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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1180671
審判番号 不服2005-22056  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-16 
確定日 2008-07-09 
事件の表示 平成8年特許願第160340号「表装布材」拒絶査定不服審判事件〔平成10年1月13日出願公開、特開平10-6430〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
この出願は、平成8年6月20日の出願であって、平成17年10月6日に拒絶査定がされ、これに対して同年11月16日に審判の請求が、更に同年12月16日に手続補正がされ、これらに対する平成18年1月5日付けの手続補正指令(方式)に応答して同年2月15日付けでそれぞれ手続補正書が提出され、その後、平成19年10月17日付けの審尋に対して同年12月19日に回答書が提出されたものであって、その発明は、平成17年12月16日に補正(平成18年2月15日付けの手続補正によりさらに補正)された明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「通気性を有する表布と、炭素粉剤層とを備え、前記炭素粉剤層は、炭素粉剤を水に分散させた炭素粉剤液を前記表布の背面側に塗布して乾燥させることにより、前記表布の通気性を阻害しない状態で前記表布の背面側に担持されて、前記表布の表面側には露出しないようになっている、表装布材。」(以下、「本願発明1」という。)

2 原査定の理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、この出願の請求項1?5に係る発明は、この出願前日本国内において頒布された刊行物1及び周知技術である刊行物2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 刊行物の記載事項
上記刊行物1である実願昭58-13351号(実開昭59-118486号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
a 「60メッシュより小さい活性炭の粒子がその表面の細孔が閉鎖されない状態で埋入された通気性多孔質である樹脂またはゴム層がカーテン地の少なくとも片面に一体化された防臭カーテン。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
b 「樹脂またはゴム層が活性炭を混入したエマルジョン型ラテックスコンパウンドをカーテン地の少なくとも片面に塗布、乾燥することによって形成されたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項、第2項または第3項に記載の防臭カーテン。」(実用新案登録請求の範囲第4項)
c 「前記ラテックスとしては、各種合成ゴムラテックス、ポリ塩化ビニルラテックス、ポリアクリレートラテックス等一般のカーテンの裏張りに用いられている水分散系のものが使用される。」(第4頁第7?10行)
d 「さらに、本考案においては、前記樹脂等の層の少なくとも片面に、通気性のある抗菌性のカーテン地を一体化し、活性炭の吸着能による防臭効果を妨げずかつ、菌の繁殖による発臭を防ぐもので、具体的には、通気度が3cc/cm^(2)/sec以上でかつ、金属銅を繊維の表面もしくは内部に吸着あるいは付着した銅含有繊維を含むカーテン地あるいは抗菌剤処理したカーテン地を用いる。」(第4頁第19行?第5頁第6行)
e 「本考案によれば、カーテンの使用中に室内の空気を浄化し、臭気を活性炭で吸着し防臭効果を発揮し、さらに銅含有繊維や抗菌処理繊維のカーテン地を併用するとき、菌の繁殖を防ぎこれによる発臭を防止することができ、衛生的なカーテンを提供しうる。」(第5頁第19行?第6頁第4行)
f 「実施例
ゴム(日本カーバイト工業製ニカゾール)25wt%
活性炭(クラレケミカル社製クラコール)10 〃
水 60
その他 5 〃
の組成の水分散系ゴムラテックスをカーテン織物地の片面に300g/m^(2)塗布し、乾燥した。カーテン片面には120g/cm^(3)の活性炭-ゴムの通気性多孔質層が得られた。」(第6頁)

4 刊行物1に記載された発明
刊行物1は「60メッシュより小さい活性炭の粒子がその表面の細孔が閉鎖されない状態で埋入された通気性多孔質である樹脂またはゴム層がカーテン地の少なくとも片面に一体化された防臭カーテン」(摘示a)に関するものであって、その「樹脂またはゴム層」は「活性炭を混入したエマルジョン型ラテックスコンパウンドをカーテン地の少なくとも片面に塗布、乾燥することによって形成された」(摘示b)ものとされ、具体的には、「ゴム・・・25wt% 活性炭・・・10 〃 水 60 その他 5 〃の組成の水分散系ゴムラテックス」をカーテン織物地の片面に塗布し、乾燥して得られる「活性炭-ゴムの通気性多孔質層」(摘示f)が記載されている。そして、その「樹脂またはゴムがカーテン地の少なくとも片面に一体化された」ものは「前記樹脂等の層の少なくとも片面に、通気性のある抗菌性のカーテン地を一体化し、活性炭の吸着能による防臭効果を妨げずかつ、菌の繁殖による発臭を防ぐ」(摘示d)ものとされているから、活性炭-樹脂又はゴムの層は、通気性を有するカーテン地を通過した空気がその層に到達する状態で、すなわち、カーテン地の通気性を阻害しない状態で、カーテン地の片面に担持されるものであると認められる。
そうすると、本願発明1の記載ぶりにならって表現すると、刊行物1には、
「通気性のあるカーテン地と、その片面に60メッシュより小さい活性炭-樹脂又はゴムの層を備え、前記層は、樹脂又はゴムに活性炭を混入した水分散系エマルジョン型ラテックスコンパウンドを通気性のあるカーテン地の片面に塗布して、乾燥させることにより形成され、カーテン地の通気性を阻害しない状態で、カーテン地の片面に担持されている、カーテン」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

5 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「カーテン地」も本願発明1の「表布」も共に「布」であるということができ、引用発明の「カーテン」も本願発明1の「表装布材」も共に「布材」であるということができる。また、引用発明における「60メッシュより小さい活性炭」は本願発明1の「炭素粉剤」に相当するから、引用発明における「60メッシュより小さい活性炭-樹脂等の層」も本願発明1の「炭素粉剤層」もいずれも「炭素粉剤含有層」ということができる。そして、引用発明の「樹脂又はゴムに活性炭を混入した水分散系エマルジョン型ラテックスコンパウンド」において、活性炭は水含有液に分散されているということができるから、本願発明1の「炭素粉剤を水に分散させた炭素粉剤液」も共に「炭素粉剤を水含有液に分散させた炭素粉剤液」であるということができる。
そうすると、両者は、
「通気性を有する布と、炭素粉剤含有層とを備え、前記炭素粉剤含有層は、炭素粉剤を水含有液に分散させた炭素粉剤液を前記布の片面に塗布して乾燥させることにより、前記布の通気性を阻害しない状態で前記布の前記片面に担持されている布材」
の点で一致し、次の点で相違しているということができる。
ア 炭素粉剤を水含有液に分散させた炭素粉剤液が、本願発明1においては、樹脂又はゴムを含むとは規定していないのに対し、引用発明においては、樹脂又はゴムを含むものであり、炭素粉剤含有層が本願発明1においては、樹脂又はゴムを含むものであるか明らかでない「炭素粉剤層」であるのに対し、引用発明においては、樹脂又はゴムを含む炭素粉剤-樹脂等の層である点
イ 炭素粉剤含有層が、本願発明1においては、炭素粉剤液を「表布の背面側」に塗布して乾燥させ、「表布の表面側に露出しないようになっている」のに対し、引用発明においては、「カーテン地の片側」に塗布して乾燥させるものであって、炭素粉剤層が表布の表面側に露出しないようになっているかは明らかではない点
ウ 布及び布材が、本願発明1においては「表布」及び「表装布材」であるのに対し、引用発明においては「カーテン地」及び「カーテン」である点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点ア」、「相違点イ」、「相違点ウ」という。)

6 相違点についての検討
(1)相違点アについて
ア 本願発明1の炭素粉剤液に水、炭素粉剤のほかにどのようなものを含むか明らかではないところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると「炭素粉剤液に表布への付着性を向上させる接着成分等の薬剤を添加しておくことが有効である。」(【0014】)と記載されていることから、炭素粉剤液は接着成分を含むことが有効なものである。そして、接着成分として樹脂又はゴムは代表的なものである(例えば、引用発明の樹脂又はゴムも接着成分である。)。
そうすると、本願発明1の炭素粉剤液は、樹脂又はゴムの接着成分を含む場合を包含すると認められ、炭素粉剤層は、樹脂又はゴムを含む場合を包含すると認められる。
そうすると、相違点アは、両者の実質的な相違点ということはできない。
イ 請求人は、請求の理由(平成18年2月15日付け手続補正書)の[本願発明の概要]の項の第3段落において、この出願の発明について「実質的に炭素粉剤だけで構成された炭素粉剤層は、炭素粉剤の個々の粒子が、ほぼ全表面で、吸放湿機能や脱臭機能を良好に発揮できます。」と、また、[引用文献との相違]の<引用文献1>の項の第9段落において、「本願発明では、樹脂やゴムは使用していませんから、炭素粉剤と組み合わせる樹脂やゴムを特別に選択する必要がありません。炭素粉剤層は、実質的に炭素粉剤のみで構成されますから、元々、炭素粉剤の粒子表面に存在する細孔のほぼ全てが露出しています。なお、炭素粉剤同士の接触点にバインダー(結合材)が存在することはありますが、粒子表面のごく一部だけが点状に覆われていたとしても、実質的には全面で細孔が露出しているとみなせます。したがって、引用文献1の技術に比べて、本願発明では、炭素粉剤層における炭素粉剤の露出割合が格段に大きくなります。炭素粉剤の露出割合が大きければ、炭素粉剤の機能である防臭機能や調湿機能は、引用文献1の技術に比べて向上することは明らかです。」と主張している。
しかし、前記したように、本願発明1の炭素粉剤層は接着成分を含むものを包含するものであって、その接着成分の種類や使用量については何等記載がなく、様々な態様を包含するものであるから、請求人のこれらの主張は、本願明細書の記載に基づかない主張であって、採用することはできない。
ウ さらに、請求人は、同[引用文献との相違]の<引用文献1>の項の第11段落において、「しかも、本願発明では、炭素粉剤層の内部奥に存在する炭素粉剤も、それよりも表面に存在して通気性ある炭素粉剤を介して、炭素粉剤層の表面の外界と連通しています。外界の空気や湿気は、炭素粉剤層を構成する炭素粉剤と良好に接触することができます。実質的に、炭素粉剤の粒子が単独で存在するのと、それほど変わりがないほど、優れた吸着機能や吸放湿機能が発揮できます。」とも主張している。
しかし、本願発明1は、「前記表布の通気性を阻害しない状態で前記表布の背面側に担持されて、」を発明特定事項とするものであって、この事項は少なくとも表布が通気性がありその表布を介して空気が炭素粉剤層に到達し得る状態であることを規定するものの、炭素粉剤層が通気性であることまで規定するものではないから、この主張も、本願発明1の発明特定事項に基づかない主張であって、採用することはできない。

(2)相違点イについて
引用発明はカーテンに関する発明であり、カーテン地の片面に炭素粉剤含有層を設けるに際しては、活性炭が黒色であることから、美観の点からみて、カーテン地の背面側に設けること、その際にカーテン地の表面側に露出しないようにすることは、当業者が当然行うべきことと考えられる。
よって、引用発明において、相違点イに係る本願発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点ウについて
本願発明1の「表装布材」という用語は明確なものではない。そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「各種家具や乗り物の座席シート等の表面を覆ったりカーテンに用いられたりする」(段落【0001】)、「住宅、オフィス、工場等の建築構造物の室内に配置される各種の家具や内装部材に利用される。例えば、ソファや椅子の座部や背もたれの表装材料として使用される。タンス等の家具の外貼り材あるいは内貼り材として使用される。自動車や電車、航空機等の乗り物における座席の表装材料や室内の内装材料として使用される。」(段落【0018】)等と記載されている。前者の記載における「カーテンに用いられ」が「カーテンそのものに用いられ」の意味とすれば、相違点ウは両者の相違点とはならない。また、「必要なときのみにカーテンに表装面材を取り付けて使用し、必要のないときには表装面材を取り外しておくことができる」(段落【0017】)及び「図1、図2に示す実施形態は、表装布材をカーテンに利用した場合を表す。」(段落【0022】)の記載及び図1及び図2をみると、「カーテンに用いられ」は「カーテンに取り付けて使用され」る又は「カーテンに利用」される「表装面材」であるとも解されるが、そうであっても、カーテン布材を建築、家具用の化粧板の「表装布材」として用いたり、ソファや椅子張り、壁張り等の「表装布材」として用いることは、この出願の出願前に普通に知られていることであるから(必要ならば、実願平1-49890号(実開平2-27441号)のマイクロフィルムの第6頁第7行?第7頁第2行、特開平5-106132号公報段落【0008】、特開平7-305282号公報段落【0001】等を参照)、引用発明の防臭効果等のあるカーテンを、同様な機能が要求されることが知られた(必要ならば、特開平4-73273号公報(第1頁左下欄下から第3行?同頁右下欄第2行)、特開平4-108166号公報(第1頁左下欄第9?12行)等参照)各種家具の表装布材として、又は乗り物における座席の表装面材や室内の内装材料等の表装布材として用いることは当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点ウは両者の実質的な相違点ではないか、引用発明において、相違点ウに係る本願発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得ることである。

(4)効果について
この出願の効果は「表布に担持された広い面積を有する炭素粉剤層に環境空気を効率的に接触させることができる結果、室内環境を迅速且つ能率的に改善することができる。布状をなしているので、・・・様々な用途に簡単に利用できるとともに、外観的には表布だけが露出していて通常の布材料と変わりがないので、目障りにならず、外観性に優れたものとなる。」(段落【0031】)というものであるところ、これらの効果は、引用発明におけるカーテンの奏する効果と同質のものであって、格別顕著なものであると認めることはできない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成19年12月19日の回答書において、この出願の発明と刊行物4に記載された発明との相違点について、概略「刊行物4に記載の技術は、・・・「熱可塑性高文子(「高分子」の誤記と認める)繊維の軟化点以上の温度で熱処理」するのであり、そのため、繊維の溶融により通気性が失われることに変わりはありません。」(「4.前置審査の報告書の(3)について」の最後から2段落目)などと主張する。
しかしながら、原査定の理由は、本願発明1と引用発明とを対比するものであるところ、上記で認定のとおり引用発明は「・・・樹脂又はゴムに活性炭を混入した水分散系エマルジョン型ラテックスコンパウンドを通気性のあるカーテン地の片面に塗布して、乾燥させることにより形成され、カーテン地の通気性を阻害しない状態で、カーテン地の片面に担持されている、カーテン」というものであって、布の通気性に関しては、本願発明1と引用発明との相違点とはならない。
そうすると、布の通気性についての刊行物4に関する請求人の上記主張は、上記認定判断に影響するものではない。

(6)まとめ
よって、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-18 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-20 
出願番号 特願平8-160340
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
橋本 栄和
発明の名称 表装布材  
代理人 松本 武彦  
代理人 松本 武彦  

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