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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1180094
審判番号 不服2006-27773  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-08 
確定日 2008-06-26 
事件の表示 特願2004-257058「摺動部材」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 70838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年9月3日の出願であって、平成18年11月2日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服審判請求がされたものである。

本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年12月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「摺動部材の摺動面を線状又は点状に直接焼き入れて凸部を形成するとともに、その直接焼入れ部分に隣接した非直接焼入れ部分に凹部を形成し、上記直接焼入れ部分と非直接焼入れ部分とで摺動面に凹凸面を形成し、さらにこの凹凸面にラップ加工とバフ加工とを施して上記凸部の高さを0.1?1μmの範囲としたことを特徴とする摺動部材。」

2.引用例
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-133016号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「第1図(a)はこの発明の一実施例により得られた鋼材の摺動部の表面を示す斜視図で、第1図(b)はその摺動部の要部断面図で、図において、(1)は熱処理によりマルテンサイト変態し、硬化可能な鋼材、(2)はマルテンサイト変態し硬化・膨張した径が約10?100μmの円形の凸部である。
研磨された鋼材(1)の摺動部とされる表面に所望のビーム径及びエネルギを有するレーザビームを照射する。照射によって鋼材(1)の表面付近に生じた熱は、レーザビームによる場合は極めて局所的で限られるので、自然冷却により急冷されて、マルテンサイト変態して硬化し体積膨張して微少な突起を形成する。この場合は、鋼材として共析鋼を使用し、約1%体積膨張して径が約10μmの円形の凸部(2)を形成した。この鋼材(1)へのレーザビームの照射は、ステージ制御系により制御されるステージ上に置かれた鋼材を動かしてランダムに行い、第1図(a)に示すように鋼材の摺動表面に円形の凸部(2)をちどり状パターンに形成する。
このちどり状パターンの硬化した微少な円形の凸部(2)は摺動部において摩擦係数の軽減及び摩耗特性の向上に極めて有効である。
第2図は、この発明の他の実施例により得られた鋼材の摺動表面を示す斜視図で、(3)は摺動方向と直交するように巾が10?100μm巾の帯状に形成された凸部で、矢印(A)は摺動方向を表す。」(公報2頁左上欄12行?同頁右上欄18行)

・「鋼材(1)に形成される凸部の大きさは、レーザビームのエネルギのコントロール及び走査回数等により調節できる。レーザビームのエネルギ密度やステージの送りのコントロールは極めて高精度に行なえるので、容易に所望の軟硬の凹凸パターンを形成できる。」(公報2頁左下欄15行?同20行)

・第1図(a)には、摺動部の表面に微少な円形の凸部を形成するとともに、その凸部に隣接した部分を平坦部とした鋼材の実施例が示されている。

・第2図には、摺動部の表面に帯状の凸部を形成するとともに、その凸部に隣接した部分を平坦部とした鋼材の実施例が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「鋼材の摺動部の表面を、帯状又は微少な円形に、レーザビームの照射によって鋼材の表面付近に熱を生じさせ、自然冷却により急冷されて、マルテンサイト変態して硬化させることで、凸部を形成するとともに、その凸部に隣接した部分を平坦部とすることで、摺動部の表面に前記凸部及びそれに隣接した前記平坦部とからなる面を形成した鋼材。」

(2)同じく、引用された特開平1-130074号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「以上説明したような厳しい条件で使用される斜板式圧縮機において、最も問題となる部分は斜板とシューとの摺動部分である。」(公報2頁右上欄7?9行)

・「本発明で、斜板を高珪素アルミニウム合金で構成するが、その目的は軽量化及び後述するシューとの組合せによる摺動特性の改良である。」(同3頁左下欄9?11行)

・「シューは高炭素鋼や高クロム軸受鋼を切断し、冷間鍛造して予備形状とし、更にサイジング金型中で鍛造し球面の寸法精度を高める。その後底面を研磨やラップ仕上げをしてフロン液中で超音波洗浄を行った後に少なくとも斜板と摺接する底面の平坦部にイオンプレーティングによる硬質皮膜を1?10μmの厚さで設ける。その後、基地とイオンプレーティング皮膜の密着性を完全なものとする。イオンプレーティング皮膜の厚さが1μmより薄いと、長時間の使用で摩耗してしまう。他方10μmを超えるとイオンプレーティングの焼き入れ時や使用時に皮膜が剥離を生じ易くなる。イオンプレーティング皮膜としては、チタンと窒素又はクロムと窒素とからなる皮膜が前記斜板と組合せた場合に良好な結果が得られる。特にクロムと窒素からなる皮膜が、前記アルミニウム合金製斜板と組合せた場合に耐焼付性や耐摩耗性に著しく優れた結果となる」(同4頁左上欄16行?右上欄13行)

・「イオンプレーティング皮膜の表面粗さが0.4μm以下でないと相手の斜板を摩耗させてしまうため、表面粗さが0.4μm以下の粗さになるようラップ仕上げを行う。さらにシューの球部の粗さを改善するためバレル仕上げを行い寸法確認後、圧縮機に組み込む。」(同4頁右下欄9?17行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「斜板圧縮機の斜板とシューとの摺動部分における耐焼付性改善を図ったシューにおいて、斜板と摺接するシューの底面の表面粗さが0.4μm以下の粗さになるようラップ仕上げを行ったシュー。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「鋼材」が前者における「摺動部材」に相当し、以下同様に、
「摺動部の表面」が「摺動面」に、
「帯状」が「線状」に、
「微少な円形」が「点状」に、
「レーザビームの照射によって鋼材の表面付近に熱を生じさせ、自然冷却により急冷されて、マルテンサイト変態して硬化させ」る態様が「直接焼き入れて」いる態様に、それぞれ相当している。
また、本願発明において、直接焼き入れた部分は凸部となっていることから、後者の「その凸部に隣接した部分を平坦部とする」態様が前者の「その直接焼入れ部分に隣接した部分に凹部を形成し」た態様に相当している。
更に、後者の「摺動部の表面に凸部及びそれに隣接した平坦部とからなる面を形成」する態様と、前者の「直接焼入れ部分と非直接焼入れ部分とで摺動面に凹凸面を形成し」た態様とは、「直接焼き入れ部分とそれに隣接した部分とで摺動面に凹凸面を形成し」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「摺動部材の摺動面を線状又は点状に直接焼き入れて凸部を形成するとともに、その直接焼入れ部分に隣接した部分に凹部を形成し、上記直接焼き入れ部分とそれに隣接した部分とで摺動面に凹凸面を形成した摺動部材。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
「直接焼き入れ部分に隣接した部分」及び「(直接焼き入れ部分と)それに隣接した部分」に関し、本願発明は「非直接焼入れ」部分としているのに対し、引用発明1では、焼き入れ状態について明確にされていない点。
[相違点2]
本願発明は、「凹凸面にラップ加工とバフ加工とを施して」いるのに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
本願発明は、「(凹凸面の)凸部の高さを0.1?1μmの範囲とした」のに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
本願明細書の【0007】段落を参照すると、レーザ照射による焼入れ範囲はレーザの照射位置を中心として、レーザが直接照射されない部分を含む断面半円形状となることが理解される。そうすると、本願発明における「非直接焼入れ部分」とは、上記断面半円形状の部分のうちのレーザ照射を直接受けずに焼き入れがされる部分のことであるといえる。
一方、引用発明1において、鋼材の摺動部の表面にレーザビームを照射した場合、レーザビームが照射された部分のみならず、照射された部分に隣接する一定の範囲においても、温度が上昇し自然冷却により急冷される温度変化が生じるため、当該一定の範囲において焼き入れがされることは明らかである。
したがって、引用発明における直接焼き入れて形成した凸部に隣接した部分である平坦部は、非直接焼入れ部分と認められるから、上記相違点1に係る構成は、実質的な相違点ではない。

・相違点2について
例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特許第2900467号公報(公報2頁4カラム40行?42行の「摺動面に平面ラップ加工とバフ加工とを順次施して半球シュを完成する」なる記載参照。)にも開示されているように、摺動部材の摺動面の表面粗さを整えるために、ラップ加工とバフ加工とを施すことは摺動部材の技術分野における周知技術である。
また、表面粗さを整えるための加工を施すのは、加工対象表面が所望以外の凹凸状態になっているからであると解されるから、上記周知技術は、凹凸面に対してラップ加工とバフ加工とを施す技術であるといえる。
そうすると、引用発明1に、上記周知技術を適用することにより、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点3について
引用発明2は、摺動面の耐焼付性向上という課題を解決するために、摺動部材(「シュー」が相当)の摺動面(「摺動部分」が相当)の凸部の高さ(「表面粗さ」が相当)を0.4μm以下の範囲としたものであり、摺動部材という引用発明1と同一の技術分野に属するといえると共に、上記課題は、引用発明1においても当然に要求されるべきものである。
また、本願発明の凸部の高さに関する0.1μm及び1μmという数値限定に臨界的意義は認められず、引用発明2では0.4μm以下の範囲で適切な値を適宜選択することが可能であるから、引用発明1における摺動面に、引用発明2を適用することにより、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって,本願発明は,引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-25 
結審通知日 2008-04-30 
審決日 2008-05-13 
出願番号 特願2004-257058(P2004-257058)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真一種子 浩明  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大河原 裕
小川 恭司
発明の名称 摺動部材  
代理人 神崎 真一郎  

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