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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1180480
審判番号 不服2005-15852  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-18 
確定日 2008-07-03 
事件の表示 平成11年特許願第118582号「電子写真用カラートナー、現像剤及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月 7日出願公開、特開2000-310875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年4月26日の出願であって、平成17年7月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月18日付けで審判請求がなされたが、その後、平成20年2月4日付けで当審の拒絶理由が通知され、これに対して、同年4月7日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものであって、「電子写真用カラートナー、現像剤及び画像形成方法」に関するものと認める。


第2 当審の拒絶理由通知の概要
平成20年2月4日付けの拒絶理由通知では、以下の指摘をした。

「本件出願は、明細書の記載が次の(1)?(2)の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に記載された発明特定事項である「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」について、この記載からは、
(a)与える「ストレス」がどのようなものかが特定されない。
(b)また、「ストレスを与えた後」という時点が特定されない。
(c)「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」は、与える「ストレス」の違いや「ストレスを与えた後」の時点の違いからくる、合計のストレスの程度によって、変動するものであるから、特定できない。
(d)トナーの摩擦係数は、測定方法の違いにより異なる値となるから、「トナーの摩擦係数」の概念を特定することができない。
また、たとえ発明の詳細な説明を参酌するとしても、上記(a)?(d)の点を把握することができない(後述(2)を参照)。
したがって、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」の意味が特定されないので、請求項1に係る発明は不明確である。

(2)上記(1)で述べた(a)?(d)の点は、発明の詳細な説明においても、特定することができない。
(2-1)ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数について
本願明細書には、「【0014】・・・ここで、ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数とは、少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーの摩擦係数をいい、好ましくは10000枚複写後にクリーニングされたトナーの摩擦係数をいう。通常複写枚数が多ければ多いほど摩擦係数の変化が大きくなる。」と、ストレスによるトナーの摩擦係数の変化は複写枚数に従って大きくなると記載されているのに対して、
審判請求書の請求理由〔(3)1)〕において、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数とは、少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーの摩擦係数をいいます。摩擦係数はストレスを加えることによって変化しますが、ストレスを加え続けることによりトナー固有の特定の摩擦係数の値に近づくものであります。少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは該トナー固有の特定の摩擦係数の値になっており、温度、湿度条件については特に高温高湿等の条件を別として、通常の実験室(20?28℃、50?60%)における測定であれば数値の差は小さいものです。」と主張する点は、上記明細書の記載にと矛盾しており、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」の「ストレスを与えた後」とはどのような状態をいうのか明らかでない。
さらに、本願明細書に「【0007】・・・最近では、複写機やプリンターの複写速度はより高速化する傾向にあり、それに伴ってクリーニング時に感光体にかかるストレス(荷重、速度)も増加するため、上記樹脂微粉末が、感光体表面で変形し、フィルミング等の問題を引き起こすという問題がある。・・・」と記載されているように、複写速度によってもストレスが変動するのであるから、単に「少なくとも5000枚複写後」と最小限の複写枚数を規定するだけで、トナーに負荷されるストレスを定義することが妥当であるのか不明りょうである。
また、そのような「少なくとも5000枚複写後」のストレスを負荷した後トナーの摩擦係数が必ず固有の特定の摩擦係数の値に達するという根拠も見いだせない。
同じく請求理由〔(3)1)〕において、「ストレスについては特許第3011240号公報に「トナーの温度ストレスによって生じる特性劣化」、特許第3127649号公報に「樹脂微粒子にストレスをかけることによって樹脂母粒子の表面に膜状外殻層を形成させる」、特許第3493466号公報の請求項には「微粒子構成樹脂のガラス転移点マイナス10度より低い温度で微粒子にストレスをかけて該微粒子を粉砕した後、該粉砕された微粒子を熱復元する工程」の記載がありますが、いずれもストレスに関する定義、条件はありません。これは当業者であれば、粒子にストレスをかけることがいかなることか、理解できるものと考えられるからです。」と主張している。
しかしながら、請求項1に記載の「ストレス」は、本願発明を特定するための事項である摩擦係数を測定する条件であって、上記特許公報に記載のストレスとは異なって、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数とストレスを与えた後のトナーの摩擦係数との差が0.15以下であることを測定するための、画像形成工程でトナーにかかるストレスであるから、
その測定のためにトナーにかけるストレスについては、正確に同量であることを再現できるように規定しなければならないものである。
それが、単に「少なくとも5000枚複写後」のみで、正確に同量のストレスをトナーにかけたことになるのか不明りょうである。

(2-2)トナーの摩擦係数の測定方法について
本願明細書には、「【0016】・・・FujiXerox製コピーマシン4060に使用しているベルト状感光体にトナー3gをのせ、その上からFujiXerox製Vivace560に使用のクリーニングブレードと金属板の重り(クリーニングブレード+重りの荷重236gf)を置き、水平方向に引っ張るときの摩擦力(gf)を繰り返し30回測定し、30回目の摩擦力/垂直荷重(236gf)=摩擦係数とした。」と記載されている。 これは、トナーをベルト状感光体とクリーニングブレードの間に挟んだ状態で荷重をかけ、水平方向に繰り返し引っ張って、その30回引っ張った時の摩擦係数ということではある。
しかしながら、ベルト状感光体とクリーニングブレードのいずれも、単に市販の装置に使用されているとするものであるから、摩擦係数に影響する材質、表面状態などが不明であり、
さらに、ベルト状感光体の表面にトナー3gをどのような状態にのせたのか、そして、クリーニングブレードを水平方向に繰り返し引っ張ることによって、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードの間にトナーを挟んだ状態を維持して、どのような速度で、ベルト状感光体の表面を移動(一方向あるいは往復)させたのかなど、その具体的な方法が不明であり、その方法によってはトナーの摩擦係数の測定結果が異なることになるから、本願発明のトナーを特定できない。
また、トナーをのせたベルト状感光体上でクリーニングブレードを繰り返し移動することは、クリーニングブレードによるクリーニング工程と同じような動作であって、ベルト状感光体の表面からトナーをきれいに拭い取って、クリーニングブレードの移動範囲の外側にトナーを押しやることになるから、
クリーニングブレードを繰り返し移動して30回目の摩擦係数の測定の時には、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが存在しなくなって、トナーが摩擦係数に関与しないことになり、クリーニングブレードとベルト状感光体との摩擦係数を測定することになると認められる。 そうすると、このような測定により求めた摩擦係数の差がトナー自体の摩擦係数の変化であるのか不明りょうである。 」


第3 手続補正書、意見書の内容
これに対して、請求人より、平成20年4月7日付けで手続補正書及び意見書が提出されたところ、その内容は以下のとおりである。

(ア)補正された請求項1、【0009】
補正前の「【請求項1】少なくとも結着樹脂と、着色剤およびワックスを含む電子写真用カラートナーであって、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数との差が0.15以下であることを特徴とする電子写真用カラートナー。」は、補正により、
「【請求項1】 少なくとも結着樹脂と、着色剤およびワックスを含む電子写真用カラートナーであって、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナーの摩擦係数との差が0.15以下であることを特徴とする電子写真用カラートナー。」とされた。
また、発明の詳細な説明の【0009】は、次の記載に補正された。
「【0009】【課題を解決するための手段】
上記目的は、以下の電子写真用カラートナー、現像剤および画像形成方法を提供することにより解決される。
1.(1)少なくとも結着樹脂と、着色剤およびワックスを含む電子写真用カラートナーであって、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナー(以下において「ストレスを与えた後のトナー」という。)の摩擦係数との差が0.15以下であることを特徴とする電子写真用カラートナー。(当審注:以下省略)」
なお、下線は当審で付した。

(イ)意見書の内容
「3.拒絶理由に対する意見
審判請求人は、補正前の請求項1における「ストレスを与えた後のトナー」を前記のように補正し、「10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナー」に特定(減縮)いたしました。また、審判官殿が指摘されました以下の(1)?(5)の点に対しまして、以下のように意見を申し述べます。

(1)『発明の詳細な説明(段落0014)には「・・・ここで、ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数とは、少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーの摩擦係数をいい、好ましくは10000枚複写後にクリーニングされたトナーの摩擦係数をいう。通常複写枚数が多ければ多いほど摩擦係数の変化が大きくなる。」と、ストレスによるトナーの摩擦係数の変化は複写枚数に従って大きくなると記載されている。しかし、審判請求書では「少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは該トナー固有の特定の摩擦係数の値になっており」と主張しており、この主張は上記明細書の記載と矛盾している。』について
トナーには通常外添剤が表面に付着されており、その表面の外添剤によりトナーとブレード及び感光体表面との接触面積を減らして両者の間の摩擦を低下させております。一般に現像機に入ったトナーは、現像機内で攪拌され、適当な帯電量になり、その後現像領域で感光体に現像されます。キャリアは初期状態と比較して多数枚をコピーした後では帯電能力が低下するために、帯電量を維持するためには現像剤に対するトナーの割合を少なくせざるを得ませんが、その結果感光体に現像するトナーの量は減少し、反対に現像機内に滞留するトナー(現像機内で摩擦を受けるトナー)の量は増加します。滞留トナーは摩擦を大きく受けるため外添剤の付着状態が初期状態のものに比較して劣ったトナーとなります。「外添剤の付着状態が劣る」とは、トナー表面から外添剤が脱離、あるいは表面に埋め込まれ、トナー表面とクリーニングブレード及び感光体表面との接触面積が増加し、そのために摩擦係数が増加することを意味します。そして、コピー枚数が多くなるにつれ、外添剤の付着状態が初期のものに比べて劣った滞留トナーが現像、転写、クリーニングされることとなります。前記の「通常複写枚数が多ければ多いほど摩擦係数の変化が大きくなる。」とは、複写枚数が大きくなるにつれ、外添剤の付着状態が劣ったトナーになることを示しております。
以上の説明から、5000枚コピー後よりも10000枚コピー後のトナーの方が一層劣化したトナーとなり、摩擦係数もより大きくなることは明らかであります。
審判請求人は、理由補充書の中で、「少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは該トナー固有の特定の摩擦係数の値になっており」と主張いたしましたが、この主張は多少説明不足でありました。正確には、「少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは複写枚数に応じたトナー固有の特定の摩擦係数の値になっており」というべきでありました。そして、10000枚複写後には、更に摩擦係数は大きくなっておりますが、やはり特定の摩擦係数となるものであります。したがいまして、本願明細書の記載と理由補充書の主張に矛盾するところはないと考えます。
そして、10000枚複写後のトナーの摩擦係数とストレスを与える前の摩擦係数との差は、5000枚複写後の場合における差よりも小さくなりますので、補正後の発明に係るトナーは、補正前の「少なくとも5000枚複写後」を基準とする発明に対してより好ましいトナーに減縮されたものとなっております。
したがいまして、補正後の「ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナーの摩擦係数との差が0.15以下である」という要件に不明確な点はないものと思料いたします。

(2)『複写速度によってもストレスが変動するのであるから、単に「少なくとも5000枚複写後」と最小限の複写枚数を規定するだけで、トナーに負荷されるストレスを定義することが妥当であるのか不明りょうである。』について
複写速度がいかなるものであっても、キャリアに対してはトナーの現像量は変わりません。したがいまして、10000枚コピーにより、劣化するキャリアの程度は同じであり、また滞留するトナー量も同じであります。このことから、複写速度が変化した場合でもトナーの摩擦係数が変わらないことは明白です。

(3)『「少なくとも5000枚複写後」のストレスを負荷した後トナーの摩擦係数が必ず固有の特定の摩擦係数の値に達するという根拠も見いだせない。』 について
前記の(1)で述べましたように、理由補充書で述べました「少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは該トナー固有の特定の摩擦係数の値になっており」は、前記のように「少なくとも5000枚複写後にクリーニングされたトナーは複写枚数に応じたトナー固有の特定の摩擦係数の値になっており」を意味します。したがいまして、この点につきましても明確になったものと考えます。

(4)『「ストレスを与えた後」の時点はどこか不明である。』について
「ストレスを与えた後のトナー」を「10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナー」と補正いたしましたので、審判官殿のご指摘の点は明確になったものと考えます。

(5)「本願明細書の段落0016にはトナーの摩擦係数の測定方法が記載されているが、以下の1)?3)の点が不明である。」について
1)ベルト状感光体とクリーニングブレードのいずれも、摩擦係数に影響する材質、表面状態などが不明である。
2)ベルト状感光体の表面にトナー3gをどのような状態にのせたのか、どのような速度で、ベルト状感光体の表面を移動(一方向あるいは往復)させたのかなど、その具体的な方法が不明である。(その方法によってはトナーの摩擦係数の測定結果が異なる。)
3)クリーニングブレードを繰り返し移動して30回目の摩擦係数の測定の時には、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが存在しなくなって、トナーが摩擦係数に関与しないことになり、クリーニングブレードとベルト状感光体との摩擦係数を測定することになる。
前記1)及び2)に点に対してですが、段落0016のようにしてトナーの摩擦係数を測定する際に、ベルト状感光体とクリーニングブレードの材質や表面状態、クリーニングブレードを引っ張る速度、また、トナーをベルト状感光体上に載せる状態は測定結果に大きな影響を与えるものではありません。また、クリーニングブレードを引っ張る方向は常に一方向です。電子写真装置の実機では、クリーニングブレードは一方向に規制されておりますが、本願発明における測定方法も実機に近い状態を模して行うことがよいことは当然でありますので、クリーニングブレードを一方向に引っ張っております。明細書にはこのことは明示されておりませんが当業者にとって自明のことであります。
また、前記3)についてですが、この試験は、トナーの摩擦係数を測定することを目的としておりますので、測定の間、トナー粒子はベルト状感光体とクリーニングブレードとの間に存在します。したがいまして、審判殿がご指摘のように、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが存在しなくなることはありません。」


第4 当審の判断
請求人は、補正により、請求項1の「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」という記載を、「10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナーの摩擦係数」に変更したことで、発明が明確になった旨を主張している。
ここで、「10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナーの摩擦係数」との記載は、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」(補正前)をより具体的に記載したものといえる。

ところで、トナーに与えるストレスの程度が異なれば、外添剤のトナー粒子への埋め込みの程度も当然に異なるものになるから、これがトナーの摩擦係数に影響を及ぼすことは自明である。この点は、本願明細書の【0014】において「例えば、トナー粒子の組成あるいは製造法により、得られるトナー粒子の表面にワックスが比較的に多量露出しているトナーの場合には、ストレスを受ける前には外添剤粒子によりワックスの露出が防止されていても、ストレスを受けて外添剤が埋め込まれてしまうと、トナー粒子表面のワックスが露出することになり、ストレスを受けた後のトナーの摩擦係数がストレスを受ける前のトナーの摩擦係数より小さくなってしまう。・・・(中略)・・・一方、たとえば、トナー粒子表面が比較的少量のワックス露出で構成されている場合には、ストレスにより外部添加剤が埋め込まれると、トナーの摩擦係数は、ストレスを受ける前の外添剤により覆われているトナーの摩擦係数より大きくなってしまう。」と請求人自ら述べていることからも明らかである。
そして、請求項1に係る発明が、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」を規定するものであるから(補正後の請求項1に係る発明も実質的に同様である。)、まず、トナーに対しどのようなストレスの程度が与えられるかが特定されない限り、摩擦係数の数値の意味を特定できないことは当然である。
さらに、ストレスの程度が明確になったとしても、摩擦係数の定義(概念)が明確に特定されないと、摩擦係数の数値の意味を特定できないことも当然である。
つまり、トナーに与える「ストレス」及び摩擦係数の概念が特定されることによって、「ストレスを与えた後のトナーの摩擦係数」が明らかになり、これにより請求項1に係る発明の「トナー」が特定されるのである。

先に通知した拒絶理由では、請求項1に係る発明は、与える「ストレス」及びトナーの摩擦係数の概念が特定されないと述べたが、以下、これについて、前記補正及び請求人の意見書での主張を踏まえつつ、検討する。

(a)トナーに与える「ストレス」の特定について
電子写真法、静電記録法において、現像剤に与えるストレスの要因は、種々のものがあり、
複写枚数が、与えるストレスの程度に影響する要因の1つであり、複写枚数が多いほどトナーへのストレスが蓄積することは確かである。
しかしながら、単に複写枚数(コピー枚数)のみで与えるストレスの程度が決まるのではない。他の要因としては、クリーニング時にトナーにかかるストレス(本願明細書【0007】)の大きさ、現像機(スリーブ速度、トリマーとスリーブとのギャップ、感光体とスリーブとのギャップ、攪拌機)によるストレス(審判請求書の【請求の理由】(3)2))の大きさがあることは明らかであり、また、新しいトナーの補給量やその方法、形成画像の種類などによるトナー消費量の大小によってもトナーの滞留時間(10000枚コピー後に測定されるトナーの投入時期)が異なるものであり、これら種々の要因の条件を特定する必要がある。そして、これら要因の条件次第で、10000枚コピー後の余剰トナーにおけるストレスの程度も大きく異なるものである。つまり、複写における一連の各工程の条件によってトナーの受けるストレスが違うので、各工程を何ら特定せずに複写枚数だけを限定しても、トナーに負荷されるストレス条件を特定したことにはならない。
それにもかかわらず、複写枚数以外の要因の条件については、請求項1では何ら明らかにされていないし、また、明細書の【0044】に示される、実施例の評価に用いた装置においても、具体的な説明がないものである。

請求人は、意見書で『キャリアは初期状態と比較して多数枚をコピーした後では帯電能力が低下するために、帯電量を維持するためには現像剤に対するトナーの割合を少なくせざるを得ず、その結果感光体に現像するトナーの量は減少し、反対に現像機内に滞留するトナー(現像機内で摩擦を受けるトナー)の量は増加する』旨を説明するが、そうであれば、なおさら、装置条件や動作条件が異なれば、現像機内に滞留するトナー量やストレス付与条件も変化するから、同じトナーであっても、ストレスを受ける程度が変更され、摩擦係数の数値も変更されるものである。複写枚数だけでなく、装置条件や動作条件が特定されない限り、本願発明の「トナー」を特定することができないと言わざるを得ない。

したがって、依然として、トナーに与える「ストレス」が特定されない。

(b)摩擦係数の定義、測定方法について
拒絶理由通知で述べたように、本願明細書【0016】の測定方法は、トナーをベルト状感光体とクリーニングブレードの間に挟んだ状態で荷重をかけ、水平方向に繰り返し引っ張って、その30回引っ張った時の摩擦係数ということであるが、ベルト状感光体とクリーニングブレードのいずれも、単に市販の装置に使用されているとするものであるから、摩擦係数に影響する材質、表面状態などが不明であり、これらが特定されない限り、摩擦係数の数値の意味を把握することができず、引いては、本願発明のトナーを特定することができないものである。また、クリーニングブレードを水平方向に繰り返し引っ張ることによって、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードの間にトナーを挟んだ状態を維持して、どのような速度で、ベルト状感光体の表面を移動させたのかなど、その具体的な方法が不明であり、その方法によってはトナーの摩擦係数の測定結果が異なることになるから、本願発明のトナーを特定できないものである。

これに対して、請求人は、意見書にて『段落0016のようにしてトナーの摩擦係数を測定する際に、ベルト状感光体とクリーニングブレードの材質や表面状態、クリーニングブレードを引っ張る速度、また、トナーをベルト状感光体上に載せる状態は測定結果に大きな影響を与えるものではない』と述べるが、
本願発明は、「ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、10000枚コピー後の感光体上の余剰のトナーの摩擦係数との差が0.15以下」というように、摩擦係数を「0.01」レベルで規定するものであるから、それに見合った測定条件(上記拒絶理由で示した事項が含まれる)が厳密に特定される必要があるものである。そして、本願発明の摩擦係数の測定方法がJISに準拠しているとか、当該技術分野において周知慣用であるとかでない限り、上記拒絶理由で示した事項を具体的に明細書に記載すべきであるところ、本願の場合は、それらがないから、必要な測定条件が特定できず、測定数値の意味が不明確である。

また、同じく拒絶理由通知で述べたように、トナーをのせたベルト状感光体上でクリーニングブレードを繰り返し移動することは、クリーニングブレードによるクリーニング工程と同じような動作であって、ベルト状感光体の表面からトナーをきれいに拭い取って、通常、クリーニングブレードの移動範囲の外側にトナーを押しやることになるから、クリーニングブレードを繰り返し移動して30回目の摩擦係数の測定の時には、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが存在しなくなって、トナーが摩擦係数に関与しないことになり、クリーニングブレードとベルト状感光体との摩擦係数を測定することになると認められる。そうすると、このような測定により求めた摩擦係数の差がトナー自体の摩擦係数の変化であるのか不明りょうである。
これに対し、請求人は、意見書にて、『測定の間、トナー粒子はベルト状感光体とクリーニングブレードとの間に存在し、ベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが存在しなくなることはない』旨を反論するが、
上記のとおり、通常、クリーニングブレードは外側にトナーを押しやるものであるから、請求人が主張するような状態で測定するのであれば、そのことを具体的に明細書に開示すべきものであるが、何ら開示されていない。また、本願発明の摩擦係数の測定方法がJISに準拠しているとか、当該技術分野において周知慣用であるとかでもない。本願の測定方法においてベルト状感光体の表面とクリーニングブレードとの間にトナーが必ず存在することが、当業者に自明であるということはできない。

つまり、トナーの摩擦係数の概念、摩擦係数の測定方法は、請求項1では何ら明らかにされていないし、また、明細書の【0016】等の記載においても、具体的な説明がないものであり、依然として、トナーの摩擦係数の概念、摩擦係数の測定方法は不明確である。


第5 むすび
したがって、本願は、特許法第36条第4項、及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-24 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-21 
出願番号 特願平11-118582
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G03G)
P 1 8・ 537- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 電子写真用カラートナー、現像剤及び画像形成方法  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 西元 勝一  
代理人 福田 浩志  

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