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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1180059 |
審判番号 | 不服2005-20919 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-10-31 |
確定日 | 2008-06-26 |
事件の表示 | 特願2003- 93139「無線通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-304394〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年3月31日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年4月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「複数の指向性のビームを用いた通信における複数の無線端末装置へのパケット送信のスケジューリングをスロット単位で行い、ネットワークを介して互いに通信可能な複数の基地局装置と上記複数の基地局装置と信号の送受信を行う複数の無線端末装置とを有する無線通信システムであって、上記基地局装置は特定の基地局装置に対して、上記基地局装置からの送信に用いるビームのスケジュールを含む無線回線情報を送信し、上記複数の基地局装置は上記無線回線情報に基づいて選択した上記無線端末装置へのパケット送信を行うことを特徴とする無線通信システム。」 2.引用例および周知技術 (1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-334597号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 イ.「本発明においては、適当な間隔を置いて配置された無線基地局が、あらかじめ近隣の無線基地局との間で、少なとも自局における無線チャネルの使用状況、使用可能状況、その他自局の内部状態に関する情報を互いにやりとりし、授受された情報を基にして各無線基地局が自律的に無線チャネルの管理を行なうこととした。 【0018】すなわち、通信可能な地域内で間隔を置いて配置された複数の無線基地局と、該地域内で移動可能な複数の加入者無線局とからなり、両者の通信のために割り当てられた複数の無線チャネルのうち、任意のチャネルを使用して無線基地局と加入者無線局が通信を行い、加入者無線局が通信可能な地域内で移動した場合は相対する無線基地局を順次自動的に切替えて連続的に通信サービスを行い、かつ通信に用いる無線チャネルの指定を無線基地局自身が自律的に行なう無線通信方法であって、各無線基地局は加入者無線局との通信に際して、あらかじめ近隣の無線基地局との間で、加入者無線局との通信に用いる複数の無線チャネルの使用状況・観測状況からなる無線基地局の内部状態に関する内部情報を授受し、授受された内部情報を基にして、各無線基地局が使用すべき無線チャネルを自律的に決定することを特徴とする。」(4頁5欄4行?25行) ロ.「【0020】 【作用】本発明の移動無線通信システムでは近隣の無線基地局の内部状態に関する情報を入手しているため、追跡交換、加入者無線局からの発呼に対して、独自に判断して以降の処理を実行できる。」(4頁5欄32行?36行) ハ.「【0030】これらの管理のため無線基地局は近隣無線基地局の無線チャネル使用状況等を把握する必要が生ずる。そこで、各無線基地局は無線チャネルの使用状況などのデータを互いに交換しあう機能を持つ。このデータのやりとりは各無線基地間を結ぶ専用の有線回線を用いても、あるいは特定の無線チャネルを用いてもよい。」(5頁7欄10行?15行) ニ.「無線基地局群はそれぞれ他の指示を受けること無く、自律的に無線チャネルの管理を行っており、加入無線局との通信を始める際に、自局が応答すべきか否かを含めて通信用チャネルの割り当て動作を独自の判断で行う。しかし、各無線基地局のサービスエリアは通常大部分が他の無線基地局のそれと重なっているから、各無線基地局は近隣の無線基地局との間で無線チャネルの管理状況についてデータ内部情報を互いにやりとりし、近隣無線基地局の状態をあらかじめ把握しておく必要がある。」(5頁8欄47行?6頁9欄6行) ホ.「【0045】各無線基地局は上述の内部情報を常時、一定期間ごとおよび内部情報に変化が生じる毎にやりとりし、近隣無線基地局の状態を常時把握している。」(6頁9欄47行?50行) なお、上記無線基地局と加入者無線局が「通信を行い」とあるのは、無線基地局と加入者無線局が「信号の送受信を行う」ことを意味し、また上記各無線基地局は無線チャネルの使用状況などのデータを「互いに交換しあう機能を持つ」とあるのは、「互いに通信可能である」と意味するものである。 したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。 「専用の有線回線、あるいは特定の無線チャネルを介して互いに通信可能な複数の無線基地局と、上記複数の無線基地局と信号の送受信を行う複数の加入者無線局とを有する移動無線通信システムであって、上記無線基地局は近隣の無線基地局と、上記無線基地局と加入者無線局との通信に用いる複数の無線チャネルの使用状況・観測状況からなる無線基地局の内部状態に関する内部情報を、一定期間ごとおよび内部情報に変化が生じる毎に互いにやりとりし、上記複数の無線基地局は上記やりとりされた内部情報を基にして、加入者無線局との通信を始める際に、自局が応答すべきか否かを含めて通信用無線チャネルの割り当て動作を行う移動無線通信システム。」 (2)また、当審で引用する特開2003-8500号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0002】 【従来の技術】従来より、ディジタルセルラ移動通信システムとして、無線基地局装置が、移動端末機との間で通信を行なう際に、下りリンクで一定周期(スロット)毎に異なる移動端末機宛に、スペクトル拡散信号によってパケットを送信するシステムが知られている。」(2頁2欄11行?16行) ロ.「【発明の実施の形態】以下、図面を参照し、本発明の実施形態について順次説明する。図1は、本発明の第1の実施形態によるセルラ方式の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。この図1に示す無線基地局装置は、N(Nは1以上の整数)個の送信バッファ1-1?Nと、信号選択部2と、M(Mは1以上の整数)個の信号送信部3-1?Mと、個別ビーム形成部4と、L(Lは1以上の整数)個のアンテナアレイ6-1?LからなるL素子アレイアンテナ5とから構成される。上記図1の無線基地局装置は、最大N台までの移動端末機(以下、単に移動機と称する)に対してデータ送信を行なうことが可能である。」(3頁4欄9行?20行) ハ.「【0023】上記個別ビームとは、無線信号の送信先の移動機に対して指向性を持つように形成されたアンテナビームのことをいう。」(4頁5欄10行?12行) ニ.「【0027】例えば、あるタイムスロットにおいては、図3に示すように、信号選択部2は、移動機210、212、214、216、218を送信先移動機として選択する。・・・(中略)・・・。 【0028】また、別のタイムスロットにおいては、信号選択部2は、図4に示すように、移動機211、213、215、217、219を送信先移動機として選択する。」(4頁5欄48行?14行) ホ.「【0029】また、図1に示す無線基地局装置は、通信可能な移動機の方位を特定するために、例えば、アンテナアレイ6-1?Lを送受兼用に用いて予め各移動機からの無線信号を連続的あるいは間欠的に受信し、受信信号の到来方向を推定する。・・・(中略)・・・【0030】なお、このアンテナ受信パターンに関する情報から抽出された主ビームの方向などの個別ビーム形成のための情報については、各々の移動機から送信される無線信号を一定時間受信する毎に更新するようにしてもよい。」(4頁6欄24行?45行) さらに、当審で引用する特開2002-118512号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0009】 【発明が解決しようとする課題】データを送受信するために、特定の移動局と基地局とを接続する逆方向リンクビームと順方向リンクビームを独立に制御し、かつ顧客およびその状況に合ったものに適するようなシステムが必要とされている。理想的には、順方向リンクビームと逆方向リンクビームを、時間と共に変動するデータレートの要求、時間と共に変動する基地局に対する移動局の位置、および時間と共に変動するSNRに対し、ダイナミックにカスタマイズ(個々のニーズ(状況)に合わせる)し、そしてこのカスタマイズされたビームを、基地局が通信している移動局に直接向けるように方向を制御する。 【0010】 【課題を解決するための手段】本発明の一実施例によれば、順方向リンクと逆方向リンク用に複数の適用型アンテナ素子が、無線通信システムの基地局に配置されている。従来のビーム形成ハードウェアに加えて、各アンテナのビーム形成回路が、移動局の位置検出システムに結合され、基地局と通信している移動局の位置を(必要とされる精度で)検出する。移動局の位置が一旦決定(検出)されると、ビーム形成器は、カスタマイズされた狭い、高ゲインのビームをその移動局の方向に向け、順方向リンクあるいは逆方向リンク、あるいはその両方に独立して(データをダウンロードするかアップロードするかによって)形成する。その結果、システムとエア・インターフェースの容量は、必要とされる場所で必要とされる時間にのみ効率的に使用される。さらにまた、ユーザ間の干渉も最小にできる。」(3頁4欄12行?40行) ロ.「【0013】図2に示すように、3本の適用型アレイアンテナ素子110、112、114がビーム形成器200に接続されている。順方向リンクハードウェア106は、適用型アレイアンテナ素子110-114がアダプティブアンテナシステム用に構築されるように構成されている。アダプティブアンテナシステムは、順方向リンクビーム(例、128)を、ビーム方向、形状、ゲイン、ビームの数等により、かつビーム形成器200の変化する状況に応じて、連続的に変更する。」(4頁5欄17行?25行) ハ.「データレートは、ダウンロードされるパケットの数と大きさ、・・・(中略)・・・等の様々なファクターで変動する。」(4頁6欄28行?32行) ニ.「RRC211は、各ユーザからクオリティ・オブ・サービスのニーズ(遅延、エラー等)のような他の情報と共に、すべての情報(データレート、SNR、位置)を受信する。RRC211は無線資源を割り当てる最適の方法を計算する。無線資源の割り当ては、ビームポインティング、ビームパワー、ビーム幅、持続時間等を含む。この情報はその後ビーム形成器200に伝送される。次にビーム形成器200は、RRC211から受信した常時変動する無線資源割り当て指示を受け入れて、狭い無線ビーム128を常に修正する。送信機/プロセッサ202の出力は、ビーム形成器200の入力に接続され、送信された無線ビーム128を生成する。(図1)」(4頁6欄49行?5頁7欄11行) (3)上述した周知例1及び周知例2に開示された移動無線通信システムの技術分野における技術常識を考慮すると、周知例1に記載の「主ビームの方向などの個別ビーム形成のための情報」とは「ビームのスケジュール」のことであるから、周知例1に記載の「無線基地局装置」が、「主ビームの方向などの個別ビーム形成のための情報」を「一定時間」毎に更新し、当該個別ビームによって「タイムスロット」毎に異なる「送信先移動機」を「選択」して「パケットを送信する」ことは、「複数の移動端末機へのパケット送信のスケジューリングをスロット単位で行い、当該送信に用いるビームのスケジュールに基づいてパケット送信を行う」ことである。 また、同じく当該技術分野における技術常識を考慮すると、周知例2に開示された移動無線通信システムは、「基地局」から「移動局」への「順方向リンクビーム」による「パケット」送信を行うものであり、周知例2に記載の「ビームポインティング、ビームパワー、ビーム幅、持続時間等」の「常時変動する無線資源割り当て」の「情報」とは、「ビームのスケジュール」のことであるから、周知例2の「基地局」が、「無線資源割り当て」の「情報」を「常時」、「ビーム形成器200」に伝送し、当該「ビーム形成器200」は当該「情報」を受け入れて「狭い無線ビーム128を常に修正する」こと、具体的には、「ビーム方向、形状、ゲイン、ビームの数等」によりビームを連続的に変更する「アダプティブアンテナシステム」を制御することは、「複数の移動局へのパケット送信のスケジューリングを常時行い、当該送信に用いるビームのスケジュールに基づいてパケット送信を行う」ことである。なお、パケット通信を行う移動無線通信システムの技術分野においては、最小の時間単位が「タイムスロット」であることは技術常識であるので、周知例2における上記「常時」とは、「タイムスロット単位」と同義である。 すなわち、上記周知例1、及び周知例2に開示されているように、移動無線通信システムにおいて、無線基地局装置から複数の指向性ビームを用いて複数の移動端末装置へのパケット送信を行うこと、そしてその場合に、パケット送信のスケジューリングをスロット単位で行うこと、及び、無線基地局装置からの送信に用いるビームのスケジュールに基づいて、無線基地局装置が移動端末装置へのパケット送信を行うことは、周知の技術である。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「専用の有線回線、あるいは特定の無線チャネル」、「無線基地局」、「加入者無線局」、「移動無線通信システム」は、それぞれ本願発明の「ネットワーク」、「基地局装置」、「無線端末装置」、「無線通信システム」に相当する。 また、引用発明の「内部情報」は、本願発明の「無線回線情報」に相当し、引用発明は、「無線基地局は近隣の無線基地局と、上記無線基地局と加入者無線局との通信に用いる複数の無線チャネルの使用状況・観測状況からなる無線基地局の内部状態に関する内部情報を、一定期間ごとおよび内部情報に変化が生じる毎に互いにやりとり」しているから、引用発明も本願発明と同様に「基地局装置は特定の基地局装置に対して、無線回線情報を送信」しているということができる。 また、引用発明は「複数の無線基地局は上記やりとりされた内部情報を基にして、加入者無線局との通信を始める際に、自局が応答すべきか否かを含めて通信用無線チャネルの割当て動作を行」っており、引用発明は、複数の無線基地局が、それぞれ自局が応答すべきか否かの判断を含めて、複数の加入者無線局に対して、通信を始めるべきどの加入者無線局と無線接続するかを選択して、通信用無線チャネルの割当て動作を行うものであるから、引用発明も本願発明と同様に「複数の基地局装置は無線回線情報に基づいて選択した無線端末装置への送信を行う」ものであるということができる。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「ネットワークを介して互いに通信可能な複数の基地局装置と上記複数の基地局装置と信号の送受信を行う複数の無線端末装置とを有する無線通信システムであって、上記基地局装置は特定の基地局装置に対して、無線回線情報を送信し、上記複数の基地局装置は上記無線回線情報に基づいて選択した上記無線端末装置への送信を行うことを特徴とする無線通信システム。」 <相違点> (1)本願発明では、複数の基地局装置が「複数の指向性のビームを用いた通信における複数の無線端末装置へのパケット送信のスケジューリングをスロット単位で行い」、基地局装置は無線端末装置への「パケット送信」を行うものであるのに対し、引用発明では、そのような記載がされていない点。 (2)本願発明では、基地局装置は特定の基地局装置に対して、基地局装置からの送信に用いるビームのスケジュールを含む無線回線情報を送信し、複数の基地局装置は上記無線回線情報に基づいて選択した上記無線端末装置への送信を行うのに対し、引用発明では、基地局装置は特定の基地局装置に対して、基地局装置からの送信に用いる無線回線情報を送信し、複数の基地局装置は上記無線回線情報に基づいて選択した上記無線端末装置への送信を行っており、引用発明の無線回線情報には、無線基地局と加入者無線局との通信に用いる複数の無線チャネルの使用状況・観測状況からなる無線基地局の内部状態に関する情報を含むことが記載されているが、当該無線回線情報が「ビームのスケジュール」を含むことについては記載がない点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 相違点(1)について、 無線基地局装置が複数の指向性のビームを用いて複数の移動端末装置へのパケット送信を行うこと、そしてその場合に、パケット送信のスケジューリングをスロット単位で行うことは、上述した周知例1及び周知例2に開示されているように、移動無線通信システムの技術分野においては周知の技術であり、引用発明の無線通信システムの基地局装置において、当該周知の技術を適用して本願発明のように構成することは、当業者であれば適宜為し得ることである。 相違点(2)について、 無線基地局装置からの送信に用いるビームのスケジュールに基づいて、無線基地局装置が移動端末装置へのパケット通信を行うことは、同じく周知例1及び周知例2に開示されているように、移動無線通信システムの技術分野においては周知の技術であり、引用発明の基地局装置に適用することは当業者が適宜為し得ることであって、その場合に無線基地局装置からの送信に用いるビームのスケジュールは、当該基地局装置が生成する無線回線情報のひとつということができるから、引用発明の無線回線情報に、ビームのスケジュールを含ませて本願発明のように構成することは当業者が容易に為し得ることである。 そして、本願発明のように構成したことによる効果も、引用発明及び周知の技術から予測できる程度のものである。 したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-25 |
結審通知日 | 2008-04-30 |
審決日 | 2008-05-14 |
出願番号 | 特願2003-93139(P2003-93139) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高木 進、山本 春樹 |
特許庁審判長 |
大野 克人 |
特許庁審判官 |
和田 志郎 角田 慎治 |
発明の名称 | 無線通信システム |
代理人 | 後藤 政喜 |
代理人 | 後藤 政喜 |