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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D |
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管理番号 | 1180287 |
審判番号 | 不服2006-25573 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-11-13 |
確定日 | 2008-06-23 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第259574号「チーズ用包装材及びチーズ包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開、特開平10-101174〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1. 手続の経緯 本願は、平成8年9月30日の出願であって、平成18年10月6日付け(発送:同年10月13日)でなされた拒絶査定に対し、平成18年11月13日にこれを不服として審判請求がなされるとともに、同年11月24日に明細書についての手続補正がなされたものである。 2. 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成18年11月24日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は、次のとおり記載されている。 「【請求項1】薄型チーズ(3)に巻装されるフィルム基材(1)が、薄型チーズ(3)に装着される時の内面側にはプロピレン-エチレン共重合体又はプロピレン-エチレン-ブテン共重合体系樹脂からなるヒートシール層(4)が形成され外面側がポリプロピレン系樹脂から形成された二軸延伸フィルムからなり、該フィルム基材(1)の両端部(2),(2)において、前記フィルム基材(1)の上から前記薄型チーズを押圧して前記両端部(2),(2)から前記薄型チーズを押し除くと同時に、前記両端部(2),(2)を前記ヒートシール層(4)によって剥離可能にヒートシールできることを特徴とするチーズ用包装材。」(以下この発明を「本願発明」という。) 3. 刊行物の記載事項 (3-1) 刊行物1に記載された発明 本願出願前に頒布された特開平6-24463号公報(以下「刊行物1」という。)の段落【0001】、【0013】、【0014】、【0018】、【0022】には、以下の事項が図面とともに記載されている。 (a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、スライス済食品、特にチーズスライス片、用のフィルム、に関する。ここで言うフィルムは、偏平にしたチューブの形状で前記食品に巻きついて、前記食品を完全に包み込んでおり、フィルムの縦方向のふたつの端部が重なり、フィルムの全面または一部に設けられたホットシール被膜によりお互いにくっついている。」 (b)「【0013】図1に、本発明によるフィルム1で形成された包装形態の態様を、上部を一部切り取った斜視図で示す。フィルム1は長方形のチーズスライス片9に密着しており、後者を完全に包んでいる。チーズスライス片の回りに折り曲げてあるチューブ状フィルム1の重なっている端部2および3は、剥離可能なオレフィン共重合体および(または)ポリエステル共重合体からなり、帯状の形態をしたホットシール被膜4の部分で互いに結合している。ホットシール被膜4は、フィルムの端部12に近接し、かつ平行に通っていて、例えば2 ?4cm の幅である。ホットシール被膜4の幅は、1cm から上限は10cmであってよい。パッケージの下部には、図式的に示されている、例えば包装されたチーズについての様々なデータをコードの形態で含む、印刷領域がある。図1の切り取られた部分が示すように、全表面被膜13には付加成分混合物が設けてあり、その上には、例えば、もしフィルム1が印刷されているなら印刷インク、が存在する。二つのフィルム層10および11が重ねあわさっているウェブ様の領域6および7は、包装されたチーズスライス片の左右に、ホットシール被膜4に対して直角に伸びている。非常に薄いチーズ層8は、フィルム層10および11の間に包まれており、二つの重なりあったフィルム層をお互いに接着する効果をもつ。パッケージの残りの領域では、チーズ層、すなわち二つの領域6および7の間の近隣のチーズスライス片は、かなり厚くて、1cm までの厚さであってよい。」 (c)「【0014】撥水性付与のため、摩擦係数改良のため、およびチーズ/フィルムのくっつきを減じるための付加成分混合物の塗布、ホットシール可能かつ剥離可能なオレフィン共重合体またはポリエステル共重合体の、一部または全面への塗布、および印刷は、同時に一回の操作で行われる。」 (d)「【0018】包装物の製造に適当なフィルムは、単層または共押し出しされた多層のポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルム、であり、2軸延伸され、固定されたものである。その厚さは、8 ?30μm、特に10?23μm、の範囲である。同様に、フィルムは、透明または不透明な、2軸延伸された単層ポリオレフィンフィルム、または共押し出しされて、2軸延伸された多層ポリオレフィンフィルムからなる。後者の場合、ベース層は基本的にプロピレン重合体からなり、片面または両面にある上層はオレフィン重合体、特にプロピレン重合体、からなる。」 (e)「【0022】包装物を製造するために、包装される品物のためのチューブは、まず、フィルムから垂直形成/充填/密封装置で成形され、縦軸方向の、帯状のシール被膜に沿った合わせ目が形成される。同時に、ペースト状態の食品、例えばチーズをチューブに上から充填する。充填されたチューブは平らにプレスされ、横軸方向のウェブ様の領域で圧縮して、両フィルム層間からペースト状食品が事実上完全に除去されるようにする。冷水浴を通したあと、平たいフィルムチューブはシールの合わせ目に対して直角に、ウェブ様領域で切り離される。二つの分離端では、包装物は重ね合わせられたフィルム層の圧縮だけで封をされており、その二つのフィルム層は、その間にあって、冷却により固体化した少量の食品によりくっついている。水浴で冷却し、ウェブ様領域で分離されたあと、包装される食品、例えば長方形のチーズスライス片、はフィルムに包まれる。すなわち、このフィルムは品物に密着し、フィルムの二つの重ねあわさった端部がホットシール可能な被膜の領域でシールされている。」 そして、上記各記載及び図1から次の事項は明白である。 ・特に摘示事項(a)から、フィルムは、偏平にしたチューブの形状でチーズスライス片に巻きついて、これを完全に包み込むものであるから、チーズスライス片に巻装されるものである。 ・特に摘示事項(a)?(d)から、オレフィン共重合体からなる被膜は、チーズスライス片に装着されるときの内面側にあり、ホットシール可能なホットシール層を形成していること。 ・特に摘示事項(a)?(d)から、ベース層がプロピレン重合体から形成された二軸延伸フィルムであり、外面側にあること。 ・摘示事項(a)及び(e)から、フィルムの縦方向の両端部が重ねられ、横軸方向のウェブ様領域を形成し、フィルムの上からチーズスライスを圧縮して、このウェブ様領域からチーズスライス片を事実上完全に除去し、圧縮によりシールされていること。 ・摘示事項(a)及び(e)から、ウェブ様領域におけるシールは、フィルム基材を圧縮するだけで行っているので、チーズスライス用フィルムの開封構造として要求される機能からみても、当該ウェブ様領域は剥離可能にシールされていること。 したがって、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「チーズスライス片に巻装されるフィルムが、チーズスライス片に装着される時の内面側にはオレフィン共重合体からなるホットシール被膜が形成され外面側がプロピレン重合体から形成された二軸延伸フィルムからなり、該フィルムのウェブ様の領域において、前記フィルムの上から前記チーズスライス片を圧縮して前記ウェブ様の領域から前記チーズスライス片を事実上完全に除去するとともに、前記ウェブ様の領域を圧縮により剥離可能にシールしたチーズスライス用フィルム。」 (3-2) 刊行物2に記載された技術的事項 本願出願前に頒布された特開平7-266417号公報(以下「刊行物2」という。)の段落【0001】、【0002】には、以下の事項が記載されている。 「【産業上の利用分野】本発明は、青果物、ベーコンやハムの加工肉食品の包装材に適した防曇性を有する透明な積層樹脂フィルムの製造方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、この種の透明な防曇性積層フィルムとしては、次のものが提案されている。ポリプロピレンやエチレンテレフタレートの二軸延伸フィルム基材の表裏面に、この基材の樹脂融点よりは低い融点を有するエチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1ランダム共重合体、低密度ポリエチレン/等のヒートシール性樹脂に防曇剤を配合した防曇性を有するヒートシール性樹脂層を設けた防曇性積層フィルム(特開昭57-63251号)。」 4. 対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その文言上の意義、構造及び機能等からみて、引用発明における「チーズスライス片」、「フィルム」、「ホットシール被膜」及び「チーズ用包装材」は、本願発明の「薄型チーズ」、「フィルム基材」、「ヒートシール層」及び「チーズスライス用フィルム」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の「オレフィン共重合体」は、本願発明の「プロピレン-エチレン共重合体又はプロピレン-エチレン-ブテン共重合体系樹脂」を含む重合体であり、また、ポリプロピレンはプロピレンの重合体であるから、引用発明の「プロピレン重合体」は、本願発明の「ポリプロピレン系樹脂」に含まれる。 そして、引用発明の「圧縮」とは、圧力をかけながらフィルムの開放端部の間隔を縮めることであるから、本願発明の「押圧」に相当する。 さらに、引用発明の「ウェブ様の領域」は、包装材にチーズを充填した後に、圧力を加えることでチーズの排除と封止処理を行う箇所であるから、本願発明の「両端部」に相当する。 そうすると、引用発明における「フィルムのウェブ様の領域において、前記フィルムの上から前記チーズスライス片を圧縮して前記ウェブ様の領域から前記チーズスライス片を事実上完全に除去するとともに、ウェブ様の領域を圧縮により剥離可能にシール」する点は、「フィルム基材の両端部において、前記フィルム基材の上から前記薄型チーズを押圧して前記両端部から前記薄型チーズを押し除くと同時に、前記両端部を剥離可能にシール」する点の限りで、本願発明における「フィルム基材の両端部において、前記フィルム基材の上から前記薄型チーズを押圧して前記両端部から前記薄型チーズを押し除くと同時に、前記両端部を前記ヒートシール層によって剥離可能にヒートシール」する点と共通する。 したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 〈一致点〉 「薄型チーズに巻装されるフィルム基材が、薄型チーズに装着される時の内面側にはオレフィン共重合体からなるヒートシール層が形成され外面側がポリプロピレン系樹脂から形成された二軸延伸フィルムからなり、該フィルム基材の両端部において、前記フィルム基材の上から前記薄型チーズを押圧して前記両端部から前記薄型チーズを押し除くと同時に、前記両端部を剥離可能に封止したチーズ用包装材。」 〈相違点1〉 フィルム基材の内面側に設けたオレフィン共重合体のヒートシール層に関して、本願発明においては、「プロピレン-エチレン共重合体又はプロピレン-エチレン-ブテン共重合体系樹脂」であるのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。 〈相違点2〉 フィルム基材の両端部の封止処理に関して、本願発明においては、両端部をヒートシールしているのに対して、引用発明においては、両端部を圧縮によりシールしている点。 5. 相違点についての検討及び判断 (1)相違点1について 刊行物2には、食料品用包装フィルムのヒートシール層として、「エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1ランダム共重合体」を用いることが記載されている。 したがって、チーズ用包装材のヒートシール層として、オレフィン共重合体の中から刊行物2に記載された「プロピレン-エチレン共重合体又はプロピレン-エチレン-ブテン共重合体系樹脂」を採用し、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について 本願発明の相違点2に係る構成の技術的意義について検討する。 本願の明細書の段落【0003】、【0004】、【0006】、【0024】、【0027】には、本願発明の技術的課題として次のように記載されている。 「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし、このようなチーズ包装体は、両端部においてはフィルム基材はなんらシールされていなかったため、外袋を開封した後長期間保存した場合に、包装体の両端部の非接着部分から内部のチーズが乾燥して、風味が損なわれるおそれがあった。」 「【0004】そこで、フィルムの開放端部をヒートシール等によってシールすることが考えられるが、ポリエステル系樹脂フィルムはヒートシール性が良好ではなく、またヒートシール性を有する樹脂との共押出による積層フィルムの製造も困難で、さらに他のヒートシール性フィルムをラミネートすると高価になるため、フィルムの開放端部をシールすることが困難であった。」 「【0006】本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、シール性が良好であり、しかも軟質のチーズを包装した場合にもチーズとの剥離性が良好で開封容易であるチーズ用包装材及びチーズ包装体を提供することを課題とする。」 「【0024】この時のヒートシール強度は、シール部が密封できるように完全に接着でき、且つ開封時には容易に剥離できる程度の強度にシールされることが好ましい。ヒートシール層4を上記のような樹脂の共押出によって形成するため、このような強度のヒートシール性を容易にフィルムシート11に付与することができる。」 「【0027】このようにして形成されたチーズ包装体6は、フィルム基材1が両端部2,2 においてヒートシールされているため、内部の密封性が高まり薄型チーズ3が端部から乾燥したり、風味が損なわれることなく良好な状態で保存できる。また、巻付け方向の両端部1a,1b は単に重ね合わされているだけであるため、包装体6を開封する場合には、該両端部1a,1b から剥離するが、この時フィルム基材1のヒートシール部は容易に剥離できる程度の強度でシールされているため、簡単に開封することができる。」 これらの記載からみて、本願発明の相違点2に係る構成の技術的意義は、薄型チーズが端部から乾燥したり、風味が損なわれることなく良好な状態で保存できるように高い密封性を有するとともに、開封容易なシール部を構成することにあると解することができる。 一般に、薄型チーズを含む食品は外気と接触することにより、乾燥や風味の劣化等が生じることから、特に中長期間の保存を前提とした固型乳製品等の食品の包装においては、包装体のシール箇所に高い密封性が要求されることは、当業者にとって広く知られた技術的課題である。とりわけ薄型チーズ用の包装材には、上述の密封性に加え、取り出す際の剥離容易性が求められることも、当然の課題といえ、このような密封性を実現するため、フィルム基材の重なり部分を、ヒートシールにより密封することは、本願出願前に広く採用されている周知技術である。 現に刊行物1には、摘示事項(b)等に、フィルムの両端部ではないものの、オレフィン共重合体からなるヒートシール層により、ホットシール被膜4を形成することが示されており、しかも、特に摘示事項(c)等によれば、このヒートシール層は、全面に形成されているから、引用発明における両端部においても、ヒートシールが可能であることは明白である。 そして、一般にヒートシールにおいても、シートのシールはヒートシールバーでシートの重なり部分を押圧する等により行われるものであるから、引用発明において、両端部を圧縮してシールする手段として、このようなヒートシールバーを用いることにより、本願発明の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。 6. むすび 本願発明を全体構成でみても引用発明及び刊行物2に記載された技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-23 |
結審通知日 | 2008-04-25 |
審決日 | 2008-05-08 |
出願番号 | 特願平8-259574 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B65D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 市野 要助 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
遠藤 秀明 佐野 健治 |
発明の名称 | チーズ用包装材及びチーズ包装体 |
代理人 | 藤本 昇 |