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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1181610
審判番号 不服2005-13743  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-19 
確定日 2008-07-16 
事件の表示 平成 7年特許願第248293号「給紙胴」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 3月19日出願公開、特開平 8- 72225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は平成7年9月4日の出願(優先権主張 平成6年9月5日 独国)であって、平成17年4月12日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年7月19日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年8月17日付けで拒絶の理由を通知したところ、審判請求人は同年11月22日付けで意見書及び明細書についての手続補正書を提出した。

第2.本願の特許請求の範囲の請求項1の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1は、平成19年11月22日付け手続補正により補正された以下のとおりのものである。

【請求項1】「胴中核(7)の直径上の向き合った位置に配置されている2つのくわえ棒(8)を有しており、該胴中核(7)は、各々が、前記胴中核の中心を中心とする円弧状に湾曲した第1の面と、該第1の面の、前記胴中核の軸心に平行な各端に接続され、前記くわえ棒(8)の方へと傾いた第2の面からなる、前記2つのくわえ棒(8)を結ぶ直線に関して対称な2つの側面(2)を有し、それにより前記胴中核(7)が概ね楕円形の横断面形状を有し、前記の2つの第1の面を通る円の直径(d)は、前記くわえ棒(8)の、前記胴中核(7)の回転に伴う回転の円軌道の直径である、仮想の胴直径(D)と、1対2から1.35対2までの、前記胴直径(D)に対する前記直径(d)の直径比(d:D)をなしている、給紙胴。」

第3.当審で通知した拒絶理由の内容
当審で通知した拒絶理由の骨子は、
1.特許請求の範囲の請求項1?5の記載では、「給紙胴」の「胴中核」、「くわえ棒」等の各構成要素の形状構造、及びそれら相互の配置構造が明確でなく、それゆえ、「給紙胴」の全体構成が明確でないから、これらの記載は、特許を受けようとする発明が明確であることという特許法第36条第6項第2号に適合していない。
2.発明の詳細な説明には、請求項1の数値限定の根拠及びその技術的意義が明確且つ十分に説明されていないから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件を満たしておらず、したがって同法36条第4項の規定する要件を満たしていない。
というものである。

第4.本件審判請求についての当審の判断
1.記載不備について
当審の拒絶の理由は、「発明の詳細な説明には、請求項1の数値限定の根拠及びその技術的意義が明確且つ十分に説明されていないから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件を満たしていない。」と指摘するものである。
ここで「請求項1の数値限定」とは、本願の特許請求の範囲の請求項1の「仮想の胴直径(D)と、1対2から1.35対2までの、前記胴直径(D)に対する前記直径(d)の直径比(d:D)をなしている」との記載における、「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」のことである。

そこで、本願の発明の詳細な説明の記載を検討する。
本願の発明の詳細な説明中で、『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』に係る記載は、【0015】のみに認められる。
しかしながら、この記載箇所においては、『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』が、どのような根拠で設定されたのか、及びその技術的意義が説明されていない。

また、胴中核を『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』と特定するだけでは胴中核の輪郭形状を規定できないものの、胴中核の概略の形状を規定することにはなると解されることから、数値限定の技術的意義を胴中核の輪郭形状の観点から検討すると、胴中核の形状に関係する記載としては、「胴輪郭の羽根効果を、図4に基づいて説明する。胴中核または枚葉紙案内板の案内面によって胴中核上に作られる輪郭形状の形成は、前述の運動軌道に注意することのほかに、胴回転時の圧力状況および空気乱流を考慮することによっても行われる。」(【0016】)と、「この案内面と枚葉紙との相互作用から輪郭の形状が作られるので、各々の枚葉紙区域は前縁から後縁まで対応する効果によって影響される。その際、枚葉紙3の前部には、(胴中央から始まって)吸引作用16が働き、・・・枚葉紙後縁上ではすべての運動区域で正圧17が働く。」(【0018】-【0019】)との記載があり、これら記載から、胴中核の輪郭形状が胴中核の回転により発生する空気圧力に影響を及ぼすことが読み取れる。
しかしながら、胴中核の回転により発生する空気圧力は、胴中核の輪郭形状だけではなく、胴中核のサイズや回転速度にも直接的に影響されることは明らかであるから、上記記載のみからでは、胴中核の『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』とすることの根拠、及びその技術的意義が明確且つ十分に説明されているとは認めない。

また、一般的に、胴中核の形状は、胴中核の剛性(【0014】、【0015】参照)にも技術的に関連しているといえるが、剛性は、その形状のみならず、材質にも多分に影響されることもまた自明であるから、上記胴中核の剛性の観点からみても、胴中核の材質や剛性について請求項1で何ら特定することなく、単に胴中核の『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』とすることの根拠、及びその技術的意義が明確且つ十分に説明されているとは認めない。

なお、請求人は意見書中において、「数値の根拠は明細書に記載がありませんが、当然のことながら実験等によって得られたものです。」と主張するが、数値限定の数値が実験等によって得られたのであれば、少なくともその実験条件や実験結果を示すべきであるのに、それがなされず、かつ数値限定の数値に根拠があるとする論理的説明もないから、このような請求人の主張は採用することができない。

したがって、発明の詳細な説明には、請求項1の数値限定の根拠及びその技術的意義が明確且つ十分に説明されていないから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件を満たしておらず、したがって平成14年改正前特許法36条第4項の規定する要件を満たしていない。

2.進歩性の欠如について
当審において通知した拒絶理由通知書中において付記したが、原査定の拒絶の理由は撤回していないから、原査定の拒絶の理由、すなわち進歩性の欠如についても以下に検討する。
上述したように、本願の請求項1の記載は不備であるが、仮に上記記載不備が存在しなく、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)が、上記本願の請求項1の記載事項により特定される発明であるとしても、次のとおり本願発明は進歩性がない。

2-1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-53953号(実開平2-144430号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

A.「[産業上の利用分野]
本考案は枚葉印刷機において圧胴と圧胴との間などに設けられ上流側圧胴などの爪からの紙を爪でくわえ替えて回転後、下流側圧胴の爪にくわえ替えさせる紙渡胴に関するものである。」(第1頁第10行?第14行)
B.「圧胴1と圧胴2との間には、倍径の紙渡胴6が円板状に形成された左右両端のベアラ7を圧胴1,2の周面に対接させて配設されており、ベアラ7の中心孔から外方へ突出する両端軸8は、フレーム側の軸受に回転自在に軸支されている。そして両端軸8には、断面形状をベアラ7と同心でこれよりもかなり小径のほゞ円形に形成されたスケルトン状の胴本体9が一体形成されて胴軸方向に延設されており、この胴本体9の外周部を円周方向に2等分する突出箇所には、切欠き面10が形成されている。この切欠き面10には、複数個の軸受11が胴軸方向に並列して固定されており、これらの軸受11と両側のベアラ7とには、稜線方向に延びる爪軸12が回転自在に軸支されている。また、切欠き面10には、断面形状が斜面を有する方形状に形成された長尺の爪台バー13が稜線方向に延設されて固定されており、この爪台バー13には、複数個の爪台14が稜線方向に並列して装着されている。また、爪軸12上に並列して軸着された複数個の爪ホルダ15には、各爪台14に対向する爪16が固定されている。こうすることにより紙渡胴6が回転して爪軸が所定の位置を通過すると、フレーム側のカム機構で爪軸12が所定角度ずつ正逆方向に往復回動し、爪台14に対し開閉して紙17をくわえたり放したりするように構成されている。」(第6頁第8行?第7頁第13行)
C.「18は帯状板材によりベアラ7と同心円弧状に形成された複数個の紙ガイドであって、ステー19に支持されて胴軸方向に並設されており、爪16でくわえられて胴回転とともに搬送される紙17を案内するように構成されている。」(第7頁第13行?第18行)
D.「この紙17は、胴本体9が小径であって圧胴1の周面と接していないことにより、くわえ端以外が無保持であり、印刷面が胴本体9の周面に当ろうとする。ところが本装置においては、紙渡胴6が爪台バー13で風を切るようにして回転すると、空間部20内のエアが孔22を通って空間部21内へ吐出し、搬送中の紙17に吹付けられるので、紙17は外方へ膨らみ、胴本体9に当たることなく紙ガイド18に沿うようにして搬送される。」(第8頁第20行?第9頁第9行)
E.第3図から、それぞれが胴本体9の外周部に位置しかつ胴本体9の軸心を挟んで対向配置された2つの突出箇所に、それぞれ爪台バー13が配置されていること、胴本体9の断面形状の輪郭が、各々が、胴本体9の軸心部分を中心とする円弧状に湾曲した曲線と、該曲線の各端に接続され、爪台バー13の方へと傾いた略直線部分からなる、2つの爪台バー13を結ぶ直線に関して略対称な2つの曲線を有することが看取できる。

ここで上記記載B,Eの「断面」は、引用例の第1図、第3図からみて胴本体9の軸心に垂直な断面ということができる。
また、上記記載Eの「胴本体9断面形状の輪郭が、各々が、胴本体9の軸心部分を中心とする円弧状に湾曲した曲線と、該曲線の各端に接続され、爪台バー13の方へと傾いた略直線部分からなる、2つの爪台バー13を結ぶ直線に関して略対称な2つの曲線を有し」は、上記記載D及び引用例の第3図からみて、胴本体9が、胴本体9の軸心に垂直な断面の輪郭形状によって示される「周面」を有していることから、「胴本体9は、各々が、胴本体の軸心を中心とする円弧状に湾曲した第1の周面と、該周面の、胴本体9の軸心に平行な各端に接続され、爪台バー13の方へと傾いた第2の周面からなる、胴本体9の軸心に垂直な断面においてその輪郭形状が、前記断面における2つの爪台バー13を結ぶ直線に関して略対称な2つの周面を有し」ということができる。
そうすると、上記A-Eの記載を含む引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「それぞれが胴本体9の外周部に位置しかつ胴本体9の軸心を挟んで対向配置された2つの突出箇所に形成された切欠き面10に、それぞれ爪台バー13を固定し、胴本体9は、各々が、胴本体の軸心を中心とする円弧状に湾曲した第1の周面と、該周面の、胴本体9の軸心に平行な各端に接続され、爪台バー13の方へと傾いた第2の周面からなる、胴本体9の軸心に垂直な断面においてその輪郭形状が、前記断面における2つの爪台バー13を結ぶ直線に関して略対称な2つの周面を有する、紙渡胴。」

2-2.対比
a.引用発明の「胴本体9」、「紙渡胴」、「周面」、「爪台バー13」は、それぞれ本願発明の「胴中核」、「給紙胴」、「側面」、「くわえ棒」に相当する。
b.引用発明の「それぞれが胴本体9の外周部に位置しかつ胴本体9の軸心を挟んで対向配置された2つの突出箇所」は、胴本体9の軸心に垂直な断面において、胴本体9の軸心部分を中心とした胴本体9の直径を規定すれば、「胴本体9の直径上の向き合った位置に配置された突出箇所」ということができる。
c.本願発明の「胴中核(7)は、各々が、前記胴中核の中心を中心とする円弧状に湾曲した第1の面と、該第1の面の、前記胴中核の軸心に平行な各端に接続され、前記くわえ棒(8)の方へと傾いた第2の面からなる、前記2つのくわえ棒(8)を結ぶ直線に関して対称な2つの側面(2)を有し」との特定事項において、「胴中核の中心」については、本願の【図1】を参考にすると胴中核の軸心と解され、また「第1の面」、「第2の面」は胴中核の側面2であると解される。
また「くわえ棒(8)」は、枚葉紙3を圧胴4から圧胴5に引き渡す給紙胴(本願の【0013】参照)の枚葉紙3の先端をくわえる機能を発揮する部分の構成要素であり、給紙胴すなわち胴中核の軸心方向に長く存在することは技術常識であるから、「2つのくわえ棒を結ぶ直線」の記載では、直線が特定されず不明確であるが、本願の【図1】からみて、胴中核の軸心に垂直な断面において、2つのくわえ棒を結ぶ直線YYに関して、胴中核の2つの側面の輪郭形状が対称であることから、上記「前記2つのくわえ棒(8)を結ぶ直線に関して対称な2つの側面(2)」との特定は、「胴中核の軸心に垂直な断面において2つの側面(2)の輪郭形状が、前記断面における2つのくわえ棒を結ぶ直線に関して対称」であることを意味していると解される。
そうすると、上記特定事項は「該胴中核(7)は、各々が、前記胴中核の軸心を中心とする円弧状に湾曲した第1の側面と、該第1の側面の、前記胴中核の軸心に平行な各端に接続され、前記くわえ棒(8)の方へと傾いた第2の側面からなる、胴中核の軸心に垂直な断面においてその輪郭形状が、前記断面における2つのくわえ棒を結ぶ直線に関して対称な2つの側面(2)を有し」と解すことができるから、上記引用発明の「胴本体9は、各々が、胴本体の軸心を中心とする円弧状に湾曲した第1の周面と、該周面の、胴本体9の軸心に平行な各端に接続され、爪台バー13の方へと傾いた第2の周面からなる、胴本体9の軸心に垂直な断面においてその輪郭形状が、前記断面における2つの爪台バー13を結ぶ直線に関して略対称な2つの周面を有する」と、「胴中核は、各々が、前記胴中核の中心を中心とする円弧状に湾曲した第1の面と、該第1の面の、前記胴中核の軸心に平行な各端に接続され、前記くわえ棒の方へと傾いた第2の面からなる、2つの側面(2)を有し」という点において共通している。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
胴中核の直径上の向き合った位置に配置されている2つのくわえ棒を有しており、該胴中核は、各々が、前記胴中核の中心を中心とする円弧状に湾曲した第1の面と、該第1の面の、前記胴中核の軸心に平行な各端に接続され、前記くわえ棒の方へと傾いた第2の面からなる、2つの側面を有している、給紙胴。

<相違点1>
本願発明の胴中核が「概ね楕円形の横断面形状を有し」と特定しているのに対して、引用発明の胴中核は、そのような特定を有しない点。

<相違点2>
胴中核の軸心に垂直な断面において2つの側面(2)の輪郭形状が、本願発明では、前記断面における2つのくわえ棒(8)を結ぶ直線に関して対称と特定しているのに対して、引用発明では前記断面における2つのくわえ棒を結ぶ直線に対して略対称とされるも、上記特定を有しない点。

<相違点3>
本願発明が、「2つの第1の面を通る円の直径(d)は、前記くわえ棒(8)の、前記胴中核(7)の回転に伴う回転の円軌道の直径である、仮想の胴直径(D)と、1対2から1.35対2までの、前記胴直径(D)に対する前記直径(d)の直径比(d:D)をなしている」と特定しているのに対して、引用発明ではそのような特定を有しない点。

2-3.判断
・<相違点1>について
まず、本願発明の「概ね楕円形の横断面形状を有し」の「横断面」ではどの方向で切った断面か不明であるが、「本発明に従う給紙胴の構成は、具体的には図1、2または3に示すような外観を持つことができる。すなわち、
a)胴中核7は鋳造品または鍛造品からなる。必要な曲げ剛性を達成するために、最大の内円直径が設けられている。総じて、胴中核はほぼ楕円形で・・・」(【0015】)と記載され、本願の【図1】に図示された胴中核の断面形状をほぼ楕円形であるとしていることから、上記「横断面」は、胴中核の軸心に垂直な断面であると解される。

引用発明の「胴本体9」は「それぞれが胴本体9の外周部に位置しかつ胴本体9の軸心を挟んで対向配置された2つの突出箇所」を備えており、胴本体9は、「胴本体9の直径上の向き合った位置に突出箇所」を有する構成となっている。そしてこの構成は具体的には、引用例の第3図に胴本体9の軸心に垂直な断面の形状として現れている。
そこで上記第3図を参照するに、胴本体9の軸心に垂直な断面の形状において、上記突出箇所を結ぶ方向の胴本体の軸心部分を通る直径と、該方向と直交する方向の胴本体の軸心部分を通る直径が、それぞれ最大径、最小径となっており、かつ上記胴本体9の軸心に垂直な断面の形状の上記最大径の直径間の輪郭が、概ね凸状の連続した曲線で構成されていることが看取されるから、上記胴本体9の軸心に垂直な断面の形状は概ね楕円形ということができる。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、実質的な相違点たり得ない。

・<相違点2>について
引用例の第1図、第3図から、胴本体9は爪台バー13(くわえ棒)を固定する2つの突出箇所に形成された切欠き面10付近において、胴本体9(胴中核)の軸心に垂直な断面における「2つの側面」の輪郭形状が、胴中核の軸心に垂直な断面における2つのくわえ棒を結ぶ直線に関して若干非対称となっていることが看取されるが、前記切り欠面10には、くわえ棒以外にも軸受11も固定されていることから、その構造はこれらくわえ棒や軸受11のサイズや形状によって適宜設計されるものであることが理解できる。さらに一般的には回転体の軸心に垂直な断面における輪郭を、該断面における軸心部分を通る直線に関して非対称とすると回転時にぶれが生じて安定した回転ができなくなることは技術常識である。
そうすると、上記相違点2に係る「対称」の程度は、上記設計上の事項や技術常識を適宜考慮してなるべく対称性がくずれないように設定されるのが自然であるといえるから、「対称」とするか「略対称」とするかは当業者が必要に応じて設定しうる設計事項と認められる。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は想到容易である。

・<相違点3>について
まず、本願発明の「2つの第1の面を通る円の直径(d)は、前記くわえ棒(8)の、前記胴中核(7)の回転に伴う回転の円軌道の直径である、仮想の胴直径(D)と、1対2から1.35対2までの、前記胴直径(D)に対する前記直径(d)の直径比(d:D)をなしている」において、「2つの第1の面を通る円」、「くわえ棒(8)の、前記胴中核(7)の回転に伴う回転の円軌道の直径」の記載が不明であるが、「2つの第1の面を通る円」については、「第1の面」が側面(2)であって、「胴中核の中心を中心とする円弧状に湾曲した第1の面」であることから、本願の【図1】を参照すれば、直径dで規定された「胴中核の軸心に垂直な断面における2つの第1の面の輪郭である円弧状に湾曲した曲線を含む円」であることが理解される。
一方、「くわえ棒(8)の、前記胴中核(7)の回転に伴う回転の円軌道の直径」は、本願の【図1】から、胴中核の回転に伴って描かれる、くわえ棒(8)の半径方向先端付近の軌跡が円となっており、当該円の直径がDであることが看取されるから、「前記胴中核(7)の回転に伴って、くわえ棒(8)の半径方向先端付近によって描かれる軌跡である円の直径」であることが理解される。

引用例の第3図の紙渡胴とその両側の圧胴との配置関係を参照するに、胴本体9(胴中核)が上流の圧胴1から受け取った紙の印刷面が胴中核の周面側に向いていることが把握されるから、胴中核が圧胴の周面と接するような直径の場合、印刷直後の紙の印刷面が胴中核の周面に当たりインクが移り、後続の紙の印刷面を汚すことが想定されるが、これを防止するためには上記第3図に図示されているように、胴中核の紙のくわえ部の位置に比べ、それ以外の胴中核の周面位置を胴中核の軸心側に位置させることが胴中核の構造として必要なことであって、そのような構造となすこと自体、本願の優先日前において一般的に行われていることである(実願昭62-31120号(実開昭63-139931号)のマイクロフィルム、実願平2-400355号(実開平4-87240号)のマイクロフィルム等参照)。
また一方胴中核の回転による紙渡しを正確に行うために、くわえ棒の位置が変位しない程度の曲げ剛性が胴中核に必要とされることは技術常識である。
そうすると、引用発明の胴中核の軸心部分を中心とする円弧状に湾曲した曲線を含む円の直径と、胴中核の回転に伴って、くわえ棒の半径方向先端付近によって描かれる軌跡である円の直径とを対比すると、前者に比べて後者の方が長いから、前者を短径、後者を長径と定義すると、上述したように、胴中核の紙のくわえ部の位置に比べ、それ以外の胴中核の周面位置を胴中核の軸心側に位置させる構造を採用するにあたっては、胴中核の周面位置をより胴中核の軸心側に位置させる程紙の印刷面が胴中核の周面に当たりにくくできることから、上記短径/長径は小さい方が好ましいといえ、また上記胴本体の曲げ剛性は、一般に真円に近い程大きいといえるから、上記短径/長径を小さくしすぎるのは好ましくないといえる。
してみるに、上記短径/長径は、少なくともこれら2つの条件のバランスを加味して設定されるから、この値をどの程度にするかは当業者が実験等によって適宜設定しうる事項といえる。
また上記「第4.1.」で説示したように、本願発明の『「直径比(d:D)」が「1対2から1.35対2まで」』については、本願発明において胴中核の材質、サイズ、回転速度など各種条件が規定されていないことから技術的意義を認めることはできないが、当該各種条件を勘案して直径比を設定することは当業者にとって容易になし得ることであるから、上記相違点2に係る数値限定は設計事項の範疇に含まれる。
したがって、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のごとく構成することは容易の範疇である。

・本願発明の進歩性の判断
上記のように、相違点1?3に係る本願発明の発明特定事項は、実質的な相違点たり得ないか、引用発明に基づいて当業者が想到容易な事項であって、それぞれのもつ作用効果も、引用発明に基づいて、当業者が予測しうる程度のことであって、かつ、各発明特定事項が組み合わせられることによって当業者が予測し得ないような格別の作用効果を奏するとも認められない。

第5.むすび
以上のとおり、本願は、明細書の記載が不備のため、特許法36条第4項、及び第6項に規定する要件を満たしておらず、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-18 
結審通知日 2008-02-20 
審決日 2008-03-06 
出願番号 特願平7-248293
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41F)
P 1 8・ 536- WZ (B41F)
P 1 8・ 537- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 名取 乾治
尾崎 俊彦
発明の名称 給紙胴  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 岩田 慎一  

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