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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1181697
審判番号 不服2006-14023  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-03 
確定日 2008-07-22 
事件の表示 平成 6年特許願第260020号「ユーザが選択した文章を自動書式化する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月23日出願公開、特開平 7-160705〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年10月25日(パリ条約による優先権主張1993年10月26日、米国)の出願であって、平成18年3月30日付で拒絶査定がなされ(発送日同年4月3日)、これに対し、同年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月25日付で手続補正がなされたものである。

2.平成18年7月25日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月25日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)平成18年7月25日付の手続補正書により補正された本願発明
本件補正により補正される前の特許請求の範囲は、平成16年10月25日付の手続補正書の特許請求の範囲に記載された下記のものであり、

「 【請求項1】 文章を書式化する方法において、上記方法はワード処理プログラムを実行し、ユーザから入力を受信し、そして文章を表示装置上に表示するコンピュータにより遂行され、上記方法が、
ユーザが選択した文章形式を決定する段階と、
次いで、新しい文章がユーザによって入力されるまで、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階と、
上記既存文章の1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階とを備えていることを特徴とする文章を書式化する方法。
【請求項2】 既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、選択された文章形式がユーザによって取り消されるまで既存文章の選択された部分を決定する段階を備えている請求項1に記載の方法。
【請求項3】 選択された文章形式がユーザによって取り消された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項2に記載の方法。
【請求項4】 新しい文章は、ユーザが選択した文章形式で書式化される請求項1に記載の方法。
【請求項5】 新しい文章がユーザによって入力された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項6】 新しい文章がユーザによって入力された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項4に記載の方法。
【請求項7】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した語を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化する段階からなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した語の連続集合を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された語の連続集合内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化する段階からなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した節形式を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した節を入手する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された節をユーザが選択した節形式で書式化する段階からなる請求項1に記載の方法。
【請求項10】 ユーザが選択した文章形式を識別する識別子をデータ構造内に記憶する段階をも備え、既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、1もしくはそれ以上の選択された部分をデータ構造内に記憶されている識別子によって識別された文章形式で書式化する段階からなる請求項1に記載の方法。
【請求項11】 識別子を記憶する段階は、ユーザが選択した複数の文章形式に対応する複数の識別子を記憶する段階からなる請求項10に記載の方法。
【請求項12】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した複数の文章形式を決定する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を複数の選択された全ての文章形式で書式化する段階からなる請求項1に記載の方法。
【請求項13】 ユーザが爾後に選択する既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分に適用される文章形式が選択されたことを指示するカーソルを表示装置上に表示する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項14】 カーソルは、文字形式もしくは節形式が選択されたことを指示する請求項13に記載の方法。
【請求項15】 選択された文章形式を識別するカーソルを表示装置上に表示する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項16】 文章を書式化する方法において、上記方法はユーザから入力を受信し、そして文章を表示装置上に表示するコンピュータにより遂行され、上記方法が、
a)ユーザが選択した第1の文章形式を決定する段階と、
b)次いで、新しい文章がユーザによって入力されるまで、ユーザが選択した既存文章の一部分を決定する段階と、
c)上記既存文章の選択された部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階と、
d)ユーザが指定した回数だけ段階(b)及び段階(c)を繰り返す段階と、
e)ユーザが選択した第2の文章形式で段階(a)乃至(d)を繰り返す段階とを備えていることを特徴とする文章を書式化する方法。
【請求項17】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した語を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化する段階からなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した語の連続集合を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化する段階からなる請求項16に記載の方法。
【請求項19】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した節形式を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した節を入手する段階からなり、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、ユーザが選択した節をユーザが選択した節形式で書式化する段階からなる請求項16に記載の方法。
【請求項20】 ワード処理装置において、
ユーザからの入力を受ける入力手段と、
ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段と、
次いで、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段から入手する手段と、
既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段とを備えていることを特徴とするワード処理装置。
【請求項21】 文章形式を決定する手段は、ユーザが選択した複数の文章形式を決定する手段を備え、
既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分を書式化する手段は、選択された1もしくはそれ以上の部分を複数の選択された全ての文章形式で書式化する手段を備えている請求項20に記載のワード処理装置。
【請求項22】 文章形式が選択されたことを指示するカーソルを表示する手段をも備えている請求項20に記載のワード処理装置。」

本件補正により、特許請求の範囲は、下記のように補正された。

「 【請求項1】 文章を書式化する方法であって、上記方法はワード処理プログラムを実行し、ユーザから入力を受信し、そして文章を表示装置上に表示するコンピュータにより遂行され、上記方法が、
ユーザが選択した文章形式を決定する段階であって、前記コンピュータのメモリに記憶された文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階と、
次いで、新しい文章がユーザによって入力されるまでユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階と、
次いで、上記選択された文書形式の識別子が示すように、上記既存文章の1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階とを備えていることを特徴とする文章を書式化する方法。
【請求項2】 既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、選択された文章形式がユーザによって取り消されるまで既存文章の選択された部分を決定する段階を備えている請求項1に記載の方法。
【請求項3】 選択された文章形式がユーザによって取り消された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項2に記載の方法。
【請求項4】 新しい文章は、ユーザが選択した文章形式で書式化される請求項1に記載の方法。
【請求項5】 新しい文章がユーザによって入力された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項6】 新しい文章がユーザによって入力された後に、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の付加的な部分を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分がユーザによって選択された後に、ユーザが選択した付加的な文章形式を決定する段階と、
既存文章の付加的な部分をユーザが選択した付加的な文章形式で書式化する段階をも備えている請求項4に記載の方法。
【請求項7】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した語を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した語の連続集合を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された語の連続集合内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した節形式を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の部分を決定する段階は、ユーザが選択した節を入手することを含み、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、選択された節をユーザが選択した節形式で書式化することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】 ユーザが選択した文章形式を識別する識別子をデータ構造内に記憶する段階をも備え、既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、1もしくはそれ以上の選択された部分をデータ構造内に記憶されている識別子によって識別された文章形式で書式化することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】 識別子を記憶する段階は、ユーザが選択した複数の文章形式に対応する複数の識別子を記憶することを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】 文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した複数の文章形式を決定する段階からなり、
既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を書式化する段階は、既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分を複数の選択された全ての文章形式で書式化することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】 ユーザがその後に選択する既存文章の1もしくはそれ以上の選択された部分に適用される文章形式が選択されたことを指示するカーソルを表示装置上に表示する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項14】 カーソルは、文字形式もしくは節形式が選択されたことを指示する請求項13に記載の方法。
【請求項15】 選択された文章形式を識別するカーソルを表示装置上に表示する段階をも備えている請求項1に記載の方法。
【請求項16】 文章を書式化する方法において、上記方法はユーザから入力を受信し、そして文章を表示装置上に表示するコンピュータにより遂行され、上記方法が、
a)ユーザが選択した第1の文章形式を決定する段階であって、前記コンピュータのメモリに記憶された文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階と、
b)次いで、新しい文章がユーザによって入力されるまで、ユーザが選択した既存文章の一部分を決定する段階と、
c)次いで、選択された前記文書形式の識別子が示すように、上記既存文章の選択された部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階と、
d)ユーザが指定した回数だけ段階(b)及び段階(c)を繰り返す段階と、
e)ユーザが選択した第2の文章形式で段階(a)乃至(d)を繰り返す段階とを備え、
前記選択された第2の文書形式が、前記コンピュータのメモリ上の文書形式データ構造から読出される別の識別子によって識別されることを特徴とする文章を書式化する方法。
【請求項17】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した語を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した文字形式を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した語の連続集合を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、選択された語内の各文字をユーザが選択した文字形式で書式化することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】 第1の文章形式を決定する段階は、ユーザが選択した節形式を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を決定する段階は、ユーザが選択した節を入手することを含み、
既存文章の選択された部分を書式化する段階は、ユーザが選択した節をユーザが選択した節形式で書式化することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】 文書を書式化するワード処理システムであって、
ユーザからの入力を受ける入力手段と、
ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段であって、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階と、
次いで、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段から入手する手段と、
次いで、選択された前記文書形式の識別子が示すように、既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段とを備えていることを特徴とするワード処理システム。
【請求項21】 文章形式を決定する手段は、ユーザが選択した複数の文章形式を決定する手段を備え、
既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分を書式化する手段は、選択された1もしくはそれ以上の部分を複数の選択された全ての文章形式で書式化する手段を備えている請求項20に記載のワード処理システム。
【請求項22】 文章形式が選択されたことを指示するカーソルを表示する手段をも備えている請求項20に記載のワード処理システム。」

上記補正は、概略、旧請求項1の発明特定事項である「ユーザが選択した文章形式を決定する段階」について、「ユーザが選択した文章形式を決定する段階であって、前記コンピュータのメモリに記憶された文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階」と限定し、同じく旧請求項1の発明特定事項である「上記既存文章の1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階」について、「次いで、上記選択された文書形式の識別子が示すように、上記既存文章の1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階」と限定し、同様に、旧請求項16の発明特定事項である「a)ユーザが選択した第1の文章形式を決定する段階」について、「a)ユーザが選択した第1の文章形式を決定する段階であって、前記コンピュータのメモリに記憶された文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階」と限定し、同じく旧請求項16の発明特定事項である「c)上記既存文章の選択された部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階」について、「c)次いで、選択された前記文書形式の識別子が示すように、上記既存文章の選択された部分をユーザが選択した文章形式で書式化する段階」と限定し、さらに、「前記選択された第2の文書形式が、前記コンピュータのメモリ上の文書形式データ構造から読出される別の識別子によって識別される」との限定を付加し、同様に、旧請求項20の発明特定事項である「ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段」について、「ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段であって、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階」と限定し、同じく旧請求項20の発明特定事項である「既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段」について、「次いで、選択された前記文書形式の識別子が示すように、既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段」と限定するものである。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項20に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用発明の認定
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-20672号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下(ア)?(エ)の事項が記載されている。

(ア)
「[産業上の利用分野]
本発明は文書編集装置に関し、詳しくは文字修飾機能を有する文書編集装置に関する。」(公報第1頁右下欄第11?13行)

(イ)
「[発明が解決しようとする問題点]
しかしながら、こうした文書編集装置には次の問題があり、猶一層の改善が望まれていた。
(1) 文字修飾の範囲と文字修飾の内容とを別個に指定するものでは、その分キー入力の回数が増え、操作が煩雑になるという問題があった。特に文書編集装置の操作に習熟していない使用者にとっては、範囲を指定して文字修飾するというのは直観的でないため、わかりにくく、習熟の妨げとなっていた。」(公報第2頁左上欄第5?14行)

(ウ)
「[問題点を解決するための手段]
かかる目的を達成すべく、本発明は問題点を解決するための手段として次の構成をとった。即ち、
編集中の文書の少なくとも一部をディスプレイに表示すると共に、該文書を構成する文字に文字修飾を行なう機能を有する文書編集装置において、
文字修飾の内容を指定する修飾内容指定手段と、前記表示された文書中のカーソルの位置を所定方向へ移動すると共に、該カーソルの移動範囲に亘る前記文書の文字に対し、前記修飾内容指定手段によって指定された文字修飾の設定もしくは解除を行なう文字修飾実行手段とを備えたことを特徴とする文書編集装置の構成がそれである。」(公報第2頁右上欄第7?19行)

(エ)
「[実施例]
以上説明した本発明の構成を一層明らかにする為に、次に本発明の好適な実施例としての文書編集装置について説明する。第1図は、この文書編集装置の概略構成を示すブロック図である。
図示するように、実施例の文書編集装置は、文字や編集指示等を入力するキーボード1、文字や図形を表示する表示装置(CRTディスプレイ)3、外部記憶装置としてのフレキシブルディスクドライブ5、文字や図形を印字するプリンタ7およびこれらの装置に接続され文書の入力・編集・印刷を制御する電子制御装置10等から構成されている。電子制御装置10は、周知のCPU11,ROM12,RAM14等を中心に算術論理演算回路として構成され、CRTディスプレイ3に表示する文字・図形等の画像データを記憶するビデオRAM15、キーボード1からのキーデータの入力を行なうキーボード入力ポート16、フレキシブルディスクドライブ5を制御してデータの読み取り・書き込みを行なうフレキシブルディスクドライブコントローラ18、プリンタ7への印字データの出力を行なうプリンタ出力ポート20等を備える。また、ビデオRAM15は、所謂デュアルポートRAMの構成を有し、CPU11とは独立に設けられたCRTコントローラ22によってもアクセスしえる構成とされている。CRTコントローラ22は、CRTディスプレイ3の走査周波数によって定まる周期でビデオRAM15の内容を繰り返し読み出し、これをCRTディスプレイ3に表示する。従って、CPU11によってビデオRAM15の所定の領域に書き込まれたデータは、直ちにCRTディスプレイ3に表示される。
キーボード1には、文字の入力を行なうためのキャラクタキー31、各文字修飾との指定を行なう文字修飾キー33およびカーソルを右(→),左(←),上(↑),下(↓)に移動するためのカーソル35R,35L、35U、35Dが設けられている。使用者は、キャラクタキー31を打鍵して文書の入力を行なうと共に、必要に応じて、アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択し、入力した文書に対応した文字修飾の設定・解除を行なうことができる。」(公報第2頁左下欄下から4行目から第3頁左上欄下から2行目)

(オ)
「次に第2図のフローチャートによって、文字修飾の設定・解除の使い方について説明する。尚、本実施例の文書偏集装置は、英文の入力・編集を行なうものであり、テキストを構成する各文字は1文字2バイト(16ビツト)で表わされている。その上位8ビツトの各ビットは文字修飾の内容を示すフラグとして用いられる。また、右カーソルキー35R,下カーソルキー35Dが指定された文字修飾の設定キーとして、一方、左カーソルキー35L,上カーソルキー35Uが指定された文字修飾の解除キーとして、各々働く。
文書編集装置は、キーボード1から何等かのキー入力があった時に、第2図に示す文字修飾モード入力編集制御ルーチンを起動し、まず現在の入力モードが文字修飾状態であるか否かの判断を行なう(ステップ100)。即ち、キーボード1上の文字修飾キー33がひとつでも押された状態であれば文字修飾状態であると判断してステップ110以降の処理を実行し、いずれの文字修飾キー33も押されていなければ、そのまま「NEXT」へ扱けて、図示しない通常の入力処理ルーチンによるキー入力を行なうのである。
文字修飾状態の場合には、キーボード1からの入力がキャラクタキー入力であるか否かの判断を行ない(ステップ110)、キャラクタキー入力の場合には、入力されたキャラクタのコードをRAM14のテキスト領域の所定の位置にセットし、文字修飾フラグをその文字に付ける処理を行なう(ステップ120)。キャラクタは2バイトで構成され、その上位8ビツトの各ビットが文字修飾状態を表わすフラグとして用いられているので、文字修飾に応じたビットを1にセットするのである。(中略)アンダラインが指定されていれば、ステップ120では、キャラクタコードの上位バイトの2^(0)ビットを1にセットする。
続いてテキストの内容に従って、ビデオRAM15の内容を書き直す処理を行なう(ステップ130)。即ち、CRTディスプレイ3への表示は所謂ビットマツプディスプレイの手法をとっていることから、テキストに記憶されたキャラクタコードに応じて、アンダーライン等の文字修飾を付した形態で、表示すべき文字列をビデオRAM15に展開するのである。この結果、表示用ディスプレイ3上には、指定された文字修飾そのままのイメージでテキストが表示される。以上の処理の後、「NEXT」へ抜けて、本制御ルーチンを一旦終了する。
一方、キーボード1からのキー入力がキャラクタキー以外であった場合には、上述したステップ110での判断は「NO」となり、キー入力がカーソルキー入力であったか否かの判断が行なわれる(ステップ140)。カーソルキーでなければ、キャラクタキー、カーソルキーのいずれでもなかったとして(例えばキャリッジリターンキーやタブキーの時)、そのまま「NEXT」へ扱けて本ルーチンを終了する。
カーソルキーのうち、特に右カーソルキー(「→」)35R,下カーソルキー(「↓」)35Dであった場合には、結果的にカーソルが移動した範囲のテキストの各文字に文字修飾フラグを付け(ステップ150)、更に既述したステップ130に移行して、文字修飾を付した表示を行なわせる。この結果、第3図(A),(B),(C)に示すように、カーソル(網かけ部)が移動した範囲に亘って文字修飾(ここではアンダーライン)が施される。尚、既にセットされている文字修飾フラグは変更しないので、カーソルの移動範囲に亘って、総ての文字に文字修飾がなされることになる。」(公報第3頁右上欄第5行目から第4頁右上欄第6行目)

以上の引用例1の記載によれば、引用例1には以下の事項が開示されていると認められる。

(a) 引用例1の上記(ア)の「本発明は文書編集装置に関し、詳しくは文字修飾機能を有する文書編集装置に関する。」という記載、及び、引用例1の上記(エ)の「実施例の文書編集装置は、文字や編集指示等を入力するキーボード1、文字や図形を表示する表示装置(CRTディスプレイ)3、外部記憶装置としてのフレキシブルディスクドライブ5、文字や図形を印字するプリンタ7およびこれらの装置に接続され文書の入力・編集・印刷を制御する電子制御装置10等から構成されている。」という記載並びに第1図から、引用例1には、文字修飾機能を有し、キーボード、表示装置、外部記憶装置としてのフレキシブルディスクドライブ、プリンタ及び電子制御装置等の複数の装置で構成される文書編集装置が開示されていると認められる。

(b)引用例1の上記(エ)の「実施例の文書編集装置は、文字や編集指示等を入力するキーボード1、(中略)等から構成されている。」及び「キーボード1には、文字の入力を行なうためのキャラクタキー31、各文字修飾との指定を行なう文字修飾キー33およびカーソルを右(→),左(←),上(↑),下(↓)に移動するためのカーソル35R,35L、35U、35Dが設けられている。使用者は、キャラクタキー31を打鍵して文書の入力を行なうと共に、必要に応じて、アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択し、入力した文書に対応した文字修飾の設定・解除を行なうことができる。」という記載から、引用例1に記載の文書編集装置は、使用者が文字や編集指示等を入力するキーボードを備えているものと認められる。

(c)引用例1の上記(エ)の「キーボード1には、(中略)各文字修飾との指定を行なう文字修飾キー33(中略)が設けられている。使用者は、(中略)アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択し、入力した文書に対応した文字修飾の設定・解除を行なうことができる。」という記載、及び、引用例1の上記(オ)の「アンダラインが指定されていれば、ステップ120では、キャラクタコードの上位バイトの2^(0)ビットを1にセットする。」及び「文書編集装置は、キーボード1から何等かのキー入力があった時に、第2図に示す文字修飾モード入力編集制御ルーチンを起動し、まず現在の入力モードが文字修飾状態であるか否かの判断を行なう(ステップ100)。即ち、キーボード1上の文字修飾キー33がひとつでも押された状態であれば文字修飾状態であると判断してステップ110以降の処理を実行し、いずれの文字修飾キー33も押されていなければ、そのまま「NEXT」へ扱けて、図示しない通常の入力処理ルーチンによるキー入力を行なうのである。」という記載から、引用例1に記載の文書編集装置のキーボードには、文字修飾キーが設けられており、キーボード上の文字修飾キーを押すことにより、アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択することができ、キーボード上のどの文字修飾キーが押されているかによって、先ず、使用者が選択した文字修飾を決める手段を備えているものと認められる。

(d)上記(エ)の「キーボード1には、(中略)各文字修飾との指定を行なう文字修飾キー33(中略)が設けられている。使用者は、キャラクタキー31を打鍵して文書の入力を行なうと共に、必要に応じて、アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択し、入力した文書に対応した文字修飾の設定・解除を行なうことができる。」という記載、及び、引用例1の上記(オ)の「キーボード1からのキー入力が(中略)カーソルキーのうち、特に右カーソルキー(「→」)35R,下カーソルキー(「↓」)35Dであった場合には、結果的にカーソルが移動した範囲のテキストの各文字に文字修飾フラグを付け(ステップ150)、更に既述したステップ130に移行して、文字修飾を付した表示を行なわせる。この結果、第3図(A),(B),(C)に示すように、カーソル(網かけ部)が移動した範囲に亘って文字修飾(ここではアンダーライン)が施される。」という記載並びに第3図から、引用例1に記載の文書編集装置は、使用者がキーボード上のカーソルキーを押すことにより、カーソルが移動した範囲のテキストの各文字を指定する手段を備えているものと認められる。

(e)引用例1の上記(エ)の「キーボード1には、(中略)各文字修飾との指定を行なう文字修飾キー33(中略)が設けられている。使用者は、(中略)アンダーライン、スーパスクリプト等の諸機能を選択し、入力した文書に対応した文字修飾の設定・解除を行なうことができる。」という記載、及び、引用例1の上記(オ)の「カーソルキーのうち、特に右カーソルキー(「→」)35R,下カーソルキー(「↓」)35Dであった場合には、結果的にカーソルが移動した範囲のテキストの各文字に文字修飾フラグを付け(ステップ150)、更に既述したステップ130に移行して、文字修飾を付した表示を行なわせる。この結果、第3図(A),(B),(C)に示すように、カーソル(網かけ部)が移動した範囲に亘って文字修飾(ここではアンダーライン)が施される。」という記載から、引用例1に記載の文書編集装置は、カーソルが移動した範囲のテキストとして指定された各文字に、使用者が選択した文字修飾を施す手段を備えているものと認められる。

以上の引用例の記載によれば、引用例1には下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。

「文字修飾機能を有し、キーボード、表示装置、外部記憶装置としてのフレキシブルディスクドライブ、プリンタ及び電子制御装置等の複数の装置で構成される文書編集装置であって、
使用者が文字や編集指示等を入力するためのキーボードと、
キーボード上のどの文字修飾キーが押されているかによって、先ず、使用者が選択した文字修飾を決める手段と、
使用者がキーボード上のカーソルキーを押すことにより、カーソルが移動した範囲のテキストの各文字を指定する手段と、
カーソルが移動した範囲のテキストとして指定された各文字に、使用者が選択した文字修飾を施す手段と
を備えた文書編集装置。」

(2-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-204572号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下(カ)及び(ク)の事項が記載されている。

(カ)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コンピュータ表示装置でテキストを選択する方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来技術】コンピュータは、テキスト及びグラフィック・データを操作するのに用いることができる。テキスト・データを操作するコンピュータ上の共通のアプリケーション・プログラムに、ワード処理プログラムがある。ワード処理プログラムを用いれば、テキスト・データをキーボードまたは記憶媒体からコンピュータに入力することができる。一旦テキストデータを入力すると、オペレータはそのテキストを編集することができるようになる。編集には、新たなテキストを所望の位置に挿入すること、データからテキストを削除すること、又は同一の処理においてテキストの削除及び挿入の両方を行なうこと等が含まれる。後者の処理では、テキストを同一処理で削除及び挿入するので、編集の効率のためには望ましい。
【0003】同一処理でテキストを削除し新たなテキストを挿入する1つの方法に、オーバータイプ(overtype)又は置換と呼ばれるものがある。オペレータがオーバータイプ処理を用いてテキストを編集するとき、オペレータはオーバータイプ機能を選択する。次にオペレータは新しいテキストをタイプし、その新しいテキストは古いテキストと1文字ずつ置き換わる。オーバータイプ処理の欠点は、新しいテキストが削除される古いテキストよりも長いときはいつでも、削除された古いテキストの直後に位置するテキストを誤って削除しやすいということである。
【0004】同一処理でテキストを削除しかつ挿入する他の方法には、スワイプ・アンド・タイプ(swipe and type)と呼ばれるものもある。オペレータは、削除すべきテキストを選択することによって、このスワイプ・アンド・タイプ処理を用いる。「スワイプ」とは、テキストを選択するのに用いられる処理を意味する。オペレータが選択されたテキスト位置に新しいテキストをタイプするとき、自動的にスワイプ・アンド・タイプ機能が起動される。選択された古いテキストが削除され、その古いテキストの位置に新しいテキストが挿入される。スワイプ・アンド・タイプ機能を用いれば、オーバータイプ処理時に新しいテキストを古いテキストの長さに制限することができる。
【0005】スワイプ・アンド・タイプ処理は、他の種類の処理に対して基本的な要素を利用する。これはテキストの選択であり、コンピュータによって実施すべき処理をテキストの特定の部分に作用するように指示する。例えば、テキストに下線を引く、テキストのフォントを変える、テキストを移動させる等のために、テキストが選択される。選択されたテキストは、その周囲の選択されていないテキストから際立たせることにより、表示装置等に目視的に指示する。このような対比は、オペレータに対して、選択された部分のテキストを強調する、典型的には際立たせることによって行なわれる。テキストが選択されたとき、通常のタイプ用カーソルは消え、強調用のものがこれに取って代る。
【0006】オペレータの効率を高めるためには、同時にテキストの複数の部分の選択ができるようにするのが望ましい。これは、テキストの選択された部分が互いに隣接している必要がないような場合、特に有用である。これによって、オペレータは選択されたテキストの複数の部分に単一の動作を行うことができる。例えば、テキストの選択された部分を太字にする動作を利用することもできる。
【0007】不幸にして、従来技術では、テキストの多数の部分の選択ができるようにすることは、スワイプ・アンド・タイプ処理をサポートするプログラムとは両立しないことがわかっている。これは、テキストを選択した後、新しい文字をタイプすると、そのタイプした文字とそれに続いてタイプされた新しい文字とが、選択された文字に取って代わるからである。1箇所以上の選択がなされた場合には、新しい記号をタイプするとどのような結果になるのかが明白ではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、スワイプ・アンド・タイプ処理をサポートしつつ、テキストの複数の選択を可能とする方法及びシステムを提供することである。」

(キ)
「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、スワイプ・アンド・タイプ処理をサポートしつつ、オペレータにテキストの複数の部分を選択させるものである。テキストの一部を選択すると、通常のカーソルが第2の即ちスワイプ・アンド・タイプのカーソルに変化し、このカーソルはテキストの選択された部分に位置する。スワイプ・アンド・タイプのカーソルは、以後のテキストのタイプ入力が、指示された選択上でスワイプ・アンド・タイプ処理を達成するものであるということを示す。このカーソルを移動させ上述のように選択を行なうことによって、テキストの別の部分を選択することができる。テキストを選択したとき、スワイプ・アンド・タイプのカーソルが表示される。オペレータは、単一の指示された選択において、スワイプ・アンド・タイプ処理を行なうことができる。これとは別に、オペレータは、テキストの選択された複数の部分において、フォントを太字に変える等の別の動作を行なうことができる。この動作は、選択された部分全てにおいて行なわれる。
【0010】更に、本発明により、オペレータは、テキストの入力後或はカーソルの移動後、テキストの選択された部分の選択解除を行うことができる。カーソルを移動させるとき、オペレータは、既に行なった選択を維持するか、全部の選択を解除するか、今行なった選択以外の全ての選択を解除するかの選択権を有する。テキストを入力すると、選択は常に解除されることになる。」

(ク)
「【0018】
【実施例】図1は、データ処理システム11即ちコンピュータを示す。このシステムはプロセッサ13を有しており、プロセッサ13自体も中央処理装置15とRAM及び/又はROMのようなメモリ17とを備えている。周辺装置もプロセッサに接続されている。また、表示装置19もプロセッサ13に接続されている。キーボード21及びマウス23の形の入力装置もプロセッサ13に接続されている。更に、ハードディスク記憶部25及びフロッピーディスク装置27の形の記憶装置もプロセッサに接続されている。フロッピーディスク装置はコンピュータ読み取り可能な媒体であるフロッピーディスク29を受け取る。フロッピーディスク29にはコンピュータ・プログラム・ロジックが記録されており、このロジックは、テキストの編集のために、就中、挿入処理、「スワイプ・アンド・タイプ」処理及びテキストの複数の非隣接部分の選択を実行する。更に、プロセッサ13に接続されたプリンタ31も設けられている。
【0019】表示装置19はコンピュータのオペレータ即ちユーザに画像を示す表示スクリーンを備えている。画像は、図2に示すようなテキスト画像33を含んでいる。テキスト文字は、典型的にはキーボード21からコンピュータに入力される。
【0020】本発明の方法及びシステムは、他のタイプの処理の中で、挿入処理、置換処理、スワイプ・アンド・タイプ処理及びテキストの複数の非隣接部分の選択によって、表示テキストの編集を行なうことができるようにする。」

上記(カ)?(ク)の記載によれば、引用例2には、オペレータにテキストの複数の部分を選択させ、テキストの選択された複数の部分において、フォントを太字に変える等の動作を行なうことができるデータ処理システムが開示されていると認められる。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(A)引用例1発明における「文字修飾機能」は、文書を構成する文字に修飾を施して書式設定する機能に他ならないから、本願補正発明の「文書」の「書式化」に相当するといえる。
一般に、文書編集装置は、ワード処理装置ともよばれ、さらに、複数の装置で構成されるものは、システムとよばれるから、引用例1発明の「キーボード、表示装置、外部記憶装置としてのフレキシブルディスクドライブ、プリンタ及び電子制御装置等の複数の装置で構成される文書編集装置」は、本願補正発明の「ワード処理システム」に相当する。
したがって、引用例1発明も、本願補正発明と同様に、文書を書式化するワード処理システムであるといえる。

(B)引用例1発明の「使用者」、「文字や編集指示等を入力するためのキーボード」は、本願補正発明の「ユーザ」、「入力を受ける入力手段」に、それぞれ相当するから、引用例1発明も、本願補正発明と同様に、ユーザからの入力を受ける入力手段を備えているといえる。

(C)引用例1発明の「使用者」、「文字修飾」、「キーボード」は、本願補正発明の「ユーザ」、「文章形式」、「入力手段」に、それぞれ相当するから、引用例1発明も、本願補正発明と同様に、ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段を備えているといえる。
ただし、本願補正発明では、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階を備えているのに対して、引用例1発明では、このような段階を備えていない点で相違している。

(D)引用例1発明の「使用者」、「テキスト」、「範囲のテキストとして指定された各文字」、「キーボード」は、本願補正発明の「ユーザ」、「既存文章」、「既存文章の1」「の部分」、「入力手段」に、それぞれ相当し、「カーソルが移動した範囲のテキストの各文字を指定する」ことは、カーソルキーの操作により、カーソルが移動した範囲内のテキストの各文字を選択していることに他ならないから、引用例1発明も、本願補正発明と同様に、ユーザが選択した既存文章の1の部分を入力手段から入手する手段を備えているといえる。
ただし、本願補正発明では、既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段から入手しているのに対して、引用例1発明では、既存文章の1の部分を入手しているのみであり、既存文章の複数の部分を入手していない点で相違している。

(E)引用例1発明の「カーソルが移動した範囲のテキストとして指定された各文字」、「使用者が選択した文字修飾を施す」は、本願補正発明の「既存文章の選択された1」「の部分を」、「ユーザが選択した文章形式で書式化する」に、それぞれ相当するから、引用例1発明も、本願補正発明と同様に、既存文章の選択された1の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段を備えているといえる。
ただし、本願補正発明では、選択された文書形式の識別子が示すように、書式化しているのに対して、引用例1発明では、選択された文書形式の識別子が示すように書式化していない点、及び、本願補正発明では、既存文章の1もしくはそれ以上の部分を選択しているのに対して、引用例1発明では、既存文章の1の部分を選択しているのみであり、既存文章の複数の部分を選択していない点で相違している。

したがって、両者は、
「文書を書式化するワード処理システムであって、
ユーザからの入力を受ける入力手段と、
ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段と、
ユーザが選択した既存文章の1の部分を入力手段から入手する手段と、
既存文章の選択された1の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段と
を備えたワード処理システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)本願補正発明では、ユーザが選択した文章形式を決定する際に、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階を備えているのに対して、引用例1発明では、キーボード上のどの文字修飾キーが押されているかにより決定しており、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階を備えていない点。

(相違点2)本願補正発明では、既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段で選択して入手しているのに対して、引用例1発明では、既存文章の1の部分を選択して入手しているのみであり、既存文章の複数の部分を選択して入手していない点。

(相違点3)本願補正発明では、選択された文書形式の識別子が示すように、書式化しているのに対して、引用例1発明では、選択された文書形式の識別子が示すように書式化していない点。

(相違点4)本願補正発明では、書式化する際に、1もしくはそれ以上の部分に対して行われるのに対して、引用例1発明では、1の部分に行われる点。

(4)判断

(相違点1について)
ワード処理システム等の情報処理システムの技術分野において、ユーザの選択したモード等の状態情報をデータベース内のデータ構造に識別子として記憶しておき、状態情報を決定する際に、データベース内のデータ構造から識別子を読み出して状態を決定する技術は、本願の優先日前に周知である。(例えば、WindowsNTなどでも、状態情報をレジストリとよぶデータベース内のデータ構造に識別子として記憶しておき、状態情報を決定する際に、データベース内のデータ構造からレジストリ・キー(識別子)を読み出して状態を決定している。ジョン・ウデル、デスクトップOS戦国時代第2部-次世代OSの本命WindowsNT DOS,Windowsとの相性でOS/2やUNIXより優位-、日経バイト、 第107号、日経BP社、1992年12月1日、pp.254-264.などを参照されたい。)
したがって、引用例1発明において、当該周知技術を採用して、ユーザが選択した文章形式を決定する際に、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階を備えた構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点2について)
ワード処理システムの技術分野において、引用例2にも記載されているように、書式設定の際に、複数のテキスト領域を順次選択して、一括して書式設定を行う技術は、本願の優先日前に公知である。
したがって、引用例1発明において、引用例2に記載の公知技術を採用して、書式設定の際に、既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段で選択して入手する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点3について)
相違点1において既に検討したように、ワード処理システム等の情報処理システムの技術分野において、ユーザの選択したモード等の状態情報をデータベース内のデータ構造に識別子として記憶しておき、状態情報を決定する際に、データベース内のデータ構造から識別子を読み出して状態を決定する技術は、本願の優先日前に周知であるから、引用例1発明において、当該周知技術を採用して、データベース内のデータ構造から読み出した文書形式の識別子が示すように、書式化する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点4について)
相違点2において既に検討したように、ワード処理システムの技術分野において、書式設定の際に、複数のテキスト領域を順次選択して、複数の選択したテキスト領域に対して一括して書式設定を行う技術は、引用例2に記載されており、本願の優先日前に公知である。
したがって、引用例1発明において、引用例2に記載の公知技術を採用して、書式化の際に、選択された既存文章の1もしくはそれ以上の部分に対して書式化する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願補正発明の効果についてみても、上記構成の採用に伴って、当然に予測される程度のものに過ぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年7月25日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項20に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年10月25日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項20に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ワード処理装置において、
ユーザからの入力を受ける入力手段と、
ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段と、
次いで、ユーザが選択した既存文章の1もしくはそれ以上の部分を入力手段から入手する手段と、
既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段とを備えていることを特徴とするワード処理装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2並びにそれらの記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、請求項20の発明特定事項である「ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段」について、「ユーザが選択した文章形式を入力手段から先ず決定する手段であって、データベース内の文書形式データ構造から識別子を読み出し、当該識別子によって前記選択された文書形式が識別されるようにする段階」とした限定を削除し、同じく請求項20の発明特定事項である「既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段」について、「次いで、選択された前記文書形式の識別子が示すように、既存文章の選択された1もしくはそれ以上の部分をユーザが選択した文章形式で書式化する手段」とした限定を削除するものである。
そうすると、本願発明に技術的限定を付加した本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から限定を取り除いた本願発明も同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について特に検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-20 
結審通知日 2008-02-25 
審決日 2008-03-07 
出願番号 特願平6-260020
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長 由紀子和田 財太  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 野崎 大進
多賀 実
発明の名称 ユーザが選択した文章を自動書式化する装置及び方法  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 西島 孝喜  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  

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