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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q |
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管理番号 | 1180073 |
審判番号 | 不服2006-6185 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-04 |
確定日 | 2008-06-26 |
事件の表示 | 特願2002-286380「アンテナ構造およびそれを備えた通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日出願公開、特開2004-128605〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成14年9月30日の出願であって、平成18年3月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成18年4月4日に審判請求がなされるとともに、同年4月26日付けで審判請求時の手続補正がなされたものである。 第2.補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年4月26日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成18年1月31日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「電子部品が実装される基板と、この基板の表面と裏面の少なくとも一方に形成される導体部と、アンテナ動作を行う放射電極とを有し、放射電極はその一端側が基板の表面又は裏面の導体部に接続されており、当該放射電極は、その導体部との接続部を起点として該導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され、放射電極の他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成しており、前記放射電極は前記基板の導体部に接続される側に磁界最大領域を有し、かつ、開放端部側に電界最大領域を有し、前記放射電極の基板接続端部側の磁界最大部位又はその近傍部位には、当該放射電極の一端側から他端側に向かう方向に交差するスリットが形成され、前記開放端部側の電界最大領域はスリットのない電極面と成していることを特徴とするアンテナ構造。」 という発明(以下、「本願発明」という。)を、 「電子部品が実装される基板と、この基板の裏面に形成されるグランド電極の導体部と、アンテナ動作を行う放射電極とを有し、放射電極はその一端側が基板の裏面の前記グランド電極の導体部に接続されており、当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され、放射電極の他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成しており、前記放射電極は前記基板の導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する経路に磁界最大領域を有し、かつ、開放端部側に電界最大領域を有し、前記放射電極の前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路に形成される磁界最大部位又はその近傍部位には、当該放射電極の一端側から他端側に向かう方向に交差するスリットが形成され、前記開放端部側の電界最大領域はスリットのない電極面と成していることを特徴とするアンテナ構造。」 という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。 2.新規事項の有無、補正の目的要件について 上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の 「基板の表面と裏面の少なくとも一方に形成される導体部」、 「基板の表面又は裏面の導体部」、 「該導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁を囲むループ状の経路」、 「導体部に接続される側に磁界最大領域を有し」、 「基板接続端部側の磁界最大部位」という構成をそれぞれ 「基板の裏面に形成されるグランド電極の導体部」、 「基板の裏面の前記グランド電極の導体部」、 「該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路」、 「導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する経路に磁界最大領域を有し」、 「前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路に形成される磁界最大部位」 という構成に限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。 3.独立特許要件について 上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 (1)補正後の発明 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 (2)引用発明及び周知技術 A.原審の拒絶理由に引用された欧州特許出願公開第818847号明細書(以下、「引用例1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「 Die in Fig.4 gezeigte Ausfuehrungsform stellt eine konstruktiv einfache Variante ohne Abschirmgehaeuse dar. Ausgangspunkt ist eine Leiterplatte 14 mit einer Metallisierung 15 auf der Rueckseite und einer Bestueckung mit diversen elektronischen Bauteilen 16 auf der Vorderseite. (Im vorliegenden Beispiel wird der Einfachheit halber nicht auf die meist ueblichen doppelseitigen und mehrschichtigen Leiterplattenaufbauten eingegangen. Es versteht sich von selbst, dass die Erfindung ohne weiteres auf derart verdichtete elektronische Schaltungen angewendet werden kann.) An einer stirnseitigen Kante 19 (welche in der gewaehlten Darstellung senkrecht zur Zeichenebene verlaeuft) ist ueber eine Kurzschlusslasche 18 eine erfindungsgemaesse Resonatorplatte 17 angeschlossen. Die Speisung verlaeuft in der gleichen Ebene wie die Kurzschlusslasche 18 (und ist deshalb in der Darstellung gemaess Fig.4 nicht sichtbar). Der kurze Schenkel 17.1 endet also in einem bestimmten Abstand "jenseits" der Kante 19. Der lange zweite Schenkel 17.2 verlaeuft in einem moeglichst geringen Abstand ueber der (dielektrischen) Leiterplatte 14. Die Ansteuerung der Antenne erfolgt durch die auf der Leiterplatte 14 implementierte Schaltung.」 (明細書5頁8欄26?48行目、但し、原文のウムラウト表記は慣例に基づく欧文表記に改めてある。) (邦訳) 「図4の実施例はシールドケースを取り除いて単純化した構造例を示している。出発点は裏面にメタライズ層15を備え表面に種々の電子部品16を装着した導電基板14である。(この例では、簡素化のため、よく使われる両面導電基板や多層導電基板は採用していない。この発明が集積化された回路に適用できることは自明である。)端面の稜線19は、図では紙面に垂直に延びており、短絡片18を介して本発明の共振板17に接続されている。給電線は短絡片18と同じ面に延びている。したがって、図4では図示されていない。短い脚部17.1はある間隔を介して稜線19から離れて対向して終端されており、長い第2の脚17.2はできるだけ小さい間隔で(誘電体からなる)導電基板14に沿って延びている。アンテナを導電基板に実装することにより回路を構築する。」 上記引用例1の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 上記「裏面にメタライズ層15を備え表面に種々の電子部品16を装着した導電基板14」は、「電子部品が実装される基板」であり、 基板裏面の「メタライズ層15」は「短絡片18」が接続されるのであるから接地電位(グランド)として作用するものであって、この「基板の裏面に形成されるグランド電極の導体部」にあたるものである。 また、上記「短絡片18」と「共振板17」は、アンテナの「放射電極」を構成しており、 「その一端側が基板の裏面の前記グランド電極の導体部に接続されて」いる。 また、上記「導電基板14」の「端面」は、「基板」の「端縁」を構成する「基板端縁」であり、 前記「放射電極」はFig.4の形状を参照すれば、「そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部の延長上を基板端縁から離れる方向に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され、放射電極の他端側は開放端部と成して」いるということができる。 そして、上記構成は全体としてアンテナを構成する「構造」であるから、「アンテナ構造」ということができるものである。 したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。 (引用発明1) 「電子部品が実装される基板と、この基板の裏面に形成されるグランド電極の導体部と、アンテナ動作を行う放射電極とを有し、放射電極はその一端側が基板の裏面の前記グランド電極の導体部に接続されており、当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部の延長上を基板端縁から離れる方向に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され、放射電極の他端側は開放端部と成しているアンテナ構造。」 B.原審の拒絶理由に引用された実願昭51-125749号の願書に添付した明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭53-42543号参照、以下、「引用例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「第1および第2の接続部をもつ薄板状の導電部材を無線機のハウジングの内部空間にループ状にして配置し、前記第1の接続部を前記無線機のプリントパネルの基準アースに接続し、前記第2の接続部を前記無線機の回路に接続するようにした小型無線機用アンテナ。」(明細書1頁、実用新案登録請求の範囲第1項) ロ.「フレキシブル板5の一方の端7は受信機のプリントパネル8の基準アース10に接地されている。」(明細書4頁3?5行目) 上記記載および図面第1図、第2図によれば、引用例2の「アンテナ」において、 上記「プリントパネル8」は「基板」にあたり、 上記「薄板状の導電部材」(フレキシブル板5)は、「アンテナ動作を行う放射電極」を構成するものであって、 その「一方の端7」(一端側)が接続される「基準アース10」は、「基板」の「裏面」に設けられた「グランド電極」の「導体部」を構成するものであり、 第2図の断面図に示される「放射電極」(フレキシブル板5)の形状によれば、 「当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され」ていることを見て取ることができる。 したがって、上記引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。 (引用発明2) 「アンテナ動作を行う放射電極の一端側が基板の裏面のグランド電極の導体部に接続されており、当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成されたアンテナ」 C.原審の拒絶理由で周知例として引用された特開2002-223114号公報(以下、「周知例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【請求項1】 無線装置に使用されるアンテナであって、 接地レベルである導体地板と、 前記導体地板上に配置されるアンテナ素子と、 前記アンテナ素子と電気的に接続されており、前記導体地板に対して所定の空隙をもたせて配置される電磁界結合調整素子と、 前記アンテナ素子に給電を行う給電接続部とを備える、アンテナ。」(2頁1欄、請求項1) ロ.「【0036】 【発明の実施の形態】(第1の実施形態)図1は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を抽象的に示した図である。図1において、本第1の実施形態に係るアンテナは、導体地板11と、アンテナ素子である平面状の導体板12と、電磁界結合調整素子である導体壁16及び電磁界結合調整板17と、2本の金属線13及び14とで構成される。導体板12には、金属線13を介して給電点15から給電される。また、導体板12は、金属線14を介して導体地板11と接続されている。導体壁16は、その一端が導体板12と電気的に接続されている。電磁界結合調整板17は、導体壁16の上記一端と対向する他端と電気的に接続されている。 【0037】本第1の実施形態では、電磁界結合調整板17は、導体地板11と所定の空隙をあけて配置されており、導体地板11との間でコンデンサを形成する。このとき、金属線14が導体板12に接続される部分(以下、短絡部という)から電磁界結合調整素子の開放端部までの経路長が長くなるように、導体壁16及び電磁界結合調整板17が配置(接続)される。好ましくは、金属線13が導体板12に接続される部分(以下、給電部という)から短絡部までの電流経路が、所望の共振周波数の1/2波長となるように配置される。この構造により、従来に比べて、同一のアンテナエレメントサイズ(アンテナの占有体積)で共振周波数をより低下させること、又は同一の共振周波数でアンテナエレメントサイズを小さくさせること、が可能となる。また、この構造により、電磁界結合調整板17の面積及び導体地板11との距離(空隙)を調整することで、電磁界結合調整板17と導体地板11とで構成されるコンデンサの容量を制御できるため、インピーダンス整合を容易に調整できる。」(5頁7欄、段落36?37) ハ.「【0054】なお、上記各実施形態において、導体板、電磁界結合調整素子及び導体地板とで囲まれる空間の一部又は全てに誘電体材料51を充填すれば(例えば、図14(a))、さらなるアンテナの小型化が期待できることは言うまでもない。また、電磁界結合調整素子を誘電体材料で構成された支持台52により導体地板上に固定すれば(例えば、図14(b))、電磁界結合調整素子と導体地板との間の容量性結合の増加が期待できる上、導体地板上に配置されるアンテナエレメントを安定して固定することが可能となる。加えて、電磁界結合調整素子と導体地板との距離を精度よく制御できるため、量産性の向上が期待できる。また、少なくとも導体板又は電磁界結合調整素子のいずれかにスリット53を設けることで(例えば、図14(c))、共振周波数の低下が可能となり、アンテナの小型化が期待できる。この場合、電流が強く分布する場所にスリットを設けることで、共振周波数の低下量を大きくすることが可能となる。また、電磁界結合調整素子にスリットを設けることで、導体地板との間の容量を制御できることは言うまでもない。」(7頁12欄、段落54) 例えば上記周知例に開示されているように、 「放射電極の一端側を接地し、他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成したアンテナ」構造、 及び「電流が強く分布する場所に幅方向のスリットを設けてアンテナの小型化を図る」技術手段、はいずれも周知である。 (3)対比・判断 補正後の発明と引用発明1を対比すると、 引用発明1の「該基板裏面の導体部の延長上を基板端縁から離れる方向に向かい」という構成と、補正後の発明の「該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい」という構成は、いずれも「該基板裏面の導体部から離れる方向に向かい」という構成の点で一致している。 また、引用発明1の「放射電極の他端側は開放端部と成して」という構成と、補正後の発明の「放射電極の他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成して」という構成は、いずれも「放射電極の他端側は開放端部と成して」という構成の点で一致している。 また、引用発明1は、補正後の発明の「前記放射電極は前記基板の導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する経路に磁界最大領域を有し、かつ、開放端部側に電界最大領域を有し」という構成を備えているか否か不明である。 また、引用発明1は、補正後の発明の「前記放射電極の前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路に形成される磁界最大部位又はその近傍部位には、当該放射電極の一端側から他端側に向かう方向に交差するスリットが形成され、前記開放端部側の電界最大領域はスリットのない電極面と成して」という構成を備えていない。 したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致し、また、相違している。 (一致点) 「電子部品が実装される基板と、この基板の裏面に形成されるグランド電極の導体部と、アンテナ動作を行う放射電極とを有し、放射電極はその一端側が基板の裏面の前記グランド電極の導体部に接続されており、当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部から離れる方向に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成され、放射電極の他端側は開放端部と成しているアンテナ構造。」 (相違点1) 「該基板裏面の導体部から離れる方向に向かい」という構成に関し、 補正後の発明は「該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい」という構成であるのに対し、 引用発明1は「該基板裏面の導体部の延長上を基板端縁から離れる方向に向かい」という構成である点。 (相違点2) 「放射電極の他端側は開放端部と成して」という構成に関し、 補正後の発明は「放射電極の他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成して」という構成であるのに対し、 引用発明1は単に「放射電極の他端側は開放端部と成して」という構成である点。 (相違点3) 補正後の発明は、「前記放射電極は前記基板の導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する経路に磁界最大領域を有し、かつ、開放端部側に電界最大領域を有し」という構成を備えているのに対し、 引用発明1はその点の構成が不明である点。 (相違点4) 補正後の発明は、「前記放射電極の前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路に形成される磁界最大部位又はその近傍部位には、当該放射電極の一端側から他端側に向かう方向に交差するスリットが形成され、前記開放端部側の電界最大領域はスリットのない電極面と成して」という構成を備えているのに対し、 引用発明1は当該構成を備えていない点。 そこで、まず上記相違点1について検討する。 上記引用発明2には、「アンテナ動作を行う放射電極の一端側が基板の裏面の前記グランド電極の導体部に接続されており、当該放射電極は、そのグランド電極である導体部との接続部を起点として該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい該基板端縁を越えた位置で基板の裏面側から立ち上がって基板端縁を基板の表面側へ向けて横切ってから基板側に折り返すという如く基板端縁を囲むループ状の経路を通って前記起点とは反対側の基板面に間隔を介し沿うように形成されたアンテナ」が開示されており、 当該アンテナ構造を引用発明1に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該アンテナ構造に基づいて、引用発明1の「該基板裏面の導体部の延長上を基板端縁から離れる方向に向かい」という構成を、補正後の発明のような「該基板裏面の導体部から離れる方向に膨らみながら基板端縁に向かい」という構成とする程度のことは当業者であれば容易になし得ることである。 ついで、上記相違点2について検討する。 例えば、上記周知例に開示されているように、「放射電極の一端側を接地し、他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成したアンテナ」構造は、例えば逆F型アンテナの一般的な構造として周知であり、当該アンテナ構造における容量形成手段を引用発明1に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、当該周知のアンテナ構造における容量形成手段に基づいて、引用発明1の「放射電極の他端側は開放端部と成して」という構成を、補正後の発明のような「放射電極の他端側は基板の導体部と間隔を介し容量を形成して配置されて開放端部と成して」という構成とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。 ついで、上記相違点3について検討する。 一般に、引用発明を含むアンテナ上の電流電圧分布は、接地端側で電流最大となり開放端部側で電圧最大となるものであり、また電流が最大となる領域及び電圧が最大となる領域が、それぞれいわゆる「磁界最大領域」及び「電界最大領域」と等価であることは当業者であれば自明のことであるから、これらの自明な事項に基づいて、アンテナの接地端及びその近傍を「磁界最大領域」と定義するとともに、その範囲を例えば本件発明のアンテナの接地端及びその近傍である「前記基板の導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する」部分とし、アンテナの開放端部近傍を「電界最大領域」と定義することにより、補正後の発明のような「前記放射電極は前記基板の導体部に接続される側の前記グランド電極の導体部から膨らみながら基板端縁を越えた位置に至るまでの基板裏面側に位置する経路に磁界最大領域を有し、かつ、開放端部側に電界最大領域を有し」た構成を得る程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。 ついで、上記相違点4について検討する。 例えば上記周知例には、「電流が強く分布する場所に幅方向のスリットを設けてアンテナの小型化を図る」周知の技術手段が開示されているところ、当該周知の技術手段に基づく小型化を引用発明1に適用する上での阻害要因も何ら見あたらず、また本件アンテナの「磁界最大部位またはその近傍部位」が、上記相違点3で検討した「磁界最大領域」と同様に電流が最大となるアンテナの接地端及びその近傍であることは自明のことであるから、これらの周知技術ないしは自明の事項に基づいて、スリットが形成される部分を「磁界最大部位またはその近傍部位」と定義するとともに、当該領域を例えば本件発明のアンテナの接地端及びその近傍である「前記放射電極の前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路」部分とし、当該部分のみにスリットを形成することにより、補正後の発明のような「前記放射電極の前記グランド電極である導体部との接続部から基板端縁を基板表面側へ横切って基板側へ折り返す前までの基板接続端部側のループ状の経路に形成される磁界最大部位又はその近傍部位には、当該放射電極の一端側から他端側に向かう方向に交差するスリットが形成され、前記開放端部側の電界最大領域はスリットのない電極面と成して」という構成を付加する程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。 以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明及び周知技術ないしは自明な事項に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明及び周知技術 引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術ないしは自明な事項に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術ないしは自明な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-24 |
結審通知日 | 2008-04-30 |
審決日 | 2008-05-13 |
出願番号 | 特願2002-286380(P2002-286380) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01Q)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮崎 賢司 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
竹井 文雄 富澤 哲生 |
発明の名称 | アンテナ構造およびそれを備えた通信装置 |
代理人 | 五十嵐 清 |