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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1180416
審判番号 不服2006-3363  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-23 
確定日 2008-07-02 
事件の表示 特願2002-220850「トライオード構造電子放出源の製法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 4日出願公開、特開2003-100202〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成14年7月30日(パリ条約による優先権主張2001年9月12日、台湾)の出願であって、平成17年11月21日付け(発送日同年11月29日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


2.本願発明について
本願の請求項1?22に係る発明は、平成16年9月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項8に係る発明(以下、「本願発明8」という。)は次のとおりである。

「【請求項8】 陰極層を基板上に形成する工程と、
誘電体層を前記陰極層上に形成して、開口部を前記誘電体層中に設けて前記陰極層を露出して、前記開口部が周囲領域を有する工程と、
該周囲領域以外の前記誘電体層上にゲート層を形成する工程と、
犠牲層を前記ゲート層および前記周囲領域上に形成して、前記開口部および前記陰極層を露出する工程と、
スクリーン印刷を利用して、カーボンナノチューブ溶液を前記開口部中に塗布する工程と、
熱処理によって
前記犠牲層を除去する工程とを含むトライオード構造電子放出源の製法。」


3.引用例に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前である平成12年10月6日に頒布された刊行物である特開2000-277003号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、

(1-1)「【0036】図8は、図5に示した装置を用いた電子放出源の製造方法を説明するための部分断面図である。図8において、基板としての電子放出源用基板800は、ガラス製の基板801、第1の電極としてのカソード電極802、抵抗層803、絶縁層804、第2電極としてのゲート電極805およびリフトオフ膜806が積層配設されると共に、抵抗層803が露出するように凹部807が形成されている。」

(1-2)「【0038】これにより、図8に示すように、抵抗層803およびリフトオフ膜806にカーボン粒子808が被着する。この状態で、リフトオフ膜806を剥離除去することにより、図4と同様に、カーボン粒子808が抵抗層803にのみ被着したエミッタが形成され、電子放出源が出来る。この場合にも、過電流によるエミッタ破壊防止のための抵抗層803を使用しない場合には、カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンの層およびそれらが表面に成長した微少カーボン粒子808はカソード電極802上に直接被着される。」

(1-3)「【0017】さらにまた前記基板に、前記電子放出源をペースト状にして、印刷法、電着法、スラリー形成法、ドクターブレード法、沈降法、インクジェット印刷法などにより形成するか、または粉体状熊で静電吸着被着させることにより前記電子源層を形成してもよい。また前記基板は、第1の電極、絶縁層、第2の電極およびリフトオフ層が堆積されると共に、前記第1の電極が露出するように凹部が形成されており、前記基板に前記電子放出材料を被着してエミッタを形成した後、前記リフトオフ層を除去する。」

(1-4)「【0045】なお、前記したグラファイトなどの材料表面を局所的に加熱溶融させるのに、補助加熱法として、抵抗加熱、レーザ照射、ランプ加熱などの組み合わせも適用出来る。また、前記カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンまたはこれらの中のいずれかの混合物、あるいはそれらが表面に成長した微少なカーボン粒子を収集してペースト状にし、印刷法、電着法、スラリー形成法、ドクターブレード法、沈降法、インクジェット印刷法などにより形成するか、または粉体状態で静電吸着被着させることにより前記エミッタを形成することが出来ることにより、製造が容易な電子放出源の製造方法を提供することが可能になる。」

(1-5)「【0047】このようにして得られた電子放出源は、微少カーボン粒子表面にウニ状に多数のカーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンあるいはこれらの混合物が形成されているので、これをカソード基板に形成する際に、いかなる方向に前記カーボン粒子が置かれても、常に基板に対して垂直な方向に向いているカーボンナノチューブが一定の割合以上に高密度に存在するため、電界放出電子源として、引き出し電界が小さく高電流密度の電子源が得られる。 例えば、Spindt型電界放出素子と比較した場合、より低い駆動電圧で電子放出が可能となると共に、高電流密度が得られ、製造コストが大幅に低減出来る。
【0048】また、前記カーボン粒子を用いて電子放出源を製造するときには、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、電着法、スラリー法、沈降法などの場合、溶剤への分散が容易でペースト化が容易であるという利点もある。」

が記載されている。
また、図面の図8からは、

(1-6)「凹部807が有する周囲領域」そして「リフトオフ膜806をゲート電極805および周囲領域上に積層配設していること」

が見てとれる。

したがって、これらの記載事項によると、引用例1には、つぎのとおりの発明、

「カソード電極802を基板801上に積層配設する工程と、
絶縁層804を前記カソード電極802上に積層配設して、凹部807を前記絶縁層804中に設けて前記カソード電極802を露出して、前記凹部807が周囲領域を有する工程と、
該周囲領域以外の前記絶縁層804上にゲート電極805を積層配設する工程と、
リフトオフ膜806を前記ゲート電極805および前記周囲領域上に積層配設して、前記凹部807および第1の電極を露出する工程と、
スクリーン印刷法を利用して、カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンが表面に成長した微小なカーボン粒子を収集してペースト状にしたものを前記凹部807中に被着する工程と、
前記リフトオフ膜806を剥離除去する工程とを含む電子放出源の製造方法。」(以下、これを「引用例1に記載の発明」という。)

が記載されているものと認める。

4.対比・判断
本願発明8と引用例1に記載の発明とを対比する。
引用例1に記載の発明における「カソード電極802」、「基板801」、「積層配設」、「絶縁層804」、「凹部807」、「露出」、「ゲート電極805」、「リフトオフ膜806」、「第1の電極」、「スクリーン印刷法」、「ペースト状にしたもの」、「剥離除去」、「電子放出源の製造方法」、は、それぞれ、
本願発明8における「陰極層」、「基板」、「形成」、「誘電体層」、「開口部」、「露出」、「ゲート層」、「犠牲層」、「前記陰極層」、「スクリーン印刷」、「溶液」、「除去」、「トライオード構造電子放出源の製法」に相当する。
また、引用例1に記載の発明における「カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンが表面に成長した微小なカーボン粒子」、及び、本願発明8における「カーボンナノチューブ」は、共に、「カーボン材料」である。

したがって、両者は、

【一致点】
「陰極層を基板上に形成する工程と、
誘電体層を前記陰極層上に形成して、開口部を前記誘電体層中に設けて前記陰極層を露出して、前記開口部が周囲領域を有する工程と、
該周囲領域以外の前記誘電体層上にゲート層を形成する工程と、
犠牲層を前記ゲート層および前記周囲領域上に形成して、前記開口部および前記陰極層を露出する工程と、
スクリーン印刷を利用して、カーボン材料溶液を前記開口部中に塗布する工程と、
前記犠牲層を除去する工程とを含むトライオード構造電子放出源の製法。」
で一致し、

【相違点1】
「本願発明8では、カーボン材料が、カーボンナノチューブであるのに対して、
引用例1に記載の発明では、カーボン材料が、カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンが表面に成長した微小なカーボン粒子である点」

【相違点2】
「本願発明8では、犠牲層の除去を、熱処理によっておこなっているのに対して、
引用例1に記載の発明では、リフトオフ膜806(犠牲層に相当。)の除去(除去に相当。)を、剥離によっておこなっている点」
で相違する。

そこで、上記【相違点1】について検討する。
引用例1には、
(1-7)「【0007】また、従来のカーボンナノチューブを電子放出源として、実装する工程としては、カーボンナノチューブをペースト化して所定電極上に印刷形成する試みも行われているが、印刷ペーストの溶剤の粘度、添加物のため、印刷後のカーボンナノチューブは基板に沿って倒れているものがほとんどであり、このため有効な電界放出効果が得られず、引き出し電圧が高い、引き出し電流が小さいなどの問題点があった。」が記載されており、この記載事項によれば、引用例1には、

「カーボンナノチューブをペースト化して所定電極上に印刷形成する試みも行われていたこと」

が記載されているものと認める。

したがって、引き出し電流が小さいなどのことが問題になるものの、引用例1に記載の発明における、カーボンナノチューブ、ナノカプセル、フラーレンが表面に成長した微小なカーボン粒子を、カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブに相当。)に変更することは、当業者が容易になし得ることである。

次に、上記【相違点2】について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前である平成11年3月9日に頒布された刊行物である特開平11-67070号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、

(2-1)「【0024】グリッド10のスパッタリング蒸着を終わったのちに基板グラス2は500℃程度の雰囲気で焼成され、この際、前記保護樹脂膜12が熱分解されることにより前記不要層10aは支持層がないので弱くなる。結局、前記不要層10aは前記焼成工程中に消滅されたり、もしくは軽く行われるエアブラシングで除去されて図1?3のようにグリッド10の内周りと黒鉛層8の外周りの間が一定の間隙“L”となる基板グラス2を得る。」

(2-2)「【0028】
【発明の効果】本発明は前記のように簡単で容易な工程を通じて三極管型電界放出表示素子の陰電極とその周りに設けられるグリッドの間の間隙が一定に保持されるようにするので、これを通じて得られた電界放出表示素子は画面輝度が均一になるのみならず、実際に陰電極を形成する黒鉛の物性を通じて素子封止時の真空度も低下させることができるし、かつ黒鉛層が真空度の低下により時々発する金属イオンの衝撃で損傷されても新たに現出される黒鉛の結晶組織を通じて電子放出が円滑に起こるので、長い期間の間に安定に電子が放出され、これにより電界放出表示素子の使用寿命が長くなり、また低電圧でも効率に駆動される。」が記載されており、これらの記載事項によれば、引用例2には、

「三極管型電界放出素子の製造方法において、熱分解される保護樹脂膜12の除去を、焼成によっておこなうこと」

が記載されているものと認める。

したがって、引用例1に記載の発明における、リフトオフ膜806(犠牲層に相当。)を、引用例2に記載の、熱分解される保護樹脂膜(犠牲層に相当。)とし、これの除去を焼成(熱処理に相当。)によっておこなうことは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明8の効果は、引用例1に記載された発明、及び、引用例1及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものである。

したがって、本願発明8は、引用例1に記載された発明、及び、引用例1及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、
「本願発明と引用文献7の発明との前記の差異は、本願発明の疎水層(犠牲層)が周囲領域15の壁面に沿った垂直な円筒部を有する立体的な構造を有するのに対して、引用文献7において相当する保護樹脂膜12が平面上に形成された膜であって、その周辺形状の形成を正確に行なうことが困難であることに起因するものであります。」
と主張しているが、
仮に、発明特定事項として、「犠牲層が周囲領域の壁面に沿った垂直な円筒部を有する立体的な構造を有する」が追加されたとしても、原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前である平成13年6月22日に頒布された刊行物である特開2001-167690号公報には、かかる構造の剥離層16(犠牲層に相当。)が記載されているから、引用例1に記載の発明を、リフトオフ膜806(犠牲層に相当。)が周囲領域の壁面に沿った垂直な円筒部を有する立体的な構造を有するように、改変することは、当業者が容易になし得ることである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明8は、引用例1記載された発明、及び、引用例1及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明8が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項1?7、9?22に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-19 
出願番号 特願2002-220850(P2002-220850)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也渡戸 正義  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
山下 雅人
発明の名称 トライオード構造電子放出源の製法  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 秋山 文男  

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