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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A63B
管理番号 1180163
審判番号 無効2007-800254  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-12 
確定日 2008-06-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第3961170号発明「野球用又はソフトボール用バット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3961170号の請求項12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3961170号の請求項1乃至13に係る発明(平成11年10月29日出願、平成19年5月25日設定登録)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至13項に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、本件請求項12に係る発明は、特許請求の範囲の請求項に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「先端部(10)、打球部(11)、テーパー部(12)、グリップ部(13)とからなり、前記打球部の外周面(11a)に、打球時にボールに対して局所的変形を生じさせる少なくとも4つ以上の突起(2)を、前記打球部の円周方向、又は、長手方向に等間隔で形成した野球用又はソフトボール用バット(1)であって、前記突起(2)を形成した打球部(11)に、合成樹脂弾性体(3)が被覆されている事を特徴とする野球用又はソフトボール用バット(1)。」(以下、「本件発明」という。)

2.請求人の主張及び被請求人の応答
(1)請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件特許の請求項12に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたと主張し、証拠方法として甲第1号証(実願昭51-167948号(実開昭53-85255号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(実公昭30-18934号公報)、甲第3号証(実公昭36-27915号公報)、甲第4号証(実願平1-23447号(実開平2-114073号)のマイクロフィルム)、甲第5号証(実願昭52-88062号(実開昭54-16564号)のマイクロフィルム)、甲第6号証(特公昭36-22076号公報)、甲第7号証(実公昭45-20169号公報)及び甲第8号証(特開昭57-6668号公報)を提出している。
(2)被請求人の応答
被請求人は、答弁書の提出及び訂正の請求を行っていない。

3.甲第1号証乃至甲第8号証
請求人の提出した甲第1号証乃至甲第8号証には、本件発明に関連する事項として、それぞれ以下の事項が図示と共に記載されている。
(1)甲第1号証
ア.「外周壁に凹溝を周設した芯材と、芯材の外周を密着状に取り巻いている繊維強化プラスチツクの外層とから成ることを特徴とする野球用バツト。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
イ.「以上説明したように、この考案に係るバツトは、周壁に凹溝を有する芯材の外周にFRPの外層を設けた構造となつているから、芯材と外層とが強固に接着しており、しかも芯材の凹溝および凹溝内に嵌入して硬化したFRPの外層がリブの作用をなすから、バツト全体がきわめて剛性の大きなものとなる。したがつて、本考案のバツトを使用すると、打球時の打撃音および球の飛距離が向上し、また、堅牢なためにきわめて長期間の使用に耐える。」(4頁13行?5頁2行)
(2)甲第2号証
ウ.「図面に示すように適宜の堅木製の本体1の中央部2を残して上下両半部3,4に横方向に螺旋状条溝5,6を設けるよう成した野球バツトの構造。」(登録請求の範囲)
(3)甲第3号証
エ.「図面に示すようにバツト1の先端寄り側周であつて縦方向に凹凸条2を並行に設けた子供用野球バツト。」(登録請求の範囲)
(4)甲第4号証
オ.「[課題を解決するための手段]打球部の外周面に、凹条の筋目を長手方向に沿って設けたことを特徴とする金属製野球用バット、打球部の外周面に、凹条の筋目を長手方向に沿って隣設したことを特徴とする金属製野球用バットの構成とする。[作用]打球に際してボールを適確に捉えることができ、ボールに回転(スピン)やドライブを与えることが容易にできる。」(2頁8?17行))
カ.「打球部(a)に凹条[断面が角形、半円形その他適宜の形状とする]の筋目(c)を、適当間隔に金属製野球用バット(A)の長手方向に沿って設けてある。」(3頁2?5行)
キ.第1、2図から、打球部(a)の外周面に、少なくとも4つ以上の凹条の筋目(c)を等間隔で形成したバットが看取でき、また見方を変えれば、少なくとも4つ以上の前記凹条の筋目(c)の間に存在する部分を突起ということができるから、打球部(a)の外周面に、少なくとも4つ以上の突起を等間隔で形成したバットが看取できる。
(5)甲第5号証
ク.「バツトの打球部(1)のほぼ中央に位置する撃心(P)を含み適宜の幅の粗面部分(2)が設けられているとともに、該粗面部分(2)が微細かつ不連続な凹凸よりなることを特徴とする金属製野球用バツト。」(実用新案登録請求の範囲)
ケ.「従来より、木製あるいは金属製のバツトについて打球の瞬間におけるボールの滑りを防止する目的で、バツト軸方向に打球部のみ又は全長にわたつて凹凸状条を設けたもの、あるいは金属製バツトの全長にわたつて梨地状粗面としたものなどが提案されている。」(1頁13?18行)
(6)甲第6号証
コ.「本発明はバツトに於ける木理の剥離又は亀裂或は折損を防止することを目的とするものである。本発明はバツトの周りに熱収縮性合成樹脂を被着させ、これに熱を与えて収縮させることにより生ずる強力な引張応力によつて、前述合成樹脂膜をして強力な締付け状態のもとにバツト面に接着又は融着させたことを特徴とする野球用バツトに係るのである。」(1頁左欄6?12行)
(7)甲第7号証
サ.「本考案は主としてソフトボール及び軟式野球に用いるバツトに関し、その目的とするところはバツトの打球部外周に熱可塑性合成樹脂材による薄膜を被覆すると共に、バツトの中心に形成した空洞の周部に長手方向に数本の細孔を穿設し、これら各細孔に前述した合成樹脂材を圧入させる事により、打撃時に於ける打球の反発力を増大せしめ、且つ打球部外周の木目が逆剥する事を前記薄膜により確実に阻止させると共に、長期の使用に耐え得る事ができる様にしたものである。」(1頁1欄13?22行)
(8)甲第8号証
シ.「アルマイト皮膜2を被着し又はしないジエラルミン製中空体バツト1の握柄6を除く打球部3及び中間部5までを、強靱性、耐湿性、耐摩耗性を有するポリウレタン等の合成樹脂膜層4で被着することを特徴とする金属性バツト。」(特許請求の範囲の2項)
ス.「前記の強靱性、耐湿性、耐摩耗性の合成樹脂膜層4はポリウレタン樹脂の外、エポキシポリアミド樹脂、ウレタンエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等前記の特性を有する合成樹脂を適宜選択して使用するものとする。」(2頁左上欄17行?右上欄1行)
セ.「本発明のバツトは打球の最も接当率の多い打球部3の全面に強靱性、耐湿性、耐摩耗性の合成樹脂膜層4を被着してあるので、例えば20?100ミクロンの深さ程度の引かき傷や、多少の傷があつても、前記の合成樹脂膜層4の強靱性、耐湿性、耐摩耗性により保護せられ、打球によるバツト本体への震動を緩和して、前記の微小な傷を拡大進行又は酸化する事を防止することが出来るので、該バツトの打撃による金属組織の疲労により破損するまで使用し得られるので、本発明のバツトは極めて耐久性のある野球バツトを製作し得られる。」(2頁右上欄18行?左下欄8行)
記載シの金属製バツトは、記載セの野球バツトすなわち野球用バツトを含み、当該バツトは先端部をもっていることは自明であるから、以上の記載シ?セを含む甲第8号証の全記載によると、甲第8号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「先端部、打球部3、中間部5、握柄6とからなる野球用バツト1であって、握柄6を除く打球部3及び中間部5までをポリウレタン等の合成樹脂膜層4で被着する野球用金属製バツト1。」(以下、「甲8発明」という。)

4.対比・判断
本件発明と甲8発明とを対比する。
a.甲8発明の「先端部」、「打球部3」、「中間部5」及び「握柄6」は、それぞれ、本件発明の「先端部(10)」、「打球部(11)」、「テーパー部(12)」及び「グリップ部(13)」に相当している。
b.甲8発明の「野球用金属製バツト1」と本願発明の「野球用又はソフトボール用バット(1)」とは、「野球用バット」の点で共通している。
c.甲8発明は、握柄6を除く打球部3及び中間部5までをポリウレタン等の合成樹脂膜層4で被着するものであるから、両者は、打球部に合成樹脂体が被覆されている点で共通している。
以上のことから、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「先端部、打球部、テーパー部、グリップ部とからなり、前記打球部に、合成樹脂体が被覆されている野球用バット。」
[相違点]
A.本件発明では、打球部の外周面に、打球時にボールに対して局所的変形を生じさせる少なくとも4つ以上の突起を、前記打球部の円周方向、又は、長手方向に等間隔で形成していると特定されているのに対して、甲8発明では当該特定を有しない点。
B.打球部に被覆されている合成樹脂体が、本件発明では、「合成樹脂弾性体」と特定されているのに対して、甲8発明では、ポリウレタン等の合成樹脂であるものの前記特定を備えるのか定かでない点。
[相違点の判断]
相違点Aについて
上記甲第4号証には、打球に際してボールを的確に捉えることができ、ボールに回転(スピン)やドライブを与えることが容易にできるように、金属製野球用バットの打球部の外周面に少なくとも4つ以上の突起を円周方向に等間隔で形成することが記載されている(上記記載オ?キ参照)。
ところで、甲8発明において、打球部を含む部分をポリウレタン等の合成樹脂膜層4で被着するのは、「多少の傷があつても、前記の合成樹脂膜層4の強靱性、耐湿性、耐摩耗性により保護せられ、打球によるバツト本体への震動を緩和して、前記の微小な傷を拡大進行又は酸化する事を防止することが出来るので、該バツトの打撃による金属組織の疲労により破損するまで使用し得られる」(上記甲8号証の記載セ参照)ようにする課題のためであり、当該課題は、打球部の外周面に突起がない野球用バットに限らず、打球部の外周面に突起を形成した野球用バットであっても当然解決すべき課題の一つといえる。しかも、その解決手段も、合成樹脂体を打球部の外周面に被着するだけであるから、打球部の外周面に突起が存在していないものだけに適用可能な構成でもなく、打球部の外周面に少なくとも4つ以上の突起が存在しているものにも適用可能であることは自明である。
そうすると、甲8発明を、上記甲4号証に記載の打球部の外周面に少なくとも4つ以上の突起を円周方向に等間隔で形成した野球用バットに適用して、本件発明の相違点Aに係る構成を具備することは、当業者が想到容易であり、その作用効果も格別なものでない。
相違点Bについて
本件発明が打球部に被覆される合成樹脂を「合成樹脂弾性体」と特定していることに関して、本件の明細書の発明の詳細な説明には「図9に示すバットは、図1のバットの突起2を形成した打球部11に、合成樹脂弾性体3を被覆したものである。このように構成する事で、突起2による反発性向上の効果を保ちつつ、方向安定性をより向上させることができる。該合成樹脂弾性体3は、JISのA硬度40?90の物性を有するアイオノマー、ブタジエンラバー等のシート又はチューブで、このような合成樹脂弾性体3を被覆することで、ボールとの摩擦によりボールにスピンがかかり、この点からも飛距離が向上する。なお、弾性体チューブを用いる場合は、打球部11の突起2外周の径よりも若干小さな寸法のものを被覆したり、先端部10からテーパー部12まで被覆することで、チューブを抜け難くすることができる。また、合成樹脂弾性体3にエチレンプロピレン製熱収縮チューブ、ポリオレフィン系熱収縮チューブ、シリコーン製熱収縮チューブ、フッ素樹脂製熱収縮チューブ等を用いて、打球部11の突起2外周の径よりも若干大きな寸法として被覆し、加熱収縮させて突起2表面に密着するようにして取付ける事もできる。」(段落【0023】)と記載されている。当該記載によると、本件発明の「合成樹脂弾性体」に求められる作用効果は、突起による反発性向上の効果を保ちつつ、方向安定性をより向上させることであって、その弾性が打球を反発する作用に格別な寄与をなしているものと認めることができない。
一方、甲8発明の「ポリウレタン等の合成樹脂」に求められる作用効果も、打球の最も接当率の多い打球部3の全面に例えば20?100ミクロンの深さ程度の引かき傷や、多少の傷があっても、その強靱性、耐湿性、耐摩耗性により保護せられ、打球によるバット本体への振動を緩和して、前記の微小な傷を拡大進行又は酸化する事を防止することが出来る(上記甲8号証の記載セ参照)ことであって、その弾性(合成樹脂である限り多少なりとも弾性を備えているといえる。)が打球を反発する作用に格別な寄与をなしているものでない。
そうすると、本件発明の「合成樹脂弾性体」と甲8発明の「ポリウレタン等の合成樹脂」との間に作用効果上格別な差異が認められず、また、ポリウレタン等の合成樹脂は、クッション等の弾性性能が求められる部材等の材料として普通に使用されるものであることを考慮すると、相違点Bは実質的な相違点とはいえない。
したがって、本件発明は、甲8発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲8発明と甲4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-15 
結審通知日 2008-04-24 
審決日 2008-05-12 
出願番号 特願平11-309436
審決分類 P 1 123・ 121- Z (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡崎 彦哉  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 酒井 進
坂田 誠
登録日 2007-05-25 
登録番号 特許第3961170号(P3961170)
発明の名称 野球用又はソフトボール用バット  
代理人 草野 浩一  

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