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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1180574
審判番号 不服2005-15442  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-11 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 特願2000-351175「内燃機関の吸気量制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月31日出願公開、特開2002-155792〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成12年11月17日に出願されたものであって、平成16年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成17年7月6日付けで拒絶査定がなされ、同年8月11日に同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年9月6日に手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年9月6日付けの手続補正により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、次のとおりのものである。

「【請求項1】 吸気弁の開口面積を変更するための吸気弁開口面積変更手段を具備し、吸気弁の開口面積を制御することにより吸気量を制御するようにした内燃機関の吸気量制御装置において、機関吸気通路内にスロットル弁を配置し、スロットル弁開度及び吸気弁の開口面積の双方を制御することによって吸気量を制御し、
吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが予め定められた値よりも大きいときに、吸気弁開口面積変更手段は、所定のタイミングにおける吸気弁の開口面積が該所定のタイミングにおけるスロットル弁の開口面積よりも大きくなるように予め設定し、次いで、スロットル弁の開口面積を変化させることによる吸入空気量を制御することを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。」

3.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平7-224626号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は引用箇所等を特に明示するために当審で付した。)

ア.「【0034】【実施例】・・・。図面はエンジンの制御装置を示し、・・・、このシリンダブロック上部に固定したシリンダヘッド2には単一の気筒当り2つの吸気ポート3,4と2つの排気ポート5,6とを形成すると共に、これらの各吸排気ポートを適宜開閉する吸気弁7および排気弁8を設け、吸気2弁排気2弁構造に構成している。」(段落[0034])

イ.「【0044】また上述のP吸気ポート3の吸気弁およびS吸気ポート4の吸気弁7にはそれぞれ独立してバルブタイミング可変装置20(以下単にVVTと略記する)が設けられているが、ここではS吸気ポート4の吸気弁7のバルブタイミング開弁時期、閉弁時期、およびバルブリフト量を可変するVVT20の具体的構成について述べる。なお排気弁8は図示しない通常の動弁系により駆動される。」(段落[0044])

ウ.「【0049】さらに上述の第3マップM3(図6参照)は横軸にエンジン回転数Neをとり、縦軸に負荷をとって吸気量スロットル弁で制御する領域と、スロットル弁を全開した状態下においてVVT20による吸気弁制御領域とを区画した吸気量制御マップであり、図6にハッチングを施して示す領域(アイドル領域であり、図7に示すトレードオフ点t以下の領域)ではVVT20によるバルブタイミングおよびバルブリフト量を高負荷、高回転の状態に固定設定して、スロットル弁により吸気空気量を制御する。すなわち、アイドル領域では油温、オイル粘度、油圧等が不安定で、吸入空気量や内部EGR量がばらつきやすく、充分な燃焼安定性が得られないので、これを回避する目的と、アイドル領域において後述するようにS吸気ポート4の吸気弁7をP吸気ポート3の吸気弁に対して早閉じにすると、その閉じタイミングが早すぎて、筒内温度が低下し、結果的に燃焼悪化を招くので、これを回避する目的と、上述VVT20が油圧駆動式であるため、油圧による応答遅れが生じ、特にVVT20による小リフト時の誤差が大きくなるので、この誤差変動を防止する目的とにより、上述のアイドル領域においては吸入空気量をスロットル弁にて制御する。なお、VVT20による吸気弁制御領域においてはスロットル開度TVOを全開WOTにしてポンピングロス低減を図る一方、冷間時(冷間か否かの検出は水温センサなどを用いる)においてもVVT20を全負荷状態に固定設定し、スロットル弁により吸入空気量の制御を行なう。」(段落[0049])

上記ア乃至ウ並びに図6及び図7の記載によれば、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「吸気弁のバルブタイミング開弁時期、閉弁時期、およびバルブリフト量を可変するバルブタイミング可変装置20(VVT20)が設けられ、スロットル弁を全開した状態下においてバルブタイミング可変装置20(VVT20)による吸気弁制御領域を区画した吸気量制御マップ(図6)を備えるエンジンの制御装置において、吸気量スロットル弁で制御する領域とバルブタイミング可変装置20(VVT20)による吸気弁制御領域とを区画した吸気量制御マップに基づいて吸気量を制御し、
アイドル領域では、バルブタイミング可変装置20(VVT20)によるバルブタイミングおよびバルブリフト量を高負荷、高回転の状態に固定設定して、スロットル弁により吸気空気量を制御するエンジンの制御装置。」(以下、「引用例記載の発明」という。)

4.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、機能からみて、引用例記載の発明の「吸気弁のバルブタイミング開弁時期、閉弁時期、およびバルブリフト量を可変するバルブタイミング可変装置20(VVT20)が設けられ」ている点は、本願発明の「吸気弁の開口面積を変更するための吸気弁開口面積変更手段を具備し」ている点に相当する。
また、引用例記載の発明の「吸気弁制御領域」は、スロットル弁を全開(スロットル開度TVOを全開WOTにしてポンピングロス低減)した状態下においてバルブタイミング可変装置20(VVT20)による吸気量制御を行う領域であることからみて、引用例記載の発明の「スロットル弁を全開した状態下においてバルブタイミング可変装置20(VVT20)による吸気弁制御領域を区画した吸気量制御マップ(図6)を備えるエンジンの制御装置」は、本願発明の「吸気弁の開口面積を制御することにより吸気量を制御するようにした内燃機関の吸気量制御装置」に相当する。
また、引用例記載の発明は、上記「吸気弁制御領域」の制御に加えて、「スロットル弁制御領域」において、バルブタイミング可変装置20(VVT20)によるバルブタイミングおよびバルブリフト量を高負荷、高回転の状態に固定設定して、スロットル弁により吸気空気量を制御するものであるから、引用例記載の発明の「吸気量スロットル弁で制御する領域とバルブタイミング可変装置20(VVT20)による吸気弁制御領域とを区画した吸気量制御マップに基づいて吸気量を制御」する点が、本願発明の「スロットル弁開度及び吸気弁の開口面積の双方を制御することによって吸気量を制御」する点に相当する。
また、引用例記載の発明の「アイドル領域」では、バルブタイミング可変装置20(VVT20)が油圧駆動式であるため、油圧による応答遅れが生じ、特にバルブタイミング可変装置20(VVT20)による小リフト時の誤差が大きくなるのであるから、引用例記載の発明の「アイドル領域」が本願発明の「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが」「大きいとき」に実質的に相当する。
さらに、引用例記載の発明では、上記アイドル領域において、バルブタイミング可変装置20(VVT20)によるバルブタイミングおよびバルブリフト量を高負荷、高回転の状態に固定設定している。ここで、内燃機関の技術分野において、通常、「高負荷、高回転の状態」とは、多量の吸入空気を気筒内へ効率よく導入する必要がある状況であることが技術常識であるから、本領域におけるバルブタイミングおよびバルブリフト量は、多量の吸入空気量を効率よく気筒内に導入し得るような所定のタイミング及び量(大きな値)に固定設定されていると解される。また、引用例記載の発明では、同アイドル領域において、スロットル弁により吸気空気量を制御している。ここで、内燃機関の技術分野において、アイドル領域とは、エンジンの極低負荷又は無負荷(吸入空気量が極少)を意味することが技術常識であることから、アイドル時の吸気量制御をスロットル弁で行うに当たっては、スロットル弁は吸入空気量が少なくなるよう小さい開度に制御されているとともに、また、そのためのスロットル弁は機関吸気通路内に配置されていると解される。そして、これら技術常識等に鑑みれば、引用例記載の発明において、アイドル領域では、吸気弁の開口面積は、スロットル弁の開口面積よりも大きく設定されていると認められる。してみると、吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが大きいときの対処に関して、引用例記載の発明の「バルブタイミング可変装置20(VVT20)によるバルブタイミングおよびバルブリフト量を高負荷、高回転の状態に固定設定して、スロットル弁により吸気空気量を制御する」点が、本願発明の「所定のタイミングにおける吸気弁の開口面積が該所定のタイミングにおけるスロットル弁の開口面積よりも大きくなるように予め設定し、次いで、スロットル弁の開口面積を変化させることによる吸入空気量を制御する」点に相当する。

してみると、両者は、

「吸気弁の開口面積を変更するための吸気弁開口面積変更手段を具備し、吸気弁の開口面積を制御することにより吸気量を制御するようにした内燃機関の吸気量制御装置において、機関吸気通路内にスロットル弁を配置し、スロットル弁開度及び吸気弁の開口面積の双方を制御することによって吸気量を制御し、
吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが大きいときに、吸気弁開口面積変更手段は、所定のタイミングにおける吸気弁の開口面積が該所定のタイミングにおけるスロットル弁の開口面積よりも大きくなるように予め設定し、次いで、スロットル弁の開口面積を変化させることによる吸入空気量を制御する内燃機関の吸気量制御装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点
吸気弁開口面積変更手段の作動遅れに関して、本願発明では、「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが予め定められた値よりも大きいとき」であるのに対して、引用例記載の発明では、「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが大きいとき」である点(以下、「相違点」という。)。

5.判断
上記相違点について検討する。
上記相違点に係る本願発明の「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが予め定められた値よりも大きいとき」なる事項に関しては、本願発明の第一の実施の形態として明細書の段落0017乃至0019に「【0017】・・・、まずステップ100において、可変バルブタイミング装置8及び3Dカムシステム12の作動油温が低いために生じてしまう可変バルブタイミング装置8及び3Dカムシステム12の作動遅れDLYが、冷却水温センサ18の出力値に基づいて算出される。【0018】・・・、他の実施形態では、可変バルブタイミング装置8及び3Dカムシステム12の作動油温に基づいて作動遅れDLYを算出することも可能である。更に他の実施形態では、オイルコントロールバルブ9,13が作動されてから実際にバルブタイミング及びバルブリフト量が変化するまでの時間に基づいて作動遅れDLYを算出することも可能である。・・・。更に他の実施形態では、不図示のセンサによって可変バルブタイミング装置8及び3Dカムシステム12の作動状態(変位、速度、加速度等)を検出し、それに基づいて作動遅れDLYを算出することも可能である。【0019】次いでステップ101では作動遅れDLYが所定の閾値TDLYより大きいか否かが判断される。・・・」と記載されているように、吸気弁開口面積変更手段の作動遅れDLYを予め定めた値(例えば、閾値TDLY)と比較する意味であると解される。また、本願発明の第二の実施の形態として明細書の段落0024以降に記載されたものは、閾値が段階的に複数設定されている点を除き同様である。そして、上記相違点に係る本願発明の「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが予め定められた値よりも大きいとき」なる事項により、明細書の段落0030からみて、吸気弁開口面積変更手段に作動遅れが生じたときを判断していると解される。
他方、引用例に「【0049】・・・横軸にエンジン回転数Neをとり、縦軸に負荷をとって吸気量スロットル弁で制御する領域と、・・・吸気弁制御領域とを区画した吸気量制御マップであり、図6にハッチングを施して示す領域(アイドル領域であり、・・・)・・・。すなわち、アイドル領域では・・・、上述VVT20が油圧駆動式であるため、油圧による応答遅れが生じ、特にVVT20による小リフト時の誤差が大きくなるので、この誤差変動を防止する目的とにより、・・・上述のアイドル領域においては吸入空気量をスロットル弁にて制御する。」と記載されているように、エンジン回転数Ne及び負荷に基づいて応答遅れが生じること(生じる領域)を判断しているのであって、引用例記載の発明も本願発明と実質的に同様の作用を奏するものである。
すなわち、両者は、吸気量制御に関して吸気弁開口面積変更手段の作動遅れを判断するという作用・効果を奏する点で同様である。そして、一般的に内燃機関の制御分野において、油圧等の応答遅れに対処するために、応答遅れの発生を具体的に検知することも所定の条件から応答遅れの発生を判断することも周知の技術であって、吸気弁開口面積変更手段の作動遅れに対処する際に作動遅れを具体的に算出して閾値と比較するか、通常作動遅れが生じる領域を判断するかは、吸気弁開口面積変更手段の作動遅れに対処するという課題解決のための手段の具体化における微差にすぎず、いずれを採用するかは、当業者が適宜選択・採用する程度のことにすぎない。
したがって、上記相違点に関して、引用例記載の発明において、「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが大きいとき」に換えて、「吸気弁開口面積変更手段の作動遅れが予め定められた値よりも大きいとき」とし、本願発明のように構成することは、当業者にとって格別の創作力を要することもなく、なし得る程度のことにすぎない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-08 
結審通知日 2008-05-13 
審決日 2008-05-26 
出願番号 特願2000-351175(P2000-351175)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 雄二  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 森藤 淳志
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の吸気量制御装置  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 鶴田 準一  
代理人 廣瀬 繁樹  

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