• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1180266
審判番号 不服2004-24094  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-25 
確定日 2008-06-23 
事件の表示 平成 8年特許願第260028号「感光性平版印刷版及びその製造方法並びにその製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開、特開平10-100556〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月30日の出願であって、平成16年10月22日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月27日付で明細書について手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正の却下の決定
[本件補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「親水性表面を有するアルミニウム合金製の支持体上に感光層が形成された感光性平版印刷版の製造方法において、
前記感光性平版印刷版表面の陽極酸化皮膜の皮膜量を1.5g/m^(2 )?3.5g/m^(2 )とし、該感光性平版印刷版を裁断する際に発生するクラックが、該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生するように、感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、30ミクロンから100ミクロンの間に設定して感光性平版印刷版を裁断するようにしたことを特徴とする感光性平版印刷版の製造方法。」
から、補正後の
「親水性表面を有するアルミニウム合金製の支持体上に感光層が形成された感光性平版印刷版の製造方法において、
前記感光性平版印刷版を裁断する際に発生する最大開口幅0.5ミクロン以上のクラックが、該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生するように、該感光性平版印刷版表面の陽極酸化皮膜の皮膜量を1.5g/m^(2 )?3.5g/m^(2)とするとともに、感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、30ミクロンから100ミクロンの間に設定して感光性平版印刷版を裁断するようにしたことを特徴とする感光性平版印刷版の製造方法。」
と補正された(補正個所に下線を引いた。)。

(2)新規事項の追加
上記本件補正に係る請求項1の補正に関して、出願当初の明細書には、「【実施例1】評価材として以下のPS版を作成、使用した。99.5重量%アルミニウムに、銅を0.01重量%、チタンを0.03重量%、鉄を0.3重量%、ケイ素を0.1重量%含有するJISA1050アルミニウム材の厚み0.30mm圧延板を、・・・その表面を砂目立てし・・・エッチングし・・・電解粗面化処理を行った・・・エッチングし・・・デスマットし・・・電解時間の調節により陽極酸化皮膜重量2.7g/m^(2) とし・・・次に上記支持体に・・・感光液-1をバーコーターを用いて塗布し・・・このようにして作成した感光層の表面に下記の様にしてマット層形成用樹脂液を吹き付けてマット層を設けた。・・・かくして得られた板厚0.3mm、幅820mmのコイル状のPS版を幅400mmとなるように、上記スリッタ装置にて数種の条件で裁断したのち、カット長1100mmのシートに切断した。サンプルの形状としては、だれ変形がすくなく、クラックのみられないものからクリアランス並びに刃形状を変更して、だれ変形が20ミクロン以上あり、かつクラックの位置を変更したサンプルを用意した。・・・印刷評価を行うにあたり、製作したシートに画像を露光し、・・・現像し・・・FN-2、FN-6を水で1:1に希釈した液を現像後ただちに塗布、乾燥して製版を終了した。この印刷版をクラック汚れの出やすいマゼンタインクを用いてオフセット輪転印刷機にて、10万枚/時のスピードで2万枚印刷し、端部の汚れを評価した。その実験結果を下記式1(審決注:「表1」の誤記と認定)に示す・・・ここでいうクラックとは、シート表面での開口幅が0.5ミクロンを超えたものとする。」(段落【0055】?【0063】参照)と記載され(審決注:当該記載はその後の補正でも変更されていない。)、また、出願当初の明細書中の【表1】から、発生したクラック位置が端部から25?50ミクロンのサンプル4、同じく、25?75ミクロンのサンプル5、同じく、30?150ミクロンのサンプル6、同じく、25?160ミクロンのサンプル7、同じく、50?180ミクロンのサンプル9、同じく、30?200ミクロンのサンプル10が看取できる。
すなわち、出願当初明細書には、特定の材料(JISA1050アルミニウム材)で特定の条件で処理が加えられて陽極酸化皮膜重量2.7g/m^(2) とされた板厚0.3mm、幅820mmのコイル状のPS版を、特定のスリッタ装置で幅400mmに裁断してなる感光性平版印刷版の製造方法については記載され、特定の刃形状の上刃と下刃を使用しそのクリアランスが特定された切断方法(その具体的な切断速度等不明である)によれば、シート表面での開口幅が0.5ミクロンを超えた感光性平版印刷版が製造され得ることが記載されているが、上記本件補正に係る請求項1の記載で特定される感光性平版印刷版の製造方法まで一般化される根拠あるいは裏付けになる記載はなく、したがって、本件補正後の請求項1に係る感光性平版印刷版の製造方法には、発明は出願当初の明細書で記載した特定の材料、特定の処理条件でないものによる感光性平版印刷版の製造方法を含む点において、新規事項を追加するものである。
ゆえに、本件補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした明細書の補正であるとはいえず、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反している。

(3)独立特許要件
しかし仮に、本件補正を新規事項を追加するものでなく、補正前の請求項1に係る感光性平版印刷版の製造方法について、「クラック」を「最大開口幅0.5ミクロン以上のクラック」と限定するものすなわち平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討することにする。
(3-1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前の平成8年1月16日に頒布された特開平8-11451号公報(以下「引用例」という。)には、次のア?キの記載が図示とともにある。
ア.「本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、印刷初期においても、また印刷部数が多くなっても、印刷物の周辺に汚れが発生することのない感光性平版印刷用アルミニウム板を提供することにある。」(段落【0008】参照)
イ.「【課題を解決するための手段】上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明においては、上下一対の刃を有するスリッターにて、コイル状またはシート状の広幅感光性平版印刷用アルミニウム板を所定サイズに切断して製品を製造する際に、上記スリッターの上刃を下刃に対して製品の外側に来るように配置して行っている。また、本発明においては、上記製造方法で切断された製品の対向する少なくとも二方のへりが、表面と反対側に向かって10?150μmの範囲で曲がっている。」(段落【0010】?【0011】参照)
ウ.「本発明のアルミニウム板Aのへりを10?150μmの範囲で曲げながら切断する方法としては、図2に示すように、スリッター1の上刃2を下刃3に対して製品Bの外側に配置し、しかも好ましくは、上刃2と下刃3との隙間(クリアランス)を、切断するアルミニウム板Aの板厚の2?20%分広げて行うか、あるいは上刃2と下刃3の食い込み(オーバラップ)を0.5?3.0mmの範囲に設定して行う。このようにして切断されたアルミニウム板Aのへりの断面部は、図4に示すようになり、S部分がへりであり、寸法Lだけ表面より下側に曲げて形成されている。本発明で称しているへりSの幅寸法Mは、切断されるアルミニウム板Aの板厚分かそれ以下に設定されている。また、上記へりSの曲がり寸法Lは10?150μmの範囲、より好ましく30?100μmであることが望ましく、10μm以下ではへりSにインキが溜まりやすく、版の端部に汚れが出やすくなり、150μm以上では下部に出るバリ(突起)が大きくなりすぎて、アルミニウム板Aの平滑性(平面性)が損なわれたり、アルミニウム板Aを装着させる印刷機の版胴を傷つけたりするので好ましくない。また、使用する上下刃2,3の形においても曲がり寸法および角度は違ってくるが、好ましくは下刃3が平刃であって、上刃2に少し角度を付けた皿刃かあるいは角度が少しつづ異なる二段刃を用いる方が良い。」(段落【0017】?【0020】参照)
エ.「また、本発明の製造方法に用いるアルミニウム板Aは、平版印刷版用として、はじめに砂目立処理が施されるのが好ましい。この砂目立処理は、一般に機械的方法や電気的方法により砂目立て(研磨、粗面化)を行うか、又は化学的エッチングするか、あるいはこれらの処理を組み合わせることにより行われる。次いで、陽極酸化処理が行われ、通常、硫酸あるいはリン酸浴の中で行われ、これによってアルミニウム板Aの表面に陽極酸化皮膜が形成される。このようにして陽極酸化処理が施されたのち、必要に応じて親水化処理が施される。このようなアルミニウム板Aには感光層4が塗布されるが、感光層4については、特に制限はなく、従来感光性印刷版材における感光層として慣用されているもの、例えばジアゾ樹脂と疎水性樹脂から成るもの、Oーキノンジアジド化合物とアルカリ可溶性樹脂から成るもの、光重合性あるいは光架橋性組成物から成るもの、光導電性組成物から成るものなどを用いることが可能である。」(段落【0024】?【0026】参照)
オ.「実施例1まず、厚さ0.3mm、幅460mmのコイル状アルミニウム板(JIS規格での材質1050)を用意する。そして、このコイル状アルミニウム板を・・・表面を研磨し・・・エッチングし・・・電解研磨し、・・・エッチングし、・・・陽極酸化処理を行って、2.0g/m^(2) の酸化皮膜を形成させ・・・得られたアルミニウム板上に・・・感光液を・・・塗布して乾燥させ、コイル状に巻き上げた。・・・次いで、図2に示すように2組のスリッター1の上下刃2,3を幅方向に間隔を開けてそれぞれ所定の位置にセットするとともに、これら上下刃2,3のクリアランスを20μmとし、製品Bの幅を398mm(両サイドエッヂの不要部分Cを31mm)に切断しながら、・・・感光性平版印刷板(PS版)aを数千枚作製した。」(段落【0028】?【0033】参照)
カ.「上記PS版aの398mm辺のへりを電子顕微鏡によって曲がり寸法Lを測定したところ、約80μmであった。一方、PS版bの一辺には、約35μmのバリが上面側に出ていた。」(段落【0037】参照)
キ.「本発明の感光性平版印刷用アルミニウム板は、上記製造方法で切断された製品の対向する少なくとも二方のへりが、表面と反対側に向かって10?150μmの範囲で曲がっているので、平滑性に優れており、装着時に印刷機の版胴を傷付けたりすることはなく、耐久性を高めることができる。」(段落【0044】参照)
上記記載ア?キを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次の発明が記載されている。
「親水性表面を有する厚さ0.3mmのコイル状アルミニウム板A(JIS規格での材質1050)の支持体上に感光層が形成された感光性平版印刷版の製造方法において、
該感光性平版印刷版表面の陽極酸化皮膜の皮膜量を2.0g/m^(2 )とするとともに、2組のスリッター1の上下刃2,3を幅方向に間隔を開けてそれぞれ所定の位置にセットするとともに、これら上下刃2,3のクリアランスを20μmとして感光性平版印刷版を裁断するようにした感光性平版印刷版の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

(3-2)対比・判断
補正発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「厚さ0.3mmのコイル状アルミニウム板A(JIS規格での材質1050)の支持体」における「アルミニウム板A(JIS規格での材質1050)」とは、その化学成分(%)が、Al:99.50、Si:0.25、Fe:0.40、Cu:0.05、Mn:0.05、Mg:0.05、Ti:0.03であるアルミニウム合金をいうから、引用発明の「厚さ0.3mmのコイル状アルミニウム板A(JIS規格での材質1050)の支持体」は、「アルミニウム合金製の支持体」ということができる。
b.引用発明の「陽極酸化皮膜の皮膜量を2.0g/m^(2 )とする」と補正発明の「陽極酸化皮膜の皮膜量を1.5g/m^(2 )?3.5g/m^(2)とする」とは、「陽極酸化皮膜の皮膜量を2.0g/m^(2 )とする」点で共通している。
c.引用発明の「2組のスリッター1の上下刃2,3」は、「感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃」ということができ、したがって引用発明の「上下刃2,3のクリアランス」と補正発明の「感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間」に相当し、結局、引用発明の「上下刃2,3のクリアランスを20μmとして感光性平版印刷版を裁断するようにした感光性平版印刷版の製造方法」と補正発明の「感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、30ミクロンから100ミクロンの間に設定して感光性平版印刷版を裁断するようにしたことを特徴とする感光性平版印刷版の製造方法」とは、「感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、特定値に設定して感光性平版印刷版を裁断するようにした感光性平版印刷版の製造方法」の点で共通している。
以上のことから、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「親水性表面を有するアルミニウム合金製の支持体上に感光層が形成された感光性平版印刷版の製造方法において、
該感光性平版印刷版表面の陽極酸化皮膜の皮膜量を2.0g/m^(2)とするとともに、感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、特定値に設定して感光性平版印刷版を裁断するようにした感光性平版印刷版の製造方法。」
[相違点]
A.感光性平版印刷版裁断用の上刃と下刃との隙間を、補正発明では、30ミクロンから100ミクロンの間に設定していると特定しているのに対して、引用発明では、20ミクロンである点。
B.補正発明では、「感光性平版印刷版を裁断する際に発生する最大開口幅0.5ミクロン以上のクラックが、該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生するように感光性平版印刷版を裁断する」と特定されているのに対して、引用発明では、当該特定を有しない点。
[相違点の判断]
上記相違点について検討する。
相違点Aについて
上記引用例には、「アルミニウム板Aのへりを10?150μmの範囲で曲げながら切断する方法としては、図2に示すように、スリッター1の上刃2を下刃3に対して製品Bの外側に配置し、しかも好ましくは、上刃2と下刃3との隙間(クリアランス)を、切断するアルミニウム板Aの板厚の2?20%分広げて行う」と記載されており、引用発明の裁断対象であるアルミニウム版Aの厚さが0.3mmであるから、当該記載は上刃2と下刃3との隙間(クリアランス)を6ミクロンから60ミクロンの範囲とすることを示していることになり、当該範囲は30ミクロンから60ミクロンの範囲で補正発明とかさなっているから、引用発明において、相違点Aに係る補正発明の特定を満たす範囲の構成を具備することは、当該記載にふれた当業者であれば想到容易な事項である。
相違点Bについて
引用例には、感光性平版印刷版を裁断する際に発生する最大開口幅0.5ミクロン以上のクラックが、該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生することについての言及はない。
しかし、表面に粗面化処理及び陽極酸化処理等を順次施しアルミニウム支持体を切断して作成したPS版材の端面付近の陽極酸化被膜にクラックが発生することがあること並びに該クラックの発生の有無はカッターの種類及び刃の調整等に依存することは、例えば、特開平5-104872号公報の「平版印刷版材としては、アルミニウム支持体上に感光層を設けたPS版材が主流を占めている。このPS版材は、通常、シート状あるいはコイル状のアルミニウム支持体を種々の方法で脱脂洗浄後、機械的方法や電気的方法により砂目立て(研磨)し、さらに化学的エッチング処理するなど、粗面化処理したのち、陽極酸化処理及び必要に応じて親水化処理を施し、次いで所望の印刷機に合ったサイズに該支持体を裁断してから感光層を設けるか、又は感光層を設けてから、そのサイズに合うように裁断するといった方法で作成されている。そして前記裁断処理には、例えばロータリーシャー、フラングシャー、ダウンカットシャーなどが使用されている。・・・得られたPS版材においては、アルミニウム支持体の端面付近の陽極酸化皮膜にクラックが発生し、」(段落【0002】?【0003】参照)、「該アルミニウム支持体を所望形状に裁断するには、従来アルミニウム支持体の裁断に慣用されているカッター、例えばロータリーシャー、フラングシャー、ダウンカットシャー、アップカットシャー、スリッター、枚葉断裁機などの中から任意のものを選び用いることができる。」(段落【0012】参照)、「用いられるクラック発生を伴わないカッターとしては、例えばスリッターが好適である。ロータリーシャー、フラングシャー、ダウンカットシャー、アップカットシャーなどを用いて裁断すると、支持体端面の内側ヘリの陽極酸化皮膜にクラックが発生しやすい。なお、これらのカッターでも刃を調整することにより、該クラックの発生を防止することができる。」(段落【0016】参照)の各記載にみられるように周知の事項である。
また、一般に、一端が固定された物体の他端の自由端に垂直荷重が加えられると、その荷重によって物体は曲げ変形し、該曲げ変形が該物体の弾性限界あるいは塑性限界を超えると、曲げ変形が最大となる箇所である物体の固定端の外表面(部分)にクラックが発生し、クラックの開口幅の寸法は、物体(表面)の構成材料と曲げ変形の程度に依存することは、技術常識であり、そして、スリッターの上刃を下刃に対して製品となるPS印刷版の外側に配置した場合、該PS印刷版の曲げ変形及びクラックの発生態様は、下刃と接するところが固定端となり、外刃が接するところが垂直荷重が加えられる自由端となる物体の曲げ変形及びクラックの発生態様に対応していると考えることができる。
さらに、上刃2と下刃3との隙間(クリアランス)を6ミクロンから60ミクロンの範囲とすることは、上述のとおり当業者が容易であって、その際、刃の調整、陽極酸化被膜の態様、切断刃への荷重の大きさ等を適宜変更することも当業者が普通に想起できることである。
さらにまた、引用発明と補正発明の実施例は、支持体として使用するアルミニウム板が厚さ0.3mmのコイル状アルミニウム板A(JIS規格での材質1050)である点で共通し、それに施される粗面化処理及び陽極酸化処理等の内容も格別異なるものでない。
そうすると、補正発明の実施例1の実験結果が感光性平版印刷版を裁断する際に発生する最大開口幅0.5ミクロン以上のクラックが該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生していることを開示している本件の発明の詳細な説明の記載(上記2.(1)参照)が虚偽内容を示していないとすれば、引用発明においても、当業者が適宜採用可能な事項である、刃の調整、陽極酸化被膜の態様、切断刃への荷重の大きさ等を変更すれば、当然、補正発明と同様に、最大開口幅0.5ミクロン以上のクラックが該感光性平版印刷版の端部から内側に25ミクロン以上離れた位置で発生することになり、結局、相違点Bは当業者が適宜採用可能な設計変更によるものと認める。
したがって、補正発明は、引用発明、引用例の他の記載及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反すると共に平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(上記2.(1)参照)。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、補正発明の特定事項から、「クラック」に関する「最大開口幅0.5ミクロン以上の」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項の全部をその特定事項とし、さらに、他の特定事項をその特定事項としたものに相当する補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明、引用例の他の記載及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様な理由により、引用発明、引用例の他の記載及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結び
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-01 
結審通知日 2008-05-02 
審決日 2008-05-13 
出願番号 特願平8-260028
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41N)
P 1 8・ 561- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子東 裕子  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 上田 正樹
長島 和子
発明の名称 感光性平版印刷版及びその製造方法並びにその製造装置  
代理人 松浦 憲三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ