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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01C
管理番号 1181959
審判番号 無効2008-800001  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2008-07-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3666816号発明「レーザーマーキング方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3666816号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

1 出願 平成16年5月26日
2 特許査定 平成17年3月25日
(発送日:平成17年3月29日)
3 特許権の設定登録 平成17年4月15日
4 特許掲載公報発行 平成17年6月29日
5 特許無効審判の請求 平成19年12月28日
6 答弁書(被請求人)の提出 平成20年4月4日
7 書面審理通知 平成20年4月9日
(発送日:平成20年4月11日)
8 上申書(請求人)の提出 平成20年5月19日

第2 本件発明
本件の特許第3666816号の請求項1ないし10に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる(以下、請求項1ないし請求項10に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)。

「【請求項1】
1-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
1-B. 所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき、
1-C.レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。

【請求項2】
2-A.前記マーキング位置までの距離データの取得は、視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準した際に、前記測量機の測距機能による計測によって行う請求項1記載のレーザーマーキング方法。

【請求項3】
3-A.前記マーキング位置までの距離データの取得は、距離データが事前に既知或いは推定可能とされる場合は、当該距離データを前記演算制御装置への入力によって行う請求項1記載のレーザーマーキング方法。

【請求項4】
4-A.前記レーザーマーキング装置において、前記望遠鏡部の視準方向と前記レーザー光投射装置のレーザー光投射方向との初期設定は、両者を平行としてある請求項1?3いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項5】
5-A.前記レーザーマーキング装置において、前記望遠鏡部の視準方向と前記レーザー光投射装置のレーザー光投射方向との初期設定は、両者間に相対角度を持たせてある請求項1?3いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項6】
6-A.前記測量機を任意点に設置し、予め座標が既知とされる少なくとも2点の基準点を視準し、これら基準点を視準した測距・測角データから後方交会法により、当該測量機の設置点座標を求めるようにする請求項1?5いずれかに記載のレーザーマーキング法。

【請求項7】
7-A.レーザーマーキングの対象が、トンネル施工時のマーキングである請求項1?6いずれかに記載のレーザーマーキング方法。

【請求項8】
8-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
8-B. 所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき、
8-C.レーザーマーキングに当たり、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング方法。

【請求項9】
9-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置であって、
9-B.前記演算制御装置は、所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行って得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め、
9-C.レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング装置。

【請求項10】
10-A.測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなり、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置であって、
10-B.前記演算制御装置は、所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行って得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求め、
10-C.レーザーマーキングに当たり、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させることを特徴とするレーザーマーキング装置。」

なお、「1-A.」から「10-C.」までの符号は、請求人が付したものである。

第3 請求人の主張について
1 請求人の主張する無効理由
(1)無効理由1
本件発明1?本件発明10のそれぞれは、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とするべきである(以下「無効理由1」という。)。

(2)無効理由2
本件発明8及び本件発明10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が本件発明8及び10を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものではないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とするべきである(以下「無効理由2」という。)。

2 証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

甲第1号証 特公平7-103770号公報
甲第2号証 特開平4-140607号公報
甲第3号証 特許第2590014号公報
甲第4号証 「TPS1100 Professional Series,ユーザーマニュアル,バージョン2.1,日本語版、ライカジオシステムズ株式会社」及び頒布の証明書
甲第5号証 特開平9-304055号公報

なお、請求人は、審判請求書の「7.証拠方法」の項において、甲第4号証について、「ライカジオシステムズ社ユーザーマニュアル バージョン2.1日本語版」と記載しているが、甲第4号証については、請求人の提出した書証の表紙に記載された表題名で表示した。

3 平成19年12月28日付け審判請求書における請求人主張の概要
(1)無効理由1
請求人は、審判請求書において、本件発明1?本件発明10のそれぞれは、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明を主引用発明として、これに他の甲各号証又はさらに周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるとし、次のように主張している。

ア 本願発明1について
(ア)甲第1号証記載の発明を主引用発明とする無効理由1
請求人は、甲第1号証記載の発明(以下「甲1発明」という。)を主引用発明とする無効理由1として、概略次のように主張している。

本件発明1と甲1発明とは、以下の相違点1及び2で相違する。
(相違点1)甲1発明では、本件発明1の構成要件1-Bが明記されていない点。
(相違点2)甲1発明では、本件発明1の構成要件1-C前半部に相当する条件が明らかにされていない点。

相違点について検討すると、甲3発明においても、補正に際し、実質的には、
○ 所定位置に設けた視準ターゲット(B点又はC点)を望遠鏡部(光波測距計2、および電子セオドライト3)で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する
○ 所定位置に設けた視準ターゲット(B点又はC点)にレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測する
○ これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておく(これらのズレを求めない限り補正はできない。)
○ 前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき(コンピュータでの自動補正の際に、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果を反映させることは明らか)、マーキング位置にレーザー光を投射させるように装置の傾きを自動補正する
ものであることは明らかである。
また、「マーキング位置までの距離」の長短によって、目標のマーキング位置とのズレを生じることが当業者の技術常識であった(たとえば、甲第5号証参照)のであるから、その目標のマーキング位置とのズレを生じることがないように、「取得したマーキング位置までの距離データ」をマーキング位置修正の要素として加味する程度のことは、適宜選択する事項、あるいは当業者が容易に想到できる程度のものである。
甲1発明に甲3発明を適用することに十分な動機付けが存在し、あるいはさらに当業者の技術常識(たとえば甲第5号証)を踏まえれば、その適用は当業者が容易に想到できるものであり、その適用に阻害要因も見出せないから、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)甲第2号証記載の発明を主引用発明とする無効理由1
請求人は、甲第2号証記載の発明(以下「甲2発明」という。)を主引用発明とする無効理由1として、概略次のように主張している。
本件発明1と甲2発明とは、以下の相違点1ないし5で相違する。
(相違点1)本件発明1では、駆動部を有するのに対し、甲2発明においては、本件発明1の駆動部を有するのか一義的に明らかでない点。
(相違点2)本件発明1では、駆動部を制御する演算制御装置を有するのに対し、甲2発明においては、演算制御装置を有するのか一義的に明らかでない点。
(相違点3)本件発明1では、所定位置に視準ターゲットを設けるのに対し、甲2発明においては、その所定位置に視準ターゲットを設けたものではない点。
(相違点4)本件発明1では、望遠鏡部で視準する際に水平角度、鉛直角度、距離を計測し、レーザー光を投射する際に水平角度、鉛直角度を計測するのに対し、甲2発明においては、これらの計測要素を直接的に計測することについて明記されておらず、間接的に自動演算により求めている点。並びに、本件発明1では、相対角度データを求めるのに対し、甲2発明においては、相対角度データを求める点について必ずしも明らかではない点。
(相違点5)本件発明1では、距離データと相対角度データとから、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、レーザー光を移動させるのに対し、甲2発明においては、所定位置にレーザー光を投射させるように手動で移動させて「マーキング位置修正」を行うものである点。

相違点について検討すると、
相違点1及び相違点2は、甲1発明と同一である。したがって、自動化を達成するにあたり適用するための設計事項に過ぎない。
相違点3は、甲3発明のように、所定位置B点及びC点に視準ターゲットを設けて、この視準ターゲットを視準基準としてレーザー光投射方向のズレ修正に利用することが公知の技術であったのであるから、実質的な相違点とはいえず、また、所定位置に視準ターゲットを設ける程度のことは、当業者が必要により採用できる事項、あるいは容易に想到できる事項に過ぎない。
相違点4は、甲2発明を単に「相対角度」の観点から規定したに過ぎず、実質的な相違点とはいえない。また、甲2発明のD点に視準ターゲットを設けて、これに対する「望遠鏡部の視準手順」及び「レーザー光の視準手順」を採用し、並びに相対角度データを求めることを適用したに過ぎず、当業者が容易に想到できる程度のものである。
相違点5は、甲3発明においては、「レーザー光自動発射装置1のビーム方向のデータを解析して、装置の傾きをコンピュータで自動補正する」というものであるから、本件発明1と同じく「レーザー光投射装置からのレーザー光をマーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」するものと想定されるのである。そして、甲第3号証には「装置の傾きをコンピュータで自動補正する」とだけ記載され、本件補正発明1における「駆動部」に関する明記はない。しかし、甲3発明は、なんらかの形態で「装置」(レーザー自動発射装置1)の傾きを修正するための駆動手段を設けたものであることを前提にするものであることは明らかである。しかも、甲1発明は甲2発明の三脚13とトータルステーション50との間に駆動部を設けると共に、これを駆動するために演算制御装置を設けることを明らかに示唆しているのであるから、甲2発明に甲3発明を適用するに際し、甲1発明における「駆動部」の構成を組み込んで、相違点5に係る構成とすることに、当業者が格別の空を要するものではなく、単なる組合せに過ぎない。
本件発明1と同じく、甲3発明のようにトンネルの切羽面の手前に視準ターゲットとする場合には、トンネルの切羽面までの離間距離に基づく誤差要因を解消する必要が生じるのであるから、その離間距離に基づく誤差要因を解消する手法を採るのは、当業者が適宜行う事項に過ぎない。

イ 本件発明2?本件発明10について
請求人は、審判請求書において、本件発明2?本件発明10についての無効理由1として、概略次のように主張している。

(ア)本件発明2について
甲1発明も、測距機能を有し、切羽面に設置した光波プリズム8を利用しており、なんら格別のものではない。

(イ)本件発明3について
当業者が当然に行うものであり、なんら格別のものではない。

(ウ)本件発明4について
甲1発明、甲2発明及び甲3発明においても同様であり、なんら格別のものではない。

(エ)本件発明5について
甲第1号証に裏側から記載され、甲第5号証に記載されるものであるから、なんら格別のものではない。

(オ)本件発明6及び本件発明7について
甲1発明、甲2発明及び甲3発明においても同様であり、なんら格別のものではない。

(カ)本件発明8について
甲第4号証のレーザーマーキング装置は、「初期設定時において・・・オフセットがないレーザーマーキング装置」に相当し、公知の装置を使用したに過ぎない。

(キ)本件発明9及び本件発明10について
本件発明1または本件発明8の方法を装置にしただけのものであるから、本件発明1または本件発明8の理由がそのまま当てはまる。

(2)無効理由2
請求人は、審判請求書において、請求項8及び請求項10についての無効理由2として、概略次のように主張している。

請求項8の「オフセット量が無いレーザーマーキング装置」は、本件特許明細書及び図面に、具体的にいかなる構造のものかなどの記載は一切なく示唆もない。また、公知資料の引用やメーカー名及び型番などの特定もない。したがって、本件特許明細書及び図面の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
請求項10についても同様である。

4 平成20年5月19日付け上申書における請求人主張の概要
請求人は、上申書において、甲第3号証及び甲第2号証についての請求人の主張に誤りはないことを主張している。

第4 被請求人の主張について
1 証拠方法
被請求人は、証拠方法として、乙第1号証の1ないし乙第2号証を提出している。
乙第1号証の1 ライカ、WILD GLO2のカタログ及び翻訳文
乙第1号証の2 GLO2の販売時期の証明書
乙第2号証 トンネル工法ハンドブック編集委員会編集、「トンネル工法ハンドブック」、株式会社建設産業調査会、昭和48年、1-11ページ及び1-19ページ

なお、乙第1号証の1ないし乙第2号証の表示名は、被請求人の提出した書証に基づき、当審が修正した。

2 平成20年4月4日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)における被請求人の主張の概要
(1)本件発明の技術的意義について
被請求人は、答弁書において、「本件発明は、・・・視準方向とレーザー光投射方向とが絶えず平行であるという思い込みが測量ミスをもたらすという点に初めて着目し、視準方向とレーザー光投射方向のズレを問題視しないマーキング方法を提案している。本件発明は、視準方向とレーザー光投射方向にズレがある状態のままで用いることができるものであり、視準方向とレーザー光投射方向が一致しているという従来の常識からは発明することが不可能な画期的な発明である。また、ズレを許容する構成により、スリップリングの摺動範囲を拡大し、部品の延命化を図れるという効果がある・・・。」と主張している。

(2)無効理由1について
被請求人は、答弁書において、概略以下のとおり主張している。
甲1号証には相違点1(構成要件1-B)及び相違点2(構成要件1-Cの前半部)に係る構成が記載されていない。甲2号証及び甲3号証は、いずれも複数のミラーを用いてレーザー光投射方向を変えるレーザー光投射装置であり、本件発明と本質的に異なる。甲2号証及び甲3号証には、上記相違点に係る構成は記載されていない。甲4号証及び甲5号証には、別件の無効審判(無効2007-800038)の審決が認定したとおり、上記相違点に係る構成は記載されていない。
従って、甲1?甲3号のいずれを主引用発明として組み合わせを行ったとしても、甲1?甲3号証に記載された発明に基づいて本件発明1を容易に発明することができたとは言えず、本件発明1は特許法29条2項の規定には該当しない。
本件発明2?7は、本件発明1に従属する発明であり、本件発明1と同様に、特許法29条2項の規定には該当しない。
本件発明8は、本件発明1と同じ特徴を有するので、本件発明1と同様に、特許法29条2項の規定には該当しない。
本件発明9,10はそれぞれ、本件発明1,8に対応する装置の発明であり、本件発明1と同じ特徴を有するので、本件発明1と同様に、特許法29条2項の規定には該当しない。

(2)無効理由2について
被請求人は、答弁書において、無効理由2について、概略以下のとおり主張している。
視準方向とレーザー光投射方向とにオフセット量がないレーザー光投射装置は、乙第1号証の1、乙第2号証に示すように、本件特許出願前より公知であった。
オフセット量がない装置は、本件出願のはるか以前から知られており、当業者にとって技術常識といえる事項である。従って、オフセット量のない装置の構成を詳細に説明しなくても、当業者が本件発明8及び10を実施することが可能であり、本件特許明細書は、特許法36条4項1号に規定する記載要件を満たしている。

第5 甲第1号証ないし甲第5号証
1 甲第1号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特公平7-103770号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】レーザー光を投射するレーザー発振器と光波によって距離を測定する光波測角測距儀とを、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたレーザー光投射装置と;
このレーザー光投射装置を支持して、鉛直方向および水平方向に駆動する駆動装置と;
前記光波測角測距儀からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を鉛直方向および水平方向に移動させる演算制御装置と;を有し、
前記レーザー光投射装置および前記駆動装置を切羽断面手前の位置に設置するとともに、予めその設置座標を知っておき、
座標が既知の別の基準点を前記光波測角測距儀により視準し、この視準による前記設置座標からの測角測距データを得て、
他方で、前記演算制御装置に与えられた計画トンネル線形および計画トンネル断面形状に基づいて、前記切羽断面上における作業基準点を設定し、
前記演算処理装置で前記測角測距データに基づいて前記作業基準点に向けての前記設置座標からの鉛直角度および水平角度を演算し、その鉛直角度および水平角度で前記駆動装置を作動させてレーザー光投射装置を振って、前記作業基準点にレーザー光を投射させ、
順次切羽断面上に作業基準点をレーザー光の照射によるマーキングを行うことを特徴とするトンネル断面のマーキング方法。」

イ 「本発明は、トンネルを掘削する際、ある切羽断面において発破孔などの多数の作業基準点をマーキングする方法に関する。」(2ページ左欄1?3行)

ウ 「第1図において、1はレーザー光投射装置であり、レーザー光を投射するレーザ発振器5と光波によって距離を測定する光波測角測距儀6とを、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたものである。
このレーザー光投射装置1は、鉛直方向および水平方向に駆動する高度微動駆動装置7により支持されている。さらに、光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて、前記駆動装置7を作動させてレーザー光投射装置1を鉛直方向および水平方向に移動させるコントローラー12およびコンピューター16とを有する演算制御装置とが設備されている。
さて、レーザー光投射装置1および駆動装置7は、図面に示すように、切羽断面18手前の位置に設置され、この設置座票P(X_(0),Y_(0),Z_(0))は、予め他の測量機器による測量により既知である。また、トンネル内には、別の基準点O(X_(1),Y_(1),Z_(1))が測量により既知とされる。したがって、トンネルの曲率中心Eからの距離L_(1),L_(2)は既知である。この基準点Oとしては、たとえばダボステーションを用いることができる。
かかる状態において、まず、座標が既知の基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準し、この視準による前記設置座標Pからの測角測距データ(L_(3),仰角ζ)を得る。
そして、トンネルの切羽断面18までの距離を知るために、光波プリズム8を切羽断面2上の適宜の位置に設置し、これに光波を当てる。このとき、前記基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準したときの設置座標Pからの、基準点O基準の測角測距データ(δ,γ,L_(4))が得られる。したがって、逆に、切羽断面18は、光波プリズム8を設置した断面内にあることが判り、その切羽断面18内において、曲率中心Eからの法線lに沿う面上に作業点を設定する必要があることが判る。
そこで、演算制御装置を構成するコンピューター16には、予め計画トンネル線形および計画トンネル断面形状が与えられ、切羽断面18上において作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定する。
かくして、演算処理装置で前記基準点Oを光波測角測距儀7(当審注:「光波測角測距儀6」の誤記である。)により視準したときの設置座標Pからの測角測距データに基づいて、作業基準点に向けての、すなわち、まず第1作業点aに向けての設置座標Pからの鉛直角度βおよび水平角度αを演算する。これとともに、その鉛直角度βおよび水平角度αで、駆動装置7をコントローラー12により作動させてレーザー光投射装置1を振って、作業基準点aにレーザー光を投射させ、その投射点を作業基準点のマーキングとする。この場合、光波プリズム8の設置座標は測定したので、これを基準として、第1作業点aにレーザー光を照射することもできる。
その後、順次切羽断面18上に作業基準点b?c?…をレーザー光の照射によりマーキングを行うものである。
この場合、b点を照射する場合には、a点を既知の基準点とすることにより、再度基準点Oを視準することなく、能率的に順次作業基準点b?c?…を照射できる。
本発明のレーザー光投射装置においては、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行となるように設定されている。これに対して、たとえば、切羽断面に向かってレーザー光と光波の各光軸とが平行でなく両者の間に角度が与えられると、レーザー光投射装置と切羽断面間の距離に応じて視準点とレーザ照射されるポイントとの距離間が拡大あるいは縮小する。これはコンピューター上での演算を複雑化するだけでなく、演算精度、したがってマーキング精度を低下させる。特に、トンネルの曲線部にてマーキングを行う場合には、切羽断面に対して斜めからのマーキングが行われることになるので、視準方向とレーザー光との間で例えば水平方向の角度にわずかなずれでもあると、視準点とレーザー照射されるポイントとの拡き(離間する距離)が顕著に現れる。
さらに、切羽断面上の凹凸が加味すると、視準点と照射のポイントとを合致させるために、コンピューターでの演算はより複雑化して、精度面での低下を招くことになる。
そこで、本発明によれば、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になり、視準方向に常時レーザー発振器の投射方向が向けられるので、測距時の視準方向をレーザー光を投射する方向として扱うことができる。レーザー光の光軸と測距時の光軸との間に角度を与えずに平行することは、視準点とレーザー照射されるポイントとの距離を、レーザー光投射装置と切羽断面との距離に関係なく、ほぼ一定にさせることが可能である。
また、本発明では、前記の設置点Pと基準点Oを設定し、その位置を知るのみで、他の測量手段が必要なく、レーザー光照射装置で測角・測距することにより、各作業点をレーザー光照射できるので、照射精度が高くかつ測量などに要する作業時間が大幅に短縮できる。」(2ページ右欄30行?3ページ右欄11行)

エ 「レーザー発振器5は光波測角測距儀6の鏡筒部に搭載され、視準望遠鏡の光軸と平行にレーザー光3を照射できるようになっている。このレーザー光投射装置1によって、距離測定、測角測定およびレーザー光投射が行えるようになっている。7は高度微動駆動装置で、モータによってレーザー光投射装置1の視準方向を水平および鉛直方向に自在に変えることができ、コントローラー12によって制御される。また、コントローラー12の操作は操作盤9によって遠隔操作ができるようになっている。10は無線中継点で、操作盤9と受信機11の距離が100m以上の場合に必要とされる。8は切羽断面18前部に置かれた光波プリズムで、光波測角測距儀6より投光された光波4を反射させるものであり、これにより光波測角測距儀6はこの反射された光波4を受光し、正確に切羽断面18までの距離を算出することができる。」(3ページ右欄15行?29行)

オ 図面の第1図には、高度微動駆動装置7の上に光波測角測距儀6が取り付けられ、光波測角測距儀6の上にレーザー発振器5が取り付けられるように描かれている。

カ 上記摘記事項アないしオから、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
「測角測距を行う光波測角測距儀6及び前記光波測角測距儀6に取り付けられたレーザ発振器5とからなるレーザー光投射装置1と、前記光波測角測距儀6を鉛直方向及び水平方向に駆動する高度微動駆動装置7と、前記光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記高度微動駆動装置7を作動させる演算制御装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
レーザー光を投射するレーザ発振器5と光波によって距離を測定する光波測角測距儀6とは、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としてあり、
基準点Oに設けたダボステーションを前記光波測角測距儀6で視準し、測角測距データ(L_(3),仰角ζ)を得る光波測角測距儀6の視準手順、及び、トンネルの切羽断面2上の適宜の位置に設置した光波プリズム8を前記光波測角測距儀6で視準し、基準点O基準の測角測距データ(δ,γ,L_(4))を得る光波測角測距儀6の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、光波プリズム8を設置した断面内にある切羽断面18上に作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定し、第1作業点aに向けての鉛直角度βおよび水平角度αを演算し、その鉛直角度βおよび水平角度αで、前記高度微動駆動装置7を作動させて、第1作業点aにレーザー光を投射させるレーザーマーキング方法。」

2 甲第2号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平4-140607号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「架台上に取付けられた測距、測角及び水準測量が可能なトータルステーション上に設けられたレーザ光照射器及び該レーザ光照射器からのレーザ光を反射する振り角制御自在な2個の反射ミラーと、上記反射ミラーの振り角を制御するコントローラとからなるトンネル切羽面へのレーザ光照射装置。」(特許請求の範囲)

イ 「まず、この装置は、第1図、第2図及び第3図に示すトンネル坑内の切羽面1に向って設けられる第4図の三脚等の架台13と、その架台13上に取付けられた測距、測角及び水準測量が一台で行なわれうるトータルステーション50上に水平に設けられた第5図のレーザ光照射器14、そのレーザ光照射器14からのレーザ光lを反射する固定反射ミラー28、その反射したレーザ光lを反射するy軸旋回用の反射ミラー15A、その反射したレーザ光lをさらに反射するz軸旋回用の反射ミラー15B、そして反射ミラー15A,15Bの振り角を制御するコントローラ16とから構成されているが、コントローラ16は反射ミラー15A,15Bの振り角を適宜に制御して、切羽面1上に描く照射線と、その描き方、すなわち、照射パターン、照射線の移動、照射された像の大きさなどを決定する制御をするようになっており、図中で26はアンプ、27はスキャナーを示している。」(3ページ左上欄15行?右上欄13行)

ウ 「次に、このレーザ光照射装置によるトンネル切羽面1へのレーザ光照射手法につき説明すると、第1図から第3図において、切羽面1から離れた座標(x_(2),y_(2),z_(2))の任意の点Bを、第6図に示すトータルステーション50の中心点B’及びマーカーの中心点Bの位置としてここからレーザ光lを発射するようにする。
そこで、座標位置が実測されている2つの点;A_(1)(x_(1),y_(1),z_(1)),A_(2)(x_(1)’,y_(1)’,z_(1)’)の実測座標点にそれぞれ第4図のごとく三脚などの架台13Aに設けた反射ミラー15A_(1),15A_(2)を設けている。
ここで、切羽面1上の座標(x_(3),y_(3),z_(3))の点Cはトンネル内の道路のセンターで、これは与えられる設計点の座標であり、そして座標(x_(4),y_(4),z_(4))の点Dはトンネルセンターの設計点であり、演算により求められる座標である。」(3ページ右上欄19行?左下欄15行)

エ 「次に、第8-A図の平面図におけるA_(1)及びA_(2)それぞれの各反射ミラー15A_(1),15A_(2)とマーカーの中心点B(x_(2),y_(2),z_(2))との測距l_(0),l_(1)と、これらA_(1),A_(2)点とがなす角θ_(1)の測角及び第8-B図の側面図の点Bと点A_(1),A_(2)とのhで示す測高、即ち水準測量が全て1台のトータルステーション50で行ないうるようになっている。
なお、ここでマーカーの座標も点Bの座標(x_(2),y_(2),z_(2))と同じく8桁の桁数に統一するものとする。
以上のごとく実測されている2個の反射ミラー15A_(1),15A_(2)が設置されている2点A_(1),A_(2)をトータルステーション50で視準して、各距離l_(0),l_(1),角度θ_(1)及び高低差のhの水準を測量することにより、点Bと2点A_(1),A_(2)間を水平距離に換算して点Bの座標が得られる。」(3ページ右下欄3?19行)

オ 「また、第13図の点Bは、第14図に示すレーザ光照射器14が位置するトンネルマーカーレーザ発進点であり、このレーザ光照射器14をその上部に設けたトータルステーション50は2点の間のレベル差hを測高するだけである。
さらに、投映距離l_(BD)は、


(数1)
で得られる。」(4ぺーじ左下欄3?11行、なお、式番号(数1)は当審が追加した。)

カ 「次に、第16図及び第17図により平行移動について説明するが、
Δl_(xy):xy平面上の移動距離、
Δθ_(xy):xy平面上の移動角、
Δl_(z ):z軸方向の移動距離、
Δθ_(xy)(当審注:「Δθz」の誤記である。):z軸方向の移動角、
であり、下記(i)及び(ii)の2方式の平行移動とする。
(i)D点投映の時に、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点(図中、D’で示す)が合致しない場合、レーザー点を手動で平行移動させ合致するようにしなければならない。
合致したD点を(ii)の平行移動の原点とする。
(ii)原点より故意にある距離だけ平行移動をする場合である。
また、原点決めの平行移動につき第18図により説明すると、
z_(2)’=z_(1)’-h
z_(2) =z_(2)’+H=z_(1)’-h+H
マーカーのD点は、


(数2)
トータルステーション50のD点は、


(数3)
双方のD点は理論的には一致しなければならないが、マーカーとトータルステーション50のセット時のわずかな誤差より相違することが考えられるため、手動の平行移動で合致させる必要がある。
また、投映像の平行移動は、


(数4)


(数5)
平行移動範囲は、Δl_(xy)で±直径/2、そしてΔl_(z)で±半径/2とし、平行移動を可能とする投映像としては、点,半径,直径,半円,半楕円である。
なお、第19図の平行移動パターンにおける平行移動範囲はy軸で±D_(y)/2であり、Z軸で±R_(z)/2であり、平行移動レンジ(Δl_(xy)とΔ1_(z)の2ケ)を作動さす毎に平行移動距離がデジタル表示される。
次に、このレーザ光照射装置の施工管理部で選定するものとしては、点,半径,直径,半円,半楕円からなる投映パターンであり、入力するものは、(x_(1),y_(1),z_(1)),(x_(1)’,y_(1)’,z_(1)’),(x_(3),y_(3),z_(3)),θ_(n),l_(CD),R_(t),そして半楕円選定の場合のR_(z)/D_(y)比である。
また、表示するものは、(x_(2),y_(2),z_(2)),(x_(4),y_(4),z_(4)),θ_(z),l_(BD,)θ_(z)’,Δl_(xy),Δl_(z)であり、設定するものは平行移動の原点である。」(4ページ左下欄17行?5ページ左下欄4行、なお、式番号(数2)ないし(数5)は当審が追加した。)

キ 「そこで、以上に説明したシステムによるレーザ光lの投映手順を項目ごとに説明する。
(1)A_(1),A_(2),C点の道路座標(x,y,z)とC点からD点をみた絶対方位角θ_(CD),CD間の距離l_(CD)を入力する
(2)トータルステーションを用いてA_(1),B,A_(2)で三角測量を行い、B点の道路座標(x_(2),y_(2),z_(2))を知る。
ここで、第20図にて、測距をL_(A1B),L_(A2B)、そして測角をθ_(1)とし、また第21図にてレベルをh_(1),h_(2)とする。
(3)第22図のC点の道路座標(x_(3),y_(3),z_(3)),C,D間の距l_(CD),C点からみたD点の方位θ_(CD)より自動演算してD点の道路座標(x_(4),y_(4),z_(4))を求める。
(4)三角形A2,B,Dより自動演算して、第23図及び第24図の投映距離l_(BD),投映平面方位角θ_(2),長手断面投映角θ_(z)を求める。
(5)トータルステーション50を用いて、A_(2)からθ_(2)だけ振り、トンネルマーカー(発破マーカー)をD点の水平方向に向ける。
(6)コントローラーからθ_(z)の指令を受け、z軸スキヤナーでθ_(z)を出し、レーザー点をD点に自動投映する。原点を手動にて平行移動で調整する。
(7)投映距離l_(BD)をもとにして、投映パターン(半径,直径,半円,半楕円)・発破パターンを選定コードから選出し、掘削切羽面上に所定の投映像を描く。
(8)レーザー照射器14(B点)を移動さすまでの2回目以降の投映は(3)項からの手順となる。
なお、本発明において採用されるトータルステーション50としては、測距、測角及び水準測量が同一機器で行ない得るすでに本邦で市販されている公知の機器をそのまま使用できる。」(5ページ左下欄5行?右下欄末行)

ク 「また、レーザ光照射器自体を水平に保持することは、トータルステーションを取付けるときの気泡式の水準計で実際には大きな誤差なく行なうことができる」(6ページ右上欄15行?18行)

ケ 図面の第6図には、レーザー照射器14とトータルステーション50の側面図に、マーカーの中心点の位置Bとトータルステーションの中心点の位置B’が、Hの距離で離れて描かれ、また、マーカーとトータルステーションの回転軸が共通する構造が描かれている。

コ 図面の第16図には、点Bを中心として、マーカーから出したD点(図中のD’点)を、xy平面上でΔθ_(xy)移動し、z軸方向にΔθ_(z)移動することにより、マーカーから出したD点(図中のD’点)を、トータルステーション50でみたD点と合致させる様子が描かれている。

サ 図面の第18図には、マーカーの中心点Bからz軸方向にθ_(z)傾斜した位置にある、マーカーから出したD点と、トータルステーションの中心点B’からz軸方向にθ_(z)’傾斜した位置にある、トータルステーションでみたD点とが一致した状態が描かれている。

シ 上記摘記事項キの「トータルステーション50を用いて、A_(2)からθ_(2)だけ振り、トンネルマーカー(発破マーカー)をD点の方向に向ける。」との記載、及び、上記摘記事項ケのマーカーとトータルステーションの回転軸が共通する構造から、マーカーとトータルステーションとは水平方向には一体的に回転する構造を読み取ることができる。

そうすると、上記摘記事項アないしシから、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「測距、測角及び水準測量を行うトータルステーション50を備え、トータルステーション50は回転軸を中心に水平方向に回転可能となっており、また、望遠鏡部は、トータルステーションの中心点B’を中心としてz軸方向に傾斜可能となっており、トータルステーション50には、レーザー光照射器14が水平に取付けられ、レーザー光照射器14はトータルステーション50と一体的に水平方向に回転するとともに、マーカーの中心点Bを中心として、xy平面上及びz軸方向にレーザー点を移動できるようになっているトンネル切羽面へのレーザー光照射方法であって、
2個の反射ミラー15A_(1),15A_(2)が設置されている2点A_(1),A_(2)をトータルステーション50で視準して、各距離l_(0),l_(1),角度θ_(1)を測量し、
トータルステーション50を用いてA_(2)からθ_(2)だけ振り、トンネルマーカーをD点の水平方向に向け、z軸スキャナーでθ_(z)を出し、レーザー点をD点に自動投影し、トータルステーションの中心点B’からθ_(z)’傾斜した位置にある、トータルステーション50でみたD点と、マーカーから出したD点が合致しない場合、レーザー点をマーカーの中心点Bを中心にxy平面上にΔθ_(xy)、z軸方向にΔθ_(z)移動させることにより、レーザー点を手動で平行移動させ、両者が合致するようにし、
レーザーマーキングに当たり、投影距離l_(BD)をもとにして、投影パターン・発破パターンを選出し、反射ミラー15A,15Bの振り角を制御して掘削切羽面上に所定の投影像を描くトンネル切羽面へのレーザー光照射方法。」

3 甲第3号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特許第2590014号公報、発行日:平成9年3月12日)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「〈ハ〉初期設定
レーザー自動発射装置1を現場に搬入し、測定点Aに設置する。
測定点Aに於けるXYZの三次元座標、方向角をコンピュータに入力して初期設定を行う。
レーザー自動発射装置1の設定は、光波測距計2、および電子セオドライト3を使用し、既知の点BおよびCを視準して測距を行う。
そして既知点BおよびCの三次元座標を求め、既知の三次元座標と照合してその位置を確定する。
〈ニ〉装置の補正
既知点BおよびCの三次元座標XYZの基準点にレーザーを照射し、レーザー自動発射装置1のビーム方向のデータを解析して、装置の傾きをコンピュータで自動補正する。
〈ホ〉測量断面の決定(第3図)
以上の準備が完了したら切羽での測量に移るが、実際の切羽の形状は垂直の平面とはほど遠い不規則で複雑な形状を呈している。
したがってそのままでは測量の対象とする面が確定しない。
そこで仮想切羽面Fを設定し、この面における断面を切羽にプロットすることにする。
仮想切羽面Fの面数は、第3図で示すように1面である必要はなく、切羽の形状が複雑であればその形状に応じて複数の面F1、F2、F3、を設定すればよい。
仮想切羽面Fを設定する方法としては次のような手段を採用できる。
○1(当審注:原文では丸付き数字で記載されている。)基線スケールを切羽に設定する方法。
この方法は、レーザー自動発射装置1からのレーザービームを制御して、実際の切羽に置いたスケールの面上の一定距離をスキャニングする。
そしてスキャニング幅とミラー角度から三角法によってレーザー自動発射装置1から基線スケールまでの距離と方向を算出するものである。
○2(当審注:原文では丸付き数字で記載されている。)電子セオドライトと光波測距計とを併用する方法。
この方法では、まず実際の切羽面に反射鏡を2カ所以上仮置きする。
そして電子セオドライト3と、光波測距計2によって反射鏡を視準し、測距してレーザー自動発射装置1から切羽までの距離と方向を算出するものである。
〈ヘ〉測定点の計算
求めるべき仮想切羽面Fの位置が決定すれば、設計上での平面、縦断、横断線形、およびレーザー自動発射装置1の位置の条件が入力してあるから、仮想切羽面Fでの各点の計算を行うことができる
〈ト〉レーザー自動発射装置1への司令
この計算の結果をレーザー自動発射装置1への司令数値として出力する。
レーザー自動発射装置1は複数のスキャンナXS、YSを備えており、司令数値にしたがって、各スキャンナの反射鏡の角度が変化する。
そのためにレーザービームはX、Y方向に放射方向を変え、所定の焦点Mに照射される。
〈チ〉レーザービームの移動
レーザー自動発射装置1のスキャンナは与えた条件に応じて、時間ごとに反射鏡を回転する。
そのために、レーザービームの焦点Mは順次移動してゆくから、切羽に接近した作業員がその点を追いかけてペンキでマーキングをしてゆけばよい。」

4 甲第4号証
甲第4号証(「TPS1100 Professional Series,ユーザーマニュアル,バージョン2.1,日本語版、ライカジオシステムズ株式会社」)には、図面とともに次の事項が記載されており、甲第4号証の末尾に添付された証明書によれば、当該ユーザーマニュアルが本件出願前に頒布されたものであることが認められる。

ア 「どのバージョンにおいても、測距は、望遠鏡の接眼レンズから同軸で放射される不可視の赤外線ビームを用いて行います。・・・
ノンプリズムモードで使用する場合、TCR、及びTCRAバージョンも同様に可視のレーザービームを用います。」(11ページ左欄4行?18行)

イ 「(TCR及びTCRAモデルのみ可)
ATRのコリメーション誤差とは、CCDカメラの中心と視準軸の(水平方向と鉛直方向の)差をいいます。
この誤差を決定するとき、視準軸のコリメーション誤差と鉛直の自動補正装置の誤差を一緒に決めるかどうかを選択できます。
「Hzホセイ(水平分度のホセイ)」の「オン/オフ」の設定に関係なく、このATRのコリメーション誤差で、すべての角度の測定値を補正します。(「器械誤差補正を無効にする」のセクションを参照)。
ATRのコリメーション誤差の決定では、約100m離れたプリズムを望遠鏡で視準します。プリズムは、水平面の±9°の範囲内でなければなりません。その手順は、鉛直の自動補正装置の誤差を決定するのと同じです。
F5 キャリブレーション処理を起動します(28ページの「表示画面」参照)。
ATRの自動視準機能が、自動的にオンになります。このことは、アイコン□(当審注:原文の□内には、アイコン図形が描かれている。)で確認できます。ディスプレイには、記憶している水平方向と鉛直方向のATRのコリメーション誤差を表示します。

F1 誤差の決定作業を始めます。
ATRのコリメーション誤差を決めるとき、2軸の自動補正装置は自動的に「オフ」になります。
そのことは、アイコン□(当審注:原文の□内には、アイコン図形が描かれている。)で判断できます。

十字線でプリズムを正確に視準します。
F1 測定作業を始めます。
←/→_(ON) 単独の誤差測定と組み合わせの誤差測定を切り替えます。
「ハイ」=ATRのコリメーション誤差、視準軸のコリメイション誤差、および鉛直の自動補正装置の誤差を同時決定。
「イイエ」=ATRのコリメーション誤差のみを決定。
ATRのコリメーション誤差だけを決めるとき、視準軸のコリメーション誤差と鉛直の自動補正装置の誤差も一緒に決めることをお勧めします。
最初の測定を終了すると、自動的に反転します。

十字線で正確にプリズムを視準します。
F1 2回目測定を行います。
水平と鉛直の差が、±27'を越えると、ディスプレイに、エラーメッセージを表示し、ブザーを鳴らします。オペレーターは、F4キーに「OK」が表示されるまで、器械を少し回します。測定作業を繰り替えることができます。
2回目の測定を行うとき、誤差を決める測定でのATRの精度を表示します。もし、鉛直の自動補正装置の誤差と視準軸のコリメーション誤差を一緒に決めるような選択をしていれば、誤差を決める測定での、鉛直の自動補正装置と視準軸のコリメーションの精度も表示します。

F1 繰り返し測定を行う必要はありません。以前にまた新たに測定されたATRコリメーション誤差はオプションとなり、視準線誤差(c)と鉛直の指標誤差(i)がいっしょに表示されます。
F4 測定精度が希望するレベルに達するまで、キャリブレーション作業を繰り返します。得られる結果は、全測定の平均値です。少なくとも2回は、キャリブレーション作業を行うことをお勧めします。
F6 キャリブレーション処理を中断します。古いデータがそのまま残ります。

F4 新しい値を記憶します。
F5 ATRのコリメーション誤差の決定作業を、繰り返し行います。
F6 古い値を変更しないで記憶します。
ATRの水平方向と鉛直方向のコリメーション誤差が、2'42"を越える場合、キャリブレーションを繰り返す必要があります。同様に、鉛直の自動補正装置の誤差(i)が、54'を、または視準軸のコリメーション誤差(c)が、5'24"を越える場合は、キャリブレーションを繰り返す必要があります。
決め直しても、誤差が特定の値を越える場合は、サービスセンターへ連絡してください。」(38ページ左欄1行?40ページ右欄末行)

ウ 「プリズムを使用しない測定に使われる赤色レーザービームは、望遠鏡の視準軸と同軸になるように調整されており、対物レンズの放射口から照射します。器械の調整が正しく行われていれば、視準線と赤色ビームは一致します。・・・
一般的には、レーザースポットは望遠鏡を通して見ることはできませんので、肉眼で望遠鏡のすぐ上、またはすぐ横からターゲットプレートを見てください。レーザースポットが十字線を照射している場合には、必要な調整が行われていることになります。十字線の制限外にある場合には、レーザービームの方向を調整する必要があります。」(44ページ左欄1行?中欄末行)

エ 10ページの図面と70ページ右上の図面とを対比させつつ見ると、70ページ右上の図面には、10ページの図面における「即距及び測角用の同軸光学系;可視のレーザービームの放射口6」からレーザービーム(可視)を放射した状態が描かれている。

5 甲第5号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平9-304055号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0006】しかしながら、テレビカメラ84の中心軸とレーザ光発振装置85のレーザ光とは離間しているため或る距離点でレーザ光を測定対象99の照準点に正確に照射されるように位置合わせを行うと、他のある距離点ではテレビモニタ56の中心からずれてしまい、その結果、高精度の距離計測ができないという難点があるばかりでなく、特に測定対象99までの距離が大幅に変動する場合には、本質的に測定誤差が大きなものとなり、またレーザ光を絞り高精度に測定しようとすれば、上述した離間の関係で、姿勢制御装置83がレーザ光を永久に追尾することになる恐れがある。」

(2)「【0018】ここで、テレビカメラ1の視野中心軸とレーザ距離計2のレーザ光軸とは平行ではなく、所定の角度に予め調整される。即ち、予め設定された距離の対象物に対してレーザ光がカメラ1の視野中心に位置するように、モニタ6で視認しながらレーザ光軸を調整する。この時の初期調整に使用された、予め設定された距離の値は、基準距離メモリ回路13に記憶され、またテレビカメラ1とレーザ距離計2との離隔距離は離隔距離メモリ回路16に記憶される。」

(3)図面の図5の左側の〔初期設定〕の図には、基準目標25の照射点30で視野中心線29とレーザー光軸28とが一致する状態が描かれている。

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明を主引用発明とする無効理由1について

(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「測角測距を行う光波測角測距儀6」は、本件発明1の「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部」に相当し、測距、測角のための構成要素を駆動する駆動装置について、当該構成要素を支持する装置部分を水平方向に回転駆動するとともに、当該構成要素を伏仰方向に揺動駆動させるように構成することは、測量機器の技術分野における、ごく一般的な駆動装置の構造であるから、甲1発明の「前記光波測角測距儀6を鉛直方向及び水平方向に駆動する高度微動駆動装置7」は、本件発明の「前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部」に相当し、甲1発明の「光波測角測距儀6」と「高度微動駆動装置7」とが、本件発明1の「測量機」に相当する。
b 甲1発明の「レーザ発振器5」が、本件発明1の「レーザー光投射装置」に相当し、甲1発明も、測角測距データを用いて適宜演算を行い、演算されたレーザーマーキングの位置に向けて高度微動駆動装置7を作動させるのであるから、甲1発明の「前記光波測角測距儀6からの測角測距データとトンネル形状情報に基づいて前記高度微動駆動装置7を作動させる演算制御装置」が、本件発明1の「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」に相当し、甲1発明の「光波測角測距儀6」,「高度微動駆動装置7」及び「演算制御装置」が、本件発明1の「レーザーマーキング装置」に相当する。
c 甲1発明の「ダボステーション」と「光波プリズム8」が、本件発明1の「所定位置に設けられた視準ターゲット」に相当し、甲1発明において、これらを視準する「光波測角測距儀6の視準手順」が、本件発明1の「望遠鏡部の視準手順」に相当する。
d 一方、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」する点について、本件明細書の段落【0054】には、「該マーキング位置修正は、マーキング位置(i=1)を望遠鏡部2で視準した際にマーキング位置(i=1)までの距離Lを測量機3の測距機能により計測しておく。前記望遠鏡部2の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データ(鉛直角α、水平角β)は既知であるから、前記マーキング位置(i=1)までの測距データLから、レーザー投射面での水平方向修正量Δx、鉛直方向修正量Δyが求まり、かつこれからレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量Δθ1、伏仰方向回転量Δγ1が演算される。図4に前記伏仰方向回転量Δγ1の算出要領を示す。測量機3から切羽Sまでの距離がHであるとすると、鉛直方向修正量Δy=Ltanα+h(hは望遠鏡部2とレーザー光投射装置4とのオフセット量)となる。従って、前記鉛直方向修正量Δyから望遠鏡部2における伏仰方向回転量Δγ1が求まる。」との記載がある。
本件明細書の上記記載及び図面の図4によると、「伏仰方向回転量Δγ1」の演算に用いられる「鉛直方向修正量Δy」が、距離Lに応じて変化するLtanαの成分と距離によらない一定のオフセット量hの成分を有しているのであるから、「伏仰方向回転量Δγ1」の演算するときには、相対角度データαの成分と、距離に応じて変化する成分を考慮する必要がある、すなわち、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」は距離に応じて変化するものであり、その演算にあたっては相対角度データと距離を用いる必要があることが本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていることが明らかである。
そうすると、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算」することは、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」の演算にあたり、「マーキング位置までの距離データ」と「前記相対角度データ」が必要となることを発明特定事項として記載したものであって、本件発明1の「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」は、「マーキング位置までの距離データ」と「相対角度データ」に応じて変化するものであることが明らかである。
これに対し、甲第1号証には、「切羽断面に向かってレーザー光と光波の各光軸とが平行でなく両者の間に角度が与えられると、レーザー光投射装置と切羽断面間の距離に応じて視準点とレーザ照射されるポイントとの距離間が拡大あるいは縮小する。これはコンピューター上での演算を複雑化するだけでなく、演算精度、したがってマーキング精度を低下させる。特に、トンネルの曲線部にてマーキングを行う場合には、切羽断面に対して斜めからのマーキングが行われることになるので、視準方向とレーザー光との間で例えば水平方向の角度にわずかなずれでもあると、視準点とレーザー照射されるポイントとの拡き(離間する距離)が顕著に現れる。さらに、切羽断面上の凹凸が加味すると、視準点と照射のポイントとを合致させるために、コンピューターでの演算はより複雑化して、精度面での低下を招くことになる。」(上記「第5 1」の摘記事項ウ参照。)という技術課題の記載があるが、その課題解決手段としては、「レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたものである」と記載され、「レーザー光の光軸と測距時の光軸との間に角度を与えずに平行することは、視準点とレーザー照射されるポイントとの距離を、レーザー光投射装置と切羽断面との距離に関係なく、ほぼ一定にさせることが可能である。」(ともに、上記「第5 1」の摘記事項ウ参照。)と記載されるように、視準方向とレーザー光の光軸とを平行にすることが記載されているのみである。そして、甲1発明の「鉛直角度βおよび水平角度α」は、「作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)」に基づいて演算されるものであり、「マーキング位置までの距離データ」と「相対角度データ」により演算するものとしては記載されていない。
そうすると、甲1発明の「光波プリズム8を設置した断面内にある切羽断面18上に作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定し、第1作業点aに向けての鉛直角度βおよび水平角度αを演算し、どの鉛直角度βおよび水平角度αで、前記高度微動駆動装置7を作動させて、第1作業点aにレーザー光を投射させる」と、本件発明1の「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」とは、ともに、「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」点で共通しているが、「水平方向回転量及び伏仰方向回転量」の演算手法が異なるものである。

上記aないしdの対比関係から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点1で一致し、以下の相違点1で相違する。

(一致点1)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させるレーザーマーキング方法。」

(相違点1)
本件発明1が、望遠鏡部の視準手順における視準ターゲットと同じ視準ターゲットを用いることにより「前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順を行い」という構成、及び、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えており、レーザーマーキングに当たり、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を、「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから」演算するのに対し、甲1発明は、上記した2つの構成を備えておらず、レーザーマーキングに当たり、第1作業点aの鉛直角度βおよび水平角度αは、作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定することにより演算されるものである点。

(イ)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。
a 甲第1号証
上記「第6 1(1)ア(ア)本件発明1と甲1発明との対比」の欄で検討したとおり、甲第1号証には、レーザー光の光軸と望遠鏡部の光軸とを平行とすることが記載されているのみであって、望遠鏡部の視準手順とレーザー光の視準手順を行うことにより相対角度データを求めることも、マーキング位置までの距離データと前記相対角度データを用いて水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することも記載されていない。したがって、甲第1号証には、上記相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

b 甲第2号証
先ず、甲第2号証に記載の「手動で平行移動させ」(4ページ右下欄9行)及び「手動の平行移動」(5ページ左上欄9行)について、「平行移動」とは、甲第2号証の「平行移動範囲は、・・・とし、平行移動を可能とする投映像としては、点,半径,直径,半円,半楕円である。なお、第19図の平行移動パターンにおける平行移動範囲は・・・であり平行移動レンジ・・・を作動さす毎に平行移動距離がデジタル表示される。」(上記「第5 2」の摘記事項カ参照。)との記載及び第19図を参酌すると、平行移動パターンの全体を平行移動させるという意味であると解せられる。
そして、甲第2号証には、トータルステーションでみたD点とマーカーから出したD点(第16図のD’点)が合致しない場合、レーザー点を手動で平行移動させて合致させる技術、及び、平行移動距離であるΔl_(xy)とΔl_(z)とを表示する技術が記載されている(上記「第5 2」の摘記事項カ参照。)。
しかしながら、甲第2号証の第16図に描かれたxy平面上の移動角「Δθ_(xy)」及びz軸方向の移動角「Δθ_(z)」は、何れも、点Bを中心として描かれていることから、マーカーの中心点Bを中心としたマーカーのD点の移動角であり、甲第2号証の「D点投映の時に、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点(図中、D’で示す)が合致しない場合、レーザー点を手動で平行移動させ合致するようにしなければならない。」との記載、及び、「双方のD点は理論的には一致しなければならないが、マーカーとトータルステーション50のセット時のわずかな誤差より相違することが考えられるため、手動の平行移動で合致させる必要がある。」との記載(ともに、上記「第5 2」の摘記事項カ参照。)を参酌すると、甲第2号証の記載からは、マーカーから出したD点のみを独立して手動で平行移動させることにより、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点とを合致させる技術を読み取ることができるのみである。また、甲第2号証の(数4)及び(数5)についても、マーカーを手動で平行移動させた角度「Δθ_(xy)」及び「Δθ_(z)」と投影距離「l_(BD)」から、マーカーから出したD点を平行移動させる距離「Δl_(xy)」及び「Δl_(z)」を演算する式が記載されているのみである(上記「第5 2」の摘記事項カ参照。)。以上のことから、「Δθ_(xy)」及び「Δθ_(z)」は、マーカーから出したD点のみを独立して移動させる角度であって、本件発明1における「相対角度データ」とは異なるものである。このことは、甲第1号証の図面の第16図と第18図とを対応させて見ることによっても明らかである。
一方、本件発明1の「相対角度データ」は、「望遠鏡部の視準手順」と「レーザー光の視準手順」の2つの視準手順から求めるものであるから、2つの視準手順を行うときには、望遠鏡部の視準方向とレーザー光投射方向との間に一定の相対角度が維持された状態で、即ち、両者を一体として移動させることにより2つの視準手順を行うという前提があることが明らかである。
そうすると、甲第2号証には、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点とを、それぞれ、同一の視準ターゲットを用いて視準を行うことにより、両者の「相対角度データ」を求めることが記載されているとはいえず、また、「相対角度データ」を求めることが記載されているとはいえないから、投影距離l_(BD)と相対角度データとからマーカーの水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算する点も、記載されているとはいえない。さらに、本件発明1における「相対角度データ」を求めることが、甲第2号証に示唆されているともいえない。
したがって、甲第2号証には、上記相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

c 甲第3号証
甲第3号証には、〈ハ〉初期設定において、電子セオドライトを使用し、既知の点B及びCを視準して測距を行い、既知点BおよびCの三次元座標を求め、既知の三次元座標と照合して、その位置を確定し、〈ニ〉装置の補正において、既知点B及びCの三次元座標XYZの基準点にレーザーを照射し、レーザー自動発射装置のビーム方向のデータを解析して、装置の傾きをコンピュータで自動補正し、〈ホ〉測量断面の決定において、仮想切羽面Fを設定し、〈ヘ〉測定点の計算において、仮想切羽面Fでの各点の計算を行い、〈ト〉レーザー自動発射装置1への指令において、複数のスキャンナXS,YSの反射鏡の角度を変化させて、レーザービームを所定の焦点Mに照射して、〈チ〉レーザービームの移動において、反射鏡を回転することにより、レーザービームの焦点Mを順次移動させてマーキングを行う方法が記載されている。
甲第3号証に記載された「〈ニ〉装置の補正」の手順(以下、手順の符号に応じて「手順〈ニ〉」などという。)について、以下検討する。手順〈ニ〉は、ビーム方向のデータを解析して補正を行うことから、ビーム方向の補正を行う手順であると理解されるものである。そして、手順〈ニ〉からは、レーザー自動発射装置1がレーザービームの放射方向を移動して、既知点B及びCにレーザーを照射し、既知点B及びCのそれぞれをレーザーで照射したときの、レーザー自動発射装置1のビーム方向のデータを解析して、レーザー自動発射装置1の装置の傾きを自動補正するものを読み取ることができる。また、手順〈ト〉及び手順〈チ〉に記載されるように、レーザー自動発射装置1はスキャンナXS,YSによりレーザービームを移動させるものであるから、レーザービームの放射方向はスキャンナXS,YSを用いて移動させるものであることを読み取ることができる。
甲第3号証に記載の発明の手順〈ニ〉が、本件発明1のように「相対角度データを求めて」おくものであるとすると、上記「第6 1 ア(イ)b 甲第2号証」の項で検討したのと同様にして、電子セオドライト3とレーザー自動発射装置1とを一体的に移動させることにより、手順〈ハ〉のセオドライトの視準手順と手順〈ニ〉のレーザービームの視準手順とを行うこととなるが、手順〈ハ〉と手順〈ニ〉を相互に関連付ける記載はなく、電子セオドライト3の視準軸に対して、装置の傾きを補正することは、記載も示唆もされておらず、電子セオドライト3とレーザー自動発射装置1とを一体的に移動させることにより、手順〈ハ〉と手順〈ニ〉を行うことについても、記載も示唆もされていない。
仮に、甲第2号証の第2図では、レーザー自動発射装置1と電子セオドライト3が共通の台上に配置されていることから、両者を共通の台の共通の駆動部で駆動することにより、手順〈ハ〉と手順〈ニ〉を行うものであるとした場合について検討すると、手順〈ニ〉が共通の駆動部によりレーザービームを移動させるのであれば、手順〈ニ〉では、スキャンナXS,YSは駆動させないから、レーザー自動発射装置1のレーザービームの照射方向を、ある特定の方向に固定した状態でのレーザー自動発射装置1の装置の傾きを補正することとなる。しかし、このように特定の方向にレーザービームのビーム軸が固定した状態で装置の傾きを補正したとしても、手順〈ト〉及び手順〈チ〉でレーザーを照射するときには、スキャンナXS,YSがレーザービームの放射方向を変更するのであるから、スキャンナXS,YSを用いてレーザービームを移動したときのレーザービームの放射方向の傾きは補正されていないこととなり、最終的にレーザー自動発射装置1の装置の傾きが補正されているともいえないこととなる。そして、レーザー自動放射装置1が、スキャンナXS,YSを用いてレーザービームを移動したときのレーザービームの放射方向の傾きは補正することなく、レーザービームをある特定の方向に固定した状態でのレーザー自動発射装置1の装置の傾き及びレーザービーム放射方向の傾きのみを補正することに技術的意味を見出すこともできない。そのような観点からも、手順〈ニ〉は、スキャンナXS、YSを用いてレーザービームを2つの既知点に照射することにより、レーザー自動発射装置1の傾きを補正していると考えるのが妥当である。
以上のように、レーザー自動発射装置1は、レーザービームの放射方向を変更するための独自の駆動部を有しているのであるから、手順〈ハ〉において、電子セオドライト3で視準した既知点B及びCと同じ点を用いて、手順〈ニ〉において、レーザーを照射して装置の傾きを調整しているからといって、手順〈ニ〉が、電子セオドライト3とレーザー自動発射装置1を一体的に同じ駆動部で移動させることを前提としていることが自明であるとはいえず、電子セオドライト3の視準方向に対するレーザー自動発射装置1のレーザー光投射方向の相対角度データを求めることが自明であるともいえず、さらには、手順〈ニ〉において、相対角度データから水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき駆動部を駆動させて装置の傾きを自動補正していることが自明であるともいえない。
したがって、甲第3号証には、上記相違点1に係る本件発明1の構成が記載されているとも示唆されているともいえない。

なお、請求人は、審判請求書において、「したがって、甲3発明においても、補正に際し、実質的には、・・・○これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておく(これらを求めない限り補正はできない。)○前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき(コンピュータでの自動補正の際に、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果を反映させることが明らか)、マーキング位置にレーザー光を投射させるように装置の傾きを自動補正するものであることは明らかである。」(審判請求書30ページ18行-31ページ5行)と主張するが、甲第3号証には、2つの視準手順を行うにあたり、相対角度を保持した状態で、望遠鏡部とレーザー光投射手段とを一体的に駆動して2つの視準手順のそれぞれを行うという前提は記載されておらず、相対角度データを求めることは記載されておらず、相対角度データから、レーザー光投射装置からのレーザー光をマーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算することも記載されておらず、これらの事項が甲第2号証の記載から自明であるともいえないから、請求人の審判請求書による上記主張は採用できない。
請求人は、また、上申書において、「そして、甲第3号証のものは、「レーザー自動発射装置1」は、「電子セオドライト」と共通の台上に設置されているものであり(第2図参照)、この状態で、「電子セオドライト」による望遠鏡部及び光波測距儀の既知点の視準結果によって、「レーザー自動発射装置1」の傾きを自動補正するものであるから、「電子ゼオドライト」による望遠鏡部の視準方向に対して「レーザー自動発射装置1」のレーザー光投射方向の修正を行っていることは明らかである。・・・そして、甲第3号証には、本件発明でいう「望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データ」角度補正を行っているのであるから、「レーザー自動発射装置1」の傾きを自動補正する際の角度が、本件発明にいう「相対角度」に相当するのである。」(上申書6ページ12-25行)と主張するが、「レーザー自動発射装置1」は、「電子セオドライト」とが共通の台上に設置されているとしても、「レーザー自動発射装置1」は独自の駆動部であるスキャンナXS、YSを有しているのであるから、手順〈ハ〉と手順〈ニ〉のそれぞれが、「レーザー自動発射装置1」と「電子セオドライト」との相対角度を維持した状態で、同じ駆動部により両者を一体的に駆動させることにより行われるものであることが自明であるとまではいえず、手順〈ニ〉の装置の傾きの自動補正が、「電子ゼオドライト」による望遠鏡部の視準方向に対して「レーザー自動発射装置1」のレーザー光投射方向の修正であることが明らかであるともいえず、「レーザー自動発射装置1」の傾きを自動補正する際の角度が、本件発明の「相対角度」に相当するともいえないから、請求人の上申書による上記主張も採用できない。
請求人は、さらに、上申書において、「してみると、甲第3号証の自動補正手法の教示に従って、本件発明のように「所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行い、これら2つの視準手順から得られた測量結果から」、甲第1号証の「レーザー光投射装置」の投射方向を補正する手法を採ることは、当業者がごく自然に思いつくものであることは明らかである。さらに、甲第3号証と同様に甲第1号証のものにおいても、誤差(ずれ)量は、「(相対)角度」として把握できるから、マーキングに際しては、その誤差(ずれ)量とマーキング位置までの距離データとに基づき修正した上でマーキングすれば適切な位置にマーキングすることができることは容易に想到できるものである。」(上申書8ページ6-18行)と主張するが、上記相違点1に係る本件発明1の構成が、甲第3号証には記載されていないとともに、甲1発明と甲第3号証に記載された発明とは、甲1発明が、レーザー発振器と光波測角測距儀とをレーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるようにして一体として駆動させているのに対し、甲第3号証に記載の発明のレーザー自動発射装置1は独自の駆動部であるスキャンナXS、YSを有していて、レーザービームの放射方向を独立して移動させるものである点で、前提となる装置構造が異なり、装置の使用形態も異なるのであるから、甲第3号証の教示に従い甲第1号証から本件発明1を想到することは容易であるとする請求人の当該主張も採用できない。

(d)甲第4号証
甲第4号証には、トータルステーションにおいて、CCDカメラの中心と視準軸の差であるATRのコリメーション誤差を補正する技術、及び、測距及び測角用の同軸光学系から、可視のレーザービームを放射する技術が記載されている。
しかしながら、可視のレーザービームは、測距のためのレーザービームであるとともに、甲第4号証の記載全体をみても、上記相違点1に係る本件発明1の構成は甲第4号証には記載も示唆もされていない。

(e)甲第5号証
甲第5号証には、レーザー光発射装置から発射され、測定対象で反射されたレーザー光を受けるテレビカメラと、モニタを備える測距計測装置において、テレビカメラ84の中心軸とレーザー光発振装置85のレーザー光とが離間していることにより、ある距離点で正確に位置合わせを行ったとしても、他のある距離点では位置がずれてしまうことが記載されている。
しかしながら、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲第5号証には記載も示唆もされていない。

(f)以上検討したように、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にも記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明を組み合わせたとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとすることができないことは明らかである。

イ 甲2発明を主引用発明とする無効理由1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「トータルステーション50」は、本願発明1の「測量機」に相当し、甲2発明の「トータルステーション50」には、本件発明1の「望遠鏡部」に相当するものが存在し、また、甲2発明の「トータルステーション50」においても、実際には、「望遠鏡部」を支持する装置部分が回転軸を中心に水平方向に回転可能であり、「望遠鏡部」が中心点B’を中心としてz軸方向に傾斜可能となっていることが明らかであるから、甲2発明の「望遠鏡部」と本件発明1の「望遠鏡部」とは、ともに、「望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動させる機構を備えた」点で共通する。
b 甲2発明の「レーザー光照射器14」が本件発明1の「レーザー光投射装置」に相当し、甲2発明の「レーザー光照射器14」と本件発明1の「レーザー光投射装置」とは、ともに、「測量機に取り付けられた」ものである点で共通する。
c 甲2発明の「トンネル切羽面へのレーザー光照射方法」は、本件発明1の「レーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法」に相当する。
d 甲2発明において「トータルステーション50を用いてA_(2)からθ_(2)だけ振り、トンネルマーカーをD点の水平方向に向け、z軸スキャナーでθ_(z)を出し、レーザー点をD点に自動投影し、トータルステーションの中心点B’からθ_(z)’傾斜した位置にある、トータルステーション50でみたD点と、マーカーから出したD点が合致しない場合、レーザー点をマーカーの中心点Bを中心にxy平面上にΔθ_(xy)、z軸方向にΔθ_(z)移動させることにより、レーザー点を手動で平行移動させ、両者が合致するように」することと、本件発明1において「所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する望遠鏡部の視準手順と、前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順とを行」うこととは、ともに、「所定位置を望遠鏡部で視準する望遠鏡部の視準手順と、前記所定位置にレーザー光を投射してレーザー光の視準手順とを行」うものである点で共通する。
e 甲2発明において「レーザーマーキングに当たり、投影距離l_(BD)をもとにして、投影パターン・発破パターンを選出し、反射ミラー15A,15Bの振り角を制御して掘削切羽面上に所定の投影像を描く」ことと、本件発明1において、「レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させる」ことは、ともに、「レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるようにレーザー光を駆動させる」点で共通する。

上記aないしeの対比関係から、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点2で一致し、以下の相違点2ないし6で相違する。

(一致点2)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動させる機構を備えた測量機と、該測量機に取り付けられたレーザー光投射装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置を前記望遠鏡部で視準する望遠鏡部の視準手順と、前記所定位置にレーザー光を投射するレーザー光の視準手順とを行い、
レーザーマーキングに当たり、取得したマーキング位置までの距離データから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるようにレーザー光を駆動させるレーザーマーキング方法。」

(相違点2)
本件発明1が「駆動部」を備え、「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」を備えているのに対し、甲2発明は「駆動部」を具備しておらず、各種演算を行うことの記載があるものの、「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」を備えていない点。

(相違点3)
本件発明1の「レーザー光投射装置」は、「測量機の望遠鏡部」に取り付けられたものであるのに対し、甲2発明の「レーザー光照射器14」は、「トータルステーション50」に取り付けられていて、望遠鏡部に取り付けられたものではない点。

(相違点4)
本件発明1が、所定位置に「視準ターゲット」を設けているのに対し、甲2発明は「D点」に視準ターゲットを設けていない点。

(相違点5)
本件発明1が、望遠鏡部の視準手順において、「その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する」ものであり、レーザー光の視準手順において、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」ものであり、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えており、レーザーマーキングに当たり、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を、「距離データと相対角度データとから」演算するのに対し、甲2発明の望遠鏡部の視準手順とレーザー光の視準手順は、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点とを合致させるために行うものであって、望遠鏡部の視準手順において、「その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する」こと、及び、レーザー光の視準手順において、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」ことについての記載はなく、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えておらず、レーザーマーキングに当たり、水平方向回転量及び伏仰方向回転量は、投影距離l_(BD)をもとにして演算され、「相対角度データ」を用いて演算するものではない点。

(相違点6)
本件発明1が、レーザーマーキングにあたり、「前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部」として記載された「前記駆動部」を駆動させるのに対し、甲2発明では、レーザーマーキングにあたり、レーザー光照射器の反射ミラー15A,15Bを駆動する点。

(イ)相違点2ないし6についての判断
上記相違点2ないし6について検討する。
a 相違点2について
「駆動部」及び「駆動部を制御する演算制御装置」を備えることは、装置の単なる自動化というべきものであり、この点に格別の困難性はない。

b 相違点3について
甲第1号証には、「レーザー光を投射するレーザ発振器5と光波によって距離を測定する光波測角測距儀6とを、レーザー光の光軸と光波の光軸とが平行になるように一体としたものである。」(上記「第5 1」の摘記事項ウ参照。)と記載されており、甲第1号証の第1図には、光波測角測距儀6の上にレーザー発振器5が取り付けられた様子が描かれている(上記「第5 1」の摘記事項オ参照)。甲第1号証に記載された光波測角測距儀6は、本件発明1の望遠鏡部に相当するものであり、甲2発明に甲第1号証に記載された発明を適用し、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

c 相違点4について
望遠鏡の視準手順を行うときに、視準する位置に視準ターゲットを配置することは、当業者が適宜なしえることであり、格別の困難性はない。

d 相違点5について
望遠鏡部の視準手順を単独で行うときに、「その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する」ことは、甲2発明においても、「2個の反射ミラー15A_(1),15A_(2)が設置されている2点A_(1),A_(2)をトータルステーション50で視準して、各距離l_(0),l_(1),角度θ_(1)を測量し」とされているように、当業者であれば必要に応じて適宜行いえることである。
しかしながら、レーザー光の視準手順においても、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」という構成、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成、及び、レーザーマーキングに当たり、水平方向回転量及び伏仰方向回転量を、「相対角度データ」を用いて演算するという構成については、上記「第6 1(1)ア(イ)」で相違点1について検討したのと同様にして、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にもに記載されておらず、示唆もされていない。

e 相違点6について
甲第1号証に「駆動装置7をコントローラ12により作動させてレーザー光投射装置1を振って、作業基準点aにレーザー光を投射させ」(上記摘記事項ウ参照)と記載されてるように、望遠鏡部とレーザー光投射装置とを一体としたときに、望遠鏡部を駆動する駆動部を用いてレーザー光投射装置を駆動することに格別の困難性はない。

f 以上検討したように、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にも記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明を組み合わせたとしても、上記相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとすることができないことは明らかである。

ウ 本件発明1の無効理由1についてのむすび
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証の何れを主引用発明としたとしても、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項をすべて有するとともに、さらに、限定事項を付加したものである。
したがって、本件発明1が甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、本件発明2ないし7も同様の理由により、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
なお、請求人の審判請求書における本件発明2ないし7についての主張も、本件発明1が甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという前提においてなされたものであるから、採用することができない。

(3)本件発明8について
ア 甲1発明を主引用発明とする無効理由1について
(ア)本件発明8と甲1発明との対比
本件発明8は、本件発明1の「レーザーマーキング装置」との発明特定事項に対し、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」との限定を付加するとともに、「望遠鏡部の視準手順」から、「距離を計測する」という条件を省き、「取得したマーキング位置までの距離データと、前記相対角度データとから、前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果に基づき」との発明特定事項から、「取得したマーキング位置までの距離データと」及び「前記レーザー光投射装置からのレーザー光を前記マーキング位置に投射させるための水平方向回転量及び伏仰方向回転量を演算した結果」との条件を省いたものである。
本件発明8と甲1発明とを対比すると、上記「第6 1(1)ア(ア)」において本件発明1と対比したのと同様の対比関係から、以下の一致点3で一致し、以下の相違点7及び8で相違する。

(一致点3)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部を備えた測量機と、該測量機の望遠鏡部に取り付けられたレーザー光投射装置と、各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置に設けた視準ターゲットを前記望遠鏡部で視準し、その際に水平角度、鉛直角度を計測する望遠鏡部の視準手順を行い、
レーザーマーキングに当たり、前記相対角度データに基づき、マーキング位置にレーザー光を投射させるように前記駆動部を駆動させるレーザーマーキング方法。」

(相違点7)
本件発明8の「レーザーマーキング装置」が、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」のに対し、甲1発明の「レーザーマーキング装置」は、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いとはしていない点。

(相違点8)
本件発明8が、望遠鏡部の視準手順における視準ターゲットと同じ視準ターゲットを用いることにより「前記視準ターゲットにレーザー光を投射しその際の水平角度、鉛直角度を計測するレーザー光の視準手順を行い」という構成、及び、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えており、レーザーマーキングに当たり、「前記相対角度データに基づき」駆動部を駆動するのに対し、甲1発明は、上記した2つの構成を備えておらず、レーザーマーキングに当たり、作業基準点a?b?c?…の座標(X,Y,Z)を設定することにより第1作業点aの鉛直角度βおよび水平角度αを演算して駆動装置7を作動させるものである点。

(イ)相違点7及び8についての判断
上記相違点7及び8について検討する。
a 相違点7について
「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」レーザーマーキング装置は、例えば、被請求人の提出した乙第2号証(トンネル工法ハンドブック編集委員会編集、「トンネル工法ハンドブック」、株式会社 建設産業調査会、昭和48年、1-11ページ及び1-19ページ)及び特許第2955784号公報(発行日:平成11年10月4日)に記載されるごとく従来周知である。
甲1発明のレーザーマーキング装置についても、従来周知の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」レーザーマーキング装置の構成を採用し、相違点7に係る本件発明8のごとく構成することに格別の困難性はない。

b 相違点8について
レーザー光の視準手順についても、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」という構成、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成、及び、レーザーマーキングに当たり、「相対角度データに基づき」駆動部を駆動するという構成は、上記「第6 1 ア(イ)」で相違点1について検討したのと同様にして、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にも記載されておらず、示唆もされていない。

f 以上検討したように、上記相違点8に係る本件発明8の構成は、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にも記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明を組み合わせたとしても、上記相違点8に係る本件発明8の構成を容易に想到することができたものとすることができないことは明らかである。

イ 甲2発明を主引用発明とする無効理由1について
(ア)本件発明8と甲2発明との対比
本件発明8と甲2発明とを対比すると、上記「第6 1(1)イ(ア)」において本件発明1と対比したのと同様の対比関係から、以下の一致点4で一致し、以下の相違点9ないし14で相違する。

(一致点4)
「測距、測角のための視準を行う望遠鏡部を備え、かつ前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動させる機構を備えた測量機と、該測量機に取り付けられたレーザー光投射装置とからなるレーザーマーキング装置を用いたレーザーマーキング方法であって、
所定位置を前記望遠鏡部で視準する望遠鏡部の視準手順と、前記所定位置にレーザー光を投射するレーザー光の視準手順とを行い、
レーザーマーキングに当たり、マーキング位置にレーザー光を投射させるようにレーザー光を駆動させるレーザーマーキング方法。」

(相違点9)
本件発明8が、「駆動部」を備え、「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」を備えているのに対し、甲2発明は、「駆動部」を具備しておらず、各種演算を行うことの記載があるものの、「各種演算並びに前記測量機からの測距測角データ、マーキング位置データに基づいて前記駆動部を制御する演算制御装置」を備えていない点。

(相違点10)
本件発明8の「レーザー光投射装置」は、「測量機の望遠鏡部」に取り付けられたものであるのに対し、甲2発明の「レーザー光照射器14」は、「トータルステーション50」に取り付けられていて、望遠鏡部に取り付けられたものではない点。

(相違点11)
本件発明8の「レーザーマーキング装置」が、「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」のに対し、甲2発明の「レーザーマーキング装置」は、初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いとはしていない点。

(相違点12)
本件発明8が、所定位置に「視準ターゲット」を設けているのに対し、甲2発明は「D点」に視準ターゲットを設けていない点。

(相違点13)
本件発明8が、望遠鏡部の視準手順において、「その際に水平角度、鉛直角度を計測する」ものであり、レーザー光の視準手順において、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」ものであり、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えており、レーザーマーキングに当たり、「相対角度データに基づき」、甲2発明の望遠鏡部の視準手順とレーザー光の視準手順は、トータルステーション50でみたD点とマーカーから出したD点とを合致させるために行うものであって、望遠鏡部の視準手順において、「その際に水平角度、鉛直角度を計測する」こと、及び、レーザー光の視準手順において、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」ことの記載はなく、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成を備えておらず、レーザーマーキングに当たり、「相対角度データに基づき」レーザー光を駆動するものでもない点。

(相違点14)
本件発明8が、レーザーマーキングにあたり、「前記望遠鏡部を支持する装置部分を水平方向に回転駆動させるとともに、前記望遠鏡部を伏仰方向に揺動駆動させる駆動部」として記載された「前記駆動部」を駆動させるのに対し、甲2発明では、レーザーマーキングにあたり、レーザー光照射器の反射ミラー15A,15Bを駆動する点。

(イ)相違点9ないし14についての判断
上記相違点9ないし14について検討する。
a 相違点9について
相違点9は、相違点2と同一であり、上記相違点2で検討したのと同様にして、「駆動部」及び「駆動部を制御する演算制御装置」を備えることは、装置の単なる自動化というべきものであり、この点に格別の困難性はない。

b 相違点10について
相違点10は、相違点3と同一であり、上記相違点3で検討したのと同様にして、甲2発明に甲第1号証に記載された発明を適用し、上記相違点10に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

c 相違点11について
相違点11は、相違点7と同一であり、上記相違点7で検討したのと同様にして、甲1発明のレーザーマーキング装置に、従来周知の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」レーザーマーキング装置の構成を採用し、相違点11に係る本件発明8のごとく構成することに格別の困難性はない。

d 相違点12について
相違点12は、相違点4と同一であり、上記相違点4で検討したのと同様にして、視準する位置に視準ターゲットを配置することは、当業者が適宜なしえることであり、格別の困難性はない。

e 相違点13について
望遠鏡部の視準手順を単独で行うときに、「その際に水平角度、鉛直角度、距離を計測する」ことは、甲2発明においても、「2個の反射ミラー15A_(1),15A_(2)が設置されている2点A_(1),A_(2)をトータルステーション50で視準して、各距離l_(0),l_(1),角度θ_(1)を測量し」とされているように、当業者であれば必要に応じて適宜行いえることである。
しかしながら、レーザー光の視準手順においても、「その際の水平角度、鉛直角度を計測する」という構成、「これら2つの視準手順から得られた測量結果から、前記望遠鏡部の視準方向に対するレーザー光投射方向の相対角度データを求めておき」という構成、及び、レーザーマーキングに当たり、「相対角度データに基づき、」レーザー光を駆動するという構成については、上記「第6 1(1)ア(イ)」で相違点1について検討したのと同様にして、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にもに記載されておらず、示唆もされていない。

f 相違点14について
相違点14は、相違点6と同一であり、上記相違点6について検討したのと同様にして、望遠鏡部とレーザー光投射装置とを一体としたときに、望遠鏡部を駆動する駆動部を用いてレーザー光投射装置を駆動することに格別の困難性はない。

g 以上検討したように、上記相違点13に係る本件発明8の構成は、甲第1号証ないし甲第5号証の何れの刊行物にも記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明を組み合わせたとしても、上記相違点13に係る本件発明8の構成を容易に想到することができたものとすることができないことは明らかである。

(4)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1の方法を装置として記載したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、「本件発明9は、本件発明1の方法の発明を装置のカテゴリーにしただけのものであるから、先の本件発明1に進歩性がない理由がそのまま当てはまる。」という審判請求書における請求人の主張も採用できない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、本件発明8の方法を装置として記載したものであるから、本件発明8と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、「本件発明10は、本件発明8の方法の発明を装置のカテゴリーにしただけのものであるから、先の本件発明8に進歩性がない理由がそのまま当てはまる。」という審判請求書における請求人の主張も採用できない。

2 無効理由2について
請求項8及び請求項10の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置」について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて以下に検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、「上記特許文献1,2では、前記測量機の視準方向とレーザー装置のレーザー投射方向とは平行とされ、マーキング位置をレーザー光で照射するとされるが、実際には視準点とレーザー投射点とには鉛直方向に数十mmのオフセットが生じている。」(段落【0009】)及び「Δy=Ltanα+h(hは望遠鏡部2とレーザー光投射装置4とのオフセット量)」(段落【0054】)との記載がある。また、図面の図4(A)には、符号「h」が、望遠鏡部2及びレーザー光投射装置4の位置での望遠鏡部2とレーザー光投射装置4の光軸の間隔として描かれている。
そうすると、図面の図4(A)の記載を参酌しつつ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を読むと、請求項8及び請求項10の「オフセット量」が、望遠鏡部2とレーザー光投射装置4の光軸の間隔を意味することが明らかであり、請求項8及び請求項10の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無い」は、初期設定時に望遠鏡部とレーザー光投射装置とが同軸であることを意味することが明らかである。
一方、例えば、被請求人の提出した乙第2号証(トンネル工法ハンドブック編集委員会編集、「トンネル工法ハンドブック」、株式会社建設産業調査会、昭和48年、1-11ページ及び1-19ページ)に「LTS レーザトランシット装置 東京測機株式会社・・・【概要】・・・肉眼で確認できる、He-Neガスレーザの赤色工をAfocalレンズ系により細い光の線として、それを基準線として設定し、作業しながら工事をチェックできます。・・・【特徴】・・・2.視準線とビームがつねに同一芯上に一致しており、視準点に最小のスポットでビームが集光します。」(1-11ページ)及び「レーザ位置決め装置 LAG-500シリーズ 東京芝浦電気株式会社・・・【構成】LAG-501型:レーザトランシット・He-Neガスレーザとトランシットを組み合わせたものでトランシットの望遠鏡を通してレーザビームを出し、望遠鏡の視準点にビームをあてることができます。」(1-19ページ)と記載され、また、特許第2955784号公報(平成11年10月4日発行)に「測量機本体1は、図4に示すように、レーザ装置10を搭載しており、レーザ光源11からプリズム12,13及び対物レンズ14を経てレーザ光が望遠鏡部15の光軸15aと同軸(平行にしてもよい)に出射するようになっており」(3ページ左欄29-34行)と記載されるとともに、図面の図4にレーザ光と望遠鏡部15の光軸15aを同軸とする構造が描かれているごとく、「望遠鏡部とレーザー光投射装置とを同軸としたレーザーマーキング装置」は従来周知である。そして、望遠鏡部とレーザー光投射装置とを同軸とするための具体的構造は、当業者であれば、任意の構造が採用できることも明らかである。さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、「オフセット量がない場合は、レーザーマーキングに当たり、望遠鏡部の視準手順時に距離を計測する必要がなく、かつマーキング時にマーキング位置までの距離データを取得する必要がない。相対角度データに基づいて、その分だけ角度を振って、マーキング位置にレーザー光を投射させるようにすればよい。」(段落【0033】)と、オフセット量がない場合についての具体的態様も記載されている。そうすると、当業者は、請求項8及び10の「初期設定時において前記望遠鏡部と前記レーザー光投射装置とにオフセット量が無いレーザーマーキング装置」について、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、望遠鏡部とレーザー光投射装置とを同軸とするための適宜の構造を採用して、特別な創意工夫を要することなく、その実施をすることができるのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。
なお、請求人は、審判請求書において、「しかし、本件特許明細書及び図面に「オフセット量が無いレーザーマーキング装置」について具体的にいかなる構造のものかなどの記載は一切記載や示唆はない。また、公知資料(たとえば特許公報番号)の引用やメーカー名及び型番などの特定もない。したがって、本件特許明細書及び図面の記載は、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものではないのである。」(審判請求書48ページ12-18行)と主張しているが、たとえ、発明の詳細な説明に、オフセット量がないレーザーマーキング装置の具体的構造の記載がなく、公知資料の引用やメーカー名及び型番等の特定がなされていないとしても、上記したとおり、オフセット量がないレーザーマーキング装置の構造は従来周知であり、当業者であれば任意の構造が採用できるという程度のものであるから、請求人の主張は採用できない。
なお、被請求人が乙第1号証の1として提出した「WILD GLO2 laser eyepiece」のカタログについては、頒布された時期が不明であり、また、カタログ中にWild T1,T16・・・セオドライト等に使用されるアクセサリーとして記載された上記「WILD GLO2 laser eyepiece」と、乙第1号証の2で販売時期が証明された「照度調整付きレーザーGLO2」とが同一のものであるとの証明もなされていないから、乙第1号証の1は採用していない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし10の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-09 
結審通知日 2008-06-11 
審決日 2008-06-24 
出願番号 特願2004-155428(P2004-155428)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (G01C)
P 1 113・ 121- Y (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 洋之  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 堀部 修平
二宮 千久
登録日 2005-04-15 
登録番号 特許第3666816号(P3666816)
発明の名称 レーザーマーキング方法及び装置  
代理人 永井 義久  
代理人 鈴木 守  
代理人 大野 聖二  
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