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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01T
管理番号 1181846
審判番号 不服2006-23030  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-11 
確定日 2008-07-24 
事件の表示 特願2001-173087「ニュートリノエネルギー起電力変換方法とニュートリノ検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月19日出願公開、特開2002-116260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年6月7日(優先日、平成12年6月8日)の出願であって、平成18年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月10日付けで手続補正がなされ、平成20年4月3日に上申書が提出されたものである。

なお、本件の審理に当たり、当審の江塚、安田の両審判官は、平成20年2月8日に、本件の発明者の立ち会いの下、本願発明の実施例に対応する装置を用いた実験を見学した。

2 平成18年11月10日付けの手続補正について
平成18年11月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内でなされた補正である。
また、本件補正は、原審の審査官が平成17年10月25日付け拒絶理由通知で指摘した明細書の記載不備及び図面の記載不備を解消するために、特許請求の範囲の請求項1,3、及び発明の詳細な説明を補正すると共に、補正前の図4、5を削除する補正であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号で規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

したがって、本件補正は適法な補正である。

3 本願発明
本願発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載からみて、「ニュートリノエネルギー起電力変換方法」、「ニュートリノ検出方法」、「ニュートリノ電池」に関する発明であり、上記特許請求の範囲には、以下のとおりに記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一対の電極が設置された水中または水溶液中において、一方の電極の周囲に生物由来の合成物のうちの少なくとも1種を配置し、生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、自然界に存在するニュートリノまたは反ニュートリノの水に対する弱い相互作用を強化し、水分子を水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離せしめ、さらに、前記の生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合を抑制することで、周囲に生物由来の合成物のうちの少なくとも1種が配置された電極においては水酸イオンの酸化により水分子と酸素分子を生成して陰極として動作させ、また、他方の電極においては陰極で生成された酸素分子による水素イオンの還元により水分子を生成して陽極として動作させることにより両電極間に起電力を発生させることを特徴とするニュートリノエネルギー起電力変換方法。
【請求項2】 陰極として金、陽極としてグラッシーカーボンを用いることを特徴とする請求項1記載のニュートリノエネルギー起電力変換方法。
【請求項3】 生物由来の合成物として生糸を用いることを特徴とする請求項1または2記載のニュートリノエネルギー起電力変換方法。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載のニュートリノエネルギー起電力変換方法において2本の電極間に発生した起電力を測定することでニュートリノを検出することを特徴とするニュートリノ検出方法。
【請求項5】 請求項1ないし3のいずれかに記載のニュートリノエネルギー起電力変換方法において2本の電極間に発生した起電力を電力として利用することを特徴とするニュートリノ電池。」

4 原査定の拒絶理由の概要
原審の審査官が通知した平成17年10月25日付け拒絶理由通知書には、特許法第36条第4項に関して以下のとおりに記載されている。

「理由2 この出願(以下、本願という)は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)本願明細書における発明の詳細な説明の【0010】段落の記載において、「放射線ホルメシスの観点から、生物(生体)の持つ場に特殊な作用があれば、ニュートリノの弱い相互作用がその場の影響を受けている可能性について検討し、生物の持つ電子系がニュートリノから、eVレベルのエネルギーを受け取っているという仮説」の根拠は不明であり、必ずしも「生物の持つ電子系とニュートリノの相互的な作用により電気化学的な反応が発生」しているとは認められなく、また、【0032】段落に「自然界に存在するニュートリノにより発生した起電力の時系列変化を図3に示す。同装置は、2週間以上に渡り、約15mVの起電力を発生し続けた」と記載され、図3に示されているが、該起電力が、ニュートリノエネルギーによるものなのか、又は、他の原因によるものなのか不明であるため、本願明細書における発明の詳細な説明の記載によってニュートリノエネルギーによる起電力の発生を確認することができない。
なお、ニュートリノエネルギーによる起電力の発生を証明するには、該起電力の発生が、ニュートリノエネルギー以外のものによる起電力の発生でないことの確認が必要である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)(略)
(3)(略)
(4)(略)
(5)(略)」

5 原査定の概要
平成18年9月8日付け拒絶査定書には、「この出願については、平成17年10月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」と記載され、また、その備考欄には、

「(1)本願明細書における発明の詳細な説明の【0010】段落の記載における、「放射線ホルメシスの観点から、生物(生体)の持つ場に特殊な作用があれば、ニュートリノの弱い相互作用がその場の影響を受けている可能性について検討し、生物の持つ電子系がニュートリノから、eVレベルのエネルギーを受け取っているという仮説」と、「生物の持つ電子系とニュートリノの相互的な作用により電気化学的な反応が発生」しているという事項については、意見書の内容を参酌したが、依然として生物の持つ電子系とニュートリノの相互的な作用により電気化学的な反応が発生していることを確信することは出来ない。

(2)「自然界に存在するニュートリノにより発生した起電力の時系列変化を図3に示す。同装置は、2週間以上に渡り、約15mVの起電力を発生し続けた」と記載され、図3に示されている起電力がニュートリノエネルギーによるものであることについては、意見書の内容を参酌したが、「十分に遮蔽された場所」の具体的な構成も記載されておらず、また、放射線以外による影響についてもなんら記載されておらず、依然として該起電力の発生が、ニュートリノエネルギー以外のものによるものではなく、ニュートリノエネルギーによるものであることを確信することは出来ない。

(3)請求項1に記載の「生物合成物」及び「生物化合物」の技術的定義について、意見書の内容を参酌したが依然として不明確である。」
と記載されている。

6 当審の判断
本願が、特許法第36条第4項の規定により拒絶されるべきであるか否かを検討するに当たり、本件補正によって補正された明細書(以下「本願明細書」という。)における各請求項に係る発明と、発明の詳細な説明の記載との関係について検討する。

(1)請求項1に係る発明と発明の詳細な説明の記載との関係について

ア 請求項1に係る発明
請求項1には、
「生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、自然界に存在するニュートリノまたは反ニュートリノの水に対する弱い相互作用を強化し、水分子を水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離せしめ、さらに、前記の生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合を抑制することで、周囲に生物由来の合成物のうちの少なくとも1種が配置された電極においては水酸イオンの酸化により水分子と酸素分子を生成して陰極として動作させ、また、他方の電極においては陰極で生成された酸素分子による水素イオンの還元により水分子を生成して陽極として動作させることにより両電極間に起電力を発生させる」という事項(以下「発明特定事項」という。)が記載されている。

イ 請求項1に係る発明と発明の詳細な説明の記載との関係の検討
「ア 請求項1に係る発明」の項に摘記した発明特定事項と発明の詳細な説明の記載との関係について検討する。

(ア)図2に図示された装置、すなわち生物由来の合成物として0.6gの生糸(6)を用い、水(7)の中に生糸(6)を浸し、生糸(6)の近傍には、陰極として作用する電極として、縦20mm×横20mm、厚さ0.1mmの板状の金電極(8)を配置し、陽極として作用する電極には、縦50mm×横20mm、厚さ0.1mmの板状のグラッシーカーボン電極(9)を用いた装置において、「(略)起電力の時系列変化を図3に示す。同装置は、2週間以上に渡り、約15mVの起電力を発生し続けた。」という事項が本願明細書に記載されている(段落【0028】)。

図3のグラフには、上記装置による起電力が測定開始の約6mVから8日後の約15mVまでしか図示されていないから、上記事項は図3によっては裏付けられていない。
しかし、上記装置と類似の装置を用いた平成20年2月8日に見学した実験、及び平成20年4月2日付け上申書に添付された起電力のグラフからみて、上記装置から2週間以上に渡り、約15mVの起電力が発生することを否定することはできない。
したがって、請求項1に係る発明に関連する、一対の電極が設置された水中または水溶液中において、一方の電極の周囲に生糸を配置し両電極間に起電力が発生するという事項は、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度に記載されているといえる。

(イ)前記発明特定事項のうちの「生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、自然界に存在するニュートリノまたは反ニュートリノの水に対する弱い相互作用を強化し、水分子を水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離せしめ、さらに、前記の生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合を抑制することで、周囲に生物由来の合成物のうちの少なくとも1種が配置された電極においては水酸イオンの酸化により水分子と酸素分子を生成して陰極として動作させ、また、他方の電極においては陰極で生成された酸素分子による水素イオンの還元により水分子を生成して陽極として動作させること」(以下「メカニズム」という。)が、上記装置の陽極と陰極との間に起電力を発生させる主なメカニズムであるとして請求項1に記載されていることは明らかである。

そこで、上記メカニズムについて検討するに、本願明細書の発明の詳細な説明は、上記メカニズムを当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。以下にその理由を述べる。

a 理由1
前記メカニズムに関連して、ニュートリノ又は反ニュートリノにより陽極陰極間に起電力が発生することを実施できる程度に、発明の詳細な説明に説明されているか

本願明細書の【0028】には、「自然界に存在するニュートリノにより発生した起電力」なる記載があるが、この記載は意味不明な記載である。
(a)まず、その文意が不明である。すなわち、ニュートリノにより起電力が発生するとはいかなることか不明である。

(b)上記記載は、図2の装置で用いられる生糸(6)に対して、自然界に存在するニュートリノが相互作用し、その結果として上記装置の陽極と陰極間に起電力が発生することを意味すると解釈して、検討を進める。

発明の詳細な説明には、「ニュートリノ」に関して、
「【0002】
【従来の技術とその課題】
ニュートリノは、1933年にPauliによって理論的に存在を予言され、26年後にはCowan、Reinesの実験によりその存在が確認された電気的に中性(電荷ゼロ)であり、かつ、質量がほぼゼロに等しい素粒子である。現在では、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類について、存在が実験により確認されている。
【0003】
ニュートリノは、他の粒子との相互作用が弱くほぼ全ての物質を素通りするため、宇宙の遥か彼方や太陽の中心部にて発生し地球へと飛来したニュートリノは、地球内部をたやすく通過してしまう。」と記載されている。

この記載からみて、ニュートリノと上記生糸(6)との相互作用があり、その相互作用により上記装置の陽極と陰極間に起電力が発生したとしても、その起電力は通常の電圧計では検出できない極めて微弱な電圧値であることは明らかであるから、本願発明の実施例において測定された約6?15mVの起電力(図3参照)は、ニュートリノと生糸(6)との相互作用によるものとはいえない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記起電力が、ニュートリノと上記生糸(6)との相互作用以外の何らかの作用、原因で発生した起電力ではないことの説明がなされていない。

さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、ニュートリノと生物との関係について「放射線ホメルシス」という名の仮説が紹介されているが(段落【0006】?【0007】)、その紹介された内容は、著しく不明であり、あくまでも仮説に過ぎないといえる。

(c)まとめ
したがって、前記メカニズムに関連して、ニュートリノ又は反ニュートリノにより陽極陰極間に起電力が発生する点が、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。

b 理由2
前記メカニズムと発明の詳細な説明の記載との関係について具体的に検討する。

(a)前記メカニズムを構成する以下の事項は、その意味が自明な事項または発明の詳細な説明に十分に説明された事項であるといえる。
その事項とは、「生物由来の合成物」、「ボソン」、「電子」、「自然界に存在するニュートリノまたは反ニュートリノ」、「水」、「水分子」、「水分子を水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離せしめ」、「水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合」、「周囲に生物由来の合成物のうちの少なくとも1種が配置された電極」、「電極においては水酸イオンの酸化により水分子と酸素分子を生成して陰極として動作させ」、及び「他方の電極においては陰極で生成された酸素分子による水素イオンの還元により水分子を生成して陽極として動作させること」である。

(b)しかしながら、少なくとも前記メカニズムを構成する
「生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、自然界に存在するニュートリノまたは反ニュートリノの水に対する弱い相互作用を強化し、水分子を水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離せしめ」(以下「事項1」)という。)、及び「前記の生物由来の合成物に起因するボソン状態である電子の場の作用により、水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合を抑制すること」(以下「事項2」)という。)は、以下に示すように、いずれも発明の詳細な説明に十分に説明された事項であるとはいえない。

発明の詳細な説明には、事項1に関して、以下の記載がある。
「【0009】
この出願の発明者らは、生物(生体)の持つ場に特殊な作用があれば、ニュートリノの弱い相互作用がその場の影響を受けている可能性について検討し、生物の持つ電子系がニュートリノから、eVレベルのエネルギーを受け取っているという仮説を構築するに至り、この仮説に基づき実験を行なった結果、生物の持つ電子系とニュートリノの相互的な作用により弱い相互作用を仲立ちとした電気化学的な反応が発生することを見出した。」
「【0017】
生物由来の合成物(4)中には、ボソン状態の電子が存在し、このボソン状態にある電子の場の作用は、生物由来の合成物(4)周辺にまで及ぶことから、ニュートリノの水に対する弱い力(弱い相互作用)が強められる。したがって、水分子は、水酸イオンおよび酸素イオンに電離性解離される。尚、このボソン状態にある電子は、質量が500keV程度のものであり、一般に知られるボソンW-とは異なるものである。」

これらの記載は、いずれもその記載内容が著しく不明であり、当業者といえどもその記載内容を十分に理解することができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、事項1を当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

発明の詳細な説明には、事項2に関して、以下の記載がある。
「【0018】
さらに、前記の生物由来の合成物(4)中のボソン状態である電子の場は、水酸イオンを安定化させる作用を有することから、水分子の電離性解離によって得られた水酸イオンと酸素イオンの再結合が抑制される。このため、電極(1)においては、水酸イオンの酸化により水分子と酸素分子を生成する。」

この記載も、いずれもその記載内容が著しく不明であり、当業者といえどもその記載内容を十分に理解することができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、事項2を当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(c)まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

c 理由3
請求項1を引用する請求項3に「生物由来の合成物として生糸を用いる」と記載されていることからも明らかなように、請求項1に係る発明で用いられる「生物由来の合生物のうちの少なくとも一種」には、生糸以外の「生物由来の合生物」も含まれることは明らかである。
しかしながら、請求項1に係る発明の唯一の実施例は、生物由来の合成物として生糸のみ用いるものであり(段落【0027】)、また、発明の詳細な説明には、生物由来の合成物として生糸以外のものが具体的に示されていない。

してみると、請求項1に係る発明を実施するにあたり、生物由来の合成物として生糸以外の具体例が発明の詳細な説明に示されていない以上、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない。

d まとめ
以上、aないしcで述べたことから、本願明細書の発明の詳細な説明において請求項1に係る発明に関連する記載が著しく不明であり、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない

ウ 平成17年12月28日付け意見書に添付した参考資料1の検討
参考資料1は、審判請求書に係る平成19年1月9日付け手続補正書に添付した参考資料1として添付した論文の抜粋である。

この論文の抜粋の記載内容を検討するに、原子炉ニュートリノの照射下では、2,3日で急速に起電力が増加することは示されているが、該起電力の発生原因がニュートリノであることを十分に説明されているとはいえないから、該起電力が、ニュートリノに起因することを証明できたとはいえない。

エ 審判請求書に係る平成19年1月9日付け手続補正書における(ii)の主張、(iii)の実験データ(第4?5頁)、(iV)(「iii」は誤記である。)長期間動作(1年半)の実験(第5?6頁)、添付した参考資料1,2を検討する。

(ア)「(ii)の主張」について
「本願発明の実施例に係る原子炉における実験」について、その装置の設置位置が炉心からのニュートリノだけが強い場所(炉心から18m)であると説明しているが、上記実験と請求項1に係る発明との関連が不明であり、上記(ii)の主張は理由がない。
なお、本願発明の実施例に係る原子炉における実験に関連して、本願明細書の【0028】には、「これを原子炉の付近に設置すると、原子炉からの低エネルギー反ニュートリノの効果により、高い起電力を発生することが可能となる。」と記載されているが、「原子炉からの低エネルギー反ニュートリノの効果」の内容は著しく不明である。

(イ)「(iii)の実験データ」について
参考図1ないし3に示された実験データを根拠として、本願明細書の実施例において発生した陽極陰極間の電圧(以下「起電力」という。)が、溶出物質による起電力の生成ではないことを証明できたとしても、上記起電力が、ニュートリノに起因することを証明できたとはいえないことは明らかである。

(ウ)「(iV)長期間動作(1年半)の実験」について
参考図4に示された実験データを根拠として、上記起電力が、溶出物質による起電力の生成ではないことを証明できたとしても、上記起電力が、ニュートリノに起因することを証明できたとはいえないことは明らかである。

(エ)「参考資料1,2」について
請求人は、「本願発明の実施可能要件を補足するため、本願発明と関連して本願の後に発行された論文を2通添付いたします。」と述べている。
しかしながら、上記論文の内容を検討しても、上記起電力が、ニュートリノに起因することを証明できたとはいえないことは明らかである。

オ 平成20年4月2日付け上申書に添付した実験報告書に記載した実験データ、説明資料(改訂版)について

Fig.1のデータは、平成20年1月25日にセットされた実験装置における、起電力の経時変化の実験データであり、また、Fig.2のデータは、同年2月8日にセットした実験装置における同実験データである。
上記Fig.1,2から、実験装置をセットしてから約2週間を経過すると、起電力の値がほぼ安定し、Fig.1の実験装置では100mV?120mVに達し、Fig.2の実験装置では起電力の値が50mV?60mVに達すること、及び電極と銅線を接続する半田の量の多寡、電極を構成する金属の純度により上記起電力の変動傾向が変化することは説明できたとしても、上記起電力が、ニュートリノに起因することを証明できたとはいえないことは明らかである。

また、説明資料(改訂版)に記載されている、本願発明に関連する仮説、理論は、直ちに受け入れることができる内容であるとは言い難い。

カ まとめ
アないしオで検討したことから、意見書、上申書等をみても、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない。

(2)請求項4に係る発明と本願明細書の発明の詳細な説明の記載との関係について

請求項4には、「請求項1ないし3のいずれかに記載のニュートリノエネルギー起電力変換方法において2本の電極間に発生した起電力を測定することでニュートリノを検出することを特徴とするニュートリノ検出方法。」と記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、上記起電力について、「この出願の発明に係るニュートリノエネルギー起電力変換方法において、生物由来の合成物を通過するニュートリノネルギー束が増加するほど、2本の電極間に発生する起電力は大きくなることから」(【0023】)なる記載がある。
してみると、請求項4の「起電力を測定することでニュートリノを検出する」とは、起電力を測定することでニュートリノの存在を検出するという意味ではなく、起電力を測定することでニュートリノの密度、強度等の量を検出する意味であると推察できる。
しかし、ニュートリノエネルギー束の増加と、2本の電極間に発生する起電力の増大との量的関係について、実験又は説明がされていないから、請求項4に係る発明の「起電力を測定することでニュートリノを検出する」ことを実施することについて、発明の詳細な説明は、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない。

よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない。

(3)請求項5に係る発明と本願明細書の発明の詳細な説明の記載との関係について
請求項5は請求項1を引用しているので、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本願は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-26 
結審通知日 2008-05-27 
審決日 2008-06-11 
出願番号 特願2001-173087(P2001-173087)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 安田 明央
末政 清滋
発明の名称 ニュートリノエネルギー起電力変換方法とニュートリノ検出方法  
代理人 西澤 利夫  

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