ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C02F |
---|---|
管理番号 | 1180047 |
審判番号 | 不服2004-24984 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-12-07 |
確定日 | 2008-06-26 |
事件の表示 | 特願2001-507749「紫外線を使用するクリプトスポリジウムパルブムとジアルジアムリスの不活性化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月11日国際公開、WO01/02302、平成15年 1月28日国内公表、特表2003-503198〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年4月27日(パリ条約による優先権主張1999年4月27日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成16年9月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年12月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1乃至6に係る発明は、平成17年1月6日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により、それぞれ特定されるとおりものであり、その請求項1に係る発明(以下、必要に応じて「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】クリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシストおよび同様な微生物を不活性化する方法であって、該クリプトスポリジウムおよび微生物を含む水に、約1mJ/cm^(2)?約175mJ/cm^(2)の範囲の線量の紫外線を照射することを特徴とする方法。 3.刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特表平10-504236号公報(原査定における引用文献1、以下「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。 (A-1) 「本発明は、流体処理装置に関し、特に飲料水を処理するための装置に関するが、これに限定されるものではない。」(第4頁第4行?第5行) (A-2) 「使用時には、フローバルブ18a、19bを開き、それにより水が前記第1チャンバの上側部分10a内に流れ、第1フィルタ12を通過して前記チャンバの下側部分10b内に入る。また、フローバルブ28a、29bを開くことにより、前記チャンバの下側部分10bから流出する水が、前記第2チャンバの上側部分20a内に流れ、第2フィルタ22を通過して前記チャンバの下側部分20bに入り、かつ出口ダクト27bを通過して装置から出る。紫外線ランプ13a、13b、23a、23bを点灯させると、水の中に含まれる全てのクリプトスポリディウム又はジアルディアスなどの微生物は、第1フィルタ12により捕捉されて、紫外線ランプ13a、13bからの放射線の正面に置かれることになる。 前記微生物が紫外線放射の正面に置かれる最小時間が5分間であり、かつ前記紫外線ランプが照射する紫外線放射の最小量が4 mW/cm^(2)であるとすると、その場合の照射量は次のようになる。 照射量 = 4 × (5 × 60) = 1200 mW秒/cm^(2) 50?100 mW秒/cm^(2)の照射量でクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物は死滅することが知られている。」(第7頁第16行?第8頁第4行) 4.刊行物発明の認定 刊行物1には、その記載事項(A-2)に、「50?100 mW秒/cm^(2)の照射量でクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物は死滅する」と記載されている。そして、該技術事項は、記載事項(A-1)、(A-2)によれば、「飲料水を処理するための装置」において、「水中に存在する該微生物に紫外線を照射する」方法の前提の従来技術として記載されているといえることから、同様の処理方法、つまり「飲料水を処理するために、水中に存在する該微生物に紫外線を照射する」方法が前提であるといえる。 よって、刊行物1には 「飲料水を処理するために、水中に存在するクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物に紫外線を50?100 mW秒/cm^(2)の照射量で照射し死滅させる方法」に関する発明が(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。 5.対比・判断 そこで本願発明1と刊行物1発明とを対比する。 当該技術分野において、クリプトスポリディウム及びジアルディアスは環境中ではオーシストやシストとして存在することは自明のことであるから、刊行物1発明の「水中に存在するクリプトスポリディウム及びジアルディアス」は、本願発明の「クリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシスト」に相当する。 よって、両者は 「クリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシストについて、該クリプトスポリジウムを含む水に、所定線量の紫外線を照射する方法。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】 本願発明1は該クリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシストを「不活性化する方法」であって、紫外線の線量は「約1mJ/cm^(2)?約175mJ/cm^(2)」の範囲であるのに対して、刊行物1発明では「死滅させる方法」であって、その紫外線の線量は「50?100 mW秒/cm^(2)」である点。 【相違点2】について 本願発明1は不活性化の対象として、クリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシストに加えて、それらと「同様な微生物」であるのに対して、刊行物1発明では「水中に存在するクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物」である点。 【相違点1】について 「1W秒」は「1J」に相当するものであるから、刊行物1発明の紫外線の線量「50?100 mW秒/cm^(2)」は、「50?100mJ/cm^(2)」に相当し、本願発明1の紫外線の線量である「約1mJ/cm^(2)?約175mJ/cm^(2)」と、「50?100mJ/cm^(2)」で重複するものである。そして、刊行物1発明において、本願発明1と重複している紫外線の線量で照射される場合には、紫外線照射の対象物は「水中に存在するクリプトスポリジウムのオーシストおよびジアルジアのシスト」であり、本願発明1と同じ対象物であることから、その対象物である該微生物には「死滅」のみならず、本願発明1と同様の現象、つまり「不活性化」も生じていると解するのが妥当である。 したがって、相違点1は実質上の相違点とはいえない。 【相違点2】について 本願発明1の不活性化の対象である「同様な微生物」とは、具体的にはどのような微生物を指すのか不明であるが、本願明細書に「クリプトスポリジウム・パルブムおよび、ジアルジア・ムリス(Giardia muris)等の他の原生動物の、ヒト宿主における感染の成立からの、低い線量の紫外線を用いての防止の方法に関する。」(段落【0001】)、「本発明の別の目的は、飲料水を処理するにおいて費用的に効果がある紫外光を使用して、クリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストによる感染の可能性を除去する方法を提供することである。」(段落【0007】)と記載されていることから、「同様の微生物」とは「他の原生動物でヒトを宿主として感染するもの」であり「飲料水を処理する際に含まれているもの」といえる。一方、刊行物1発明は、本願発明1と同様に、「飲料水を処理するため」の方法であり、飲料水用の上水には多種の生物が含まれていることは自明であるから、刊行物1発明の紫外線を照射する対象である「水中に存在するクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物」に、本願発明1の「同様な微生物」も含まれる蓋然性が高いといえ、本願発明1と重複する紫外線の線量で照射されていることから、不活性化されているといえる。 したがって、相違点2は実質上の相違点とはいえない。 【請求人の主張】について 請求人は、平成17年1月19日付け手続補正書(方式)で、「本願発明においては、水の安全性は、低い線量の紫外線を照射して微生物を不活化することによって確保されるという思想に基づいているのに対し、引用文献1(当審における刊行物1)においては、微生物を捕捉し、高い線量の紫外線を照射して完全に死滅させなければ、水の安全性は十分確保されないという思想に基づいている。・・・微生物を不活化することと死滅させることの相違に基づいて、本願発明と引用文献1とでは、紫外線の照射量が全く異なっている。」と主張している。 確かに、刊行物1には、クリプトスポリディウム及びジアルディアス等の微生物を「確実に殺す」という思想が記載されているが、「【相違点1】について」で前述したとおり、その前提として、刊行物1の記載事項(A-2)に「50?100 mW秒/cm^(2)の照射量でクリプトスポリディウム及びジアルディアスなどの微生物は死滅することが知られている。」と記載されており、本願発明1の紫外線の照射量とは「50?100mW秒/cm^(2)(mJ/cm^(2))」で重複している。そして、同一の対象物(水中に存在するクリプトスポリジウムのオーシストやジアルジアのシスト)に対して、同一の処理(50?100mW秒/cm^(2)(mJ/cm^(2))の紫外線照射)を行っている以上、同一の現象が生じるものと推定されることから、刊行物1発明において該微生物の「不活性化」は全く生じていないとすることはできない。 よって、上記主張は採用できない。 なお、本願発明において、紫外線の線量の下限値「約1mJ/cm^(2) 」、上限値「約175mJ/cm^(2)」について、明細書全体を参酌しても、その臨界的意義は認められないこと、紫外線線量を低くすることによる効果については、単にエネルギー量が少なく、経済的効果を奏するということ以上の効果は不明である(死滅させるのではなく、不活性化であることにより、刊行物1発明と比較して異質な効果を奏しているとは認められない。)。 また、上記手続補正書に添付された文献「“Medium-pressure UV for Oocyst Inactivation”Zia Bukhai, Thomas M. Hargy, James R. Bolton, Bertrand Dussert, and Jennifer L. Clancy Journal AWWA, Volume 91, Issue No. 3, pp. 86-94」は1999年3月に公表されているのであれば、本願の優先権主張日(1999年4月27日)よりも前に頒布された刊行物であり、該文献には「中圧紫外線の非常に低い照射線量(19mJ/cm^(2))によりオーシストの充分な不活性化が生じること」が記載されている。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-12-11 |
結審通知日 | 2008-01-08 |
審決日 | 2008-01-21 |
出願番号 | 特願2001-507749(P2001-507749) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C02F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 敬子、齊藤 光子 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
中村 敬子 斉藤 信人 |
発明の名称 | 紫外線を使用するクリプトスポリジウムパルブムとジアルジアムリスの不活性化方法 |
代理人 | 北住 公一 |
代理人 | 久徳 高寛 |
代理人 | 長塚 俊也 |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 宮野 孝雄 |