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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1181382
審判番号 不服2004-21948  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-25 
確定日 2008-07-22 
事件の表示 平成8年特許願第510734号「癌の検出及び処理」拒絶査定不服審判事件〔平成8年3月28日国際公開、WO96/09551、平成11年10月12日国内公表、特表平11-511847〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成7年(1995)9月18日を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし13に係る発明は、平成16年4月6日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1は次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「1.患者の癌を検出する方法であって、
患者から、卵巣、子宮、直腸、脳、肝臓、血液、唾液、粘膜、痰、尿、涙、血清及び骨で構成される群から選択された生体サンプルを獲得するステップ;
アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体又は標識アルファフェトプロテインを、インビトロで、卵巣、子宮、直腸、脳、肝臓、血液、唾液、粘膜、痰、尿、涙、血清及び骨で構成される群から選択された前記の生体サンプルに導入し、標識抗体又標識アルファフェトプロテインを、前記の生体サンプル内で、アルファフェトプロテイン・レセプター又は、標識アルファフェトプロテイン又は標識抗体に対するアルファフェトプロテイン・レセプター上のアルファフェトプロテイン・レセプター結合部位と反応させるステップ;
前記の生体サンプルから、錯体を形成しなかった、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体を洗い流すステップ;
前記生体サンプル内で標識抗体又は標識アルファフェトプロテインと反応した、アルファフェトプロテイン・レセプター又はアルファフェトプロテイン・レセプターの結合部位を同定することにより、癌の存在を調べるステップであって、該ステップにおいて、正常で、悪性でない個体に比して、アルファフェトプロテイン・レセプター又はアルファフェトプロテイン・レセプターの結合部位の増加レベルが癌の存在を示す、
を有している患者の癌検出方法。」

なお、上記請求項1の「前記の生体サンプルから、錯体を形成しなかった、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体を洗い流すステップ」という記載における「アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体」は、もともと「アルファフェトプロテインに抗する標識抗体」と記載されていたものであるが、その直前のステップにおいては「アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体」と記載されていること、及び、明細書の記載からみて、「アルファフェトプロテインに抗する標識抗体」が本願発明において用いられる成分ではないことが明らかであり、かつ、本願発明において洗い流されるべき標識抗体はアルファフェトプロテイン・レセプターと反応しなかった「アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体」であることが明らかであることから、上記記載における「アルファフェトプロテインに抗する標識抗体」は、「アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体」の明白な誤記であると認められるため、上記のように訂正した。

2.引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物(Tumor Biology,vol.14,no.2,p.116-130)は、「広く分布した癌胎児性抗原:アルファ-フェトプロテインレセプターに対して指向されたモノクローナル抗体」と題する論文であって、次の事項が記載されている。

(a)要約の項(116頁)
「要約
アルファ-フェトプロテイン(AFP)の細胞結合および取り込みに基づく蓄積された証拠が、胎児性及び腫瘍細胞の表面上のAFPに対するレセプターの存在を示してきた。このレセプターをさらに研究するために、プールされたヒト乳癌細胞膜抽出物に対して作製されたモノクローナル抗体(MAb)が、Ichikawa細胞株およびTA3-HA細胞株に対する放射性標識されたAFPの結合を阻害するそれらの能力についてスクリーニングされた。クローン167H.1および167H.4から産生されたIgMが、そのレセプターへのAFPの結合を阻害することが発見された。逆に、MAb反応は過剰のAFPによって阻害されたが、等モル濃度の血清アルブミンによっては阻害されなかった。これらのMAbがAFPを認識するという可能性は、除外されてきた。さらに、167H.1とAFPの双方に反応性の分画から得られたAFPレセプターの精製方法についても記述する。得られた結果は、167H.1および167H.4がAFPレセプター上のAFPに対する結合部位に対して指向されていることを強く示唆している。167H.4を用いて、我々は、6/6ヒト乳癌試料において免疫組織化学的染色が陽性であり、一方、3/3良性乳腺腫で陰性であることを発見した。167H.4または抗-AFP抗血清のいずれかを用いての胎児性筋肉の免疫染色は、同様の染色パターンを得た。167H.4で生きたIchikawa細胞を染色すると、標識されたAFPを用いた従前の報告に記載されているのと同様の、表面レセプター分布(キャッピング)が示された。従前観察されているAFPレセプターの広く分布した発現が、ここに記載されているMAbを用いて得られた結果と一致している。これらのMAbの基礎研究及び臨床研究に対する可能な使用が議論されている。」

(b)AFPレセプター、そのモノクローナル抗体(117頁17行?末行)
「これらの報告[19-25]は、多くの胎児性および悪性細胞がAFPレセプターを発現するが、正常な成人細胞は発現しないことを強く支持している。すなわち、このレセプターは真に広く分布した癌胎児性抗原であり得ることを示している。そのようなマーカーは、癌の診断及び管理のために、また同様にAFPの生理学および細胞分化のメカニズムのさらなる研究のために有用であることが証明され得るだろう。
今までのところ、AFPレセプターの検出はAFPの結合に頼ってきた。この戦略は、腫瘍シンチグラフィーに有用であることは証明されている[22,23]が、しかしながらいくつかの重要な弱点を有している:まず、有意量の純粋で活性なヒトAFPを入手することに実際的困難性がある。第2に、このレセプターに対するAFPの親和性は相対的に低い[24,25]。第3に、AFPは結合するためには機能的に完全なレセプター部位を必要とするようである;パラフィン腫瘍部分を標識されたAFPで染色しようとする複数の試み一貫して失敗した[MoRo,個人的見解]。AFPレセプター、またそのAFPとの相互反応を研究するためのより良いツールは、該レセプターの結合部位に対して指向されたモノクローナル抗体(MAb)であろう。そのようなMAbは、また腫瘍診断およびターゲッティングにおける応用を見つけることができるであろう。」

(c)免疫組織学(120頁右欄5行?28行)
「免疫細胞化学。100万のIchikawa細胞または末梢白血球が0.02%アジ化ナトリウムを含むPBS中で2回洗浄され、1%BSA-PBS中のMAb腹水の1/300希釈物または希釈されていない上澄みとともに2時間、4℃でインキュベートされた。細胞は3回洗浄され、BSA-PBS中で1/100に希釈された第2抗体[ローダミン-コンジュゲートされた抗マウスIgG/IgM(Tago)]と1時間、4℃でインキュベートされた。さらに3回洗浄後、細胞は1%フォルムアルデヒド-PBS中に分散され、エピ蛍光顕微鏡下で観察し写真撮影した。

免疫組織化学。6つのヒト乳癌、3つの良性乳腺腫およびヒト胎児性筋肉のサンプルの標準ホルムアルデヒド-固定パラフィン組織部分が研究された。染色は167H.4またはウサギ抗-ヒトAFP抗血清(Dako,Denmark)のいずれかを用いて行われ、他の箇所[8]に記載された間接的蛍光あるいは免疫ペルオキシダーゼ技術が適用された。第2抗体として、我々は、セントルイスのSigmaからのペルオキシダーゼまたはローダミン抗-マウスあるいは抗-ウサギ免疫グロブリンを用いた。陰性コントロールとして、無関係のIgM MAb腹水、10%胎児性子牛血清を含むRPMI、正常マウス血清または正常ウサギ血清を用いた。」

(d)結果:モノクローナル抗体とAFPレセプターとの結合(124頁右欄下から4行?125頁右欄7行)
「後者の結果は、167H.1と167H.4が溶解形のAFPレセプターを検出することを示す。これらのMAbが細胞表面AFPレセプターを認識することを確認するために、我々は4℃で、生きたIchikawa細胞をMAbと、それからローダミン-標識化ヤギ抗-マウスIgMとインキュベートした。図6は、167H.4MAbとの反応性を示す(同様の結果がと167H.1でも得られた(データは示さず))。観察されたキャピングは、リガンドとしてAFPを用いた従前の観察[19,21]と一致している。末梢白血球について平行して行われた実験は陰性であった(データは示さず)。これらの実験からの結果は、2つのMAbが細胞膜-結合されたAFPレセプターと溶解形のAFPレセプターの両方を検出することを示している。」

(e)結果:図7(125頁右欄8行?126頁左欄5行)
「図7は、胎児性、悪性および良性の組織を抗-AFPおよび167H.4MAbで染色したものを示す。胎児性筋肉では、抗-AFPでの染色(図7a)は、167H.4で得られたもの(図7b)と同様であった。6つの悪性腫瘍サンプル中の6つが167H.4で強い陽性(そのうちの3つを図7c-7eとして示す)であったが、他方、良性乳腺腫は陰性であることを示している(図7f)。2つの他の良性腺腫もまた陰性であった。癌サンプルにおいて悪性組織だけが染色された。これは、浸潤癌細胞の索状構造が周囲の非悪性組織から明確に区別され得ている図7cにおいて明らかである。」
そして、126頁右欄下?127頁に、図7として、染色された組織の写真が次の説明記載と共に示されている:
「図7.167H.4および抗-AFP抗体を用いたパラフィン部分の免疫染色。
a ヒト胎児性筋肉上のウサギ抗-AFP。第2抗体はペルオキシダーゼ-ヤギ抗ウサギIgG.反応はジアミノベンジジンとともに行われた。b 167H.4で染色された同一試料。第2抗体として、ペルオキシダーゼ-ヤギ抗マウスIgM+IgGが用いられた。反応はジアミノベンジジンとともに行われた。aとbの染色における同一性に注意。c-e 167H.4で染色された3つのヒト乳癌。第2抗体はローダミン-標識ヤギ抗マウスIgG IgMであった。f c-eにおけるように染色されたヒト乳腺腫。陰性基質と顆粒上皮との間のコントラストの欠乏と乳癌部分の非悪性区画における染色がないことに注意。」

(f)ディスカッション:悪性腫瘍の診断(128頁右欄12行?末行)
「この研究において用いた臍帯血清または胸膜浸出液のような体液におけるAFPレセプターの存在は、癌細胞による活性な分泌の結果または細胞死の結果でありえるだろう。両方の場合、体液、そして特に血清における検出可能量のAFPレセプターの存在は、広範囲の悪性腫瘍の診断とフォローアップに有用であることが証明され得るだろう。これはまた、“結果”の項に示したように、6つのパラフィン-処理乳癌のうちの6個が167H.4MAbで陽性である一方、3つの乳腺種が陰性であるので、組織病理学研究においてもそうであり得る。より詳細な研究が、多数の試料について実施され、167H.1または167H.4[Laderoute等、調製]で染色された場合、研究された全ての腺癌のほぼ90%が陽性であったことを示している。胎児性組織では、167H.4による陽性染色の分布は、抗AFP抗血清を用いて得られた結果に予測どおり匹敵するものであった。
167H.1と167H.4による悪性腫瘍の異なるタイプの認識は、他の種からの腫瘍を認識するそれらの能力と同様に、AFPレセプターに常に関連付けられている広範囲な分布に合致している。すなわち、この論文で記載したMAbは、AFP、そのレセプターおよび細胞分化とそれらの関係の生理学を発展させるためのツールとしてと同様に、広範囲の悪性腫瘍の診断用の、そして管理用のツールとして有用であると証明されるかもしれない。」

3.本願発明と刊行物記載の発明との対比
(1)刊行物記載の発明
上記刊行物の図7に結果が示されている、乳癌等の組織サンプルをアルファフェトプロテイン・レセプターに抗するモノクローナル抗体(167HMAb)を用いて染色した例では、上記記載(e)からも明らかなように、生体サンプル内で抗体と反応したアルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより癌の存在が調べられ、正常で、悪性でない個体に比して、アルファフェトプロテイン・レセプターの増加レベルが癌の存在を示している。(なお、以下において「モノクローナル抗体」を「MAb」と、「アルファフェトプロテイン」を「AFP」と略記することがある。)
そして、上記刊行物には明記されていないものの、当該乳癌組織サンプルは、当該生体サンプルを獲得するステップを経て獲得された生体サンプルであることは当然であり、生体と切り離された生体サンプルを免疫組織化学的に染色する形態は、生体内で行われる「インビボ」ではなく、「インビトロ」で行われているものである。
また、上記刊行物の「材料および方法」の項中の「免疫組織化学」についての記載(上記記載(c)参照)および図7についての記載(上記記載(e)参照)にある標識された第2抗体は、生体サンプル内でAFPレセプターと反応した標識されていない抗AFPレセプター抗体に結合させて、生体サンプルにおけるAFPレセプターの存在を認識させるための標識された抗体であることは、免疫反応を利用する検査の技術分野においては自明のことである。
そうすると、上記刊行物には、
「乳房組織から生体サンプルを獲得するステップ;
アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体を、インビトロで、乳房組織からの前記の生体サンプルに導入し、抗体を、前記の生体サンプル内で、アルファフェトプロテイン・レセプターと反応させるステップ;
第2抗体としてローダミン-標識ヤギ抗マウスIgG IgMを用いてアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体に結合させて、前記生体サンプル内でアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体と反応したアルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより、癌の存在を調べるステップであって、該ステップにおいて、正常で、悪性でない個体に比して、アルファフェトプロテイン・レセプターの増加レベルが癌の存在を示す、
を有している方法。」の発明(以下、「刊行物記載の発明」という)が記載されているものと認められる。

(2)一致点、相違点
本願発明と上記刊行物記載の発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は下記のとおりである。

(一致点)
「生体サンプルを獲得するステップ;
アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体を、インビトロで、前記の生体サンプルに導入し、該抗体を、前記の生体サンプル内で、アルファフェトプロテイン・レセプターと反応させるステップ;
前記生体サンプル内で該抗体と反応した、アルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより、癌の存在を調べるステップであって、該ステップにおいて、正常で、悪性でない個体に比して、アルファフェトプロテイン・レセプターの増加レベルが癌の存在を示す、
を有している方法。」

(相違点1)
本願発明の方法は「患者の癌を検出する方法」であるのに対して、上記刊行物記載の発明の方法は、あらかじめ悪性腫瘍であるか良性腫瘍であるかが知られている生体サンプルにおいて癌の存在を調べているだけのものであるから、「患者の癌を検出する方法」ではない点。

(相違点2)
生体サンプルが、本願発明では、「患者から、卵巣、子宮、直腸、脳、肝臓、血液、唾液、粘膜、痰、尿、涙、血清及び骨で構成される群から選択された生体サンプル」であるのに対し、上記刊行物記載の発明では、乳癌や良性乳腺腫などの生体サンプルについて癌の存在を調べることは記載されているものの、患者から卵巣、子宮、直腸、脳、肝臓、血液、唾液、粘膜、痰、尿、涙、血清及び骨で構成される群から選択された生体サンプルを獲得して、癌の検出を行うことは記載されていない点。

(相違点3)
生体サンプル内でアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体と反応したアルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより、癌の存在を調べるための標識抗体が、本願発明では、「アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体」であるのに対し、上記刊行物記載の発明では、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗するモノクローナル抗体は標識されておらず、該非標識抗体に結合するローダミン-標識された第2抗体を組み合わせて使用し、間接的に生体サンプル内でアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体と反応したアルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより、癌の存在を調べている点。

(相違点4)
本願発明では、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体を、生体サンプル内で、アルファフェトプロテイン・レセプターと反応させるステップとともに、「前記の生体サンプルから、錯体を形成しなかった、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体を洗い流すステップ」を有しているのに対し、上記刊行物記載の発明では、生体サンプル内でアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体とアルファフェトプロテイン・レセプターを反応させるステップ、および標識した第2抗体をアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体と反応させるステップとともに、生体サンプルから、それぞれの抗原-抗体反応で結合せず抗原-抗体複合体(錯体)を形成しなかったアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体あるいは標識した第2抗体を洗い流すステップについては記載されていない点。

4.相違点についての検討
(1)相違点1について
上記刊行物には、生体サンプル内でMAb抗体と反応したアルファフェトプロテイン・レセプターを同定することにより癌の存在が調べられ、正常で悪性でない個体に比して、アルファフェトプロテイン・レセプターの増加レベルが癌の存在を示していることが記載されており(上記記載(e)参照)、また、MAbが腫瘍診断およびターゲッティングにおける応用できることを示唆する記載がある(上記記載(b)参照)ことからみて、上記刊行物記載の方法を「患者の癌を検出する方法」に応用することは、当業者であれば容易に想到できるものである。

(2)相違点2について
上記刊行物には、ハイブリドーマ167H.1と167H.4とからの2つのMAbが細胞膜-結合されたAFPレセプターと溶解形のAFPレセプターの両方を検出することが記載され(上記記載(d)参照)、生体組織サンプル中のAFPレセプターだけでなく、体液中のAFPレセプターの存在についても、「この研究において用いた臍帯血清または胸膜浸出液のような体液におけるAFPレセプターの存在は、癌細胞による活性な分泌の結果または細胞死の結果でありえるだろう。両方の場合、体液、そして特に血清における検出可能量のAFPレセプターの存在は、広範囲の悪性腫瘍の診断とフォローアップに有用であることが証明される得るだろう。」という教示が具体的になされている(上記記載(f)参照)。また、それに引き続いて上記刊行物には、AFPレセプターの生体における広範囲の存在に関連しての「167H.1と167H.4による悪性腫瘍の異なるタイプの認識は、他の種からの腫瘍を認識するそれらの能力と同様に、AFPレセプターに常に関連付けられている広範囲な分布に合致している。すなわち、この論文で記載したMAbsは、AFP、そのレセプターおよび細胞分化とそれらの関係の生理学を発展させるためのツールとしてと同様に、広範囲の悪性腫瘍の診断用の、そして管理用のツールとして有用であると証明されるかもしれない。」という教示がになされている(上記記載(f)参照)。
したがって、これらの記載をみた当業者であれば、乳房組織からの生体サンプルだけではなく、血清などの体液サンプルや、乳房同様女性において癌が存在する典型器官である卵巣や子宮、あるいはその他の器官についても、AFPレセプターに抗する抗体を用いてAFPレセプターの存在をを同定し、正常で、悪性でない個体に比してAFPレセプターの増加レベルが癌の存在を示すことを確認して、これらの生体サンプル内で癌を検出する方法を容易に想到することができるものである。

(3)相違点3、4について
生体サンプル中の抗原の存在レベルを検出するために、抗原に抗する抗体を用いて抗原と反応させ、反応した該抗体の存在レベルを検出する免疫反応を利用する検査の技術分野において、被検出対象抗原に抗する抗体を標識して標識抗体としての抗原と反応させて反応した該標識抗体の存在レベルを直接的に検出する方法も、被検出対象抗原に抗する抗体は標識せずに反応させ、その後当該抗体に結合する標識した第2抗体を反応させて当該抗体の存在レベルを間接的に検出する方法も、いずれも慣用されている手法にすぎない。
また、生体サンプル中の抗原の存在レベルの検出する免疫反応を利用する検査において、被検出対象抗原に抗する抗体を生体サンプルに導入して反応させた後、抗体が標識されている場合であれ、標識されておらず標識された第2抗体をさらに反応させるステップを要する場合であれ、生体サンプルから抗原-抗体が反応した錯体(複合体)を形成しなかった抗体を洗い流す、いわゆるB/F分離を行うステップを設けることも、技術常識にすぎない。
そうすると、上記刊行物記載の発明のように、生体サンプル中のアルファフェトプロテイン・レセプターを標識された第2抗体を用いて間接的に検出する代わりに、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体を「標識抗体」とし、該標識抗体を、生体サンプルに導入し、前記生体サンプル内で、アルファフェトプロテイン・レセプターと反応させるステップとともに、生体サンプルから、錯体を形成しなかった、アルファフェトプロテイン・レセプターに抗する標識抗体を洗い流すステップを設けるようなことは、当業者が必要に応じて適宜変更し得る事項である。

(4)作用効果について
本願明細書における具体例についてみても、体液についての例1(血清サンプル中での)も、組織サンプルについての例12も、いずれも生体サンプル中のアルファフェトプロテイン・レセプターをアルファフェトプロテイン・レセプターに抗する抗体と反応させた後、酵素やローダミンなどで標識された第2抗体を用いて間接的に検出した具体例が記載されているだけであって、相違点2の生体サンプルが乳房組織サンプル以外のものであることや、相違点3、4に係る構成の採用との関連において、本願発明が格別の作用効果を奏するものであるとは認められない。

5.請求人の主張について
請求人は請求の理由において、上記刊行物には本願発明を示唆する記載はあるものの、「could」や「might」、あるいは「perharps」といった不確実性を表す語をもって記載された文章によって、本願発明の特許性を否定されることは納得できない旨主張しているが、これらの断定的でない不確実性を含めた語を用いた記載であるからといって、上記刊行物においてAFPレセプターの存在レベルが確かめられた生体サンプル以外の生体サンプルでのAFPレセプターの存在レベルの検出による癌の検出の可能性を否定しているわけではないから、上記刊行物記載の教示に従い、周知の技術等を用いて他の生体サンプルについても実験を行い、癌の検出を確認してみるようなことは、当業者が普通に行う技術的創作活動の範囲内の事項である。また、本願の明細書の記載を見る限りでは、上記刊行物記載の生体サンプル以外の他の生体サンプルにおける癌の存在を調べるにあたり、格別の創意工夫が必要であったということも認められないから、他の生体サンプルを用いた場合においても上記刊行物記載の生体サンプルを用いた場合と同様に実験を行うことができ、その効果を確認することができたものと認められる。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前国内において頒布された上記刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-15 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-06 
出願番号 特願平8-510734
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 秋月 美紀子
黒田 浩一
発明の名称 癌の検出及び処理  
代理人 宮野 孝雄  
復代理人 植木 久一  
復代理人 菅河 忠志  
復代理人 伊藤 浩彰  
代理人 丸山 敏之  
復代理人 二口 治  

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