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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1180220
審判番号 不服2006-3707  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-01 
確定日 2008-07-14 
事件の表示 特願2000-309818「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月15日出願公開、特開2001-130226、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年8月16日を特許出願日(優先権主張 平成6年8月18日)とする特願平7-208857号(以下、「原出願」という。)の一部を平成12年10月10日に新たな特許出願としたものであって、平成17年8月5日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成18年1月25日付けで拒絶査定がされたものであるところ、同年3月1日に審判が請求され(同年5月23日に手続補正書(方式)が提出された。)、同年3月30日に手続補正書が提出され、同年9月4日付けで前置報告がされ、その後、当審において、平成20年3月10日付けで審尋がされ、同年5月15日に回答書が提出されたものである。

II.平成18年3月30日提出の手続補正書により明細書についてした補正に対する補正の却下の決定
[結論]
平成18年3月30日提出の手続補正書により明細書についてした補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成18年3月30日提出の手続補正書により明細書についてした補正(以下、「審判時補正」という。)は、平成17年10月17日提出の手続補正書により明細書についてした補正(以下、「意見補正」という。)によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1において、特許を受けようとする発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「最大分散係数PSDrmax」に係る数式について、
「PSDrmax≦{100/(Ps/P1)^(10)}×(1/Rn)+5×{(1/Rn)+1}」」を、
「PSDrmax≦{100/(Ps/P1)10}×(1/Rn)+5×{(1/Rn)+1}」」と補正する補正事項aを含むものである。

2.補正の目的の適否についての検討
補正事項aによる補正の前後の「最大分散係数PSDrmax」について検討するに、P1は最短のピッチであり、Psは最長のピッチであることを踏まえれば、Ps/P1>1であるので、PSDrmaxの許容される上限値が大きくなることは明らかであるから、補正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、「100/((Ps/P1)^(10)」が「100/(Ps/P1)10」の誤記であると認めるべき理由は何ら存在せず、「100/(Ps/P1)10」と補正することによって、明りょうでない記載が明りょうとなるものでもない。
したがって、補正事項aは、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。

3.まとめ
補正事項aを含む審判時補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、第159条第1項において読み替えて準用する第53条第1項の規定により、これを却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

III.原査定の妥当性についての検討
1.本願に係る発明
II.で述べたとおり、審判時補正は却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、それぞれ、意見補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、要するところ、本願は適法な分割出願であると認められないから、本願についてはいわゆる出願の遡及を認めることができず、したがって、本願発明1ないし3は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1ないし3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、又は、これらに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により、特許を受けることができないというにある。
なお、引用文献1ないし3はいずれも、本願の特許出願日である平成7年8月16日より後に頒布されたものである。

3.分割の適否についての検討
(1)原査定の分割要件についての判断の概要
原査定において、本願は適法な分割出願であると認められないとする理由は、
第1に、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、カオス的関数を用いて模様構成単位列を設定するものが記載されているのみであって、カオス的関数を用いる以外の設定法により模様構成単位列を設定し、検定をクリアしたものについては何ら記載されていない(拒絶理由通知参照)、
第2に、原出願においては、カオス的関数を用いて模様構成単位配列を設定することが本来の主要な技術的事項であった上で、さらに、望ましくないものを選別するために特定の検定を行い、それをクリアしたタイヤを原出願における発明としていた。つまり、特定の配列設定方法より導き出された配列を有するもののうち、特定の検定をクリアしたタイヤが低騒音性に優れるということが、本来的に技術上の意義であると解される(拒絶査定参照)、及び、
第3に、本願においては模様構成単位配列の設定方法が特定されないから、カオス的関数を用いる以外の模様構成単位配列の設定方法により得られた配列に対して上記特定の検定方法により検定されたタイヤが低騒音性に優れるという新たな技術上の意義が追加されており、本願は分割要件を充足してはいない(拒絶査定参照)、
というものである。
要するところ、原査定は、原出願には、「カオス的関数を用いる配列設定方法より導き出されたピッチ配列を有するもののうち、特定の検定をクリアしたタイヤが低騒音性に優れる」ことのみが記載されていたとする旨の認定を基礎として、本願においては、新たな技術上の意義が追加されていると判断し、分割出願としての適法性を否定したものである。

(2)原出願の明細書等の記載
原出願の当初明細書等(以下、単に「原明細書」という。)には、以下の記載がある。
【0010】?【0011】: 「タイヤの低騒音のためには、模様構成単位のタイヤ周方向の長さ(ピッチ)が異なる種類数を3以上とすることを前提として、
(1)模様構成単位列が具えるべき特性
・ 不規則性(周期性がない)
・ ピッチ変化の連続性(近傍のピッチ間は関連性がある)
・ 類似した並びが発生しにくい
(2)模様構成単位列が排除すべき特性
・ 周期性
であることを見出した。
かかる特性の模様構成単位の配列を決定するべく、研究、開発を進めた結果、カオス関数の特性に着目した。」、
【0103】: 「このように、カオス的関数を用いて数列を選び、模様構成単位のピッチ配列を生成しうる。しかし、これらのことは、タイヤの低騒音化のためには、必要条件とはいえるが、十分条件を充足しているとはいいえない場合がある。
これは、カオス的関数により生成される数列は非常に不規則であり(予測できない)、他方、タイヤの模様構成単位列における模様構成単位の総数、即ちピッチ総数(Np)はそれ程大きくないため、生成された数列に偏りが混入している可能性がある。タイヤの低騒音化のためには、このような偏りを排除して最適な配列を選択する必要がある。種々検討した結果、つぎの事項について検定するのがよいことが判明した。」
【0133】?【0134】: 「以上述べたように、本発明の空気入りタイヤは、模様構成単位の配列を、以下の手順で求める。
○1 カオス的関数により数列を生成する。
○2 数列を模様構成単位のピッチ配列に変換する。
○3 Vr、Ru、PSDr max、SQ max/Npの適合性を確認し、検定する。
なお○3での検定が適合しない場合、○1に戻り、異なる初期値で数列を生成させ、工程を繰り返す。」(審決注: 「○1」ないし「○3」は、「○」の中に数字「1」ないし「3」が記載された数字記号である。)
【0150】: 「このように、本発明の空気入りタイヤは、従来のタイヤとトレッドパターンにおいて判別できる。」
【0157】: 「【発明の効果】
このように、本発明の空気入りタイヤは、…不規則性指数Vr、自己相関係数Ru、最大分散係数PSDr max、SQ max/Npが検定されることにより、不快音因子をなくした被検定の模様構成単位列となり、タイヤを低騒音化できかつユニフオミテイに優れたタイヤとなる。」

(3)原明細書に記載された発明の検討
原明細書には、段落【0133】?【0134】の記載などから、確かに、カオス的関数を用いる配列設定方法より導き出されたピッチ配列を有するもののうち、特定の検定をクリアしたタイヤ(以下、「検定タイヤ」という。)が低騒音性に優れることを見出したことが記載されている。また、段落【0103】の記載によれば、原明細書には、カオス的関数により生成される数列に特有の数列の偏りを排除することができる意味で、カオス的関数を用いる配列設定方法より導き出されたピッチ配列を有するタイヤに適した検定によって特定されたタイヤが記載されているということができる。
しかしながら、原明細書記載の検定方法が、カオス的関数を用いる配列設定方法より導き出されたピッチ配列を有するタイヤにのみ適合可能な検定であることが記載されている、と解すべき根拠はない。
例えば、段落【0157】の記載によれば、検定タイヤは、「不快音因子をなくした」低騒音タイヤであるが、該「不快音」は、カオス的関数を利用して模様構成単位の配列を定めたタイヤであるが故のものではなく、カオス的関数による不規則な数列に基づく構成単位列においても混入している可能性があるもので、検定により排除されるのは、不快音があるタイヤそのものである。
また、先に言及した段落【0103】についても、検定により排除されるのは、要するに、配列の生成方法の如何を問わず、ピッチ配列に偏りがあるタイヤそのものであると認められる。
すなわち、検定によりいかなるタイヤが排除されるのかを検討するに、該検定によって排除されるタイヤが、【0010】に記載されるようなタイヤの低騒音性等に要求される特性を欠くからであり、逆にいうと、原明細書には、検定の要件を充足するタイヤは、【0010】に記載されるようなタイヤの低騒音性等の要件を充足するものであることが記載されている、といえる。
加えて、原審審査官が、拒絶理由通知において、正しく指摘しているとおり、初期条件の設定を含むカオス的関数と、それにより発生した数列とは不可逆の関係にあるから、カオス的関数を利用して得たピッチ配列であれ、カオス的関数を利用せずに得たピッチ配列であれ、検定の要件を充足するタイヤは、【0010】に記載されるようなタイヤの低騒音性等の要件を充足するものであることに変わりはない。

したがって、原明細書には、配列設計方法の如何によらず、ある具体的なタイヤについて、低騒音性等の要件を充足するか否かの検定方法が記載されていたということができ、同時に、該検定方法を充足することによって特定されるタイヤが記載されていたということができる。
さらに、【0150】に「このように、本発明の空気入りタイヤは、従来のタイヤとトレッドパターンにおいて判別できる。」と記載されていることからも、原出願の当初明細書等には、カオス的関数を利用したかどうかが本来的に認識不能な、ある具体的なタイヤについて、トレッドパターンとして判別するための検定条件としての記載があったということができる。
してみれば、本願が原明細書に記載された事項に対して、更に、新たな技術上の意義を追加したものであるということはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願は、適法な分割出願であるので、特許法第44条第2項の規定により、もとの特許出願の時にしたものとみなされる。

IV.むすび
III.の2.で述べたとおり、引用文献1ないし3はいずれも、本願の特許出願日である平成7年8月16日より後に頒布されたものであるので、原査定のいわゆる新規性進歩性違反という拒絶の理由が成り立つ余地はない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2008-06-24 
出願番号 特願2000-309818(P2000-309818)
審決分類 P 1 8・ 57- WY (B60C)
P 1 8・ 03- WY (B60C)
P 1 8・ 113- WY (B60C)
P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 野村 康秀
山本 昌広
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 苗村 正  

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