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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1181581
審判番号 不服2006-17867  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-16 
確定日 2008-07-17 
事件の表示 平成11年特許願第333129号「半導体装置の製造方法および半導体製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 8日出願公開、特開2001-156065〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年11月24日の出願であって、平成16年8月26日付け拒絶理由通知に対して、同年11月5日付けで手続補正がされたが、平成18年7月5日付けで拒絶査定され、これに対し、同年8月16日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年9月13日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成18年9月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成18年9月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「ビス ターシャル ブチル アミノ シランとNH_(3)とを原料ガスとして反応容器内に流して、熱CVD法により窒化シリコン膜を前記反応容器内に挿入された被成膜体上に形成する工程と、
その後、前記反応容器内にクリーニングガスを流して、前記反応容器内に形成された窒化シリコンを除去する工程とを備え、
前記窒化シリコンの膜ストレスは少なくとも2GPaであり、前記窒化シリコンを除去する工程は、前記反応容器内に形成される窒化シリコンが4000Åの膜厚に達する前に行われることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2.補正の適否についての判断
本件補正は、請求項1において、「前記窒化シリコンの膜ストレスは少なくとも2GPaであ」るという事項を追加するものであり、以下、この追加事項について検討する。

本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「本願当初明細書等」という。)には、上記窒化シリコンの膜ストレスを「少なくとも2GPa」とすることが明示的には記載されていない。
また、本願当初明細書等の段落【0006】には、「一般的なDCSとNH_(3)とによるSi_(3)N_(4)膜との比較データを、膜収縮率については図4に、膜ストレスについては図5に示す。図4、5において、BはBTBASとNH_(3)とによるSi_(3)N_(4)膜の場合を示し、DはDCSとNH_(3)とによるSi_(3)N_(4)膜の場合を示す。」と記載されるとともに、BTBASとNH_(3)とを原料ガスとして形成したSi_(3)N_(4)膜の膜ストレスを示す図である図5には、上記段落【0006】の記載における「B」と「D」のいずれに対応するものか明確でないものの、そのいずれかに対応する場合の膜ストレスが、2GPaをわずかに超え、かつ3GPaよりも小さい特定の値となることが示されているが、これらの記載からは、仮に、図5の左側が上記「B」、即ち「BTBASとNH_(3)とによるSi_(3)N_(4)膜の場合」を示し、右側が上記「D」、即ち「DCSとNH_(3)とによるSi_(3)N_(4)膜の場合」を示しているとしたしても、上記「2GPaをわずかに超え、かつ3GPaよりも小さい特定の値」以外の値も含む「少なくとも2GPa」の範囲まで上記膜ストレスの値の範囲を拡げることが自明であるとは到底いえない。よって、上記追加事項は、本願当初明細書等の記載から自明な事項ともいえない。

なお、審判請求人は、上記追加事項に関して、「当該事項は段落(0006)の記載および図5に基づいています。」と主張しているが、上述のとおりであるので、このような主張は採用できない。

また、審判請求人は、「確かに、窒化シリコンの膜ストレス等は成膜温度等により変化するものではありますが、変化すると言っても、例えば膜ストレスが2GPaから1GPaになるように変化するわけではなく、ごく僅かに変化するだけであります。本発明者の実験データによれば、ビス ターシャル ブチル アミノ シラン(BTBAS)とNH_(3)とを用いて熱CVD法により、温度550℃程度で成膜した窒化シリコン膜の膜ストレスも、温度600℃程度で成膜した窒化シリコン膜の膜ストレスも2GPa程度でした。すなわち、BTBASとNH_(3)とを用いて熱CVD法により窒化シリコン膜を成膜すれば、成膜条件がどうであれ、その膜ストレスは2GPa程度となります。」とも主張しているが、「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン(BTBAS)とNH_(3)とを用いて熱CVD法により、温度550℃程度で成膜した窒化シリコン膜の膜ストレスも、温度600℃程度で成膜した窒化シリコン膜の膜ストレスも2GPa程度でした。」との実験データのみをもって、「成膜条件がどうあれ、その膜ストレスは2GPa程度となります。」と結論付けるのは妥当とはいえないし、また、仮に「成膜条件がどうあれ、その膜ストレスは2GPa程度となります。」との結論が正しいとした場合でも、上記膜ストレスを「2GPa程度」とすることまでが自明であるといえるにとどまっており、上記膜ストレスを「少なくとも2GPa」、即ち「2GPa以上」とすることまでが自明であるとはいえないことを付言しておく。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、よって、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年9月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成16年11月5日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ビス ターシャル ブチル アミノ シランとNH_(3)とを原料ガスとして反応容器内に流して、熱CVD法により窒化シリコン膜を前記反応容器内に設けられた被成膜体上に形成する工程と、
その後、前記反応容器内にクリーニングガスを流して、前記反応容器内に形成された窒化シリコンを除去する工程とを備え、
前記窒化シリコンを除去する工程は、前記反応容器内に形成される窒化シリコン膜が4000Åの膜厚に達する前に行われることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-199586号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】被処理基板上の導電材料層上に層間絶縁膜を形成する工程、前記層間絶縁膜に、前記導電材料層に臨む接続孔を開口する工程、前記層間絶縁膜上および前記接続孔内部に、保護層をコンフォーマルに形成する工程、前記保護層をエッチバックして少なくとも前記導電材料層上から除去するとともに、前記接続孔側壁に残して側壁保護層を形成する工程、を有する半導体装置の製造方法であって、
前記保護層の形成工程は、熱CVD装置を用いた熱CVD工程であり、前記被処理基板の前記熱CVD装置への搬入時には、前記熱CVD装置の内部温度を600℃以下に制御することを特徴とする半導体装置の製造方法。・・・
【請求項3】保護層は、窒化シリコン層、酸窒化シリコン層および酸化シリコン層のうちの少なくともいずれか1種からなることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「本発明は半導体装置の製造方法に関し、さらに詳しくは、多層配線における層間接続構造を高信頼性をもって実現しうる工程を有する、半導体装置の製造方法に関する。」(【0001】)

(1c)「シェアードコンタクトの側壁保護層は、水分のバリア性の高い窒化シリコン、酸化シリコンあるいは酸窒化シリコン等の無機絶縁膜が用いられ、その形成方法は緻密な膜質とコンフォーマリティを両立しうる減圧CVD等の熱CVD法が適用される。・・・ この減圧CVD装置の構成例を図4に示す。同図は一般的なバッチ式縦型減圧CVD装置の概略断面図である。石英等からなるべルジャ16はこれを取り巻くヒータ17等により加熱され、例えば700℃?800℃程度の成膜温度に保持されている。不図示の被処理基板は、これも石英等のウェハボート15に複数枚、例えば60枚載置され、べルジャ16の下部解放端より搬入・搬出される。」(【0005】?【0006】)

(1d)「次工程が本実施例の要部を占める工程である。図1(a)に示すシェアードコンタクトが形成された被処理基板を、図4に示した減圧CVD装置のウェハボート15上に複数枚載置し、N_(2)等の不活性ガスをパージしつつべルジャ16内に搬入する。この時、べルジャ16内温度は500℃に制御しておいた。このため、搬入時に若干の大気がべルジャ16内に不可避的に巻き込まれた場合においても、高融点金属シリサイド層5表面に厚い自然酸化膜が形成されることはなかった。・・・
ウェハボート15を搬入しべルジャ16が気密状態となってから、そのままN_(2)やAr等の不活性ガスをパージしつつ、あるいは不図示の真空ポンプで高真空に排気しながらべルジャ16内温度を成膜温度である例えば760℃に昇温する。この後、下記減圧CVD条件によりSi_(3)N_(4)からなる緻密な保護層を例えば70nmの厚さに形成する。
保護層の減圧CVD条件
SiH_(2)Cl_(2)流量 70 sccm
NH_(3)流量 700 sccm
ガス圧力 73 Pa
被処理基板温度 760 ℃
保護層10は図1(b)に示すようにシェアードコンタクト7の形状を反映してコンフォーマルに形成される。」(【0017】?【0018】)

(1e)「さらに、減圧CVD等の熱CVD装置に被処理基板を搬入する際に、そのバッチ数を重ねた場合に装置内壁に堆積した膜が剥離して被処理基板に付着する虞れがある場合には、搬入前にNF_(3)、ClF_(3)あるいはC_(2)F_(6)等のフッ素系ガスによるin-situのガスエッチングによるチャンバクリーニングを施せばよい。かかる工程の追加によりパーティクル汚染が回避され、またさらに低温で熱CVD装置へ被処理基板を搬入することが可能となるので、導電材料層上の自然酸化膜形成の回避効果が徹底される。」(【0029】)

(2)また、同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-172439号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の技術事項が記載されている。

(2a)「本発明は、窒化珪素の新しい有機珪素原料物質であるビス(t-ブチルアミノ)シランを使用する窒化珪素膜の低圧化学気相成長の分野を志向する。」(【0001】)

(2b)「本発明は、優れた均一性で予想外の低温において窒化珪素を成長させるアミノシラン類としてのビス(t-ブチルアミノ)シランを志向する。・・・ビス(t-ブチルアミノ)シランは以下の化学式を持つ。
(t-C_(4)H_(9)NH)_(2)Si(H)_(2)」(【0019】?【0020】)

(2c)「【実施例】[例1]この方法はLPCVD条件(20mTorr?2Torr(2.666?266.6Pa)の低圧力範囲)での、アンモニアとビス(t-ブチルアミノ)シランの反応を含む。・・・この方法は、75?100個のシリコンウエハーを石英の反応器に装填すること、系を減圧すること、ウエハーを成長が起こる所望の温度にすることを含む。この反応に要求されるエネルギーは単純な抵抗加熱によって供給できる。しかしながら単純な抵抗加熱は設備があまり高価でなく、しばしばプラズマ反応器と関連する放射性皮膜損傷を避けるので有利である。」(【0039】)

(2d)「いくつかの類似先駆物質と本発明のビス(t-ブチルアミノ)シランの比較データを以下の表2に挙げた。・・・最も高い成長速度はN-H結合を持つ化学種つまり、ビス(t-ブチルアミノ)シラン、ジ-t-ブチルジアミノシラン、及びトリス(エチルアミノ)エチルシランを使用して得られた。これらの中で、成長した皮膜中に最も少量の炭素不純物を含む窒化珪素皮膜は、直接のSi-C結合を持たない化学種すなわち、ビス(t-ブチルアミノ)シラン及びt-ブチルアミノシランダイマーを使用して得られた。最も均一な成長は、t-ブチル基を持つ化学種、すなわちビス(t-ブチルアミノ)シラン及びジ-t-ブチルジアミノシランを使用して得られた。この基準に照らして、ビス(t-ブチルアミノ)シランは予想外に優れた窒化珪素の先駆物質である。」(【0041】?【0044】)

(3)引用例1の上記摘記事項(1a)?(1e)を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「石英等からなるベルジャの下部開放端から、複数枚の被処理基板を載置した石英等のウェハボートを搬入し、SiH_(2)Cl_(2)流量70sccm、NH_(3)流量700sccmの減圧CVD条件により、上記被処理基板上にSi_(3)N_(4)からなる70nmの厚さの保護層を成膜する熱CVD工程と、バッチ数を重ねた場合に装置内壁に堆積した膜が剥離して被処理基板に付着する虞れがある場合には、搬入前にNF_(3)等のフッ素系ガスによるin-situのガスエッチングによるチャンバクリーニングを施す工程とを有する半導体装置の製造方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「被処理基板」、「Si_(3)N_(4)からなる70nmの厚さの保護層」、及び「NF_(3)等のフッ素系ガス」は、それぞれ本願発明の「被成膜体」、被成膜体上に形成された「窒化シリコン膜」及び「クリーニングガス」に相当する。また、引用発明における「石英等からなるベルジャ」、「装置」又は「チャンバ」は、いずれも本願発明の「反応容器」に相当する。そして、引用発明の「被成膜体」は、石英等のウェハボートに載値された状態で、反応容器の下部開放端から搬入されるものであることから、本願発明の「被成膜体」と同様、「反応容器内に設けられた」ものと認められる。
また、引用発明における「SiH_(2)Cl_(2)」及び「NH_(3)」は、窒化シリコン膜を成膜するための原料ガスであることから、引用発明において、反応容器内に「SiH_(2)Cl_(2)」及び「NH_(3)」を導入した条件で上記反応容器内に設けられた被成膜体に窒化シリコン膜を成膜する「熱CVD工程」は、本願発明の、原料ガスを「反応容器内に流して、熱CVD法により窒化シリコン膜を前記反応容器内に設けられた被成膜体上に形成する工程」に相当する。そして、引用発明の「SiH_(2)Cl_(2)」と本願発明の「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン」とは、窒化シリコン膜を熱CVD法により形成する際に原料ガスとして使用されるケイ素化合物である点で一致し、また、引用発明の「装置内壁に堆積した膜」と本願発明の「反応容器内に形成された窒化シリコン」とは、反応容器内に形成された膜である点で一致している。
さらに、引用発明において、クリーニングガスによる反応容器のクリーニングが、上記反応容器内壁に堆積した膜をクリーニング、即ち除去するものであることは明らかであり、また、当該クリーニングは、「バッチ数を重ねた場合」に施されるものであることから、「窒化シリコン膜を被成膜体上に形成する工程」を実施した後に行われることも明らかであるので、結局のところ、引用発明における上記クリーニングは、本願発明の「その後、反応容器内にクリーニングガスを流して、前記反応容器内に形成された」膜を「除去する工程」に相当する。

すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。

<一致点>
ケイ素化合物とNH_(3)とを原料ガスとして反応容器内に流して、熱CVD法により窒化シリコン膜を前記反応容器内に設けられた被成膜体上に形成する工程と、その後、前記反応容器内にクリーニングガスを流して、前記反応容器内に形成された膜を除去する工程とを備えた半導体装置の製造方法。

一方で、両者は以下の点で相違する。

<相違点1>
熱CVD法により窒化シリコン膜を形成する際にNH_(3)とともに原料ガスとして使用されるケイ素化合物として、本願発明は、「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン」を用いるのに対して、引用発明は、「SiH_(2)Cl_(2)」を用いる点。

<相違点2>
クリーニングガスを流して除去される「反応容器内に形成された膜」について、本願発明では、「窒化シリコン膜」とされるのに対して、引用発明では、膜の材質が不明な点。

<相違点3>
本願発明では、反応容器内に形成された窒化シリコンを除去する工程が、「反応容器内に形成される窒化シリコン膜が4000Åの膜厚に達する前に行われる」のに対して、引用発明では、反応容器内に形成された膜を除去する工程が、当該膜が「4000Åの膜厚に達する前に行われる」ものか否か不明な点。

4.判断
以下、上記相違点について検討する。

<相違点1>について
引用例2の上記摘記事項(2a)?(2d)によれば、反応に要求されるエネルギーを単純な抵抗加熱によって供給するLPCVD法のような熱CVD法によって窒化珪素を成長させる際に、高い膜の成長速度と、炭素不純物の低減化、及び膜の均一性の向上を目的として、アンモニアとともに「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン」を原料ガスとして用いる技術が、本願出願前既に公知になっていたものと認められる。そして、該公知技術を引用発明に適用することにより、そのNH_(3)とともに原料ガスとして使用されるケイ素化合物である「SiH_(2)Cl_(2)」を、引用例2記載の「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン」に替えて本願発明と同様の原料ガスの構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

<相違点2>について
引用発明の反応容器は、その内部に設けられた被成膜体上に熱CVD法によって窒化シリコン膜を形成するためのものであることから、当該反応容器の内壁に副次的に形成される膜についても、上記被成膜体を搬入・搬出する際に形成される自然酸化膜等が多少混入する可能性までは完全に排除されないものの、その主たる成分が窒化シリコンからなることが明らかであるので、結局のところ、引用発明の反応容器内にも窒化シリコン膜が形成されるものと認められる。よって、この相違点は実質的なものではない。

<相違点3>について
上記「<相違点2>について」で述べたように、引用発明における「反応容器内に形成された膜」が「窒化シリコン膜」であると認められることから、上記<相違点3>は、反応容器内に形成された窒化シリコンを除去する工程について、本願発明では、「反応容器内に形成される窒化シリコン膜が4000Åの膜厚に達する前に行われる」のに対して、引用発明では、「窒化シリコン膜が4000Åの膜厚に達する前に行われる」か否か不明である点と解することができる。そこで、この点についてさらに検討する。
引用発明において、反応容器内に形成された窒化シリコン膜を除去する工程を実施する際には、そのような工程を過度に頻繁に実施することによってメンテナンスに時間を要する事態を回避することが要請される一方で、上記窒化シリコン膜が厚く形成されることにより、これを除去する工程自体が時間を要するものとなる事態や、十分に窒化シリコン膜を除去できないような事態を回避することも要請されることから、特に後者の点を考慮して、反応容器内に形成された窒化シリコン膜の膜厚に所定のしきい値を設定し、上記膜厚が上記しきい値を越えないように留意しつつクリーニングの頻度を決定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
また、上記窒化シリコン膜の膜厚のしきい値として「4000Å」の膜厚を設定することの意義についても検討するに、本願明細書又は図面の記載や出願時の技術常識に照らしても、何ら臨界的意義を認めることはできない。
よって、引用発明における「反応容器内に形成された窒化シリコンを除去する工程」について、これを「窒化シリコン膜が4000Åの膜厚に達する前に行われる」ものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

なお、審判請求人は、「このようにBTBAS-Si_(3)N_(4)膜は、一般的なSi_(3)N_(4)膜よりも、膜ストレス、膜収縮率が非常に大きいものであります。
それゆえ両者は、剥がれ方や、マイクロクラックが発生しパーティクルが発生することとなる膜厚も全く異なります。
特に膜ストレスは、マイクロクラックが発生し膜剥がれが起きるタイミングに大きく影響致しますが、膜ストレスが1GPa程度の一般的なSi_(3)N_(4)膜の場合、膜厚が10000Å(1μm)程度以上となるとマイクロクラックを引き起こし、パーティクルが発生致します。それゆえ、一般的なSi_(3)N_(4)膜の場合は、膜厚が10000Å程度に達する前にクリーニングを行うようにすればいいことになります。なお、この場合において、膜厚が10000Å程度に達するよりも遥かに小さなうちにクリーニングを行うことも考えられますが、その場合、クリーニング頻度が必要以上に多くなり、その分、装置のダウンタイムが増え、装置の稼働率すなわち生産効率が落ちるので、通常はそのようなこと(膜厚が小さなうちにクリーニングすること)は行いません。
これに対しまして、BTBAS-Si_(3)N_(4)膜の場合、上記のように、膜ストレスが2GPa程度と非常に大きいので、一般的なSi_(3)N_(4)膜と同じ化学組成の膜でありながら、膜厚が10000Å(1μm)に到達するよりも遥か前に、具体的には膜厚が4000Åに達したところで、マイクロクラックを引き起こしパーティクルが発生することを本願発明者らは見出しました。それゆえ、BTBAS-Si_(3)N_(4)膜の場合、膜厚が4000Åに達する前にクリーニングする必要があります。
このように、BTBAS-Si_(3)N_(4)膜は膜ストレスが2GPa程度と非常に大きく、一般的なSi_(3)N_(4)膜に比べ、非常に薄くても剥がれる(一般的なSi_(3)N_(4)膜が剥がれる膜厚の0.4倍程度の膜厚で剥がれる)のが特徴であり、一般的なSi_(3)N_(4)膜では気にしないレベルでの膜剥がれが起こり、一般的なSi_(3)N_(4)膜からは到底予測し得ない性質を有します。」と主張しているが、CVD法によって成膜された窒化シリコン膜の膜ストレスが、原料ガスの選択以外の成膜条件に依存して変化するものであることは、本願出願前に周知の事項である(必要であれば、社団法人電子通信学会編「LSIハンドブック」(昭和59-11-30)オーム社 p.313-314、又は特開平4-177751号公報等を参照のこと。)ことからすると、上記の「BTBAS-Si_(3)N_(4)膜の場合、上記のように、膜ストレスが2GPa程度と非常に大きいので、一般的なSi_(3)N_(4)膜と同じ化学組成の膜でありながら、膜厚が10000Å(1μm)に到達するよりも遥か前に、具体的には膜厚が4000Åに達したところで、マイクロクラックを引き起こしパーティクルが発生することを本願発明者らは見出しました。」との主張における「4000Å」は、特定の成膜条件でBTBAS-Si_(3)N_(4)膜を形成した場合に見出されたものと解さざるを得ず、該特定の成膜条件以外の条件下で成膜されたBTBAS-Si_(3)N_(4)膜一般に妥当するものと解することはできない。換言すれば、本願発明のように、原料ガスを「ビス ターシャル ブチル アミノ シラン」とNH_(3)に限定し、CVD法を「熱CVD法」に限定するのみで、それ以外の成膜条件を特定していないものについてまで、マイクロクラック及びパーティクルの発生に対する上記「4000Å」の意義を見出すことはできない。よって、上記の主張は採用することができない。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-14 
結審通知日 2008-05-20 
審決日 2008-06-03 
出願番号 特願平11-333129
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 粟野 正明
岡 和久
発明の名称 半導体装置の製造方法および半導体製造装置  
代理人 宮本 治彦  

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