きの使用環境である海水中においてもプラスの浮力を有するか定かでない点。

(相違点2)
本願発明は、「上面と下面に異なる色を配置」しているのに対し、引用発明1の上面は下面と異なる色にみえるものの、上面でみえる色は、透光性を有する上面を通じて視認する境界部の着色部の色であって、上面に下面と異なる色が配置されているわけではない点。

(相違点3)
本願発明では、「接続された釣り糸を介して釣り針・重り等の荷重を付けた場合、浮きが反転する荷重より小さな荷重で接続部が上にある状態のままで浮きが沈む様な残留浮力」にし、「釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの浮力より大きい場合は接続部が上にある状態のまま浮きが沈んでいき沈む途中に魚が針に掛かり下に強く引くと水の抵抗により浮きが水中にある状態で上下が反転」し、
「接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの浮力より小さい場合は従来の反転タイプ浮きと同様に魚が掛かり強く引くと水面で反転」し、
「釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する負荷より大きい場合は浮きが反転した状態で沈んで行き重りが底に着くと浮きの反転が元に戻り、魚が掛かると又浮きが反転することで魚のあたりを知る」ことができるのに対し、引用発明1ではそのようになっているかどうか不明である点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
釣り糸を介して釣り針及び重りを付けた「浮き」を沈めながら釣る魚釣り手法は例を挙げるまでもなく従来より周知であって、そのような魚釣り手法に使用される釣り用浮きにおいて、浮きが沈められるものであってもその浮力をプラスの浮力とすることが、例えば実願平4-59968号(実開平6-13476号)のCD-ROMにみられるように従来より周知である(当該例示文献の段落【0004】には、従来の技術として「既存の水中浮子11は、海水及び当たり浮子のそれぞれの比重の中間的な比重で・・・」と記載されている。)ことを考慮すれば、引用発明1の浮きに対して単体の状態でプラスの浮力を持たせることは、当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。

(相違点2及び3について)
引用発明の浮きは水中に沈めて使用するものであるが、このような浮きを沈めた魚釣りにおいても、水中に沈んだ浮きを視認して魚の当たりを知ろうとすることが、例えば、実願平5-76832号(実開平7-39441号)のCD-ROM(当該例示文献の段落【0003】には、従来の後術として「水中浮子については、最初の頃は黒檀、あるいは黒色、こげ茶色のプラスチック等を用いていたが、近年、水中浮子でアタリを捕らえる釣り人のために、視認性を高めるために緑色や黄色など着色したものも出始めた。」と記載されている。)にみられるように従来より周知である。
一方、引用発明2の「釣り用浮き」、「釣り用浮きの頂上部に釣り糸を挿通する挿通部が形成され」は、それぞれ本願発明の「魚釣り用浮き」、「上面となる部分に釣り糸と接続するための接続部を形成し」に相当する。
また、引用発明2の「挿通部とは反対側に重りを固定して、水面に浮いた状態でその釣り用浮きの重心よりその釣り用浮きによる浮力の中心が鉛直方向上方に位置」することは、本願発明の「比重の異なる物質を組み合わせて、重心の位置を移動」することに相当する。
また、引用発明2の「表面が塗り分け」られ、「釣り糸が水中に引かれない状態で水面上に表れる表面の色と、釣り糸が水中に引かれて上記釣り糸による力の作用部と浮力の中心とが逆転した状態で、水面上にあらわれる表面の色とが異なるものとした」は、本願発明と「上面と下面に異なる色を配置し、魚が針に掛かり下に引くと上下が反転する」点で共通するといえる。
そうすると、引用発明2より、「魚釣りに際して、釣り糸が通される魚釣り用浮きであって、比重の異なる物質を組み合わせて、重心の位置を移動し、特定の面が上になって浮く様にし、上面と下面に異なる色を配置し、上面となる部分に釣り糸と接続するための接続部を形成し、魚が針に掛かり下に引くと上下が反転する魚釣り用浮き」が、本願出願前に公知であったということができる。

そして、引用発明1の浮きも、比重の異なる物質を組み合わせて重心の位置を移動したものであって、魚が針に掛かり下に引けば上下が反転することは自明のことであるから、引用発明1の、透光性を有する上面を通じて境界部の着色部の色を視認するようにすることに代えて、上面と下面に異なる色を配置し、以て魚の当たりを知ることは、当業者が容易に想到することである。
さらに、引用発明1において周知のように当たりを知ろうとして引用発明2の技術を適用するにあたって、引用発明1の「浮き」がそもそも水中に沈めて使用するものであるのだから、引用発明1に引用発明2の技術を適用した結果として、浮きが浮いてしまうようでは「浮きを沈めながら釣る魚釣り」ができないことはいうまでもなく、さらに、引用発明1に引用発明2の技術を適用するにあたり、魚が掛からないのに浮きが反転してしまうようでは魚の当たりを知ることができないこともまた当然なのだから、魚が掛かっていないのに浮きが反転してしまうことがないように浮きの浮力を調整することは、当業者であれば当然のことといえる。
上記事項を考慮すれば、引用発明1の浮きに、上記(相違点1について)にて説示したように「単体の状態でプラスの浮力」を持たせつつ、引用発明2を適用する際に、接続された釣り糸を介して釣り針・重り等の荷重を付けた場合、浮きが反転する荷重より小さな荷重で接続部が上にある状態のままで浮きが沈む様な残留浮力にし、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの浮力より大きい場合は接続部が上にある状態のまま浮きが沈んでいき沈む途中に魚が針に掛かり下に強く引くと水の抵抗により浮きが水中にある状態で上下が反転するように浮力を調整することは、当業者が適宜なしうる設計的事項といわざるをえない。

そして、魚釣り用の釣り針・重り等の仕掛けには、対象とする魚の大きさや釣りの態様に応じて様々な大きさ・重さのものが存在することが当業者にとっていうまでもないことであり、上記説示のように、引用発明1の浮きに「単体の状態でプラスの浮力」を持たせつつ、引用発明2を適用する際に、接続された釣り糸を介して釣り針・重り等の荷重を付けた場合、浮きが反転する荷重より小さな荷重で接続部が上にある状態のままで浮きが沈む様な浮力にし、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの浮力より大きい場合は接続部が上にある状態のまま浮きが沈んでいき沈む途中に魚が針に掛かり下に強く引くと水の抵抗により浮きが水中にある状態で上下が反転するように浮力を調整した浮きであっても、接続された釣り糸に付ける釣り針・重り等を小さく軽いものに変更して、釣り針・重り等の負荷が浮きの浮力より小さくなれば、結果として浮きは沈むことなく、従来の反転タイプ浮きと同様に水面に浮いてしまい、魚が掛かり強く引いた際に水面で反転することになるのは当業者にしてみれば当然のことであり、
また、接続された釣り糸に付ける釣り針・重り等を大きく重いものに変更して、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する負荷より大きくなれば、結果として浮きは反転した状態で沈んで行き、重りが底に着けば浮きの反転が元に戻り、魚が掛かると又浮きが反転することになるのもまた、当業者にしてみれば当然のことである。

そして、本願発明が奏する作用・効果について検討してみても、引用発明1、引用発明2及び周知の技術から当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものとみることはできない。

なお、本願発明の「接続された釣り糸に付けた釣り針・重り等の負荷が浮きの残留浮力(当審注:「浮力」の誤記)より小さい場合は・・・水面で反転し、釣り針・重り等の負荷が浮きが反転する荷重より小さく浮きの残留残留浮力(当審注:「浮力」の誤記)より大きい場合は接続部が上にある状態のまま浮きが沈んでいき」との構成は、釣り針・重り等の負荷と魚釣り用浮きの動きの関係を特定する構成であって、本願発明の魚釣り用浮きを、浮きを沈めて使用する態様と水面で使用する態様の、両使用態様で兼用できる魚釣り用浮きであると特定する構成ではないのだから、本願発明をそのように解する必要がないことはいうまでもないことである。
もっとも、願書に最初に添付した明細書には、特許請求の範囲の請求項1に「釣り糸・釣り針・重り等の負荷により浮きを沈めながら釣るための魚釣り用浮きであって、・・・」と記載され、段落【0006】に「すなわち、従来の反転タイプの浮きが下に引く力を与えた場合水面上で反転するのに対し、本発明の浮きは下に引く力を与えてもそのままの姿勢で沈んでいき、沈む速度が変化したときに反転するので浮きを沈めながらでも魚のあたりを知ることができる。」と記載されており、願書に最初に添付した明細書には「浮きを沈めながら釣る」ことしか記載されておらず、また当該浮きを水面で使用する示唆もない。
してみれば、魚釣り用浮きを前記両使用態様で兼用することは、願書に最初に添付した明細書には記載されていない事項でもある。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2008-04-01 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-21 
出願番号 特願2001-348088(P2001-348088)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 石井 哲
五十幡 直子
発明の名称 釣り用ウキ  

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