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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1180576
審判番号 不服2005-16121  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-24 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 平成11年特許願第301060号「情報記録材料」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月21日出願公開、特開2000-318319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I 手続の経緯・本願発明
1.手続の経緯と本願発明の認定
本願は,平成11年10月22日の出願であって、平成10年12月2日の優先権主張を伴っており、その請求項1に係る発明は,平成17年4月19日付け、平成19年9月10日付け及び平成19年10月2日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】インク浸透性紙支持体の一方の面に、反応体および該反応体と加熱時反応して着色体を形成する共反応体を主として含有する感熱記録層を設け、他方の面が、インクジェット適性を有し、該インクジェット適性を有する面が、5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下であり、かつ該支持体と感熱記録層との間に、一層以上のインク溶剤不透過層を有することを特徴とする情報記録材料。」

2.優先権主張の効果について
本願発明は上に示したとおりのものであるところ、本願の優先権主張の基礎となる特願平10-343112号の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「中間層」に関する記載があるが、この「中間層」が「インク溶剤不透過層」であることは記載されていない。「中間層」を構成する材料としては、本願明細書に記載される材料と同種のものが記載されてはいるが、「インク溶剤不透過層」とするためには、用いるインクジェットのインク溶剤の組成に応じて、列挙された材料からさらに適切なものを選択して組合せ、必要な層厚に形成することが少なくとも求められると思料されるところ、「インク溶剤不透過層」としての機能を持たせる点については何ら記載がない。また、実施例を見ても、支持体と感熱記録層との間に「インク溶剤不透過層」が形成されている例は見当たらず、他に、「インク溶剤不透過層」が記載されているに等しいと言える事項もないから、特願平10-343112号の明細書には「インク溶剤不透過層」という概念が記載されているとは言えない。
したがって、本願発明は、優先権主張の効果を認められないので、特許法第29条の2の規定の適用に当たっては、優先日ではなく本願の出願の時とする。

II 特許法第29条第2項についての判断
1.刊行物に記載された事項
これに対して,当審において平成20年2月8日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物1乃至4には,それぞれ、以下の事項が記載されている。

刊行物1:特開平10-203022号公報
刊行物2:特開平8-169173号公報
刊行物3:特開平8-267908号公報
刊行物4:特開平10-95161号公報

(刊行物1に記載された事項)
(1a)「【請求項1】シート状基体と、このシート状基体の少なくとも一面に形成され、かつ、無色又は淡色の染料前駆体と、加熱下に反応してこれを発色させる顕色剤を含む感熱発色層を有し、前記顕色剤が下記一般式(I)(省略)で表わされる有機化合物を少なくとも一種含むことを特徴とする感熱記録体。」
(1b)「【0019】本発明の感熱記録体に用いられるシート状基体は、紙(酸性紙や中性紙を含む)、表面に顔料、ラテックスなどを塗工したコーテッド紙、ラミネート紙、ポリオレフィン系樹脂から作られた合成紙、プラスチックフィルムなどから選ぶことができる。このようなシート状基体の少なくとも一面上に、上記所要成分の混合物を含む塗布液を塗布し、乾燥して感熱記録体を製造する。・・・(中略)・・・また支持体上に顔料(好ましくは吸油性顔料)と接着剤を含有する下塗り層を設けることもできる。」
(1c)「【0020】本発明においては、感熱記録体の付加価値を高めるためにさらに加工を施し、より高い機能を付与した感熱記録体とすることができる。例えば、・・・(中略)・・・また裏面を利用して熱転写用紙、インクジェット用紙、ノーカーボン用紙、静電記録紙、ゼログラフィ用紙としての機能をもたせ、両面への記録が可能な記録紙とすることもできる。」
(1d)「【0029】(3)顔料下塗り紙の調製
焼成クレー(商品名アンシレックス、エンゲルハート社製)85部を水320部に分散して得られた分散物に、スチレン?ブタジエン共重合物エマルジョン(固形分50%)を40部、10%酸化でんぷん水溶液を50部混合して得た塗液を48g/m^(2) の原紙の上に乾燥後の塗布量が7.0g/m^(2 )になるように塗工して、顔料下塗り層を有する支持体を得た。」
(1e)「【0030】(4)感熱発色層の形成
上記分散液A50部、分散液B200部、クレー顔料(商品名:HGクレー,ヒューバー社)30部、25%ステアリン酸亜鉛分散液20部、30%パラフィン分散液15部、および10%ポリビニルアルコ?ル水溶液100部を混合、撹拌し、塗布液とした。この塗布液を、上記顔料下塗り層を有する支持体の下塗り層上に、乾燥後の塗布量が5.0g/m^(2) となるように塗布乾燥して感熱発色層を形成し、感熱記録紙を作成した。」

(刊行物2に記載された事項)
(2a)「【請求項1】 中性紙からなる普通紙ライクのインクジェット記録用紙において、20℃、相対湿度65%の条件下、24時間調湿後の5.0%イソプロピルアルコール水溶液による30秒コブサイズが16.0g/m^(2)以下、JIS P8117に規定される透気度が18秒以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」
(2b)「【0007】以下、本発明のインクジェット記録用紙について詳細に説明する。まず、本発明者等は、本発明のインクジェット記録用紙のサイズ性とフェザリングとの関係について検討した。
【0008】紙のサイズ性を一般的に示す代表指標として、ステキヒトサイズ度やコブサイズ度がある。しかしながら、これら指標とインクジェット記録用紙の印字特性との間には良好な相関関係は見られなかった。この理由として、インクジェットプリンターのインクは、紙層内への浸透をよくするために、水に較べて表面張力が小さいことが原因すると考えられる。そこで、表面張力の異なる水溶液のコブサイズとインクジェト記録用紙の印字特性について比較検討した結果、5%イソプロピルアルコール水溶液を用いて測定したコブサイズと印字特性、特に、フェザリングとの間に良好な相関関係が見られた。そして、インクジェット記録用紙の5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コブサイズが16g/m^(2)以下の時、インクジェットプリンターで印字した際のフェザリングが良好であることを見い出し、本発明のインクジェット記録用紙を発明するに至った。
【0009】フェザリングを抑える上では、上記のとおり5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コブサイズが16g/m^(2)以下で充分である。しかし、インクジェット記録用紙のサイズ性を上げすぎるとインクの吸収性が悪くなり、印字部のブロンズ化が進むと共に、インクジェットプリンターで連続印刷時に該転写紙上で乾ききらないインクが印刷面を汚す場合がある。従って、インクジェット記録用紙の印字特性と印刷時の操業性を考えると、5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コブサイズが12?14g/m^(2)であることが好ましい。
【0010】以上述べたように、フェザリングの良好なインクジェット記録用紙は適度なサイズ性を有する。このサイズ性を達成する手段としては、様々な手段があるが、大きく二つの方法に分けられると考える。一つは、インクジェット記録用紙に使用する内添サイズ剤の添加量や表面サイズ剤の塗布量をかえることによる方法である。この方法は、インクジェット記録用インクとインクジェット記録用紙を主に構成するパルプ繊維との濡れ性によってインクの浸透性をコントロールする。」

(刊行物3に記載された事項)
(3a)「【請求項1】 1重量%希釈水溶液がpH8.5以上である表面サイズ剤を印字面に塗布してなり、且つ20℃、相対湿度65%の条件下、24時間調湿後における5.0%イソプロピルアルコール水溶液による30秒コッブサイズ度が、16.0g/m^(2)以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」
(3b)「【0011】本発明者らは、まず第一に本発明のインクジェット記録用紙のサイズ性と印字特性との関係について検討した。
【0012】紙のサイズ性を一般的に示す代表指標として、ステキヒトサイズ度やコッブサイズ度がある。しかしながら、これら指標とインクジェット記録用紙の印字特性との間には良好な相関関係は見られなかった。この理由として、インクジェットプリンターのインクは、紙層内への浸透をよくするために、水に較べて表面張力が小さいことが原因すると考えられる。そこで、表面張力の異なる水溶液のコッブサイズ度とインクジェト記録用紙の印字特性について比較検討した結果、5%イソプロピルアルコール水溶液を用いて測定したコッブサイズ度と印字特性、特に、フェザリングとの間に良好な相関関係が見られた。そして、インクジェット記録用紙の5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が16g/m^(2)以下の時、インクジェットプリンターで印字した際のフェザリングが良好であることを見い出し、本発明のインクジェット記録用紙を発明するに至った。
【0013】フェザリングを抑える上では、上記のとおり5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が16g/m^(2)以下で充分である。しかし、該インクジェット記録用紙のサイズ性を上げすぎるとインクの吸収性が悪くなり、印字部のブロンズ化が進むと共に、インクジェットプリンターで連続印刷時に該転写紙上で乾ききらないインクが印刷面を汚す場合がある。従って、該インクジェット記録用紙の印字特性と印刷時の操業性を考えると、5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が13?15g/m^(2)であることが望ましい。
【0014】このようなインクジェットプリンターから吐出される浸透性の高いインクに対して上記で述べたような適度なサイズ性は、該記録用紙を製造する際に使用される内添サイズ剤の量をコントロールする方法や該記録用紙の印字される表面に表面サイズ剤を塗布する方法を単独もしくは組み合わせることで達成できる。」

(刊行物4に記載された事項)
(4a)「【請求項1】 シート表面に固形分濃度1重量%の時のpHが8.5以上の水溶性表面サイズ剤を塗布し、5%イソプロピルアルコール水溶液を使って測定したコッブサイズ度(測定時間30秒)が13?20g/m^(2)であり、且つ、比散乱係数が500cm^(2)/g以下であることを特徴とする普通紙タイプのインクジェット記録シート。」
(4b)「【0011】本発明者らは、まず第一に本発明のインクジェット記録シートのサイズ性と印字特性、特にフェザリングとの関係について検討した。
【0012】紙のサイズ性を一般的に示す代表指標として、ステキヒトサイズ度やコッブサイズ度がある。しかしながら、インクジェットプリンターのインクは、紙層内への浸透をよくするために、水に較べて表面張力が小さい。そこで、表面張力の異なる水溶液のコッブサイズ度とインクジェット記録シートの印字特性について比較検討した結果、5%イソプロピルアルコール水溶液を用いて測定したコッブサイズ度と印字特性、特に、フェザリングとの間に良好な相関関係が見られた。そして、インクジェット記録シートの5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が20g/m^(2)以下の時、インクジェットプリンターで印字した際のフェザリングが良好であることを見い出した。
【0013】フェザリングを抑える上では、上記のとおり5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が20g/m^(2)以下で充分である。しかし、該インクジェット記録シートのサイズ性を上げすぎるとインクの吸収性が悪くなり、印字部のブロンズ化が進むと共に、インクジェットプリンターで連続印刷時に該転写シート上で乾ききらないインクが印刷面を汚す場合がある。また、カラーインクジェットプリンターを使ってカラー印刷をする場合には、混色部において最初に印刷された部分が乾ききらない内に、別の色で印刷されてしまい、にじみが発生する。そして、インクジェット記録シートの5%イソプロピルアルコール水溶液での30秒コッブサイズ度が13?20g/m^(2)の時、モノクロインクジェットプリンター及びカラーインクジェットプリンターで印刷した時の印字特性と印刷作業性に優れていることを見いだし、本発明のインクジェット記録シートを発明するに至った。
【0014】このようなインクジェットプリンターから吐出される浸透性の高いインクに対して上記で述べたような適度なサイズ性は、該記録シートを製造する際に使用される内添サイズ剤の量をコントロールする方法や該記録シートの印字される表面に表面サイズ剤を塗布する方法を単独もしくは組み合わせることで達成できる。」

2.対比
(刊行物1に記載された発明)
上記摘記事項(1a)?(1e)より、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「原紙であるシート状基体と、このシート状基体の一面に形成され、かつ、無色又は淡色の染料前駆体と、加熱下に反応してこれを発色させる顕色剤を含む感熱発色層を有する感熱記録体において、裏面を利用してインクジェット用紙としての機能をもたせ、基体上に顔料と接着剤を含有する下塗り層を設けてから感熱発色層を形成した記録紙。」
そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と、刊行物1発明とを対比すると、後者の「原紙であるシート状基体」「無色又は淡色の染料前駆体と、加熱下に反応してこれを発色させる顕色剤を含む感熱発色層」「裏面を利用してインクジェット用紙としての機能をもたせ」「記録紙」は、それぞれ前者の「紙支持体」「反応体および該反応体と加熱時反応して着色体を形成する共反応体を主として含有する感熱記録層」「他方の面が、インクジェット適性を有し」「情報記録材料」に相当する。
また、後者の「顔料と接着剤を含有する下塗り層」と前者の「インク不透過層」とは、いずれも紙支持体と感熱記録層との間に位置する点で共通である。
してみると、本願発明と刊行物1発明とは、
「紙支持体の一方の面に、反応体および該反応体と加熱時反応して着色体を形成する共反応体を主として含有する感熱記録層を設け、他方の面が、インクジェット適性を有し、かつ該支持体と感熱記録層との間に、一層以上の層を有する情報記録材料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点A1)
本願発明では、紙支持体が「インク浸透性」であるのに対し、刊行物1発明ではそのような記載がない点。
(相違点A2)
本願発明では、支持体と感熱記録層との間に設けられる層が「インク不透過層」であるのに対し、刊行物1発明では「顔料と接着剤を含有する下塗り層」である点。
(相違点A3)
本願発明では、インクジェット適性を有する面が、「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下である」と特定されるのに対して、刊行物1発明では、吸水度又はサイズ度について特定されない点。

3.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。

(相違点A1について)
本願明細書【0012】には、本願発明の「インク浸透性紙支持体」として「天然パルプを主体とした紙」が挙げられ、また、本願発明の参考例においても支持体としては「原紙」が使用されていることから見て、本願発明の「インク浸透性」とは通常の「天然パルプを主体とした紙」であれば有する程度のものと言えるから、刊行物1発明の「原紙」である紙支持体は、本願発明の「インク浸透性紙支持体」に相当する。
してみると、相違点A1は実質的な相違点ではない。

(相違点A2について)
本願明細書の記載によれば、本願発明の「インク溶剤不透過層」とは、具体的には「溶剤の透過を防ぐ水溶性高分子またはラテックス類のいずれか一種」をバインダーとして含有し(【0061】)、さらにシリカ等の無機顔料を含有し得る(【0062】)層であって、例えば参考例12における、48%スチレン-ブタジエンラテックスを40部、焼成カオリン100部、その他10%ヘキサメタリン酸ソーダ4部、20%リン酸エステル化澱粉30部を含有する塗液から塗工量3g/m^(2)で形成される程度のものと認めるところ、刊行物1発明の「顔料と接着剤を含有する下塗り層」の具体例は、「焼成クレー(商品名アンシレックス、エンゲルハート社製)85部を水320部に分散して得られた分散物に、スチレン-ブタジエン共重合物エマルジョン(固形分50%)を40部、10%酸化でんぷん水溶液を50部混合して得た塗液」から「乾燥後の塗布量が7.0g/m^(2)になるように」形成されること(1d)から見て、刊行物1発明の「顔料と接着剤を含有する下塗り層」は本願発明の「インク溶剤不透過層」に相当する。
してみると、相違点A2は実質的な相違点ではない。

(相違点A3について)
インクジェット適性を付与するために、支持体表面の「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度」を調整し、インクジェット記録時のフェザリングや混色部でのにじみ(ブリーディング)を防止することは、刊行物2ないし4に記載されている。
よって、刊行物1発明において、「インクジェット用紙としての機能をもたせ」るための手段として、支持体表面の「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度」を調整して、インクジェット適性を付与するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、支持体のインクジェット適性を有する側のサイズ性の程度を、フェザリングやブリーディングを防止できるような値に設定し、5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下であると特定することは、当業者にとって格別困難ではない。
そして、本願明細書を検討しても、5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下であると特定したことにより、事前に予測できない格別顕著な効果が生じたとも認められない。
また、インク吸収性を良好にするために、インク受理層を設けた原紙のコッブ法による吸水度を調整することは、本願出願前に普通に行われていることから(例えば、特開平7-17126号公報の段落【0013】?【0015】、【0018】?【0019】参照)、インク受理層が設けられている側の支持体の30秒コッブ吸水度を請求項1に記載の範囲に調整することも、当業者が容易になし得ることである。

以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成20年4月14日付け提出の意見書において「1.理由1について」として、刊行物1には上記下塗り層にインク溶剤不透過性を持たせる旨の記載がないこと、刊行物2乃至4には、インクジェット印字面と反対面に感熱記録層を設けるとともに紙支持体と感熱記録層の間にインク溶剤不透過層を設け、インクジェットインクが紙支持体を介して感熱記録層へ浸透することを防止することの示唆がないことを挙げ、「刊行物1乃至4を以てしても本願発明が当業者をして容易に導かれるものではない」と主張する。
しかしながら、上記(相違点A2について)で述べたとおり、刊行物1発明の下塗り層はその構成から見て本願発明と同等のインク溶剤不透過性を有していると言える。また、刊行物2乃至4はパルプ紙のインクジェット適性と「コッブ吸水度」との関係を示す文献であって、インクジェット適性を有する面の反対側に感熱記録層を設けることに関する技術事項を示すものではないから、インクジェットインクが感熱記録層へ浸透することを防止することについて示唆がないからといって、刊行物1発明においてインクジェット適性を有する面の支持体の30秒コッブ吸水度を調整するにあたり、刊行物2乃至4に記載の事項を参照することを妨げる理由はない。
したがって、請求人の主張は採用されない。

III 特許法第29条の2についての判断
1.先願明細書に記載された事項について
当審において平成20年2月8日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願平11-86170号(特開2000-272235号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には,次の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

(a)「【請求項1】パルプを主成分とする紙基材の片面にインクジェット記録適性を付与し、反対面に感熱記録層を設けてなる両面記録媒体であり、インクジェット記録適性を有する面へマイクロシリンジで0.5mlのポリエチレングリコール10%水溶液を滴下し、感熱記録層面へ浸透するまでの時間が30秒以上であることを特徴とする両面記録媒体。
【請求項2】紙基材と感熱記録層の間に樹脂を含有する中間層を設けた請求項1記載の両面記録媒体。
【請求項3】中間層の樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体、平均重合度800以上のポリビニルアルコール類の内、少なくとも一種類を含有することを特徴とする請求項2記載の両面記録媒体。」
(b)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を解決し、高速両面記録が可能で、かつ、少なくとも片面がカラー記録に適した記録方法およびその方法に適合した記録媒体を提供することを目的とする。インクジェットインク中の溶媒により、感熱記録層にかぶりを生じることがなく、感熱記録層の印字が消色されることがない、感熱記録とインクジェット記録の両面記録媒体を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果、片面にインクジェット記録適性を、反対面に感熱記録適性を付与し、さらに、インクジェット記録適性を付与した面へ滴下したポリエチレングリコール10%水溶液が、感熱記録適性を付与した面へ浸透するまでの時間が30秒以上となるようにすることにより、上記の要望に答え得る記録媒体が提供できることを見いだし、本発明を完成するに至った。好ましくは、該記録媒体基材と感熱記録層の間に中間層を設けることにより、高速両面記録に適した記録媒体が得られることを見いだした。」
(c)「【0011】インクジェット記録適性を付与するためには、カチオン樹脂及び/または水溶性樹脂や水分散性樹脂を紙基材に塗布若しくは含浸して得ることができる(上質紙タイプ)。ただし、インクの吸収性の点では顔料含有層を設けることが好ましい。特に、優れたインクジェット記録適性を付与するため、片面にキセロゲル系多孔質顔料を含むインク受容層を設けることが好ましい。」
(d)「【0017】インクジェット適性を付与した面の反対側の面には、感熱記録適性が付与される。感熱記録は、通常、無色または淡色のロイコ染料と、加熱時にこれを発色させる顕色剤を主要物質として含有する感熱記録層を熱ヘッド等によって加熱し、該ロイコ染料と顕色剤を反応、有色化させて記録するものである。」
(e)「【0026】これらの中には、感熱記録層の発色を誘引する物質も含まれているため、基材がインク中の湿潤剤、染料溶解剤等を透過しやすい物であれば、それが感熱記録層に浸透して発色を誘引し、いわゆるカブリ現象を引き起こす場合がある。またインク中の湿潤剤、染料溶解剤等の中には、感熱記録層の発色部の消色を誘引する物質も含まれているため、感熱記録層の画像の消失を引き起こす場合もある。したがって、これら湿潤剤や染料溶解剤等の溶媒が、感熱記録層に浸透しないようにする必要がある。
【0027】インクジェット記録適性を付与した面へ滴下したポリエチレングリコール10%水溶液が、感熱記録適性を付与した面へ浸透するまでの時間を30秒以上とすることにより、溶媒の浸透は、実質的に防止することができる。好ましくは35秒以上である。溶媒の浸透が完全に防止されても弊害は特にないため、上限は特にない。ポリエチレングリコール10%水溶液0.5mlを、インクジェット記録適性を付与した面にマイクロシリンジで滴下し、これを感熱記録層面から観察して、透明な斑点が3ヶ現れる時点までの時間を計測して、耐溶媒透過性とする。
【0028】浸透するまでの時間を30秒以上とするには、・・・(中略)・・・溶媒を透過させない基材を使用する方法も可能であるが、にじみが発生してしまう恐れもある。本発明の第2の態様は、感熱記録層と基材の間に溶媒を透過させない中間層を設けること及び/またはインクジェット記録層と基材の間に中間層を設けることである。インクジェット記録層と支持体間に中間層を設けると、インクジェットインクの吸収性も低下する場合が多く、インクジェット記録画像に、にじみが発生してしまうおそれもある。よって支持体と感熱記録層間に中間層を設けた記録体が好ましい。
【0029】中間層が含有する樹脂は、・・・(中略)・・・の公知の材料を適宜用いることができる。これらの内、特に溶媒浸透性防止効果に優れる物質は、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体、平均重合度800以上のポリビニルアルコール類等であり、これらが好ましい。
【0030】本発明の中間層は必要に応じて顔料を含有していても良く、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ホワイトカーボン、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機顔料類、スチレン系、アクリル系、尿素樹脂系、メラミン樹脂系、ベンゾグアナミン樹脂系の有機顔料類を使用することができる。
【0031】中間層塗工量としては固形重量として2?15g/m^(2)、好ましくは4?8g/m^(2)であり、2g/m^(2)より少ない場合は耐溶媒透過性の効果が得にくく、15g/m^(2)より多い場合は、耐溶媒透過性に関しては問題ないが、操業上あるいは経済上、不利である場合が多い。」
(f)「【0039】
2)中間層の形成
平均重合度1050のポリビニルアルコール(クラレ製、PVA-110)の水溶液を、上記上質紙のインク受容層と反対面に乾燥後の塗布量が6.0g/m^(2)となるように塗布乾燥し、中間層を形成した。」

2.対比
上記摘記事項より、先願明細書には下記の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「パルプを主成分とする紙基材の片面にインクジェット記録適性を付与し、反対面に無色または淡色のロイコ染料と、加熱時にこれを発色させる顕色剤を主要物質として含有する感熱記録層を設けてなる両面記録媒体であり、インクジェット記録適性を有する面へマイクロシリンジで0.5mlのポリエチレングリコール10%水溶液を滴下し、感熱記録層面へ浸透するまでの時間が30秒以上であり、紙基材と感熱記録層の間に樹脂を含有する溶媒を透過させない中間層を設ける両面記録媒体。」

そこで、本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「片面にインクジェット記録適性を付与し、反対面に無色または淡色のロイコ染料と、加熱時にこれを発色させる顕色剤を主要物質として含有する感熱記録層を設けてなる」「溶媒を透過させない中間層」「両面記録媒体」は、本願発明の「一方の面に、反応体および該反応体と加熱時反応して着色体を形成する共反応体を主として含有する感熱記録層を設け、他方の面が、インクジェット適性を有し」「インク溶剤不透過層」「情報記録材料」にそれぞれ相当する。
また、上記「II 特許法第29条第2項についての判断」中、「3.当審の判断」の「(相違点A1について)」で述べたとおり、本願発明の「インク浸透性」とは通常の「天然パルプを主体とした紙」であれば有する程度のものと言えるから、先願発明の「パルプを主成分とする紙基材」は本願発明の「インク浸透性紙支持体」に相当する。
してみると、本願発明と先願発明とは、「インク浸透性紙支持体の一方の面に、反応体および該反応体と加熱時反応して着色体を形成する共反応体を主として含有する感熱記録層を設け、他方の面が、インクジェット適性を有し、かつ該支持体と感熱記録層との間に、一層以上のインク溶剤不透過層を有することを特徴とする情報記録材料。」である点で一致し、以下の点で一見相違する。

(相違点)
本願発明は、インクジェット適性を有する面が「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下」であるのに対し、先願発明のインクジェット記録適性を有する面については、「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度」の値について特段の定めがない点。

3.当審の判断
以下、相違点について検討する。
本願明細書【0067】?【0069】の記載、及び参考例1?3と比較例1?3を参照するに、本願発明の「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下」とは、紙支持体上に顔料層を塗工せず、表面サイズ処理によってインクジェット適性を持たせた場合のサイズ度であれば示す程度の吸水度特性に過ぎないと認める。
先願明細書にはインクジェット記録適性を付与する方法の例として、「インクジェット記録適性を付与するためには、カチオン樹脂及び/または水溶性樹脂や水分散性樹脂を紙基材に塗布若しくは含浸して得ることができる(上質紙タイプ)。」(c)と記載されており、これはいわゆるサイズ処理と呼ばれる方法であって、原紙の吸水度を調整してインク適性を持たせる手段であることは当該分野における技術常識である。この場合の具体的なサイズ度あるいは吸水度について先願明細書には特段の記載は無いが、上記刊行物2?4が示すように、表面サイズ剤を塗布することによって原紙にインクジェット適性を持たせる場合の吸水度特性として、本願発明の「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下」はその測定方法及び数値範囲のいずれも周知のものに過ぎない。
してみると、先願発明において、カチオン樹脂及び/または水溶性樹脂や水分散性樹脂を紙基材に塗布若しくは含浸してインクジェット記録適性を付与するに当たり、具体的な吸水度特性を従来周知の程度に設定し、本願発明の範囲とすることは単なる周知技術の付加であって新たな効果を奏するものではないから、単なる設計的事項に過ぎない。
以上のとおり、本願発明と先願発明とは実質的に同一である。

なお、請求人が、平成20年4月14日付け提出の意見書において、「理由2について」として述べる内容は、文章がやや明確ではないものの、要するに、先願明細書には、支持体にインク浸透性を持たせると同時に5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下に調整する技術的思想がなく、先願発明は本願発明と同一ではない、という旨の主張だと理解される。
しかしながら、上記「3.対比」で述べたとおり、本願発明の「インク浸透性」とは通常の「天然パルプを主体とした紙」であれば有する程度の性質に過ぎず、先願発明の「パルプを主成分とする紙基材」と本願発明の「インク浸透性紙支持体」とに実質的な差異はない。そして、「5%イソプロピルアルコール水溶液で測定した30秒コッブ吸水度が、7g/m^(2)以上40g/m^(2)以下」とすることは、上述のとおり単なる設計的事項に過ぎない。
よって、出願人の主張は採用されない。

IV むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた先の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-12 
結審通知日 2008-05-13 
審決日 2008-05-27 
出願番号 特願平11-301060
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
P 1 8・ 161- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 木村 史郎
淺野 美奈
発明の名称 情報記録材料  

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